日照権・眺望権8 マンション建設により原告らの日照権が侵害された等を理由とする日陰補償の請求は認められるか?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション建設により原告らの日照権が侵害された等を理由とする日陰補償の請求は認められるか?(東京地判平成29年6月2日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らが、原告らの自宅の隣地にいわゆる分譲マンションを建設した被告に対し、①従前の建物の解体工事及び上記マンションの新築工事の騒音や振動が激しく、原告らの自宅建物に損傷が生じた、②上記マンションの日影により原告らの日照権が侵害された、③上記マンションの敷地に存する桜の木の根が原告らの自宅敷地に伸びてきていると主張して、不法行為に基づき、上記①に関する「工事迷惑料」78万円、上記②に関する「日影補償」478万円及び上記③に関する「桜古木の根撤去費」50万円の合計606万円(各原告につきいずれも303万円)の損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 冬至日の午前8時から午後4時までの間に地盤面から1.5メートル地点において、本件原告建物にかかる本件マンションの日影の範囲は、午前8時及び午前9時の時点では本件原告建物の全部に日影がかかる状況であるが、午前10時の時点では本件原告建物の南東側面(本件マンション側)のやや奥まっている2分の1ほどが日照を得られ、本件マンション側に出っ張っている残りの2分の1ほどに日影がかかり、南西側面は4分の3ほどが日照を得られ、奥まっている部分の一部である残り4分の1ほどに日影がかかる状況であり、午前11時の時点では本件原告建物の南東側面の4分の3ほどが日照を得られ、残りの4分の1ほどに日影がかかり、南西側面は全て日照を得られる状況であること、正午の時点では本件原告建物はもちろん本件原告土地の全部において日照を得られる状況であることが認められる。

2 加えて、被告が本件敷地の近隣に居住する住民らに対して、平成26年7月5日に第1回近隣説明会を、同年8月2日に第2回近隣説明会を、同年9月18日に意見交換会を、同月27日に第3回近隣説明会を、同年11月15日に第4回近隣説明会を、同年12月13日に第5回近隣説明会を、平成27年2月9日にあっせん前の事前協議を、同年3月10日に第1回あっせん協議を、同月28日に工事説明会を、同年4月6日に第2回あっせん協議を、平成28年9月28日に本件マンションからの近接建物の見え方について近隣住民に公開する会を実施したことについては当事者間に争いがなく、また、本件敷地上に本件旧建物が存在していた頃には、冬至日の午前8時から午後4時までの間に地盤面から1.5メートル地点において、本件原告建物にかかる本件旧建物の日影の範囲は、午前8時及び午前9時の時点では本件原告建物の全部に日影がかかる状況であり、午前10時の時点でも本件原告建物の南東側面の4分の1ほどが日照を得られるが、4分の3ほどに日影がかかり、南西側面は3分の2ほどが日照を得られ、残り3分の1ほどに日影がかかる状況であり、午前11時の時点では本件原告建物の南東側面の4分の3ほどが日照を得られ、残りの4分の1ほどに日影がかかり、南西側面は全て日照を得られる状況であり、正午の時点では本件原告土地の全部において日照を得られる状況であること、したがって、従前の状況と本件マンション建設後の状況とを比較した場合に、少なくとも後者の方が前者よりも日照の環境が悪化しているとはいえないことが認められ、これらの事情に照らすと、本件マンションの日影により本件原告建物の日照が阻害される時間及び部分はあるものの、これが原告らの受忍限度を超えるものであると認めるに足りず、他に原告らにおいて本件マンションの日影により受忍限度を超える日照権の侵害がされたということのできるような事情を認めるに足りる証拠はない。

