管理費・修繕積立金11 区分所有法所定の先取特権を有する債権者の配当要求により配当要求債権に時効中断効が生ずるためには民事執行法181条1項各号に掲げる文書により上記債権者が上記先取特権を有することが不動産競売手続において証明されれば足りるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有法所定の先取特権を有する債権者の配当要求により配当要求債権に時効中断効が生ずるためには民事執行法181条1項各号に掲げる文書により上記債権者が上記先取特権を有することが不動産競売手続において証明されれば足りるとされた事案(最判令和2年9月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの団地管理組合法人である上告人が、本件建物部分を担保不動産競売によって取得した被上告人に対し、上記競売前に本件建物部分の共有者であった者(本件被承継人)が滞納していた管理費、修繕積立金、専用倉庫維持費等及びこれらに対する遅延損害金の支払義務は区分所有法66条で準用される区分所有法8条に基づき被上告人に承継されたとして、上記管理費等及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

被上告人が、平成29年法律第44号による改正前の民法169条に基づき、上記管理費等のうち支払期限から5年を経過したものに係る債権は時効消滅した旨主張しているのに対し、上告人は、上記債権の一部について本件被承継人による債務の承認がされた後、本件建物部分の本件被承継人の共有持分についての強制競売の手続において、上記債権のうち本件配当要求債権等について、区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有するとして、民事執行法51条1項に基づいて配当要求をし、これにより、本件配当要求債権について消滅時効の中断の効力が生じている旨主張して争っている。

原審(東京高判平成30年11月8日)は、本件配当要求債権は時効消滅したとして、上告人の請求の一部を認容し、その余を棄却すべきものとした。

【裁判所の判断】

破棄差戻し

【判例のポイント】

1 区分所有法7条1項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、一般の先取特権である共益費用の先取特権(民法306条1号)とみなされるところ(区分所有法7条2項)、区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が不動産競売手続において民事執行法51条1項(同法188条で準用される場合を含む。)に基づく配当要求をする行為は、上記債権者が自ら担保不動産競売の申立てをする場合と同様、上記先取特権を行使して能動的に権利の実現をしようとするものである。
また、上記配当要求をした上記債権者が配当等を受けるためには、配当要求債権につき上記先取特権を有することについて、執行裁判所において同法181条1項各号に掲げる文書(法定文書)により証明されたと認められることを要するのであって、上記の証明がされたと認められない場合には、上記配当要求は不適法なものとして執行裁判所により却下されるべきものとされている。
これらは、区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権についても同様である。

2 以上に鑑みると、不動産競売手続において区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより、上記配当要求における配当要求債権について、差押え(平成29年法律第44号による改正前の民法147条2号)に準ずるものとして消滅時効の中断の効力が生ずるためには、法定文書により上記債権者が上記先取特権を有することが上記手続において証明されれば足り、債務者が上記配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく配当等が実施されるに至ったことを要しないと解するのが相当である。

3 以上によれば、法定文書により上告人が区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有することが本件強制競売の手続において証明されたか否かの点について審理することなく、本件配当要求債権及びこれらに対する遅延損害金の支払請求に関する部分を棄却すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

マニアックなテーマですが、専門家は知っておくべき重要な最高裁判決です。

なお、改正後の民法において上記配当要求が時効の完成猶予・更新事由となるか否かは、引き続き解釈に委ねられているため、本最高裁判決はその解釈においても参考になります。

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管理組合運営13 管理組合法人の理事として登記されているが、被告が原告を代表すべき理事の地位にないことを争っていない場合における訴えの利益の有無(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合法人の理事として登記されているが、被告が原告を代表すべき理事の地位にないことを争っていない場合における訴えの利益の有無(東京地判令和2年9月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合法人である原告を代表すべき理事が同マンションの区分所有者であるAであることを前提として、原告が、原告の理事として登記されている被告に対し、被告が原告を代表すべき理事の地位にないことの確認を求めるとともに、Aが原告を代表すべき理事の地位にあることの確認を求める事案である。

