管理組合運営26 管理組合に対する会計帳簿等の閲覧・謄写請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合に対する会計帳簿等の閲覧・謄写請求が棄却された事案(東京地判令和元年5月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、平成18年頃、本件マンションの401号室の区分所有者となり、現在、被告管理組合の組合員である原告が、被告管理組合に対し、民法645条又はaマンション管理規約54条に基づき、平成6年度から平成29年度までの被告管理組合の会計帳簿、組合員名簿、通帳その他の帳票類一切の閲覧、謄写を求めるとともに、被告管理組合及び同被告から業務委託を受けている被告会社において、原告が権限に基づき平成18年頃から現在まで上記帳票類全部の閲覧、謄写を求めたにもかかわらず、部分的な閲覧しか認めず、これにより精神的苦痛を被ったと主張して、被告らに対し、不法行為に基づき、慰謝料等の損害賠償金166万0824円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ①原告は、少なくとも、本件マンション管理組合の平成18年から平成21年までの総会に出席しながら、特に、総会において、管理組合の収支等について異議を述べた形跡はないこと、②平成21年の総会後に(原告が)被告会社に対して閲覧請求をしたのに対し、被告会社は、その保管している資料を全て原告に開示していること、③その後、原告は、平成27年まで被告らに対して閲覧請求をしていないこと、④同年から平成28年にかけてされた(原告を代理した)D弁護士の請求に対して、被告らは、少なくともその請求に係る資料は全て原告側に開示して、原告において適宜写真撮影もしていたこと、⑤被告管理組合では、平成22年の法人化以後、監事が選任されて、その収支報告は、監事の監査を経て、総会に議案として上程され、賛成多数で承認されていることが認められる。

2 そうすると、被告管理組合としては、そもそも、法人化後の収支等については、監事の監査を経て総会の承認を得るという正規の手続を経ており(なお、その手続において、原告が具体的に問題を指摘して監事に報告を求めるなどした形跡はない。)、そこに、特段の不合理があることをうかがわせる証拠はないから上述した補充性を欠く上、原告の閲覧請求に対して、被告管理組合(又は被告会社)は、(法人化前の残存資料を含め)開示すべき資料は全て原告に開示しているといえるから、原告が本件訴訟において閲覧等を求めるのは、実質的に重複請求であるともいえる。そして、そのような請求を正当化するだけの理由は認められない
したがって、原告の被告管理組合に対する閲覧請求は理由がなく、そうである以上、これに付随する謄写請求についても理由がない。

上記のとおり、裁判所は、開示すべき資料は既に全て開示済みであると認定しました。

管理規約等は、このような場合にまで重複請求を認めるものではありませんので、結果、請求棄却となりました。

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義務違反者に対する措置20 区分所有者に対する妨害排除請求について弁護士費用100万円全額の請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者に対する妨害排除請求について弁護士費用100万円全額の請求が認められた事案(東京地判令和元年7月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合法人である原告が区分所有者である被告に対し、本件建物の10階から被告所有物を撤去して、同部分を明け渡し、かつ、平成30年12月11日から明渡済みまで1か月1万円の割合による金員、弁護士費用100万円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、本件建物の10階から被告所有物を撤去して、同部分を明け渡せ。

 被告は、原告に対し、100万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告は、原告に対し、法57条1項に基づいて被告の所有物を撤去して本件共有部分を明け渡す義務を負い、また、管理規約67条4項に基づいて弁護士費用100万円の支払義務を負うものと認められる
この点についての被告の主張はその趣旨は判然とせず、本件において採用の余地はない。
他方、原告の不法行為に基づく請求については、本件占有行為によって原告が被る損害が1か月当たり1万円であることを認めるに足りる証拠はないことに加え、損害額算定の根拠となり得る主張もなく、損害額を算定することができない。

