ペット問題12 マンションの区分所有者である被告らが規約等によって動物を飼育することが禁止されているにもかかわらず、犬ないし猫を飼育するおそれがあると主張して、その飼育禁止を求めた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの区分所有者である被告らが規約等によって動物を飼育することが禁止されているにもかかわらず、犬ないし猫を飼育するおそれがあると主張して、その飼育禁止を求めた事案(東京地判平成18年2月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本訴は、マンションの区分所有者全員により構成された団体である本訴原告が、同マンションの区分所有者である本訴被告らは、規約等によって、マンションの専有部分で動物を飼育することが禁止されているにもかかわらず、犬ないし猫を飼育するおそれがあると主張して、本訴被告Y1に対しては犬の飼育禁止を、本訴被告Y2に対しては猫又は犬の飼育禁止をそれぞれ求めている事案である。

反訴は、反訴原告らが、反訴被告に対し、反訴被告(本訴原告)による本訴の提起は反訴原告(本訴被告)らに対する不法行為を構成すると主張して、不法行為による損害賠償を求めている事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求認容

反訴請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、ペットを飼育している居住者らの意見を聞く機会を設け、全居住者に対するアンケートを行うなどして、ペット飼育に関する本件マンションの居住者の意向を調査した上、本件臨時総会を開催したところ、同総会において、本件動物飼育禁止条項の改定案は否決され、ペット飼育を終了させるための措置に関する議案が可決された。
そこで、原告は、本件臨時総会の議決に従って、被告Y1に対しても、ペットの飼育を任意に終了させることを試みたが、同被告は、期限及び条件を遵守する旨の誓約書を提出せず、誓約書未提出者の意見陳述会にも欠席し、結局、同被告がペット飼育終了届を提出したのは、猶予期間から4か月以上経ってからであった。しかも、同被告は、その後も本件建物1で犬を飼育し、原告の当時の理事長や代理人弁護士からの飼育中止の要請に対して、一時的な飼育は禁止されていないなどと弁解して、これに従おうとしなかった。
以上の経過からすると、ペット飼育問題に関する被告Y1の対応は、不誠実なものといわざるを得ず、同被告は本件動物飼育禁止条項を遵守しようとする意識に乏しいものと認めざるを得ない。
これらの諸事情に照らせば、被告Y1には、今後も本件建物1において犬を飼育するおそれがあると認められる。

2 原告は、本件臨時総会の議決に従って、被告Y2に対しても、ペットの飼育を任意に終了させることを試みたが、同被告は、原告からの度重なる働きかけに対して何らの対応もせず、ペットを飼育していた区分所有者らの中で、同被告のみが未だにペット飼育終了届を提出していない。
そして、被告Y2は、本訴に係る答弁書において、「原告は今まで一度も話し合いに来たことはない。今までのペットに関する審議、議決には作為があり、一切無効である。責任者は辞任だ。ルールを決めてペット飼育を可能にしてはどうか。」などと、本件臨時総会に至る経緯や本件臨時総会での議決内容、更には原告からの度重なる働きかけを全く顧みない主張をしている。
以上のことからすると、ペット飼育問題に関する被告Y2の対応は、極めて不誠実なものといわざるを得ず、同被告は本件動物飼育禁止条項を遵守しようとする意識に乏しいものと認めざるを得ない。
これらの諸事情に照らせば、被告Y2には、今後も本件建物2において猫又は犬を飼育するおそれがあると認められる。