受忍限度を超える日照権の侵害の有無を判断するにあたり、裁判所が、被告が複数回にわたり説明会等を開催したことを考慮している点は参考にしてください。

日陰の範囲・時間等という結果だけでなく、プロセスも大切だということです。

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管理会社等との紛争33 賃貸借契約を締結する際に宅建業者が宅建業法上の説明義務を果たしていなかったにもかかわらず、宅建業者に対する損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃貸借契約を締結する際に宅建業者が宅建業法上の説明義務を果たしていなかったにもかかわらず、宅建業者に対する損害賠償請求が棄却された事案(東京地判平成29年6月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件本訴は、原告が被告会社の仲介により被告Y1及びBから本件建物を賃借し、本件建物にて水産加工食品販売店を営むことを計画したが、賃貸借契約を締結した後、本件建物入口上部の赤色ビニールテントを白色ビニールで覆って店舗名等を書き入れた看板テントを設置するなどしたところ、同看板テントの設置がマンション管理規約に違反するとして撤去等を求められ、他の宣伝方法を試みたものの、断念せざるを得ず、有効な集客を図る手段がなかったことから、本件建物における営業自体も断念せざるを得ない状況に追い込まれたが、被告会社は宅地建物取引業者として賃貸借契約を締結する際の判断に重要な影響を与える事実について正確な情報を伝える義務を怠り、また、被告Y1は積極的に管理規約等における制限の有無を十分に調査した上で正確な情報を説明する義務を怠ったなどとして、原告が、被告らに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償金484万2860円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

本件反訴は、原告による本訴提起は訴権の濫用と評価すべきものであるとして、被告Y1が、原告に対し、不法行為に基づき損害賠償金532万2860円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求棄却

反訴請求棄却

【判例のポイント】

1 確かに、被告会社は、本件契約の締結に先立ち、原告に対して上記特約事項を説明していない上、本件契約の契約書及び重要事項説明書を原告に郵送し、原告がこれに署名押印して返送するなどの過程を経て本件契約が締結されており、宅地建物取引業法に定める宅地建物取引業者としての業法上の義務を履践していないことを指摘することができる(原告が本件テントを広告等に使用することについて制約があることを認識していても、かかる義務が発生しないわけではない。)。
しかし、債務不履行責任又は不法行為責任が発生するために必要な説明義務違反は、個別の契約当事者の理解の程度と契約に至る過程において示された要望の内容等に応じて発生する具体的な義務違反であるべきところ、すでに指摘したとおり、原告は、本件建物を賃借する際に被告らに対して本件広告を掲示することを希望する旨を伝えていないほか、本件テントは本件建物及びこれと隣接する本件マンションの区分所有建物とで共用している雨避けであって共用部分に該当し、原告はこれを広告等に使用することについて制約があることを理解していたことからすると、被告会社が、宅地建物取引業者として、賃貸借契約等を締結する際の判断に重要な影響を与える事実を調査し、説明する義務の具体的内容として、原告に対し、本件テントに広告を掲示することができない旨を予め具体的に伝えるべき義務が生じていたとまでいうことはできない。
そして、上記のとおり、被告会社は、宅地建物取引業法における義務を履践していないことは認められるし、そのことが同法上是認されるわけではないが、この点から直ちに民法上の債務不履行責任又は不法行為責任が発生するということもできない

仲介業者の説明義務違反の判断基準をしっかりと押さえておきましょう。

また、業法上の義務違反が直ちに民法上の債務不履行又は不法行為とはならないことも押さえておく必要があります。

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義務違反者に対する措置25 規約に反して午後10時以降も営業を続ける飲食店に対する営業の差止めと弁護士費用100万円の支払が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、規約に反して午後10時以降も営業を続ける飲食店に対する営業の差止めと弁護士費用100万円の支払が認められた事案(東京高判平成29年7月5日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、A棟建物の区分所有法25条所定の管理者である第一審原告が、A棟建物の地下1階にある専有部分である本件店舗を所有する第一審被告K社並びに本件店舗を賃借して、飲食店「b」○○店を営業する第一審被告M社に対し、b店の午後10時以降における営業がA棟建物の管理規約に違反し、またA棟建物の区分所有者の共同の利益に反するとして、A棟建物の管理規約又は区分所有法57条1項及び4項に基づき、本件店舗における午後10時から翌日午前11時までのb店の営業の差止めを求めるとともに、A棟建物の管理規約に基づき、本件訴え提起のための弁護士費用相当額100万円の支払を求める事案である。

