名誉毀損7 管理費等の長期滞納者の氏名や部屋番号を広報誌に掲載したことが名誉毀損に該当しないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等の長期滞納者の氏名や部屋番号を広報誌に掲載したことが名誉毀損に該当しないとされた事案(東京地判平成31年3月5日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本訴事件は、マンションの区分所有者である原告が、当該マンション管理組合である被告に対し、被告が原告を管理費等の長期滞納者として広報誌に掲載したこと等が原告に対する不法行為に該当するとして、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

反訴事件は、被告が、原告による本訴提起は不当訴訟に当たるとし、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として弁護士費用相当額20万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求棄却

反訴請求棄却

【判例のポイント】

1 原告が被告に対し、原告の滞納管理費等についての解決案を提案した際、被告が応じなかったこと、被告が長期滞納者対策特別委員会を設置して原告に対する対策を協議するなどし、定期総会において、区分所有法59条に基づき本件居室の競売請求をする旨を議題としたこと、被告が、広報誌(平成20年8月号)に原告の室番号及び名前を記載して長期滞納者訴訟を提起する旨記載し、同じく広報誌(平成23年1月号)に原告に対する判決内容を記載したことが認められる。

2 被告によるこれらの対応が原告に対する名誉棄損や村八分として不法行為を構成するか検討すると、原告は、平成12年12月以降、長年にわたって管理費等を支払わなくなり、そのため、被告は、平成16年頃にこれらの支払を求める訴訟を提起し、平成17年頃には原告に対して支払を命じる旨の判決が確定したが、依然として原告は管理費等を支払わなかったこと、平成20年8月28日には原告以外の本件居室の区分所有者が本件居室に係る管理費等の一部を供託し、平成22年5月28日までの間に、原告を含めた本件居室の区分所有者が、同日までの管理費等の元金に相当する額の供託するに至ったものの、なお、既発生の遅延損害金が支払われておらず、被告として訴訟提起に至ったこと等の事実が認められ、これらの状況に照らすと、被告において、原告が不払を続けていた管理費等の回収を目標として各種対策を講じる必要があったことは明らかであり、前記の被告によって講じられた各種対策は、いずれも合理的事情に基づくものと評価することができるから、原告に対する関係で名誉棄損ないし村八分として不法行為を構成するとは認められず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

2 本訴は、原告が被告から名誉棄損や村八分に当たる行為を受けたなどとして、被告に対して不法行為に基づく損害賠償請求をする事案であり、被告の行為が原告に対する不法行為を構成するとは認められないものの、被告としても、原告の氏名や室番号を長期滞納者として広報誌に掲載するなどの対応をしていたのであり、これが不法行為に該当するか否かは、少なくとも原告による管理費等の滞納の事情を踏まえるなどして検討する事柄であるといえ、そうすると、原告の主張する内容がおよそ事実的、法律的根拠を欠くものであるとまで断定することはできない。
そうすると、原告による本訴提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認めることはできず、これが被告に対する不法行為を構成するとは認められない。

広報誌掲載にあたり合理的事情が存在するという理由から、名誉毀損にはあたらないとされました。

もっとも、訴訟に発展していることから、一定の経済的負担が発生してしまいます。

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管理費・修繕積立金21 未払管理費等の支払方法について合意による弁済の充当が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、未払管理費等の支払方法について合意による弁済の充当が否定された事案(東京地判令和元年8月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告との間の東京地方裁判所平成28年(ワ)第5799号管理費等請求事件について平成28年6月23日に成立した第3回口頭弁論調書(和解)所定の債務について、約定どおり支払っていたのに、期限の利益を失ったとして被告が本件和解調書に基づき強制執行を申し立てたと主張して、同強制執行の不許を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件和解調書によって、①本件建物1及び本件建物2の管理費等の未払金として、ア元金115万0920円、イ確定遅延損害金25万1500円、ウ同元金に対する平成28年6月24日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払義務、②本件建物1の管理費等として、ア平成28年6月から本件建物1の区分所有権を喪失するまでの間の管理費等毎月2万4490円及びイこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払義務、③本件建物2の管理費等として、ア平成28年6月から本件建物2の区分所有権を喪失するまでの間の管理費等毎月7480円及びイこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払義務をそれぞれ負っていた。

