管理費・修繕積立金8 管理組合による管理が不十分であったことを理由に管理費及び修繕積立金を滞納することの是非(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合による管理が不十分であったことを理由に管理費及び修繕積立金を滞納することの是非(東京地判令和3年4月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合である原告が、本件マンションの一部である本件区分所有建物の区分所有者である被告に対し、未払の管理費及び修繕積立金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告は、令和元年7月6日より前は管理組合が存在せず、支払先も存在しないとか、過去に管理がなされていなかったから管理費等を支払う必要はないなどと主張する。
しかしながら、同日より前であっても、本件原始管理規約が有効に存在しており、これに基づき、区分所有者に管理費等を負担する義務がある

2 また、区分所有法3条によれば、区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を当然に構成するものとされるから、同日より前であっても、同条に基づく団体が存在していたというべきである。
そして、この団体が、同日より前においては、法人格や社団性を備えない民法上の組合にすぎなかったとしても、本件マンションが、居住に耐え得る状態を維持してきたこと、過去にも実際に管理費等が支払われていた事実があることなどからすれば、その間、その団体によって保存、管理行為が行われていたものと推認され、構成員である区分所有者が、その費用を負担しない理由はない(なお、実際に、Aが、共用部の清掃や修理修繕を行っていた事実が認められ、委任ないし事務管理に基づく費用が発生している余地がある。)。

3 また、被告は、管理状況等の書類が開示されない限り支払わないといった趣旨の主張もするが、これは、原告からの支払請求に対し何らの抗弁にもならない。

被告は、本件訴訟において「被告が本件区分所有建物を取得した時点では、エレベーターが動いておらず、ゴミなども落ちて汚れており、管理がされていなかったものといえる。」と主張しましたが、上記判例のポイント2のとおり、この主張は採用されませんでした。

仮にエレベーターが動いておらず、ゴミ等が落ちて汚れていたとしても、そのことをもって管理費・修繕積立金を支払われない理由とはなりません。

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管理組合運営8 管理組合が保管する管理規約及び議事録の閲覧謄写請求が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合が保管する管理規約及び議事録の閲覧謄写請求が認められなかった事案(東京地判令和3年4月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告に対し、管理組合規約57条3項に基づき被告の保管する別紙請求文書目録記載の文書について閲覧及び謄写を求める請求である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件管理規約によれば、謄写を認める規定はない。謄写をするに当たっては、謄写作業を要し、謄写に伴う費用の負担が生じるといった点で閲覧とは異なる問題が生じるのであるから、閲覧が許される場合に当然に謄写も許されるということはできないのであり、謄写請求権が認められるか否かは、当該規約が謄写請求権を認めているか否かによるものと解される。
本件管理規約には、上記のとおり閲覧を認める規定はあるが、謄写を認める規定は存しないのであり、原告が謄写請求権を有するとする主張には理由がない

2 原告は、閲覧謄写を求める文書のうち、規約についてY管理組合規約の効力発生日(昭和54年7月1日)から提訴時(令和2年2月7日)までに改正された規約原本及び改正履歴の閲覧謄写を求める。
しかしながら、規約については、区分所有者及びそれ以外の利害関係人に影響を及ぼすことから、閲覧が保障さなければならないのがその趣旨であるところ、上記の趣旨に鑑みれば現に効力を有しているものと解するのが相当である。

3 原告が請求する総会議事録及び理事会議事録は膨大である。原告は第6期頃には理事長だったのであり、同時期以前の記録は保管していたことが認められるほか、他にも、被告が自認するだけでも、一部の議事録の交付を受けていることが認められる。
さらに、本訴提起後の令和2年9月16日にも、日時について一定の候補を挙げた上で、閲覧日時の通知を行い、また、同年10月7日にも場所及び時間を指定した上で(同月26日午後1時から本件マンション管理棟2階の第2会議室)閲覧をする機会を与えていることが認められる。
以上によれば、原告の請求については、原告が所持している議事録についての重複請求が含まれているほか、現に被告が閲覧時間及び場所を確保し提供しているのにこれを拒否している事実が認められるから、現時点においては、被告には閲覧を拒否する正当な理由が認められる

