管理費・修繕積立金19 管理組合に対する訴訟無能力者確認等請求が二重起訴にあたるとされ不適法却下された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合に対する訴訟無能力者確認等請求が二重起訴にあたるとされ不適法却下された事案(東京地判令和元年11月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、東京都江東区所在のマンションの区分所有者である原告が、同マンション管理組合である被告に対し、被告が原告に対して管理費等の支払を求める別件訴訟を提起したことに関連して、①権利能力なき社団である被告には、資産や財産がないこと等から、原告に対する金銭請求権はないことの確認を求めるとともに、②前記別件訴訟は、被告が区分所有者全員から委任を受けずに提起するなどした違法なものであるとして、不法行為に基づく損害賠償として、原告の応訴の負担に係る慰謝料10万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

1 原告は、平成31年2月27日、別件訴訟において、被告が資産ないし財産を有しないにもかかわらず別件訴訟を提起したことは原告に対する不法行為であるとして、その応訴の負担にかかる10万円の損害賠償を求める反訴を提起しており、同反訴にかかる反訴状は同年3月26日に被告に送達され、現在も東京簡易裁判所に係属中であることが認められる。
原告は、本件訴訟において、被告が区分所有者全員から委任を受けていないなどの状況で別件訴訟を提起したことが不法行為であるとして、その応訴の負担にかかる慰謝料10万円の損害賠償を求めているところ、同請求は、前記認定の別件訴訟における反訴請求と同じく、被告が別件訴訟を提起したことを不法行為として、その応訴の負担に係る損害を10万円として同金員の支払を請求するものであるから、両請求は、当事者及び訴訟物を同一にするものであると認められる。
そして、本件訴訟は、前記反訴状が被告に送達された後に提起されたものであるから、二重起訴の禁止規定(民訴法142条)に抵触する不適法な訴えであるというべきである。

2 これに対し、原告は、本件訴訟と別件訴訟における反訴請求とでは、請求原因等が異なるから二重起訴ではない旨主張するが、別件訴訟における反訴請求と本件訴訟とは、原告自身が設定した違法事由が異なるに過ぎず、これをもって訴訟物が異なると解することはできないから、前記主張には理由がない。

あえて本件訴訟を提起する必要はなく、既に係属している別訴の中で判断してもらえばいいですね。

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管理組合運営23 管理組合により役員に就任する順番を定めた輪番制から除外されたことが不法行為には該当しないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合により役員に就任する順番を定めた輪番制から除外されたことが不法行為には該当しないとされた事案(東京地判令和元年12月5日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

被告は、本件マンションの区分所有者全員をもって構成される管理組合であり、原告は、本件マンションの805号室の区分所有者であり、同室に居住している。
本件は、原告が、被告において、被告の役員に就任する順番を定めた輪番表から正当な理由なく原告を除外したことにより、原告が被告の役員に選任され得る地位を侵害するとともに、原告に精神的苦痛を与えた旨を主張して、被告に対し、原告居室の区分所有者としての権利に基づき、本件輪番表に原告居室を記載することを求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料50万円を支払うことを求める事案である。

【裁判所の判断】

判例のポイント

【判例のポイント】

1 区分所有者が集会において議案を提案することができることは、区分所有建物の管理権の行使に関わり、区分所有者の集会が多数決で運営されていることの前提をなすものというべきであって、区分所有者が議案の提案に関し法的保護に値する利益を有していることに鑑みると、本件管理規約51条9項は、議案の修正動議の提出を否定するものとは解されない。

2 この点に関し、平成25年5月26日の被告の総会において、原告が提出した修正動議につき採決が行われなかったことがあったことも認められるが、平成29年12月23日に被告の理事会において原告居室が24期役員輪番表から外された後、被告の総会において、提出者が原告であるか否かを問わず、修正動議の提出自体が否定されたことがあったとは認められず、平成29年12月23日以降においても、原告の修正動議の提出が否定されるものであったことを認めるに足りる的確な証拠はない。

