漏水事故5 漏水及び火災警報器の誤発砲の原因究明及び解決を怠ったことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水及び火災警報器の誤発砲の原因究明及び解決を怠ったことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和3年8月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が被告から建物を賃借している中で、被告が、当該建物に発生した漏水及び火災警報器の誤発報の原因究明及び解決を怠ったことが修繕義務及び使用収益をさせる義務に違反し、また、当該違反を是正せず、不合理な説明に終始し、原因究明を打ち切ったことが、原告の有する継続して居住する利益を侵害する不法行為に該当するとして、転居費用及び慰謝料等合計205万7670円の損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 被告は、本件誤発報①及び②について、上階からの漏水を疑い、801号室、802号室及び901号室の実地調査を行ったこと、その結果、漏水の原因が判明せず、むしろ801号室の天井にも漏水の痕跡があったことを確認したこと、一方、同じ時期に、1202号室の浴室から漏水が生じたことが判明し、1202号室の漏水を止水したところ、以後、漏水の事象が発生しなくなったことが認められ、被告は、これらの調査結果や状況を踏まえ、本件誤発報①及び②の原因となった漏水の発生源は、1202号室の浴室の漏水であると判断したものといえる。
原告は、このような推論は不合理である旨を主張するが、マンションにおいては、排水管などが階を貫いて設置されており、このような排水管の表面を伝って、漏水が生じることは当然あり得るものといえ、被告の判断が不合理であるとは認められない

2 また、本件誤発報③については、階も全く異なるものであって、誤発報の状況も、発生した部屋の表示が出ないなど異なる事情があることから、被告として、原因が感知器に何かをぶつけたか、消防隊が訪問して異常がなかった301、302、307以外の部屋で、ライターやたばこなどを感知器付近で一時的に使用したことにあると判断したものであって、このような判断も不合理であるとはいえない
さらに、本件誤発報④については、インターホンのメーカーによる調査の結果、基盤に不良があるとの判断で、交換作業が行われたことからすると、本件誤発報④の原因は、本件誤発報①及び②の原因とは異なるものであり、既に修繕がされたものといえる。
以上によれば、被告は、本件誤発報について、その原因を順次調査検討し、必要な修理を行ったものといえ、被告において、修繕義務を怠ったとはいえない
原告として、立て続けに火災報知機の誤発報が生じたことや、直ちに原因が判明せず、判明した原因も直ちに首肯しうるようなものではなかったことから、被告の対応について不満を募らせたことは理解しうるが、そうであるからといって、被告の対応に債務不履行があったとまではいえないことは上記のとおりである。

結果責任を問われるわけではありませんので、判断や対応に合理性が認められれば、管理責任は問われません。

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管理会社等との紛争11 新聞配達が玄関のオートロックを不適切な方法で開錠しマンションに侵入した行為の違法性(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、新聞配達が玄関のオートロックを不適切な方法で開錠しマンションに侵入した行為の違法性(東京地判令和2年12月10日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、a新聞の配達員であるCが原告の居住するマンションの玄関のオートロックを違法に開錠して本件マンションに侵入したことを現認して、110番通報したにもかかわらず、現場に臨場した警視庁の警察官らが、事実関係の確認を怠り、Cを逮捕しなかったことは違法であり、この違法な事件処理により著しい精神的苦痛を被ったと主張して、被告東京都に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料30万円の支払等を求めるとともに、Cの上記侵入行為及びa新聞の配達員であるDが同マンションのエレベーターを利用していないにもかかわらず各階に停止するようボタンを押して原告の業務を妨害するなどした行為につき、被告株式会社Yは使用者責任を負うべきであると主張して、被告Y社に対し、民法715条1項に基づき、慰謝料等合計32万円の支払等を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 民法715条1項にいう使用関係の存否については、当該事業について使用者と被用者との間に実質上の指揮監督関係が存在するか否かを考慮して判断すべきものであるところ、本件全証拠によっても、被告Y社がC及びDに対し実質上の指揮監督関係を有していると認めることはできず、また、一般的に、新聞社が販売店に対し、実質上の指揮監督関係を有しているということもできない
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告Y社に対する請求は失当である。