原告が閲覧謄写を求めた文書は、理事会議事録、定期総会及び臨時総会議事録、管理規約原本です。

区分所有法33条、同42条においても、正当な理由がある場合を除いて、規約や議事録の「閲覧」を拒んでならないとされています(「謄写」に関する明文規定はなし)。

本裁判例では、上記判例のポイントのとおり、①謄写請求は認められない、②現に効力を有するもののみが対象となる、③閲覧を拒否する正当な理由があると判断しました。

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管理会社等との紛争4 管理組合及び管理会社はマンション地下駐車場に防犯カメラを可及的速やかに設置する法的義務を負うか(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合及び管理会社はマンション地下駐車場に防犯カメラを可及的速やかに設置する法的義務を負うか(東京地判令和3年5月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告らに対し、被告らの義務違反により精神的苦痛を被ったとして、360万円の慰謝料+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告の主張
ア 原告車両は、平成22年頃から平成27年までの間、何者かによって、度々、傷を付けられた。
イ 被告管理組合は、本件総会決議に基づき、可及的速やかに、本件マンション地下駐車場に防犯カメラを設置すべき義務を負っていた。それにもかかわらず、平成28年11月2日に防犯カメラを設置するまで、これを怠った。
ウ 被告会社は、被告管理組合に対し、本件マンション地下駐車場に防犯カメラをできる限り早期に設置するよう働きかける法的義務を負っていたにもかかわらず、これを怠った。

2 認定事実
ア 被告管理組合は、遅くとも平成26年9月25日までには、原告から原告車両の傷について被害申告を受けた。そこで、写真により傷の存在を確認し、既設の防犯カメラ映像から不審者の有無を確認したものの、不審者の存在を確認できなかった。また、原告車両の損傷の原因や、それが本件マンションの地下駐車場で発生したものであることを確認できなかった。
イ 本件総会決議後の平成28年7月、被告管理組合の当時の代表者理事長が死亡した。
ウ その後、被告管理組合は、後任役員の選任や理事会開催日時の調整等の諸手続を経て、同年9月11日に理事会を開催し、新理事長を互選し、本件総会決議に基づき、本件マンションの地下駐車場に防犯カメラを増設することについて、発注することを決定した。
エ 被告管理組合は、同年10月に増設の発注をし、原告との工事予定日の調整等を経て、同年11月2日に増設を完了した。

3 被告管理組合可及的速やかに本件総会決議に基づく防犯カメラの設置をすべき注意義務を負っていたとまではいい難い
また、被告管理組合の理事会で防犯カメラの増設の発注を決定するまでに時間を要したことにはやむを得ない理由があると認められる。
他に、被告管理組合が故意に防犯カメラの設置を遅延させたなどと認めるに足りる主張立証もない。
以上によれば、被告管理組合による防犯カメラの設置が、社会通念上、違法と評価すべき程度にまで遅延したということはできない
そうすると、原告の主張する被告管理組合による債務不履行又は不法行為が成立するとはいえない。
原告は、被告管理組合による債務不履行又は不法行為が成立することを前提として、被告会社による債務不履行又は不法行為が成立すると主張している。上記によれば、前提となる被告管理組合による債務不履行等の成立を認めることができないから、上記主張も採用できない。

認定事実を見る限り、そもそも管理組合が防犯カメラを設置する法的義務を負っていたとはいえないと思います。

いわんや、可及的速やかに設置する義務は認められないでしょう。

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漏水事故2 マンションの特定の専有部分からの汚水が流れる排水管の枝管が共用部分に当たるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの特定の専有部分からの汚水が流れる排水管の枝管が共用部分に当たるとされた事案(最判平成12年3月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告及び被告らが居住する東豊エステートについて、原告が区分所有する707号室と被告鳥羽が区分所有し、同中村とともに居住する607号室は上下階の関係にあるところ、607号室の天井から水漏れ事故が発生し、607号室の天井裏を通っている排水管が原因しているとして、原告が被告らに対し、右排水管が本件建物の区分所有者全員の共用部分であることの確認を求めるとともに、被告鳥羽及び同中村に対し、水漏れによる損害賠償義務のないことの確認を求め、被告管理組合に対しては、原告が水漏れ費用の立替払いをしたとしてその求償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

原告と被告らとの間で、東豊エステート607号室天井内に設置されている別紙図面赤線部分の排水管は、東豊エステート区分所有者全員の共用部分であることを確認する。

原告は被告中村及び同鳥羽に対して、平成6年12月23日ころ発生した別紙図面の赤線部分の排水管に起因する水漏れによる損害賠償金21万6516円の支払い債務のないことを確認する。

