日照権・眺望権3 景観利益保護とマンションの一部撤去の可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、景観利益保護とマンションの一部撤去の可否(最判平成18年3月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、上告人らが、大学通り周辺の景観について景観権ないし景観利益を有しているところ、本件建物の建築により受忍限度を超える被害を受け、景観権ないし景観利益を違法に侵害されているなどと主張し、上記の侵害による不法行為に基づき、①被上告人Y1及び本件区分所有者らに対し本件建物のうち高さ20メートルを超える部分の撤去を、②被上告人らに対し慰謝料及び弁護士費用相当額の支払をそれぞれ求めている事案である。

【裁判所の判断】

上告棄却

【判例のポイント】

1 良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者は、良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり、これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益は、法律上保護に値するものと解するのが相当である。
もっとも、この景観利益の内容は、景観の性質、態様等によって異なり得るものであるし、社会の変化に伴って変化する可能性のあるものでもあるところ、現時点においては、私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず、景観利益を超えて「景観権」という権利性を有するものを認めることはできない

2 ところで、民法上の不法行為は、私法上の権利が侵害された場合だけではなく、法律上保護される利益が侵害された場合にも成立し得るものである(民法709条)が、本件におけるように建物の建築が第三者に対する関係において景観利益の違法な侵害となるかどうかは、被侵害利益である景観利益の性質と内容、当該景観の所在地の地域環境、侵害行為の態様、程度、侵害の経過等を総合的に考察して判断すべきである。
そして、景観利益は、これが侵害された場合に被侵害者の生活妨害や健康被害を生じさせるという性質のものではないこと、景観利益の保護は、一方において当該地域における土地・建物の財産権に制限を加えることとなり、その範囲・内容等をめぐって周辺の住民相互間や財産権者との間で意見の対立が生ずることも予想されるのであるから、景観利益の保護とこれに伴う財産権等の規制は、第一次的には,民主的手続により定められた行政法規や当該地域の条例等によってなされることが予定されているものということができることなどからすれば、ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには、少なくとも、その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり、公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど、侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められると解するのが相当である。
・・・以上の諸点に照らすと、本件建物の建築は、行為の態様その他の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くものとは認め難く、上告人らの景観利益を違法に侵害する行為に当たるということはできない。

有名な国立マンション事件最高裁判決です。

景観利益の侵害についての規範(かなり厳しい判断基準です)が示されていますので、同種事案はこの規範に基づいて判断されることになります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故11 漏水事故について上階の一室を所有する被告の管理上の過失が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故について上階の一室を所有する被告の管理上の過失が認められなかった事案(東京地判令和元年12月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が所有し、鍼治療院に賃貸しているマンションの一室において発生した漏水事故は、同室の上階の一室を所有する被告の管理上の過失によるものであると主張して、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づいて、修繕工事費等の損害合計409万3969円遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件漏水事故の当時、被告は501号室に居住しておらず、水を使用していなかったと認められる上、平成29年10月2日の時点で本件給水管が切断されたことにより、以後501号室への給水が完全に止められたと認められる。
それにもかかわらず、その後も406号室への漏水は続いていたことが認められる一方、本件ビルにおいては雨漏りが多発しており、4階でも複数の部屋において雨漏り被害が発生している
そうすると、本件漏水事故の原因は、本件ビル自体の雨漏りによるものである可能性を否定することができず、むしろその蓋然性が高いというべきであり、本件給水管の劣化によるものとは認められない。

2 原告は、本件漏水事故は雨漏りによるものではないと主張し、その根拠として、平成29年9月にはさほど大きな雨が降っていないことや本件治療院から雨漏りによる水漏れ量の増減はないと言われていたことを挙げるが、平成29年9月20日の前後には一日50ミリメートル程度の雨が降っており、本件治療院からの報告内容を示す証拠は存在しないから、原告の主張を採用することはできない。
なお、原告は本件漏水事故後の大きな台風の時に漏水が発生していなかったとも主張するが、この主張によって本件漏水事故の原因が本件給水管の劣化によるものであることを積極的に根拠づけられることにはならないから、失当である。

