管理費・修繕積立金31 弁護士費用を滞納者に請求できるとする規約が訴訟提起後に新設された場合の規約の効力は?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、弁護士費用を滞納者に請求できるとする規約が訴訟提起後に新設された場合の規約の効力は?(東京地判平成24年5月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理組合法人である原告が、同マンションの301号室を共有する被告らに対し、マンションの管理規約及び使用細則に基づき、各自(不可分債務)、①平成24年3月13日現在の未払管理費(136万9600円)、同日現在の未払修繕積立金(129万0240円)及びこれらに対する平成24年3月13日までの確定遅延損害金68万4724円の合計334万4564円+遅延損害金の支払を求めるとともに、
②平成24年3月13日現在の未払電気水道料金(38万6732円)及び弁護士費用(85万2809円)の合計123万9541円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告らは、原告に対し、各自(不可分債務)、458万4105円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 原告は、平成23年5月28日開催の定期総会において管理規約を改正し、管理費等を滞納した場合には、その組合員(区分所有者)に対し、違約金として弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して請求できるとの規定(管理規約57条2項)を設け、同規定は同年6月1日から効力を生じている。
ところで、原告が管理規約57条2項に基づいて弁護士費用の支払を請求しているのに対し、被告らは、管理規約57条2項は、本件訴訟提起後に新設されたものであるから、本件訴訟において、原告が被告らに弁護士費用等を請求する根拠とすることはできないと主張しているが、民事訴訟においては口頭弁論終結時における権利ないし法律関係の存否を判断するものであるから請求根拠は口頭弁論終結時に存在すれば足りると解するのが相当であり、被告らの主張は採用できない。

2 ①原告は、本件訴訟の遂行を原告代理人らに委任し、原告代理人らに対し、以前の日本弁護士連合会弁護士報酬基準と同じ報酬基準に基づいて報酬を支払うことを約束したこと、②同報酬基準によれば、着手金は請求金額の5%と9万円であり、成功報酬は請求金額の10%と18万円であることが認められる。
そして、原告は、報酬金額算定の基礎となる請求金額は、訴状に代わる準備書面の請求金額である361万4678円(未払管理費115万7460円、未払修繕積立金107万5200円、未払電気水道料金38万6732円、確定遅延損害金99万5286円)とするのが相当であるから、同金額を採用すると、①着手金は請求金額の5%と9万円であるから27万0733円であり、これに消費税5%を加算した28万4269円となり、②成功報酬は請求金額の10%と18万円であるから54万1467円であり、これに消費税5%を加算した56万8540円となる(合計85万2809円)。

現在では、多くの規約に弁護士費用の請求に関する規定が設けられていますので、あまり問題にはありませんが、仮に昔からの規約を変更せずに使っている場合には、是非参考にしてください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金30 未払管理費等の一部が認容された場合における弁護士費用(成功報酬)の算定(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、未払管理費等の一部が認容された場合における弁護士費用(成功報酬)の算定(東京地判令和3年8月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合である原告が、本件マンションの307号室の区分所有者である被告に対し、管理費及び給湯費等の未払があるとして、その未払分及びこれに対する本件マンションの管理規約所定の年18%の割合による遅延損害金の支払を求めるほか、本件管理規約に基づき、本件に関して要した弁護士費用等37万7589円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、120万6094円+遅延損害金を支払え。
 被告は、原告に対し、37万7272円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 原告は、内容証明郵便等による催告手続の弁護士手数料として4万4000円、本件訴訟を提起する際の着手金として11万円、本件訴訟の出廷費用として少なくとも1万1000円、及び本件訴訟の報酬を支払うべきことになったと認められる。
ところで、原告は、本件訴訟の報酬について、(滞納分に係る請求の)認容額が120万7894円であった場合を前提として、それに16%を乗じ、消費税(10%)相当額を加算した21万2589円としているが、本件における(滞納分に係る請求の)認容額は、120万6094円(計算式:92万4160円(管理費・修繕積立金関係)+7万2000円(本件駐輪契約に係る使用料関係)+20万9934円(給湯費等関係))であるので、本件訴訟の報酬額は、21万2272円(計算式:120万6094円×0.16×1.1)と認めるのが相当である。
以上によれば、原告が被告に請求できる弁護士費用等の請求額は、合計37万7272円となる。