2 Cは、本件マンションのオートロックの扉の隙間からチラシを挿入してドア開閉センサーを感知させて扉を開錠し、本件マンション内に立ち入ったことが認められ、その立入りの態様は不適切であったということができる。
しかし、午前4時49分頃という立入りの時刻に鑑みると、Cがa新聞の購読者である本件マンションの居住者のドアポストに新聞を配達する目的で本件マンションに立ち入ったことは容易に推認されるところであり、また、Cの本件マンションへの立入りについて上記購読者の承諾が得られているものと推認され、本件マンションの管理者の意思に反するものでもないとも推認される。
そうすると、Cの上記立入行為が、直ちに原告に対する不法行為を構成するとは認め難いといわざるを得ない。
また、Dのエレベーターのボタンを押す行為が不適切であるとはいえるものの、それが直ちに原告の権利・利益を違法に侵害したと評価することは困難であるし、本件販売店の所長が令和2年9月9日のうちに原告に電話していることに照らすと、Dが原告から交付されたメモを同所長に交付したと推認され、Dがこれを不当に投棄したと認めることもできない。
そして、原告主張に係る同月11日のDの言動が、直ちに原告の権利・利益を侵害するような違法な暴言であったと評価することもできない。

マンションへの侵入行為は不適切であるが、違法(不法行為)とはいえないという判断です。

上記判例のポイント2の考え方は、同種事案にも応用可能な考え方ですので押さえておきましょう。

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管理会社等との紛争9 チラシ投函拒否の表示に反する行為が不法行為にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡) 

おはようございます。

今日は、チラシ投函拒否の表示に反する行為が不法行為にあたらないとされた事案(東京地判令和2年2月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、控訴人の居住するマンション1階の集合郵便受に、被控訴人作成のチラシ1枚が投函されたことについて、1階部分への立入禁止の表示及びチラシ投函拒否の表示に反する行為であって、不法行為を構成するとして、慰謝料10万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審が控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【裁判所の判断】

1 本件チラシを控訴人の郵便受に投函した行為は、明示的に示された本件マンション管理組合の意向及び控訴人の意思に反する行為であるが、そのような意向ないし意思に反する行為であるからといって、直ちに違法であるということはできず、当該行為が違法になるか否かについては、その行為の態様が、社会通念上一般に許容される受忍限度を超える侵害をもたらすものであるか否かによって判断すべきである。

2 これを本件についてみるに、本件マンションの敷地部分と前面通路との間に塀等による仕切りはなく、本件マンションの玄関階段棟の入り口のガラス扉も施錠されてはいない。
本件マンションの玄関部分に設置してある集合郵便受に投函するためには、玄関部分に立ち入ることは必要であるが、本件マンションが玄関階段棟と住居棟に分かれていることからすれば、現実に住民が居住する住居棟内に立ち入る必要はない。
配布された本件チラシは、一見して市議会議員の活動報告等の文書であることが分かるものであって、紙1枚にすぎず、詳細を確認せずに廃棄することも容易な文書である。
以上のとおり、本件チラシの投函行為は、物理的な強制力を用いたものではなく、立ち入った程度も住民が居住する区域ではなく玄関部分のみであって、配布された本件チラシの内容・分量も上記の程度であることに鑑みると、一般的に受ける不利益の程度も、社会的に受忍し得る限度を超えるものではないと認定するのが相当である。
控訴人は、本件チラシの投函行為が、建造物侵入罪を構成すると主張するが、建造物侵入罪の成立を認めた最高裁の判例の事案とは、建造物への立入りの態様が異なる。
したがって、本件チラシの投函行為は、不法行為を構成しない。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

このように客観的に見れば瑣末な問題でも訴訟に発展することがあります。

本件は、チラシを投函した団体を被告したものですが、場合によっては、管理が不十分との理由か管理会社等も被告とされることがあります。

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管理会社等との紛争8 民法235条1項(目隠し設置義務)に基づく窓の仕様変更請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡) 