漏水事故について責任を追及された場合に、被告としていかなる視点で反論すべきかというのは、まさに弁護士の腕の見せ所です。

裁判例を研究していくと、原告の立証が不十分であるという心証を裁判官に抱かせるための方法論がいろいろと見えてくると思います。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争11 部屋の改修工事により生じた問題に対する理事長の対応が不適切であることを理由とする慰謝料請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、部屋の改修工事により生じた問題に対する理事長の対応が不適切であることを理由とする慰謝料請求が棄却された事案(東京地判令和元年10月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らと被告が区分所有するマンションの管理組合の理事長であった被告が、原告らから、階下の部屋の改修工事により生じた問題について適切に対応してほしい旨懇願されたのに、これを不当に無視するなどしたと主張して、被告に対し、不法行為に基づいて、原告X1において慰謝料50万円+遅延損害金の支払を、原告X2において慰謝料100万円+遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。

原告らは、当初、被告に対し、上記各損害賠償請求のほか、区分所有法25条2項に基づき理事長の解任を求めたが、平成31年3月16日の第23期通常総会をもって被告が理事長を任期満了により退任したため、同解任請求に係る訴えを取り下げた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告らは、被告が、8月26日の現場調査の際、原告らの被害の申立て等に面倒くさそうな顔をして、スケルトン工事にするとどのような工事になるのかと興味があったなどと述べたと主張し、原告X2の陳述中にそれに沿う部分がある。
しかし、仮に8月26日の現場調査の際に、被告が、原告らにとって面倒くさそうな顔をしたと感じるような表情をしたり、スケルトン工事がどのような工事になるのかと興味があったなどと述べたりしたとしても、被告においてそのような表情又は発言をしてはならないという義務を、「原告らとの関係で不法行為を発生させる」という意味での法的義務と評価したり、その違反行為をもって社会的相当性を逸脱する行為等と評価したりすることは、もともと著しく困難であり、8月26日の現場調査の際、同法的義務が発生したなどと認め得るような極めて特異な状況にあったことをうかがわせる証拠もない。
したがって、原告らの上記主張の行為をもって、違法行為に該当するということはできない。

2 原告らは、被告が、平成30年2月21日、原告X1に対し、「今後は自宅への来訪、携帯への連絡ではなく、全て書面でのやり取りを要請致します。」と記載した書面を508号室に投函するという、極めて理不尽で、狷介な行為に及んだと主張し、被告が、同日頃、原告X1に宛て、本件報告書をAに渡すことは法的に問題がなく、被告が責任を問われるものではないこと、同月15日及び同月17日の原告らの言動は容認することができるものではなく、弁護士に相談をしていること、今後は、自宅への来訪、携帯への連絡ではなく、全て書面でやり取りをすることを要請する旨を記載した書面を投函したことが認められる。
しかし、被告は、本件報告書をAに交付したことをめぐり、原告らから、平成30年2月15日午後10時頃、きつい言葉で、代わる代わる論難されつつ、本件報告書をすぐに回収し、写しが取られている場合には、一切口外しないという一筆を取るように求められ、更に同月17日の理事会の終了後、一筆は取れたのか、勝手に渡したことの責任を取れと詰め寄られ、そのやり取りの中で、原告X2がげた箱を叩いたり、書類の束を床に投げつけたりするという行為に及ばれたこと、また、2月21日の理事会において、原告らから理事会に対しての意見、要望については、書面で提出してもらうこととすることが決議されたことがそれぞれ認められる。
そうすると、このような状況の中、被告が上記の書面を原告X1に宛てて投函することをもって、極めて理不尽であるなどということはできず、その投函はやむを得ないものといわざるを得ない
したがって、原告らの上記主張の行為をもって、違法行為に該当するということはできない。

原告は、本件訴訟において、20を超える被告の対応が不適切であると主張しましたが、いずれも違法性は否定されています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

