駐車場問題6 マンション分譲業者が区分所有建物と共に駐車場の専用使用権を販売し、これを購入した者から第三者を経て各権利を取得した者が駐車場の専用使用権を主張することができるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション分譲業者が区分所有建物と共に駐車場の専用使用権を販売し、これを購入した者から第三者を経て各権利を取得した者が駐車場の専用使用権を主張することができるとされた事案(東京地判平成10年1月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションのうち、本件建物を、本件駐車場の専用使用権と共に購入した原告が、被告に対し、同使用権の確認及び同駐車場について月額1万円を超える維持管理費の支払義務の不存在確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

原告と被告との間において、原告が本件駐車場の専用使用権を有することを確認する。

原告と被告との間において、原告が被告に対し、本件駐車場につき、平成8年10月1日以降、月額1万円を超える維持管理費支払義務を負わないことを確認する。

【判例のポイント】

1 本件駐車場を含む三区画の駐車場は、本件マンションの敷地の一部であるから、区分所有者全員の共有に属するものである。このような共有部分に一定の排他的権利を設定するについては、共有者全員の合意によるべきである。
しかし、本件専用使用権は、当初の単独所有者であったAが定めた規約においてその存在が認められ、そのAがBに対して設定したものであるから、AがBに対して本件設定契約に従った義務を負うことは明らかである。
被告は、本件専用使用権の設定そのものを問題視するが、右のような状況の下において設定され、Bが対価を支払って取得した本件専用使用権の効力が直ちに否定されるものではないというべきである。
ところで、本件専用使用権は、民法上のいずれの物権にも該当しないものであり、本件駐車場の債権的利用権にすぎないというべきである。しかし、本件専用使用権は、本件規約においてその存在が認められ(本件規約8条)、区分所有者は規約に定める権利義務の一切を継承する旨規定されているから(同規約6条)、Aから分譲によって区分所有権の譲渡を受けた本件マンションの区分所有者は、すべてこのような専用使用権の負担のついた共有部分の存在を認めざるを得ないことになる。

2 他方、債権は、原則として譲渡が可能であり、また、本件規約その他においてその譲渡性を否定する旨の約定はないから、本件専用使用権は、Bから順次移転して原告に至ったというべきである。
本件設定契約6条の規定は、専用使用権を区分所有者以外に譲渡することを禁じているが、これは区分所有者以外の者に専用使用権を譲渡することによって、専用使用権のみが区分所有権と無関係に移転し、区分所有者以外の者が専用使用権を取得して共用部分を利用することを避けようとしたものであると考えられるから、専用使用権を区分所有者に譲渡することを妨げるものではなく、また、その際の区分所有者とは、専用使用権と共に区分所有権を有する者であれば足りるから、専用使用権を譲り受ける際に既に区分所有者である者のみならず、専用使用権の譲り受けと共に区分所有権を取得して区分所有者となった者も含むというべきである。

裁判所は、本件設定契約6条の規定の趣旨から、専用使用権を区分所有者に譲渡することは禁止されないと判断しています。

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日照権・眺望権2 高層建物の建設が予定されていた地区(容積率600%)に存在する20階建てマンションの買主らが売主らに対し眺望権等の侵害、説明義務違反を理由とする損害賠償請求が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、高層建物の建設が予定されていた地区(容積率600%)に存在する20階建てマンションの買主らが売主らに対し眺望権等の侵害、説明義務違反を理由とする損害賠償請求が認められなかった事案(大阪地判平成24年3月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告らは、被告Y1産業から大阪市所在のマンションの区分所有権を購入して当該マンションに居住している者らであり、被告らは、本件原告マンション敷地に隣接する本件土地に本件マンションを建設した者らである。

