管理費・修繕積立金35 協議会で決定した水道光熱費の変更が無効とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、協議会で決定した水道光熱費の変更が無効とされた事案(東京地判平成29年3月9日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの管理者である原告が、本件マンションの一室の区分所有法の区分所有者である被告に対し、管理費や修繕積立金、水道光熱費などにつき未払分があるとして、被告に対し、平成24年8月分から平成28年5月分までとして、65万4912円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、63万6912円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件管理費等に関する定めは、本件マンションが、一般のマンションとは異なり、ホテルの居室として利用される部分が混在しており、各居室には電気、ガス、水道等のメーターが設置されておらず、共用部分と一体となって使用され、各料金の支払は、特別管理費として、共用部分の算定と同様に、各居室の面積に応じて支払うこととされていたという特殊性があり、さらに、通常一般管理費において負担される共用部分の水道光熱費が、一般管理費で計上されていないことから、本件マンションにおいては、共益費と同様の考え方に基づき、特別管理費である水道光熱費について、普通決議によって、変更ができるものと認められる。
ところで、本件決定をした本件協議会が、本件管理組合において法的にどのような機関であり、どのような権限があるのかは明らかでなく、本件決定に関し、その後の本件管理組合の集会で承認されたり、本件協議会が集会の一任を受けたりしている等の事情もうかがえないから、本件管理費等に関する決議は、本件決議2がされるまでは証拠上認められないことになる。
そして、水道光熱費の変更は、本件管理組合の集会で普通決議を必要とする事項であるが、従前、空室について、水道光熱費を徴収しないことが適法に決定された形跡もない。
よって、本件書面が被告に送付されたか否かにかかわらず、本件決定の効力は被告には及ばないというべきである。

2 被告は、本件居室は平成24年7月末日でホテル用の賃貸借契約が解除されたことにより、その後、ライフラインは解約状態にあり、空室(閉鎖中)になっているから、区分所有法により水道光熱費の支払義務はない旨主張する。
確かに、本件居室の賃貸借契約は同日限りで解約されたとの裁判がなされていることが認められるが、本件居室において、本件マンションの状況からすると本件マンションにおいては、水道、電気、ガス等については、各居室で個別の契約をしていないために特別管理費としての水道光熱費が徴収されており、本件居室において個別の契約がなされていたとは認められず、また、区分所有法上、空室の場合に水道光熱費の支払義務がないことを定めた規定は見当たらないから、被告の主張は理由がない。
また、被告は、不在届について、提出を求められていないし、不在届の提出を求めるには特別決議が必要である旨主張するが、空室になっている居室の水道光熱費を1室あたり2000円とする本件決定は無効であるから、被告に適用の余地はない上、その後、本件決議2や本件決議3により、空室に対する特別な措置は決められていないから、不在届の提出の有無にかかわらず、被告において、水道光熱費を負担しないとする根拠がない。

上記判例のポイント1は注意する必要があります。

本件では、協議会の法的にどのような機関なのかが明らかでないため、上記の結論となりました。

区分所有法や管理規約で定められている手続きを正確に理解することがとても重要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故17 マンション内の給油管が破損し、専有部分に灯油が漏出した事故により、シックハウス症候群等に罹患したとして、後遺障害等級12級に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション内の給油管が破損し、専有部分に灯油が漏出した事故により、シックハウス症候群等に罹患したとして、後遺障害等級12級に該当するとされた事案(札幌高判平成29年3月23日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、1審被告が管理していたマンション内の給油管が破損し、1審原告らが居住するなどしていた専有部分に灯油が漏出した事故により、シックハウス症候群等に罹患したとして、1審原告らが、1審被告に対し、それぞれ民法709条又は717条に基づく損害賠償として、1審原告X1につき3503万4216円、1審原告X2につき1494万5335円及び1審原告X3につき1506万8043円の損害賠償金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、1審原告らの請求を、①1審原告X1の1審被告に対する319万7055円+遅延損害金、②1審原告X2の1審被告に対する95万5821円+遅延損害金、③1審原告X3の1審被告に対する109万6471円+遅延損害金の各請求の限度でそれぞれ認容し、その余を棄却したところ、1審原告ら及び1審被告はこれを不服として控訴した。