騒音問題8 賃借人の賃貸人に対する騒音問題等に適切に対処しないことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃借人の賃貸人に対する騒音問題等に適切に対処しないことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和3年9月1日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被控訴人から集合住宅の一室を賃借している控訴人が、被控訴人に対し、同集合住宅の騒音問題等に適切に対処しないなどとして、賃貸借契約の債務不履行に基づき、賃料相当額の損害賠償金55万円及び慰謝料85万円並びにこれら合計140万円に対する遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人がこれに不服であるとして控訴した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 控訴人は、被控訴人は本件マンションにおける騒音や害虫の発生に適切に対処せず、控訴人との話合いに誠意を持って応じないなど、本件賃貸借契約に基づく使用収益債務の履行を怠ったと主張する。
しかしながら、被控訴人は、控訴人から騒音や害虫に係る苦情を受け、複数回にわたり、対象となる入居者に対して騒音に気を付けるよう注意し、又は本件マンションの入居者全員に対して居室や排水口を清潔に保つよう注意する文書を配布しているほか、従業員が本件マンション内を巡回しても騒音や害虫の発生を確認することができず、令和2年6月30日頃には害虫を駆除するための殺虫剤を配布している
かかる事情に照らせば、被控訴人は、本件賃貸借契約の賃貸人として、賃借人である控訴人の苦情に誠実に対応し、控訴人が訴える問題を可能な限り解消しようと努めたというべきであり、これを超える措置を講じる義務を負うとは認められないから、賃借人に対して負担する使用収益債務の履行を怠ったということはできない。

2 控訴人は、被控訴人は控訴人に対して騒音問題等には対処しない旨記載した文書を送付し、もって使用収益債務の履行を拒絶したと主張するが、被控訴人が控訴人に送付した文書は、被控訴人は直接の制止行為をすることができない旨述べるものにすぎず、これをもって騒音問題等には対処しない旨記載したものであるとか、使用収益債務の履行を拒絶する趣旨のものであるということはできないし、被控訴人が使用収益債務の履行を怠っていないことは上記で判示したとおりであるから、この点に係る控訴人の主張は採用することができない。

本件は区分所有建物における紛争ではありませんが、仮に区分所有建物において同種の事案が発生した場合には、管理組合や管理会社の責任の有無について同様の判断枠組みが用いられます。

結果責任ではありませんので、客観的に妥当性の認められる対応をしたか否かがポイントとなります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故10 給湯器に接続された給湯管・給水管からの漏水事故につき、管理組合の修繕義務が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、給湯器に接続された給湯管・給水管からの漏水事故につき、管理組合の修繕義務が否定された事案(東京地判平成30年9月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションに属する本件建物の区分所有者である原告が本件建物の本件バルコニー内に設置されている給湯器に接続された給湯管・給水管からの漏水事故に関し、その漏水箇所が当該給湯管・給水管のうち共用部分に埋設されている部分にあり、その部分は共用部分に属するから、本件規約により、本件マンションの管理組合である被告がこれを修繕すべき義務があったのにこれを行わなかったと主張して、被告に対し、不当利得返還請求権(民法704条)、債務不履行又は工作物責任に基づき、(原告が支出した修理代金相当額)19万3320円+遅延損害金の支払を、また、(原告において修繕工事を完了するまで、本件建物の給湯器を使用できなかった結果)自宅の風呂を使えなかったため原告及び同居するその長男において80日間にわたり公衆浴場を利用せざるを得なかったと主張して、被告に対し、債務不履行又は工作物責任に基づき、(原告が支出した入浴料相当額)6万8800円+遅延損害金の支払を求めるほか、本件規約に基づき、本件バルコニーに設けられている給湯器据え付け用の基礎コンクリート部分のクラックの修繕を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件立上り部分が共用部分であることについては当事者間に争いがない。
本件架台部分は、本件バルコニーの躯体部分の建築後に、給湯器を据え付けるために本件バルコニー内に設けられたコンクリート製の架台であると認められる。そして、その構造や設置目的に照らせば、本件架台部分は、(本件建物の区分所有者の)専有部分に当たるか、少なくとも、(本件規約11条により,当該区分所有者の専用使用部分に当たるとされている)本件バルコニーに付随する専用使用部分に当たると認めるのが相当である。

