駐車場問題12 バイクの放置につき弁護士費用と土地の使用料相当損害金の請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、バイクの放置につき弁護士費用と土地の使用料相当損害金の請求が認められた事案(東京地判令和3年11月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

マンション管理組合法人であり、マンションの共有部分として土地を所有する原告が、同土地上に無断で自動二輪車を長期間置き続け、撤去の求めにも応じなかった被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、明渡しを求めるための被告との交渉及び本訴訟の提起・追行を弁護士に依頼することを余儀なくされたことによる弁護士費用相当額33万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として、同土地明渡日である同年3月27日までの同土地の使用料相当損害金1か月当たり8600円(確定金額は14か月分の12万0400円)の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、33万円+遅延損害金を支払え。

 被告は、原告に対し、12万0400円を支払え。

【判例のポイント】

1 本件訴訟委任契約に基づく弁護士費用33万円については、本件管理規約67条4項の「違約金としてのすべての弁護士費用」に当たり、請求の相手方である被告に請求することができるものと解すべきである(同67条1項、3項1号、2号)。
この点、被告は、被告の応訴態度や本件事案の性質から、上記金額が高額にすぎるなどと主張するが、本件訴訟委任契約にあるとおり、33万円の内訳は着手金20万円、報酬金10万円に消費税を加算した金額であり、いずれも不合理に高額であるとはいえないから、理由がない。

2 本件土地の近隣のバイク駐車場の標準的な使用料が1台当たり月額8600円であると認められ、その他これを覆すに足りる証拠はないから、同金額をもって本件バイクの不法駐輪に係る1月当たりの使用料相当損害金であると認める。
この点、被告は、原告が本件土地の使用収益を認めていないのに、使用料相当損害金が発生するのは背理であるなどと述べるが、独自の見解であり、採用できない。
また、原告が以前は駐輪位置を指定するなどしていたから、不法駐輪が美観を損ねるという理由は当てはまらないなどとも指摘するが、理由がない。

判例のポイント1は、裁判例によってはもう少し高額でも認められる場合があります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損11 監事が作成・配布した臨時総会招集通知による理事長である原告に対する名誉毀損が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、監事が作成・配布した臨時総会招集通知による理事長である原告に対する名誉毀損が否定された事案(東京地判令和3年12月9日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者から構成される管理組合の区分所有者である法人の代表者である原告が、同じく上記マンションの区分所有者であり、上記管理組合の監事として臨時総会を招集した被告に対し、被告が作成し、区分所有者らに配布した招集通知により原告の名誉が毀損され、これにより精神的苦痛を被ったなどと主張して、不法行為に基づき、慰謝料等として160万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件開催通知における本件各摘示は、第39期総会において検討課題とされたAの未納管理費等の問題等に関するものであって、本件管理組合の業務の執行及び財産の状況に関する情報の提供に係るものであるから、被告の監事としての地位の有無にかかわらず、本件マンションの区分所有者全体の利害に関する事実であって、その目的が専ら公益を図ることになることが認められる。

2 その上で、本件各摘示に係る事実が真実であるか、又は被告において当該事実を真実と信ずることについて相当の理由があるか否かを検討するに、次の各事情を指摘することができる。
・・・そうすると、遅くとも令和元年7月の第39期総会までには本件相殺処理がされ、Aの未納管理費等がおおむね消滅し、又は本件各通知に記載されているような100万円を超える高額の残債務が残っていたものとはおよそ認め難く、結局のところ、原告が本件相殺処理の事実を踏まえることなく、あるいはこれらの処理を適切に会計帳簿等に記載することなく本件各通知を発するなどしたという、本件管理組合を代表して業務を統括し、誠実義務を負うべき理事長としての会計処理等には問題があったものと認められる。
以上によれば、本件各摘示に係る事実の重要な部分については真実であるか、被告が入手し得た本件管理組合の会計資料の内容等及びその分析経過等に照らして、少なくとも被告においてこれを真実と信ずるにつき相当な理由があったものと認めるのが相当である。