裁判所は、これまでの経緯、被告らの不誠実な対応を考慮し、犬猫の飼育禁止請求を認容しました。

なお、このような差止め請求は、具体的な実害の発生は要件とされていません。

また、判決に基づき強制執行をする場合には、間接強制によることになりますので注意しましょう(直接強制はできません)。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争5 管理会社が中心的立場に立って管理組合名義で滞納管理費等を請求債権として民事執行手続を申し立てたことが不法行為にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理会社が中心的立場に立って管理組合名義で滞納管理費等を請求債権として民事執行手続を申し立てたことが不法行為にあたらないとされた事案(東京地判令和3年1月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である原告が、当該マンション管理組合から管理業務を受託していた被告に対し、原告に管理費等の滞納がなかったにもかかわらず、被告が中心的立場に立って管理組合名義で滞納管理費等を請求債権として民事執行手続を申し立てたことが不法行為に該当するとして、民事執行手続に対応するために要した費用等合計100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件競売事件を申し立てたことが違法であると主張するところ、本件競売事件を申し立てたのは本件管理組合であることが認められる。
この点について、原告は、本件競売事件の申立てについて被告が主体的かつ中心的な立場にあったものであるから責任があると主張する。
しかし、本件競売事件の申立ては、本件管理組合の権利を実現するため、本件管理組合の名義で申し立てられたものであるから、仮にその申立てに違法な点があったならば本件管理組合が責任を問われることはあり得るものの、本件管理組合から管理業務を受託していたにすぎない被告については、特段の事情のない限りは責任を負うことはないものというべきである。
しかし、本件証拠によってもそのような事情を認めることはできない。
よって、その余について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。

そもそも論のところで請求根拠がないと判断されています。

しかしながら、管理会社としては、このような紛争に巻き込まれる可能性を十分に理解しておく必要があります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

騒音問題3 マンションの階上の住戸からの子供が廊下を走ったり跳んだり跳ねたりする音が階下の住戸に居住する住民が社会生活上受忍すべき限度を超えるとして上記住民の上記子供の父親に対する損害賠償請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの階上の住戸からの子供が廊下を走ったり跳んだり跳ねたりする音が階下の住戸に居住する住民が社会生活上受忍すべき限度を超えるとして上記住民の上記子供の父親に対する損害賠償請求が認容された事案(東京地判平成19年10月3日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの階上の住戸からの子供が廊下を走ったり、跳んだり跳ねたりする音が階下の住戸に居住する住民が社会生活上受忍すべき限度を超えるとして、上記住民の上記子供の父親に対する損害賠償請求が認められるかが争われた事例である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、36万円+遅延遅延金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件音は、被告の長男(当時3~4歳)が廊下を走ったり、跳んだり跳ねたりするときに生じた音である。
本件マンション2階の床の構造によれば、1重量床衝撃音遮断性能(標準重量床衝撃源使用時)は、LH-60程度であり、日本建築学会の建築物の遮音性能基準によれば、集合住宅の3級すなわち遮音性能上やや劣る水準にある上、本件マンションは、3LDKのファミリー向けであり、子供が居住することも予定している。
しかし、平成16年4月ころから平成17年11月17日ころまで、ほぼ毎日本件音が原告住戸に及んでおり、その程度は、かなり大きく聞こえるレベルである50~65dB程度のものが多く、午後7時以降、時には深夜にも原告住戸に及ぶことがしばしばあり、本件音が長時間連続して原告住戸に及ぶこともあったのであるから、被告は、本件音が特に夜間及び深夜には原告住戸に及ばないように被告の長男をしつけるなど住まい方を工夫し、誠意のある対応を行うのが当然であり、原告の被告がそのような工夫や対応をとることに対する期待は切実なものであったと理解することができる。
そうであるにもかかわらず、被告は、床にマットを敷いたものの、その効果は明らかではなく、それ以外にどのような対策を採ったのかも明らかではなく、原告に対しては、これ以上静かにすることはできない、文句があるなら建物に言ってくれと乱暴な口調で突っぱねたり、原告の申入れを取り合おうとしなかったのであり、その対応は極めて不誠実なものであったということができ、そのため、原告は、やむなく訴訟等に備えて騒音計を購入して本件音を測定するほかなくなり、精神的にも悩み、原告の妻には、咽喉頭異常感、食思不振、不眠等の症状も生じたのである。

2 以上の諸点、特に被告の住まい方や対応の不誠実さを考慮すると、本件音は、一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えるものであったというべきであり、原告の苦痛を慰謝すべき慰謝料としては、30万円が相当であるというべきである。