1審原告らは、当審において、通院旅費等及び弁護士費用(1審原告X1につき通院旅費等7万9160円及び弁護士費用351万1337円の合計359万0497円、1審原告X2につき通院旅費等7万9160円及び弁護士費用150万2449円の合計158万1609円、1審原告X3につき追加診察料等2万2000円及び弁護士費用150万9004円の合計153万1004円)+遅延損害金の請求を拡張した。

【裁判所の判断】

1審原告らの本件控訴及び当審における拡張請求に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 1審被告は、1審原告X1に対し、607万6215円+遅延損害金を支払え。
(2) 1審被告は、1審原告X2に対し、723万3349円+遅延損害金を支払え。
(3) 1審被告は、1審原告X3に対し、774万3527円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 シックハウス症候群患者の多くは、眼、鼻、咽頭等の粘膜や皮膚の症状とともに、頭痛、倦怠感、めまい、吐き気などの神経症状を訴え、また、眼球運動や脳血流量の異常が認められる症例も報告されていることから、何らかのシックハウス症候群の原因物質が脳内に到達し、中枢神経系に作用している可能性が示唆されるところ、本件についてはC医師の実施した赤外線瞳孔計による自律神経機能検査、目視による眼球追従運動検査及び重心動揺計による平衡機能検査のいずれにおいても1審原告らの異常が認められ、中枢神経系の障害につき他覚的にも証明がなされているものといえる。
そうすると、1審原告らの後遺障害については、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(後遺障害等級12級13号)と評価するのが相当である。

シックハウス症候群について後遺障害に該当すると判断された事案です。

結果、原審から損害額が大幅に増額しました。

医学的な立証が求められますので、事前に相当入念に準備する必要があります。

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管理組合運営38 集会の招集通知において議題の記載に不適切(不十分)な点があるが、瑕疵が重大なものとはいえないとの理由から招集通知の効力が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、集会の招集通知において議題の記載に不適切(不十分)な点があるが、瑕疵が重大なものとはいえないとの理由から招集通知の効力が認められた事案(東京地判平成29年3月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である原告が、同マンション管理組合である被告に対し、被告の理事に原告を選任することなどを会議の目的たる事項とする集会の招集請求をしたにもかかわらず、被告から招集通知が発せられなかったため自ら招集した集会において理事に選任され、理事会において理事長に選任されたとして、被告の理事長の地位にあることの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 集会の招集の通知に議題を示すこととされている(区分所有法35条1項本文)趣旨は、各区分所有者に集会の出席及び書面又は代理人による議決権行使(区分所有法39条2項)をするかどうかを検討するための資料を提供するところにあると解される。
そして、理事の解任の決議は特定の理事を解任するかどうかを決定することであるため、議題に解任の対象となる理事の氏名が記載されていなければ、各区分所有者に解任の対象となる理事が分からないため、集会の出席及び書面又は代理人による議決権行使を検討することができないから、集会の招集の通知には、解任の対象となる理事の氏名が記載される必要があるというべきである。

2 本件招集請求において、議案として、「役員の改選」との記載に加え、その内容の一つとして、Aの理事の解任が記載されているのに、被告招集通知にはその議題として「役員の改選」とのみ記載されていることが認められるに留まるので、被告招集通知において、解任の対象となる理事の氏名が記載されているとは認められない
これに対し、被告は、まず、任期途中の役員の改選には理事の全員の解任の意味を含むため、Aの理事の解任は独立した議題とはならない旨主張するけれども、任期途中であっても、理事の一部を解任することを否定する理由はないので、任期途中の役員の改選は理事の全員の解任の意味を含むとの根拠は見いだせず、その前提を採用することができないので、被告のこの主張は採用することができない。

3 もっとも、被告招集通知において議題の記載に不適切な点があるとしても、上記のとおり被告招集通知と伴に送付された本件議案書には、表紙に被告臨時総会議案書との表題が記載されている上、本件議案書は4枚のものであり、その3ページ目には議題としてAの理事の解任が記載されている。
そのため、各区分所有者において解任の対象者の理事がAであることを容易に認識することができるから、集会の出席及び書面又は代理人による議決権行使をするかどうかを検討することができるといえる。
そうすると、被告の構成員である区分所有者において集会の出席及び書面又は代理人による議決権行使をするかどうかの検討をするのに実質的な支障がないといえるので、この瑕疵が重大なものとはいえない
したがって、被告招集通知に記載された議題から、本件招集請求に基づく集会の招集の通知が発せられなかったとはいうことはできない。