管理組合運営において、特に全区分所有者に対する通知による特定の区分所有者の名誉毀損が問題とされることが少なくありません。

名誉毀損の要件や違法性阻却事由をしっかりと押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争28 マンション居住者がエレベーターのドアの前でエレベーターを待つ行為がエレベーターを利用する権利を侵害するとして、当該権利侵害の確認を求めた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション居住者がエレベーターのドアの前でエレベーターを待つ行為がマンションエレベーターを利用する権利を侵害するとして、当該権利侵害の確認を求めた事案(東京地判令和3年12月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、①被告において、原告の自宅の鍵を交換する際には被告の許可を得るよう指導したことが、違法な指導に当たると主張して、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料10万円及び通信費30円の一部である通信費30円の支払を求めるとともに、②原告の居住する集合住宅の共用部である廊下に傘を掛けていたところ、被告において、これを原告の自宅内に収納するよう強要したと主張して、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料1万円の支払を求め、併せて、③原告の居住する集合住宅において、エレベーターのドアの前でエレベーターを待つ行為が原告の同集合住宅におけるマンションエレベーターを利用する権利を侵害すると主張して、当該権利侵害の確認を求める事案である。

なお、原告は、本件マンションの304号室に居住している。
本件マンション304号室の区分所有者は、Bである。
被告は、本件マンション管理組合から委託を受けた管理会社である。

【裁判所の判断】

1 ③は訴え却下

 ①、②は請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、被告との間で本件マンションの管理委託契約が成立している前提で、その債務不履行を主張する。
しかし、本件マンションの区分所有者は、Bである上、被告は、本件マンション管理組合との間で管理委託契約を締結しているものであり、管理委託費の実際の出捐者が原告であったとしても、これをもって原告と被告との間に管理委託契約が成立していると認めることはできない。
したがって、原告の前記主張は、その余について判断するまでもなく、採用することができない。

2 本件マンションにおいて、エレベーターのドアの前に立ってエレベーターを待つ者がいたとしても、その行為態様は様々であると考えられ、被告との間で、当該行為を一律に原告の生命・身体に対する侵害又は侵害のおそれがあるものとして原告に対する権利侵害がある旨を確認することは、確認訴訟の対象として適切であるとはいえない
また、当該行為によって生命・身体に対する侵害又は侵害のおそれが具体的に存する場合には、当該行為の相手方に対し、別個に給付訴訟を提起すれば足り、それにもかかわらず、被告との間で、前記確認訴訟によることが適切であるとはいえない。
そうすると、原告の確認請求について、いずれにしても確認の利益が認められない

上記判例のポイント2のとおり、確認の訴えについては、事前に確認の利益が認められるかを吟味する必要があります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

騒音問題12 隣室のリフォーム工事による騒音を理由とする慰謝料請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、隣室のリフォーム工事による騒音を理由とする慰謝料請求が棄却された事案(東京地判令和3年12月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、住所地である集合住宅において居住していたところ、その隣室に入居した者が、被告に対し、リフォーム工事を依頼した。
本件は、原告が、被告に対し、リフォーム工事によって発生した騒音によって29日間にわたって1日当たり2万円に相当する精神的苦痛を受けたと主張して、不法行為に基づき、慰謝料58万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に、工事等に伴う騒音による被害が、第三者に対する関係において、違法な権利侵害ないし利益侵害となるかどうかは、侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、当該工事が行われている所在地の地域環境、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の諸般の事情を総合的に考察して、被害が一般社会生活上受忍すべき程度を超えるものかどうかによって決すべきである。
工事が法令等に違反するものであるかどうかは、その受忍すべき程度を超えるかどうかを判断するに際し、上記諸般の事情の一つとして考慮されるべきものであるとしても、それらに違反していることのみをもって、第三者との関係において、その権利ないし利益を違法に侵害していると断定することはできない(最高裁平成6年3月24日第一小法廷判決)。