これに対し、被告は、①Aは原告の理事ではないから、本件訴えは原告の代表権を有する者により提起されておらず、また、②被告が原告の理事でないことは当事者間に争いがなく、本件訴えには確認の利益がない、と主張して、本件訴えの却下を求める。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

1 被告は、本件訴訟において一貫して、現在自らが原告の理事でないことを認めている。
このように、被告自身が「被告が原告を代表すべき理事の地位にないこと」を争っておらず、そのことにつき当事者間で争いがない以上、被告が未だ原告の理事として登記されていることを考慮しても、「被告が原告を代表すべき理事の地位にないこと」を判決により確認する必要があるとはいえないから、本件請求に係る訴えには訴えの利益(確認の利益)が認められず、同訴えは不適法である。

2 原告は、原告と被告との間で原告の理事長がAであるか否かを確認することは原告の理事長の地位に関する紛争解決のために最も適切かつ有効な方法である旨主張する。
しかしながら、被告は本件訴訟において一貫して自らが原告の理事ないし理事長の地位にないことを認めているから、被告を相手取ってAの地位確認を請求しても、真に利害関係が対立する当事者間で訴訟が係属することにならず(本件は、原告の理事長が被告とAのいずれであるかが争われているような事案ではない。)、充実した訴訟追行を期待することはできないし、紛争の抜本的解決に資するものとはいえない。
したがって、本件請求に係る訴えは、確認の利益を欠くもの(あるいは、被告に当事者適格が認められないもの)として、不適法である。

当事者間に特に争いのない内容のため、確認の利益を欠くとされた珍しい裁判例です。

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義務違反者に対する措置14 管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等の滞納を理由とする59条競売請求が認容された事案(東京地判令和2年10月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件建物の管理者である原告が、本件建物の505号室の区分所有権及び敷地権を有する被告に対し、被告には管理費及び修繕積立金等の滞納があるとして、区分所有法59条1項に基づき、本件区分所有権等の競売を請求する事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告が支払義務を負う管理費等及び確定遅延損害金の合計額は296万1326円となっているところ(令和元年12月2日時点)、従前の被告の管理費等の支払状況に照らせば、今後、管理費等の未払状態が解消する見込みはないといわざるを得ず、そうである以上、被告による管理費等の滞納は、本件建物の管理運営上支障を来たすものであり、その結果、区分所有者の共同生活上の障害が著しい状態となっているものと認められる。
また、本件建物は平成28年当時に86万円と評価されているところ、本件建物には、Bの被告に対する200万円の貸金債権を被担保債権とする抵当権設定仮登記がされており、原告において本件建物の強制競売の申立てをしても、無剰余取消しとなることが見込まれ、これによって前記管理費等の回収を図ることは極めて困難であるといわざるを得ない。
そうすると、本件建物の区分所有者らは、法59条に基づく競売を除く方法によっては、前記障害を除去して共有部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であると認められる。
したがって、法59条所定の実体的要件を満たすものと認められる。

2 本件建物の区分所有者らは、令和元年8月25日の通常総会において、区分所有者及び議決権の4分の3以上の多数をもって、本件区分所有権等について訴えをもって競売を請求することを決議したこと、上記通常総会に先立ち、被告に弁明の機会を与えるため、上記通常総会への出席を要請する書面を送付したが、被告は上記通常総会に出席せず、何らの連絡もしなかったことが認められ、これらの事実によれば、法59条所定の手続的要件を満たすものと認められる。
以上によれば、原告は、法59条1項に基づき、本件区分所有権等を有する被告に対し、本件区分所有権等の競売を請求することができる。

管理費等の滞納事案において、すぐに59条競売をしたいと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、上記のとおり、事前に実体的要件及び形式的要件を具備する必要がありますので、ご注意ください。

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騒音問題6 他の居室における内装リフォーム工事による騒音及び振動について不法行為に基づく損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、他の居室における内装リフォーム工事による騒音及び振動について不法行為に基づく損害賠償請求が棄却された事案(東京地裁令和2年11月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

控訴人は本件マンションの502号室に居住していた者であるところ、被控訴人が同マンションの他の居室について行った内装リフォーム工事により生じた騒音及び振動が原因で睡眠をとることができずに心身に不調をきたしたと主張して、被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償の一部請求として、慰謝料、自営する飲食店の休業損害等合計148万4950円のうち60万円+遅延損害金の支払を求めた。