3 以上の検討によれば、原告は、原告居室が24期役員輪番表から外された後も、被告の総会において、役員の改選に係る議案に関し、自らを被告の役員の候補者とする旨の修正動議を出すことで、容易に被告の役員の候補者となることができたというべきであるから、本件地位は、法的保護に値するものとは認められない。
したがって、原告居室が本件輪番表から除外されたことは、原告に事実上の不利益を生じさせるにとどまり、この措置によって、原告が何らかの権利又は法的保護に値する利益を侵害されたとは認められないから、争点3以降については判断するまでもなく、被告の原告に対する不法行為は成立しない。

輪番制から外されたことは原告に「事実上の不利益」を生じさせるが、「何らかの権利又は法的保護に値する利益」が侵害されたとは認められないとの判断です。

裁判所による微妙な匙加減のため、評価のしかたによっては、ぎりぎりのところで結論が異なり得ると思われます。

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管理会社等との紛争16 マンションの建築工事を受注した建設会社の執行役員らが管理組合に対して行った住民集会の様子を撮影した動画の削除請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの建築工事を受注した建設会社の執行役員らの管理組合に対する住民集会の様子を撮影した動画の削除請求が棄却された事案(東京地判令和元年12月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告らは、マンション管理組合である被告の構成員らが居住するマンションの建築工事を受注した建設会社の執行役員等であるが、被告は、当該工事に関する謝罪等を行うために開催された住民集会における原告らの様子を動画撮影し、その一部をインターネット上の動画投稿サイトに投稿して公開したほか、撮影した動画データをマンションの住民が閲覧可能なクラウドサービスに保存した。

本件は、原告らが、被告に対し、上記動画の撮影及びインターネット上での公開は原告らの肖像権を侵害し、不法行為に当たるとして、慰謝料として各100万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、肖像権に基づく差止請求として、投稿動画のインターネット上からの削除、撮影動画のクラウドサービス上からの削除及びこれらのデータの廃棄を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである(平成17年最高裁判例)。
また、人は、自己の容ぼう等を撮影された動画をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり(同判例参照)、人の容ぼう等が撮影された動画をその承諾なく公表することが不法行為法上違法となるかどうかについても、上記同様に総合考慮して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決するのが相当である。

2 本件集会は、本件マンションの集会室において、b社及びc社が本件マンションの雨水排水設備やくい施工の問題に関して住民に謝罪し、説明を行うために開催されたものである。原告らは、そのような集会に、b社の代表取締役に代わり、同社を代表する立場として参加し、その立場において、本件マンションの住民らに対して、上記各問題に関する謝罪や説明を行っている。
被告は、その際の様子を、集会に参加できない他の住民が後日に集会の状況を確認できるようにし、また、原告らの発言の内容を正確に記録するために、原告らの目の前で、その冒頭から集会の様子を撮影したものである。
以上のような本件集会の内容、目的や開催場所、原告らがこれに参加した経緯及び立場、撮影の態様及びその目的、必要性に照らすと、本件動画には原告らが立ったまま謝罪し、住民らから糾弾される様子が映っている部分が存在しているとはいえ、撮影が原告らの承諾なく行われたか否かにかかわらず、これにより原告らの人格的利益が社会生活上の受忍限度を超えて侵害されたと評価すべきものであるとは認め難い

3 また、本件投稿動画は、本件集会において、原告らが、b社を代表する立場として、くい施工に関する調査をする意向を示したにもかかわらず、後日になってこれを翻し、一向に調査を実施しないb社の法人としての姿勢を社会的に非難するために投稿されたものである。くい施工の調査は本件マンションの建物自体の安全性に関わる重大な事柄であることなどからすると、このような投稿目的には正当性が認められるというべきであるし、本件投稿動画は、前記の場面を中心に編集がされた長さ約3分30秒程度のものであり、当該目的を達するために必要な限度での公表にとどまるということができる。
適宜テロップを付したり、b社がくい施工の調査を拒否したことが記載された書面を示す映像を差し込むなどして、上記の投稿目的や動画の趣旨が明確となるような編集も施されている。
これらの事情や、上記に検討したところを併せ考慮すると、本件投稿動画の投稿による動画の公表についても、原告らの人格的利益の侵害の程度は社会生活上の受忍限度を超えているということはできない