2 原告は、平成28年6月から平成30年5月まで毎月支払っていた5万8434円について、第2項の支払(上記①ア及びイの支払)をしており、被告もこれを認めていたから、当事者双方の合意による弁済の充当である旨主張する。
確かに、原告は、上記のとおり、複数の債務を負っていたところ、原告の支払額は第2項所定の分割金と同額であり、原告の意思としては、第3項による期限の利益の喪失を避けるべく、まずは第2項の支払をしようとするもの、具体的には、上記①ア及びイの支払に充当しようとするものと解される。
他方、被告が平成28年6月から本件競売申立てまで、原告に対して特段の異議を述べた形跡はなく、また、平成29年5月14日開催の被告の理事会において、原告からの支払が和解に基づき分割弁済が履行されている旨の報告がされたことが認められる。
しかし、被告は、原告に対してわざわざ前訴を提起し、原告が負っていた管理費等の未払金について履行を求め、それまでの管理費等の未払金と、本件和解後の管理費等の支払をさせる旨の本件和解調書の内容の和解をしたことからすると、本件和解後の管理費等を支払わなくても、管理費等の未払金を優先して支払わせることでよいというような意思があったと認めることは困難である。
したがって、当事者双方において弁済の充当に関する合意がされた旨の原告の上記主張は、採用することができない。
そうすると、民法491条により、原告の支払は、まず利息に充当されることになるから、遅くとも、平成28年11月28日の5万8434円の支払をもって、同日時点での第1項の遅延損害金(残額3万1867円)は完済となり、弁済金の残金2万6567円の一部は、第1項の元金より先に、第5項及び第6項の遅延損害金に法定充当される。
したがって、平成28年11月28日の経過をもって第2項の分割金5万8434円の弁済が不履行となり、第4項の免除は適用されなくなる。
したがって、原告は、第3項により、期限の利益を喪失している。

3 原告は期限の利益を失っており、他に被告の本件競売申立てが権利の濫用である旨を基礎づける事情はないから、本件競売申立てが権利の濫用である旨の原告の主張は、採用することができない。

事案を見る限り、原告が権利濫用を主張したくなる理由も理解できなくはありません。

「支払いが足りないなら競売申し立てる前に一言言ってよ・・」という感じですかね。

【現行民法】
第489条
1.債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
2.前条の規定は、前項の場合において、費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて準用する。
(合意による弁済の充当)
第490条
前二条の規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い、その弁済を充当する。

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管理組合運営28 団地建物所有者等に対してその専有部分の電力供給契約の解約申入れを義務付ける旨の集会決議がされた場合において、団地建物所有者が上記解約申入れをしないことが他の団地建物所有者に対する不法行為を構成しないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、団地建物所有者等に対してその専有部分の電力供給契約の解約申入れを義務付ける旨の集会決議がされた場合において、団地建物所有者が上記解約申入れをしないことが他の団地建物所有者に対する不法行為を構成しないとされた事案(最判平成31年3月5日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、同一敷地上にあるA棟からE棟までの各区分建物からなる団地であるaマンションの区分所有者である被控訴人が、本件マンションの区分所有者である控訴人らに対し、本件マンションの全区分所有者で構成される団地管理組合法人における団地集会において、本件マンションの専有部分の受電方法を低圧受電から高圧受電に変更する旨の議案が特別決議により可決し。これを受けた規約の改定の議案も特別決議により可決したにもかかわらず、控訴人らがこれらの決議に従わず、北海道電力株式会社との間で電気供給契約を解除しなかったために、本件マンション全体が高圧受電に変更することができず、高圧受電が導入されれば支払う必要がなかった電気料金相当額の損害を被ったと主張して、不法行為に基づき、連帯して、損害賠償金9165円+遅延損害金の支払を求める事案である。

一審(札幌地判平成29年5月24日)、控訴審(札幌高判平成29年11月9日)ともに、被控訴人の請求を認容した。

【裁判所の判断】

原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。

被上告人の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件高圧受電方式への変更をすることとした本件決議には、団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決する部分があるものの、本件決議のうち、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は、専有部分の使用に関する事項を決するものであって、団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するものではない
したがって、本件決議の上記部分は、法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するものとはいえない。このことは、本件高圧受電方式への変更をするために個別契約の解約が必要であるとしても異なるものではない