原審は、本件工事から発生した騒音及び振動は受忍限度を超えるものではないとして控訴人の請求を全部棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 被侵害利益の性質と内容を踏まえて、侵害行為の態様と侵害の程度、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況についてみると、本件工事のうち、本件マンションの入居者の生活に影響を及ぼすような騒音や振動が発生する工事の内容及び期間は、いずれも土曜日と日曜日を除く、平成31年2月12日から同月18日までに行われた既存構造物の解体工事(工事実日数5日)、同日から同月28日までに行われた木工造作工事(工事実日数9日)及び同年3月22日に行われたエアコン移設工事(工事実日数1日)であり、その工事実日数は、上記の解体工事と木工造作工事が同じ日に実施された同年2月18日を1日と数えると、合計14日に過ぎず、しかも、工事時間は通常人が活動している時間帯である午前9時から午後5時までであり、土曜日、日曜日、祝祭日には工事をしなかったのであるから、本件工事は長期間にわたり連日昼夜を問わず騒音や振動を発生させたものではない。
また、これらの工事による騒音や振動の程度及び継続時間については、測定結果等の客観的な証拠がなく、具体的に認定することができない

2 本件マンションの所在地の地域環境についてみると、本件マンションの所在地は東京都品川区上大崎1丁目であって都内の都心部に位置し、その西側横には首都高速道路が通っており、高速道路を通過する自動車の走行する音や振動に晒されている地域であって、住環境としては静閑な地域ではない。
そうすると、本件マンションの居住者としては、外部からの一定程度の騒音や振動等を甘受せざるを得ず、一般的に静寂を期待しうる環境にはないことが認められる。
また、一棟の建物に種々の生活スタイルを保持する多数の居住者が生活を送っているという集合住宅の性質上、集合住宅内のある居住者の発生する音や振動が建物の壁や床を通じて他の居室に伝達することを避けることはできない上、マンションの経年劣化、生活スタイルの変化等に伴い各居室の修繕の必要が生じることも不可避であるから、マンションに居住する以上は他の居室のリフォーム工事等により一定の騒音等の影響を受けることもやむを得ない事態であるといえる。

騒音問題については、騒音の「存在」及び「原因」について客観的証拠により立証することが求められます。

この点、本件は、上記判例のポイント1のとおり、測定結果等の客観的な証拠を提出していないため、この時点で勝負ありです。

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管理費・修繕積立金10 管理費等の滞納が解消されたにもかかわらずマンション全戸に誤って事実と異なる通知をしたことが名誉棄損に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等の滞納が解消されたにもかかわらずマンション全戸に誤って事実と異なる通知をしたことが名誉棄損に該当するとされた事案(東京地判令和3年3月5日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、(1)原告X1が、被告Y1が被告管理組合の理事長として、管理組合の総会の開催通知に区分所有者である原告X1が管理費を滞納している状況にある旨の虚偽の事実を記載してこれを住民に配布し、原告X1の滞納を前提とする議案を提出して原告X1の名誉を毀損した行為は、被告Y1の不法行為を構成するとして、被告Y2管理組合は、一般社団法人法78条の準用により被告Y1と同様の責任を負うとして、被告らに対し、連帯して、慰謝料100万円+遅延損害金の支払を、(2)原告X2が、被告Y1が被告管理組合の理事長として、原告X2が原告X1の代理として出席した被告管理組合の総会において、原告X1の管理費滞納はすでに解消していたにもかかわらず、これが残存しているかのような言動を示して参加者らにおいて原告X1が管理費を滞納している状況にあると誤信させ、原告X1の滞納を前提とする議案を可決させて原告X2の名誉を毀損した行為は、被告Y1の不法行為を構成するとして、被告Y2管理組合は、一般社団法人法78条の準用により被告Y1と同様の責任を負うとして、被告らに対し、連帯して、慰謝料100万円+遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

