重要判例【名古屋地判平成26年10月15日】PTSD該当性、非器質性精神障害(14級9号)、素因減額
1 PTSD、非器質性精神障害について
PTSD診断については、国際保健機関の国際疾病分類ICD-10診断ガイドラインやDSM-Ⅳ(アメリカ精神医学会の診断基準)等が用いられるべきであり、➀外傷体験の存在(生命を脅かされる驚異的体験により心的外傷が発生したこと)、➁再体験(原因事故のフラッシュバックや関連性のある悪夢の存在)、➂回避(外傷体験を想起させるような刺激を避けようとする精神活動の現れ)、➃覚醒の亢進(入眠、睡眠困難)を必要とする。
そうしたところ、原告については、➁PTSDの中核をなす再体験(フラッシュバック)に関し、原因事故発生状況と似た状況における恐怖感情や身体状況の変化、事故の再発を恐れる態度等は窺われ、その他の要件についても完全に否定することはできない。
しかしながら、➀本件事故は追突事故であり、その衝撃でスピンした際に被告車と再衝突してはいるものの、原告の傷害内容は頸部、腰部、両側下腿挫傷、左肋骨挫傷で、骨傷等のない比較的軽微なもので、「生命を脅かされる驚異的体験」としては激烈なものではない。
➁反復性(フラッシュバック)についても反復性や侵入性が顕著に認められるものではなく、➂片道約1㎞のG整形外科を含む複数の診療機関に車を運転して通院したり、車のシステム開発に関わる仕事を続けていることなどからして、回避の程度も強度ではない。
➃覚醒の亢進(不眠)の訴えはあるが、原告にはもともと不眠の原因となる精神的症状や精神疾患の既往歴があり、心理的な感受性と覚醒の亢進による易怒性、集中困難、過度の警戒心や過剰な驚愕反応等の頑固な症状が明らかに認められるものでもない。
これらを総合すると、原告は、本件事故によりPTSDとはいえないものの、非器質性精神障害に罹患したと認めるのが相当であり、Fクリニックにおける治療も、非器質性精神障害に対するものとして必要かつ相当であったといえ、本件事故との相当因果関係を認めるのが相当である。
2 素因減額について
原告には、高校生のころから拒食症の罹患歴があるほか、本件事故前に抑鬱状態、事故後には統合失調症等の診断や治療を受けている。
本件事故態様と原告の損害とを比較するに、原告の損害は本件事故のみによって通常発生する程度や範囲を超えており、損害の拡大には、原告の蒸気のような心因的要因が寄与しているというべきであって、損害の公平な分担の見地から、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用し、4割の素因減額をするのが相当である。