4 本件動画のデータをクラウド上に保存することは、本件マンションの住民がいつでも閲覧できる状態にするものに過ぎず、以上に照らし、これが違法性を帯びることはない。

まずは、肖像権侵害に関する最高裁判決の規範を理解しておきましょう(上記判例のポイント1参照)。

その上で、本件におけるあてはめ部分を読むことによって、裁判所の判断方法を把握すると、実務で役に立つと思います。

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管理費・修繕積立金18 町会から脱退した後も徴収された月額300円の町会活動費について管理組合に対する不当利得返還請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、町会から脱退した後も徴収された月額300円の町会活動費について管理組合に対する不当利得返還請求が棄却された事案(東京地判令和元年12月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、aマンションの区分所有者である控訴人が、aマンションの区分所有者で構成される被控訴人管理組合は、区分所有者から被控訴人町会の町会費を徴収し、その町会活動費を支出しているところ、被控訴人管理組合は、控訴人が被控訴人町会を脱退したにもかかわらず、控訴人から平成31年1月分ないし令和元年11月分の管理費等の徴収において少なくとも1661円(月額151円)の町会費を徴収したから、被控訴人らは控訴人から法律上の原因なく少なくとも1661円を利得したと主張して、被控訴人らに対し、不当利得返還請求権に基づき、1661円の連帯支払を求める事案である。

控訴人は、原審において、徴収された町会費が月額300円であると主張し、被控訴人らに対し、平成31年1月分ないし同年3月分の町会費相当額900円(月額300円)の支払を求めたところ、原審が、控訴人の請求をいずれも棄却したことから、これを不服として本件控訴をした上、当審において、上記のとおりに請求を拡張した。

【裁判所の判断】

原判決中控訴人の被控訴人Y2町会に対する請求に関する部分を取り消す。

控訴人の被控訴人Y2町会に対する訴え(当審における拡張請求に係る部分を含む。)を却下する。

控訴人の被控訴人Y1管理組合に対する控訴を棄却する。

控訴人の当審における被控訴人Y1管理組合に対する拡張請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 管理組合は、区分所有法に基づき区分所有者全員で構成される建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体であり(同法3条)、他方、町会は、一定の地域に住所を有する者の自治組織として形成された任意の団体であるから、管理組合と町会とは、本来、その法的性質を異にする別個の団体である。しかるに、被控訴人管理組合と被控訴人町会とは、いずれもaマンションの区分所有者をもって構成員とするものである上、被控訴人町会においては、独自の規約が存在せず、意思決定を行うための独自の集会も開催しておらず、被控訴人管理組合の理事長が兼務する町会長以外に役員もおらず、その代わりに、本件規約において、被控訴人管理組合が町会業務を行い(31条)、被控訴人管理組合の理事会が町会業務に関する事項を決議し(52条)、被控訴人管理組合の理事長が町会長としてその職務を行う(36条8項)こととされており、実際、被控訴人管理組合が、自ら町会業務を行い、区分所有者から徴収した管理費等の収入の中から町会活動費を直接支出していることが認められ、以上の事実によれば、被控訴人管理組合と被控訴人町会とは完全に一体化しており、被控訴人管理組合は、その活動の一部として被控訴人町会の活動を行い、その活動に要する費用(町会活動費)を区分所有者から徴収した管理費等の収入の中から直接支出していることが認められる。
したがって、被控訴人管理組合は、被控訴人町会に代わって区分所有者から何らかの金員を徴収しているわけではないし、被控訴人町会に代わって町会活動費を支出しているわけでもない