被告らは、原告X1に対し、連帯して、50万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 被告Y1による平成30年9月臨時総会開催通知及び令和元年7月21日総会開催通知の配布は、原告X1に対する不法行為を構成する。

2 平成30年9月臨時総会開催通知及び令和元年7月21日総会開催通知は、いずれも原告X1が本件マンションの区分所有者としての管理費等支払義務を履行せず、その金額が高額になるに至っていることを示すものであり、原告X1の社会的評価を低下させる度合いは大きい
また、被告Y1は、これらの開催通知を本件マンションの全78戸に配布しているから、これらの開催通知に記載されている名誉毀損情報が頒布された範囲も小さいとはいえない
原告X1においては、自らの管理費等の滞納問題は終局的に解決したものと認識していたのに、これを覆す被告Y1の配布行為により大きな精神的衝撃を受けたと認めることができる。
一方で、平成30年9月臨時総会開催通知及び令和元年7月21日総会開催通知が配布されたのは本件マンションの全戸に限られ、社会の広範囲にわたって原告X1の管理費等の滞納に係る情報が流布されたとはいえないこと、原告らは本件マンションに居住しておらず他の区分所有者と顔を合わせる機会は限られていたといえる。
このような本件にあらわれた一切の事情を総合的に考慮すれば、平成30年9月臨時総会開催通知及び令和元年7月21日総会開催通知の配布行為によって原告X1が被った精神的損害を回復するために被告Y1が支払うべき慰謝料は50万円をもって相当と認めることができる。

管理費等の滞納が実際には解消されていたにもかかわらず、事実と異なる情報をマンションの全戸に通知したことが名誉毀損に該当すると判断されています。

故意にこのようなことを行うことは少ないと思いますが、調査不足により誤ってこのような行為をしてしまったとしても過失による不法行為に該当しますので注意が必要です。

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管理費・修繕積立金9 管理規約の改定に伴う管理費及び修繕積立金の増額が「特別の影響」に該当せず被告の承諾を要しないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理規約の改定に伴う管理費及び修繕積立金の増額が「特別の影響」に該当せず被告の承諾を要しないとされた事案(東京地判令和2年10月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合である原告が、同マンションの居室の区分所有者であり、組合員である被告に対し、従前の組合の規約を改定する組合総会の決議に基づき、管理費及び修繕のための積立金の未払分の支払を求めるとともに、遅延損害金(確定遅延損害金を含む。)並びに現行の規約に基づく違約金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、77万2885円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件改定が、aマンションの区分所有者の1人である被告の権利に区分所有法31条1項後段所定の「特別の影響」を及ぼすものであれば、本件改定について被告の承諾を要することになり、同承諾を得ずになされた本件決議は無効となる。
区分所有法31条1項後段の趣旨は、規約の設定、変更等が区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による総会の決議によってされ(同項前段)、多数者の意思によって特定の少数者のみに不利益な結果をもたらす規約の設定、変更等が実現するおそれがあることから、そのような事態の発生を防止することにあり、「特別の影響」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれにより受ける一部の区分所有者の不利益とを比較衡量して、当該区分所有者が受忍すべき程度を超える不利益を受けると認められる場合を指すものと解される。

2 本件改定についてみると、本件決議がなされた平成29年5月27日当時、aマンションには被告を含め9名の区分所有者がおり、本件改定後の管理費等は、被告において月額5万円に増額されたほか、結果として月額3万円にとどまった者が2名、月額3万1000円に増額された者が1名、月額3万2000円に増額された者が2名、月額3万5000円に増額された者が1名、月額3万6000円に増額された者が2名であった。確かに、本件改定により、被告の管理費等は、他の区分所有者の管理費等に比して大きく増額されたものということができる。
そこで検討するに、本件改定の対象となった管理費等は、当時効力を有していた乙2規約においては管理共有物の管理に関する業務に要する費用に充てるためのものであり、共用部分の管理に関する必要経費に充てるために組合員に課されたものといえる。
共用部分に関し、区分所有法は、①14条1項において、各共有者の共用部分の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による旨を、②19条1項において、各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じる旨をそれぞれ定めている。
これらの規定によれば、同法は、共用部分の負担につき、各区分所有者が各自の専有部分の床面積の割合に応じて引き受けることをもって、それぞれに応分の負担をさせる実質的公平にかなう原則的な取扱いとしたものと解される、そうすると、各区分所有者一律に月額3万円の管理費等を課していた従前の規約は、専有部分の床面積が比較的少ない区分所有者に実質上過度の負担を課していたという問題点があったということができる。
したがって、上記従前の規約を改めて管理費等の額を各専有部分の登記簿面積に応じた按分額に改定する旨の本件改定は、上記問題点を是正し、区分所有法の原則的な取扱いを採用するものであるから、必要性、合理性とも十分に認められるものというべきである。