2 そして、本件細則が、本件高圧受電方式への変更をするために団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分を含むとしても、その部分は、法66条において準用する法30条1項の「団地建物所有者相互間の事項」を定めたものではなく、同項の規約として効力を有するものとはいえない
なぜなら、団地建物所有者等がその専有部分において使用する電力の供給契約を解約するか否かは、それのみでは直ちに他の団地建物所有者等による専有部分の使用又は団地共用部分等の管理に影響を及ぼすものではないし、また、本件高圧受電方式への変更は専有部分の電気料金を削減しようとするものにすぎず、この変更がされないことにより、専有部分の使用に支障が生じ、又は団地共用部分等の適正な管理が妨げられることとなる事情はうかがわれないからである。
また、その他上告人らにその専有部分についての個別契約の解約申入れをする義務が本件決議又は本件細則に基づき生ずるような事情はうかがわれない。
以上によれば、上告人らは、本件決議又は本件細則に基づき上記義務を負うものではなく、上告人らが上記解約申入れをしないことは、被上告人に対する不法行為を構成するものとはいえない。

控訴審の考え方はこうです。

「本件マンションにおいて電力は団地共用部分である電気設備を通じて専有部分に供給されており、本件決議は団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するなどして本件高圧受電方式への変更をすることとしたものであって、その変更をするためには個別契約の解約が必要である。したがって、上記変更をするために団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付けるなどした本件決議は、法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するから、上告人らがその専有部分についての個別契約の解約申入れをしないことは、本件決議に基づく義務に反するものであり、被上告人に対する不法行為を構成する。」

一審及び控訴審の結論のほうが腑に落ちる気がしますがいかがでしょうか。

被控訴人側は、まさか最高裁でひっくり返されるとは思ってもいなかったでしょう。

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管理会社等との紛争22 管理組合等が建物の共同浴場等の使用を認めない書面を掲示したことが不法行為にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合等が建物の共同浴場等の使用を認めない書面を掲示したことが不法行為にあたらないとされた事案(東京地判平成31年3月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、区分所有建物の9階部分を共有により区分所有し、同階層において会員制の宿泊施設を営業している。
本件は、原告が、①原告の会員が同建物の管理組合である被告管理組合及び同被告から同建物の管理を委託された被告会社により、同建物の共同浴場等の使用を妨害されたことにより、会員による年会費の滞納や会員の退会が増加し、会員から徴収することができた年会費相当額の損害を被ったとして、被告らに対し、共同不法行為に基づき、上記の年会費相当額である1940万6700円+遅延損害金の支払を求めた事案と、②原告は、上記階層の共用部分について、月額3万円の維持管理費用を負担して清掃等の管理をしているが、被告管理組合は上記共用部分の管理をしておらず、これにより法律上の原因なく利得を得ているとして、不当利得に基づき、本件の訴え提起から過去10年分の管理費用相当額である360万円の返還+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、被告らにより、原告クラブ会員に対する共同浴場等の使用を認めない書面を掲示する使用妨害行為があった旨主張する。
しかしながら、原告は、別件訴訟の判決のとおり、平成19年3月以降の管理費及び修繕積立金を支払っていないこと、被告管理組合の駐車場使用細則2条及び共同浴場・サウナ室細則2条によれば、管理費等の未払いが3か月を超えた組合員等は、上記各施設を使用することができない旨定められ、また、滞納管理費等の標準督促取扱に関する細則3条4項によれば、管理費等の未払いが6か月にわたる組合員については、その部屋番号を記載した書面を温泉浴場等に掲示することができる旨定められていることが認められる。
また、被告管理組合において、上記のように、一定の場合に組合員による本件建物の共用部分等の使用を制限する旨の細則を定めることは、団体自治上許されるものというべきである。
そうすると、原告クラブ会員が共同浴場等の使用を制限され、その旨の書面が被告らによって掲示されたことがあったとしても、これは、原告の管理費等の未払いが上記各細則所定の期間を超えたことにより、各細則に基づく措置がとられたことによるものと推認することができる。
したがって、被告らにより原告クラブ会員に対する使用制限等があったとしても、その行為に不法行為上の違法があるとはいえない。

2 原告は、本件階層の廊下等の共用部分は、原告が費用をかけて管理しており、被告管理組合はその管理の負担を免れているから、被告管理組合は管理費用相当額の支出を免れることで法律上の原因なく利得し、これにより原告は同額の損失を被った旨主張する。
しかしながら、原告は、本件階層を購入した上で、旅館業の許可を取得してホテル等を営むことが予定されていたが、それが実現しないまま、宿泊施設類似の形態をとった原告クラブを営業していることが認められる。
このように、原告は、本件階層全体を宿泊施設として専用使用する予定であったものが、同階層内にも共用部分が残る状態で通常の区分所有建物として扱われ、実際には、本件階層内の共用部分についても、事実上、同部分を専有部分として使用しているといえる。
その上で、原告は、自ら本件共用部分の清掃等をしているのであって、被告管理組合に対し、清掃等の管理を求めたようなこともうかがわれないことからすると、原告は、被告管理組合の意向とは関係なく、任意に本件階層の共用部分を管理しているものというべきである。
そうすると、原告は、被告が本件階層の共用部分の管理をしないために、自ら同部分の管理をせざるを得ず、その管理費相当額の負担を余儀なくされているのではないから、被告が本件階層の共用部分の管理をせず、管理費相当額の支出をしていないことと、原告が自ら上記部分を管理することによりした支出との間に因果関係があるとは認められない。
以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告の被告管理組合に対する不当利得返還請求には理由がない。