当事者間に請求原因事実の存在について争いがない事案のようですが、弁護士費用100万円全額について認容されています。

区分所有関連の訴訟における1つの特徴といっていいでしょう。

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管理会社等との紛争23 専有部分のインターホン設置工事が未完成にもかかわらず、民法536条2項に基づき請負代金請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分のインターホン設置工事が未完成にもかかわらず、民法536条2項に基づき請負代金請求が認容された事案(東京地判令和元年9月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合からインターホン設置工事を請け負った原告が、注文者である被告に対し、請負契約に基づき、代金403万9200円(消費税込)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件インターホンシステムの住居インターホンの設置のためには、住居内に立ち入らなければならず、注文者側の協力が必要であるところ、原告は、201号室の工事予定日を事前に告知した上で、工事予定日である平成30年2月19日に同室を訪問したが、不在であったこと、そのため、原告は、201号室に不在連絡書を投函したが、同室の居住者から連絡はなかったこと、原告は、同年3月19日、C副理事長から連絡を受けたが、ロビーインターホンの画像が粗いことなどの話に留まり、201号室の住居インターホンの設置工事の許可を得ることはできなかったこと、原告は、同年4月19日の被告理事会において、C副理事長に対し、201号室の設置工事の許可を求めたのに対し、同人は「いたしかねます」などと述べて許可しなかったこと、さらに、原告は、同月25日、C副理事長に対し、書面でも、住居インターホン設置工事の許可及び立会可能な日程の回答を求めたが、同人は原告に連絡をしなかったことが認められる。
以上によれば、原告が201号室の住居インターホンの設置工事を行うことができず、本件請負工事を完成させることができなかったのは、同室の居住者であるC副理事長が設置工事を許可しなかったからであり、注文者である被告側に帰責性があるというべきである
したがって、原告は、被告に対し、民法536条2項により、本件請負契約に基づき、その代金の支払を求めることができる。

旧民法ですが、危険負担に関連した事案です。

危険負担は、双務契約における一方の債務が履行不能に陥った場合に、もう一方の債務について、これを履行する必要があるか否か、という問題についての定めです。

旧民法536条では、同条1項で「双務契約において、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。」、同条2項「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」と規定していました。

なお、民法改正により、規定内容が変更されているのでご注意ください。

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義務違反者に対する措置19 専有部分でフラワーアレンジメント教室を営むことが共同利益背反行為にあたるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分でフラワーアレンジメント教室を営むことが共同利益背反行為にあたるとされた事案(東京地判令和元年5月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合である原告が、本件居室の所有者であり、原告の組合員である被告に対し、被告が本件居室においてフラワーアレンジメント教室を営んでいることが、住宅以外の用途に本件居室を使用することを禁止する本件マンションの管理規約に反すると主張して、上記教室の使用の中止を求めるとともに、管理規約に基づいて本件訴訟のために要した弁護士費用合計158万7600円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、別紙物件目録記載の建物をフラワーアレンジメント教室として使用することを中止せよ。

 被告は、自己又は第三者をして前項の建物をフラワーアレンジメント教室として使用してはならない。

 被告は、原告に対し、158万7600円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 住居専用規定は、本件マンションの住民らの平穏で静謐な居住環境を維持するために、本件マンションの用法を居住用に限定し、不特定又は多数人が出入りすることが想定される事業用として利用することを一律に禁止する趣旨の規定であると解するのが相当であり、平穏な用法あるいは主たる用法でなければ事業のために利用することを許容しているものとは解されない
そして、被告が供述するところによっても、本件教室には直接の友人・知人にとどまらず、それらの者から口コミで紹介を受けた受講者も通い、被告は、受講者から材料費以外に入会金や指導料を受け取り、体系的なレッスンコースを設けて、毎月5回から7回にわたって定期的に開催しているものである。
その上、被告が、ホームページを作成し、不特定の者に本件教室の案内や体験レッスンへの参加を呼び掛けるなどしていることにも照らすと、被告が実際に利益を得ているかどうかはともかく、本件教室の運営が事業の性質を有していることは明らかであり、本件教室を「ホームパーティ」や「友人を招いて一緒に飲食したり共通の趣味を行ったりする社交の場」と同列に考えるのは無理があるというべきである。