2 原告において308号室内で発生した騒音を測定するに至るまでの経緯があったことから、客観的に明らかになっている騒音の発生状況が極めて限られているという側面はあるものの、騒音計を入手し、工事中に発生した騒音全部を計測できることが可能となった後の期間についてすら、短時間の測定結果しか提出していない
そして、原告が提出した限られた測定結果を分析しても、一般に人がうるさいと感じる70デシベルよりも小さい60デシベルを基準としてみても、60デシベル以上の騒音が継続して発生しているということはなく、一定の時間の中で、60デシベルを超える音が瞬間的に発生しているにすぎず、最大値も、82.5デシベルである。
また、原告は、騒音計の測定結果を証拠として提出している令和2年3月24日以降の分を含め、計測した騒音よりも大きな騒音が継続的に発生していたと供述する。
なるほど、工事経過や、建物の構造、実際に一定の騒音が発生していることが認められることに照らせば、被告によるリフォーム工事の期間中、一定の騒音が継続的に発生していたことは推認できるものの、上記原告の供述は、原告の感覚を前提として、漠然と工事期間中(特に原告が本件訴訟で請求の対象としている29日間)に受忍限度を超える騒音が発生したことを述べるにとどまる。また、騒音計の計測ができるようになった後は断続的ではなく1日の工事開始から終了までの全ての期間について測定することが可能であったにもかかわらず、断片的な証拠しか提出せず、断片的な証拠しか提出できなかったことについて、合理的な説明もできていない
以上によれば、計測した騒音よりも大きな騒音が継続的に発生していた旨の原告の供述は信用できず、少なくとも、原告が主張する29日間について、計測した騒音よりも大きな騒音が高頻度で継続して発生していたとは認めるに足りない。

3 本件建物は、新築から20年以上が経過した区分所有建物であることから、リフォーム工事を行うことは当然予想される事項であるところ、そのような場合に、工事が終了するまでの限られた時間において、一定の騒音が発生することも当然予想し得ることである。
また、被告によるリフォーム工事は管理組合が承認している。加えて、被告は、原告の騒音に関する苦情を踏まえ、管理組合の理事長を交えた協議に応じており、原告の提案を拒絶しているものの、原告も、管理組合の理事長からの多目的ルームの使用の提案を拒絶していることが認められる。

騒音問題の対応の難しさがよくわかります。

過去の複数の裁判例を見る限り、騒音の存在及び原因の調査は、専門業者に依頼することが必須と言っていいでしょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営36 管理組合法人が自らが当事者の複数の訴訟が係属している事実等を組合員に適切に知らせないことが不法行為にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合法人が自らが当事者の複数の訴訟が係属している事実等を組合員に適切に知らせないことが不法行為にあたらないとされた事案(東京地判令和4年1月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有法上の管理組合法人である被告の組合員である原告が、被告は、自らが当事者となっている複数の訴訟が係属している事実や、被告の理事が検察庁に送致された事実を組合員に適切に知らせず、また、被告の臨時総会及び通常総会において決議をするに当たって原告にあらかじめ弁明の機会を与えなかったことは不当であると主張して、被告に対し、区分所有法50条3項、同法58条3項及び被告の管理規約65条5項に基づき、被告の組合員に対して別紙1のとおりの内容を通知することを求めるとともに、上記被告の行為は不法行為に該当すると主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料及び訴状作成費用の合計34万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 区分所有法50条3項は、監事の職務権限を定めたものであって、管理組合法人である被告に対して一定の事項を組合員に通知するよう求める請求権を個別の区分所有者に対して与えたものとは解されない。したがって、区分所有法50条3項3号及び4号に基づく請求には理由がない。
また、原告は、本件管理規約65条5項の規定も指摘するが、同規定は、管理組合法人である被告の義務を定めたものではあるものの、それを超えて、被告が訴訟等の当事者となったことを組合員に通知するよう求める請求権を個別の組合員に対して与えたものとは解されない
したがって、本件管理規約65条5項に基づく請求にも理由がない。
そのほか、原告と被告との間に複数の訴訟が係属している事実やA理事が検察庁に送致されたことを組合員に通知するよう求めることができる法的な根拠を見出すことはできない
また、区分所有法58条3項は、専有部分の使用禁止を請求する場合の規定であって、本件議案1ないし3は、専有部分の使用禁止に関するものではないから、同項が適用される場面ではない。
また、同項は、飽くまで、同条1項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならないとするものであって、決議がなされた後に、自己の弁明を他の区分所有者に対して伝えるよう求める請求権を区分所有者に与えたものとは解されない。
そのほか、原告の言い分を他の組合員に通知するよう求めることができる法的な根拠を見出すことはできない(なお,原告は区分所有法35条5項も指摘するが、本件臨時総会及び本件通常総会には関係しない規定である。)。
以上によれば、原告は、被告に対し、被告の組合員に対して別紙1の内容を通知することを請求することはできない。

