義務違反者に対する措置4 59条競売については、民事執行法63条は適用されないとし、不動産競売手続の取消請求が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、59条競売については、民事執行法63条は適用されないとし、不動産競売手続の取消請求が認められなかった事案(東京高決平成16年5月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合の理事長(区分所有法上の管理者)である抗告人が、専有部分の建物(区分所有権及び敷地利用権)に対する区分所有法59条1項に基づく競売請求を認容した確定判決を債務名義とし、同判決の被告を相手方として、民事執行法195条に基づき、本件建物に対する競売を申し立て、平成15年4月28日に競売開始決定を得たところ、原審が、本件建物の最低売却価額418万円で手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権合計2788万円(見込額)を弁済して剰余を生ずる見込みがないとして、その旨を抗告人に通知した上で、同年8月20日、民事執行法63条2項により、本件建物に対する競売の手続を取り消す旨のいわゆる無剰余取消決定をしたため、抗告人が、上記競売は区分所有法59条に基づくものであり、これに民事執行法63条の剰余主義の規定は適用されないと主張して、原決定の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

原決定取消
→民事執行法63条の適用否定

【判例のポイント】

1 同法59条の規定の趣旨からすれば、同条に基づく競売は、当該区分所有者の区分所有権を売却することによって当該区分所有者から区分所有権を剥奪することを目的とし、競売の申立人に対する配当を全く予定していないものであるから、同条に基づく競売においては、そもそも、配当を受けるべき差押債権者が存在せず、競売の申立人に配当されるべき余剰を生ずるかどうかを問題とする余地はないものというべきである。

59条競売では、剰余が生ずる見込みがなくても、競売手続は取り消されません。

実務においては基本事項ですのでしっかり押さえておきましょう。

そして、この補充性の要件との関係で、本裁判例でも問題となっている7条先取特権との関係が問題となりますので、事前に不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置3 1000万円超の管理費等の滞納を理由とする競売請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、1000万円超の管理費等の滞納を理由とする競売請求が認められた事案(東京地判平成18年7月12日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有法上の区分所有建物であるマンションの区分所有者である被告が、管理費及び特別修繕積立費を支払わないため、マンション管理組合の集会において訴訟追行者として指定された原告が、被告に対し、法59条1項に基づき、被告の有する区分所有権及び敷地利用権の競売の申立てを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 区分所有者が支払う管理費等は、建物の共用部分及びその敷地の維持管理や修繕等の費用に充てられるものであるから、管理費等の支払義務は区分所有者にとって最も基本的な義務といわなければならない。
本件では、被告は、前記のとおり、本件物件の取得後、長年にわたって管理費等を滞納し、本件管理組合によりその支払を求められた訴訟において敗訴した後も、依然として滞納を続け、別件判決で支払を命じられた管理費等の額とそれ以降の分とを合計すると、現時点では1000万円を超える状況になっている。
そうすると、上記のような被告による管理費等の著しい滞納は、建物の共用部分等の管理等の面で、重大な支障を与えるものであることは明らかであるから、法6条1項にいう「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当し、それによる区分所有者の共同生活上の障害も、著しいものであると認めることができる。

2 被告による管理費等の著しい滞納及び本件管理組合における支障の程度等からすれば、本件については、法59条1項の競売の請求以外の方法によっては区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である場合に該当するというべきである。
なお、本件管理組合としては、たしかに、被告滞納に係る管理費等の回収に当たり、別件判決を債務名義として、本件物件について強制執行の申立てをすることができ、また、法7条に基づき、共益費用として、本件物件の上に先取特権を有する(民法306条1号)から、これを実行することも可能ではあるが、本件物件には、整理回収機構が3000万円を極度額とする根抵当権を有していることが認められ、この事実に基づいて考えると、登記された前記根抵当権が他に優先して存在する以上、本件管理組合において、上記の各方法を採ったとしても、前記のような多額の滞納管理費等の回収を図ることは困難であると考えられ、これらの方法によるべきものであるとはいい難い。

