ペット問題10 管理規約・使用細則に基づくペット飼育の全面禁止の有効性(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理規約・使用細則に基づくペット飼育の全面禁止の有効性(東京地判平成10年1月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、高層集合住宅の管理組合の管理者である原告が、右高層集合住宅の区分所有者である被告らに対し、管理規約・使用規則に基づき、ペット(犬、猫)の飼育禁止等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 マンションその他の集合住宅においては、居住者による動物の飼育によってしばしば住民間に深刻なトラブルが発生すること、他の居住者に迷惑がかからないように動物を飼育するためには、防音設備、防臭設備を整え、飼育方法について詳細なルールを設ける必要があることから、集合住宅において、規約により全面的に動物の飼育を禁止することはそれなりに合理性のあるものであり、ペット飼育禁止を定めた本件使用規則の制定にあたり手続上の瑕疵が認められない以上、原告による本件ペット飼育禁止請求が権利の濫用にあたるとまでいうことはできない

2 たしかに、被告らにとって、ペットは、家族の一員であり、精神的な支えとなっており、ペットと別れての生活はおよそ考えられないことが認められる。
また、集合住宅においても、ペットの飼育は、運営如何によっては、充分可能であること、ペットの飼育を容認している集合住宅も珍しくないことが認められる。
しかしながら、これらの事情があるからといって、現実に再開発組合の定時総会においてペット飼育禁止の案件が多数決で可決されている以上、右決議の効力を否定してまで、ペットの飼育を容認することはできないものといえる。

他の裁判例と同様の判断がなされています。

上記判例のポイント2のような主張が被告から出されることがよくありますが、裁判所の考え方はご覧のとおりです。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

ペット問題9 犬猫の飼育を禁止する管理組合の規約を有効とした事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、犬猫の飼育を禁止する管理組合の規約を有効とした事案(東京地判平成6年3月31日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、犬猫の飼育を禁止する管理組合の規約の有効性が争点となった事案である。

【裁判所の判断】

被告らは、物件内で犬を飼育してはならない。

被告らは、原告に対し、各自40万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 原告においては、規約24条に基づく細則の本件規定により、犬猫の飼育を禁止しているが、原告の構成員の多数が今なお本件規定の遵守を組合員等に求めていることが容易に認められるものであつて、ペットクラブの自然消滅を期し、厳格な管理の下に、ペットクラブ発足時の犬猫一代限りの飼育のみを承認するものとしている原告の構成員の多数の意思に反し、それ以外の犬猫を飼育する行為は、区分所有法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するものとして、同法57条1項により差止(飼育禁止)請求の対象となるものというべきである。

2 被告らは、本件規定に違反して犬の飼育を続け、原告の再三の飼育禁止の申入れに応じなかつた。そのために、原告は、弁護士に依頼して、本訴を提起せざるを得ず、原告は、弁護士に訴訟の提起、追行を委任し、着手金として27万円、諸費用3万円、成功報酬として、30万円を支払うことを約したことが認められる。
そして、本件事案の難易、訴え提起に至る経過、被告らの応訴の状況、その他諸般の事情を斟酌すると、右弁護士費用のうち40万円は被告らの不法行為と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

他の類似事案における裁判例と同様の判断ですね。

ペット飼育禁止の規約の新設又は変更をする場合には、既にペットを飼育している者に対する配慮から、いきなり全面禁止にするのではなく、飼育のルールを定めた上で、現在飼育しているペット「一代限りの飼育」と制限するのがバランスがいいと思います。

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駐車場問題2 敷地を区分所有者の共有とするマンションの分譲において、売主がその敷地の一画に駐車場を設置し、買主の一部の者にその専用使用権を与えた場合につき区分所有法にも公序良俗にも反しないとした事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、敷地を区分所有者の共有とするマンションの分譲において、売主がその敷地の一画に駐車場を設置し、買主の一部の者にその専用使用権を与えた場合につき区分所有法にも公序良俗にも反しないとした事案(最判昭和56年1月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、敷地を区分所有者の共有とするマンションの分譲において、売主がその敷地の一画に駐車場を設置し、買主の一部の者にその専用使用権を与えた場合につき区分所有法及び公序良俗に反するかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