おはようございます。

今日は、民法235条1項(目隠し設置義務)に基づく窓の仕様変更請求が棄却された事案(東京地判令和3年3月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、原告が居住するマンション敷地の隣地である本件土地上に本件建物の建設を計画している被告に対し、民法235条1項(目隠し設置義務)に基づき、本件建物の上記マンションに面した窓の仕様の変更を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 民法235条1項は、相隣者間の不動産相互の利用関係を調整することを目的に、絶えず相隣者から私生活を眺められているような気持ちを抱かざるを得ないような状況において、当該相隣者に対して一定の配慮を求めるための義務を課したものというべきであるから、同項の「他人の宅地を見通すことのできる窓」とは、一般人が目隠し設置義務の対象となり得る建物等で日常生活を営むに際して、特別の作業等を要することなく、日常的な行動をしているだけでも容易に相隣者の宅地を見通すことができるような窓のことをいうと解するのが相当である。

2 この点、本件仕様を前提にすると、窓が閉められている場合や鍵付きストッパーにより開放幅が制限されている場合には、目隠し設置義務に関して被告において何らかの措置を講ずる必要がないことは当事者間に争いがない。
また、被告は、本件建物の竣工後は、本件仕様に係る鍵付きストッパーの鍵を入居者には交付せず、建物管理会社において保管させることとしており、当該ストッパーが解除されるのは、賃借人が入れ替わる機会に窓ガラスの外側の清掃作業を行う場合のみであると主張しており、賃貸物件の管理方法としてその内容に特段不合理な点は見当たらない。

3 以上によれば、本件南側窓が「他人の宅地を見通すことのできる窓」といえるか否かは、被告の主張する管理方法を前提として判断すべきであり、これによれば、本件建物に居住することが予定される者においては、容易に本件仕様に係る鍵付きストッパーを取り外すことはできず、その場合には、本件南側窓を開放した隙間からは原告マンションの壁が見えるのみなのであるから、本件南側窓は、日常的な行動をしているだけでも容易に相隣者の宅地を見通すことができるような窓とはいえない。
そうすると、本件南側窓は「他人の宅地を見通すことのできる窓」には該当しないから、原告の請求には理由がない

民法235条1項には「境界線から一メートル未満の距離において他人の宅地を見渡すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。」と規定されています。

実務においては、上記判例のポイント1のあてはめが問題となります。

是非、裁判所の考え方を押さえておきましょう。

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管理会社等との紛争7 新聞販売店の従業員がマンション敷地内の人目につくところで排便を繰り返していたことを理由とする慰謝料請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、新聞販売店の従業員がマンション敷地内の人目につくところで排便を繰り返していたことを理由とする慰謝料請求が認められた事案(東京地判令和3年3月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの居住者である原告ら125名が、被告は新聞販売店を経営してAを使用していたところ、新聞配達中のAが上記マンションの敷地内の人目につくところで排便を繰り返し、これにより原告らは精神的損害を被ったと主張して、被告に対し、民法715条1項に基づく損害賠償請求として、原告らそれぞれに慰謝料5万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告らそれぞれに対し、5000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件各行為は、未明の、人があまり出歩かないような時間帯とはいえ、本件マンションの敷地内の人目につくところに排便をするというものである。これは、Aによる嫌がらせを目的とした行為とまでは認めるに足りないものの、行為自体が嫌悪感を催させるものである上、残置された便により悪臭を発生させるなどしたと考えられること、排便行為は、1か月半ほどの間隔のある二日間にわたり、繰り返し行われており、本件マンションの住民において、強い嫌悪感を抱くようなものであることはもとより、恐怖感を覚えたとしても不自然ではないといえるものでもあること等に照らせば、本件各行為は、原告らの本件マンションにおける平穏な居住の権利を侵害するものとして、不法行為となるというべきである。

2 この点に関し、被告は、本件各行為が行われたのが人目につきづらい場所であること、被告は通知を受けて速やかに配達員を交代し、その後同様の事態が発生していないことからすると、本件各行為は悪質とはいえず、原告らの受忍限度の範囲内である旨主張する。
しかし、本件各行為が行われた場所は、オートバイ駐輪場や駐輪場を利用する者が通行することが想定される通路であり、人目につきづらい場所とはいい難い。
また、本件各行為が行われた後の事情を考慮しても、本件各行為が原告らの受忍限度の範囲内といえるような、違法性の弱いものとはいえない。
したがって、本件各行為は、原告らに対する関係で、不法行為法上違法なものといえる。