2 また、①被控訴人管理組合は、区分所有者から、管理費、特別修繕費及び組合費(管理費等)の名目で金員を徴収しており、町会費又は町会活動費の名目で金員を徴収しているわけではないこと、②被控訴人管理組合は、区分所有者から毎月一定額の管理費等を徴収する一方で、理事会の決議により町会業務に関する事項を決めているため、その支出する町会活動費の額は、年度によって、また、同一の年度内でも月によって異なっていることが認められる上、被控訴人管理組合において管理費等の名目で実質的に毎月一定額の町会費又は町会活動費を徴収していることをうかがわせる証拠もないから、被控訴人管理組合の管理費等の徴収と町会活動費の支出との間には、形式的にも、実質的にも、直接の対応関係は認められない
そうすると、被控訴人管理組合は区分所有者から徴収した管理費等の収入の中から自らの活動に要する費用として町会活動費を支出しているという以上の事実を認めることはできず、被控訴人管理組合が区分所有者から町会費又は町会活動費を徴収していると認めることはできないから、被控訴人管理組合が控訴人から法律上の原因なく町会費相当額又は町会活動費相当額を利得したと認めることはできない。
もちろん、区分所有建物の管理組合である被控訴人管理組合が自ら町会の活動を行い、区分所有者から徴収した管理費等の収入の中から町会活動費を支出することが適法か否かの問題はあるが、そのような問題があるからといって、本件において被控訴人管理組合が控訴人から町会費又は町会活動費を徴収したとか、被控訴人管理組合が控訴人から法律上の原因なく町会費相当額又は町会活動費相当額を利得したと認めることができるわけではない。
よって、控訴人の被控訴人管理組合に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

3 また、被控訴人町会は、前記のとおり、被控訴人管理組合と完全に一体化しており、被控訴人管理組合から独立した存在であるとは認められないから、民事訴訟における当事者となることはできない
したがって、控訴人の被控訴人町会に対する訴えは不適法である。

わずか月額300円の支出であっても、控訴審まで行くこともあります。

本件では、管理費と町会活動費の関係が問題となりましたが、解釈上、別個のものではないという判断により上記結論に至っています。

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管理会社等との紛争15 管理組合法人の代表者が総会決議を経ずに不動産売買契約を締結した行為につき、表見代理は成立せず無権代理により無効とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合法人の代表者が総会決議を経ずに不動産売買契約を締結した行為につき、表見代理は成立せず無権代理により無効とされた事案(東京地判令和2年1月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が被告(管理組合)に対し、売買契約について理由なく残代金支払期限を徒過したとして、違約金(1996万円)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 被告は、本件マンション管理組合法人であり、その目的及び業務は、本件マンション並びにその敷地及び附属施設の管理とされており、不動産の購入は被告の業務に入っているとは解し難い。
したがって、被告代表者が業務を統括する権限を有しているといっても、本件駐車場の売買契約の締結は、被告の業務の範囲外であることは明らかであるから、被告代表者が本件契約を締結するには個別に理事会や総会の決議による授権が必要である。
また、被告の現在の管理費の積立金は9000万円余りであるところ、本件契約は、9980万円もの極めて高額な売買契約であるから、被告の業務に関する「重要事項」として、総会決議事項であると解される(本件規約52条16号)。
本件についてみるに、被告の理事会や総会において本件契約の締結について承認決議がなされたと認めるに足りる証拠はなく、被告代表者は、理事会や総会の決議を経ずに、本件契約を締結していることからすれば、本件契約は、権限を有しない被告代表者により締結されたものとして、無権代理により本件契約は無効である。