成功報酬については、経済的利益をベースとして計算されるため、上記判例のポイント2のような判断になってしまいます。

そのため、着手金のウェイトを上げるという方法を採用する弁護士もいますので参考にしてください。

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管理費・修繕積立金29 未払管理費等請求訴訟の提起の適法性が争点となった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、未払管理費等請求訴訟の提起の適法性が争点となった事案(東京地判令和3年8月3日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合である原告が、本件マンションの区分所有者である被告に対し、①平成26年10月分から令和2年2月分までの管理費及び修繕積立金合計59万5940円並びにこれらに対する各支払期日(前月28日)の翌日から支払済みまで原告の管理規約所定の年15%の割合による遅延損害金、②令和2年2月から被告が本件マンションの区分所有権を喪失するに至るまで毎月28日限り1か月9500円の割合による管理費等及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで管理規約所定の年15%の割合による遅延損害金、③管理規約に定めのある違約金としての弁護士費用22万7630円(計算式は,82万7750円〔令和2年1月28日時点での管理費等の滞納金及び遅延損害金の合計額〕×25%×1.10〔消費税加算〕)並びに督促及び徴収の諸費用1592円の合計22万9222円及びこれに対する令和2年3月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ)所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め(本訴請求)、
他方、(2)被告が原告に対し、不法行為に基づく損害賠償金300万円及びこれに対する令和2年3月28日(不法行為の後の日である反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年10%の割合による金員(被告の主張は判然としないが遅延損害金の趣旨と解される。)の支払を求める(反訴請求)事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、76万1653円+年15%の遅延損害金を支払え。
 被告は、原告に対し、21万1046円+年5%の遅延損害金を支払え。
 被告は、原告に対し、令和2年2月以降被告が別紙物件目録記載の建物の区分所有権を喪失するまでの間、毎月28日限り月額9500円+年15%の遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 令和元年5月30日開催の原告第34期定期総会において、本訴の提起について原告の総会決議がされ、同日開催の原告理事会においても本訴提起についての理事会決議がされたことが認められる。したがって、本件訴提は適法である。
これに対し、被告は、①原告第34期定期総会議事録に決議当日に署名した者が誰もいないから同議事録は偽造されたものであって、原告第34期定期総会の決議は存在しない、②原告の理事長とされるAが本件マンションの所有者ではないなどとして、本訴提起が不適法であると主張する。
しかし、総会議事録への署名の日時が総会当日でないことから直ちに同議事録が偽造であるなどということはできず、他に原告の第34期定期総会の決議の存在に疑念を抱かせる事情ないし証拠は見当たらない
また、Aは、本訴の提起時点において、本件マンションの区分所有者である会社の代表者であったと認められる。
したがって、被告の上記主張はいずれも本訴提起の適法性を左右するものとはいえない