上記判例のポイント1のような書面の掲示行為は、内容如何によっては名誉毀損を理由に損害賠償を請求される場合があります。

同種事案の裁判例を確認することにより、裁判所の判断傾向を知ることができます。

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管理組合運営27 管理組合に対する区分所有者名簿の最終更新時以降の月次報告書のうち入退去者欄の閲覧、謄写請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合に対する区分所有者名簿の最終更新時以降の月次報告書のうち入退去者欄の閲覧、謄写請求が棄却された事案(東京地判平成31年3月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの一室を区分所有する原告が、同マンション管理組合である被告に対し、管理規約等に基づき、区分所有者名簿及び同名簿の最終更新時以降の月次報告書のうち入退去者欄の閲覧、謄写を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件各情報は、本件マンションの区分所有者である特定の個人を識別することのできる個人情報に当たり、また、被告は、法の改正により、同情報の取扱個人数による制限が撤廃されたことによって、法所定の個人情報取扱事業者に当たることとなっている。
そうすると、被告は、法23条1項により、その組合員の同意がない限り、あるいは、同条項各号所定の事由がある場合を除き、保有する個人情報データベースにある本件各情報を第三者である原告に提供することが許されないというべきである。
なお、原告は、被告の組合員ではあるものの、他の組合員に係る個人情報との関係では、前同条項にいう第三者に当たると解すべきである。

2 そこで、法23条1項の上記各事由の有無について検討するに、本人(組合員)の同意については、被告の第34回総会における審議の結果からすれば、これが被告において正式な決議といえるかをおくとしても、少なくとも、組合員による同意が得られたとは認められない
また、個人情報取扱事業者は、個人情報を取得する際、「構成員(本件では組合員)の名簿を作成し、掲載構成員に対し配布すること」といった事項を利用目的として特定し、これを本人(本件では組合員)に通知、公表すれば、これをもって個別の同意を得たものと解する余地がある
しかしながら、被告においては、個人情報の利用目的につき、名簿の作成・配布を掲げていないことが認められるから、あらかじめ特定された利用目的によって、組合員の同意に代えるものと解することはできない
さらに、原告の開示請求が、同条項各号所定の事由に基づくものであるとも認められない。

管理組合運営においては、個人情報保護法の理解も求められますので十分気を付けましょう。

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管理会社等との紛争21 区分所有者がマンション内通路の補修及び植栽の剪定をしたことが事務管理にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者がマンション内通路の補修及び植栽の剪定をしたことが事務管理にあたらないとされた事案(東京地判平成31年3月8日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である控訴人が、マンション管理組合である被控訴人に対し、共用部分であるマンション内通路の補修及び植栽の剪定をしたとして、事務管理に基づく費用償還請求又は管理組合規約に基づく費用請求として、上記補修及び剪定に要した費用相当額4万5396円の支払を求める事案である。

原審は、控訴人は、通路の補修及び植栽の剪定を行うに当たり、管理組合規約の定めに従った手続を履践していないとして、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

請求棄却(控訴棄却)

【判例のポイント】

1 控訴人は、被控訴人が管理すべき共用部分である本件マンションの通路及び植栽について本件補修等を行ったことをもって、被控訴人の事務を管理したものとして、当該費用の償還を請求するところ、上記事務の管理が被控訴人の意思に反することが明らかであるときは、民法上の事務管理は成立しないものと解される。

