重要判例【東京地判平成27年2月26日】乗用車に逆突された男子脳神経外科勤務医のうつ病との因果関係認め12級13号認定し、素因減額否認
1 うつ病について
原告は、脳神経外科医であるところ、本件事故後に右手指のしびれ等の自覚症状があったため、精査目的で入院し、これに伴い勤務先の病院を休職する中、右手指等の症状が続き、仕事に復帰できるか不安になったことから、入院中に抑うつ状態となり、退院後も抑うつ状態が続いて退職することになり、更に症状が悪化し、精神科専門医から、うつ病と診断され、平成21年7月3日、症状固定診断を受けるに至ったものである。
原告が、脳神経外科医として手術を実施するなどの必要上、手指の機能・感覚の異常等を精査するため入院する必要性はあったということができ、これによって休職し、復職への不安等から抑うつ状態となったことのほか、精神科専門医受診の経緯及び診断内容等に照らすと、本件事故とうつ病の発症との間の相当因果関係を認めるのが相当である。
・・・以上によると、原告は、本件事故によりうつ病を発症したことが認められる。
そして、うつ病は、平成21年7月3日後遺障害等級表12級13号の後遺障害を残して症状固定したものと認めるのが相当である。
2 素因減額について
被告は、うつ病の発症及び増悪は、原告の既存障害、性格・気質、身体の不具合を誘発しやすいといった体質的素因及び本件事故以外のストレス因子が寄与していると主張する。
そこで検討するに、本件事故が比較的軽微であること、本件事故により原告が負った身体的傷害が軟部組織の損傷にとどまること、原告には、抗不安薬の処方を継続的に受けていた時期があることからすると、原告の性格・気質などがうつ病の発症及び増悪に影響したことは否定できない。
しかし、脳神経外科医である原告にとって、右手指の自覚症状は原告の職業生活を左右しかねないものであったことに加え、前記認定の本件事故後の治療の内容、症状の推移、症候固定までの期間、後遺症の程度に鑑みると、本件事故との相当因果関係を認めた損害額について、原告の性格・気質等の寄与を理由に減額をせず、被告に損害額全部を賠償させるのが公平を失するということはできない。
したがって、被告の主張は採用できない。