招集通知において議題の記載に不適切(不十分)な点があると認定されましたが、瑕疵が重大なものとはいえないとの理由から救済されました。

招集通知の議題の記載には細心の注意を払いましょう。

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管理会社等との紛争37 理事長や管理会社が原告である監事の監査業務を妨害したことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事長や管理会社が原告である監事の監査業務を妨害したことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(横浜地裁川崎支判平成29年3月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者であり、本件マンション管理組合の監事である原告が、被告らの行為により、原告の監査業務が妨害されるとともに原告の信用が毀損されたと主張して、不法行為に基づき、580万円+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、原告が被告会社と連絡が取れていたから、被告らは、原告に対し、平成27年度監査報告書に記名押印するよう依頼すれば足りるのに、それをせずに、H社に監査報告書を作成させて、平成27年度の事業計画及び収支決算を通そうとし、故意に原告の監査業務を妨害したと主張する。
しかしながら、本件マンションの管理規約の37条1項によれば、本件管理組合の監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況を監査し、その結果を総会に報告しなければならないとされているのであるから、原告は、監査業務を行う意思があるのであれば、開催の通知を受けた理事会に出席すれば足りるところ、2回にわたって理事会を欠席したことは前述のとおりである。
そして、定期総会議案説明書の第2号議案には、副理事長が代行して監査結果を報告することに続けて、「なお、正式には、第8号議案で選任が予定されている管理組合役員の中から決定される監事に監査して頂き、後刻改めて書面にて結果をご報告します。」と記載されていることからすれば、平成27年度監査報告の監事欄に副理事長のH社が記名押印を代行したからといって、本件管理組合が平成27年度の監査を終了した扱いにしようとしたわけではなく、H社による記名押印の代行は、予定された期日(平成28年5月9日)に定期総会を開催するために形式を整えただけのいわば緊急避難的な行為と認めるのが相当である。
よって、被告らが原告を排除して平成27年度の事業計画及び収支決算を通そうとしたと評価することはできず、本件記録上、原告の監査業務を妨害したと認めるに足りる証拠はないから、原告の主張は理由がない。

故意に原告の監査業務を妨害したものではないと判断されるためには、しっかりと規約に則り、かつ、議事録や議案説明書等に具体的に状況を記載しておくことが有益です。

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管理会社等との紛争36 マンションの新築工事における外壁及び玄関庇への石材取付工事につき、同工事の施工者が、建物としての基本的な安全性が欠けることのないように配慮するべき注意義務を怠ったとして、同施工者の不法行為責任が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの新築工事における外壁及び玄関庇への石材取付工事につき、同工事の施工者が、建物としての基本的な安全性が欠けることのないように配慮するべき注意義務を怠ったとして、同施工者の不法行為責任が認められた事案(東京地判平成29年3月31日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件建物の管理組合の管理者である原告が、本件建物の窓の上下及び正面玄関庇に取り付けられた石材について、それぞれ、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があると主張して、本件建物の新築工事を施工した被告に対し、本件建物の区分所有者らの有する不法行為による損害賠償請求権に基づき、同区分所有者らのために、上記瑕疵の補修工事費用として4555万9556円及び同補修工事に関する見積書作成費用として30万2400円の合計4586万1956円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、620万5497円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件外壁石材は、約1キログラムないし約16キログラムの相当程度の重量物であるところ、仮に、1階分の階高以上の高低差のある高所から剝落して、地表の通行人の上に落下した場合、当該人の生命又は身体に重大な損害を与える蓋然性が高いことに鑑みると、本件外壁石材を1階分の階高以上の高低差をもって通行人の上に落下し得るような場所の躯体に取り付ける行為自体が、当該外壁石材の剝落により居住者等の生命又は身体に対する高度の危険性を内在するものというべきである。
そうすると、施工者は、本件外壁石材を躯体に取り付けるに当たっては、これが剝落・落下して、居住者等の生命又は身体を危険にさらすことがないように配慮すべき注意義務、すなわち、その剝落・落下を防止するための十分な措置を講じるべき義務(「剝落等防止措置義務」)があるというべきである。