被告管理組合は原告に対し、金12万7200円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件建物の707号室の台所、洗面所、風呂、便所から出る汚水については、同室の床下にあるいわゆる躯体部分であるコンクリートスラブを貫通してその階下にある607号室の天井裏に配された枝管を通じて、共用部分である本管(縦管)に流される構造となっているところ、本件排水管は、右枝管のうち、右コンクリートスラブと607号室の天井板との間の空間に配された部分である。
本件排水管には、本管に合流する直前で708号室の便所から出る汚水を流す枝管が接続されており、707号室及び708号室以外の部屋からの汚水は流れ込んでいない。
本件排水管は、右コンクリートスラブの下にあるため、707号室及び708号室から本件排水管の点検、修理を行うことは不可能であり、607号室からその天井板の裏に入ってこれを実施するほか方法はない。
本件排水管は、その構造及び設置場所に照らし、区分所有法2条4項にいう専有部分に属しない建物の附属物に当たり、かつ、区分所有者全員の共用部分に当たると解するのが相当である。

2 (原審:東京高判平成9年5月15日)本件排水管は、特定の区分所有者の専用に供されているのであるが、その所在する場所からみて当該区分所有者の支配管理下にはなく、また、建物全体の排水との関連からみると、排水本管との一体的な管理が必要であるから、これを当該専有部分の区分所有者の専有に属する物として、これをその者の責任で維持管理をさせるのは相当ではない。また、これが存在する空間の属する専有部分の所有者は、これを利用するものではないから、当該所有者の専有に属させる根拠もない。
結局、排水管の枝管であって現に特定の区分所有者の専用に供されているものでも、それがその者の専有部分内にないものは、共用部分として、建物全体の排水施設の維持管理、機能の保全という観点から、法の定める規制に従わせることが相当であると判断される。
よって、本件排水管は、専有部分に属しない建物の付属物として、共用部分であるというべきである。

今や実務上確定している考え方ですので、しっかりと押さえておきましょう。

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義務違反者に対する措置12 3年11箇月にわたる合計169万円を超える管理費等の滞納を理由とする59条競売請求(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、3年11箇月にわたる合計169万円を超える管理費等の滞納を理由とする59条競売請求(東京地判令和3年6月11日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

3年11箇月にわたる合計169万円を超える管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認められるかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

原告は、被告の所有する区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができる。

被告は、原告に対し、120万6943円及びうち81万円に対する令和2年12月9日から支払済みまで年18%の割合による金員を支払え。。

【判例のポイント】

1 被告は、年利18%の遅延損害金が高すぎて公序良俗に違反するとも主張するが、利息制限法4条1項の定める割合に照らしても、遅延損害金の割合が高すぎるためにこれを定める本件管理組合の管理規約の規定が公序良俗に違反して無効であるとはいえず、被告の主張は採用できない。

2 本件建物には3つの抵当権設定登記がされており、その被担保債権の合計額は2520万円であるところ、本件建物の固定資産評価は435万4000円であり、本件建物の敷地権については3筆の土地の固定資産評価の合計2億3114万4640円に持分30万1272分の5040を乗じた金額は386万円余であるから、固定資産評価の価格が低めに設定されており、未払管理費等については法7条による先取特権が認められ得ることを考慮しても、本件建物に対する強制競売等によって未払管理費等を回収する見込みはないと認められる。

3 被告による管理費等の滞納は3年11箇月にわたり合計169万円を超えるものと認められるところ、本件マンションの保存や管理運営のために区分所有者が共同で負担すべき費用をこのように長期かつ多額にわたり滞納する被告の行為は法6条1項の「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるというべきである。
そして、本件判決後も被告が未払管理費等を支払わないことなどからすると、被告が任意にこれを支払う見込みはなく、被告の管理費等の滞納額は今後も増大する一方となることが推認されるところ、本件建物に対する強制競売等によっても未払管理費等を回収する見込みがないことからすれば、上記の被告の行為により「区分所有者の共同生活上の障害が著しく,他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難」(法59条1項)な状態が生じていると認めるべきである。