本件は、主位的には、原告らが、被告らによる本件マンションの建築によって、眺望権又は圧迫感を受けずに生活する権利を侵害されているとして、予備的には、原告所有者らが、被告Y1産業には、原告所有者らとの間の売買契約の付随義務違反があり、また、本件原告マンションの眺望に関して説明義務違反があったとして、それぞれ以下の請求をする事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に、一定の場所から見ることのできる周囲の景観、遠方の自然風物、人工物等に対する見晴らしが、人に視覚上の美的満足や心理的な開放感などをもたらす作用を有する場合において、その場所を所有又は占有するなどして、その場所からの良好な眺望を享受している者は、当該眺望を享受する利益を有しているといえる。
しかし、このような利益は、たまたまその場所の占有者が事実上これを独占的に享受し得る結果として、その者に独占的に帰属するといえるにすぎず、その内容は、周辺における客観的状況の変化によっておのずから変容ないし制約を被らざるをえないものである。
したがって、このような利益は、物権的な排他的、独占的支配を伴うものということはできず、当該利益の享受によって、常に人為的な変化を排除しうる権能を持つものではない
しかしながら、このことは、眺望に係る利益がいかなる場合にも法的保護の対象にならないことをいうのではなく、眺望に係る利益も、その享受者にとって、一個の生活利益として社会通念上も独立の利益として承認されるべき程度の重要性を持つ場合には、法的見地からも保護されるべきであるということになる。
そして、ある眺望を享受する利益が、単なる主観的利益を超えて法的な保護を得られる程度に重要な利益といえるか否かは、基本的には、当該眺望が、①客観的に重要な価値を有するといえるか、②主観的にも、単なる主観的利益を超える程に重要な価値を有するといえるかという点から判断されるべきである。

2 一般的に、マンションの周辺土地をいかなる方法で利用するかは、当該周辺土地の所有者の自由であるから、マンションの売買契約において、当該マンションの周辺環境が変化することは、両当事者間で、当然の前提とされているというべきである。
したがって、マンションの売買契約において、売主が、買主に対し、当該マンションの周辺環境(眺望、景観、静謐等)が良好であることを指摘して当該売買契約の勧誘をしたとしても、そのような周辺環境が時間の経過とともに徐々に変化していくことは、買主においても了解済みであるといえるから、売主が、当該マンションの引渡後にまで、その周辺環境に配慮すべき義務を負うことはないというべきである(売主が良好な周辺環境が維持されることを前提とする勧誘をしていた場合などに、説明義務違反との関係で問題になるにすぎない。)。
しかしながら、マンションの売買契約締結に当たって、売主が、その時点で、周辺環境の変化を制御し得る地位にあったか、又は、近い将来、そのような地位を取得することが確実であったときに、それを前提に、売主が当該マンションの周辺環境が良好であることを指摘して同売買契約を締結した場合には、売主は、買主に対し、売買契約に基づく目的物引渡義務の付随義務として、マンションの引渡後も、同マンションの周辺環境に対して配慮すべき義務を負うというべきである。
なぜなら、当該マンションの周辺環境の変化を制御し得る立場にある売主が、周辺環境が良好であることを指摘してマンションの販売を行っている以上、売主において、当該マンションの引渡後であっても、少なくとも自ら当該マンションの周辺環境を変化させることはないとの意思が表示されているというべきであるし、買主においてもそのことを前提として売買契約を締結したものというべきであり、売主が、目的マンションについて、その引渡後も、周辺環境に配慮すべきことをも、契約の一内容として合意したものといえるからである。

眺望権侵害及び説明義務違反に関する裁判所の一般的な考え方がよくわかります。

本件においてはいずれの請求も棄却されていますが、マンションの売主が買主に対して不適切な説明を行った場合には、責任が認められる余地も十分にありますのでご注意ください。

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日照権・眺望権1 リゾートマンションの一室からの眺望を阻害するマンションの建築行為には故意又は過失があるとして不法行為を構成するとした事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、リゾートマンションの一室からの眺望を阻害するマンションの建築行為には故意又は過失があるとして不法行為を構成するとした事案(横浜地判平成8年2月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告株式会社乙山社の代理人である被告丙川ハウジングから本件マンションを買い受けた原告が、被告らが本件マンションの東側、808号室からの眺望等を阻害する位置に本件東側マンションの建築計画があることを故意又は過失により秘したまま原告に808号室を売却したことにより(主位的請求)、若しくは、被告らが808号室売却後、同室からの眺望等を阻害してはならないという信義則に違反して本件東側マンションを建築したことにより(予備的請求)、808号室の価格が下落するという財産的損害を被ったとして、被告らに対し、各請求につき債務不履行ないし不法行為(選択的併合)に基づく損害賠償請求+遅延損害金をした事案である。