本件同様、訴訟提起の適法性が争点となることは珍しくありません。

訴訟提起をする前の手続きを適正に行うことは、実務においては基本的な事項ですのでしっかり押さえておきましょう。

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管理会社等との紛争31 使用細則上、焼肉店の経営が禁止されているにもかかわらず、その説明をせずに賃貸借契約を締結した場合の貸主、仲介者の責任(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、使用細則上、焼肉店の経営が禁止されているにもかかわらず、その説明をせずに賃貸借契約を締結した場合の貸主、仲介者の責任(東京地判令和3年8月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、焼肉店を出店するために不動産賃貸借契約を締結して分譲マンションの1階の店舗部分を借り受けた原告が、当該マンション管理組合の使用細則上、焼肉店の経営が明確に禁止されていたのに、これを知らされないまま前記契約を締結し、内装工事を進めたため、前記管理組合から工事続行禁止の仮処分を申し立てられ、焼肉店営業が事実上不可能となったとして、貸主である被告J食品、前記契約の仲介をした被告O土地及び被告O土地の代表者であり実際に仲介に関与した被告Y1に対し、説明義務違反等の不法行為ないし債務不履行に基づき、損害賠償として1877万7419円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告らは、原告に対し、連帯して、855万5726円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 原告は、本件の債務不履行ないし不法行為として、①本件賃貸借契約締結時の説明義務違反、②本件賃貸借契約締結後の説明義務違反及び不適切な対応、③本件通知を受けた後の不適切な対応の3点を一連一体のものとして検討すべきであると主張する。
しかし、①本件賃貸借契約締結時の説明義務違反が認められる場合には、適切な説明がされていれば原告は本件賃貸借契約を締結しなかったということになるから、そこで認め得る損害は、本来締結するはずのない賃貸借契約を締結したことによる損害に限られることとなり、本件賃貸借契約の締結を前提とした②本件賃貸借契約締結後の説明義務違反及び不適切な対応並びに③本件通知を受けた後の不適切な対応についても不法行為ないし債務不履行の成立を主張して、契約の存在を前提とした損害の賠償を求めるのは背理である。
また、これとは逆に、②本件賃貸借契約締結後の説明義務違反及び不適切な対応並びに③本件通知を受けた後の不適切な対応の義務違反が認められる場合には、本件賃貸借契約の締結を前提として、本件建物での営業ができなくなったことによる逸失利益等が損害となり得る一方、本件賃貸借契約の締結を前提とする以上、適切な説明がされていれば本件賃貸借契約の締結をしなかったとする①本件賃貸借契約時の説明義務違反に基づく損害の賠償を求めるのは、やはり背理である。
そこで、本件では、適切な説明がされていれば本件賃貸借契約を締結することはなかったという①本件賃貸借契約時の説明義務違反による不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償か、本件賃貸借契約の締結を前提に、その後の義務違反行為による不法行為ないし債務不履行を問題とする②本件賃貸借契約締結後の説明義務違反及び不適切な対応並びに③本件通知を受けた後の不適切な対応に基づく損害賠償のいずれかのみが認容されるべきであると解される(その意味で、原告の主張する前記①と②・③はいわば選択的併合関係にある2つの請求とも同視できる。)。

2 被告Y1は宅地建物取引士の資格を持つ者であるところ、本件建物は、本件規約等を踏まえると焼肉屋を出店することが臭気や煙の点から認められない可能性が高く、被告Y1はそのことを知っていたものであり、そのような情報が焼肉店出店のため本件賃貸借契約を締結しようとした原告にとって極めて重要な情報であることは宅地建物取引士である被告Y1にとっては容易に理解できたはずである。
ところが、被告Y1は、被告O土地の代表者兼本件の担当者として、借主であった原告に上記の点を説明しなかったものであり、これにより、原告は、本件建物に焼肉店を出店することは十分に可能であるとの認識の下、本件賃貸借契約を締結したものであるから、被告Y1には説明義務違反があり、これは不法行為を構成するものというべきである。
また、法人としての被告O土地についても不動産仲介業者として説明義務を尽くさなかったものとして、不法行為責任を負うものというべきである。

3 原告は、逸失利益829万6230円も損害として主張する。
しかし、説明義務が尽くされていれば原告は本件賃貸借契約を締結しなかったのであるから、本件賃貸借契約の締結を前提に被告J食品が本件建物を焼肉店として原告に使わせることができなかったことに基づき請求する逸失利益を損害として認めることはできない

契約締結時における説明義務違反を理由とする損害賠償請求の場合、上記判例のポイント3のとおり、営業利益等の逸失利益を請求することができませんので注意が必要です。

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駐車場問題13 駐車場の専用使用料支払請求権は管理組合と各区分所有者のどちらに帰属するか(不動産・顧問弁護士@静岡)