世の中には、いろいろな人、いろいろなトラブルがあります。

本件は、管理組合が原告ではなく、マンション居住者125名が原告となり、慰謝料請求をした事案です。

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騒音問題7 騒音を理由とする上階の居住者に対する床材の変更(フローリング敷きからカーペット敷き)請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、騒音を理由とする上階の居住者に対する床材の変更(フローリング敷きからカーペット敷き)請求が棄却された事案(東京地判令和3年3月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、共同住宅、いわゆるマンションに居住する原告が、上階に居住する被告に対し、被告が原告居住建物に騒音を生じさせているのは、被告居住建物の床材が従前のカーペット敷きからフローリングに変更されたのが原因であるとして、人格権に基づき、被告居住建物の床材をカーペット敷きに変更することを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件の原告の請求は、被告所有建物からの騒音を理由として、人格権に基づいて、その防止措置として、床材をフローリングからカーペット敷きに変更することを求めるものと解される。
本件マンションのような共同住宅においては、各区分所有者ないし居住者は、それぞれの専有部分を起臥寝食、営業等の用に供しており、互いに一定の生活音を生じさせることは避けられないのが通常であるから、区分所有者ないし居住者が他の区分所有者、居住者の生活領域に対し、騒音を生じさせたとしても、直ちに不法行為責任が生じるということはできない。すなわち、区分所有者ないし居住者が、社会生活上受忍すべき限度を超えて、他の区分所有者、居住者の静謐な環境で生活する利益を侵害しているといえる場合に不法行為を構成すると評価すべきといえる。

2 本件において、原告は、原告の住居において、被告所有建物からの受忍限度を超える騒音が生じている旨主張し、自らの騒音の体験状況を記録した書面を証拠として提出している。
しかし、不法行為が成立するか否かの基準となる受忍限度を超えているかの判断は、個人の主観によるべきではなく、社会的に通用性のある客観的な基準によるべきである。
すなわち、騒音被害による一定の行為の差し止め又は是正措置の請求は、建物の所在する当該地域を対象とする条例等の騒音の規制基準を指標として、被害が生じているとされる空間に生じている音圧レベル・騒音値(db)の測定結果をこれに当てはめるなど、客観性のある基準、資料によってその是非を判断するのが相当といえる。
この点、原告提出の騒音について自らの主観的な評価を記録した上記証拠によっては、騒音が受忍限度を超えていることを認めることはできず、一方で、原告は、上記騒音の測定結果等の客観的な資料を証拠として提出していないから、受忍限度を超える被害を受けていることの的確な立証をしていないというべきである。

騒音問題に関する訴訟における重要なポイントが端的にまとめられており、大変参考になります。

訴訟前の準備として、騒音の原因及び存在に関する客観的な証拠を準備することがマストとなります。

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管理組合運営19 総会決議なく修繕積立金を取り崩して工事代金を支払ったことの違法確認請求訴訟が却下された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総会決議なく修繕積立金を取り崩して工事代金を支払ったことの違法確認請求訴訟が却下された事案(東京地判令和3年7月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

被告が平成27年6月25日に総会決議なく修繕積立金を取り崩して工事代金287万円を支払ったことが、被告の管理規約28条、48条に違反することを確認する。

本件は区分所有法所定の区分所有者である原告が、区分所有者全員で構成される管理組合である被告につき、前記の内容のとおり被告の管理規約に違反する行為があったとして、その確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

1 まず、確認の対象について見ると、原告の請求は、要するに本件支出が本件管理規約に違反していたという意味で違法であることの確認を求める趣旨と解される。
これは現在の権利又は法律関係に当たらないことは明らかであり、そして仮にそのような違法が確認されたとしても、そのことが原告と被告との間の個別的な権利又は法律関係につき基本となるような理由を直ちに見出すことはできず、原告と被告との紛争の直接かつ抜本的な解決のため適切・必要とは言い難い
併せて、仮に本件支出の違法が確認されたとしても、後の平成27年総会決議において本件支出を含む収支決算報告が可決されていることに照らせば、直ちに紛争の抜本的な解決に資するとは解し難い。
この点においても、本件支出の違法を確認することが適切・必要とは言い難い。