2 少なくとも、本件外壁石材のような外壁材を1階分の階高以上の高低差をもって通行人の上に落下し得るような場所の躯体に取り付ける場合に関しては、①一般的合理的施工方法に則しているときには、原則として、剝落等防止措置義務の違反はないというべきであるが、他方で、②一般的合理的施工方法に則していないときには、原則として、当該義務の違反があり、そのために、本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があるということができるものの、②のときであっても、実際に採られた施工方法が、一般的合理的施工方法と同等又はそれ以上の効用を有すると認めることができるならば、上記義務を怠ったということはできないと解するのが相当である。
そうすると、少なくとも、前記の場合に関しては、①当該施工を行った施工者に対して建物としての基本的な安全性が欠けることがないよう配慮すべき注意義務に違反することを理由として不法行為に基づく損害賠償を請求する者の側において、施工者の上記施工内容が一般的合理的施工方法に則していないことを主張・立証した場合には、原則として、施工者において、剝落等防止措置義務を怠った、すなわち、居住者等の生命又は身体を危険にさらすことがないように配慮すべき注意義務の違反があり、そのために、本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があると認められ、②これに対して、施工者の側で、自らの行った上記施工が、一般的合理的施工方法とは異なるものの、当該外壁石材の剝落・落下の防止に関して、当該一般的合理的施工方法と同等又はそれ以上の効用を有することを主張・立証した場合には、当該義務を怠ったと認めることはできない、すなわち、居住者等の生命又は身体を危険にさらすことがないように配慮すべき注意義務の違反があると認めることはできないというべきである。

あてはめ部分については省略しますが、「剥落等防止措置義務」違反の判断方法が示されていますので押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営37 区分所有者の1人が、区分所有法25条2項に基づく管理者解任請求訴訟に関して支出した弁護士費用相当額につき、管理組合や他の区分所有者に対して事務管理による有益費償還請求ができるか(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者の1人が、区分所有法25条2項に基づく管理者解任請求訴訟に関して支出した弁護士費用相当額につき、管理組合や他の区分所有者に対して事務管理による有益費償還請求ができるか(東京高判平成29年4月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である控訴人らが、同マンションの他の区分所有者の一部である被控訴人らに対し、控訴人らが原告として提起した区分所有法25条2項に基づく管理者解任請求訴訟(管理者の解任を命じる内容の控訴人ら勝訴判決確定。)に関して支出した弁護士報酬相当額(50万3590円)につき、事務管理による有益費償還請求権に基づき、その持分割合に応じた金額の支払を求める事案である。

原判決は、控訴人らの請求をいずれも棄却したことから、控訴人らがこれを不服として控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 控訴人らは、本件解任訴訟の提起の当時、組合員の中には、訴訟提起に賛成の者もいれば反対の者もいること、反対の者の数が決して少なくないことが確実であることを認識していたものというべきである。
そして、被控訴人らは本件解任訴訟の提起に反対の者に属するから、本件訴訟提起は被控訴人らの意思に反することが明らかであり、控訴人らは被控訴人らに対して本件解任訴訟の提起に関する事務管理に基づく有益費償還請求権を有しないものというべきである。

2 控訴人らは、本件管理組合を本人とする事務管理が成立するとも主張する。しかしながら、区分所有法25条2項の管理者解任請求は、各区分所有者固有の権利であって、管理組合の権利ではないから、本件解任訴訟について、本件管理組合を本人とする事務管理が成立する余地はないものというべきである。