騒音の存在及び原因の立証の準備をし、弁護士費用をかけ、1年以上にわたり訴訟を行った結果、30万円の慰謝料が認容されました。

難しい問題ですね。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

騒音問題2 同一ビル内のスナックでの夜間におけるカラオケ機器の使用差止請求が、受忍限度を超える騒音であることの立証がなされていないことを理由に棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、同一ビル内のスナックでの夜間におけるカラオケ機器の使用差止請求が、受忍限度を超える騒音であることの立証がなされていないことを理由に棄却された事案(東京地判令和3年2月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、原告建物と同一のビル内にある被告建物においてスナックを経営している被告Y1が、同スナックにおいて夜間にカラオケ機器を使用しており、原告の受忍限度を超える騒音を発生させ、被告建物の賃貸人である被告Y2は、被告Y1によるカラオケ機器の違法な利用を放置しているとして、いずれも、人格権に基づく差止請求として、被告Y1については被告建物において、毎日午後11時から翌日午前6時までの間、カラオケ機器の使用をしないことを、被告Y2については、被告建物において、毎日午後11時から翌日午前6時までの間、被告Y1をしてカラオケ機器の使用をさせないことを求めるとともに、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、原告が原告建物での居住を開始した平成30年9月22日から被告らが被告建物に防音工事を実施した令和元年9月7日までの慰謝料100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ある施設の運営に伴う騒音による被害が第三者に対する関係において、違法な権利侵害ないし利益侵害になるかどうかは、侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、当該工場等の所在地の地域環境、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の諸般の事情を総合的に考察して、被害が一般社会生活上受忍すべき程度を超えるものかどうかによって決すべきである。
当該施設の運営が法令等に違反するものであるかどうかは、右の受忍すべき程度を超えるかどうかを判断するに際し、右諸般の事情の一つとして考慮されるべきであるとしても、それらに違反していることのみをもって、第三者との関係において、その権利ないし利益を違法に侵害していると断定することはできない(最判平成6年3月24日)。

2 被告Y1が、本件店舗を営業していた時点では、食品衛生法施行令35条1号所定の飲食店営業を営む者に該当したこと、世田谷区が平成31年2月6日に実施した調査において、被告建物内で本件カラオケ機器を使用した場合に、出入口ドアの外側へ本件カラオケ機器による音が漏れていたこと、被告らが令和元年9月になってから本件防音工事を実施しており、それ以前は、被告店舗に適切な防音対策が施されていなかったものと考えられることからすれば、本件カラオケ装置から発する音が防音対策を講ずることにより本件店舗の営業を営む場所の外部に漏れない場合には当たらず、被告Y1が本件店舗内において午後11時から翌日の午前6時までの間に本件カラオケ機器を使用することは、本件防音工事がなされた同月7日までについては、本件規制に反するものであったことは否定し難い
そして、原告が、被告Y1に対してカラオケ装置の音量を下げるよう申し入れ、被告Y1に本件カラオケ装置の一時的な使用中止の対応をとらせたり,警察署や世田谷区に対して騒音被害を相談したことからすれば、少なくとも主観的には、本件カラオケ装置から発せられる音について問題を感じていたものと認められる

3 しかしながら、本件マンションは、店舗用の専用部分と居住用の専用部分とから構成され、本件マンション内にも本件店舗とは別の店舗が存在し、周辺にもパチンコ店等の商業施設が存在するから、本件マンションの共用部分は日常的に種々の音が生じ又は届く環境にあり、原告もそれを認識した上で原告建物に入居したものと推認できるところ、原告は、原告の居住空間である原告建物内における客観的な騒音の測定結果を一切提出しない
また、原告が、騒音の発生を示す客観的な資料として提出するスマートフォンのアプリによる測定結果についても、いずれも、その測定した対象、測定方法及び同アプリの正確性が明らかとはいえず、実際に、これらの証拠に示された程度の騒音が被告建物から発せられていたことを裏付けるものとはいい難い上、原告建物は、被告建物から、全長3メートル程度の廊下を挟んで存在し、本件店舗営業中は防火扉によって隔てられ、原告建物と被告建物の間に、別の店舗が存在するという位置関係にあるのであるから、本件カラオケ機器から発せられる音が原告建物内にどの程度の音量で到達していたかを認めるに足りるものでもない。
世田谷区が実施した騒音測定の結果についても、被告建物の出入口付近での測定しか実施されておらず、原告建物内に到達していた本件カラオケ機器の音の程度を認め得るものではない。
したがって、被告Y1が、本件カラオケ機器を使用することにより、原告の受忍限度を超えるような騒音を発していたと認めるに足りる証拠はなく、原告の主張は採用できない。

