ペット問題1 動物の飼育を禁止する管理規約に違反することを理由に飼育の差止めを認めた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、動物の飼育を禁止する管理規約に違反することを理由に飼育の差止めを認めた事案(東京地判平成8年7月5日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理組合である原告が、その構成員であり、専有部分で犬を飼育している被告に対し、管理組合規約の規定に基づき、マンション内での犬の飼育の中止を求めるとともに、被告が原告の飼育中止の要請を拒否して犬の飼育を継続し、原告をして弁護士を依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくさせたことが原告に対する不法行為に該当するとして損害賠償を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 マンションは入居者が同一の建物内で共用部分を共同して利用し、専有部分も上下左右又は斜め上若しくは下の隣接する他の専有部分と相互に壁や床等で隔てられているにすぎず、必ずしも防音、防水面で万全の措置が取られているわけではないし、ベランダ、窓、換気口を通じて臭気が侵入しやすい場合も少なくないのであるから、各人の生活形態が相互に重大な影響を及ぼす可能性を否定することはできない。したがって、区分所有者は、右のような区分所有の性質上、自己の生活に関して内在的な制約を受けざるを得ないものと考えられる。

2 具体的な実害が発生した場合に限って規制することとしたのでは、右のような不快感等の無形の影響の問題に十分対処することはできないし、実害が発生した場合にはそれが繰り返されることを防止することも容易でないことが考えられる。
したがって、規約の適用に明確さ、公平さを期すことに鑑みれば、右禁止の方法として、具体的な実害の発生を待たず、類型的に前記のような有形、無形の影響を及ぼす危険、おそれの少ない小動物以外の動物の飼育を一律に禁ずることにも合理性が認められるから、このような動物の飼育について、前記共同の利益に反する行為として、これを禁止することは区分所有法の許容するところであると解するのが相当である。
したがって、本件規定について被告の主張するような限定解釈を加える必要はなく、本件マンションにおいて犬を飼育することは、共同生活上の利益に対する具体的被害やその蓋然性の有無にかかわらず、それ自体で本件規定に違反する行為というべきである。

共同生活上の利益に対する具体的被害やその蓋然性の有無にかかわらず、動物を飼育すること自体で当該管理規約に違反すると判断されています。

被告としては、当該規定については限定解釈をすべきであると主張しましたが、裁判所は上記のとおり採用しませんでした。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金5 将来分の管理費の請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、将来分の管理費の請求が認容された事案(東京地判平成10年4月14日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有マンションの管理組合である原告が、その区分所有者である被告に対し、未納の管理費等の支払を求めるとともに、将来の管理費等についてもその期限ごとの支払を求めている事件である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

将来の給付の訴えは、あらかじめその請求をして給付判決を得ておく必要のある場合に限り認められるところ、被告の管理費等の支払義務は継続的に月々確実に発生するものであること、本件マンションは戸数一〇戸の比較的小規模なマンションであり、被告一人の管理費等の滞納によっても、原告はその運営や財政に重大な支障を来すおそれが強いこと、将来分をも含めて、被告の管理費等支払拒絶の意思は相当に強く、将来分の管理費についても被告の即時の履行が期待できない状況にあることなどが認められ、以上の事実によれば、将来の履行期未到来の管理費等(有線使用料を含む)の支払請求も認められる。

将来給付の訴えは、「あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる」(民訴法135条)とされています。

裁判所は、「請求をする必要がある場合」について厳格に解する傾向にあるため、当該必要性を基礎づける事情を具体的に主張・立証することが求められます。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金4 管理規約に弁護士費用を負担させる旨の規定が存在しない場合に、弁護士費用を負担させる旨を定めた総会決議が無効とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

管理規約に弁護士費用を負担させる旨の規定が存在しない場合に、弁護士費用を負担させる旨を定めた総会決議が無効とされた事案(東京高判平成7年6月14日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理規約に弁護士費用を負担させる旨の規定が存在しない場合に、弁護士費用を負担させる旨を定めた総会決議の効力が争われた事案である。