原判決は、第一審原告の請求を全部認容したので、これを不服とする第一審被告らが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 A棟建物及びその周辺が駅前の商業地域で近隣に深夜営業の飲食店棟が複数あることは、外部の事情にすぎない。
商業地域であるということは、都市計画法制上、用途を商業用とする建物を建築できることを意味するにすぎず、商業地域内の区分所有建物における専有部分の使用方法や営業時間についての規約による自主的規制とは無関係である。
外部環境に対して、A棟建物の区分所有者が影響力を行使するには限界がある一方で、A棟建物の区分所有者がA棟建物及びその敷地の利用の形態や方法を外部環境に合わせなければならない理由はない
例えば、商業地域内の区分所有建物であっても、規約で専有部分の全部の使用目的が居住目的に限定されていれば、店舗や事務所としての使用は規約違反であり、共同の利益に反する。
行政機関から区分所有建物内におけるいわゆる民泊の営業許可を得られたとしても、規約で専有部分の使用目的が居住目的に限定されていれば、民泊営業は規約違反として禁止され、区分所有者の共同の利益に反することとなるのと同様である。
A棟建物の区分所有者が少なくともA棟建物及びその敷地については深夜から昼前までの静謐な環境を維持しようとすることは、区分所有者の共同の利益に合致することは当然である。
外部環境を理由にこれを否定する第一審被告らの主張は主張自体理由がない。

2 管理組合(区分所有者の団体)は、他に本来の仕事を持っている区分所有者の団体であって、常勤の役員を有していないのが通常であり、機動性に乏しく、資金(予算)にも余裕がなく、異常事態(規約違反の発生)に迅速に対応する能力が乏しい場合が多いことは、経験則上明らかである。
そうすると、規約違反が認知されても、対応等の検討に時間を要し、弁護士費用の負担等を懸念して法的措置などの毅然とした対応をとることが遅れて、是正の実現までに長期間を要することが珍しくない
A棟管理組合が深夜営業を容認していたことを認めるに足りる証拠もない。そうすると、過去の深夜営業の実例がA棟営業時間規定の空文化を推認できるものではなく、本件深夜営業が区分所有者の共同の利益に反しないことを推認できるものでもない。
かえって、証拠及び弁論の全趣旨によれば、A棟管理組合は、規約違反の深夜営業の是正に継続的に取り組んできたことが認められる。

3 証拠及び弁論の全趣旨によれば、第一審被告M社のいう本件店舗における規約上の営業時間規制の誤信の原因は、専ら本件賃貸借契約の仲介業者の不手際にあると認められる。
第一審被告らの損害は、第一審被告ら及び仲介業者において解決すべき問題である。
第一審被告M社は、本件店舗に対する投資として内装工事費用を支出してしまったので、この投下資本回収のために、A棟営業時間規定の存在を知りながら、故意に、本件深夜営業の開始を強行したものである。
その行動には、コンプライアンスや企業の社会的責任を果たす姿勢が感じられない
第一審被告M社の主張を採用することができないのは、当たり前のことである。
区分所有建物に出店する場合は、仲介業者任せにすることなく、管理会社及び管理組合の役員に直接連絡をとるなどし、用途規制、営業時間規制その他の規約上の制約の内容を確認する出店実務や、管理組合規約による規制を法令による規制や所轄行政官庁による規制と同等のものとして遵守する営業実務を実現し、コンプライアンスを確立していくことが望まれる