【裁判所の判断】

原告の主位的請求を棄却する。

被告らは、原告に対し、各自金694万8000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告らが原告に対し、808号室を販売する際、同室からの眺望の良好さを大きなセールスポイントとし、本件マンション各室の価格を設定する場合も、眺望の良好さを要素のひとつとしていたことが窺える。そして、原告は、本件マンションのパンフレット類及び販売担当者の説明等から、本件東側マンションの敷地に建物が建築される可能性がないことを信頼して本件売買契約を締結したものと認められ、被告らもまた、原告がそのような信頼を抱いて右契約に及んだであろうことは、右の説明等をはじめとする本件売買契約の締結に至るまでの経緯により、十分窺い知ることができたものと解される。
このような経緯により形成された原告の信頼は、法的に保護されるべきものであり、被告乙山社は、原告に対し、808号室の眺望を阻害する本件東側マンションのような建物を建築しないという信義則上の義務を負うものというべきであり、また、被告丙川ハウジングも、本件東側マンション完成前から本件東側マンションの分譲業務を行うなど、被告乙山社による本件東側マンションの建築に加担するような行為を行わないという信義則上の義務を負うものというべきである。

2 原告は、本件東側マンションの建築によって808号室からの眺望が阻害されたことにより、財産的損害を被ったことが認められる。
そして、原告は、右眺望阻害により808号室の眺望景観分に相当する価値の下落という損害を受けたこと、右眺望景観分としては、最上階である808号室が一階部分よりその専有単価が約二六パーセント高いとされるもののうちの20パーセント分をもって相当であることが認められ、したがって、右の損害は、694万8000円と認められる。
原告は、本件東側マンションから808号室を覗かれることによるプライバシーの権利の侵害を根拠とする財産的損害も主張しているが、原告が本件東側マンションの建築により金銭に換算し得る程度にプライバシーの権利が侵害されたと認めることはできない。

リゾートマンションの最上階の一室を購入した所有者が売主及びその代理人に対して、眺望阻害に加担する行為を行ったことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が認められた事案です。

損害額の算定方法についても参考になります。

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名誉毀損3 理事長が配布・掲示した議案書につき名誉毀損が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事長が配布・掲示した議案書につき名誉毀損が否定された事案(広島高判平成15年2月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合の理事長が配布・掲示した議案書につき名誉毀損に該当するかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 管理業者の選定という性質上、事務処理が適法なものであってもこれに不満を持つことはあり得るから、否定的評価をされた一審原告の委託事務処理状況に契約違反等の違法な点がない場合でも、それだけで虚偽事実の記載あるいは名誉・信用を毀損する表現であるということはできず、違法行為もしくは契約違反に該当するような虚偽の事実を摘示した場合や記載された否定的評価(意見・評論)が公的な利害にかかわる事項と無関係な人身攻撃に類する不公平なものである場合でなければ、その否定的評価を示す用語が激越・辛辣なものであっても、名誉毀損の責任を追及されるものではない

管理会社とすると、管理組合からの意見や批判については相当程度これを甘受すべき立場にあるということを理解することが求められます。

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管理会社等との紛争2 区分所有権者がマンションの各戸に当該管理会社を批判する文書を配布したことが同管理会社の信用・名誉を毀損するが違法性が阻却されるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有権者がマンションの各戸に当該管理会社を批判する文書を配布したことが同管理会社の信用・名誉を毀損するが違法性が阻却されるとされた事案(東京地判平成7年11月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの管理会社であり、また、同マンションの各種工事を受注している原告が、同マンションの区分所有権者である被告に対し、同人が原告の業務内容について虚偽の事実を記載し、原告を中傷、誹謗した文書を同マンションの各戸あてに配布したことにより、その名誉及び信用を毀損されたとして、不法行為に基づく損害賠償及び謝罪文の配布を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件文書の見出し及び本文の記述の表現から、全体として、これを読む者に対し、本件記載部分(一)は、原告の工事受注業者の適格性に問題があるかのような印象を与えるものであり、また、本件記載部分(三)及び(四)は、原告が本件管理組合の一部の理事と結託して独占的に巨額の工事を受注し、原告を不当に利するような不公正な過程により本件マンションの管理会社に選定されたかのような印象を与えるものであって、建築請負工事、建物の総合管理等を業とする原告の業務内容並びに本件マンションに関する工事受注及び管理会社への選任が公正に行われたか否かは、右業務を営む原告の信用及び名誉に影響を有するから、右記載のある本件文書の配布により、原告に対する社会的評価を低下させるものであると認めることができる。