2 本管から分枝した給水管の枝管及び給湯管は、本件建物の床上配管(床下スラブの上)を通っているところ、本件建物から点検・修理が可能であり、かつ、本件建物の用にのみ供される設備であるから、専有部分に当たるというべきである。
そして、本件架台部分は、専有部分か、少なくとも専用使用部分に当たるから、そこに埋設された本件架台部枝管も、当然に、専有部分に当たるというべきである。
これに対して、本件立上り部枝管は、共用部分である本件立上り部分に埋設されているので、その性格が共用部分に変化するか否かが問題となる。
しかし、本件立上り部枝管の距離(すなわち、本件立上り部分に埋設された部分の距離)は短く、隣接する専有部分からこれを点検・修理することが不可能であるとはいえないから、本件立上り部枝管も、専有部分という性格を失うものではないと解するのが相当である。

3 以上のとおり、本件架台部分並びに本件立上り部枝管及び本件架台部枝管は、いずれも専有部分(又は専有使用部分)に当たるから、本件規約16条又は17条により、本件建物の区分所有者が自己の責任と負担において管理すべきものである。
したがって、本件架台部分のクラック並びに本件立上り部枝管又は本件架台部枝管からの漏水については本件建物の区分所有者である原告が修繕義務を負うというべきである。

専有部分にあたるか共用部分にあたるかという争いは、少なくありません。

非常にテクニカルな争点なので、弁護士に相談することをおすすめします。

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管理会社等との紛争10 専有部分の湿気が恒常的にひどいことについて管理組合及び管理会社の責任が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分の湿気が恒常的にひどいことについて管理組合及び管理会社の責任が否定された事案(東京地判平成31年3月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件専有部分の区分所有者である原告が、①区分所有法3条に基づいて本件マンションの区分所有者全員で構成する本件マンションの管理組合である被告管理組合について、本件専有部分の湿気が恒常的にひどいという建物の瑕疵があると主張して民法717条1項に基づき、又は本件専有部分の湿気やカビに関する原告の申出に対し然るべき対応をする管理規約上の義務があったにもかかわらずこれを怠ったと主張して「法定責任」若しくは債務不履行に基づき、②被告管理組合との間で管理委託契約を締結している被告管理会社について、原告の申出に対し然るべき対応をする委任契約上の善管注意義務があったにもかかわらずこれを怠ったと主張して、債務不履行に基づき、被告らに対し、連帯して643万2685円の損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 民法717条1項にいう「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵がある」とは、当該土地の工作物について、その種類の工作物として本来備えるべき性状や設備を欠き、その安全性等を欠いていることであると解されるところ、原告は、「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」ことが瑕疵であると主張するが、このような現象が土地の工作物(建物)の瑕疵であるということはできない。
また、仮に「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」という現象が起こったため、カビが発生して原告主張の種々の損害が発生したという主張であると捉えてみたとしても、被告管理組合の責任は認められない。すなわち、原告は、区分所有法9条が「建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。」と定めていることを指摘して、原告において上記のこと以上に主張立証する必要はないというが、同規定は、欠陥がどこにあるのか判明しないという場合に当該欠陥は共用部分にあると推定するものに過ぎないため、原告の被った損害が建物の設置又は保存の欠陥に由来するものであることは原告において主張立証しなければならないものであるところ、「湿気が恒常的にひどい」という現象の原因は種々考えられるのであって、当該現象が存在したからといって、これが建物の設置又は保存の欠陥に由来するものであるということはできず、建物の設置又は保存の何らかの欠陥によって「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」という現象が生じた(ひいては原告主張の種々の損害が発生した)ことについては、証拠が全くない。