原告は、複数の根拠規定を根拠として主張しましたが、いずれも当該請求権の根拠とはならないと判断されています。

なお、管理規約65条に関する「同規定は、管理組合法人である被告の義務を定めたものではあるものの、それを超えて、被告が訴訟等の当事者となったことを組合員に通知するよう求める請求権を個別の組合員に対して与えたものとは解されない。」という考え方はしっかり理解しておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争27 イタリアンレストラン開業のための内装工事を不承認とした管理組合等に対する損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、イタリアンレストラン開業のための内装工事を不承認とした管理組合等に対する損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和4年1月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告Y2から、本件マンションの区分所有建物を賃借した上、本件建物でレストランを開業しようとしたところ、本件マンション管理組合である被告管理組合から内装工事の不承認決議を受けたため、レストランを開業することができなかったことにつき、①被告管理組合に対しては、上記不承認決議は不法行為を構成するとして、335万1300円の損害賠償+遅延損害金の支払を求め、②被告Y2に対しては、賃貸借契約の締結に当たり必要な説明がされていなかったとして、債務不履行に基づき、152万1300円の損害賠償及びこれに対する上記遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告が本件建物で開業しようとしていたのはイタリアンレストランであって、その食材等から臭気が発生する営業形態であることは否定し難い。
この点、原告は、本件店舗で提供予定のメニューによれば、住環境に悪影響を及ぼすような臭気を発するものは予定されていなかったと主張し、原告本人もこれに沿う供述をするが、そもそもイタリアン料理そのものが臭気を伴うものであることは否定し難いし、メニューは随時容易に変更することができるから、被告管理組合が、本件店舗の開業によって臭気が発生することにより住環境が悪化するのではないかという懸念を抱くことが不合理であるとはいえない。
現に、本件マンションでは、近隣のイタリアンレストランでの臭気による住民トラブル(竣工時トラブル)が発生し、同レストランが閉店する事態となった上、その後同所で開業したインド料理店についても、被告管理組合と店主との間で臭気対策について協議が行われ、排気ダクトを延長する対策がとられたというのである。
他方で、本件建物は、長らく事務所として使われており、寿司屋が開店する話が持ち上がったものの、飲食店として実際に使用されたことがなかったと認められる。
このことからすると、本件マンションでは、飲食店の臭気を気にする区分所有者が多く、被告管理組合としても臭気を伴うレストランの開業につながる工事については、承認の可否を慎重に判断することが求められる立場にあったといえる。
そして、被告管理組合が臨時総会を開催して区分所有者に諮ったところ、条件付き承認案(A案)に賛成する者はなく、圧倒的多数で不承認案(B案)が決議されたというのであり、区分所有者の多数も本件店舗の営業に反対するという状況にあった。
このような事情に加えて、そもそも本件建物で飲食店の営業が保証されていることをうかがわせる条項が管理規約に存しないことも併せ考慮すると、被告管理組合による本件不承認決議は、区分所有者の共同の利益を慮ったものであって、不合理とはいえない。
したがって、本件不承認決議は違法ではなく、原告に対する不法行為を構成するものではない