3 そして、本件改定による変更後の規約は、被告のみならず全区分所有者に適用され、上記のとおり被告の管理費等が他の区分所有者の管理費等に比して大きく増額されたのは、被告の専有部分の登記簿面積が他の区分所有者に比して広いことによる必然の結果にほかならず、不合理ということはできない
本件改定による被告の管理費等の増額は、上記の本件改定の必要性、合理性と比較衡量して、被告が受忍すべき限度を超える不利益に当たらないと考える。
以上によれば、本件改定は、被告の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、よって、本件改定に被告の承諾は要しない。

区分所有法31条1項後段の「特別の影響」に関する考え方は非常に重要です。

本件同様、「特別の影響」のあてはめが争点となった裁判例をフォローしていくと裁判所の考え方や傾向を理解することができますので、是非、複数の裁判例を確認してください。

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管理組合運営12 原告らの管理組合役員立候補を不承認とした決定は理事会の裁量の範囲を逸脱、濫用するものとして違法としつつ、被告理事らの不法行為責任を否定した事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、原告らの管理組合役員立候補を不承認とした決定は理事会の裁量の範囲を逸脱、濫用するものとして違法としつつ、被告理事らの不法行為責任を否定した事案(東京地判令和2年12月4日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である原告らが、以下の請求をする事案である。
マンション管理組合法人の理事である被告Y1、同Y2、同Y3、同Y4及び同Y5(以下,併せて「被告理事ら」という。)に対し、被告理事らが正当な理由なく、原告らを同管理組合法人の理事の立候補者として承認せず、原告らの役員立候補権を侵害したなどと主張して、不法行為に基づき、原告ら各自につき、連帯して、慰謝料等110万円+遅延損害金の請求。
マンションの管理業務の委託を受けている被告Aに対し、被告Aが被告理事らに対し適切な助言等をしなかったことなどが不法行為に当たると主張して、被告理事らと連帯して上記①と同額の金員の請求。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件改正条項は、「立候補者が役員候補者として選出されるためには、理事会承認を必要とする」というものであるところ、その趣旨は、暴力団等の反社会的組織の構成員や、成年被後見人であるなどの本件管理組合の役員としての適格性に欠ける客観的な事情がある者に限り、理事会が立候補を承認しないことができるというものであり、その限度で有効であると解するのが相当である。
けだし、区分所有法25条1項、49条8項及び50条4項によれば、管理組合法人の役員の選任に関しては、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって定めることとされているが、同法30条3項によれば、規約は区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならないとされており、本件改正条項につき被告らが主張するような理事会の広い裁量を認めれば、理事らにおいて自らと意見の一致しない区分所有者の立候補を阻止することができ、当該区分所有者は、その役員としての適格性の是非を集会において他の区分所有者によって判断されて、信任、選任される機会を失う事態になるところ、このような事態が区分所有法30条3項にいう区分所有者間の利害の衡平を害するものであることは明らかだからである。

2 被告理事ら(被告Y5を除く)は、原告らが本件管理組合の運営につき批判的な意見を持ち、再三にわたりビラを配布したり、総会で反対意見を述べるなどの抗議活動をしていることを理由に本件不承認決定をしたものと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。
原告らがその立候補の時点において、暴力団等の反社会的組織の構成員や、成年被後見人であるなどの本件管理組合の役員としての適格性を欠く客観的事情を有していたと認めるに足りる的確な証拠はない。
してみると、本件不承認決定は、理事会の裁量の範囲を逸脱、濫用するものとして違法であったと認めるのが相当である。