【裁判所の判断】

総会決議は無効

【判例のポイント】

1 区分所有法18条1項本文は、共用部分の管理に関する事項は、同法17条の場合を除いて、集会の決議で決するものと規定しているところ、管理費等の支払に関する事項が共用部分の管理に関する事項に当たることは明らかであるから、管理費等の取立訴訟を提起するために必要な弁護士費用の負担に関する事項もまた、共用部分の管理に関する事項に当たるものということができる。ところで、共用部分の管理に関する事項に当たる場合にも、集会で決議することのできる内容には自ずから一定の制限があると解される。すなわち、例えば、特定の組合員に対して、その意に反して一方的に義務なき負担を課し、あるいは、他の組合員に比して不公正な負担を課するような決議は、集会が決議できる範囲を超えたものとして無効というべきである。

2 これを本件についてみると、控訴人は、被控訴人に対し、債務不履行に基づき弁護士費用相当額の損害賠償の支払義務を負うものでないことは前記のとおりであるし、また、現行法のもとでは、控訴人は訴訟の相手方の負担した弁護士費用そのものの支払義務を負うものではないので、本件決議は、右に説示したところによれば、控訴人に対し、その意に反して一方的に義務なき負担を課し、あるいは、他の組合員に比して不公正な負担を課するものであり、無効というべきである

つまりは、管理規約に違約金としての弁護士費用等を請求することができる旨を規定していない限り、当然には請求できないということです。

多くの管理規約において、標準管理規約に倣い、弁護士費用を負担させる旨の規定が存在しますので、あまり問題になることはありませんが、念のため押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金3 滞納組合員に対して管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)を請求することが認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、滞納組合員に対して管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)を請求することが認められた事案(東京高判平成26年4月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合である被控訴人が、区分所有者である控訴人に対し、本件建物の管理規約に基づき、①未払管理費等459万5360円、②上記459万5360円に対する年18%の割合による確定遅延損害金129万6899円、③上記459万5360円に対する平成25年8月13日から支払済みまで上記と同様の割合による遅延損害金、④弁護士費用102万9565円、⑤上記102万9565円に対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、上記(1)①ないし③及び④のうち50万円(合計639万2259円)並びに、①の459万5360円に対する年18%の、④のうち50万円に対する年5%の割合による各遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容し、その余を棄却した。

そこで、控訴人が、これを不服として、本件控訴をした。

これに対し、被控訴人が附帯控訴をした。

【裁判所の判断】

控訴人の本件控訴を棄却する。

控訴人は、被控訴人に対し、785万6229円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 国土交通省の作成にかかるマンション標準管理規約は、管理費等の徴収について、組合員が期日までに納付すべき金額を納付しない場合に、管理組合が、未払金額について、「違約金としての弁護士費用」を加算して、その組合員に請求することができると定めているところ、本件管理規約もこれに依拠するものである。
そして、違約金とは、一般に契約を締結する場合において、契約に違反したときに、債務者が一定の金員を債権者に支払う旨を約束し、それにより支払われるものである。債務不履行に基づく損害賠償請求をする際の弁護士費用については、その性質上、相手方に請求できないと解されるから、管理組合が区分所有者に対し、滞納管理費等を訴訟上請求し、それが認められた場合であっても、管理組合にとって、所要の弁護士費用や手続費用が持ち出しになってしまう事態が生じ得る。しかし、それは区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているにすぎないことを考えると、衡平の観点からは問題である。