オーソドックスの内容は裁判例です。

59条競売は伝家の宝刀です。その前の準備を怠らないことが大切です。

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騒音問題1 生活騒音(深夜の洗濯機使用)の差止請求が立証不十分を理由に棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、生活騒音(深夜の洗濯機使用)の差止請求が立証不十分を理由に棄却された事案(東京地判令和3年6月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、集合住宅の上の階に居住する被告に対し、被告が深夜に洗濯機を使用することにより原告の居室に受忍限度を超える騒音が到達し、原告の人格権を侵害していると主張して、不法行為に基づき、騒音の差止めを求めるとともに、原告に対する慰謝料+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、被告が午後10時から午前7時までの深夜帯に洗濯機及び乾燥機を稼働させることにより原告に受忍限度を超える騒音被害を与え、これが被告の原告に対する不法行為に当たる旨を主張し、近隣の者が被告による騒音を確認した書面であるとする騒音確認書を提出するとともに、原告居室の騒音を計測した計測器を撮影したとする写真写しを提出する。
しかし、騒音確認書の各記載は、「502号室を起因とする、騒音の確認をしました」という印字された文書に作成者が日付と署名、押印をしたものに過ぎず、被告が、いつ、どこで、どの程度の強度の騒音をどの程度の時間発したものかすら特定できていないものであり、同証拠によっても、被告が本件行為に及んだことについて客観的な裏付けがされたということはできない。
また、計測写真についても、音量測定器に45デシベル以上の表示がされた状態を撮影した写真であることは認められるものの、何の音を計測したものかは不明であり、同証拠によっても、被告が本件行為に及んだことについて客観的な裏付けがされたということはできない。
以上によれば、被告により原告に社会生活上受忍すべき限度を超える騒音が到達していたと認めることはできない。

生活騒音については、通常、慰謝料請求のほか、人格権ないし所有権に基づく妨害排除請求権としての生活騒音の差止め請求を行うことが多いですが、まずは騒音の「存在」及び「原因」の特定・立証が求められます。

本件では、立証不十分のため請求が認められませんでした。

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漏水事故1 漏水事故につき管理組合の管理義務違反を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故につき管理組合の管理義務違反を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京高判令和3年9月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの専有部分の区分所有者である一審原告が、本件マンションにおける区分所有法3条の団体(管理組合)である一審被告に対し、本件建物において発生した天井からの2回に及ぶ漏水事故は、一審被告が本件マンションの管理規約に基づき一審原告に対して負っている共用部分の管理義務の履行を怠ったために発生したものであるとして、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、本件建物の修繕費用として390万円の、漏水事故によって一審原告が本件建物を賃貸できなかったことによる逸失利益として平成23年1月1日から判決確定まで1か月当たり14万1500円の割合による損害金の各賠償を求める事案である。

原審は、一審原告の請求のうち、本件建物の修繕費用390万円全額と、賃料の逸失利益466万9500円(月額14万1500円の33か月分)との合計856万9500円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分を認容し、その余を棄却したところ、一審原告及び一審被告がそれぞれの敗訴部分を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

一審被告の控訴に基づき、原判決中一審被告の敗訴部分を取り消す。

前項の部分について、一審原告の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件マンションの規模や現況、管理組合の財政状態等の状況に照らせば、仮に、一審原告が主張するように、管理組合である一審被告が個別の区分所有者に対して本件マンションの建物等の維持管理をする債務を負うと解したとしても、その債務の内容は、建物等に瑕疵が一切存在しない状態を常時維持するというようなものではあり得ず、その時々の管理費等の積立額、区分所有者らの意向、当該瑕疵による損害発生の切迫度等の諸事情を総合的に考慮して、一審被告ないしはその管理者の合理的な裁量によって、修繕工事の内容や時期を決定し、数年あるいはそれ以上に長期の年月をかけて、順次これを実施していくというものにならざるを得ないのは当然であり、特に、区分所有者の中に一審原告のように管理費等を滞納する者がいる場合や、大規模な修繕工事のために近い将来における多額の費用の支出が見込まれる場合などには、なおさらである。
そうすると、一審原告が、一審被告に対し、一審被告において本件分電盤の修繕や汚水桝の清掃をしなかったことが一審原告に対する債務不履行に当たるとして、その責任を追及するためには、一審原告において、一審被告には善良な管理者の注意をもって建物等の共用部分の維持管理をする義務があるというような抽象的な主張をするだけでは足りないのであって、一審被告が本件各漏水事故が発生する前のそれぞれの時期において本件分電盤を修繕し、汚水桝を清掃すべきことが善管注意義務に基づく建物等の管理業務の具体的な内容となっていたことを基礎付ける事由を、主張立証する責任があるというべきである。
しかし、一審原告は、そのような事由を主張立証していない。