2 加えて、本件においては、そもそも「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」ことについてもこれを認めるに足りる証拠はない。
すなわち、原告は、同事実が存在したことの証拠として、甲25号証の1ないし3を提出するが、同甲号各証及び弁論の全趣旨からは、平成24年5月2日に原告が本件専有部分で湿度を測ったところ、当該測定に用いた湿度計において湿度80ないし85パーセントを指し示したことが認められるが、当該湿度計がどの程度の性能のものであるのか、当該測定方法がいかようなものであるのか、当該測定時における周囲の状況がいかようなものであるのかなど測定の前提となるべき種々の事情は全く不明である上、仮に上記測定結果を前提とするとしても、同日に湿度80ないし85パーセントであったというだけであり、これがどの程度持続していたかについては全く不明なのであって、同甲号各証によっては「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」という事実を認めるに足りず、他に同事実を認めるに足りる証拠はない。

上記判例のポイント2において、裁判所が求める立証の内容・程度をしっかりと押さえておきましょう。

本件は、湿度の問題ですが、騒音や悪臭等にもそのまま応用可能です。

事前の準備が勝敗を決するという典型例です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故9 漏水事故につき、事故前から予定されていた耐震補強工事の補償金受領を理由に原告主張の損害が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故につき、事故前から予定されていた耐震補強工事の補償金受領を理由に原告主張の損害が否定された事案(東京地判平成30年11月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、自己の所有する部屋の階上の部屋における漏水事故によって、原告の所有権が侵害され、損害を被ったと主張して、階上の部屋の所有者である被告に対し、不法行為に基づき、内装工事費用88万9506円、事務所移転費用63万7110円及び弁護士費用15万2661円の損害賠償金合計167万9277円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件事故によって、605号室の造作等が浸水し、毀損され、605号室の資産価値が低下するなどの損害が生じたとし、その実情として、原告が事務所として使用していた605号室の用途に支障が生じるなど、原状回復工事を要する程度のものであったと主張する。
そして、本件事故後に、漏水対応工事代を88万9506円、移転費用を63万7110円とする見積書等が作成されている。
しかしながら、605号室については、本件事故当時(平成27年6月26日)、平成27年8月から605号室耐震補強工事の実施が予定され、これに伴い、原告が事務所を仮移転することも予定されていた。
そして、605号室耐震補強工事は、同年8月22日から同年10月28日まで実施され、605号室の事務所は、同年7月25日頃から同年10月29日頃まで、605号室から別室に仮移転し、原告は、移転補償費用を受領した。
また、原告は、605号室耐震補強工事の実施前に、605号室の内装工事を実施せず、605号室耐震補強工事等が実施されたことにより、原告主張の内装工事費用88万9506円及び事務所移転費用63万7110円を支出する予定も必要もなくなった。そして、原告が、605号室耐震補強工事の実施につき、何らかの支出をしたことを認めるに足りる証拠はない。
以上のとおり、本件事故前から、本件事故の約2か月後に605号室耐震補強工事の実施が予定されており、605号室は、605号室の耐震補強工事を受ける必要がある状態であったといえ、かつ、原告は、それに伴い、事務所として使用していた605号室を移転する必要がある状態であったといえる。

2 また、原告は、自ら605号室の内装工事をすることなく、605号室耐震補強工事が実施され、それに伴い、605号室から事務所を仮移転させたが、その移転補償費用を受領し、605号室耐震補強工事等が実施されたことによって、原告主張の内装工事費用88万9506円及び事務所移転費用63万7110円を支出する予定も必要もなくなった
よって、605号室が、本件事故当時、605号室の耐震補強工事を受ける必要がある状態であったこと、原告は、本件事故当時、約2か月後に予定されていた605号室耐震補強工事の実施を受け、それに伴い、移転補償を受けて、605号室の事務所を仮移転させることを選択できたこと、原告は、実際にそれを選択したことからすれば、本件事故による損害賠償を求める原告においては、本件事故当時、社会通念上、原告主張の内装工事費用88万9506円及び事務所移転費用63万7110円の支出を回避する措置を執るべきことが合理的な行為として期待されるというべきであって、原告において回避させることができた損害について賠償の対象とすることは相当ではないというべきである
そして、原告が、実際に、原告主張の上記費用の支出を回避できていることに照らせば、本件事故によって、原告主張の上記費用に係る損害が生じたということはできない。