2 そこで、本件管理規約36条3項により、本件のような場合について、弁護士費用を違約金として請求することができるように定めているのである。このような定めは合理的なものであり、違約金の性格は違約罰(制裁金)と解するのが相当である。したがって、違約金としての弁護士費用は、上記の趣旨からして、管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用と解される(その趣旨を一義的に明確にするためには、管理規約の文言も「違約金としての弁護士費用」を「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいといえよう。)。
これに対して、控訴人は、違反者に過度な負担を強いることになって不合理である旨主張するが、そのような事態は、自らの不払い等に起因するものであり、自ら回避することができるものであることを考えると、格別不合理なものとは解されない
以上の判断枠組みの下に、本件をみるに、被控訴人は、本件訴訟追行に当たって、訴訟代理人弁護士に対し、102万9565円の支払義務を負うが、その額が不合理であるとは解されない
したがって、控訴人は、被控訴人に対し、本件管理規約36条3項に基づき、「違約金としての弁護士費用」102万9565円の支払義務がある。

本件の原審(東京地判平成25年10月25日)は、弁護士費用のうち裁判所によって認定される相当額(50万円)しか請求できないと判断しましたが、高裁は当該判断を失当であるとして、弁護士費用の全額である102万9565円の請求を認容しています。

この金額は、弁護士会の旧報酬基準に準拠して算出した着手金・報酬金であり、一定の合理的な基準に基づくものであることが影響しているものと思われます。

また、この裁判例では、管理規約の文言について、「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいと判示していますので参考にしてください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金2 滞納管理費等に係る遅延損害金の年利を30%と定めた管理規約が公序良俗に反しないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、滞納管理費等に係る遅延損害金の年利を30%と定めた管理規約が公序良俗に反しないとされた事案(東京地判平成20年1月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、滞納管理費等に係る遅延損害金の年利を30%と定めた管理規約が公序良俗に反するかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

公序良俗に反しない。

【判例のポイント】

Yは、本件マンションの管理規約の第55条2項が管理費及び修繕積立金の未払に対する遅延損害金について年30%と定めていることについて、消費者契約法が施行された平成13年4月1日以降、同法が定める損害賠償の予定の上限である年14.6%を超える部分は公序良俗に反し無効であると主張している。
しかし、Xが主張するように、マンションの管理規約は対等当事者で構成された団体の自治規範であり、非対等な契約当事者間の消費者契約とは異なるから、消費者契約法の適用対象とならないことはもとより、同法の趣旨を及ぼすべき対象とならないこともまた明らかであり、その他、本件マンションの管理規約が管理費及び修繕積立金の未払に対する遅延損害金について年30%と定めていることが公序良俗に反すると認めるべき事情はないから、Yの主張は採用できない。

消費者契約法の適用が否定され、かつ、年利30%としても公序良俗に反しないと判断されています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損1 管理組合役員が総会で滞納問題を議論するために滞納組合員の氏名を議案の内容として公表したことが名誉毀損(不法行為)にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

管理組合役員が総会で滞納問題を議論するために滞納組合員の氏名を議案の内容として公表したことが名誉毀損(不法行為)にあたらないとされた事案(広島地判平成14年9月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合役員が総会で滞納問題を議論するために滞納組合員の氏名を議案の内容として公表したことが名誉毀損(不法行為)にあたるかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

原告は、毎月2000円の管理費の滞納については、経費節約問題に関する被告ら理事の姿勢に対する批判の意を明らかにし、自己の見解の正しさを訴える趣旨で、いわば自己の正当と信じる信念に基づきあえて管理費増額分の一部の支払を留保しているというのであり、またその余の滞納分は、原告において管理組合が支払うべきものと考える工事代金の立替分を管理費から差し引いたというのである。
そして、第25回通常総会及び臨時総会議案書では、原告の管理費滞納経緯の説明の中で、原告のそのような主張も正確に記載されている。そうしてみると、原告の管理費の滞納は、原告自身正当な根拠ないし権利に基づくと考えあえて行っているものであるから、そのことを管理組合員に知ってもらって何ら不都合はないはずであり(現に原告が毎月の管理費のうち2000円を支払わない旨表明した平成11年8月30日付書面は多くの管理組合員に配布されていることがうかがえる。)、その問題が総会の議題とされれば、原告としては、まさに与えられたその場において自己の見解を訴え管理組合員の理解を得るよう努めればよいのである(それこそが原告の標榜する民主主義であろう。)。にもかかわらず、それが総会の議題とされたことによって人格が傷つけられ社会的名誉が毀損されたとの主張は矛盾しており、採用の余地はなく、名誉毀損の事実を認めることはできない。