まずは、上記判例のポイント1の最高裁判決を押さえておきましょう。

騒音問題は、騒音の「存在」と「原因」を客観的に立証する必要があります。

主観的に「うるさい」というだけでは、勝てるものも勝てません。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営11 管理規約に管理組合保管の書類の閲覧請求を認める規定のみがある場合における謄写請求をすることの可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理規約に管理組合保管の書類の閲覧請求を認める規定のみがある場合における謄写請求をすることの可否(東京高判平成23年9月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である被控訴人らが、本件マンションの管理組合法人である控訴人に対し、平成18年度ないし平成20年度の控訴人の総勘定元帳、現金出納帳、預金通帳及びそれらを裏付ける領収証、請求書等の会計関係書類一切の閲覧及び謄写を求めた事案である。

本件マンションの管理組合規約(本件規約)においては、控訴人理事長が会計帳簿等を作成・保管し、組合員又は利害関係人の閲覧請求があったときはこれを閲覧させなければならず、控訴人理事長は、この場合、閲覧につき相当の日時、場所等を指定することができる旨が規定されているものの、謄写請求については何らの規定も設けられていないが、被控訴人らは、閲覧請求の定めには謄写請求も含まれると解するのが当事者の合理的意思に適う等と主張した。

原審は、閲覧請求についてはこれを認容し、謄写請求については、閲覧請求の趣旨に鑑み、閲覧に加えて謄写も求めることができるとし、謄写の場所を本件文書の備え付け場所と限定した上で認容(それ以外の場所については棄却)したため、控訴人が敗訴部分を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人らに対し、平成18年度ないし平成20年度における総勘定元帳、現金出納帳、預金通帳及びそれらを裏付ける領収証、請求書等の会計関係書類一切を閲覧させよ。

【判例のポイント】

1 謄写をするに当たっては,謄写作業を要し、謄写に伴う費用の負担が生じるといった点で閲覧とは異なる問題が生じるのであるから、閲覧が許される場合に当然に謄写も許されるということはできないのであり、謄写請求権が認められるか否かは、当該規約が謄写請求権を認めているか否かによるものと解される。
本件規約で閲覧請求権について明文で定めている一方で、謄写請求権について何らの規定がないことからすると、本件規約においては、謄写請求権を認めないこととしたものと認められる。

2 被控訴人らは、閲覧のみしか認めないとなると必然的に長時間の閲覧が必要となり、場合によっては2回、3回の閲覧が必要となるのに対し、謄写が認められれば、閲覧者が閲覧に要する時間は非常に短くなり、謄写を認めることは閲覧をさせる控訴人の利益にもなるから、謄写請求権が認められるべきであると主張する。
しかし、控訴人は、組合員からの閲覧請求に対して社会通念上相当と認められる時間閲覧をさせることで足り、1回の閲覧請求で不相当に長時間の閲覧が認められるものではないから、閲覧の時間を短縮するために謄写請求権を認めるべきとの主張は理由がない。

本件裁判例は、原審判決(東京地判平成23年3月3日)を覆し、謄写請求を認めませんでした。

規約が謄写請求権を認めるか否かによるという極めて明快な結論ですが、上記判例のポイント2における被控訴人らの主張に対して裁判所が十分な回答ができているかは微妙なところです。

スマホで撮影させたほうが早いと思うのは私だけではないはずです。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損4 マンションの下の階の住民が、管理組合の総会及び理事会で、上の階の住民が騒音の発生源であるかのように述べた発言が名誉毀損に当たるとして慰謝料の支払いを認めたが、謝罪広告の掲示を求める請求は棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの下の階の住民が、管理組合の総会及び理事会で、上の階の住民が騒音の発生源であるかのように述べた発言が名誉毀損に当たるとして慰謝料の支払いを認めたが、謝罪広告の掲示を求める請求は棄却された事案(東京地判平成9年4月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの六階に居住する被告が、その階上で発生する、ゴルフのパター練習によって生ずると考えられる騒音のため、生活の平穏を害されたとして、本件マンションの管理組合の総会で右騒音を問題とし、善処を求めたことに端を発した事案である。