管理費等の不払いも、その期間や金額によっては、共同利益背反行為になります。

もっとも、59条競売は共同利益背反行為であれば当然に認められるわけではなく、補充性の要件を満たす必要がありますので注意が必要です。

そして、この補充性の要件との関係で、本裁判例でも問題となっている7条先取特権との関係が問題となりますので、事前に不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

ペット問題6 隣室の居住者に対して、飼育犬の鳴き声による騒音のため平穏な生活が侵害されたとして慰謝料の支払を求めた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、隣室の居住者に対して、飼育犬の鳴き声による騒音のため平穏な生活が侵害されたとして慰謝料の支払を求めた事案(東京地判平成21年11月12日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、Yの隣室に居住するXが、Yに対し、Yがその居宅においてダックスフント2匹を飼育し、本件飼犬の鳴き声による騒音のため平穏な生活が侵害されたとして、①本件飼犬をと殺すること、②本件訴状送達の日である平成21年1月9日から本件飼犬の飼育をやめるまで1日当たり5万円を支払うこと、③慰謝料50万円及び訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求めて提訴し、本件事件係属中の同年2月1日、被告の長女が本件飼犬を連れて転居したため、上記①の請求に係る訴えを取り下げ、上記②の請求につき、同請求に係る期間を上記転居の前日までとし、上記③の請求を維持している事案である。

【裁判所の判断】

Yは、Xに対し、6万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

Xの居宅において、48.1デシベルから59.7デシベルの値の本件飼犬の鳴き声が聴取されており、Xは、Yが隣室に転居してきた平成20年4月ころから、Yの長女が本件飼犬を伴って転居した平成21年2月1日までの間、本件飼犬の鳴き声によって、一定の精神的苦痛を感じたことが認められるというべきである。
本件マンションの管理組合規約の使用細則において、他の居住者に迷惑又は危害を及ぼすおそれのある動物を飼育することが禁止されており、Xが犬の鳴き声に対して好ましい感情を抱いていないことが推認されることのほか、Xの居宅において聴取された本件飼犬の鳴き声の程度、Yがその居宅において本件飼犬を飼育していた期間等を総合して勘案し、Xの上記精神的苦痛に対する慰謝料としては5万円、弁護士費用相当損害金としては1万円が相当と判断する。

裁判所が認定する慰謝料の金額の相場を知るにはよい裁判例です。

訴訟係属中に飼犬を連れて転居してしまったため、①については取り下げられていますが、仮に判決まで行っても請求は棄却です。裁判所は、飼育を禁止することはあっても「と殺する」ことを命じることはありません。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置2 マンション居住者の野鳩の餌付け及び飼育が、区分所有者の共同の利益に反する行為であるとして、マンション所有者と居住者間の使用貸借契約の解除とマンションの引渡請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション居住者の野鳩の餌付け及び飼育が、区分所有者の共同の利益に反する行為であるとして、マンション所有者と居住者間の使用貸借契約の解除とマンションの引渡請求が認められた事案(東京地判平成7年11月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有法3条の区分所有者の団体であるXが、区分所有者の一人である被告Y1及びY1の子であってY1の専有部分をY1から使用貸借して居住しているY2に対し、Y2が毎日のように本件専有部分のベランダ、室内等において野鳩に餌付けをし、飼育する行動を何年間も反復し、X及び他の区分所有者らの抗議警告にも耳を貸さないで右行為を継続し、これにより、多数の野鳩が飛来して所構わず糞等をまき散らす等、その汚損、悪臭、騒音が他の区分所有者らの共同生活に多大の被害を与える状態を生ぜしめているとして、区分所有法60条1項に基づき、Y1とY2との間の使用貸借契約の解除を請求するとともに、Y2に対し、本件専有部分のXへの引渡しを請求し、併せて、Y2に対し、右の餌付け等の行動の反復継続に関する不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y1とY2の間の使用貸借契約を解除する。