被告側の調査・立証が奏功した事案です。

入念に調査することにより、結論は大きく変わります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故8 清算条項を含む承諾書に基づき保険会社から漏水事故の賠償を受けたことを理由とする追加の損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、清算条項を含む承諾書に基づき保険会社から漏水事故の賠償を受けたことを理由とする追加の損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和元年7月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件建物403号室を所有していた原告が、同建物の真上の階に所在する建物(本件建物503号室)からの漏水事故により、漏水が本件建物403号室に達し、建物修繕費用及び汚損した絨毯に係る財産的損害を被った旨主張して、本件建物503号室を所有していた亡Aから同建物を使用していた同人の子である被告に対し、被告は亡Aの建物所有者としての損害賠償責任(民法717条1項ただし書)を相続しており、また、被告自身も建物占有者としての損害賠償責任(同項本文)を負う旨主張して、損害賠償金合計920万円(建物修繕費用1049万2582円のうち800万円及び汚損した絨毯につき120万円)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件承諾書は、その記載から一見して、本件事故によって原告に生じた損害について、同承諾書記載の金額が原告に支払われることをもってその他の債権債務がないことを確認し、同金額を超える損害賠償責任を免責する内容の書面であることが明らかであり、同承諾書の当事者欄に亡Aの記名があることから、同承諾書が亡Aに宛てたものであることも明らかである。したがって、原告は、本件承諾書に署名押印したことにより、亡Aに対し、同承諾書に記載された上記内容のとおり意思表示をしたものと認められ、これにより、亡Aとの間で、上記内容のとおり合意が成立したものと認められる。
したがって、原告が、三井住友海上から、本件承諾書記載の金額である合計467万3560円の支払を受けたことにより、亡Aは、本件事故による損害賠償について、同金額を超える責任を免れたものと認められるか、原告は、亡Aに対し、更に本件事故によって生じた損害の賠償を求めることはできない。
以上によれば、亡Aに対する損害賠償請求権を被告が相続したことを前提とする原告の請求は、前提において理由がない。

2 本件排水管は、本件建物503号室の台所流し台床下に埋設されており、流し台自体を撤去しなければ視認したり接触したりすることができない位置に設置されていたことが認められる。しかるところ、本件建物503号室の使用借主にすぎない被告において、上記流し台を撤去して本件排水管が破損しているか否かを直接視認するなどして確認したり、破損箇所の修補を行うことは期待できず、また、そのような権限も有していなかったと認められるから、被告が、上記確認ないし修補等を行って本件排水管を維持すべき注意義務を負っていたということはできない。
また、本件事故当時、本件建物503号室に居住していた被告において、本件排水管の破損を予見し得るだけの兆候その他の事実を認識していたことは証拠上うかがわれず、被告が、本件排水管の破損の危険性を亡Aに事前に連絡するなどして本件事故を未然に防止すべき注意義務を負っていたということもできない
さらに、本件事故当時、被告が、本件排水管に過度の負担がかかるような態様で本件排水管を使用していたことや、本件排水管の定期的な清掃その他のメンテナンスに非協力的であったことをうかがわせる事情は証拠上見当たらない。

本件は、本人訴訟で、原告としては納得のできない事情があったのだと思いますが、清算条項が入っていますので、追加の請求は難しいです。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故7 漏水事故につき被告の過失が認定されたが原告主張の損害との因果関係が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故につき被告の過失が認定されたが原告主張の損害との因果関係が否定された事案(東京地判令和2年3月4日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、建物1階で保育園を運営する原告が、同建物2階で家庭支援センターを運営する被告において、漏水事故が発生する可能性がある施設を適切に管理するという注意義務を怠るとともに、同センター内の設備の保存に瑕疵があったため、同センターにおいて漏水事故を発生させ、階下の同保育園に浸水被害を生じさせたと主張して、民法709条の規定又は717条1項本文の規定に基づき、被告に対し、損害金1億4530万8560円(修繕除菌費用5953万5000円、仮園舎の建築解体費用7236万円、仮園舎との間の引越費用10万円、人件費10万3691円及び弁護士費用1320万9869円の合計額)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件漏水事故の原因は、シャワー開閉ボタンの押下によって本件シャワーから出水したことにあると認められ、被告においては、物品がシャワー開閉ボタンを押下して本件シャワーから出水しないよう、同物品の配置に配慮するなどすべき注意義務を怠った過失があると認められる。