区分所有法にも公序良俗にも反しない。

【判例のポイント】(原審:大阪高判昭和55年4月25日

1 訴外会社は、本件マンションの分譲販売にあたつて、本件敷地の一画に駐車場を設置し、本件マンション(住宅)の分譲とは別個に本件マンション購入者に対して右駐車場専用使用権を分譲する権利を留保したうえで本件マンションを分譲したものであり、控訴人を含む購入者はすべて、右の権利が訴外会社に留保されること並びに訴外会社から右駐車場専用側用権の分譲を受けた者及びその譲受人が右駐車場を専用使用することを容認・承諾して本件マンション分譲契約を締結したものというべきであつて、本件マンション分譲契約と同時になされた右駐車場専用使用権に関する約定の趣旨とするところは、訴外会社がその名において、本件マンション分譲後購入者の共有となる本件敷地の一画に設けられた駐車場の専用使用契約を、その使用を希望する本件マンション購入者(希望者が多数の場合は抽選による。)との間で締結すること並びに右専用使用契約の効力が本件マンションの分譲と同時に本件敷地の共有持分権を取得した者に対しても及ぶこと、換言すれば、右専用使用契約に基づいて右駐車場の専用使用を認められた者及びその承継人に対し本件マンション購入者(本件敷地の共有持分権者)が右駐車場を専用使用させる義務を負うことを、右購入者及び訴外会社の双方が承諾し、合意したものであると解するのが相当である。

2 したがつて、本件マンション(四六二号住宅)の分譲を受けた後訴外会社との間で本件土地についての駐車場専用使用権を代金四〇万円で買い受ける旨の契約を締結した被控訴人は、右契約に基づいて、本件土地についての駐車場専用使用権を取得したものというべきであり、しかも、右専用使用権は控訴人ら本件マンション購入者(本件敷地の共有持分権者)に対する関係においてもその効力を有するものというべきである。

原告(管理組合)の公序良俗違反に関する主張は、大要、以下のとおりです。

分譲方式の駐車場専用使用権は、分譲業者がマンション購入者の知識不足に乗じ、マンション本体の対価と駐車場専用使用権の対価とを二重に利得することを企図した附合契約であり、その結果、マンション購入者間に著しい不平等が生じており、駐車場専用使用権を有しないマンション購入者は敷地につき共有者として固定資産税を負担しながら自らは使用できない不利益を受けているから、公序良俗に違反し無効である。

しかしながら、裁判所は第1審から一貫して、原告の主張は採用しませんでした。

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義務違反者に対する措置11 住居店舗複合集合住宅の居住用専有部分における会社事務所としての使用を目的とする賃貸借契約が区分所有者の共同生活上の障害が著しいことを理由に解除された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、住居店舗複合集合住宅の居住用専有部分における会社事務所としての使用を目的とする賃貸借契約が区分所有者の共同生活上の障害が著しいことを理由に解除された事案(東京地八王子支判平成5年7月9日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、住居店舗複合集合住宅の居住用専有部分における会社事務所としての使用を目的とする賃貸借契約が共同利益背反行為に該当するかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件建物のように住居専用部分と店舗専用部分からなる複合住宅において、本件管理規約及び使用細則の定める右専用部分の区画に従って利用することは、居住者の良好な環境を維持する上で基本的で重要な事柄であり、区分所有者である居住者の共同生活上の利益を維持・管理するために不可欠な要件であると認められる。

2 2階の住居専用部分(205号)が被告会社の事務所として使用されること自体により、周囲の居住環境に変化をもたらすことは否定できない。更に、被告会社の管理規約違反を放置すると、住居専用部分と店舗専用部分との区画が曖昧になり、やがては居住環境に著しい変化をもたらす可能性が高いばかりでなく、管理規約の通用性・実効性、管理規約に対する信頼を損なう、ひろく、他の規約違反を誘発する可能性さえある。

3 管理組合が繰り返して被告会社に対し、用途違反を是正し、本件専有部分から退去するよう勧告したが、これに対する被告会社の対決・強硬の態度が変わらない

4 以上の事実を考えると、被告会社の事務所使用は、建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為で、それによる区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってその障害を除去して区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときに当たるものというべきである。

区分所有法59条、60条の実体的要件は、共同利益背反行為による「区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」に該当することです。

規範的要件のため、いかなる事実があれば足りるのかについては、過去の裁判例を参考にしながら検討する必要があります。

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駐車場問題1 「特別の影響を及ぼすべきとき」(区分所有法31条1項後段)の意義(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、「特別の影響を及ぼすべきとき」(区分所有法31条1項後段)の意義(最判平成10年10月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

上告人らは、マンション分譲業者から、建物専有部分の区分所有権及び敷地の共有持分とともに、マンション敷地の一部に設けられた駐車場の専用使用権の分譲を受け、管理組合である被上告人に駐車場使用料を支払ってこれを専用使用してきた。