Y2は、Xに対し、建物から退去してこれを引き渡せ。

Y2は、Xに対し、金200万円を支払え。

【判例のポイント】

Y2が数年間にわたり本件専有部分において野鳩の餌付け及び飼育を反復継続していること、Y2のこれらの行為を原因として本件マンション及びその付近におびただしい数の野鳩が毎日一定の時刻ころに飛来し、そのまき散らす糞、羽毛、羽音等により本件マンションにおける共同生活に著しい障害が生じていること、本件のマンションの他の区分所有者及びXは何とか被告両名との交渉によりY2の本件餌付け等をやめさせようと努力したがY2においては直接の話合いも、Y1を介しての話合いも頑なに拒んだ上本件餌付け等を続行していることが認められ、これらの事実からすると、Y2の本件専有部分の占有を利用して行う本件餌付け等は、本件マンションの区分所有者の共同の利益に反する行為であり、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難な場合に当たるものといわざるを得ない。

迷惑居住者が占有者であるため、区分所有法60条の引渡請求が認められています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置1 区分所有者からの使用借人(息子)が「早く死ね」などと居住者の悪口を叫んだり奇声、 騒音、振動を発する等の行為を行ったことが共同利益背反行為に該当するとされ、建物使用貸借契約解除・建物引渡し請求及び競売請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者からの使用借人(息子)が「早く死ね」などと居住者の悪口を叫んだり奇声、騒音、振動を発する等の行為を行ったことが共同利益背反行為に該当するとされ、建物使用貸借契約解除・建物引渡し請求及び競売請求が認容された事案(東京地判平成17年9月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの管理組合の理事長であり、管理者である原告が、区分所有者の一人である被告A及びその専有部分を被告Aから使用貸借して居住している、被告Aの子である被告Bに対し、被告Bの異常な行動等が区分所有者の共同の利益に反する行為に当たると主張して、区分所有法60条1項に基づき、被告Aと被告Bとの間の上記使用貸借契約の解除及び本件専有部分の引渡しを請求し、併せて、区分所有法59条1項に基づき被告Aの区分所有権及び敷地権の競売を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告Bが本件専有部分内で発生させている騒音は、隣接専有部分内において測定した結果によれば、大部分が40ないし45デシベルを超えるものであり、著しいものは69デシベルに達している。これは本件マンションが属する第一種低層住居専用地域、準住居地域について東京都環境確保条例が定める深夜の騒音基準値たる40ないし45デシベルを超えている。こうした振動・騒音・叫び声は、被告Bが発生させていることは論をまたない。

2 本件専有部分を除く本件マンションの全専有部分21戸のうち少なくとも18戸の居住者が、被告Bが昼夜に発生させている振動を伴う騒音や叫び声によって被害を受けている

3 このような被害を受け始めた時期は、遅くとも平成13年には、相当広範囲の居住者が被害を受ける状況となり、それから4年後の現在に至るも同様の状況が続いていると認められ、その期間は長期にわたっている。

4 その被害の内容をみても、夜眠れず健康や仕事に支障を来す、本件専有部分に近接する特定の部屋を通常どおりに使えない、場合によって居住者が他所へ避難せざるを得ない、本件マンションの構造に損害が与えられているのではないかという不安感を感じる、家族の受験勉強や就職活動に支障を来している等であり、これは区分所有関係にある者同士で甘受すべき生活上の不利益の限度を大きく超える不利益と言える。本件専有部分の隣室に居住するaにおいては、被告Bによる騒音により睡眠障害と診断され、睡眠薬を処方されるに至っていること等からすると、被告Bの上記の行為は刑法上の犯罪を構成する可能性すらある

5 被告Bは、本件マンションの管理組合が毎年実施している配水管清掃や消防設備点検などの各種設備の清掃及び点検を、本件マンションの居住者の中でただひとり正当な理由もなく拒絶している。本件マンションのような区分所有関係においても、上記各設備は全体の共有部分に属しており、その保守点検作業は当該専有部分のみならず、本件マンション全体の事故発生などの悪影響を防止する意義もあるから、被告Bのこのような行為によって本件マンションの区分所有者の共同の利益が害されていると言える。