2 被告は、被告が本件教室を開催しても、本件マンションの区分所有者らが被る損害はほぼ皆無であることが権利濫用を基礎付ける一事由となると主張する。
しかしながら、仮に、被告の主張するとおり、本件教室の受講者への注意喚起や送迎等によって、ほかの区分所有者の平穏な住環境に与える影響が限定的になるものであるとしても、どのような行為を迷惑と感じるかについては個人差があり、本件マンションがいわゆる高級住宅街に所在し、樹木に囲まれた静謐な居住環境を特徴とする店舗や事務所の併存しない居住専用のマンションであることに照らすと、本件マンション内で不特定又は多数人を相手にした教室を開くこと自体に不快感や不安感を覚える居住者の心情も尊重する必要があるというべきである。
また、実害がないからといって、本件教室の開催を容認することとなると、ほかの区分所有者らも、それぞれが思い思いに周囲には迷惑がかからないと考えて事業活動を行い、その結果、平穏で静謐な居住環境が保たれなくなる事態も懸念されるところであって、実害の有無にかかわらず、人の来訪を招来するような事業活動を画一的に制限することは不合理とはいえないというべきである。
こうした諸点に照らすと、本件教室の開催によっては実害が生じないことが権利濫用を基礎付ける事由を構成するとの被告の主張は採用することができない。

本件に限らず、裁判所は、住居専用部分において事業活動を行うことについては、実害の有無・程度を考慮せず、画一的な判断をする傾向にあります。

これはペット飼育についても同じことがいえます。

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管理会社等との紛争20 管理組合に対する排水管の更新工事費用の請求が棄却された理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

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今日は、管理組合に対する排水管の更新工事費用の請求が棄却された理由とは?(東京簡判令和元年5月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、本件マンション207号室の階下である1階駐車場の天井に配された共用部分である排水管の更新工事を訴外会社に実施させたところ、被告が共用部分であるにもかかわらず、その代金の支払をせず、原告がこれを支払ったことにより、原告が、被告に対し、不当利得返還請求、弁護士費用及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件排水管は、本件居室の区分所有者である訴外Cが排他的に使用することができる構造になっており、訴外Cが専用使用権を有していることが認められる。
本件マンションの管理規約第21条2項及び第2条8号によると、本件排水管は本件居室の区分所有者が専用使用権を有するというべきである。
そうすると、この専用使用部分の通常の使用に伴う管理費用は、本件居室の区分所有者が負担すべきと解される。
したがって、原告が行ったとする本件工事費用は、本件居室の区分所有者が負担すべきであり、被告には負担義務はない。

2 原告は、本件工事について、被告の理事又は関係者の事実上の承認を得て行われたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、被告の理事会においても本件工事を承認した事実は認められない。

排水管等に関する工事費用の負担が、管理組合か各居室の区分所有者かという争いは、まさに当該区分所有者が専用使用権を有するか否かがカギとなります。

物理的状況、管理規約での規定内容等から判断することになります。

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管理組合運営25 管理組合に対する給水増圧ポンプの設置工事の請求が棄却された理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

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今日は、管理組合に対する給水増圧ポンプの設置工事の請求が棄却された理由とは?(東京地判令和元年8月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有者である原告が被告管理組合に対し、本件マンションに係る別紙系統図のAの部分に、本件マンション510号室への給水圧力が0.2メガパスカルに至るまで給水増圧ポンプを設置する工事をせよ。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件居室においては給水圧力の低下に伴う吐水量の不足が生じており、その原因は、本件マンションにおいて高架水槽方式という給水方式が採られていることや共用部分である縦管の老朽化等によるものであると認められる。
そうすると、本件居室における給水圧力を上げるためには、給水方式の変更や縦管の交換等を行うことが考えられるが、これらは正に「共用部分の管理に関する事項」(区分所有法18条1項本文)に当たるから、被告の総会において決議される事項である。
原告は、これらに代わるものとして本件工事の実施を求めるが、本件工事を実施することによる利益は原告ないし本件居室の占有者のみが享受することを考慮すると、本件工事の実施が「共用部分の管理」に当たるといえるかは疑問があるし、仮に「共用部分の管理」に当たるのであれば、やはり被告の総会において決議される事項であって、原告が被告に対して直接請求できるものではない
この点、原告は、本件工事の実施が、同法18条1項ただし書の「保存行為」に当たるから、原告が単独ですることができると主張するが、上記「保存行為」とは、共用部分の滅失、毀損を防止して現状の維持を図る比較的軽度な行為をいい、共用部分の点検、清掃や蛍光灯の交換等がこれに当たると解されるから、本件工事の実施が上記「保存行為」に当たるとはいい難いし、管理規約には保存行為も含めて被告がその責任と負担で行うとの定めがある(32条)ことが認められるから、原告の主張は理由がない。
また、原告は、管理規約22条5項に基づき、被告に対して本件工事の実施を求めるが、同項にいう「漏水等の事故」とは、漏水や漏電のようにそれ自体において重大な被害が生じるほか、これを放置すると更に深刻な被害が生じかねない事象をいうものと解されるから、本件居室に生じた給水圧力の低下は、それによる支障の程度に照らすと、上記「漏水等の事故」に当たるとはおよそいい難い