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今日は、駐車場の専用使用料支払請求権は管理組合と各区分所有者のどちらに帰属するか(東京地判令和3年10月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である原告が、他の区分所有者である被告Mの同マンションの駐車場の専用使用料支払義務について、平成30年3月末日までに発生した専用使用料は請求しない旨決議した被告管理組合の定期総会決議はマンションの全区分所有者の同意を得ていないから無効である旨主張して、①被告管理組合に対し、原告と被告管理組合との間において、本件決議が無効であることの確認を求める(以下「第1請求」という。)とともに、
②被告らに対し、被告Mが被告管理組合に対して上記駐車場の専用使用料合計1億9153万1537円の支払義務を負っていることの確認を求め(以下「第2請求」という。)、また、上記専用使用料支払請求権は原告にもマンションの共有持分割合に応じて分割して帰属している旨主張して、
③被告Mに対し、上記専用使用料のうち原告の共有持分割合に応じた額である71万4412円+遅延損害金の支払を求める(以下「第3請求」という。)事案である。

【裁判所の判断】

1 原告の被告Mが被告管理組合に対して金銭支払義務を負っていることの確認請求に係る訴えを却下する。

 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 区分所有建物において共用部分を第三者又は特定の区分所有者に賃貸する場合、「共用部分の管理に関する事項」として集会の決議又は規約の定めを得た上(法18条1項、2項)、当該集会の決議又は規約の定めに基づき、管理組合等の区分所有者の団体が当該第三者又は特定の区分所有者との間で共用部分の賃貸借契約を締結する。
本件においても、共用部分である本件駐車場を被告Mに賃貸するに際し、本件規約によって賃料の額や支払期限等が定められた上、被告管理組合と被告Mとの間で賃貸借契約(自動車駐車契約)が締結されている(本件規約15条1項3号、4号、削除前の23条5項、同25条1項ないし4項)。
そして、同契約に基づいて収受した専用使用料については、本件規約により、共用部分の補修・修繕費に充てるために被告管理組合が積み立てるものとされている(本件規約15条1項柱書)。
以上のとおり、本件においては本件規約の定めに従って被告管理組合が被告Mとの間で賃貸借契約(自動車駐車契約)を締結しており、それによって得た専用使用料については本件規約によって共用部分の補修・修繕費に充てるために被告管理組合が積み立てるものとされていたのであり、このような事情に照らすと、本件専用使用料支払請求権は本件規約に従って被告管理組合がその管理を行うべき債権であるというべきであり、その帰属については、その管理を被告管理組合が行うべきものである以上、本件マンションの各区分所有者に分割して帰属するものではなく、区分所有者全員に総有的に帰属するものと解するのが相当である。

2 
これに対し、原告は、平成27年判決を援用し、本件専用使用料支払請求権は原告を含む本件マンションの各区分所有者に分割して帰属する旨主張する。
しかし、平成27年判決は、「一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権は各区分所有者に帰属する」旨判示したものであり、管理組合が第三者又は特定の区分所有者に対して共用部分を賃貸して得た賃料の帰属について判断を示したものではなく、本件とは事案を異にする(なお、平成27年判決の判例解説においても、「共用部分等を第三者に賃貸する場合、本来であれば、共用部分等の管理に関する事項として集会で決議するか規約で定めるかしなければならず、この集会の決議又は規約の定めに基づき、区分所有者の団体が…、第三者との間で共用部分等の賃貸借契約を締結し…、これによって生ずる賃料債権は、区分所有者全員に団体的に(合有的又は総有的に)帰属する」ものとされている(最高裁判所判例解説平成27年度民事篇(下)425頁注14参照)。)。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。