2 結局、一審原告は、偶々本件各漏水事故が本件分電盤の故障と汚水桝の目詰まりを原因として発生したという結果から遡って、いわば後知恵として、第一漏水事故が発生する前に本件分電盤を修繕し、第二漏水事故が発生する前に汚水桝を清掃しておくべき義務が一審被告(管理者)にはあったと主張しているにすぎないのであって、上記の主張立証責任を果たしていないというべきである。
このように、抽象的に管理組合が区分所有者に対して善管注意義務をもって建物等を管理する債務を負うとしてみたところで、当時の具体的状況の下での義務の内容は不特定のままであって、本件各漏水事故が発生した当時において、その債務の具体的な内容に他の業務に優先して本件分電盤の修理や汚水桝の清掃をすべき義務が含まれていたことの主張立証がされていないことになるから、一審被告(管理者)においてそれらの管理業務を行わなかったことをもって債務不履行に当たるということはできず、一審原告の主張は、失当というほかない。

原審(東京地判平成31年4月23日)判決とは180度異なる判断をしています。

漏水事故発生時の対応については、上記判例のポイント1の考え方をしっかりと理解しておく必要があります。

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管理費・修繕積立金7 一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料につき生ずる不当利得返還請求権を他の区分所有者が行使することができないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料につき生ずる不当利得返還請求権を他の区分所有者が行使することができないとされた事案(最判平成27年9月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者の1人である上告人が、同じく本件マンションの区分所有者である被上告人に対し、不当利得返還請求権に基づき、被上告人が本件マンションの共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち共用部分に係る上告人の持分割合相当額の金員及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権は各区分所有者に帰属するから、各区分所有者は、原則として、上記請求権を行使することができるものと解するのが相当である。

2 建物の区分所有等に関する法律は、区分所有者が、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体(区分所有者の団体)を構成する旨を規定し(3条前段)、この団体の意思決定機関としての集会の招集手続並びに決議の方法及び効力等や、この団体の自治的規範としての規約の設定の手続及び効力等を規定している(第1章第5節)。
また、同法18条1項本文及び2項は、区分所有者に建物の区分所有という共同の目的があり、この共同目的達成の手段として共用部分が区分所有者全員の共有に属するものとされているという特殊性に鑑みて、共用部分の管理に関する事項は集会の決議で決するか、又は規約で定めをする旨を規定し、共用部分の管理を団体的規制に服させている。
そして、共用部分を第三者に賃貸することは共用部分の管理に関する事項に当たるところ、上記請求権は、共用部分の第三者に対する賃貸による収益を得ることができなかったという区分所有者の損失を回復するためのものであるから、共用部分の管理と密接に関連するものであるといえる。
そうすると、区分所有者の団体は、区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を集会で決議し、又は規約で定めることができるものと解される。
そして、上記の集会の決議又は規約の定めがある場合には、各区分所有者は、上記請求権を行使することができないものと解するのが相当である。
そして、共用部分の管理を団体的規制に服させている上記のような建物の区分所有等に関する法律の趣旨に照らすと、区分所有者の団体の執行機関である管理者が共用部分の管理を行い、共用部分を使用させることができる旨の集会の決議又は規約の定めがある場合には、上記の集会の決議又は規約の定めは、区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解される。

3 これを本件についてみると、本件マンションの管理規約には、管理者が共用部分の管理を行い、共用部分を特定の区分所有者に無償で使用させることができる旨の定めがあり、この定めは、区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解すべきであるから、上告人は、不当利得返還請求権を行使することができない。