2 新規約によると、本件マンションの通常の管理に要する経費(第58条)については、区分所有者である組合員からの管理費及び修繕積立金や駐車場等の使用料を主たる収入とし(第56条)、これを適切に配分して会計年度ごとに支出され、内容については理事長が収支決算を行って監事の監査を終了した上、定期総会の決議を受けるものとされている(第57条、第61条)。
そして、通常の管理に要する経費としては、共用設備の保守維持に要する費用が掲げられており(第58条2号)、本件補修等のための経費もこのような通常の管理に要する経費に該当するものと認められる。
旧規約(甲45)においても、本件マンションの通常の管理に要する経費として共用設備の保守維持に関する費用が明示的には掲げられていないという差異はあるものの、区分所有者である組合員からの管理費及び修繕積立金等を主たる収入とし、共用部分の維持修繕については理事会の定めるところによるとされ、定時総会において収支決算の決議を受けると定められていることからすれば、本件マンションの通常の管理に要する経費やその支出について実質的に同様の規定が置かれていると認められる。
このような本件マンションの管理の在り方に照らすと、被控訴人は、管理組合の限られた予算の中で真に必要性のある作業を行うため、被控訴人において、作業を行う順序や頻度、内容等を検討した上で、適当な時期に一定の費用を支出して作業を行うという手続を踏む必要があることは当然であり、そもそも管理組合において、被控訴人がかかる手続を踏まずに経費を要する本件補修等を独自に行うことを容認するとは考え難い

3 また、被控訴人が管理行為として本件マンションの補修等を行う場合には、補修等に係る技術を有する専門業者に依頼するのが通常であり、偶然にも区分所有者の中にそのような専門業者がいる場合であって、他の区分所有者も当該業者に依頼することに異論がないような特段の事情でもない限り、本件マンションの区分所有者個人に対して費用を要する工事を依頼することも想定し難いし、本件においてそのような特段の事情があることを示す証拠は存在しない。
また、控訴人は、平成21年8月にも、事前に被控訴人に対する通知をせずに本件マンションの植栽の剪定を行い、控訴人が警察を呼ぶ事態に至っているほか、控訴人と被控訴人の理事会との間においては、本件補修等の以前から、管理費の支払等をめぐって軋轢が生じていたことからすると、現実に被控訴人が控訴人に何らかの事務を依頼したり、控訴人からの何らかの協力の申し出を容認したりするとはおよそ考えられないというほかない。
以上によると、控訴人が本件補修等を行うことが被控訴人の意思に反することは明らかであったというべきである。

裁判所がどのような事情を考慮して、管理組合の意思に反すると認定したかについて確認しておきましょう。

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漏水事故12 専有部分の修理工事につき事務管理の成立が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分の修理工事につき事務管理の成立が否定された事案(東京地判平成31年3月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告Y2所有の本件建物の修理工事を行ったことについて、①被告Y2に対し、事務管理に基づく費用償還請求権に基づき、又は、夫婦共同義務なるもの(原告の妻である被告Y2が原告居住建物を快適な状態に保つ法律上の義務)に基づき、原告が支出した本件工事代金97万7022円の支払と②本件工事代金の支払を拒むのは違法であるとして不法行為に基づき損害賠償金50万円の支払と③上記①及び②の合計である147万7022円+遅延損害金の支払を求め、被告管理組合に対し、本件工事は、本件マンションの共有部分に瑕疵があり、本件マンション管理組合である被告管理組合が依頼した大規模修繕工事を契機として浸水が発生するなどした結果として、これを行うことを余儀なくされたなどと主張した上、これについて、被告管理組合は、本件建物の所有者である被告Y2に対し、①被告管理組合が上記大規模修繕工事の工事業者に対し原状回復を行わせないのであるから、不法行為責任を負う、あるいは、上記大規模修繕工事の工事業者の行為について使用者責任を負う、②上記原状回復義務違反によって、本件マンションの管理規約の債務不履行責任を負うなどとして、被告Y2に代位して、被告Y2の被告管理組合に対する不法行為又は債務不履行責任の損害賠償請求権に基づき、147万7022円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 被告Y2は、原告に対し、平成29年11月24日付けの本件通知により、原告が本件建物について工事を行うこと(本件工事)を発注しないことを求めていることは明らかであるから、本件工事の実施は、本人たる被告Y2の意思に反するものであることは明らかである。
そして、本人の意思に反することが明らかでないことは、事務管理の存続要件である(民法700条ただし書)のみならず、その成立要件と解すべきであるから、本人の意思に反することが明らかである場合には、事務管理がそもそも認められないものと解すべきである。
このため、原告が行った本件工事について事務管理は成立しない。

