重要判例【神戸地判平成26年8月22日】タクシーは酔客の降車後の行動にも注意すべきであるとし、降車後に轢過された31歳女子の過失否定

1 不法行為責任について

被告は、乗客である亡Aが飲酒した状態であると認識していたこと、本件建物やその入口通路の位置関係も認識しており、被告車を後退させるに当たって後部を確認した際、普通であれば真っ直ぐ奥の方へ行くはずの、亡Aの姿が見えず、えらい早くいなくなった、どこに行ったのだろうと疑問を持ったことが認められ、これらの事情に照らせば、被告には、酔客であった亡Aが、降車後も×地点付近に佇立し、あるいは体制を崩した状態で留まっていることを予測することは十分に可能であったといえる。

そして、タクシー運転手が乗客を降車させた後に同所から発進する際には、降車した乗客の動静及びその安全を十分確認すべきであるところ、被告は、×地点付近を後退で通過し、本件駐車場内に進入した上で方向転換し、前進しようとしていたのであるから、後方左右を十分注視し、亡Aの動静及びその安全を確認してから後退し、前進すべき注意義務があるのにこれを怠り、亡Aが本件駐車場の西側壁方向に行ったのではないかなどと軽信し、被告車の後方左右を十分注視せず、亡Aの動静及びその安全確認が不十分な状態で、本件駐車場内に向けて後退し、さらに同駐車場から前進した過失があるといえ、これにより、×地点付近にいた亡Aに被告車右後部側面付近を接触させるなどして亡Aを被告車の車底部に巻き込み、亡Aを胸部圧迫によって死亡させたのであるから、民法709条に基づき、本件事故によって生じた損害を賠償すべき責任がある。

2 過失相殺について

他方、亡Aについて、被告車からの降車後、しばらくの間、降車場所付近に留まっていたこと自体がさしたる落ち度とはいうことができず、着衣が黒色だったことも、被告が認識していたことであり、殊更重視すべきではない

本件事故の発生につき、亡Aに過失相殺の対象としなければならない程の過失があったとは認め難いというべきである。

3 葬儀関係費用について

原告は、亡Aの葬儀関係費用として上記金額(191万7630円)を要したこと、同金額につき、被告会社が支払を行い、既に自賠責保険金から回収していることが認められ、亡Aの年齢にも鑑み、葬儀関係費用として上記金額をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。