3 ところで、本件改正条項は、本件管理組合の総会の決議により承認されて設けられたものであり、本件管理組合の理事としては、これに従って理事会を運営すべき義務を負っていたものである。
しかるに、本件改正条項においては、理事会が立候補者を役員候補者とすることの承認をするか否かについての基準について明示されておらず、理事会の裁量を制限するような定めはなかったこと、本件不承認決定の時点においては、本件改正条項が上記で述べた趣旨の規定であることがいまだ前件訴訟に係る判決等によって明らかにされるには至っていなかったこと、被告理事らは、本件マンションの区分所有者であることから本件管理組合の理事に就任したものであって法律専門家でないことはもちろん、マンション管理について専門知識を有する者でもないことに照らすと、告理事らにおいて、本件改正条項によって理事会に対して許容される限度よりも広範な裁量権が与えられており、立候補者に客観的に適格性を欠く事情が存在する場合でなくても承認しないことができると誤信したことをもって、過失があるとまではいえない
前件不承認決定がされてから本件不承認決定がされるまでの間に、本件管理組合の組合員から前件不承認決定について反対する又はこれに疑問を呈する意見が表明されていたこと、原告らが前件不承認決定の違法を主張して前件訴訟を提起していたこと、前件訴訟において、担当裁判官から本件改正条項の廃止の可否を総会に問うことなどを内容とする和解が示唆されていたことといった事情があるとしても、これらは公権的な解釈ではなく、明確な法的根拠に基づくものであるともいえないし、前件訴訟においては前件不承認決定が理事会の裁量権の範囲を逸脱したものといえるかについて一審と控訴審で判断が分かれるほどであったことなどに照らせば、これらの事情をもって被告理事らに過失があるとはいえない。
そうすると、被告理事らについて不法行為が成立するとは認められない。

上記判例のポイント1の考え方は、しっかりと押さえておきましょう。

今回は、「過失」の要件で救済されているにすぎず。不承認決定それ自体は違法であると判断されていることに注意が必要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

騒音問題5 隣室の居住者による継続的な騒音や嫌がらせを理由とする売主に対する瑕疵担保責任による損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、隣室の居住者による継続的な騒音や嫌がらせを理由とする売主に対する瑕疵担保責任による損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和2年12月8日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有建物であるマンションの居室を購入した原告が、同居室の隣室の居住者による騒音や嫌がらせなどを継続的に受けており、そのような居住者が隣室に存在することは原告が購入した上記居室の「隠れたる瑕疵」に当たるとして、民法570条の瑕疵担保責任による損害賠償請求権に基づき、上記居室の売主である被告に対し、損害金合計1023万円(売買代金3100万円の30%に相当する930万円と弁護士費用93万円の合計額。ただし、損害額の主張は、その後の上記居室の売却に伴い、最終的に、①積極損害(上記居室の売買代金を含む購入費用と売却後の手取額等との差額、引越費用等)451万2999円、②慰謝料300万円、③弁護士費用75万円の合計額826万2999円に変更されている。)+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 民法570条の「瑕疵」とは売買の目的物が通常保有すべき品質・性能を欠いていることをいい、目的物に物理的欠陥がある場合だけでなく、目的物の通常の用途に照らし、一般人であれば誰もがその使用の際に心理的に十全な使用を著しく妨げられるという欠陥、すなわち一般人に共通の重大な心理的欠陥がある場合も含むと解される。
そこで本件についてみるに、Cは、平成23年頃から頻度にはばらつきはあるものの継続して、昼夜を問わず数分ないし10分程度、物音がうるさいとか物が盗まれたなどと大声を出してベランダで叫ぶ、ラジカセを大音量でかける、壁等を強く叩く、本件マンションの居住者に対し、携帯電話で撮影する、追いかける、意味不明な発言をする、難癖をつける、怒鳴りつけるといった迷惑行為をしていたことが認められ、Cの隣室に居住していた原告は、本件居室で生活する際に、生活音を静かにしたり、外出する際には周囲の様子を伺うなど、一定程度生活や行動に制限を受けていたことは認められる。
また、Cの存在は本件居室の購入希望者に購入を断られる原因の一つとなっていたことも認められる。
しかし、他方で、本件居室については、今後の使用を前提として、賃貸物件や売却物件としての募集をかけており、仲介業者の担当者も、Cの迷惑行為の存在に関し、成約に至るか否かは購入希望者が気にする度合によるとしている。また、実際にも、隣室であるCの迷惑行為の事実や原告の夫の本件居室内での死亡の事実を告知した上で、原告の購入から約3年が経過した時点で、原告の購入時の代金3100万円から150万円を減額した代金2950万円でDに売却することができている。
さらに、本件居室の購入希望者がなかなか現れなかったことや、購入希望者から購入を断られたことについては、本件居室が日当たりの悪い1階に位置することや、原告の夫が本件居室内で自死したことも原因となっていたことが認められる。
以上によれば、上記のような迷惑行為を行うCの存在は、隣室である本件居室の居住者において、心理的に一定程度その使用を制限されるものであることは否定できないとしても、一般人であれば誰もがその使用の際に心理的に十全な使用を著しく妨げられるといえるような、一般人に共通の重大な心理的欠陥があるとまではいえない
したがって、Cの存在により本件居室が売買の目的物として通常保有すべき品質・性能を欠いているとして、民法570条の「瑕疵」があるとはいえない。