2 原告は、本件建物は日々朽ち果てており、一日も早く修補しないと建物の財産価値は極度に下がってしまうにもかかわらず、本件通知をもって、事務管理に基づく支払を拒絶することに合理性はなく、原告に対する嫌がらせでしかないなどと主張するが、本件建物の所有者が被告Y2である以上、その財産をどのように処分するかは被告Y2の自由(しかも、原告が発注しようとしている工事の内容や費用も被告Y2に知らされていない。)であって、被告Y2の意思として工事の実施は不要であるとする本件通知を行うことが不当なものということはできない
これに加え、被告Y2が本件建物から出る形で原告と別居していたという状況の下では、原告による本件工事は、被告Y2の利益のみならず、原告自身が本件建物での居住を継続するために実施されたといいうること、原告は上記別居後本件口頭弁論終結時まで単独で本件建物に居住し続けていること、また、この間、原告と被告Y2との間に本件建物に係る使用貸借契約等の明確な契約関係がなく、単独で独立した占有権原なく本件建物に居住して占有し続けているともいいうること(なお、被告Y2と原告間の離婚成立時又はその後に財産分与により最終的な本件建物の帰属についての変更可能性があることも否定できず、事務管理に基づく費用の負担は流動的なものともいえる。)などをも併せ考えると、原告は、本件通知により本件工事の実施を拒絶し、原告による事務管理を否定することが信義則に反するものと認めることはできない
したがって、原告の事務管理に係る主張は理由がない。

この事案を通じて、事務管理の要件を確認しておきましょう。

第697条(事務管理)
① 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
② 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。

【要件】
・法律上の義務がないこと
・他人のためにする意思を有すること
・他人の事務を管理すること
本人の意思や利益に反することが明らかでないこと

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損6 管理会社の代表者に対する理事長の名誉毀損行為が一部不法行為に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理会社の代表者に対する理事長の名誉毀損行為が一部不法行為に該当するとされた事案(東京地判平成31年3月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件本訴請求は、マンション管理組合の理事長であった被告が、組合員に宛てて送付した文書の記載により、原告らの名誉を毀損し、また、管理組合の臨時総会において、原告らの名誉を毀損する発言を行ったとして、原告らが、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、それぞれ100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。
なお、原告らは、本件訴えにおいて、上記の被告に対する請求のほか、上記管理組合を被告として、通常総会における決議(管理組合役員選任に関する議案)の無効確認等及び上記被告の不法行為に係る謝罪文の掲示を請求していたが、上記管理組合との間では、平成30年8月23日、訴訟上の和解が成立した。

本件反訴請求は、原告ら及び反訴被告会社が組合員に宛てて送付した文書の記載により被告の名誉を毀損し、また、原告らが被告を尾行したほか、原告Bが管理組合の臨時総会において被告の名誉を毀損する発言を行ったとして、被告が、原告ら及び反訴被告会社に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して220万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、民法723条に基づく名誉回復措置を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告Bに対し、20万円+遅延損害金を支払え。

2 被告は、原告Aに対し、30万円+遅延損害金を支払え。

 原告Bは、被告に対し、11万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 まず、「通知書」と題する書面には、「C氏は理事長として欠格者という他はない態度を取り続けており、もはや正常な管理の体をなしていません。」との記載があると認められ、同記載の前提として、被告が理事会議事録の閲覧請求に対応しないとの事実があったのだとしても、被告をそしる表現であるといえる。
また、「臨時総会招集請求書」には、「C理事長は、理事会および管理会社を巻き込み、私たち組合員に対し背信行為を行っている」、「上記以外にも、C理事長による組合運営は善意の組合運営とはかけ離れ、透明性に著しく欠ける。それを裏付ける証言や証拠、資料も次々と出てきている。」との記載があると認められ、同記載が、被告の不信任理由を述べる過程でなされたものであるとしても、被告をそしる表現であるといえる。
以上によれば、原告らが送付した書面の中に、被告を誹謗中傷する表現が用いられた書面があると認められる。

2 真実性の証明については、事実の重要な部分においてこれが真実であることの証明がなされれば足りると解するのが相当であるところ、被告記載2は、原告らが被告に対する強い怨恨を有していることが推察される根拠として、原告らが「200枚以上の誹謗・中傷文書や、50回以上にわたる郵便物」の送付を行ったと記載するものであり、その記載の趣旨を一般人の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、事実の重要な部分の証明としては、原告らが多数の誹謗中傷文書を送付したことの証明がなされれば足りるというべきである。
本件についてみると、「全区分所有者の皆様へ」と題する書面は、平成28年7月21日に送付されたものであるところ、同日までに原告らが、本件管理会社、本件組合の理事、組合員等に対して送付した書面は、合計20件を超え、また、その枚数も、少なくとも合計80枚程度に及ぶものと認められる。
また、被告には、本件管理会社、他の理事及び組合員宛て送付文書の写し等が送付されることがあったものと推認されるところ、これらの文書を併せると、被告の認識した原告らの送付文書の件数及び枚数は、さらに加算されることとなる。
そして、原告らの送付した文書は、全体として、被告による組合運営を批判し、又は不信任決議の成立等を目的とするものであり、被告において、これらを総体として、被告を誹謗中傷するものとして認識することには、相応の理由があるものと認められる。
以上によれば、被告記載2については、被告において、これを真実と信じるにつき相当な理由があるものと認められ、故意もしくは過失がなく、名誉毀損による不法行為は成立しない