「共用部分の管理」や「保存行為」の定義・意味を理解するのは参考になる事案です。

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管理会社等との紛争19 マンション駐車場について瑕疵担保責任を理由とする損害賠償請求が除斥期間の経過を理由に棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション駐車場について瑕疵担保責任を理由とする損害賠償請求が除斥期間の経過を理由に棄却された事案(東京地判令和元年8月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション及びその敷地並びに付属建物の管理を目的とする団地管理組合法人である原告が、本件マンションの団地共用部分である本件駐車場に隠れた瑕疵があったことにより修補費用相当額の損害を被ったと主張して、本件マンションの共同売主の一社である被告に対し、民法570条に基づき、上記修補費用相当額の一部である1000万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 瑕疵担保責任を理由とする損害賠償請求権を保存するには、その除斥期間内に、裁判上の権利行使をするまでの必要はないものの、売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることを要するところ、原告は、本件売買契約上の約定除斥期間内(本件駐車場それ自体の引渡しを基準とすれば平成19年8月まで、本件駐車場を含む売買物件全ての引渡しを基準としても平成20年3月11日まで)に被告に売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げたことはなかった。
仮に(本件売買契約の定めにかかわらず)民法所定の除斥期間の規定(事実を知った時から1年以内。民法570条、566条3項)の適用が否定されないと解する余地があるとしても、原告は、平成22年頃に、仮にそうでないとしても、遅くとも平成26年、平成27年にはその主張に係る本件駐車場の瑕疵の存在を知り、被告に対し瑕疵担保責任を追及し得る程度に確実な事実関係を認識したのに、上記除斥期間内に被告に売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げたこともなかった
したがって、原告主張の瑕疵担保責任を理由とする損害賠償請求権は除斥期間の経過により消滅したというべきである。

通常、本件同様、売買契約書には、瑕疵担保責任の除斥期間について、例えば、引渡しから2年間等と規定されています。

上記「除斥期間内に、裁判上の権利行使をするまでの必要はないものの、売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることを要する」という考え方をしっかり押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争18 管理組合法人に対する駐車場契約者以外の者の立入禁止請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合法人に対する駐車場契約者以外の者の立入禁止請求が棄却された事案(東京地判令和元年9月5日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

1 立入禁止請求
ア 被告は、本件マンションの管理組合法人として、本件駐車場の所在する別紙添付図面のオレンジ色で囲んだ部分に、本件駐車場の契約者以外の者をして立ち入らせてはならない義務を負う。
イ よって、原告は、被告に対し、本件駐車場にその契約者以外の者の立入りの禁止を求める。

2 義務確認請求
ア 前記1アと同じ。
イ 原告は、長年にわたり、被告に対し、本件駐車場への第三者の立入りを禁止するよう善処を求めてきた。
ウ 本件駐車場内において事故が発生した場合には、原告は施設占有者ないし所有者として民法717条によりその責任を負うことになりかねない。
エ よって、原告は、被告に対し、本件訴えを提起した平成29年10月13日から本判決確定の日までの間に、本件駐車場内においてその契約者以外の者が事故に遭遇した場合、被告の責任においてこれを解決する義務があることの確認を求める。

3 費用弁償金請求
ア 前記1アと同じ。
イ 被告が前記1アの義務に違反したために、平成21年3月1日から本判決確定の日までの間、第三者が本件駐車場へ立ち入っており、原告は、本件駐車場の維持管理について、年間379万1549円の費用を負担している。
ウ よって、原告は、被告に対し、前記イの義務違反に係る不法行為に基づき、又は民法212条の類推適用により、平成21年3月1日から本判決確定の日まで1箇月当たり5万円の割合による費用相当額の損害賠償金の支払を求める。