2 また、即時確定の利益について見ても、現に原告の有する権利又は法律的地位についてどのような危険又は不安が存在するかが不明であり、これを除去するために本件支出の違法を確認することが必要かつ適切であると言える理由も見出せないと言うほかない。
よって,確認の利益は認められない。

3 なお、当裁判所は、原告に対し、仮に自身の損害賠償請求権等が発生していると考えるのであれば、その権利との関係で確認の利益に関する主張を補充するよう釈明した。
この釈明を受けて提出された準備書面を見ても、「組合財産の棄損」などという表現は見られるものの、原告の現在の権利又は法律関係との関係は明らかでなく、主張の趣旨は不明確と言わざるを得ない。

本件は本人訴訟であるため、裁判所は原告に対して比較的丁寧に釈明していますが、奏功しなかったため、訴えを却下しています。

訴訟物の判断は、一般の方には難しい場合があり、設定を誤ると勝訴確率が大幅に落ちますので注意が必要です。

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管理会社等との紛争6 管理組合が弁護士に対して訴訟追行等に関する弁護士費用の返還請求をしたが棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合が弁護士に対して訴訟追行等に関する弁護士費用の返還請求をしたが棄却された事案(東京地判令和2年2月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、弁護士である被告との間で複数の訴訟等の追行に関する委任契約を締結し、着手金等を支払ったが、それらの委任契約は無効であるから、被告はそれらの委任契約に基づき受領した金員を法律上の原因なく利得し、そのために原告は損失を受けたと主張して、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、416万8800円及びこれに対する遅延損害金の支払を認める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件各委任契約が無効である理由について、被告には本件委任契約締結当初からそれらに基づく債務を履行しようとする意思はなく、被告が着手金等を詐取しようとしていたことは明白であるとしか主張していないところ、そのような事実があったとしても本件各委任契約が当然に無効となるものではないから、原告の主張は、主張自体失当である。

2 第1事件については、平成30年4月18日に判決が言い渡されて委任事務が終了し、第4事件については、被告又は所属弁護士が口頭弁論が終結されるまで訴訟を追行し、第5事件については、被告又は所属弁護士が解任されるまで7回の口頭弁論期日に出廷し、訴状及び準備書面1ないし3並びに甲第1号証ないし第30号証を提出し、第6事件については、強制執行停止決定を受けて委任事務が終了し、第7事件については、紛議調停が不成立で終了するまで手続を行って委任事務が終了したことがそれぞれ認められるところ、それにもかかわらず、被告に本件各委任契約締結当初からそれらに基づく債務を履行しようとする意思がなかったとか、被告が着手金等を詐取しようとしていたと認めることができるだけの証拠はない。したがって、本件各委任契約が無効であると認めることはできない。

3 したがって、原告が被告に対し本件各金員について不当利得返還請求権を有すると認めることはできないから、原告の請求は理由がない(なお、仮に被告が本件各委任契約について債務の本旨に従った履行をしなかったとすれば、原告が被告に対し債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができる場合があるが、本件の請求はそのような請求ではない。)。

本件は、管理組合が原告となり、委任契約を締結していた弁護士に対して弁護士費用について不当利得返還請求をした事案ですが、原告側には代理人がついておらず、適切な法律構成がなされておらず、結果として請求棄却となっています。

上記判例のポイント3のとおり、法律構成如何によっては請求が一部認められた可能性は0ではなかったと思います(もっとも、上記判例のポイント2を読む限り、可能性はそれほど高くないように思いますが)。

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漏水事故4 屋上部分の瑕疵を原因とする漏水について管理組合法人の工作物責任が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、屋上部分の瑕疵を原因とする漏水について管理組合法人の工作物責任が認められた事案(東京地判令和2年2月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、被告が共用部分を管理しているマンションの最上階の居室を所有している。