基本的なことですのでしっかり押さえておきましょう。

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名誉毀損12 管理会社従業員が理事の亡父の名誉を毀損する発言をしたことにつき、遺族に対する不法行為を認めた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理会社従業員が理事の亡父の名誉を毀損する発言をしたことにつき、遺族に対する不法行為を認めた事案(東京地判令和3年10月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告らに対し、被告会社の従業員であった被告Y2が同社の業務中にした発言によって、亡父の名誉及び遺族としての敬愛追慕の情を侵害されたと主張して、被告Y2に対しては、民法709条に基づき、被告会社に対しては民法715条1項に基づき、損害賠償として330万円(慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計)+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告らは、原告に対し、連帯して、5万5000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 死者の社会的評価を低下させる表現は、当該死者の死亡時と当該表現時との期間、摘示事実の真実性の有無、当該表現による当該死者の社会的評価の低下の程度、当該表現の態様、当該遺族と当該死者の関係等を総合考慮し、当該表現が受忍限度を超えて当該遺族の敬愛追慕の情を侵害する場合に、当該遺族に対する不法行為に当たると解するのが相当である。
これを本件について検討すると、本件発言は、一般の聴取者の普通の注意と受け取り方を基準とすれば、原告の父であるBが本件管理組合の金銭を横領した事実を摘示したものであり、その社会的評価を著しく低下させるものであったこと、短時間の間になされた口頭による発言であるものの、4回にわたって同一の内容を繰り返す態様であったことが認められ、他方、同摘示事実が真実であると認めるに足りる証拠はない
また、Bの死亡から本件発言までの期間は約3年4か月と比較的短期間であること、原告はBの子であることに照らすと、死者に対する肉親の敬愛追慕の情はなお強かったと認められる。
以上を総合考慮すると、本件発言は、受忍限度を超えて原告のBに対する敬愛追慕の情を侵害したものと認められるから、被告Y2の原告に対する不法行為に当たる。

2 これに対して、被告らは、本件発言当時、本件総会の会場にはごく少数の者しかいなかったとして、同発言が公然性を欠く旨主張するが、本件発言は少なくとも17名が出席した本件総会が開始される約5分前から約4分前になされたものであり、全員ではなくとも相当数の出席者が既に同総会の会場に到着していたと認められること、同会場が面積40平方メートル程度の広くない会議室であって同発言が同当時に会場内に居た者に聴取可能であったと認められることに照らすと、被告らの主張は採用することができない。
また、被告らは、本件発言の摘示した事実が虚偽ではない旨、虚偽であるとしても被告Y2が虚偽であることを確信していなかった旨を各主張し、真実性又は真実であると誤信したことにより違法性又は責任が阻却される旨の主張と解する余地があるが、本件管理組合がBの経営していた訴外会社に対して従前請求をし、東京地方裁判所が同請求を認容する判決をしたことが認められるものの、訴外会社に対する本件管理組合の不当利得返還請求が認容された事実とBが本件管理組合の金銭を横領した事実が同一であるとはいえないし、被告Y2が本件発言の摘示事実を虚偽でないと信じていたとしても、被告Y2の原告に対する不法行為責任の成否を左右するものとはいえないから、被告らの主張は採用することができない。

Y2の発言は以下の通りです。
「先生のお父さんが,この管理組合で,管理費用を私的流用なさったじゃないですか。」
「私的流用なさったでしょ。」
「私的流用なさったんで裁判になったじゃないですか。」
「私的流用なさったんで訴訟になったんじゃないですか。」