2 被告は真摯に本件管理組合のことを考えて本件文書を配布したものであること、被告の意見に賛同する趣旨のアンケート回答が多数の区分所有者から寄せられていることが認められ、これらの事情と被告が私利私欲を図り、あるいは原告をことさらに誹謗中傷する等不純な動機により、本件文書の配布を行ったことを認めるに足る証拠はないことに鑑みれば、被告による本件文書の配布は、専ら公益を図る目的に出たものというべきである。

3 マンションの一区分所有権者であり、特に調査権限及び調査能力を有していたわけでもない被告において、一部の理事により原告に対する利益誘導行為があるのではないか、当初から原告を管理会社に選定する旨決めていたものではないかと疑ったことも、まったく根拠を欠くものではなく、被告がそのように信じるにつき相当の理由があったものというべきである。
したがって、本件各記載がこれを読む者に前記の印象を与え、原告の社会的信用を低下させたとしても、不法行為を構成しないものと解すべきである。

裁判所は、区分所有者の当該行為が管理会社の社会的評価を低下させるものであることは認めましたが、違法性阻却事由があると認め、不法行為責任を否定しました。

本件のような名誉毀損が問題となる事案においては、公共の利害に関する事項に係り、その目的がもっぱら公益を図るために出た場合には、当該記載について真実であるとの証明がなされるか又は当該記載を行った者において真実であると信じるにつき相当の理由があったときには、当該文書の記載配布は不法行為に該当しないと判断されます。

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管理会社等との紛争1 管理費等の滞納について管理会社の法的責任が問題となった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等の滞納について管理会社の法的責任が問題となった事案(東京地判平成18年7月12日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本訴事件は、原告と被告との間のマンション管理委託契約に基づき、原告が被告に対して、未納管理委託費の支払いを請求する事案であり、これに対して、被告は、原告は管理委託業務を履行していないから管理費を支払う必要はないとしてこれを争うと共に、原告が未収金の回収業務を怠ったために、被告は、マンション入居者に対する管理費等の回収が不可能となって損害を被ったとして、回収不能になった管理費等の総額と被告の認める未納管理委託費とを対当額で相殺して、その残額を債務不履行に基づく損害賠償として請求する事案(反訴事件)である。
また、被告は、原告が契約当初から契約書に定められた業務を履行しておらず、管理委託費には大幅な減額要素があるとして、行っていない業務に対する対価としての管理委託費を余計に支出したことになり、これは原告の不当利得であると主張し、原告主張の未納管理費委託費と対当額で相殺する旨主張している

【裁判所の判断】

本訴被告は、本訴原告に対し、939万1095円+遅延損害金を支払え。

反訴原告の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 原告は、3条の仕様書に定める業務の内、「管理費等の収納業務を行うにあたって、被告の組合員に対して支払請求(内容証明郵便による支払請求)を行っても収納することができない場合、原告はその責を負わない。」「内容証明郵便による請求以後の取立については原告被告間で別途協議する。」との記載がある。

2 原告は、A氏に対して、随時未納管理費等の請求を行い、その金額等の状況について毎月被告に報告し、Dの問い合わせに応じて未納管理費等の回収方法等についてアドバイスするなどし、最終的には競落後の新所有者であるYに対して内容証明郵便で支払いを催促しているのであるから、本件管理委託契約書に定められた業務を履行していたものと認めることができる。
この点、未納管理費等の請求書について、原告は平成14年10月分から12月分しか提出しておらず、その他の時期においても同様の請求書がA氏に対して発送されたのか疑問の余地があるところではあるが、そもそも原告の未収金回収業務として、随時書面による督促を行うことまでは本件管理委託契約上の義務とはされていないのであるから、たとえ原告がこれを怠ったとしても、債務不履行と評価されることにはならないというべきである。

3 結局、未収金の回収業務につき原告に債務不履行の事実は認められないといわざるを得ず、かりに被告が1303万7239円の管理費等を回収できないことによる同額の損害を被ったとしても、原告はこれに対して責めを負わない。
もっとも、被告の原告に対する管理委託費の未払いは、A氏の区分所有部分の管理費等の未払いが原因であることについて、原告は十分に知悉していたのであるから、被告の管理委託費の未払額が拡大しないように、これを受領する立場にある自らも積極的な手立てを打つべきであったと指摘し得るところではあるが、そうであるとしても前記認定を左右するものではない。