本件は、原告が、上記マンションの共用部分である屋上部分の瑕疵のため、上記居室に漏水が生じて損害を被った旨主張し、民法717条1項本文に基づき、被告に対し、口頭弁論終結時までに具体化した損害として461万4034円の賠償+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、380万4512円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件マンションの最上階にある本件居室に生じた本件漏水は、本件マンションの共用部分である屋上部分の瑕疵によるものと認められる。
被告は、本件漏水が共用部分に起因することを否認するが、他の原因を具体的に主張立証するものではなく、また、被告自身、本件漏水の対策工事として、屋上の笠木部分等にシーリング充てん等を行う本件対策工事を行っているのであり、上記の否認には理由がない。
以上によれば、被告には、本件漏水について、民法717条1項本文に基づく責任があると認められる。

2 原告は、本件賃借人退去後の平成29年11月1日から令和元年12月31日までの26箇月間の賃料相当額が本件漏水と相当因果関係のある損害である旨主張する。
本件賃借人が退去したのは本件漏水が原因であると認められる。
被告は、本件居室の相当賃料額が10万円であることを争うほか、本件居室の稼働率が100%となるものではない旨主張する。
しかし、本件賃借人は、平成19年9月に本件賃貸借契約を締結してから10年間にわたり本件居室に居住していたものであり、本件漏水以外に、あえて本件賃貸借契約の解約を図る事情があったことはうかがわれない
そうすると、少なくとも令和元年12月31日までは、本件賃貸借契約は維持され、本件賃借人は本件居室に居住し続けていたと認めるのが相当である。
また、仮に本件賃貸借契約が継続していたとして、同日までに、本件賃借人が賃料の減額を求めたことをうかがわせる事情も認められない。

3 原告は、本件に関する立会のため有給休暇を11日使用したとして、11日分の収入額を本件漏水による損害として主張する。
確かに、原告は、本件漏水のため、本件賃借人から損害賠償を求められ、調停の申立てもされるなどして、一定の対応を要したことは認められる。
しかし、自らが有給休暇を取得して対応しなければならなかった具体的必要性ないし原告の対応の具体的内容を認めるだけの証拠はない
また、本件漏水に係る損害として、一定の弁護士費用を認めることをも考慮すれば、原告の休業損害を本件漏水と相当因果関係のある損害と認めることはできないというべきであり、原告の上記主張は採用することができない。

漏水事故が発生した場合の損害(特に消極損害)をどのように認定するかについては、同種事案の裁判例が参考になります。

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管理組合運営18 管理組合法人と理事長の利益相反が否定され、監事が管理組合を代表して行った訴訟提起が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合法人と理事長の利益相反が否定され、監事が管理組合を代表して行った訴訟提起が認められなかった事案(東京地判令和3年7月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合法人と理事長の利益相反の有無、及び、監事が管理組合を代表して行った訴訟提起の有効性が争いとなった事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は監事として、臨時総会を招集しようとしたが、本件管理会社が監事である原告の指示に従わなかったとして、同総会の運営について補助することを求め、本件管理組合を代表して別件訴訟を提起したことが認められる。
本件管理組合においては、理事長が代表権を有しており、本件管理組合と理事長との利益が相反する事項に限って、監事が代表権を有することとされている(区分所有法51条)。
そして、管理組合法人と理事長(代表権を有する理事)の利益が相反する事項であるか否かは、当該行為の外形から判断すべきであり、理事長個人と管理組合法人との間で法律行為をする場合(自己契約)や、理事長が代表し、又は代理する第三者と管理組合法人との間で法律行為をする場合(双方代表又は双方代理)などが想定される
しかし、別件訴訟は、本件管理組合の理事長であった被告を相手方とするものではなく、本件管理会社を相手方とするものであるから、外形的に見て、本件管理組合と被告との利益が相反する事項に該当するとは認められない。
そうすると、原告は、別件訴訟について本件管理組合を代表することはできず、そもそも、本件管理組合を代表して別件訴訟を提起することができなかったと言わざるを得ない。

2 以上によれば、監事である原告が本件管理組合を代表することができる場合に該当しないにもかかわらず、原告が本件管理組合を代表して提起した別件訴訟について、原告がその費用を本件管理組合に対して請求することができる根拠は明らかでない。
したがって、本件管理組合が原告に対して前記費用を支払うべき義務があるとは認められないから、前記支払義務があることを前提とする原告の主張は前提を欠くといわざるを得ない。

本裁判例を通じて、管理組合と理事との利益相反について裁判所の考え方を押さえておきましょう。

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