控訴人(原審被告)は、複数の反論をしましたが、いずれも採用されませんでした。

高裁がこれでもかという程に控訴人の反論を潰しています。

非常に参考になります。

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管理会社等との紛争32 シーリング工事をシーリング再充填工法によって施工するとの合意があったにもかかわらず、意図的に「増し打ち」という不正を行ったことが不法行為にあたるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、シーリング工事をシーリング再充填工法によって施工するとの合意があったにもかかわらず、意図的に「増し打ち」という不正を行ったことが不法行為にあたるとされた事案(東京地判平成29年9月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告は原告が権利義務を承継した会社から発注を受けた工事につき真実は必要な工事を施工していなかったにもかかわらず、これを適切に施工したかのように装って同会社に工事代金を請求し、その旨誤信した同会社から工事代金をだまし取ったと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、工事代金相当額の損害の一部563万3636円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告は、本件工事に含まれるシーリング工事を施工するに当たり、シーリング再充填工法によって施工するとの合意があったにもかかわらず、古いシーリング剤を十分に、あるいは全く撤去しないまま、新しいシーリング材をつぎ足す「増し打ち」という不正を行った上、シーリング再充填工法によってシーリング工事を施工したことを報告する写真集を作成してa社に提出するなどして本件工事を適切に施工したことを装い、本件工事代金5750万円(税別)を請求し、a社からその支払を受けている。
他方、a社はシーリング工事に関する不正施工の事実を認識していなかったことが認められる。a社がこれを認識していれば少なくとも本件工事代金のうちシーリング工事相当額を支払うことはなかったと考えられるから、a社による本件工事代金の支払は、本件工事を適切に施工したことを装って本件工事代金を請求するという被告の欺罔行為及びこれによるa社の錯誤の結果と認められる。
そうすると、連の被告の行為は詐欺というべきものであって、被告には不法行為が成立する。

2 被告は、本件工事後本件建物に不具合はなかったこと等を指摘して、原告に損害は生じていないと主張する。
しかし、a社がシーリング工事に関する不正施工の事実を認識していれば少なくとも本件工事代金のうちシーリング工事相当額を支払うことはなかったと考えられるところ、その支払それ自体がa社、ひいては原告の損害であると認められる。被告の上記主張は失当である。

3 本件は被告が本件工事に含まれるシーリング工事を施工するに当たり本来の合意を蔑ろにし、意図的に「増し打ち」という不正を行うなどして、a社から本件工事代金のうちシーリング工事相当額をだまし取った事案であることを踏まえると、当事者間の公平に由来する過失相殺を適用して本件の損害賠償額を算定するのは妥当ではないというべきである。

本件では、そもそも合意されていたシーリング工事の内容が争点となっていますが、被告作成の御見積書のシーリング工事の項目には「打替」と記載されており、この記載はそれ自体シーリング再充填工法を意味するものと考えられること等の理由から上記の認定となりました。

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名誉毀損13 監事の携帯電話番号を認識していたにもかかわらず、総会招集通知に「監事の連絡先が不明」と記載したことが信用毀損にはあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、監事の携帯電話番号を認識していたにもかかわらず、総会招集通知に「監事の連絡先が不明」と記載したことが信用毀損にはあたらないとされた事案(東京地判平成29年9月26日)を見てみましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者であり、同マンション管理組合の監事であった控訴人が、本件管理組合の当時の理事長であった被控訴人Y1及び本件管理組合から管理業務を受託していた被控訴人会社に対し、被控訴人らが、本件管理組合の平成27年度定期総会招集通知に「監事の連絡先が不明で本人確認ができない」旨の虚偽の事実を記載したことにより控訴人の信用を毀損し、また、本件管理組合の当時の副理事長であったHに平成27年度監査報告書の監事欄に記名・押印をさせたことにより控訴人の監査業務を妨害したなどとして、不法行為に基づき、損害賠償として、連帯して580万円+遅延損害金の支払を請求した事案である。

原審は、本件招集通知の上記記載は虚偽の事実を記載したものと評価することはできず、また、被控訴人らが控訴人の監査業務を妨害したとも認めることはできないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 控訴人は、Dが、被控訴人Y1及びFに対し、携帯電話番号を手書きした名刺を渡しており、被控訴人らは控訴人の連絡先を知っていたから、本件招集通知における「控訴人の連絡先が不明で本人確認ができない」との記載は虚偽である旨重ねて主張し、当審において、DがFに連絡先を伝えた旨の記載がある証拠を提出する。
しかしながら、本件マンション管理規約は、理事会の招集は「管理組合に対し、組合員が届出をした宛先に発するものとする」(48条3項、39条)旨定めており、Dが伝えたという携帯電話番号は、控訴人が本件管理組合に届け出ていた電話番号とは違っており、また、控訴人の代表者も平成27年7月にEから現在の代表者に交代しているのであるから、本来、控訴人の方から、本件管理組合に届出事項の変更届を提出すべきであった
しかるに、控訴人は、被控訴人会社から同変更届を提出するよう求められたにもかかわらずこれを提出せず、直接被控訴人らに連絡することもせず、被控訴人らは控訴人の代表者が交代したことを知らなかった。
そして、控訴人が本件管理組合に届け出ていた電話番号は不通となっており、控訴人は理事会も欠席していたこと、控訴人が監事としての職務を第三者に委任することができるかどうかはともかく、控訴人が被控訴人らや本件管理組合に監事としての職務を弁護士に委任した旨を伝えたことを認めるに足りる証拠はないことなどからすると、控訴人代理人弁護士と被控訴人会社との間で内容証明郵便でやり取りがされていたことを考慮しても、本件招集通知における「控訴人の連絡先が不明で本人確認ができない」との記載が虚偽の事実を記載したものであるとはいえないことは上記引用に係る原判決が説示するとおりである。