2 この点、原告は、本件契約締結の際、被告代表者が、被告の理事会の承認を得ているかどうか確認されたのに対し、絶対に大丈夫ですと回答し、理事会の承認を得ていると回答していたと主張し、原告従業員のDもその旨述べる。
しかしながら、被告代表者は、本件契約締結の際、応対したのは原告代表者であって、Dはその場にいたものの、特にやり取りはしていなかったと述べる。
また,被告代表者は,原告代表者との間で,被告の理事会や総会の承認があるかの確認をされたこともないと述べている。
 また、原告は、被告の法人理事を務めており、本件契約の締結について理事会や総会が開催されていないことも知り得る立場にあった。したがって、仮に被告代表者から、本件契約の締結について、理事会や総会の決議があると言われても、かかる決議の存否については容易に知り得る立場にあったといえる。
特に決議の有無については、議事録の提出を求めるなどして調査することも容易であったといえる。
この点、原告は、被告と対立していたため、被告の理事会や総会への出席を控えていたとも主張する。しかし、理事会決議、総会決議の有無は、理事会、総会への出席の有無とは関係なく、議事録の有無などを調べれば容易に判明することである。特に原告は、宅地建物取引業者であるから、本件契約の締結にあたっては高度の注意義務が課されているといえ、本件契約の締結にあたり、被告の理事会決議や総会決議の有無について、被告の理事長の発言を漫然と信じたということであれば、過失があるといわざるを得ない。
したがって、被告代表者が本件契約を締結するについて権限があると信ずべき正当な理由が原告にあったとは認められず、表見代理は成立しない

管理組合法人の代表者による無権代理行為について表見代理の成立が否定された事案です。

裁判所が、いかなる事情に着目して「被告代表者が本件契約を締結するについて権限があると信ずべき正当な理由」の有無を認定しているかを押さえておくといいでしょう。

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管理会社等との紛争14 「補修」と「修繕」の意味の違いとは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、「補修」と「修繕」の意味の違い(東京地判令和2年1月30日)が争点となった事案を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件事務所専有部分の所有者である原告が、本件事務所専有部分を含む本件マンション管理組合である被告に対し、本件マンションのうち、建物の部分及びその附属施設について、本件マンションの管理規約によれば、被告が修繕をする義務を負うと主張して、本件管理規約に基づき、被告の費用をもって別紙工事目録記載の内容の修繕をすることを求めるとともに、階段の手すりについて、本件管理規約によれば、被告が修繕をする義務を負っていたところ、原告が60万4800円を支出して交換工事を施工したと主張して、主位的に、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、60万4800円+遅延損害金の支払を求め、予備的に、民法703条の不当利得返還請求権に基づき、60万4800円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件管理規約15条3項が、本件事務所専有部分の区分所有者は、事務所専用使用部分の保守点検費、維持管理費、補修費、清掃費、水道光熱費及び消耗品等これにかかる一切の費用を負担する旨を定めていることが認められる。
しかし、平成20年6月国土交通省策定の長期修繕計画作成ガイドラインには、「推定修繕工事 長期修繕計画において、計画期間内に見込まれる修繕工事(補修工事(経常的に行う補修工事を除く。)を含む。以下同じ。)及び改修工事をいいます。」との記載があり、修繕工事と経常的に行う補修工事は別のものとされていることが認められるところ、「補修」とは、現状レベルを実用上支障のないレベルまで回復させることをいい、「修繕」とは、現状レベルを新築当初のレベルまで回復させることをいうものであって(平成20年6月国土交通省策定の長期修繕計画作成ガイドラインコメント参照)、これらは別の概念であると考えられる。

2 また、本件管理規約が、本件マンションの各区分所有者は管理費及び修繕積立金の納入義務を負うとした上で、管理費について、経常的な補修費等に充当されるものとし、各区分所有者は事務所専用使用部分を除いた共用部分の管理費として算出される額を納入するとしながら(27条、29条)、本件事務所専有部分の区分所有者が事務所専用使用部分の補修費等を負担するものとしている(15条3項)ことからは、各区分所有者が事務所専用使用部分を除いた共用部分の管理費を納入してこれを上記共用部分の経常的な補修費等に充当することとし、それとは別に本件事務所専有部分の区分所有者が事務所専用使用部分に係る経常的な補修費等を負担することとしていると解されること(27条、29条)、本件管理規約15条3項は、本件事務所専有部分の区分所有者が負担する費用として、補修費を、保守点検費、維持管理費、清掃費、水道光熱費及び消耗品と共に挙げていることを考慮すると、本件管理規約15条3項は、事務所専用使用部分の経常的な経費を本件事務所専有部分の区分所有者の負担とする規定であって、同項の補修費は、経常的な補修費を指し、それ以外の修繕に係る費用を含むものではないと考えられる。

