重要判例【東京地判平成26年8月29日】傷病手当金受給中の41歳男子派遣社員の休業損害否定、12級後遺障害逸失利益は10年間14%労働能力喪失認定、素因減額否定
1 休業損害について
原告は、本件事故によりA社での就労を断念した旨主張するが、原告が平成22年9月1日からA社で勤務する予定であったと認められないことは前記認定判断のとおりであり、原告の主張はその前提を欠く。
そして、原告は、本件事故後も「薬のんで余計なことを考えずにbedで休んでいる」(平成23年5月14日)、「たまに公園に行くくらい、人とは会いたくない」(平成23年6月16日)等と軽度とはいえない抑うつの症状が継続していること、原告は本件事故前から平成23年11月3日までの1年6ヶ月間、うつ病により就労不能であるとの医師の所見に基づき傷病手当金を受給していることからすれば、本件事故がなければ原告が症状固定日までに就労していた蓋然性があると認めることはできない。
よって、休業損害にかかる原告の主張は採用できない。
2 後遺障害逸失利益について
原告は、本件事故によって、頸部受傷後の項頸部~背部の慢性自発痛・動作痛、右上肢しびれ、右上肢脱力感、頭痛、右肩関節動作痛等の症状が残存し、さらに腰部の慢性自発痛・動作痛、右下肢脱力感・倦怠感等の腰部由来の症状が残存していたことが認められ、これらの後遺障害はいずれも神経症状であることを考慮すると、原告は10年間にわたり14%の労働能力を喪失したと認められる。
3 素因減額について
被告は、原告には本件事故前から椎間板変性、椎間板ヘルニアが生じており、これが原告の症状の根本的な原因であると主張する。
しかし、本件事故以前から原告の頸部や右上肢に症状が生じていたとは認められず、第3・第4頸椎椎間板ヘルニアが本件事故前から存在していたと認めるに足りる証拠はないこと、原告のその他の椎間板の変性や椎体の変形も軽度であること、被告が提出する医師の意見書も症状出現のきっかけが外傷であることは否定できないとしていること、前記認定した原告の治療経過は、本件事故の態様や原告の受傷内容に照らして明らかに長期化しているとまで認めることはできないことを総合すると、原告の傷害や後遺障害の残存に寄与する身体的素因があったと認めることはできない。
また被告は、原告の症状の長期化、悪化について、原告の抑うつ症状が影響していると主張するが、本件全証拠によっても原告の抑うつ症状が神経症状に影響を与えたとする医学的な根拠はないこと、前記のとおり原告の治療経過が明らかに長期化しているとまで認めることはできないことを考慮すると、原告の抑うつ症状が原告の症状の長期化、悪化に寄与したと認めることはできない。
よって、被告の素因減額の主張は採用できない。