裁判所が、管理規約所定の手続を踏んだか否かを重視していることがよくわかります。

本件に限らず、裁判所は管理規約や使用細則の内容をとても重視する傾向にあります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。
 

漏水事故16 上階からの漏水事故につき、3000万円超の損害賠償請求に対し約130万円のみを損害として認定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上階からの漏水事故につき、3000万円超の損害賠償請求に対し約130万円のみを損害として認定された事案(東京地判平成29年10月6日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの一室を所有し、同室に居住している原告が、その上階の部屋を賃借して居住していた被告に対し、被告宅の洗濯機の排水部分から漏水が生じたために、原告宅の天井やカーペットが汚損されるなどの損害を被ったとして、不法行為に基づき、損害金3039万6500円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、129万4677円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件洗濯機使用時に本件事故が発生していること、本件事故による漏水箇所(原告宅キッチン)の真上に本件洗濯機が位置すること、本件洗濯機や、同種のビルトイン洗濯機の排水詰まりを原因とする漏水事故が本件マンションにおいて過去に複数回発生していること、本件事故の約1か月半後に実施されたデーエムの調査の際、本件洗濯機の周囲に洗剤様の白い粉末や、シミが観察されたこと(被告は本件事故の約3年前にも本件洗濯機の排水詰まりを原因とする漏水事故を起こしているが、上記の痕跡は比較的新しいもののように見受けられる。)、本件事故の漏水の経路についてほかに合理的な説明が考えられないこと等に照らせば、本件事故は本件洗濯機の排水詰まりを原因とするものと認められる

2 本件洗濯機の使用前に排水トラップを清掃するなどの義務があったかを検討するに、本件洗濯機や排水トラップの取扱説明書には定期的な点検や清掃が必要との記載があったことや、管理受託者等が本件事故前にも排水トラップの清掃を要請していたことに照らせば、かかる義務は認められる。そして、本件洗濯機の排水詰まりが原因で本件事故が生じており、デーエム等の調査によっても排水トラップの破損等、ほかの漏水原因が指摘されていない以上、被告はかかる清掃を怠っていたと考えるほかない

3 原告は原告宅全般にわたって天井の補修やカーペットの張替を求めるが、直接汚損されていない範囲も含んでおり、過大な請求といわざるを得ない。
原告は、汚水を含んだ漆喰の下で生活することは原告にとって耐え難い等というが、かかる主観的な事情をもって損害の範囲を決するのは相当でない。
また、原告は、少なくとも702万円(税込)は損害として認められるべきとして、三井不動産リフォーム株式会社作成の見積書を提出する。
しかし、同見積書は、本件事故から1年半以上が経過した平成27年5月31日に作成されたものであり、十分な現地調査を経たものとはいえない上、天井の下地となる石膏ボードはある程度含水したことが予想され、今後の耐久性も含め、漏水前と比べると劣っている可能性が高いとか、今回の漏水によりフローリングも腐食が起こっていると想定されるとか、可能性を指摘するにとどまっており、補修費用の根拠としてにわかに採用しがたい
そうすると、上記認定にかかる範囲の補修費用のみが本件事故と相当因果関係にあるといえる。
よって、デーエム作成にかかる見積書記載のとおり、補修費用(カーペット張替費用含む。)は117万4677円と認められる。
デーエムは三井住友海上の依頼を受けて損害調査をしているため、保険金の支出を減らす方向で査定しているとの指摘も原告からなされているが、損害範囲の認定や、工事の単価等に不合理な点は見受けられず、また、原告から全室に損害が及んでいる旨の主張を受けて再訪問までした上で当初の査定金額を維持しているのであり、相応に慎重な調査をしたものといえるから、原告の指摘は上記認定を左右するものではない。
その他、原告は転居費用も請求するが、上記認定にかかる補修工事の範囲や内容、原告宅の広さ等に鑑みて、工事期間中の仮住まいが必要とまでは認められず、上記費用は認められない。

