重要判例【名古屋地判平成26年10月22日】業務多忙で初診が事故7日後、部位も変遷等42歳男子美容師の右手TFCC損傷の因果関係否定

1 TFCCとは、手関節尺側遠位の橈尺骨間に存在する三角形の構造物であり、手関節尺側の橈骨・尺骨・月状骨・三角骨に存在する靱帯・線維軟骨複合体をいう。

その損傷は、交通事故、転落や転倒により急性に発症する外傷性断裂と、慢性的な過剰使用や加齢性の非外傷性のものや、繰り返す回内外ストレスによる発生する変性断裂とがある。

①本件事故によって原告の右手関節痛が生じたとするにはその愁訴の時期が遅いこと、②右手関節痛は軽いものであり、その部位も変更していること、③原告の右手関節痛がTFCC損傷によるものと診断された後に保存的治療がなされ、平成22年5月18日には症状は消失しており、また、同年10月26日には治療を終了する程度のものとなっていること等の治療経過に照らすと、本件事故直後から原告に右手関節痛があったとはいえない上、右手関節痛の具体的部位にも変更があり、軽快していることなどからすると、本件事故直後から原告に一貫して右手関節痛があったと認めることは困難である。

2 休業損害について

原告の平成20年分源泉徴収票の給与賞与は360万円を基礎収入と認めるのが相当である。

被告は、原告が美容室の経営等を目的とする有限会社Fの取締役であることから、上記給与賞与には役員報酬が含まれる旨主張する。

確かに、有限会社Fの第4期の決算書によると原告の役員報酬は285万円とされている。

しかし、有限会社Fの株式は原告が全て保有していること、第4期の売上高は約1260万円と小規模な会社であること、原告は実質的には原告個人の自営業を法人化したものであると述べていることが認められる。

これらの事実からすると、原告の給与賞与は全て労働の対価と認めるのが相当である。