2 原告は、本件賃貸借契約締結当時、本件建物において内装工事をするには、管理規約上、被告管理組合の承認が必要であること、本件建物は臭気等を発生させ住環境に悪影響を及ぼす用途には使用できないことを知っていたと認められる。
そうすると、被告Y2が上記各説明をするまでもなく、原告は、事前に工事内容を被告管理組合に説明する必要があること、被告管理組合が工事を不承認とすることによって店舗の開設が難しくなる可能性があることを認識することができたというべきであるから、被告Y2に、上記各説明をすべき義務があったとはいえない。

上記判例のポイントのとおり、このような事案においては、不承認とした管理組合のほかに賃貸借契約の仲介業者の説明義務違反を理由に責任追及をされることがありますので注意が必要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

駐車場問題11 駐車場における転倒事故につき管理組合の安全配慮義務違反が認められた上で原告の過失割合が75%とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、駐車場における転倒事故につき管理組合の安全配慮義務違反が認められた上で原告の過失割合が75%とされた事案(仙台地判令和4年1月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告管理組合の設置・管理に係る駐車場において生じた原告の転倒事故につき、原告が、被告管理組合に対し、債務不履行又は不法行為若しくは民法717条1項(工作物責任)による損害賠償請求権に基づき、治療費等19万1376円、休業損害15万円、慰謝料200万円、弁護士費用23万4000円の小計257万5376円の支払を求めるとともに、被告保険会社に対し、直接請求を認める保険約款又は被告管理組合の被告保険会社に対する被告管理組合・被告保険会社間の保険契約による保険金請求権の代位行使に基づき、被告管理組合に対する判決が確定したときに、被告管理組合と同じ支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告管理組合は、原告に対し、52万8646円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告管理組合が負っていた安全配慮義務の具体的内容は、駐車場使用者に対し、通常の靴に装着可能な滑り止めや融雪剤等を定期的に周知した上で提供する、抽象的に注意を周知するのではなく転倒事故が起こりやすい時間帯・気温、ゴム長靴等滑りにくい靴の着用・滑り止めの装着、転倒の危険を減らす歩き方を知らせた上で注意を周知するといったものであったというべきである。
しかしながら、被告管理組合は、これらを行っていなかった。
なお、被告管理組合は、融雪剤等を購入し、原告が購入した本件マンションのb5棟以外に備え置いており、平成25年2月ころ、降雪時の雪かき・融雪剤の散布などへの協力を求める告知文書を全戸に配布してはいるが、本件マンションのb5棟において、本件転倒事故前に定期的に融雪剤の所在を示した上でその使用を促す周知はされていなかったと認められ、融雪剤の周知・提供についても、被告管理組合の義務違反が認められる。
したがって、被告管理組合に滑り止め等の提供又は注意喚起の安全配慮義務があり、その義務違反があったといえる。そして、被告管理組合がこれらを尽くしていれば、原告がこれに沿う対応をして本件転倒事故が発生しなかった蓋然性が認められるから、被告管理組合の安全配慮義務違反と原告の傷害の発生との相当因果関係は肯定される。