本件は、滞納組合員に対するペナルティを目的として氏名の公表を行っている事案ではありません。

本件は、やや特殊な事案ではありますが、裁判所は、そもそも社会的名誉を毀損されたとはいえないと判断しています。

なお、当該事案はその後、控訴棄却となっています(広島高判平成15年1月22日)。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反に対する制裁2 マンションの管理者が区分所有者において他に賃貸した場合にはガス・水道栓を開くわけにはいかない旨を通告したことが不法行為とならないとされた事例(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

マンションの管理者が区分所有者において他に賃貸した場合にはガス・水道栓を開くわけにはいかない旨を通告したことが不法行為とならないとされた事例(東京高判昭和50年11月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理者が区分所有者において他に賃貸した場合にはガス・水道栓を開くわけにはいかない旨を通告したことが不法行為にあたるかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 管理委託契約に基づき管理権限を有するY社の業務担当取締役たるAが管理人Bに指示して、訴外Cに対し、Xとの話合いがつくまで本件住居を他に賃貸するのは待ってほしい、もし貸してもガス、水道を開くわけにはいかない旨申し入れたことは、Y社からの再々の改善方申入れにもかかわらず、Xとしてはこれに対し何らの回答もしなかったなど原判決が認定判示する前記諸事情のもとで考えれば、本件マンションの管理運営上やむをえずなされたものということができるし、その表現自体、Xとの話合いがつくまで本件住居の賃貸借契約の締結を待ってほしいというものであり、その趣旨は前記管理委託契約におけるXの今後の義務履行を確実にするための話合いに応ずるよう仕向けることに主眼があり、もし貸してもガス、水道を開くわけにはいかないという後段は、前段の右趣旨を強調するためのものと解され、しかも、原判決の認定するところによればAの指示による管理人Bの右申入れをCから通告されたDとしては、右申入れによって本件住居の賃借を断念したというのでなくて、その後一か月を経過しても、XとY社との間に何らの解決もなされなかったので右賃借を断念したというのであるから、この事実関係にも照らして考えれば、AがBに指示して行った右申入れは、原判決がいうようにXのDに対する本件住居の賃貸を差し止めるまでの趣旨とは解されず、管理業務上の行為として行きすぎのものであるということはできず、これをもって違法、不当と評価するには値しないものといわなければならない。

原審は、区分所有者からの損害賠償請求を認容しましたが、上告審では上記の理由から発言の違法性を否定しました。

もっとも、発言如何によっては、当該事案のように長期にわたる訴訟に発展しかねませんので注意が必要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反に対する制裁1 管理費・冷暖房費の不払に対するペナルティとして給湯を停止したことが権利濫用にあたり不法行為とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費・冷暖房費の不払に対するペナルティとして給湯を停止したことが権利濫用にあたり不法行為とされた事案(東京地判平成2年1月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理費の不払を理由として給湯を停止することは、権利の濫用に当り、不法行為を構成するかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

不法行為を構成する。
→慰謝料30万円

【判例のポイント】

1 原告らは、また、本件管理規約の無効を主張するが、本件マンションの居住者にとって、給湯、冷暖房の供給が不可欠であるとしても、その利用の対価として管理費等を支払うべき義務を負うのは当然であり、その支払を拒む正当な理由があるとすれば、その理由を法的に明確に主張し、後に不当利得としてその返還を求める等の手段に出ることが可能であるから、管理者が、給湯等の利用について管理の委任を受けた区分所有者との間で、管理費等の不払いに対抗する手段として、暖房、給湯等の供給を停止することができる旨を約定することが、直ちに公序良俗に反し、又は自力救済と同視すべきものであるということはできない