本訴請求は、原告は、被告の主張するような騒音を発生させていないのに、被告が管理組合の総会及び理事会で、あたかも原告が騒音を発生させているかのような事実無根の発言を行ったことにより、名誉を毀損されるとともに、精神的苦痛を受けたとして、原告が被告に対し、謝罪広告及び損害賠償を請求するものである。

反訴請求は、原告が原告方で行うゴルフのパター練習によって発生する騒音のため、階下に居住する被告が、睡眠妨害等の精神的苦痛を受けたとして、原告に対し、夜間のゴルフ練習の中止及び損害賠償を請求するものである。

【裁判所の判断】

本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、50万円+遅延損害金を支払え。

本訴原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

本訴被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 原告が被告の主張するような騒音を発生させた事実は、いまだ認めることができない。それにもかかわらず、被告は3年間にわたり、合計3回の管理組合の総会において、階上からの騒音を問題とし、しかもその際、騒音の発生源が原告方であることを示唆する発言を行い、また理事会では、具体的に原告の名をあげて、原告が騒音を発生させていることを明言してきたものである。
本件マンションのような集合住宅においては、他の居住者の迷惑となる行為をしないこと、とりわけ階下その他周辺居住者の生活の平穏を害する騒音を発生させないことは、いわば居住者として当然に守るべき最低限のルールである。
ところが、被告の発言は、これを聞く者に対し、原告が税理士という地位にあり、しかも管理組合によって夜間の生活騒音を防止するよう要請していたにもかかわらず、こうした最低限のルールすら守ろうとしない自己中心的かつ規範意識のない人物であるかのような印象を与えるものである。
 したがって、本件における被告の発言は、原告の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損するものとして、違法と断じられるべきものである。

2 被告による発言の内容、発言の期間、発言の行われた機会、原告の地位、当事者双方の事情、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、原告が右名誉毀損により受けた精神的苦痛を慰謝するための金額は、50万円をもって相当であると認める。

3 本件は、被告が原告方が発生源であるとする生活の支障となる騒音被害を訴えたところ、結果的に当該騒音が認められなかったことから、管理組合の総会等における被告の発言が、騒音発生源とされた原告の名誉を毀損したものと判断された事案であり(本件全証拠によっても、被告が当初から原告の名誉を毀損しようとの意図の下に、現実には存在しない騒音被害を捏造し、管理組合の総会や理事等に申告したとまでは認められない。)、その限りで被告にも斟酌すべき余地がある。また、居住者の少なからぬ者が、本件の証人又は当事者双方のために陳述書等を作成しているのであって、これらに照らせば、既に本件マンションの相当数の住民が、好むと好まざるとにかかわらず、関与を余儀なくされていると認められる。
これらの事情に照らせば、本件において、被告に対して謝罪広告を命じ、この問題を本件マンション全体に知らせることは、紛争を再燃させるばかりか、新たな紛争を惹起させる可能性も否定できない
したがって、これらの観点に照らせば、本件における原告の名誉毀損に対しては、被告から原告に対して前記慰謝料を支払わせることをもって十分であり、それ以上に謝罪広告を命ずることは相当ではないと判断する。

騒音問題に端を発した名誉毀損事件です。

被害者が主張する騒音の存在が立証できない場合、結果として、被害者の発言(加害者を断定するような内容等)が違法とされるリスクがありますので注意が必要です。

なお、本件では、上記判例のポイント3記載の理由から謝罪広告までは認められませんでした。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営10 総会の特別決議の無効確認請求訴訟について、訴えの利益がないとされ却下された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総会の特別決議の無効確認請求訴訟について、訴えの利益がないとされ却下された事案(東京高判令和3年4月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有権を有する控訴人らが、本件マンション管理組合である被控訴人に対し、平成19年1月28日に開催された被控訴人の第18期定期総会においてされた本件特別決議が無効であることの確認又はこれと選択的に本件特別決議が不存在であることの確認を求める事案である。

原審は、控訴人らの本件特別決議の無効確認又は不存在確認を求める訴えには確認の利益が認められ、本件特別決議において賛成組合員数が組合員総数の4分の3未満であったことからこれが可決されたとは認められず、賛成組合員数が足りないという瑕疵が治癒されたことや本件特別決議が追認されたことは認められないから、本件特別決議は無効であるが、控訴人らの本件各請求は権利濫用であるとしてこれらをいずれも棄却する判決をしたところ、控訴人らがこれを不服として本件各控訴をした。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。