3 以上によれば、本件管理規約15条3項の定める本件事務所専有部分の区分所有者が負担する事務所専用使用部分の補修費とは、経常的な補修費を指し、それ以外の修繕に係る費用を含むものではないと解されるのであって、同項が事務所専用使用部分の修繕について本件事務所専有部分の区分所有者が行いその費用を負担すべきことを定めたと解することはできない

本件事案を通じて、長期修繕計画作成ガイドラインにおける「補修」と「修繕」の意味の違いを押さえておきましょう。

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義務違反者に対する措置18 専有部分をシェアハウスに供することが共同利益背反行為に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分をシェアハウスに供することが共同利益背反行為に該当するとされた事案(東京地判令和2年1月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合法人である原告が、本件建物の賃借人である被告Y2による本件建物の使用が直接・間接を問わずに別紙2に定めるところの「シェアハウス」に供することを禁止する本件マンションの管理規約に違反して、区分所有者の共同の利益に反する(区分所有法6条1項)旨を主張して、被告Y2及び本件建物の区分所有者である被告Y1に対し、法57条1項により、直接・間接を問わずに「シェアハウス」に供することの禁止を求めるとともに、本件訴訟に関して支出する弁護士費用相当額は被告Y1の規約違反行為による損害である旨を主張して、被告Y1に対し、本件マンションの規約に基づき損害金100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告Y1は、各建物について、いずれも、直接・間接を問わず、「シェアハウス」に供してはならない。

被告Y1は、原告に対し、100万円+遅延損害金を支払え。

被告Y2は、各建物について、いずれも、直接・間接を問わず、「シェアハウス」に供してはならない。

【判例のポイント】

1 原告は、本件改正後の本件管理規約12条2項が、①本件マンションのセキュリティーを保全・確保すること、②犯罪などの不安要因・不確定要素を排除すること、③豊島区マンション管理推進条例で義務付けられている居住者名簿の作成を可能とすることを目的とするものであると主張するところ、上記各目的のために、専有部分を、直接・間接を問わず、「シェアハウス」に供することを禁止することは、高度な必要性及び合理性があるとはいえないものの、一定の必要性及び合理性があるものと認められる。
したがって、本件改正後の本件管理規約12条2項に違反する行為は、法6条1項に規定する「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるものといえる。
そして、本件行為は、本件改正後の本件管理規約12条2項に違反するものであることは、前記認定のとおりである。
以上によれば、本件行為は、法6条1項に規定する「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるというべきである。

2 原告は、甲事件の訴えの提起に当たり、弁護士費用着手金として32万4000円の請求を受けていることが認められる。
そして、原告は、弁護士に甲事件を依頼しており、仮に甲事件に勝訴すれば、その成功報酬として相当額を支払わなければならないことは明らかである。
これに加え、甲事件の難易その他本件に顕れた全事情を総合すると、甲事件に係る弁護士費用及び差止め等の諸費用の合計額が100万円を下回るものではないことが認められる
したがって、被告Y1が支払うべき違約金の額を100万円と認めるのが相当である。