本件では、複数の行為について名誉毀損該当性が争われています。

裁判所がいかなる順番でどのような考慮要素について判断をしていくのかについて、その概要を知っておくことはとても大切です。

日常会話でいうところの「名誉毀損だ!」というレベルを超えて、しっかりと法的な判断枠組みを認識することが適切な管理運営においては必要不可欠です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金20 管理費の増額に関する規約の変更が区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費の増額に関する規約の変更が区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないとされた事案(東京地判平成31年3月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告に対し、被告が本件マンションの管理規約に基づく管理費及び修繕積立金を支払わないと主張して、上記管理規約に基づき、未払の管理費及び修繕積立金の支払+遅延損害金の支払を求めるとともに、上記管理規約に基づき、違約金としての弁護士費用等の支払+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、29万2080円+遅延損害金を支払え。
 被告は、原告に対し、48万4560円+遅延損害金を支払え。
 被告は、原告に対し、75万7000円+遅延損害金を支払え。
 被告は、原告に対し、48万6000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件においては、本件決議に基づく本件改定管理費等への変更について区分所有法31条1項後段おける被告の承諾がなければ被告に対して効力が認められないといえるかが問題となっている。
そして、同条項後段は、区分所有者間の利害を調整するため、「規約の設定、変更は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めているところ、この「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される(最高裁平成10年10月30日第二小法廷判決)。
これを管理費等の増額についていえば、管理費等の増額は一般的に区分所有権に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された管理費等が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、区分所有者は管理費等の増額を受忍すべきであり、管理費等の増額に関する規約の設定、変更等は区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。

2 亡Bは、本件各建物を自らの有していた建物所有権及び借地権との等価交換により取得した、すなわち、当該建物所有権及び借地権を譲渡する対価として、本件各建物及びその敷地の共有持分を取得したことが認められる。そして、亡Bの有していた借地権の価格自体は不明であるものの、本件マンションの所在する場所からすれば、等価交換当時においても借地権価格は相当の高額であったものと推測され、本件マンションの建設に当たり亡Bのような当初の地権者の協力が必要であったことは否定できない。
しかし、一方で、亡Bは、本件マンションの敷地に対して有していた借地権を消滅させる代わりに本件各建物の区分所有権を取得しているところ、本件各建物の面積は、合計で165m2(約50坪)を超えるものであり、かつ、その敷地の共有持分を取得していることに照らせば、その時点で既に相応の利益を享受しているものといえる。
しかも、亡B及び被告は、本件マンションが完成し、管理費等を支払い始めた昭和54年1月以降、本件決議がされる平成26年6月まで、25年以上にわたり、他の区分所有者と比べ、割合は時期によって異なるものの、低額に抑えられた管理費等を支払うことで足りる状況であったものである。
また、平成20年6月28日における第29期定期総会における決議により、本件規約が制定され、本件規約においては、管理費等の額について各区分所有者の所有する専有部分の床面積の割合に応じて算出する旨規定されていることが認められ、本件規約の制定手続について、上記総会が適法に成立し、本件規約の制定についても区分所有者総数及び既決権総数の4分の3を超えた賛成多数により可決されたことが認められ、その手続に瑕疵がないことが認められる。
そうすると、管理規約上は、区分所有建物の用途を問わず、専有部分の床面積の割合に応じて管理費等を算出することが明示されたといえる。
そして、本件決議に基づく本件改定管理費等が、本件規約を超えて、被告にのみ専有部分の床面積の割合を超える管理費等を負担させるといったことは証拠上認められない。
一方、本件決議によって被告が受ける不利益をみるに、本件規約に基づく管理費等となることで、従前の管理費等より高額とはなるものの、他の区分所有者よりも割合として管理費等の額が高額となるものではない
また、本件各建物には平成27年9月中旬から平成28年3月下旬までの間に実施された本件マンションの大規模修繕の後には共用設備としての郵便受けがないこと、給水設備は被告所有のシステムを設置していること、防火設備が一部設置されていないこと、インターフォンが接続されていないこと、本件各建物に通じる階段下の各縁石が修繕されていなかったことが認められるが、区分所有者によって、現に利用する共用部分が異なることは被告に限った事情ではない。
これらの事情に照らせば、本件決議に基づき本件改定管理費等に管理費等を増額することは、必要性及び合理性があるということができ、かつ、他の区分所有者と同様に、専有部分の床面積の割合に応じて管理費等を定めることとする以上、その額も社会通念上相当であると認められる。