漏水事故に限りませんが、このような事案の特徴として、責任論のみならず、損害論の難しさが挙げられます。

裁判所はかなり限定的・謙抑的に損害を認定する傾向にありますので注意が必要です。

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駐車場問題14 区分所有者である法人の代表者が駐車場を不法占有したことが共同利益背反行為にあたるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者である法人の代表者が駐車場を不法占有したことが共同利益背反行為にあたるとされた事案(東京地判平成29年10月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、いわゆる分譲マンション管理組合法人である原告が、区分所有者である被告会社及び区分所有法6条3項所定の占有者である被告Y1(被告会社の代表者)に対し、被告らが上記マンションの共用部分に設置された本件駐車場を不法に占有していることが「区分所有者の共同の利益に反する行為」(同条1項)に当たるなどと主張して、(1) 区分所有法57条に基づき本件駐車場の明渡しを求めるとともに、
(2) 不法行為に基づき、①平成28年5月1日から同年11月30日までの間の本件駐車場の使用料相当損害金合計17万5000円+遅延損害金並びに②同月1日から本件駐車場の明渡し済みまで1か月当たり2万5000円の割合による使用料相当損害金の連帯支払を求める(区分所有法47条6項後段及び8項参照)事案である。

【裁判所の判断】

1 被告らは、原告に対し、別紙物件目録記載の駐車場を明け渡せ。

 被告らは、原告に対し、連帯して17万5000円+遅延損害金を支払え。

 被告らは、原告に対し、連帯して平成28年12月1日から1項の駐車場の明渡し済みまで1か月当たり2万5000円の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 本件規約15条4項、6項及び7項の定めの文言及び構造に加えて、法人がマンションの区分所有者となり得ることは一般常識の範疇に属することであって、本件規約の定めにおいて法人が本件マンションの区分所有者となることが想定されていないなどとは解し難いというべきこと(このことは、本件規約を受けて定められた本件使用細則に法人が区分所有者である場合の駐車場の使用関係に関する定めが置かれていること〔本件規約18条、本件使用細則1条1項からも明らかというべきである。)に照らすと、本件規約15条4項、6項及び7条は、駐車場を使用する区分所有者が、その所有する専有部分を他の区分所有者又は第三者に譲渡又は貸与した場合について、その区分所有者の駐車場使用契約は原則として効力を失うものとする一方、専有部分の譲渡又は貸与の相手方が本件マンションに居住している親族であり、かつ、駐車場使用料に未納金がないときを唯一の例外として、従前の駐車場使用契約の承継を認める趣旨の定めであると解するのが相当である。これと異なる被告らの主張は、本件規約の解釈を超えたいわば制度論を述べるものというほかないものであって、採用することができない。
そうすると、本件において、被告らが原告とb社との間における本件駐車場の駐車場使用契約を承継したものということはできない。

2 区分所有者又は占有者による行為が区分所有法6条1項にいう「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるか否かは、当該行為の必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の態様、程度等の諸般の事情を比較考量して決すべきものと解されるところ、本件マンションの区分所有者である被告会社及び占有者である被告Y1が本件駐車場を含む対象物件(本件規約4条参照)の使用方法につき本件規約及び本件使用細則を遵守すべき義務を負っていること(区分所有法46条、本件規約3条及び5条2項)に照らせば、上記の比較考量に当たり、本件規約及び本件使用細則に違反する行為である本件駐車場の占有によって被告らが得る利益は、被告らに本件規約及び本件使用細則を遵守させることによる他の区分所有者らの利益に劣後することが明らかというべきであって、被告らによる本件駐車場の占有は、他の区分所有者らに被告らによる本件規約及び本件使用細則違反を受忍させることを正当化するに足りる特段の事情のない限り、「区分所有者の共同の利益に反する行為」(区分所有法6条1項)に当たるものというべきである。