同種の裁判例を傾向からしますと、このような結論になることは特段違和感がないところです。

上記判例のポイント2のように、違約金として弁護士費用相当額が認容されるのが区分所有事案の特徴です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争13 管理組合に対する宅配物の宅配ボックスへの誤投函を防止するための有効な対策を取らない等を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合に対する宅配物の宅配ボックスへの誤投函を防止するための有効な対策を取らない等を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和2年1月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者かつ居住者である原告が、同マンション管理組合である被告組合及びその理事である被告Y2に対し、被告らが①本件宅配ボックスに欠陥があること及び欠陥のない機種の存在を知っていながら本件宅配ボックスに欠陥がないと主張していること、②欠陥のある本件宅配ボックスの使用を開始したこと、③原告宛ての宅配物の本件宅配ボックスへの誤投函を防止するための有効な対策を取らないこと並びに④本件宅配ボックス内の宅配物に記載された個人情報を盗視したことにより、原告の権利・利益が侵害されたと主張して、不法行為(共同不法行為)に基づき、本件宅配ボックスの使用中止及び廃棄、本件宅配ボックス内の宅配物に記載された個人情報の盗視の中止並びに原告が被った損害額265万円の一部である100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件宅配ボックスの利用を拒否していた原告宛ての荷物が、平成30年11月から令和元年9月までの1年弱の間に合計8回、本件宅配ボックスに配達されたことが認められる。
しかしながら、原告の意思に反して原告宛ての荷物を本件宅配ボックスに配達したことによる責任は当該配達をした者が負うべきものである。
また、仮に被告組合に原告宛ての荷物が本件宅配ボックスに配達されないようにするために何らかの対応をする義務が存在するとしても、被告組合は原告の住戸宛ての荷物を本件宅配ボックスに入れることを禁止する旨の張り紙を一見してわかるように本件宅配ボックスに掲示しているところ、これにより通常の宅配者であれば原告の住戸宛ての荷物を本件宅配ボックスに配達することはしないというべきであるから、被告組合は原告宛ての荷物が本件宅配ボックスに配達されないようにするための十分な措置を採っているというべきであり、上記のとおり被告組合の掲示に反して原告宛の荷物が複数回にわたり本件宅配ボックスに配達された事実が存在することを踏まえても、これ以上に被告組合が原告に対して何らかの義務を負うということはできない

2 原告は、被告らが本件宅配ボックス内の宅配物に記載された個人情報を盗視したことが原告に対する不法行為に当たると主張する。しかしながら、原告が主張する上記事実を認めるに足りる証拠はない。
他方、被告組合は、本件宅配ボックス内に長期滞留する荷物について管理人が宛先を確認することはあるという限度で原告の主張を認め、証拠によれば当該事実は認められるところ、証拠によれば、本件宅配ボックスの使用細則においては、保管期間が保管開始の時から72時間とされ(5条)、保管期間が経過したにもかかわらず保管品の引き取りがない場合には、被告組合は宅配ボックスを開扉の上、保管品を保管又は廃棄する等の措置を採ることができるとされていること(6条)が認められる。
本件宅配ボックス内に荷物が長期滞留することは、他の住人のための本件宅配ボックスの使用を妨げる行為であり、それを解消する目的で管理人が滞留している荷物の宛先を確認する必要性は高いと認められることに加え、管理人のそのような行為は本件宅配ボックスの使用細則で許容されていると解されること、管理人は荷物の宛先という上記目的達成のための必要最小限度の個人情報を確認しているに過ぎないことに照らせば、管理人が本件宅配ボックス内に長期滞留する荷物について宛先を確認したことをもって被告らの原告に対する不法行為を構成するということはできない。

区分所有建物においては、本当に様々な問題が生じます。

本件のような一見些細な問題のように見えても訴訟まで発展することは決して珍しくありません。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営22 監事が理事解任議案を議題として総会を招集することの適否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、監事が理事解任議案を議題として総会を招集することの適否(前橋地決平成30年5月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの管理組合法人である債務者の理事の地位にあった債権者が、債務者の臨時総会においてなされた債権者を理事から解任する旨の決議が違法な手続によるものであるから無効であり、保全の必要性も認められるとして、債務者に対し、申立ての趣旨記載の仮処分を申し立てた事案である。

【裁判所の判断】

申立て却下

【判例のポイント】

1 債権者は、監事が理事解任議案を議題として提出して総会を招集することはできないというべきであると主張する。
確かに、法によると、監事については、理事の業務の執行の状況を監査し、財産状況又は業務の執行について、法令若しくは規約に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、集会に報告し、その報告のために必要があるときは、集会を招集すること等が職務とされ(50条3項)、監事が招集する集会における集会の目的たる事項(議題)としては報告に限られると考えられる。
しかし、上記法の規定は強行法規ではなく、各管理組合法人の規約において、これと異なる規定を置くことも許されると解されるところ、本件規約においては、監事は、管理組合法人の業務の執行及び財産の状況を監査し、その結果を総会に報告しなければならず、監事は、管理組合法人の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができるとされ(37条1項,2項)、監事が総会を招集することができる場合について、報告のために必要があるときに限定されていない
したがって、監事は、本件規約上、招集予定の総会において、自ら必要と考える理事解任の議案を提出し、その決議を求めることもできるというべきである。