裁判所は、管理委託契約書の記載内容及び実際の管理会社の対応内容等を検討し、管理会社の責任を否定しました。

組合員の長期滞納を漫然と放置していたような場合には、管理会社の善管注意義務違反が認められることも十分あり得ますのでご注意ください。

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駐車場問題5 駐車場専用使用権(1か月260円)を1か月2万円に増額する総会決議の有効性(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、駐車場専用使用権(1か月260円)を1か月2万円に増額する総会決議の有効性(東京地判平成20年4月11日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理組合である原告が当該マンションの一室を所有する被告に対して管理費等及び専有部分使用料等の支払いを求め、被告が管理組合の規約を改定した総会の瑕疵を主張して改定部分の無効確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

原告は被告に対し、原告の第21期臨時総会において改定した管理規約のうち、「一部事務所部分前面の敷地」の専用使用料1か月2万円とする旨の条項のうち、専用使用料1か月6000円を超える部分は無効であることを確認する

【判例のポイント】

1 被告は、新管理規約による一部事務所部分前面の敷地の専用使用料の増額を承諾せず、一部事務所部分前面の敷地の専用使用料の改定は、一部事務所部分前面の敷地の専用使用権者が○○○号室の区分所有権者のみである以上、一部の区分所有者である被告の権利に特別の影響を及ぼすものといわざるを得ない

2 原告は、主な収入が管理費であるのに、平成14年以降、管理費及び修繕積立金を段階的に減額している一方で、自転車置場や一部事務所部分前面の敷地の専用使用料の値上げをしているのであって、専用使用権を有する者の犠牲のもとに他の区分所有者の利益を企図したとみる余地も十分にある。
しかしながら、他方で、近隣駐車場の賃料相場からみて、一部事務所部分前面の敷地の専用使用料が低額にすぎることは否定できない。しかも、被告及びその前区分所有者は、本件マンションの分譲以来、長期(約20年間)に亘り、低額(少なくとも月額260円以下)の専用使用料を享受してきて、○○○号室の区分所有権取得時にその対価を支払っているとしても、その間、一部事務所部分前面の敷地の固定資産税、都市計画税の支払いや、一部事務所部分前面の敷地及び簡易屋根の維持管理費用の支払いを免れているのであり、原告が一部事務所部分前面の敷地の鉄部塗装費用を負担していることを考慮すると、○○○号室の区分所有者は、単に、敷地の一部を専用使用するという以上に他の区分所有者の経済的負担のもとに一部事務所部分前面の敷地を専用使用していたのであって、他の区分所有者との間の衡平を欠く状態に至っているというべきであるから、これらの事情を総合すると一部事務所部分前面の敷地の専用使用料について、増額の必要性及び合理性が認められる

3 相当使用料についてみるに、一部事務所部分前面の敷地の固定資産税、都市計画税は、面積割した場合は、月額1816円(平成18年度)であって、この額以上の使用料を徴収することは当然であること、駐輪場(13台)は1台当たり月額300円であり、駐輪場の面積と一部事務所部分前面の敷地の面積がほぼ同等と認められること、駐輪場は従前は無償であったこと、近隣駐車場の相場等を総合すると、固定資産税、都市計画税の3倍程度の月額6000円をもって社会通念上相当な額と認める

裁判所は、諸般の事情に鑑み、月額260円の駐車場料金を6000円に増額する限度で有効と判断しました。

裁判所がどのような要素を考慮して妥当な金額を決定しているのかがよくわかりますね。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

駐車場問題4 駐車場の専用使用料を月額1500円から月額約2万5000円に増額する決議が有効とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、駐車場の専用使用料を月額1500円から月額約2万5000円に増額する決議が有効とされた事案(東京地裁平成28年9月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合である原告が、組合員である被告らに対し、平成23年12月11日の総会決議により被告らの使用する駐車場の専用使用料が増額された旨を主張して、上記決議が有効であることの確認を求めるとともに、平成24年1月分以降の未払専用使用料並びに管理規約所定の弁護士費用+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

