重要判例【名古屋地判平成27年3月4日】自転車で転倒した33歳女子7級主張の左下肢CRPSを否認し12級13号認定
1 CRPSについて
原告の左下肢には、本件事故から3年以上が経過しても、疼痛及びこれに伴う可動域制限以外には、①関節拘縮、②骨の萎縮、③皮膚の変化というCRPSの慢性期の主要な3つの症状がいずれも認められず、腫脹といった他の特徴的な症状も認められないということになる。
そうすると、CRPSについては、複数の診断基準が提唱されており、いずれの診断基準も、腫脹、皮膚変化及び発汗異常、関節拘縮及び骨萎縮等の萎縮性変化を必要的又は選択的な要件とするところ、原告には本件事故による受傷を契機としてこれらの萎縮性変化が生じたとは認められないから、原告にCRPSが発症したとは認められない。
・・・ところで、①原告は本件事故により転倒し、左膝に強い衝撃が加わったと考えられること、②原告は、本件事故後、一貫して、左膝の痛みを訴え、左膝関節の可動域は健側の2分の1以下に制限されていること、③現在でも、左膝内側の疼痛、アロディニアが残り、杖に頼った歩行をしていること、④前記のとおり本邦版CRPS判定指標のうち自覚症状及び他覚症状の2項目を充足していることを考慮すると、原告の左下肢の症状が本件事故と無関係であると評価することはできず、客観的かつ厳格な要件が設定されている自賠責基準は満たさないものの、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として、後遺障害等級12級13号に該当すると認めるのが相当である。
2 過失相殺について
被告には、路外に進出するに際し、左後方の歩道の安全確認を怠った過失が認められる。
また、本件駐車場の位置関係から左折の合図を遅らせることには止むを得ない面があるが、そうであれば一層、左後方の歩道の安全を確認すべき義務があった。
他方、被告車両は低速であったが、交差点内を進行しており、前方に横断歩道があり、左折の合図も遅く出されているから、原告は被告車両が歩道に左折進出してくることを予見することは困難であり、また、被告車両が歩道を進行している原告車両の通過を待つと信頼するのは相当であるから、原告には過失相殺の対象となるべき過失は認められない。
なお、自転車に乗って傘をさすことは危険であるが、原告が傘をさしていたことが本件事故につながったと認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告の過失相殺の主張は理由がない。