本件各訴えをいずれも却下する。

【判例のポイント】

1 控訴人らによる本件各訴えの趣旨及び目的は、被控訴人において、権限に疑いのない適法適切な管理が行われるよう是正し、不当な制約を受け続けてきた法人区分所有者の権利を回復させることにあると解されるところ、被控訴人は、令和2年11月の臨時総会における第2号議案の決議により、本件特別決議が可決されなかったものと取り扱うこととされたため、被控訴人自身が本件特別決議の有効性を主張することはできないことになったものであり、また、本件特別決議前の本件管理規約に基づき、控訴人らを含め本件マンションに居住しているとはいえない区分所有者においても役員候補者として立候補できることを明らかにした上、理事4名及び監事1名の選任決議を行い、役員が適法に選任されたものである。
これによれば、本件各訴えにより本件特別決議の無効又は不存在の確認を求めることの意義は失われたものであり、本件各訴えについて訴えの利益はないというべきである。

訴訟係属中に上記判例のポイント1記載のとおり、事情の変更があり、もはや本件特別決議の無効または不存在の確認を求める理由・必要がなくなったため、訴えの利益を欠くと判断されました。

なお、原審判決でも述べられているとおり、本件は、特別決議の有効要件を満たしていなかった事案です。このようなことにならないように、慎重に手続きを進めましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

駐車場問題7 駐車場専用使用権の使用料を近隣相場まで5年間かけて段階的に増額する総会決議を有効とした事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、駐車場専用使用権の使用料を近隣相場まで5年間かけて段階的に増額する総会決議を有効とした事案(東京地判平成17年11月4日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理組合である原告が、マンションの建物内及び敷地内の駐車場及び倉庫について専用使用権を有する被告らに対し、組合の総会決議においてした値上げ決議の有効性の確認を求めると共に、値上げが実施された平成16年9月分の未払の値上げ分の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告Y2及び被告Y3は原告に対し、各自2000円を支払え。

被告Y4は原告に対し、1630円を支払え。

被告Y5は原告に対し、1630円を支払え。

被告らと原告との間で、平成16年7月25日開催の原告の通常総会第5号議案の、駐車場・倉庫専用使用料値上げを内容とする次の決議が有効であることを確認する。
(1) 同日現在4000円の屋内駐車場使用料は平成16年9月分から6000円、平成17年7月分から1万円、平成18年7月分から1万6000円、平成19年7月分から2万6000円、平成20年7月分から4万円とする。
(2) 同日現在2870円の屋外駐車場使用料は平成16年9月分から4500円、平成17年7月分から8000円、平成18年7月分から1万3000円、平成19年7月分から2万1000円、平成20年7月分から3万6000円とする。
(3) 同日現在400円の倉庫使用料は平成16年9月から500円、平成17年7月分から700円、平成18年7月分から900円、平成19年7月分から1万1000円、平成20年7月分から1500円とする。

【判例のポイント】

1 本件決議の内容である専用使用権の値上げについては、区分所有者全員の共有に属する本件マンションの建物部分及び敷地の使用及び管理に属する事柄であるから、団体的規制に服すべきものであり、総会の決議をもって決定できるものと解される。

2 被告らは、本件専用使用権の対価を払ってこれを取得しているのであるから、被告らに近隣相場と同額の使用料を負担させることは、被告らの正当な権利を奪うことになる旨主張している。
しかし、本件専用使用権は、昭和46年に駐車場については、35万円ないし50万円でAとの契約により定められたものである。当時としてはマンション本体価格の1割程度に相当する高額な権利金であったと認められるが、本件決議がなされるまでに30年以上を経過しており、この間、専用使用権者は、近隣相場より相当低額に据え置かれた専用使用料を支払って駐車場等の使用を継続してきたのであるから、権利金を支払ったことによる効用は既に十分に還元されているとみるべきである。
そして、権利金を支払った故に近隣の駐車場使用料金より低額の使用料設定を今後も継続していくことは、他の区分所有者との間で不公平を増大させることとなると解される。
 