 原告と被告らとの間で、平成23年12月11日開催の原告の第38期第2回臨時総会第2号議案の、駐車場の専用使用料の増額を内容とする次の決議が有効であることを確認する。
(1) 別紙駐車場目録記載の区画番号No.3の駐車場の専用使用料を平成24年1月分から月額2万5950円に改定する。
(2) 別紙駐車場目録記載の区画番号No.6の駐車場の専用使用料を平成24年1月分から月額1万2720円に改定する。
(3) 別紙駐車場目録記載の区画番号No.1の駐車場の専用使用料を平成24年1月分から月額2万3250円に改定する。

(1) 被告Y1は、原告に対し、金102万6900円及び平成27年7月1日から別紙駐車場目録記載の区画番号No.3の駐車場の専用使用権を喪失するまでの間、毎月末日限り1か月2万4450円の割合による金員を支払え。
(2) 被告Y3は、原告に対し、金44万8800円及び平成27年7月1日から別紙駐車場目録記載の区画番号No.6の駐車場の専用使用権を喪失するまでの間、毎月末日限り1か月1万1220円の割合による金員を支払え。
(3) 被告Y2は、原告に対し、金91万3500円及び平成27年7月1日から別紙駐車場目録記載の区画番号No.1の駐車場の専用使用権を喪失するまでの間、毎月末日限り1か月2万1750円の割合による金員を支払え。

 被告らは、原告に対し、連帯して、金21万6000円並びに、これに対する被告Y1及び被告Y3は平成27年6月25日から、被告Y2は同年10月14日から、支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 本件マンション分譲契約時の売買対象として本件駐車場は含まれておらず、その後の譲渡等の場面においても所有権ではなく専用使用権の移転として取り扱われてきたことがうかがわれる。また、本件駐車場の各専用部分は区分所有法1条所定の区分所有権の目的となり得るものではなく、これについての被告らの権利は、区分所有者全員の共有に属するマンション敷地を排他的に使用することができる債権的権利であると解するのが相当であり、分譲後は、管理組合と組合員たる専用使用権者との関係においては、法の規定の下で規約及び集会決議による団体的規制に服し、管理組合は法の定める手続要件に従い、規約又は集会決議をもって、専用使用権者の承諾を得ることなく使用料を増額することができるものと解される。

2 そして、当該区分所有関係における諸事情、例えば、①当初の専用使用権分譲における対価の額、その額とマンション本体の価格との関係、②分譲当時の近隣における類似の駐車場の使用料、その現在までの推移、③この間のマンション駐車場の敷地の価格及び公租公課の変動、④専用使用権者がマンション駐車場を使用してきた期間、⑤マンション駐車場の維持・管理に要する費用等を総合的に考慮して、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、このような場合は使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」(区分所有法31条1項後段)を及ぼすものでなく、同項所定の区分所有者の承諾は必要ないものと解される(最判平成10年10月30日)。

3 本件駐車場については日常的な点検の他、塗装作業や漏水部分への対応作業等が行われていることが認められる。上記作業には今後も継続的に費用支出が見込まれ、かつ、本件マンションの老朽化に伴い支出額の増大も見込まれることなどの事情に加え、近隣駐車場の相場や、被告らが当初支払対価に応じた使用利益を十分に得ていると考えられることなども考慮すれば、屋内部分については月額1万円、屋外部分については月額5000円の維持管理費を加算することは、社会通念上の相当性を逸脱するものではないというべきである。

駐車場の専用使用料の増額幅が大きいですが、それでもなお、増額の必要性及び合理性が認められ、有効と判断されました。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

駐車場問題3 マンション駐車場の専用使用権の分譲の対価が分譲業者に帰属すべきものとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション駐車場の専用使用権の分譲の対価が分譲業者に帰属すべきものとされた事案(最判平成10年10月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション駐車場の専用使用権の分譲の代金が分譲業者と管理組合のいずれに帰属するかが争点となった事案である。

【裁判所の判断】

分譲業者に帰属する

【判例のポイント】

1 本件マンションの建物一階部分と本件敷地の一部に設けられた駐車場の専用使用権は、本件マンションの分譲に伴い、上告人Aから特定の区分所有者に分譲されたものであるところ、売買契約書、図面集の記載に照らすと、右専用使用権を取得した特定の区分所有者は右駐車場を専用使用し得るものとされ、また、右専用使用権を取得しなかった区分所有者は右専用使用を認諾・承認すべきものとされていることが明らかである。
そのほか、本件において、分譲業者である上告人Aが、購入者の無思慮に乗じて専用使用権分譲代金の名の下に暴利を得たなど、専用使用権の分譲契約の私法上の効力を否定すべき事情も存しない