2 本件転倒事故前(平成30年1月22日ころから)の本件駐車場の状況、本件転倒事故時の目視で明らかな本件駐車場の積雪状況に加えて、原告が、本件転倒事故の前日も雪かきをしており、その際、本件転倒事故の場所付近において氷が凸凹していて歩きにくかったことを体験していたこと、本件転倒事故直前にも駐車場の入り口付近で除雪作業を行おうとしたが除雪器具が氷に引っかかってしまうなどして氷床を確認していたこと、本件転倒事故の際、除雪作業の動作をしていたわけではなく、除雪器具を両手に持って自車の駐車場所に向かって歩いていたにすぎないこと、本件転倒事故の際、ゴム長靴等滑りにくい靴を着用したり、靴に滑り止めを装着したりしておらず、歩幅を狭くし、足の裏をつけた「すり足」でゆっくり慎重に歩くなど積雪・凍結状況に対応した歩き方をしていなかったことが認められることを合わせ考慮すると、原告の過失は重大といわざるを得ず、75%の過失相殺をするのが相当と思料する。

裁判所としては過失割合でバランスをとったのでしょうが、判例のポイント1の安全配慮義務の具体的内容を見る限り、過保護な印象を受けますがいかがでしょう・・・。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争26 区分所有者が旧所有者から使用貸借契約の貸主たる地位を承継したと判断された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者が旧所有者から使用貸借契約の貸主たる地位を承継したと判断された事案(東京地判平成30年1月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合である原告が、本件マンションの共用部分である本件建物について、被告が権原なく被告所有の山車を置いてこれを占有していると主張して、本件マンションの区分所有者から訴訟追行権を授与された訴訟担当者として、被告に対し、区分所有者の所有権に基づき、本件建物の明渡しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件マンションの区分所有者が本件使用貸借契約の貸主たる地位を承継したか否かについて検討すると、本件においては、本件使用貸借契約が締結される前の平成20年5月当時において、既に、T社から本件マンションの購入者に対する重要事項説明書により、①本件建物が共用部分であることが明示された上で、②本件建物について、T社と被告の間に本件山車を保管又は展示することを目的とする使用貸借契約が締結されること、③同契約が本件マンション管理組合設立後には当該管理組合に承継されることが明記されている。
そうであるとすれば、T社から本件マンションを購入した者は、本件建物について被告との間で本件山車の保管等を目的とする本件使用貸借契約が締結され、それが原告側に承継されることを前提として、本件マンションの区分所有権を取得したものと認めるのが相当である。

2 原告は、本件使用貸借契約がT社の行為の結果を区分所有者に一方的に押し付けるものであって不当である旨を指摘する。
しかし、①T社から区分所有権の購入者に重要事項説明書を通じて本件使用貸借契約の存在や概要が説明されてきたことや、②その後も長年にわたり、原告側から被告に対して本件使用貸借契約の成否や承継の有無等について特段の疑義が呈されてきた形跡が見当たらないことは、前記のとおりである。
かかる事情に照らすと、区分所有者においては本件使用貸借契約を前提として区分所有権を購入したものと認めるほかはなく、そうである以上、区分所有権の取得の経緯から見て、本件使用貸借契約の内容が区分所有者にとって不意打ちになるものと評価することはできないから、原告の上記指摘は採用することができない。

使用貸借契約の貸主たる地位が区分所有者に承継されたと判断されたことにより、被告に占有権原が認められた事案です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営35 組合財産の不適切な管理を理由とする理事の解任請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合財産の不適切な管理を理由とする理事の解任請求が認められた事案(東京地判平成30年2月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者であり本件管理組合の組合員である原告らが、本件管理組合の理事及び理事長を務める被告が、①不合理な多額の支出を継続して本件管理組合の財務状況を極めて困窮させ、②その事実を本件管理組合の組合員に隠し続けたほか、③本件管理組合の財産と私財を混同させているなどと主張して、区分所有法49条8項、25条2項に基づき、被告を本件管理組合の理事から解任することを請求する事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件管理組合の組合員から集めた管理費や修繕積立金等の財産を、不明朗な点や扱いに疑義が残る点を生じさせることなく、適確に管理していくことは、管理組合の理事として、最も基本的で、かつ、重要な任務であるが、被告は、本件管理組合の理事長として、その最高責任を負う立場にありながら、前記のような不適切な財産管理、会計処理を行っているのであって、これらの点のみをみても、被告には、適正に職務を遂行し得るのかにつき重大な疑いを生じさせる事情があるというほかない。
被告には、区分所有法49条8項、25条2項に定める理事の職務を行うに適しない事情があると認められ、本件管理組合の理事からの解任事由が存在するというべきである。