【裁判所の判断】

1 原告の義務確認の訴えを却下する。

 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 原告は、被告の責任において本件駐車場内の事故を解決する義務がある旨を主張するが、「事故」や「解決」の意味が多義的であって、上記義務の内容は不明確といわざるを得ない。
そして、そもそも上記の確認の対象は、現在の法律関係ではなく、過去の一時点における法律関係であって、その確認を求める訴えにつき原則として確認の利益を認めることができないものであるところ、上記訴えにつき確認の利益を認めるべき特段の事情は見当たらない。
これらの点を措くとしても、本件駐車場内の事故が解決されることは、原告にとって事実上の利益にすぎず、上記事故が解決されなかったことによって、直ちに原告の法律上保護すべき権利利益が侵害されることにならないから、上記事故が解決しないことが被告の上記義務違反によるものであったとみる余地があると仮定しても、これが原告に対する不法行為に該当するものであるとして、被告が原告に対して損害賠償責任を負うことになるものではない
そして、確認の利益は、確認判決を求める法律上の利益であるところ、被告の責任において本件駐車場内の事故を解決する義務があることを確認する判決の効力は、上記義務に関する法律上の紛争の解決に資するものとはいえないから、原告に上記判決を求める法律上の利益はないというべきである。
したがって、原告が被告に対して本件駐車場内においてその契約者以外の者が事故に遭遇する場合に被告の責任においてこれを解決する義務があることの確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法であるというべきである。

2 本件駐車場の契約者以外の者は、本件マンション区分所有者又は占有者に限られない上、本件駐車場の契約者以外の者に対して本件駐車場への立入りを禁止する旨の規約が本件マンションの管理規約にあるとは認められないのであるから、被告は、本件マンションの管理組合法人であることによって、本件駐車場の所在する別紙添付図面のオレンジ色で囲んだ部分に立ち入った本件駐車場の契約者以外の者の行動を制御することができない
そして、原告が長年にわたり被告に対して本件駐車場への第三者の立入りを禁止するよう善処を求めてきたことを前提にしても、被告が原告に対し本件駐車場への第三者の立入りを禁止することを約束した旨の主張も立証もなく、被告が原告に対して前記の義務を負う法的根拠は見当たらない
したがって、その余の請求に係る原告の主張は、いずれも前提を欠き、採用することができない。

上記判例のポイント1のような確認請求では、確認の利益がないと判断され、訴えが却下されてしまいます。

確認を求める訴えを提起する場合は、確認の対象をどのように設定するかを慎重に考える必要があります。

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管理会社等との紛争17 各居住者に対するアンケートについての管理会社の妨害行為が不法行為に当たらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、各居住者に対するアンケートについての管理会社の妨害行為が不法行為に当たらないとされた事案(東京地判令和元年10月3日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らが当時居住していた集合住宅を一棟買いするために各居住者に対してアンケートを配布した際、被告が文書を掲示して同アンケートを妨害したことが、原告らに対する不法行為に当たるとして、原告らが被告に対し、不法行為に基づき、アンケートに対する妨害の禁止並びに損害賠償金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件アンケートの内容からすれば、本件アンケートは、一般人の通常の注意と読み方を基準にした場合、国土交通省が居住者の同意を条件に原告X1による本件建物の購入に同意した旨が記載されていると認められる。しかしながら、本件建物の区分所有者であった公団は売却可能な賃貸住宅は居住者の同意を得て棟単位で売却に努めるとの方針が示されていたことや、原告X1は国土交通省の担当者に対し、本件建物1棟の価格を尋ね、居住者の同意を得て一棟買いの交渉に入る旨を述べ、さらには担当者との面会を求めたことが認められる一方で、そもそも国は本件建物の所有者ではないことも認められる。
そして、本件において国土交通省側が原告X1の上記申入れ等に対して何らかの返答をした事実を認めるに足りる証拠はない。
これらからすれば、国土交通省が居住者の同意を条件に原告X1による本件建物の購入に同意したという事実は存在しないものと認めざるを得ない。
そして、被告は機構から本件建物の管理業務を受託していることが認められる上、一般に賃借人にとって賃貸人たる所有者が変更になるか否かは重要な関心事項であるから、被告が本件文書の掲示によって本件アンケートに記載された事実は存在しない旨を各賃借人に周知した行為は、賃借人に誤解を与えないための管理者として正当な行為であると認められる。
そうすると、たとえ被告の本件文書の掲示により、原告が204戸中わずか9戸の住人からしか本件アンケートの回収ができなくなる等の不利益を被ったとしても、被告が本件文書を掲示した行為は、原告らに対する不法行為を構成しないものというべきである。