2 分譲業者である上告人Aは、営利の目的に基づき、自己の利益のために専用使用権を分譲し、その対価を受領したものであり、さらに、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたと解されるから、右対価は、右分譲契約における合意の内容に従って同上告人に帰属するものというべきである。
この点に関し、上告人Aが、区分所有者全員の委任に基づき、その受任者として専用使用権の分譲を行ったと解することは、右分譲契約における当事者の意思に反するものであるといわなければならない。
また、ある者が自己のためにする意思の下にした行為が、他の者からの受任によってする行為と外形的に同一であったとしても、そのことだけで、関係者の具体的意思に反して、両者の間に委任契約が成立していたということはできないし、具体的な当事者の意思や契約書の文言に関係なく、およそマンションの分譲契約においては分譲業者が専用使用権の分譲を含めて包括的に管理組合ないし区分所有者全員の受任者的地位に立つと解することも、その根拠を欠くものである。

第一審(福岡地小倉支判平成6年2月1日)及び控訴審(福岡高判平成8年4月25日)は、ともにいわゆる受任者説を採用し、原告の分譲業者に対する分譲代金の引渡請求を認めましたが、最高裁は、上記の判例のポイント2のとおり、真逆の判断をしています。

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名誉毀損2 管理費の滞納者を公表する立看板の設置は名誉を害する不法行為を構成せず慰謝料請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費の滞納者を公表する立看板の設置は名誉を害する不法行為を構成せず慰謝料請求が棄却された事案(東京地判平成11年12月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理費の滞納者を公表する立看板の設置は名誉を害する不法行為に該当するかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

不法行為にあたらない

【判例のポイント】

1 本件立看板の文言及びその記載内容は、単に原告B山らが管理費を滞納している事実及びその滞納期間等を摘示したもので、原告B山らには管理費の支払義務があるので、その内容は虚偽ではない。
次に、A町会は、総会における会員の発議により、総会の決議に基づき役員会の決議を経た上で会則の適用を決定し、その後、滞納金額等を公表すること及び管理費納入の意思があれば公表を控える旨を原告B山らに通知し、本件立看板設置前に一応の手段を講じている。
そして、原告B山らの「Aを明るくする会」がA町会を批判してそのメンバーが管理費を滞納していること及び本件立看板は34か所にもわたって設置され、本件別荘地に住民以外の者も出入りできるため、住民以外の者も原告B山らが管理費を滞納している事実を容易に知り得る状態にあったという事情はあるが、A町会としては、管理費を支払っている会員との間の公平を図るべく、原告B山らにつきサービスが停止されたことを関係者(来訪者など)に知らせ、ゴミステーションの利用等浮山町会が提供するサービスを利用させないようにするために、本件立看板を、特にその大半をゴミステーション付近に設置したものであり、公表という措置そのものがもつ制裁的効果はあるとしても、ことさら不当な目的をもって設置したものとまではいえない
また、本件立看板が一年以上設置されたのは、原告B山らが依然として管理費を支払おうとしないためであり、A町会は、管理費を一部でも支払えば氏名を削除するという対応をとっていたものである。

2 このように、本件立看板の設置に至るまでの経緯、その文言、内容、設置状況、設置の動機、目的、設置する際に採られた手続等に照らすと、本件立看板の設置行為は、管理費未納会員に対する措置としてやや穏当さを欠くきらいがないではないが、本件別荘地の管理のために必要な管理費の支払を長期間怠る原告B山らに対し、会則を適用してサービスの提供を中止する旨伝え、ひいては管理費の支払を促す正当な管理行為の範囲を著しく逸脱したものとはいえず、原告B山らの名誉を害する不法行為にはならないものと解するのが相当である。

非常に際どい判決内容となっています。

上記判例のポイントのとおり、本件は、立て看板の設置目的(目的の公益性)を重視されたことからなんとか不法行為責任を免れた感が否めません。

これが単なる制裁目的や支払を間接的に強制する目的である場合には、不法行為責任が認められる可能性も十分ありますのでご注意ください。

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