本件使用細則1条1項は、駐車場の使用者は、本件マンションに居住する区分所有者及び本件マンションに居住するその親族に限るものとするが、区分所有者が法人の場合の駐車場の使用者は、本件マンションに居住する法人の役職員又はその同居親族とする旨を定めています。

裁判所は、この規定をそのまま適用しています。

区分所有建物においては、規約や使用細則の規定内容が重視・尊重され、安易な拡大解釈はされません。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

悪臭問題1 ディスポーザの排気口からの悪臭について瑕疵担保責任が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ディスポーザの排気口からの悪臭について瑕疵担保責任が否定された事案(東京地判令和3年4月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、不動産業等を営む被告から14階建てマンションの14階の2戸を購入したところ、購入した2戸とその屋上との間に臭突管(ディスポーザの排気口)が設置されており、悪臭が居住部分にも及んでいることが隠れた瑕疵に当たり、改正前民法570条、566条に基づき売買契約を解除した上で、被告に対し、瑕疵担保責任又は債務不履行に基づく損害賠償として、支払済みの売買代金や転居・調査に要した費用など1億7045万6624円+遅延損害金を支払うよう求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 瑕疵とは、目的物が通常有すべき品質・性能を欠いている状態をいうところ、本件の臭気がこれに当たるか否かについては、臭気に関する法令や規制の趣旨を斟酌しつつ(悪臭防止法は、直接には事業活動に伴って発生する悪臭について事業者を規制するものであるから〈同法1条、7条〉、本件に直接適用するという趣旨ではない。)、現実の本件各マンションの状況や相隣関係なども勘案した上で臭気の被害が受忍限度を超えているか否かといった見地から検討するのが相当である。
しかるに、上記のとおり、そもそも法令及び規制は、事業活動に伴って発生する悪臭についてのものであって、本件のような生活に伴って発生する悪臭を直接規制しているものではないと解されるところ、事業活動に伴って発生する悪臭についても、各自治体は、敷地の境界線の地表における臭気指数の許容限度を10から21までの範囲で設定していることが認められる。
その上で、臭気指数における本件各マンションの状況について検討すると、本件各マンション居室内における1401号室の臭気指数12及び1402号室の臭気指数11は、上記の許容限度の範囲内ではあるものの、上記の敷地の境界線の地表における臭気指数の許容限度は、飽くまで屋外を前提とした基準であるから、本件各マンション居室内における臭気は居住者に不快なものであることは認められる

2 他方で、本件建物におけるディスポーザ排水処理システムにより発生する臭気は、上記法令で規制の対象とされているような第三者の事業活動によって発生したものとは異なり、本件建物(マンション)に居住する者の生ごみの処理の利便と引き換えに発生した臭気であるから、居住者は、いわば自分の所有するマンションそのものに内在する問題として、上記法令の規制の場合と比べて高い受忍限度が求められると解するのが相当である。
その見地でみると、本件各マンションは、そもそも浦安市の住居(専用)地域における大気の臭気指数の許容限度を超えていない。
そして、本件建物のディスポーザ排水処理システムに一般に求められる性能基準を下回る性質・性状であることを基礎付けるに足りる証拠もない。
その上、可能な限り臭気を居住スペースに至らせないために、本件臭突管排出口は上向きに流速16.0m/sで上方に向けて臭気を排出する仕組みとされており、シミュレーションによっても屋上から階下に臭気が拡散しにくいとされていること(解析結果報告書)からすれば、本件臭突管排出口を含むディスポーザ処理システムにより本件各マンションに発生する臭気は、一時的に臭気指数11、12などの数値を示すことがあることを踏まえても、なお居住する者の受忍限度の範囲内にあるというのが相当であり,本件各マンションに瑕疵があるともいえない