上記判例のポイント1は、結論部分だけですが、その前提として、複数の組合財産の不適切管理が認定されています。

事案によっては、理事(長)に対する損害賠償請求もされますので気を付けましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営34 組合員である妻の代理人として総会に出席し、理事長に選任された非組合員である夫の行為は妻に及ぶか(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合員である妻の代理人として総会に出席し、理事長に選任された非組合員である夫の行為は妻に及ぶか(東京地判平成30年2月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、平成29年1月に区分所有建物の管理組合法人として設立された原告が、同建物の区分所有者である被告に対し、被告が、平成18年4月1日から平成25年9月31日までの間、同建物の管理組合の理事長として、善良なる管理者の注意をもって職務を行うべきであったところ、同義務に反して同管理組合に損害を与えたとして、債務不履行に基づく損害賠償として472万5233円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、被告が本件管理組合の組合員であり、Bを被告の代理人として、本件臨時総会に出席させ、Bが理事長に選任されたことから、その効果が被告に及ぶと主張するが、同主張を採用することはできない。その理由は次のとおりである。
まず、被告は、Bに対して、本件管理組合の組合員としての一切の権限を委任している。
その趣旨は、組合員として本件管理組合の総会に出席して区分所有者としての権利を行使するに当たり、通常必要となる行為について委ねたものと解される。
しかしながら、区分所有者が、理事長に就任してその職務を行うことを全部第三者に委任することは、その性質上できないと解するのが相当であり、このことは、本件規約第32条4項の定めからしても明らかである。
したがって、被告がBに対して、本件管理組合の理事長に就任することについて代理権を与えたと解することはできない

2 本件臨時総会の議事録の記載によれば、本件臨時総会で理事長として選任されたのは、Bであると認められる。
そして、本件役員会議事録中に、「理事長は601号室区分所有者Y他の代理人組合員であるが、これを認める。」とあるのは、Bが非組合員であることを確認する趣旨であると解される。
すなわち、区分所有法によれば、区分所有者は、全員で、建物等の管理を行うための団体を構成し、同法の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができるとされ(3条)、規約に別段の定めがない限り、集会の決議によって、管理者を選任することができるとされている(25条1項)。
そうすると、区分所有法は、管理者の選任について区分所有者の意思に基づく自治的規範である規約に委ねているものと解される。
これを本件についてみるに、区分所有法には、管理者となるべき者の資格要件について特段の定めがないが、本件規約は、本件管理組合の組合員であることを理事長の資格要件としている。
これは、理事長が本件管理組合を代表することから、非組合員より組合員を理事長にした方が、その職務が誠実に行われると期待したからであると解される。
しかし、本件規約は、その一方で、組合員及び議決権の4分の3以上の総会決議によって、規約を変更することができると定めるところ、本件管理組合では、運営体制の改善・強化を行うために、合議による運営や理事会の設置を含め本件規約の変更を検討するために本件臨時総会を開催したもので、本件臨時総会には、委任状による出席を含め本件マンションの組合員全員が出席していること、本件臨時総会の議事録には、全員から推挙されて、Bが理事長に就任したとする記載、及びEが本件規約に直接記載のない「副理事長」に就任したとする記載があることからすると、本件臨時総会では、Bが非組合員であることによる資格の欠缺を不問とし、後に本件規約を全面的に見直す際にその点を明確させる趣旨で、本件臨時総会決議がされたと認めるのが相当である。

判例のポイント1のとおり、被告がBに対して、本件管理組合の理事長に就任することについて代理権を与えたと解することはできないですね。

そうすると、理事長の行為に対する責任追及をするのであれば、理事長本人に対してするほかありません。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。