重要判例【札幌地判平成27年2月27日】60歳女子ダンス教室インストラクター(併合14級後遺障害)の労働能力喪失率50%、後遺障害慰謝料400万円認定
1 労働能力喪失率について
自賠責保険の後遺障害の認定において準ずるものとされる労災制度における「労働能力」の概念については、一般的な平均的労働能力をいうものであって、労働者の年齢、職種、利き腕、知識、経験等の職業能力的諸条件については、障害の程度を決定する要素とはなっていない(昭和50年9月30日付労働省労働基準局長通達(基発565号))ところであり、自賠責保険の後遺障害認定もこうした観点から行われている。
原告が認定を受けた併合14級であれば、原告の個別的な職業能力的諸条件を考慮しない一般的な平均的労働能力として見た場合には、労働能力喪失率は5%として運用されている。
しかし、不法行為による損害賠償は、当該被害者に具体的に生じた不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであるから、当該被害者の上記の職業能力的諸条件を具体的に検討した上で労働能力喪失率を判断する必要がある。その検討の結果として、自賠責保険の後遺障害の一般的な労働能力喪失率と一致する場合も多いであろうが、この一般的な労働能力喪失を形式的、画一的に適用すべきものではない。
また、上記の不法行為制度の目的に照らすと、収入の減少の程度も労働能力喪失率を判断する重要な考慮要素になるというべきであり、特に、後遺障害により事故前の職業を継続することが不可能になったものの、被害者の年齢からして、再就職できる職種も限られ、他の職業で事故前と同等の収入を得ることは難しく、将来にわたり事故前と比較して相当の経済的不利益を受け続けるという事情がある場合には、その点も十分に考慮しなければ、被害者を不法行為がなかったときの状態に回復するという制度目的に反することになる。
原告の後遺障害は、一般的な平均的労働能力を想定した自賠責保険の後遺障害認定においては、併合14級(労働能力喪失率5%)であるものの、①原告が、ダンスのインストラクターとして、受講生の相手方となってダンスをしながら実技指導を行い、それによってダンス会社の売上げに貢献し、その労務対価として年300万円の収入を得ていたところ、後遺障害によって、そうしたインストラクターとしての活動が不可能になっていること、②原告は、本件事故後、インストラクターを諦め、生活費を得るために他の仕事に就いて働いたものの、体力的にきつい部分もあるなどして長続きはせず、収入としても年300万円と比較して大幅に少ない収入しか得られておらず、症状固定時61歳という年齢からして、今後も条件のよい就職先が見つかる可能性は乏しいことからすれば、原告は、将来にわたり事故前と比較して相当の経済的不利益を受け続ける蓋然性があるものと認められる。
このような事情や後遺障害の程度等の諸事情を考慮すれば、原告の労働能力喪失率は、年収355万9000円を前提として50%と認めるのが相当である(なお、この点は、プロの競技ダンサーの労働能力ではなく、原告が本件事故前に行っていた実技指導を中心とするダンスのインストラクターとしての労働能力を前提として検討した結果である。)。
2 後遺症慰謝料について
自賠責保険で認定された後遺障害の等級、ダンスインストラクターを前提とした労働能力喪失の程度、原告が長年携わってきたダンスのインストラクターとして稼働できなくなり、他の仕事で相当の苦労を余儀なくされること等本件における一切の事情を考慮し、400万円が相当と判断した。