被上告人は、総会の決議により、規約を改正した上、駐車場使用料を増額し、上告人らに増額後の使用料の支払を求めたが、上告人らがこれを拒否したため、駐車場使用契約を解除した。

本件は、上告人らが被上告人に対し、駐車場専用使用権を有することの確認等を求めた事案である。

原審は、本件総会における使用料増額の決議は、従前からの専用使用権者に一定の不利益を及ぼすことになるが、法三一条一項後段にいう「特別の影響」とは、合理的な理由がないのに、特定の区分所有者が受忍限度を超える不利益を受けることをいうと解されるところ、前記の新規約の設定等は、区分所有者相互間における駐車場利用の公平化・適正化を図る目的で行なわれたこと、また、専用使用権をはく奪するものではなく、その行使方法や得喪につき、共有物たる敷地の利用方法として是認し得る内容により新たに規定を設け、増設駐車場の使用料額との均衡を図るなどの理由により使用料を増額したにすぎないことに照らし、法三一条一項後段が適用される場合にはあたらない、と判断した。

【裁判所の判断】

1 原判決中、上告人らの敗訴部分のうち、(一)上告人らが駐車場専用使用権を有することの確認を求める請求に関する部分、(二)平成二年七月一日以降、平成三年四月二二日までの間、上告人水上市幸が月額五〇〇円、その余の上告人らが月額七〇〇円を超えて駐車場使用料の支払義務を負わないことの確認を求める請求に関する部分、(三)上告人らが駐車場の占有使用の妨害禁止を求める請求に関する部分をいずれも破棄する。

2 前項(一)及び(三)の請求に関する部分につき、被上告人の控訴を棄却する。

3 第一項(二)の請求に関する部分につき、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

【判例のポイント】

1 「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。
これを使用料の増額についていえば、使用料の増額は一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。
また、増額された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、規約の設定、変更等は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である。

2 増額された使用料が社会通念上相当なものか否かは、当該区分所有関係における諸事情、例えば、(1)当初の専用使用権分譲における対価の額、その額とマンション本体の価格との関係、(2)分譲当時の近隣における類似の駐車場の使用料、その現在までの推移、(3)この間のマンション駐車場の敷地の価格及び公租公課の変動、(4)専用使用権者がマンション駐車場を使用してきた期間、(5)マンション駐車場の維持・管理に要する費用等を総合的に考慮して判断すべきものである。

超重要な最高裁判例ですので、しっかりと押さえておきましょう。

比較衡量で判断するため、形式的に正解が出るものではありません。

過去の裁判例を踏まえて慎重に検討をする必要があります。

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ペット問題8 ペット飼育禁止の管理規約規定の新設(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ペット飼育禁止の管理規約規定の新設(横浜地判平成3年12月12日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの一室の区分所有者(被告)が昭和60年3月に入居して以来現在まで犬を居室内で飼育し続けていたところ、管理組合は昭和61年2月に開催された臨時総会において、犬、猫、小鳥等のペット・動物類の飼育を禁止する管理規約を新設し、管理者である管理組合の理事長が原告となり、同規約に基づき被告による犬の飼育の禁止を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 マンションその他の共同住宅においては居住者による動物の飼育によってしばしば住民間に深刻なトラブルが発生すること、多くのマンションではこのようなトラブルを回避するために動物の飼育を規約で禁止しており、動物の飼育を積極的に認め、あるいは一定の条件を設定して動物の飼育を認めているマンションは、社会的な話題となってマスコミ等が取材に訪れるほど稀少な存在であること、動物の飼育を認める規約を有するマンションではトラブルを防止するため、飼育方法や飼育を許される動物の定義等について詳細な規定を設けていること、そもそも共同住宅で他の居住者に全く迷惑がかからないよう動物を飼育するには、防音設備を設けたり集中エアコンなどの防臭設備を整えるなど住宅の構造自体を相当程度整備したうえで、動物を飼おうとする者の適性を事前にチェックしたり、飼い方などに関する詳細なルールを設ける必要があることが認められ、以上の事実を総合すると、現在のわが国の社会情勢や国民の意識等に照せば全面的に動物の飼育を禁止した本件規約は相当の必要性および合理性を有するものというべきである。