2 原告は、客観的には幼児を含めた人の健康被害が生ずる具体的な危険性が認められない状況の下、実際にも、原告使用部分において原告保育園の運営を継続していた平成28年12月までの間に園児に健康被害が多発したなどの事情がなく、本件各工事に先立ち原告使用部分の検査を実施することもしなかったのに、総額1億3000万円超を要する本件各工事の実施を決断しているのである。
このような事情からすると、本件各工事を実施するという原告の判断は、それが原告にとって、乳幼児の健康を対象にした万が一の事態等に備えたものであったとしても、原告独自の判断であるといわざるを得ず、その判断により生じた費用を被告に負担させることが相当であるという意味で本件各工事の必要性があったとは認められない。

3 本件各工事の施工が原告独自の判断と評価せざるを得ないものであり、その判断により生じた費用を被告に負担させることが相当であるという意味で本件各工事の必要性があったと認められないことは、前記で説示したとおりであるから、本件各工事の施工に伴い原告保育園の機能を移すために要した人件費も、本件各工事の工事費用と同様に、本件漏水事故と相当因果関係のある損害であると認めることはできない
また、本件漏水事故の発見日に係る人件費についても、本件漏水事故によって原告の従業員に対する給与支払額が現実に増加し、その支払を余儀なくされ、原告に損失が生じたと認めるに足りる的確な証拠がないから、同人件費が本件漏水事故と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。

漏水事故につき、被告の過失が認定されてましたが、原告が主張する損害との間の因果関係がいずれも否定されたため、請求棄却となっています。

相当因果関係の有無については、損害が広がり過ぎないように、謙抑的に解釈される傾向にありますので注意が必要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

漏水事故6 漏水事故による原状回復工事完了までの転居費用の算定方法(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故による原状回復工事完了までの転居費用の算定方法(東京地判令和3年4月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が被告に対し、被告の所有するマンションの一室で発生した漏水事故により、原告が使用していた一室が居住不能となって、原状回復工事完了までの間、一時的に別の場所に転居せざるを得なかった上、原状回復工事の際に工事業者が原告所有の冷蔵庫を使用不能にしたとして、不法行為に基づき、一時的な転居により生じた損害126万円、冷蔵庫の購入価格23万8000円の損害賠償金合計149万8000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、34万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 当該電気温水器からの漏水は、本件事故発生から20年以上前に設置された当該電気温水器のヒーター部分のパッキン劣化によるものであることからすれば、被告が相当期間にわたり、パッキンの交換や電気温水器の点検を怠っていたことが推認され、本件事故が生じたことにつき、被告に過失があったと認めるのが相当である。

2 原告は、本件事故により、一時的に本件イベントスペースに転居したため、本件イベントスペースを顧客に貸すことができなかったところ、本件イベントスペースを貸し出すことで1日あたりに得られるレンタル料は3万円を下らないとし、一時的な転居による損害が126万円(3万円×42日間)であると主張する。
しかしながら、原告が、本件イベントスペースに転居しなければならない合理的な理由はなく、本件物件の面積が22.05m2であることや、一般に一時的に数日間転居する場合にかかる費用等にかんがみれば、原告が、本件物件から一時的に転居したために生じた損害のうち、本件事故と相当因果関係のある損害は、34万円(1万円×34日間)と認めるのが相当である。

3 原告は、本件工事中に本件工事業者が原告所有の冷蔵庫をへこませて使用不能にしたと主張するが、これを認めるに足りない。

漏水事故に限らず、不法行為事案における損害額の算定は解釈が多分に含まれるため、一定程度の専門性が要求されます。

素人の方がなんとなく交渉すると損をしてしまうので気を付けましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。