上記判例のポイント2の視点・発想は非常に重要です。

事案や現象の個別具体的な原因、背景事情をどれだけくみ取れるかが鍵となります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金33 水道料立替金を区分所有者が管理組合に支払う旨の本件水道規約の有効性(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、水道料立替金を区分所有者が管理組合に支払う旨の本件水道規約の有効性(浜松簡判令和3年6月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告管理組合が被告区分所有者に対して、管理規約に基づく管理費(水道料)の請求及び遅延損害金請求並びに弁護士費用請求をする事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、5万2395円+遅延損害金を支払え。

 被告は、原告に対し、金22万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 水道料金は、本来専有部分の個別に発生するものであり、専有部分と共有部分と一体となっている管理費と同じとみることはできない
このため立替水道料について、被告の主張するように区分所有法7条及び8条の適用のあるものとは、ただちには言えない
しかし、専有部分の水道料金を使用者が不明であっても、同専有部分の占有者又は所有者が支払うことは管理のしやすさなど一定の合理性がある。
原告が主張するように水道メーターが集中検針方式で、マンション内共用部分の設備として設置され、各専有部分にこれに対応した各戸メーターが設備されているところ、この設備を浜松市による各戸個別検針にするためのメーター更新設備が、平成27年6月23日の通常総会において、区分所有者からの合意が取れず、現在までも浜松市との個別の水道契約が行えていない現状から水道料金を管理組合による立替払い方式による徴収を行わざるを得ないという事情にある
このような状況の中で、水道料の徴収を効率的に行って、管理組合の運営を円滑に行うことは、区分所有者全体の利害に関わるものであり、その意味で利用している当時の所有者が管理費とともに支払うという本件規定の趣旨は、その限りにおいて、同法30条1項の規約事項であると肯定できる。
被告は、平成29年2月28日から平成31年2月28日までの滞納期間以降については、規約に基づいて支払を行っているところからも、その意義を認めていると窺われる。

本件では、本件管理規約が管理組合の管理の対象の範囲を超えているかが争点となりました。

「水道料金は、本来専有部分の個別に発生するものであり、専有部分と共有部分と一体となっている管理費と同じとみることはできない。」という点は、原則的な考え方として理解しておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金32 被告管理組合からの消滅時効の援用が時機に後れた攻撃防御方法に当たるとされ却下された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、被告管理組合からの消滅時効の援用が時機に後れた攻撃防御方法に当たるとされ却下された事案(東京地判令和3年6月4日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの1室である602号室の区分所有者である原告が、本件マンション管理組合である被告に対し、原告が被告に支払うべき管理費及び修繕積立金を、被告が原告から過大に徴収したと主張して、不当利得返還請求権に基づき、原告が被告に過大に支払った額として434万6380円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、101万2588円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告は、本件訴訟の提起から10年より以前に発生した管理費等についての不当利得返還請求権につき、消滅時効を援用するのに対し、原告は、かかる消滅時効の援用は、時機に後れたものであり、これにより訴訟の完結が遅延しているから、却下されるべきであると主張する。
被告による消滅時効の援用の意思表示を記載した令和2年12月22日付けの第5準備書面は、争点整理手続が終了し、当事者双方の本人尋問による証拠調べ期日や、その後に行われた和解期日を経て、弁論終結を予定していた令和2年12月22日の本件口頭弁論期日に先立つ同月18日に、当裁判所に提出されるとともに、原告に到達し、令和3年2月5日の本件口頭弁論期日において陳述されたものである。
そして、被告による上記のとおりの消滅時効の援用がこのような時期に行われたことについて、何らかの合理的な理由があったとは認められないから、このような時効の援用は、明らかに時機に後れて提出されたものであり、かつ、そのことについて、被告において、少なくとも重大な過失があったといわざるを得ない。
さらに、原告は、かかる消滅時効の援用の主張について、信義則に反し許されない旨を主張しており、この点についての審理を行わなければ、被告による消滅時効の援用の当否を決することができないから、被告による消滅時効の援用は、これにより訴訟の完結を遅延させることとなるものと認められる。
よって、被告による消滅時効の援用の主張は、民事訴訟法157条1項所定の時機に後れた攻撃防御方法に当たると認められるから、これを却下することとする。

なぜ消滅時効の主張を早い段階で予備的にでもしていなかったのかわかりませんが、結審間際で新たな主張をするとこうなりますので注意しましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。