死者の社会的評価を低下させる発言についても一定の要件を満たす場合には、遺族に対する不法行為が成立しますので注意しましょう。

加えて、裁判所の認定する慰謝料額の相場観も押さえておきましょう。

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漏水事故15 建物内の漏水について管理組合が応急措置義務を負っていたとはいえないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、建物内の漏水について管理組合が応急措置義務を負っていたとはいえないとされた事案(東京地判令和3年11月2日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者である控訴人が、令和元年11月頃に生じた本件建物内の漏水について本件マンション管理組合である被控訴人に報告したにもかかわらず、被控訴人が本件マンション管理組合規約に基づく被害拡大防止のための応急措置義務を怠ったため、本件建物の売却が困難になり、精神的苦痛を被ったと主張して、被控訴人に対し、債務不履行に基づく損害賠償として、売却が遅延した期間の住宅維持経費、同期間に生ずる利息金、慰謝料等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 確かに、本件マンション管理組合規約によれば、被控訴人(管理組合)は、本件マンションの敷地及び共用部分等の管理を、その責任と負担において行い、その管理する部分の修繕を行うとされており、これらの規定に照らせば、被控訴人は、共用部分等の管理を怠ったために漏水事故が生じた場合には、被控訴人の負担において修繕をすべき義務を負い、当該漏水によって区分所有者らに損害を与えたときは、その損害を賠償する義務を負うものと解される。
しかしながら、控訴人が主張するのは、一般的な修繕の義務ではなく、速やかに応急措置を行うべき義務である。
そして、上記規約には、被控訴人が管理する共用部分等において漏水事故が生じた場合に、これに対する応急措置を行って、被害の拡大を防止すべきことを定める規定は存在しない
そうすると、現に漏水が継続しており、応急措置を採らなければ被害の拡大が避けられない等の特段の事情がある場合には格別、そうでない限りは、上記管理規約に明記された修繕義務を超えて、被控訴人において速やかに応急措置を行う義務を負っているとまでは認め難い。
そして、本件漏水の現地確認が行われた令和元年12月9日の時点では、本件建物の天井に漏水の痕が認められるにとどまっていたこと、控訴人が被控訴人に対して本件漏水を報告した令和元年12月1日以降、令和2年7月17日までの間に、本件建物内において新たに漏水が発見されることはなかったことに照らせば、本件漏水について、被控訴人が、控訴人に対し、上記規約に明記された修繕義務を超えて、速やかに応急措置を行うべき義務を負っていたとまでは認められない
なお、被控訴人は、本件漏水について、その原因調査を行った上で、補修工事の実施について総会決議等を経て、令和2年6月17日に補修工事を完了させており、本件マンション管理組合規約に明記された修繕義務は履行したものと認められる。
以上によれば、被控訴人は、控訴人に対し、速やかに本件漏水に対する応急措置を行い、被害の拡大を防ぐ義務を負っていたとは認められない

管理組合としては、規約で定められている修繕義務は履行していることから、それ以上の義務(速やかに応急措置を行う義務)は負わないと判断されています。

裁判所が規約の内容を重視していることがよくわかりますね。

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管理会社等との紛争30 区分所有者による管理会社に対する頻繁な苦情の電話や書面交付が営業権侵害にあたる場合とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者による管理会社に対する頻繁な苦情の電話や書面交付が営業権侵害にあたる場合とは?(東京地判令和3年11月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、(1)マンションの一室を賃借して入居している原告が、賃貸人であり、上記マンションの管理に携わる被告に対し、被告は原告に対する嫌がらせをしたとして、不法行為及び賃貸人としての債務不履行に基づき、精神的損害160万円及び上記マンションのゴキブリ駆除に要した費用等20万円の支払並びに念書の作成を求めた事案(本訴)、
(2)被告が原告に対し、原告は、上記マンションの自転車駐輪場に無断駐輪していること、被告に対して頻繁に苦情の電話を入れたこと等によって被告の営業権を侵害したとして、不法行為に基づき、損害賠償金160万円の支払を求めた事案(反訴)である。

【裁判所の判断】

1 原告の請求をいずれも棄却する。

 原告は、被告に対し、3万3432円を支払え。

【判例のポイント】

1 被告は、原告から報告を受けたゴキブリの問題に関し、直接大きな被害を確認することはなかったものの、複数回にわたり入居者全員に文書を送付して排水口を清潔に保つことなどを呼びかける、入居者から2階廊下にゴキブリがいるとの報告を受けた後、直ちに入居者全員に殺虫剤を配布する、清掃業者から2回にわたり2階廊下にゴキブリの死骸があった旨の報告を受けた後、殺虫剤を2階廊下通路の雨水排水管に設置するという措置を講じている。
被告は、本件マンションの賃貸人及び管理を受託している者として、上記ゴキブリの問題を本件マンション全体の衛生に関わる問題として真摯に受け止め、把握した状況に即して適切に対応してきたものと評価することができ、法的義務の懈怠は認められない