2 旧規約には動物の飼育を直接制限する条項は存在しなかったことが認められる。しかしながら、本件入居案内に「動物の飼育はトラブルの最大の原因なので一応禁止する」旨の記載があること、被告は理事長から規約で禁止されているので犬の飼育はだめだと言われたこと、本件マンションにおいてはかつて小鳥を飼っている者が数名いたがそれらの小鳥は現在では処分されてすでにいなくなっており、犬や猫など小動物の範疇に属する動物を飼育しているのは分譲当初から現在に至るまで被告のみであること、マンションのうち動物の飼育禁止を管理規約で定めている所は約7〜8割にのぼるとの文献もあることが認められる。
そして以上の事実によれば、本件マンションの入居者の間には動物の飼育は原則として禁止されているとの共通の認識があったことが推認される。

このような管理規約の新設は、区分所有法31条1項との関係で問題となります。

今回の裁判例については批判もありますが、控訴審である東京高裁平成6年8月4日判決も同様の結論となっています。

【区分所有法31条1項】規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

「特別の影響を及ぼすべきとき」の意義については最判平成10年10月30日が重要です。

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管理組合運営7 臨時総会における白紙委任状の有効性(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、臨時総会における白紙委任状の有効性(横浜地判平成3年12月12日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、臨時総会における白紙委任状の有効性が争点となった事案である。

【裁判所の判断】

有効

【判例のポイント】

区分所有法上、議決権行使の方法については、区分所有権者が集会に出席して直接行使する方法のほか、書面投票または代理人による議決権行使の方法が認められているが(39条2項)、法は書面投票と議決権の代理行使との間に特段の優劣を設けておらず、代理行使の方法についても具体的な定めを置いていないから、委任状により議決権を代理人に行使させることが法の趣旨に反するとは考えられず、しかも、本件臨時総会に当たって提出された13通の委任状は議案の要領およびその内容を事前の通知によって認識した各区分所有権者が、総会議長を代理人に選任すると従前の経緯から新規約改正に賛成の議決権行使が予測でき、総会議長以外の者を代理人に選任して議決権を行使することも許容されるという前提のもとに、予め配布された用紙を利用して提出したものであると認められるから、受任者および委任事項とも白紙であるとはいえず、右各委任状について被告の主張するような瑕疵はなく、その余の点について判断するまでもなく抗弁1は理由がない。

上記のとおり、裁判所は、白紙委任状の効力を認めましたが、とはいえ、訴訟において争点となっている以上、決して好ましい方法とはいえません。

白紙委任状を提出するくらいなら、議決権行使書によって自らの賛否の意思表示をするほうがいいでしょう。

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義務違反者に対する措置10 気に喰わない居住者に暴行脅迫行為等をしたことを理由とする賃貸借契約解除、建物明渡請求(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

賃借人が気に喰わない居住者に暴行脅迫行為等をしたことを理由とする賃貸借契約解除、建物明渡請求(東京地判平成8年5月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有法に基づいて、建物等の管理及び共同生活の維持等を目的として設立されている原告が、右建物の一つの専有部分の区分所有者である被告A及びその部分を同被告から賃借してそこに居住している被告Bに対し、区分所有法60条1項の規定に基づいて、被告ら間のその専有部分の賃貸借契約を解除することを、並びに被告Aに対して、当該専有部分の明渡しを、それぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 区分所有法60条1項は、区分所有者が占有者に対し、訴えをもってその専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することのできる要件として、占有者が建物の保存に有害な行為その他建物の管理または使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をし、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときでなければならないという実体的要件と、あらかじめ当該占有者に弁明の機会を与えたうえ、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でした決議に基づかなければならないという手続的要件とを設定した。したがって、同条項に基づく請求の当否を審理する裁判所としては、当該請求がその手続的要件及び実体的要件のいずれをも充足しているものであるかどうかを判断すべきである。このうち、手続的要件の存在は、本件議決のされた当時において、本件議決に則してこれを判断すれば足りるが、実体的要件は、本件議決のされた時と、本訴口頭弁論終結時のいずれにおいても、これが存在することが必要であるものと解される。それは、区分所有法60条1項の規定によれば、この実体的要件が、議決がされるための要件であると同時に、訴えをもってした請求が認容されるための要件としても規定されていると解されるからである。

2 同被告は、原告から多数の議決によって賃貸借契約の解除と建物引渡しを求められ、本訴において係争中であるのであるから、これ以上の区分所有者らとのトラブルは避けようとするのが人情であると考えられるのに、右に認定した同被告の行動にはそのような配慮が全く感じられず、むしろ前と同様といわれてもやむを得ないような行動を繰り返しているのであって、これら認定事実によれば、同被告の行為については、区分所有法60条1項所定の実体的要件が本訴口頭弁論終結時においてもなお失われていないと判断する他はない。