6 dや本件マンションの居住者が被告Bの発生させている騒音等の問題について何とか交渉によって解決したいと希望し、被告Bに対し、話し合いたい旨申し入れても、被告Bは、冷静に対応することができず、また、dらが被告Aと話合いの場を持ちたい旨複数回に渡り申し入れても、被告Bが母親である被告Aに対して話合いに応じないよう指図するなどした結果、本件訴訟提起まで被告Aは、話合いに応じていない

7 被告Bは、前記d及びほかの居住者から被告Aに対する話合いの申入れを拒絶させた後も前記認定の激しい騒音及び振動の発生を継続し、本件訴訟提起後から本件マンションの居住者のうちの数名が証人として証言した期日に至るまで当該行為を停止せず、さらにその後も続行していることも認められ、これらの事実を総合すると、被告らが自主的に事態を改善することは全く期待できない状況にあることが認められる。

8 以上の事実によれば、被告Bによる本件専有部分内における騒音・振動・叫び声等を発生させる行為や各種設備の点検拒否等は、本件マンションの区分所有者の共同の利益に反する行為であり、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、引渡し以外の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難な場合に当たるものと言わざるを得ない。

 以上によれば、区分所有法60条に基づき、被告Bによる本件専有部分の引渡しと、その前提となる被告両名による使用貸借契約の解除を認めるのが相当である。

9 本件マンションにおいて、現実に区分所有者の共同の利益を侵害する行為をしているのは被告Bであり、被告Bに対する引渡請求が認容されれば、本件マンションのほかの居住者らに対する被告Bの迷惑行為はひとまず除去されることになる。
しかしながら、被告Aの被告B及び本件マンションの現状について把握しようとする意思、能力の欠如及び被告Bの言い分のみを真実と主張し、裁判所による引渡を命ずる判決に対してもこれに従わないことを表明するような態度、被告Bの経済力、同被告の今後の生活をめぐる家族の意識等からすると、裁判所が原告による本件専有部分等の競売を認めず、被告Bに対する引渡請求のみを認容した場合には、これが執行されたとしても、被告Aが被告Bを再度本件専有部分に居住させる事態を迎えることは容易に予想されるところであり、そうなると結局原告の本件訴訟全体が水泡に帰することとなる。
本件競売請求は、被告Aの区分所有権を強制的に奪うという重大な結果を招くものであり、その要件を満たしているか否かについては慎重に判断すべきものではあるが、この点を考慮してもなお、以上のような被告Bと被告Aとの一体性、被告Aの自主的に本件の問題を解決しようとする意思及び能力の欠如からすれば、被告Aが本件専有部分等を所有し続けることは、必然的に本件マンションの区分所有者の共同の利益に反することになると認めざるを得ないし、これによって、区分所有者の共同生活上の障害が著しく、被告Aの区分所有権及び敷地利用権の競売以外の方法によってはその障害を除去して共用部分の維持を図ることが困難であると認めるのが相当である。
したがって、原告の区分所有法59条1項に基づく被告Aの区分所有権及び敷地権の競売請求も理由がある

要件の厳しさがよくわかるとともに、どのような事情があれば59条、60条請求が認容されるのか非常に参考になる裁判例です。

なお、本裁判例では、被告Bに対する建物引渡しを認容する部分に限り、仮執行宣言が付されています。

一般的に、区分所有法59条、60条の請求に対する認容判決には仮執行宣言は付けることができないと解されています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金6 専有部分の共有者に対する管理費・修繕積立金の支払債務は不可分債務であるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分の共有者に対する管理費・修繕積立金の支払債務は不可分債務であるとされた事案(東京地判平成25年11月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理組合である原告が、区分所有建物の共有者である被告に対し、未払いの管理費・修繕積立金等及びこれに対する弁済期の翌日から支払済みまでの管理規約に定める遅延損害金を請求するとともに、管理規約に定める管理費等の滞納があった場合の違約金としての弁護士費用等及びこれに対する催告の日から支払済みまでの民事法定利率に基づく遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、金197万9241円及び内金155万8500円に対する平成25年10月1日から支払済みまで年14%の割合の金員を支払え。