2 原告からの苦情の電話は、令和元年5月から令和2年4月までの1年間に13回にとどまり、しかも、同月9日、被告が原告に対してこれ以上の電話対応をすることはできず、以後は書面対応とする旨を伝えたところ、その後、原告からの電話はなくなったというのであるから、原告が電話によって営業権の侵害と評価し得るほど被告の管理業務を侵害したとまではいい難い。
また、その後、原告は、被告に対し、相当数の文書を送付しているが、その内容に鑑みても、上記文書の送付によって営業権の侵害と評価し得るほど被告の管理業務を侵害したとまではいい難いところである。
もっとも、今後、原告が上記のとおり被告から書面対応を求められているにもかかわらず、苦情の電話を被告にかける行為に及べば、営業権侵害に当たる可能性がある。
また、書面についても、その内容や頻度等によって被告が対応につき過重な負担を強いられて管理業務に支障を来す事態に至れば、営業権侵害を構成し得る

区分所有者の対応に苦慮する管理会社のみなさんは、前記判例のポイント2を参考にしてください。

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管理会社等との紛争29 マンション敷地の一部について囲繞地通行権が認められ、通行地役権は認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション敷地の一部について囲繞地通行権が認められ、通行地役権は認められなかった事案(東京地判令和3年11月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らが、被告に対し、主位的に、原告X2が、その所有地が袋地であると主張し、公道に至るため、本件通路について囲繞地通行権を有することの確認を、予備的に、原告X2が本件通路に原告所有地を要役地とする通行地役権を有することの確認を、それぞれ求めている事案である。

【裁判所の判断】

原告らが、別紙物件目録1記載1の土地のうち、別紙図面3のアイ’ウ’エアの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分について囲繞地通行権を有することを確認する。

【判例のポイント】

1 囲繞地通行権が認められる場所については、公道までの距離や接続の難易、対象地の形状の他、囲繞地の従前の利用状況等を総合して判断するのが相当であるところ、原告所有地の居住者が昭和32年頃から、継続して本件通路を通じて本件道路に出ていた経緯があること、原告所有地から本件道路が近接していること、他方で、昭和47年にはB1建物とB2建物の南側には植栽があり、B2建物の居住者が東側土地を通じて公道に出ることが常態化していたとまで認めるに足りないことからすれば、マンション敷地の本件通路付近に囲繞地通行権を認めるのが必要かつ最も損害が少ないといえる。
被告は、民法213条に基づき、囲繞地が発生した時点における譲渡人の所有地である南側土地(3559番の22)に囲繞地通行権が発生する旨主張する。
しかし、関連土地全体の移転、分筆時期や譲渡先が親族であること等に鑑みると、南側土地も他の土地とほぼ同時に譲渡されたと評価するのが相当である。
また、原告所有地の居住者が昭和32年頃から本件通路を継続して通行していたこと、Gが本件通路の土地を取得する前提で土地交換の話がされていたこと等に鑑みると、本件において民法213条を適用し囲繞地通行権を南側土地に限定すべきとの被告の主張は採用できない
また、被告が、原告らの通行によって被る迷惑として述べる事情は、いずれも原告らの通行自体に当然に付随する性質のものではなく、本件通路付近を通行することで本件マンションの居住者が損害を被るとはいえず、他に原告らの本件通路付近の囲繞地通行権を否定すべき事情は認められない。
原告らの囲繞地通行権の範囲については、通行権を有する者のために必要であり、かつ囲繞地のための損害が最も少ないものであるところ(民法211条1項)、本件では人や車椅子等が通行することのできる幅員が確保できる、別紙図面3のアイ’ウ’エアの各点を順次直線で結んだ範囲で足りるというべきである。