2 原告X1に対する給湯停止の措置は、管理規約に基づくもので、あらかじめ管理費等の支払を督促し、給湯停止措置に出ることを警告した上で行われたものではあるが、給湯という日常生活に不可欠のサービスを停めるのは、諸経費の滞納問題の解決について、他の方法をとることが著しく困難であるか、実際上効果がないような場合に限って是認されるものと解すべきである。
本件において、原告X1の不払いの最大の原因となっていた冷暖房費については、現に旧シャトー松尾時代からの入居者Aに対しては、その意向に沿って冷暖房の供給をしていないのであり、冷暖房設備の撤去工事も、後に原告X1がみずからしたように、他の区分所有者への供給とは切り離して、比較的容易にすることができたのであるから、管理会社である株式会社BないしCとしては、昭和55年4月5日より前、給湯停止前に、冷暖房の供給停止を条件に、それまでの管理費及び冷暖房費の滞納分の支払を求める交渉をしてしかるべきであった。
その上、B管理の事務処理上のミスから、原告X1の入居後約一年を経て冷暖房費の請求がなされるようになったことが、原告X1に管理会社に対する不信感を抱かせる原因となったことが容易に推認できるから、B管理の原告X1に対する対応は適切を欠いたもので、本件給湯停止の措置は、権利の濫用に当たるものといわざるを得ない。

本裁判例は、ペナルティを定めた管理規約自体は有効と判断した上で、適用場面を制限しました。

このような管理規約はそれ自体無効と判断される可能性も十分ありますので、注意必要です。

規約に書いてあればなんでもOKというわけではないということを認識しておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金1 組合員による消滅時効の援用が信義則に反し権利の濫用として許されないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合員による消滅時効の援用が信義則に反し権利の濫用として許されないとされた事案(東京地裁平成27年7月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理組合であるXが、同マンションの一室の区分所有権を不動産競売により取得した被控訴人S社及び同人から同室の区分所有権を売買により取得したYに対し、区分所有法8条及び管理規約34条に基づき、S社の前区分所有者が滞納した平成20年7月分から11月分までの管理費等合計19万9670円及び各月分の金額に対する各支払期限の翌日から支払済みまで管理規約の定める年14.6%の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

原審はXのY社らに対する各請求をいずれも棄却したことから、Xがこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。

→請求認容

【判決のポイント】

1 本件規約上、組合員が変更した際にはその資格の取得者及び喪失者はその旨を書面により原告に届け出なければならない(本件規約40条1項)にもかかわらず、Yは、上記規約に違反し、被控訴人S社から本件居室の区分所有権を取得した平成21年1月9日以降、Xに対して組合員変更の届出をせずに被控訴人S社名義で本件居室の管理費等を支払い続けていたことに加え、本件マンションが全3棟に及ぶ地上42階地下2階の大規模高層マンションであって区分所有者が多数いることが認められることからすると、Xにおいて、本件居室の区分所有者がYに変更されたことを認識することができなかったのはやむを得ないといえる。

2 上記事実関係に加え、Yは、S社の代表取締役として、平成20年11月7日には、NからS社に組合員を変更することを届け出て、その際にはXからNの滞納管理費等の存在を知らされていた上、遅くとも平成25年8月12日には、本件催告の存在を認識し、Xに対してNの滞納管理費等の存否につき問い合わせるなどしたにもかかわらず、XのS社に対する督促事件が通常訴訟に移行した後の平成26年6月になるまで、本件居室の区分所有権の自身への移転を明らかにしなかったことが認められることなどをも併せて考慮すると、XのYに対する適時の権利行使を著しく困難ならしめた要因はYの行動にあったといわざるを得ない。
そうすると、Yが消滅時効を援用することは、信義則に反し、権利の濫用として許されないというべきである。
したがって、Yの短期消滅時効の抗弁は失当である。

事案によって、消滅時効の援用が信義則に反し権利濫用により無効と判断されるケースがあり得ることを認識しておきましょう。

ポイントは「XのYに対する適時の権利行使を著しく困難ならしめた要因はYの行動にあった」と評価し得るかどうかです。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。