3 株主代表訴訟は、株式会社の有する権利を株主が行使する点において、区分所有者固有の権利(管理組合の権利ではない。)を区分所有者が行使する管理者解任請求訴訟とは、その構造を異にする
そして、株主代表訴訟においては、株式会社を本人とし、株主を管理者とする事務管理という構図が当てはまる。
しかしながら、株主代表訴訟は、株主の提訴請求を株式会社が明示的に拒絶した後に提起されるなど、訴訟の提起が本人たる株式会社の意思に反することが明らかなことが多い(会社法847条1項、3項、4項参照)。
このように、多くの株主代表訴訟においては、株式会社のための事務管理が成立せず、株式会社に対する有益費償還請求権も発生しない。しかしながら、立法者は、このような場合に勝訴株主が全く費用等の償還を受けられないことは不適切であると判断して、特別に、株式会社のための事務管理が成立しない場合であっても勝訴株主の株式会社に対する費用報酬支払請求権を発生させる条文(会社法852条)が設けられているのである。
会社法上の訴えの中で、その構造が区分所有法25条2項の管理者解任請求に近いのは、株式会社の役員の解任の訴え(会社法854条)である。
株式会社の役員の解任の訴えは、当該役員を解任する旨の議案が株主総会(又は種類株主総会)で否決されたときに限り、会社法所定の要件を満たす株主が株主固有の権利として、提起することができる。
そうすると、他の株主の中には、株式会社の役員の解任の訴えの提起に反対することが明らかな者(以下「反対株主」という。)がいることが確実であって、この場合には、反対株主を本人とする事務管理は成立の余地がない。そして、反対株主に対する費用償還請求権を認める内容の法律の規定は設けられていないから、結局のところ、勝訴株主は反対株主に対して費用償還を請求することができない
区分所有法25条2項の管理者解任請求も、費用償還に関しては、株式会社の役員の解任の訴えとおおむね同様の問題状況にあり、解任に反対する区分所有者に対する勝訴株主への費用償還を命じることには無理がある

非常にチャレンジングな訴訟です。

裁判所が丁寧に、会社法上の制度との相違点を説明してくれています。

管理組合及び他の区分所有者との関係で事務管理の有効要件を満たさないため、上記結論となりました。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理業者等との紛争35 区分所有建物を賃貸する旨の届出を管理業者が不受理としたことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有建物を賃貸する旨の届出を管理業者が不受理としたことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判平成29年4月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、マンションの区分所有建物を第三者に賃貸すべく、管理組合にその旨の届出をしたところ、管理業者である被告が、その権限を逸脱して同届出を不受理としたため、損害を被った旨主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、被告が、本件営業開始届に関するすべての対応と判断をし、本件営業開始届の取扱いに関するアンケートが実施された際には回答者を誤導するなどして、本件マンションの管理業務の受託者としての権限を逸脱して本件営業開始届を不受理とし、原告がKに本件物件を賃貸する権利を侵害した旨主張する。
しかし、本件営業開始届は、理事会が、その判断に基づき不受理としたものであることが明らかである。
原告は、被告が、平成28年5月31日、理事会の役員に対し、「本件条項は福祉施設の開業はできない旨規定しているため、今回の申請は不受理になるかと存じます。6月6日までにご意見がない場合、不受理の回答をさせていただきます。」旨記載したメールを送信し、役員からメールに対する回答がなかったことをもって理事会の決定に代えた点を論難するが、本件マンション管理業者である被告が、理事会に対して自身の見解を示したとしても、何ら非難を受けるいわれはなくまた、理事会において、役員が集合する必要のない限り、メールでのやりとりによって意思決定をすることは、何ら不合理ではない。
そして、被告が、同年6月7日、サンケイビルに対し、「理事会に連絡した結果、本件営業開始届は、本件条項に該当するため、不受理となりました。」旨記載したメールを送信したことについては、同月12日に開催された理事会の会議において、理事会の判断として是認され、その結論は、同年7月3日に開催された理事会の会議においても維持されたものである。
なお、原告は、被告が、本件営業開始届の取扱いに関するアンケートが実施された際に回答者を誤導した旨も主張するが、アンケートの説明文は、被告がこれを作成したとしても、理事会の了承を得て、理事会名義で発出されたものと認められ、その記載内容も、アンケートを実施するに至った経緯を回答者に説明するために必要かつ相当なものといえるから、被告が回答者を誤導したなどということはできない。

管理会社が主導していたとしても、最終的な判断は管理組合(理事会)が行うことから、上記結論となりました。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。
 

管理会社等との紛争34 外壁のタイルの浮き等について不法行為に基づく損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、外壁のタイルの浮き等について不法行為に基づく損害賠償請求が棄却された事案(東京地判平成29年2月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションにつき、区分所有法の管理者である原告が、その施工者である被告において、建物の基本的な安全性が欠けることのないよう配慮すべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、本件マンションの共用部分である外壁にタイルの浮きなど建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵を生じさせたため、その各区分所有者が被告に対し不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金を有すると主張し、区分所有法26条4項に基づき、訴訟担当者として、被告に対し、各区分所有者の有する損害賠償金合計9170万2501円(本件マンション外壁の補修費用相当額等)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 建物の建築に携わる施工者は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負い、施工者がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負い、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵とは、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合もこれに該当すると解すべきである(最高裁平成19年7月6日第二小法廷判決、最高裁平成23年7月21日第一小法廷判決)。