2 原告の夫が本件居室に入居直後に管理人に挨拶に行った際に、管理人から、102号室のことは聞いているのか、子どもが小さいのであれば気を付けるように、と言われたり、管理会社や本件マンションの居住者等からCに関する情報を容易に入手できていることからすると、本件居室の購入に当たり、原告において内覧の際に仲介業者である被告補助参加人の担当者であるEに隣室の居住者について確認していたとしても、買主にとって通常要求される注意を尽くしても発見することのできない「隠れた」瑕疵があるともいえない
したがって、民法570条の「隠れた瑕疵」の要件を欠き、原告は、被告に対し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権を有するとはいえない。

旧民法の「瑕疵」概念を理解するのには参考になる裁判例です。

なお、現行民法では「契約不適合」(目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの)責任に変更されることに伴い、「隠れた」という要件がなくなりました。

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騒音問題4 マンションの1室に居住する原告らが、同居室の階上の居室を所有する被告に対し、被告の居室から発生する騒音(幼稚園生が居室内を歩行して発生させた騒音)の差止め及び損害賠償が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの1室に居住する原告らが、同居室の階上の居室を所有する被告に対し、被告の居室から発生する騒音(幼稚園生が居室内を歩行して発生させた騒音)の差止め及び損害賠償が認容された事案(東京地判平成24年3月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告X1が、マンション内に同人が所有する居室の階上の居室を所有する被告に対し、所有権ないし人格権に基づく妨害排除請求として、被告所有の居室から発生する騒音の差止め並びに不法行為(被告の子が被告所有の居室内を歩行して騒音を発生させた。)に基づく損害賠償請求として94万0500円+遅延損害金を、X1の妻で同人所有の前記居室に同居する原告X2が、被告に対し、不法行為(前同)に基づく損害賠償請求として32万4890円+遅延損害金の支払を、それぞれ求めるものである。

【裁判所の判断】

被告は、原告X1に対し、被告所有の建物から発生する騒音を、同原告が所有する建物内に、午後9時から翌日午前7時までの時間帯は40dB(A)を超えて、午前7時から同日午後9時までの時間帯は53dB(A)を超えて、それぞれ到達させてはならない。