被告は、原告に対し、金31万6686円及びこれに対する平成25年10月3日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

管理費(本件マンションの管理規約26条)は、共用部分の清掃、保守、修繕、防犯及び組合の運営などの区分所有者に対する不可分的な利益の対価であると認められる。   
その他の修繕費(同27条)も、共用部分の将来の修繕という不可分的な利益を享受するための積み立てであり、使用料(同28条)も共用部分の使用という不可分的な利益の対価であると認められる。そして、遅延損害金はこれらに付随するものであるし、本件弁護士費用等も不可分的給付の対価の不履行によって生じる違約金(損害賠償請求権)である。
これらの事情によれば、本件管理費等並びに遅延損害金及び本件弁護士費用等は、いずれも不可分的給付の対価として、性質上不可分の不可分債務(民法430条)に該当するというべきである。

本裁判例は、共有者全員を共同被告とすることなく、共有者2名のうち1名のみを被告としています。

未払管理費等が不可分債務に該当するとされた結果、共有者1名に対して全額の請求が認められました。

共有者2名を被告とする場合には、「連帯して」支払うことを求めることになります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

ペット問題5 区分所有者である被告が、複数の猫に継続的に餌やりを行ったため、糞尿等による被害を被ったとして、本件建物の原告管理組合及び同建物の区分所有者である個人原告らが、本件建物の敷地等での猫への餌やりの差止めを求めるとともに、個人原告らが損害賠償を求めた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者である被告が、複数の猫に継続的に餌やりを行ったため、糞尿等による被害を被ったとして、本件建物の原告管理組合及び同建物の区分所有者である個人原告らが、本件建物の敷地等での猫への餌やりの差止めを求めるとともに、個人原告らが損害賠償を求めた事案(東京地立川支判平成22年5月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告管理組合を除く原告ら及び被告は、区分所有法の適用のある本件タウンハウスに居住している。本件は、本件タウンハウスの一部の区分所有者である被告が複数の猫に継続的に餌やりを行い、糞尿等による被害を生じさせたことは、区分所有者の共同の利益に反し(同法61条1項)、本件タウンハウスの規約(原告管理組合規約)にも違反すると主張して、原告管理組合は同法57条1項又は原告管理組合規約に基づき、個人原告らは人格権に基づき、本件タウンハウスの敷地及び被告区分建物内での猫への餌やりの差止めを求めるとともに、原告らが不法行為に基づく慰謝料(原告管理組合を除く。)及び弁護士費用の損害金並びに遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

原告管理組合の差止請求認容

個人原告らの差止請求認容

被告は、次の各原告に対し次に記載の各金員+遅延損害金を支払え。
(1) 原告管理組合 30万円
(2) 原告X2 12万円
(3) 原告X3 9万円
(4) 原告X4 9万円
(5) 原告X5 9万円
(6) 原告X6 9万円
(7) 原告X7 9万円
(8) 原告X8 9万円
(9) 原告X9 3万6000円
(10) 原告X10 3万6000円
(11) 原告X11 12万6000円
(12) 原告X12 12万6000円
(13) 原告X13 15万6000円
(14) 原告X14 9万6000円
(15) 原告X15 15万6000円
(16) 原告X16 9万6000円
(17) 原告X17 12万6000円
(18) 原告X18 12万6000円

【判例のポイント】

1 原告管理組合の動物飼育禁止条項は、一律に動物の飼育を禁止しているものではなく、「他の居住者に迷惑を及ぼすおそれのある」動物を飼育しないことと定めているものではあるが、このような限定は、小鳥や金魚の飼育を許す趣旨は含んでいるとしても、小型犬や猫の飼育を許す趣旨も含むものとは認められない