最高裁は、区分所有者個人が個別に不当利得返還請求権を行使することは、原則として認められるとしつつ、本件においては、例外にあたるため、認められないと判断しました。

ただ、実際のところ、最高裁が示した原則に該当するマンションがどれほどあるのでしょうか。

多くのマンションが、本件同様、例外にあたり、結果、個人による不当利得返還請求ができないことになると思われます。

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管理会社等との紛争3 エレベーター保守会社とマンション管理組合との間におけるエレベーター保守管理契約が管理組合により契約期間途中で解除された場合においても管理組合が損害賠償責任を負うものではないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、エレベーター保守会社とマンション管理組合との間におけるエレベーター保守管理契約が管理組合により契約期間途中で解除された場合においても管理組合が損害賠償責任を負うものではないとされた事案(東京地判平成15年5月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告から期間の定めのあるエレベーター保守管理契約によってエレベーター保守点検業務の委託を受けていた原告が、業務委託者である被告に対し、期間満了前になされた保守管理契約解除に伴う債務不履行による損害賠償請求権に基づいて、逸失利益相当額の金288万8550円及びこれに対する解除の日の翌日から支払済みまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件契約の内容は、その性質は、期間の定めのある有償の準委任契約と解され、したがって、本件契約には、民法656条により、民法の委任契約に関する規定が準用される。そして、民法656条が準用する651条2項本文は、「当事者の一方が相手方のために不利なる時期に於て委任を解除したるときは其の損害を賠償することを要す」と規定しているところ、本条項の「不利なる時期」とは、その委任の内容である事務処理自体に関して受任者が不利益を被るべき時期をいい、したがって、事務処理とは別の報酬の喪失の場合は含まれないものと解される(最判昭和四三年九月三日第三小法廷判決参照)。
そして、本件において、原告が主張する本件解約に伴って発生した不利益は、事務処理とは別の報酬の喪失に他ならず、報酬は原告が月々のエレベーター保守管理サービスを行うことによって発生するものであること、本件解約によって原告において従業員の配置を見直したり従業員を解雇したなどといった事情を認めるに足りる証拠はなく、被告が90日間の猶予をもって本件解約通知を行っていることからすると、本件解約は「不利な時期」においてなされた場合に当たらないものと認めるのが相当である。

2 原告は、期間の定めのある有償である本件契約においては、委任者である被告は、本件解約に伴い逸失利益相当額の損害賠償債務を負う旨主張するが、仮にそのように解すると、被告は、解約後においても、契約に伴う利益を享受することがないにもかかわらず、その対価のみは負担しなければならないことになって、解約をすることが全く無意味となり、当事者間の信頼関係を基礎とする委任契約について、民法651条が解約を認めた趣旨を没却することとなって、相当ではない。

本件は、管理委託契約ではなく、エレベータ保守管理契約ですが、契約期間の途中での解約に関する考え方がよくわかります。

民法651条2項の「不利な時期」の意義はよく理解しておきましょう。

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ペット問題11 管理規約・使用細則に基づくペット飼育の全面禁止の有効性(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理規約・使用細則に基づくペット飼育の全面禁止の有効性(東京地判平成23年12月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合である原告が、同マンションの区分所有者である被告に対し、管理規約(ないしこれに基づく使用細則)に基づき、上記マンション内における犬の飼育の差止めを求めるとともに、不法行為に基づき、弁護士費用相当損害金30万円+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

被告は、物件内で犬を飼育してはならない。 

被告は、原告に対し、20万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件マンションの使用細則第1条1号では「他の区分所有者に、迷惑または危害を及ぼすような動物(犬、猫、猿等)を飼育すること」を禁止しているところ、これを素直に読めば一般的・抽象的に他の区分所有者に迷惑又は危害を及ぼす動物として犬、猫、猿を列挙しているものであり、特に猛犬などに限定している趣旨とは解されないし、実際、ある特定の犬、猫等が他の区分所有者に迷惑又は危害を及ぼすかどうかを個別具体的に判断することは困難であり、それによってマンションの住民間で紛争を生ずるおそれもあることから、上記使用細則を被告主張のように解することは相当でない。
したがって、被告が本件犬を物件内で飼育することは許されないものというべきである。
ちなみに、犬については、噛みつくなどの人などへの直接的な危害行為はもとより、その鳴き声、臭気、体毛の飛散等によりマンション内での飼育により他の住人が不快感を抱くこと(動物アレルギーの者もいることがある。)はしばしば起こり得ることであり、上記細則のような定めを設けることは十分な合理性がある。

2 被告は犬の飼育が本件マンションの使用細則に違反するものであることを知りながら犬の飼育を継続し、原告からのペット異臭改善勧告に対して誓約書を提出して迷惑行為事項の改善及び居住者からの苦情が再発した場合、直ちに本件マンション内におけるペット飼育を中止することを誓約したにもかかわらず、依然として原告に対する異臭の苦情が寄せられたが、被告は本件犬の飼育を継続したため、原告は弁護士に依頼して本件訴えを提起せざるを得なくなったものと認められ、被告の本件犬の飼育は原告に対する不法行為を構成する。
そして、本件事案の難易及び認容状況、訴え提起に至る経緯、被告の応訴の状況その他本件に顕れた一切の事情にかんがみると、上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は20万円と認めるのが相当である。

本件裁判例も他の同種事案における裁判例同様、管理規約や使用細則の限定解釈はしていません。

上記判例のポイント1記載のとおり、他の区分所有者への危害・迷惑の有無を個別具体的に判断することは困難であることが実質的な理由です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。