3 そうすると、本件通常総会において、近隣相場に準ずる金額まで段階的に使用料を値上げする決議をしたことは社会通念上相当なものとして許されるというべきである。

裁判所は、上記判例のポイント2記載のとおり、30年以上にわたり近隣相場より相当低額に据え置かれた専用使用料を支払って駐車場等の使用を継続してきたという事情を考慮し、使用料の段階的増額を認めました。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置13 マンションの専有部分をグループホームとして使用することが共同利益背反行為に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの専有部分をグループホームとして使用することが共同利益背反行為に該当するとされた事案(大阪地判令和4年1月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合の管理者である原告が、社会福祉法人である被告に対し、被告が賃借したマンションの専有部分の建物をグループホームとして使用することは、区分所有者は専有部分を住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない旨を定めたマンションの管理規約の規定に違反し、区分所有法6条3項が準用する同条1項所定の区分所有者の共同の利益に反する行為に該当するとして、同法57条4項が準用する同条1項に基づき、上記専有部分の建物をグループホーム事業の用に供する行為の停止を求めるとともに、上記管理規約によって定められた違約金として、調停費用、訴訟費用等の合計85万0430円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 区分所有者の共同の利益に反する行為に該当するかどうかは、当該行為の必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の態様、程度等の諸般の事情を比較考量して決すべきものであると解するのが相当である。

2 被告が本件各住戸をグループホームとして使用する行為は、本件管理規約12条1項の規定に違反するものである。本件管理規約は、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互の利害調整のための共通規範として制定されたものである(区分所有法30条参照)から、本件管理規約に違反する行為は、共同の利益に反する行為に該当するか否かの考慮要素として重視されるべきである。
また、被告が本件各住戸をグループホームとして使用することにより、本件管理組合は、法令に基づき、本件マンションにつき防火対象物点検義務を負うとともに、グループホームの用途に供されている本件各住戸への自動火災報知設備の設置義務を負うこととなり、管理業務の負担を余儀なくされている
防火対象物点検の費用は、1年当たり51万8400円が見込まれており、相当に高額である。
本件管理組合は、現在に至るまで、共同住宅特例の適用を受け、10階以下の部分の消火器具の設置義務、屋内消火栓設備、屋外消火栓設備、動力消防ポンプ設備の設置義務等を免れているが、将来にわたり、本件マンション内の消防用設備の設置の要否につき、福祉施設等の住戸利用施設の増減にかかわらず、共同住宅特例の適用において、このような住戸利用施設が存在しない場合と同等の取扱いがされることが確実であることを認めるに足りる証拠はない。
こうした負担が現実化した場合には、本件管理組合の経済的負担等に影響を及ぼすことは明らかであるし、こうした負担が現実化しない場合であっても、本件管理組合は、福祉施設等の住戸利用施設が存在する限り、こうした負担が現実化する場合に備えた対応を検討しなければならないから、他の区分所有者が被る不利益の態様や程度を軽視することはできない

3 これに対し、被告が本件各住戸で営む障害者グループホーム事業は、障害を有する利用者に共同生活の場所を提供するという公益性の高い事業であることは否定できない。
しかしながら、被告が本件管理規約12条1項の規定に違反して本件各住戸において事業を営むことによる利益が、他の区分所有者が被る不利益よりも優先されるとは認められない。
なお、被告は、本件マンション以外のマンション等においてもグループホームを経営していることが認められるから、被告が本件各住戸以外の建物においてグループホームを経営することができないとはいえない。
以上のとおり、被告が本件各住戸をグループホームとして使用する必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の態様、程度等の諸事情に鑑みれば、被告が本件各住戸をグループホームとして使用する行為は、区分所有法6条3項により準用される同条1項の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当すると認められる。
したがって、原告は、被告に対し、区分所有法57条4項により準用される同条1項に基づき、本件各部屋をグループホームとしての使用する行為の停止を求めることができる

専有部分を規約に反し、店舗や事務所として使用する事案は少なくありません。

このようなケースでは、上記判例のポイント1記載の比較衡量論を用いて、共同利益背反行為性を判断することになります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

 