2 野良猫に餌やりを行えばそれらの猫はその場所に居着いてしまうことを知っていたのに、被告は、平成14年11月ころ、原告X12から糞の被害等の申告を受け改善を求められた以降、Aの主導により猫の不妊去勢手術の費用を負担し、餌の選択、猫除けの装置の配布、里親探しを行ったとはいえ、各戸が壁を共有して接しており、一戸建て住宅が並んでいる住宅地における場合以上に話し合いが求められる本件タウンハウスにおいて(この点は、不法行為の成否の判断においても、地域性として考慮すべきである。)、最も合意の形成に努めるべき個人原告らとの話し合いの最大の機会である原告管理組合の総会のほとんどを欠席し(被告の仕事の関係で日曜日の総会に出席できないのであれば、他の曜日に話し合いの機会を持つことを提案すべきであった。)、平成19年11月に、地域猫活動で重要といわれている糞のパトロール及び猫用のトイレの設置を開始したものの、被告が行っている4匹の猫への餌やりは、住みかまで提供する飼育の域に達しているのに、被告北側玄関に現れることの多い猫2匹についてのトイレの配慮が十分でなく、糞のパトロールの回数も不十分であることに加え、餌やりの点でも、風で飛んでしまう可能性のある新聞紙等を使用する方法や餌やり終了後の始末が遅い点で更に改善を要する点があるなど、猫への餌やりによる個人原告らに対する被害は依然として続いているものであり、現時点での活動であっても、受忍限度を超え、個人原告らの人格権を侵害するものと認められる。

3 原告管理組合の差止請求については、原告管理組合規約違反に基づき、本件土地及び被告専有部分内において、猫に餌を与えてはならないことを認容すべきである。個人原告らの差止請求は、人格権侵害に基づき、本件土地において、猫に餌を与えてはならないことを求める限度で認容すべきである。

管理組合のみならず、組合員個人による差止め請求についても認容されています。

また、組合員個人(17名)につき、1人当たり3万円~13万円の慰謝料が認容され、合計金額ではかなりの金額になっています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

ペット問題4 マンションの賃借人が、管理規約に違反して犬を飼育している上階の区分所有者を被告として、犬の飼育の差止めと損害賠償(慰謝料)を請求した事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの賃借人が、管理規約に違反して犬を飼育している上階の区分所有者を被告として、犬の飼育の差止めと損害賠償(慰謝料)を請求した事案(名古屋地判平成16年12月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの賃借人が、管理規約に違反して犬を飼育している上階の区分所有者を被告として、犬の飼育の差止めと損害賠償(慰謝料)を請求した事案である。

【裁判所の判断】

犬の飼育差止請求は棄却

慰謝料請求は一部認容

【判例のポイント】

原告Xは、賃借権に基づきY社(区分所有者)の所有権に基づく妨害排除及び予防請求権を代位行使して、原告Zは、占有権に基づき同上請求権を代位行使して、原告らは、被告らに対して犬の飼育中止を求めている。
しかしながら、被告らが本件建物2において犬を飼育し、犬が騒音を発することをもって、株式会社Yの所有権や原告Zの本件建物1の占有権が侵害されているとは言い難く、原告の上記主張は、主張自体失当で理由がない。

この裁判例は、損害賠償(慰謝料)については一部認容しましたが、犬の飼育の差止請求については棄却しました。

組合員個人がペットの飼育の差止め訴訟を提起する場合には、管理組合が原告となる場合とは異なる判断がされますので注意が必要です(前者のほうが後者よりも請求が認容されるハードルがはるかに高い。)。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