2 本件通路をGとその家族が利用することを前提に、本件通路と原告所有地の西側の同面積の土地を交換することが話し合われており、本件土地交換契約が成立していた可能性はある。
しかし、本件通路部分の土地の所有権をGに移転する合意と、通行地役権の設定をする合意とは性質が異なると言わざるを得ず、他に、通行地役権設定の黙示の合意を認めるに足りる事情はない
よって、原告らの予備的請求は、理由がない。

囲繞地通行権と通行地役権の両方が問題となった事案です。

似て非なるものですので、整理をしておきましょう。

なお、民法213条は、以下のとおりです。

1 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

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管理費・修繕積立金28 管理会社が管理費等滞納者に対して支払いを求める訴えを提起しなかったことによる責任(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理会社が管理費等滞納者に対して支払いを求める訴えを提起しなかったことによる責任(東京地判令和3年11月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合である原告が、本件マンションの分譲時から同マンションの管理業務を受託していた被告に対し、被告が管理会社としての善管注意義務を怠り、同マンションの区分所有者のうち管理費等を滞納している者らに対してその支払を求める訴えを提起しなかった結果、これらの管理費等の支払請求権が時効消滅し、原告が損害を被ったと主張して、管理委託契約の債務不履行に基づき、原告が被った損害金の一部として2000万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 管理会社である被告が、本件規約30条に基づき、本件マンションの区分所有者全員又はその団体に帰属する未払管理費請求権を訴訟物とする訴訟活動を行うことが、任意的訴訟担当の一場合として許される余地があるとしても、かかる請求権をどのような態様で行使するかは、当該請求権の主体である区分所有者全員又はその団体がまずもって決定すべき筋合いのものというべきである。
しかるところ、被告は、平成22年以降、本件マンションの区分所有者宛てに、管理費等の滞納状況について、どの区分所有建物についていくらの滞納が生じているのかを、毎年の管理業務の報告書に記載して報告していたと認められること、被告は、区分所有者に対して、会計報告を行う義務を課せられており(本件管理委託契約書5条2項、本件規約26条)、それ以前の時期において、区分所有者に対して報告書を配布しないなど、毎年の会計についての区分所有者に対する報告を怠っていたと認めるに足りる証拠はないことに照らすと、被告は、平成21年以前においても、区分所有者に対し、管理費等の滞納状況を含む会計についての報告を行っていたと認めるのが相当である。
しかるに、本件マンションの区分所有者において、滞納されている管理費等について、訴訟の提起を含む何らかの措置を講じることを決定したり、被告に対し、これを促すなどした形跡はない
むしろ、平成22年、平成25年、平成28年の各7月頃、被告から本件マンションの区分所有者に対して、本件管理委託契約書とは異なる内容の管理委託契約書が、区分所有者と被告との間の新たな管理委託契約の内容を示すものとして提示されており、この契約書には、管理費等滞納者に対する督促に関して、①被告は管理費等の滞納状況を区分所有者に報告する旨、②管理費等の滞納があった場合には、最初の支払期限から起算して6か月の間、電話若しくは自宅訪問又は督促状の方法によりその支払の督促を行う旨、③上記方法により督促しても、なお滞納管理費等の支払が行われないときは、被告はその業務を終了する旨が定められていたことが認められる。
これらの契約書は、本件マンションにおいては実際には組織されていない管理組合を契約当事者とするものであることや、区分所有者の代表者として署名押印を行っている者の代表権の有無が定かではないことに照らすと、本件マンションの区分所有者と被告との間で、その内容に沿う契約が成立したといえるかについては疑義があるといわざるを得ないものの、少なくとも、上記のような定めが置かれていることについて、区分所有者から何らかの異議が出された形跡はない。

管理組合から管理会社に対し、滞納管理費等について訴訟提起等を依頼・促す等の事情があれば結論は変わったかと思いますが、そのような事情がない本件では、管理会社の責任は否定されています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。