管理組合運営9 マンション管理規約に明文の定めがない場合であっても会計帳簿の裏付けとなる原資料等の閲覧及び写真撮影を請求する権利を有するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、各区分所有者は、マンション管理規約に明文の定めがない場合であっても、民法645条に基づき、管理組合に対し、管理組合がマンション管理業務について保管している文書(会計帳簿の裏付けとなる原資料等)の閲覧及び閲覧の際の当該文書の写真撮影を請求する権利を有するとされた事案(大阪高判平成28年12月9日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合が保管する文書について、当該マンションの区分所有者が閲覧や閲覧の際の写真撮影を求める権利があるのかないのかが争われた事案である。

原審(大阪地判平成28年3月31日)は各文書を、各1回限りにおいて閲覧する限度で控訴人らの請求を認容し、閲覧の際に本件記事録等を写真撮影することを含めその余の請求を棄却した。

【裁判所の判断】

被控訴人は、控訴人らに対し、請求文書目録記載の各文書について閲覧及び閲覧の際の写真撮影をさせよ。

被控訴人は、控訴人らに対し、被控訴人の現在の組合員の氏名、その組合員が所有する専有部分及びその組合員の住所を記載した名簿を閲覧させよ。

【判例のポイント】

1 被控訴人は社団ではあるものの、自身が管理する本件マンションの敷地と共用部分を保有しているわけではない。それらは、組合員が保有(共有)する財産である。また、被控訴人は、独自の事業経営により管理費用を捻出しているわけではなく、区分所有者が拠出する金銭や敷地(駐車場区画)使用料を必要経費に充てているのである。法的にみれば、被控訴人は、他人の費用負担の下に、当該他人の財産を管理する団体である。
そうすると、被控訴人と組合員との間には、前者を敷地及び共用部分の管理に関する受任者とし、後者をその委任者とする準委任契約が締結された場合と類似の法律関係、すなわち、民法の委任に関する規定を類推適用すべき実質があるということができる。

2 管理組合と組合員との間の法律関係が準委任の実質を有することに加え、マンション管理適正化指針が管理組合の運営の透明化を求めていること、一般法人法が法人の社員に対する広範な情報開示義務を定めていることを視野に入れるならば、管理組合と組合員との間の法律関係には、これを排除すべき特段の理由のない限り、民法645条の規定が類推適用されると解するのが相当である。
したがって、管理組合は、個々の組合員からの求めがあれば、その者に対する当該マンション管理業務の遂行状況に関する報告義務の履行として、業務時間内において、その保管する総会議事録、理事会議事録、会計帳簿及び裏付資料並びに什器備品台帳を、その保管場所又は適切な場所において、閲覧に供する義務を負う。
次に、民法645条の報告義務の履行として、謄写又は写しの交付をどの範囲で認めることができるかについて問題となるところであるが、少なくとも、閲覧対象文書を閲覧するに当たり、閲覧を求めた組合員が閲覧対象文書の写真撮影を行うことに特段の支障があるとは考えられず、管理組合は、上記報告義務の履行として、写真撮影を許容する義務を負うと解される。

3 一般法人法32条3項は、社団法人が社員に対する情報開示を拒絶できる場合を定めており(会社法433条2項にも同様の規定がある。)、この規定は、本件規約又は民法645条に基づく閲覧謄写請求権の行使についても考慮すべき内容である。
したがって、控訴人らの本件請求が一般法人法32条3項所定のような不適切なものと認められる場合には、被控訴人は情報開示を拒絶できるものと解するのが相当である。
控訴人らが、役員人事や修繕工事の発注の面で被控訴人の運営に不信感を抱いたことには相応の理由があるといわなければならず、しかも、被控訴人は、8400万円の雑排水管更新工事に関する資料については開示を明示的に拒絶し、その他の裏付資料についてもこれを全面的に開示しようとしないのであるから、本件議事録等をさらに仔細に検討する必要があるとの前提で控訴人らが本件請求をしているのは、何ら不適切なものではない。
本件請求が権利の濫用であるとする被控訴人の主張は採用できない。

管理規約に規定が存在しない場合における会計帳簿や組合員名簿等の謄写請求の可否については、裁判例により結論が分かれています。

本件裁判例は、原審判断を覆し、民法645条の類推適用による同謄写(写真撮影)請求を認めました。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。