ペット問題3 区分所有者から賃借している者が管理規約に違反してペットを飼育している場合、区分所有者及び賃借人を被告としてペット飼育の差止め請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者から賃借している者が管理規約に違反してペットを飼育している場合、区分所有者及び賃借人を被告としてペット飼育の差止め請求が認められた事案(東京地判平成28年3月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本訴事件は、原告が、原告が管理するマンションの一室に居住する被告Y1及び同Y2が、本件建物の管理規約に違反し、上記居室内で犬を飼育しているとして、被告Y1及び被告Y2並びに上記居室の区分所有者である被告Y3に対し、管理規約に基づき、上記居室内でのペットの飼育禁止を求めるとともに、本訴被告らが犬の飼育を中止せず、原告らが本訴提起を強いられたことが不法行為に当たるとして、本訴被告らに対し、不法行為に基づき、弁護士費用82万6000円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

本訴被告らは、本件建物内において犬を飼育してはならない

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 ①本件居室の区分所有者であり賃貸人であるY2は、賃借人であるY1らが本件居室において本件ペットを飼育している事実を知っていたこと、②本件規約等によれば、本件建物の区分所有者は本件規則等の遵守義務を負い、また賃借人に対しても本件規則等を遵守させる義務を負うことについては当事者間に争いがない。そうすると、Y2は、賃借人であるY1らに対し、本件規則等を遵守し、本件ペットを飼育しないようにさせる義務を有していること、これをY2が履行できていないことは明らかであるから、被告Y2が、本件規則等につき債務不履行責任を負うことは明らかである。

2 原告は本件規約等の違反を理由としてペットの飼育禁止を求めていると解されるところ、このように債権的な請求を行う場合において、被告らの対応により原告が訴訟提起を強いられたとしても、これはあくまでも上記違反の是正を求める中での出来事であるから、この点のみを切り出して独立の不法行為と認めるのは相当とはいえない。
また、本訴の提起を強いられた事実が不法行為とは認められないことを前提として、我が国の民事訴訟において弁護士強制制度が採用されていないことを考慮すると、被告らの行為と原告による弁護士費用の支出との間に相当因果関係があると認めることもできない。したがって、原告による弁護士費用の請求には理由がない。

区分所有者から賃借している者が管理規約に違反してペットを飼育している場合には、区分所有者及び賃借人ともに被告としてペット飼育禁止請求訴訟を提起することが認められます。

なお、本裁判例においては、弁護士費用の請求は棄却されています。

区分所有に関する訴訟においては、どんな場合でも弁護士費用の請求が認められるわけではありませんので気を付けましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

ペット問題2 ペット飼育を禁止する管理規約に違反することを理由に飼育の差止めを認めた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ペット飼育を禁止する管理規約に違反することを理由に飼育の差止めを認めた事案(東京地判平成19年10月4日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合である原告が、マンションの区分所有者かつ原告の組合員である被告らに対し、管理規約に違反して、犬を飼育しているとして、管理規約の規定及び区分所有法57条に基づき、その差止を求めるとともに、管理規約に違反する被告らの行為により訴訟提起せざるを得なかったとして、弁護士費用について、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 それぞれ考え方も事情も異なる多数の人々が一棟の建物を区分所有している場合において、区分所有の性質上、区分所有者は、自己の生活に関して内在的な制約を受けざるを得ないものである。区分所有法6条1項は、この内在的制約の存在を明らかにしており、その一棟の建物を良好な状態に維持するにつき区分所有者全員の有する共同の利益に反する行為を禁止しているところである。

2 この共同の利益に反する行為については、区分所有者は管理規約においてこれを定めることができるものとされ(同法30条1項)、マンションにおけるペット飼育の可否も、マンションの管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項として、当該マンションの団体自治に委ねられる事項である。
しかるに、本件マンションにおいては、管理規約によってペット飼育禁止を定め、これまで原告の総会においても、ペット飼育を可能とする提案について審議されたものの、これが否決されるなど、団体自治のルールの中で、区分所有者の多数の意思により、ペット飼育禁止が確認されてきているところである。
そうすると、管理規約に反してペットを飼育すること自体、具体的な被害の発生等がなくとも共同の利益に反する行為に当たるというべきである。

この裁判例でも、具体的な実害が生じていなかったとしても、管理規約に反してペットを飼育すること自体をもって共同利益背反行為であると認定しています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。