被告は、原告X1に対し、94万0500円+遅延損害金を支払え。

被告は、原告X2に対し、32万4890円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告の子が204号室内において飛び跳ね、走り回るなどして、104号室内で重量衝撃音を発生させた時間帯、頻度、その騒音レベルの値(dB(A))は、静粛が求められあるいは就寝が予想される時間帯である午後9時から翌日午前7時までの時間帯でもdB(A)の値が40を超え、午前7時から同日午後9時までの同値が53を超え、生活実感としてかなり大きく聞こえ相当にうるさい程度に達することが、相当の頻度であるというのであるから、被告の子が平成20年当時幼稚園に通う年齢であったこと、その他本件記録から窺われる事情を考慮しても、被告の子が前記認定した程度の頻度・程度の騒音を階下の居室に到達させたことは、204号室の所有者である被告が、階下の104号室の居住者である原告らに対して、同居者である被告の子が前記程度の音量及び頻度で騒音を104号室に到達させないよう配慮すべき義務があるのにこれを怠り、原告らの受忍限度を超えるものとして不法行為を構成するものというべきであり、かつこれを超える騒音を発生させることは、人格権ないし104号室の所有権に基づく妨害排除請求としての差止の対象となるというべきである。

2 原告らがそれぞれ受けた精神的苦痛に対する慰謝料額としては、各30万円が相当である。
原告X2は平成20年8月25日、同年6月ころから出現した頭痛等の症状を訴え、医師により自律神経失調症との診断を受け、通院を開始し、治療費・薬代として合計2万4890円を支出したことが認められ、前記診断の結果に照らすと、原告X2の前記症状は、本件不法行為に起因するものと認められ、前記金額の治療費・薬代は本件不法行為と相当因果関係がある損害と認められる。
原告X1は、本件不法行為に係る騒音の測定を訴外会社に依頼し、平成20年9月17日、同社に対し、その費用・報酬として64万0500円を支払ったことが認められ、同費用は、本件請求のための費用ではあるが、客観的な騒音の測定は本件不法行為の立証のために必要不可欠なものであり、同測定は訴外会社等の第三者の専門家に依頼することが必要不可欠であるから、前記程度の費用額は、本件不法行為と相当因果関係がある損害と認められる

原告側の騒音の存在及び原因の立証が成功した事案です。

入念な準備が必要不可欠であることがよくわかります。

騒音問題の解決には、多額の費用、多大な労力及び時間を要することがよくわかります。

なお、本件で原告が請求した騒音の差止めは、「40dB(A)を超えて到達させてはならない」というものでしたが、裁判所が認容したのは、上記裁判所の判断記載とおり、時間帯によって判断を分けています。

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ペット問題13 管理規約に飼育可能な犬種が列挙されている場合における当該犬種に該当しない犬の飼育の差止め・排除請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理規約に飼育可能な犬種が列挙されている場合における当該犬種に該当しない犬の飼育の差止め・排除請求が認められた事案(東京地判令和3年1月14日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、管理組合の管理規約に基づいて、本件建物の区分所有者である被告会社及び本件建物の占有者である被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対し、被告Y2による本件建物内での別紙物件目録記載2の犬(以下「本件犬」という。)の飼育の差止め・排除を求めるとともに、上記管理規約に基づく違約金として88万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告Y1株式会社は、被告Y2に物件内で目録記載の犬を飼育させてはならない。

被告Y2は、物件内で目録記載の犬を飼育してはならない。

被告らは、原告に対し、連帯して、30万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件細則は、純血種の犬については飼育可能な犬種を列挙しているところ、ボーダーコリーが列挙されていないことは明らかである(なお、仮に雑種の場合の基準である体高と体重の積の値でみても、飼育可能な値ではないことは明らかである。)。
この点、被告らは、ボーダーコリーは中型犬である旨主張するが、本件細則は、一般的に「中型犬」と評価され得るかではなく、小型犬,中型犬のうち、列挙するもののみを飼育可能としているのであるから、被告らの主張は失当である。

2 被告らは、本件規約及び本件細則が無効である理由として、被告Y2が糖尿病網膜症を患っており本件犬が米国でいう情緒介助犬に当たるとして人格権に基づく保護が必要である旨主張する。しかし、被告らの主張は独自の主張であって本件規約及び本件細則を無効とすべき事情とは解されない。

3 原告は、本件規約に基づいて、被告らに対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができるところ、実際に原告が弁護士費用として支払う金額が着手金として33万円、報酬金は55万円の予定であること、本件訴訟の内容、その他諸般の事情を斟酌すると、本件規約に基づく違約金としては30万円の範囲で認めるのが相当である。

管理規約の記載内容を尊重した判断となっています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。