上記判例のポイント1は重要ですのでしっかり押さえておきましょう。

実体的要件は、共同利益背反行為が、本件議決のされた時のみならず、口頭弁論終結時のいずれにおいても存在することが必要とされています。

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管理組合運営6 理事会への代理出席の当否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事会への代理出席の当否(最判平成2年11月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合法人の理事会への理事の代理出席を認める規約の定め及び理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、その理事を代理して理事会に出席させることができる旨を定めた条項の当否が争点となった事案である。

【裁判所の判断】

1 管理組合法人の理事会への理事の代理出席を認める規約の定めは違法でない。

2 管理組合法人の規約中、理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、その理事を代理して理事会に出席させることができる旨を定めた条項は違法でない。

【判例のポイント】

1 法人の意思決定のための内部的会議体における出席及び議決権の行使が代理に親しむかどうかについては、当該法人において当該会議体が設置された趣旨、当該会議体に委任された事務の内容に照らして、その代理が法人の理事に対する委任の本旨に背馳するものでないかどうかによって決すべきものである。

2 これを、管理組合についてみるに、法によれば、管理組合の事務は集会の決議によることが原則とされ、区分所有権の内容に影響を及ぼす事項は規約又は集会決議によって定めるべき事項とされ、規約で理事又はその他の役員に委任し得る事項は限定されており(法五二条一項)、複数の理事が存する場合には過半数によって決する旨の民法五二条二項の規定が準用されている。しかし、複数の理事を置くか否か、代表権のない理事を置くか否か(法四九条四項)、複数の理事を置いた場合の意思決定を理事会によって行うか否か、更には、理事会を設けた場合の出席の要否及び議決権の行使の方法について、法は、これを自治的規範である規約に委ねているものと解するのが相当である。すなわち、規約において、代表権を有する理事を定め、その事務の執行を補佐、監督するために代表権のない理事を定め、これらの者による理事会を設けることも、理事会における出席及び議決権の行使について代理の可否、その要件及び被選任者の範囲を定めることも、可能というべきである。

3 そして、本件条項は、理事会への出席のみならず、理事会での議決権の行使の代理を許すことを定めたものと解されるが、理事に事故がある場合に限定して、被選任者の範囲を理事の配偶者又は一親等の親族に限って、当該理事の選任に基づいて、理事会への代理出席を認めるものであるから、この条項が管理組合の理事への信任関係を害するものということはできない

実務では基本的な事項ですのでしっかり押さえておきましょう。

なお、平成18年の区分所有法改正前の49条4項は、同年の改正により、同条5項になっています。

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管理組合運営5 特定の区分所有者の役員への立候補及び理事会運営参加資格を永久に喪失させる旨の決議が公序良俗に反するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、特定の区分所有者の役員への立候補及び理事会運営参加資格を永久に喪失させる旨の決議が公序良俗に反するとされた事案(東京地判平成29年3月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件事件は、本件マンションの区分所有者又はその配偶者である原告らが、被告は本件マンションの区分所有者の全員で構成される建物の区分所有法47条1項に基づく管理組合法人であるところ、平成27年6月6日に開催された被告の臨時総会において、1ないし3の各決議がされたが、本件各決議は公序良俗に反するなどと主張して、被告に対し、本件各決議がいずれも無効であることの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

本件決議1は、組合員総数の4分の3以上、かつ、議決権総数の4分の3以上が賛成する特別決議をもって、特定の者が被告の役員に立候補する機会及び理事会の運営に参加する機会を永久に喪失させるとする新規約50条3項8号を本件規約に追加して設けるものである。

しかし、被告の組合員にとって被告の役員に就任する資格は非常に重要なものであるにもかかわらず、新規約50条3項8号は、特別決議によって、本件規約35条1項によれば役員に就任する資格を有する組合員又はその関係者が役員に立候補することができないようにするものであり、さらに、本件マンションの区分所有権を有する限り、被告の組合員であり続けるにもかかわらず、立候補することができない期間は「永久」であることを考えると、新規約50条3項8号は極めて大きな制約を課すものといえる。
そして、候補者が役員にふさわしくないというのであれば、役員に選任しなければよいのであり、これに立候補することを未来永劫許さないとする合理的な理由は見いだし難い

同裁判例は、その後、控訴されていますが、控訴審も同様の判断をしています(東京高判平成29年8月30日)。

上記判例のポイント1記載のとおり、このような制約は客観的に合理的な理由が見出し難いため無効です。

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