2 仮に、法に定めるとおり、監事が招集する集会における議題が報告に限られるなど、B監事が債権者の理事解任議案を提出したことが手続上の瑕疵であるとしても、以下のとおり、本件決議を無効ということはできない
まず、B監事は、本件規約39条1項に基づき、本件総会の2週間以上前に、本件マンションの区分所有者全員に対し、本件総会の日時、場所及び債権者の理事解任議案を含む目的を通知するなどして本件総会を招集しており、予め債権者の理事解任議案について十分な検討をした上で本件総会に臨むことができるようにし、かつ組合員の議決権行使の機会を確保している
また、本件総会は、議決権総数373に対し、出席議決権総数が193(なお、本件決議の際の議決権総数は200)であり、本件決議における賛成票は合計159(出席22、委任66、議決権行使71)、反対票は合計26(出席16、委任0、議決権行使10)、棄権・その他は合計15(出席10、委任1、議決権行使4)であったことが一応認められ、これによれば、本件総会は本件規約43条1項の定足数を満たし、本件決議も本件規約43条2項の要件を満たしたものといえる。
さらに、上記のとおり、本件決議における賛成票は、そのうちの委任の数を控除しても93であり、議決権総数373の5分の1以上であるから、本件規約40条の規定に基づいて、債権者の理事解任の件を目的として臨時総会を招集することもでき、かかる手続を踏んで開催された臨時総会においても本件決議と同様の結果になったと考えられる。
以上の事情に照らせば、B監事が債権者の理事解任議案を提出したことが手続上の瑕疵であったとしても、本件決議を無効とするだけの重大な瑕疵があったということはできない

上記判例のポイント1は重要ですのでしっかり押さえておきましょう。

管理規約の内容がいかに重要かがよくわかりますね。

なお、本件事案は、抗告審(東京高決平成30年11月2日)でも結論が維持されています。

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管理費・修繕積立金17 管理費等を滞納している区分所有者が自己が管理組合に対して有する金銭債権と管理費等の未払債務を相殺することの可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等を滞納している区分所有者が自己が管理組合に対して有する金銭債権と管理費等の未払債務を相殺することの可否(東京高判平成9年10月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理費等を滞納している区分所有者が自己が管理組合に対して有する金銭債権と管理費等の未払債務を相殺することの可否が争点となった事案である。

【裁判所の判断】

相殺不可

【判例のポイント】

1 本件請求債権のようなマンションの管理費等は、マンションの区分所有者の全員が建物及びその敷地等の維持管理という共通の必要に供するため自らを構成員とする管理組合に拠出すべき資金であり、右拠出義務は管理組合の構成員であることに由来し、その内容は管理組合がその規約に定めるところによるものである。
また、マンションの維持管理は区分所有者の全員が管理費等を拠出することを前提として規約に基づき集団的、計画的、継続的に行われるものであるから、区分所有者の一人でも現実にこれを拠出しないときには建物の維持管理に支障を生じかねないことになり、当該区分所有者自身を含む区分所有者全員が不利益を被ることになるのであるし、更には管理組合自体の運営も困難になりかねない事態が生じ得る。
このような管理費等拠出義務の集団的、団体的な性質とその現実の履行の必要性に照らすと、マンションの区分所有者が管理組合に対して有する金銭債権を自働債権とし管理費等支払義務を受働債権として相殺し管理費等の現実の拠出を拒絶することは、自らが区分所有者として管理組合の構成員の地位にあることと相容れないというべきであり、このような相殺は、明示の合意又は法律の規定をまつまでもなく、その性質上許されないと解するのが相当である。

私の知る限り、この裁判例のほかに相殺の可否が議論されたものは知りません。

いずれにせよ、管理規約に相殺禁止を明示しておけば、このような議論はなくなります。

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