2 まず、外壁診断調査報告書、関係写真台帳及び弁論の全趣旨(本件意見書の内容を含む)によれば、前記外壁診断調査によって指摘された535枚のタイルの浮きのうち、300枚は犬走り・地盤に接している部分であることから、東北地方太平洋沖地震による振動変異がこの取合い部分で大きくなったことが原因で生じたと認められる。
次に、弁論の全趣旨によれば、タイルは経年劣化により浮きが生じるため、外壁タイル張り仕上げの建物の修繕計画は、5年間で3%のタイルが浮くことを想定し、作成されることが多いことが認められる。
これに加えて、本件マンションの竣工から前記外壁診断調査まで約3年9か月であることによれば、同調査時において、2.4%程度のタイルが浮いていても標準と認められる。そして、報告書によれば、本件マンションのタイルは、枚数が67万1240枚、面積が3356.2m2であることが認められるので、前記300枚を含めても、同調査時の本件マンションのタイルの浮き率は0.1%に満たないことが認められる。
さらに、関係写真台帳及び弁論の全趣旨によれば、①タイルのクラック(ひび割れ)がタイル表面にも発生していることから、タイルとコンクリート下地の接着が十分で、コンクリートに発生したクラックがタイル表面に顕在化していること、②クラックはその幅を指標として補修の要否を判断され、0.3mm未満のクラックは、補修を必要とする瑕疵が存することが低いとされていることを認めることができる。そして、外壁診断調査報告書では、0.3mm未満だが要補修とするクラックのあるタイルを3766枚とするが、これらを要補修とする根拠は明らかではない。
もっとも、これらを含めてもそのタイルの割合は0.6%程度であり、これを除けば0.3mm以上のクラックは277枚であるため、補修を要するタイルの割合は0.04%程度である。
よって、本件マンションのタイルの浮き及びクラックは、経年劣化の範囲内と認められ、本件マンションに建物の基本的な安全性を損なう瑕疵があると認めることはできない

建築瑕疵の事案において、不法行為に基づく損害賠償請求が認められるためには、判例のポイント1のように要件が非常に厳しいです。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置26 生ゴミ等を大量に放置することで臭気や害虫の発生を招いたことが共同利益背反行為に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、生ゴミ等を大量に放置することで臭気や害虫の発生を招いたことが共同利益背反行為に該当するとされた事案(東京地判令和4年1月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの本件管理組合の管理者である原告が、本件建物の区分所有者である被告において、本件建物内に生ゴミ等を大量に放置することで、臭気や害虫の発生等を招き、近隣の区分所有者(居住者)等に迷惑を及ぼしていることが、区分所有者の共同の利益に反しているとして、被告に対し、区分所有法57条1項及び本件管理規約66条に基づき、本件建物内に放置されている生ごみ、腐敗物等のごみを除去すること、及び、本件建物内に生ごみ、腐敗物等のごみを放置してはならないことを求めるとともに、本件管理規約67条4項に基づき、共同の利益侵害行為停止等請求に係る本件管理組合(原告)と被告との間の訴訟の費用(弁護士費用)相当額の違約金44万円と本件管理組合・被告間の本件確約書に基づく違約金10万円の合計54万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告は、本件建物内に生ごみ、腐敗物等のごみを大量に放置して、臭気や害虫を発生させており、しかも、本件管理組合側からの要求にもかかわらず、それを長期にわたって改善していないことが認められる。
以上のような状況は、本件マンションの被告以外の区分所有者の共同の利益に反するものといえる(区分所有法6条1項、本件使用細則3条11号及び12号)。
また、被告は、本件建物について上記のような不衛生な状況を作出し続けているのみならず、本件管理組合(本件管理会社)による本件建物内の立入りを拒否し続けており、これらは、本件確約書の確約事項にも違反する。
 