本件においても、増額した未払管理費の請求に加えて、違約金としての弁護士費用の請求がそのまま認容されています。

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日照権・眺望権5 マンションに隣接して老人ホームを建築したことによる騒音・振動の被害や日照・眺望の阻害等を理由とする妨害排除請求等が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションに隣接して老人ホームを建築したことによる騒音・振動の被害や日照・眺望の阻害等を理由とする妨害排除請求等が棄却された事案(東京地判令和元年9月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションに居住する原告らが、本件マンション敷地に隣接するホーム敷地に有料老人ホームを建築した被告T社及び本件ホームの設計及び建築工事を請け負った被告K社に対し、被告らによる本件ホームの建築により、受忍限度を超えて、日照及び眺望の阻害、プライバシーの侵害、子どもの安全に対する危険並びに居宅の財産的価値の下落等の損害を被り、また、本件工事により、騒音・振動の被害及び本件マンションの壁の一部にひび割れの被害を被った旨主張して、人格権(日照権)に基づく妨害排除請求として本件ホームの4階部分の撤去等を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として、連帯して、慰謝料、資産的価値の下落による損害金、本件工事によって生じた壁のひび割れの修繕費用及び弁護士費用の各合計金+遅延損害金の支払を求める事案である。
なお、原告らは、当初、本件ホームの建築禁止を求めていたが、本件訴訟係属中の平成29年5月23日に本件ホームが完成したため、その訴えを4階部分の撤去等に変更した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 環境省の通達(騒音振動規制法の施行について)は、測定場所について「測定しやすく、かつ、測定地点を代表すると認められる場所とすること。この場合、法が生活環境の保全を目的としていることから、原則として住居に面する部分において行うものとすること」と規定しているところ、これは測定しやすさや代表的地点と認められる場所を測定場所とするに際し、生活環境の保全の目的から、原則として住居に面する部分において行うとするもので、必ずしも測定場所を隣接する敷地との境界線上にしなければならないとするものとはいえない。
そして、本件集音マイクがホーム敷地とマンション敷地の境界線の北端から東に約2.5メートル離れているに過ぎないこと、本件集音マイク及び本件振動測定器の測定結果は、北側道路面に電光掲示板によって騒音及び振動の数値が表示されるように設置されていること及び北側道路を挟んだ向かい側は駐車場であるがその向こうには他の住居があることが認められ、測定値を表示して近隣者に示すためには道路面が適切であること及び本件マンション以外にもホーム敷地の周辺には住居があることなどからすれば、本件集音マイクの設置場所が上記通達に反して不適切なもので、被告らが意図的に騒音値を低くするために設置場所を操作したとまでいうことはできない。
なお、原告ら各居室は、いずれも本件マンションの東側かつ北側道路側にあり、本件集音マイク及び本件振動測定器の設置場所に近接した位置にあるから、測定値は実際に原告らの受ける騒音に比較的近いということができる。
また、原告らは、境界線上に集音マイクを設置したと仮定して、各くい打ち地点と本件集音マイクの設置場所との距離とくい打ち地点に最も近い境界線上の距離との距離差を基に騒音減衰状況を計算するけれども、前提として測定時の騒音源が特定されておらず、くい打ち地点すべてが測定時の騒音源であるということはできない上、その計算方法も十分に検証されたものであるとはいえない
したがって、これをもって、原告ら主張の騒音があったと認めるには足りない。

2 結局、平成28年6月6日から平成29年4月29日までの間、本件集音マイクの設置場所における音量が80デシベルを超える1時間の時間帯は、5回であり、その測定された数値は最大でも82.9デシベルであり、東京都の規制基準の基準値である80デシベルを、基準値全体の4パーセント弱上回るにすぎないことからすれば、本件工事の騒音が受忍限度を超えるものであると認めることはできない。

騒音問題に関する訴訟の難しさを感じますね。

騒音の存在及び原因の特定が求められますが、費用をかけて専門家による調査が必須であるように思います。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。