事案が少しわかりにくいと思いますが、事実と相違する内容のアンケート配布に対して管理会社が各居住者に対して周知活動を行ったという事案です。

裁判所は、管理会社の行為を正当な行為と認定し、原告の請求を棄却しました。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営24 臨時総会における監事の選任案承認事案を否決した決議が委任状による議決権行使に関する手続に重大な瑕疵があるとして無効とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、臨時総会における監事の選任案承認事案を否決した決議が委任状による議決権行使に関する手続に重大な瑕疵があるとして無効とされた事案(東京地判令和元年10月8日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告が開催した平成27年12月6日の臨時総会において監事である原告の選任案承認に係る議案が否決されたところ、原告が、この決議は信義則に反するなどと主張して、同決議の無効及び原告が引き続き被告の監事の地位にあることの確認を求めるとともに、被告の役員経費等支給規程所定の役員報酬として1万6000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 原告と被告との間において、被告における平成27年12月6日開催の第29期第2回臨時総会の第7号議案に関する決議が無効であることを確認する。

2 被告は、原告に対し、1万3000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告においては、本件臨時総会に先立って、「臨時総会招集のお知らせ」と題する招集通知を発し、同通知には、先立つ通常総会において役員選任に係る議案が取り下げられたため、立候補のあった5名の理事候補者と2名の監事候補者の選任議案(本件議案が含まれる。)について審議を求める旨が記載されている。
また、被告においては、総会に先立って、組合員に対して「≪出席通知・委任状・議決権行使書届≫」との表題の書式(以下「本件書式」という。)を交付しており、組合員は、本件書式に所定の事項を記入して提出することにより、出席通知、委任状及び議決権行使書のいずれかとして利用することができる。
本件書式の出席通知欄には「なお、万一当日欠席となる場合は、議長に一任します。」との記載があり、委任状欄には「※氏名のご指定がない場合は、議長に一任したものと見なします。」との記載があり、議決権行使書欄には「賛成、反対の何れにも○印がない場合は、議案に賛成したものとみなします。」との記載がある。
他方、本件規約55条は総会提出議案について理事会が決議することを定めており、本件規約54条1項は理事会の議事を出席理事の過半数で決する旨が規定されている。

2 これらの本件規約の定め並びに本件臨時総会の招集通知の内容及び本件書式の体裁からすると、総会において審議される議案は、理事会が総会への提案に賛成したものとして組合員にあらかじめ示されていることから、特段の意思表示をしない組合員は当該議案に賛成したものとみなすことができるのであり、本件書式の議決権行使欄の記載はこのことを表したものということができる。
これに対して、委任状欄の記載は上記のとおりであり、提出議案に賛成したものとみなすと記載されているわけではないものの、特定の者を代理人としなかった場合に理事長に委任されたものとみなされた結果、特段の事情のない限り、理事会が総会に提案した議案について反対することは想定されていないということができる。

3 そうすると、委任状によって議決権行使を理事長に一任したとみなされた全ての議決権について、他の役員選任議案ではいずれも賛成票に投じた上、本件議案についてのみ反対票に投じたという取扱いは、委任者たる組合員の委任の趣旨に沿うものといえるかどうか甚だ疑わしいばかりでなく、本件規約の定めに照らして著しく恣意的であるというほかない。
したがって、このような恣意的な取扱いの結果である本件議決は、その手続において重大な瑕疵がある無効なものというべきである。

4 本件臨時総会の開催前の10月に監事の任期満了を迎えていた原告は、本件規約37条3項により、後任の役員が就任するまでの間引き続きその職務を行うべき地位にあったところ、本件議決は無効であるから、本件臨時総会後も原告の監事の地位は継続しているということができる。
しかしながら、平成28年12月3日開催の臨時総会において、翌期(第30期)の役員として理事3名及び監事1名の選任が決議されていることが認められることから、上記の本件規約の定めにより、その地位を失っているというべきである。

総会運営における非常に実務的な問題について述べられています。

総会運営については、管理会社や弁護士等の助言の下、適切に行うように心がけましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。