2 以上によれば、区分所有法57条1項及び本件管理規約66条に基づき、本件建物内に放置されている生ごみ、腐敗物等のごみを除去すること、及び、本件建物内に生ごみ、腐敗物等のごみを放置してはならないことの請求、並びに、本件管理規約67条4項に基づき、共同の利益侵害行為停止等請求に係る本件管理組合(原告)と被告との間の訴訟の費用(弁護士費用)相当額の違約金44万円と本件確約書に基づく違約金10万円の合計54万円+遅延損害金の支払を求める請求はいずれも理由がある。

弁護士費用のほかに確約書に基づく違約金が別途認められています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金34 管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認められた事案(東京地判平成29年5月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、①原告は、本件マンションの管理を行うために本件マンションの区分所有者全員をもって構成された、本件組合の理事長であり、管理者である、②被告の所有に係る本件マンションの504号室の管理費及び補修積立金は、平成10年6月1日以降、月額2万8510円及び月額1万5570円、合計4万4080円である、③本件マンションの管理規約では、管理費等は毎月28日までに当月分を支払い、遅延損害金は年15%とされている、④平成20年6月分から平成29年2月分までの504号室の管理費等の未払額の合計は、180万7360円であり、各月分の支払期限は経過した、⑤被告は、原告が長期間にわたり504号室の管理費等を滞納し、かつて本件組合の申立てを認容する旨の仮執行宣言付支払督促を得ても504号室の管理費等の滞納は解消せず、改めて滞納管理費等の支払を求める訴訟を提起し、その勝訴判決に基づいて強制執行しても、無剰余を理由に競売開始決定が取り消される可能性が高いことなどを理由に、504号室の管理費等の未払額を回収するには、区分所有法59条に基づく競売を請求するほかないと主張して、同条に基づき、被告に対し、504号室の区分所有権等の競売を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 区分所有法59条1項は、「第57条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもって、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。」と規定し、同法57条1項は、「区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。」と規定し、同法6条1項は、「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。」と規定する。
管理費の支払義務は建物等の管理に関する最も基本的な義務であることに鑑みると、著しい管理費の不払は、同項にいう「建物の管理…(略)…に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たると解される
そうすると、管理費の長期間にわたる不払は、同法59条1項にいう「第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著し」い場合に当たると解される。
しかし、同法7条1項が「区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。」と規定していることを勘案すると、管理費の長期間にわたる不払が同法59条1項にいう「他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」に当たる場合とは、同法7条1項の先取特権の実行など他の民事上の法的手段では功を奏さない場合をいうものと解される。

2 原告は、〈ア〉被告は、平成13年12月分から504号室の管理費等の支払を遅滞するようになり、長期的にはその額が次第に増加した、〈イ〉本件組合は、平成24年5月分の一部及び同年6月分から平成26年9月分までの504号室の管理費等の支払を求める支払督促の申立てをし、東京簡易裁判所は、平成27年2月20日、本件組合の申立てを認容する旨の仮執行宣言付支払督促をしたが、504号室の管理費等の滞納は解消しなかった、〈ウ〉そこで、本件組合は、上記〈イ〉の仮執行宣言付支払督促に基づき504号室内の被告の所有に係る動産に対し強制執行したが、執行不能に終わった、〈エ〉504号室の区分所有権等の固定資産税評価額の合計は1933万2412円であるのに対し、504号室の区分所有権等については、債権額を3400万円とする抵当権が平成13年10月1日に設定されており、504号室の管理費等の滞納の状況に鑑みると、上記抵当権の被担保債権の元本はほとんど減少していないものと推認され、そうすると、滞納管理費等の支払を求める訴訟において勝訴し、その勝訴判決に基づいて強制執行しても、無剰余を理由に競売開始決定が取り消される可能性が高い、〈オ〉被告は、平成28年7月21日、都税事務所から差押えを受けた、〈カ〉本件マンションでは、平成29年に排水管の更新、更生工事を予定し、平成32年に大規模修繕工事を予定しているから、少しでも未収金を減らしておく必要があることを理由に、504号室の管理費等の未払額を回収するには、区分所有法59条に基づく競売を請求するほかないと主張する。

管理費等の滞納を理由とする59条競売請求の一般論がわかりやすく書かれていますので、是非、参考にしてください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。