管理費・修繕積立金25 管理費等の滞納がないにもかかわらず、その支払を求められたことによる慰謝料請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等の滞納がないにもかかわらず、その支払を求められたことによる慰謝料請求が棄却された事案(東京地判平成30年12月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの2室の区分所有権を担保不動産競売により取得した原告が、本件マンション管理組合である被告に対し、管理費、修繕積立金及び地代の滞納がないにもかかわらず、その支払を求められたことにより、肉体的及び精神的な苦痛を被ったことを理由に、民法709条の不法行為に基づく損害賠償の請求として、120万円+遅延損害金の支払を求める事件(本訴)と、被告が、原告に対し、原告が滞納する管理費等(176万6424円)及び平成28年6月30日までの確定遅延損害金(270万7223円)の合計447万3647円並びに原告が滞納する管理費等(176万6424円)に対する遅延損害金の支払を求める事件(反訴)の事案である。

【裁判所の判断】

1 原告(反訴被告)の請求を棄却する。

 被告(反訴原告)の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 被告が平成17年9月29日に開催した第22回Y管理組合定期総会において配布されたaマンション未収入金一覧表と題する書面には、本件各室についての遅延損害金として合計52万4187円が計上されているが、その滞納期間として、平成14年6月分ないし平成15年6月分、平成16年1月及び2月分不足、同年3月ないし12月分及び平成17年1月ないし7月分である旨が記載されており、法定充当の方法によるのではなく、その一部について指定充当をされたものとうかがわれることに加え、本件和解において定められた期限の利益を喪失した後であるにもかかわらず、第22回貸借対照表や第23回中間貸借対照表には、未収金及び地代未収金と異なり、遅延損害金が計上されていないが、被告において財産の状況を監査し、その結果を総会に報告する監事が置かれ(管理規約・45条1項及び建物の区分所有に関する法律50条1項及び3項参照)、収支決算及び事業報告が総会の決議を経なければならないとされていること(管理規約・52条1号)に照らすと、当時、被告として、そもそも遅延損害金についての存在の認識が希薄であったと考えられる。
そして、原告が平成17年12月21日に本件各室を取得した後は、原告において被告から請求された本件管理費等の金額を支払ってきたところ、被告が原告に対して延滞する管理費等があるとして、その支払を求めるまでに10年以上が経過したことも併せ考慮すると、原告が被告に対して支払った上記の各金員については、原告と被告との間で、管理費等に係る請求書に記載の期間について支払うものとしての黙示の合意があったと認められる。
したがって、被告の原告に対するb社による管理費等についての滞納やこれについての遅延損害金の滞納に係る債権が存在したとしても、消滅時効を理由に消滅したと認められる。

2 被告の原告に対する管理費等の請求は、結果として、理由がないものであるが、その論拠は、消滅時効を援用したことによるものである。そして、原告と被告の間で充当関係についての見解に相違があったことも併せ考慮すると、本件の訴えに先立ち、被告が原告に対して管理費等の滞納についての請求をしたこと自体は、相応の根拠に基づくものであって、不合理なものとはいえない。以上に加え、地代の支払については、本件の審理において原告側から書証として提出されるまで、被告において把握しておらず、そのことが被告の原告に対する請求の一因になった可能性があるとの事情も踏まえると、被告が原告に対して管理費等の請求をしたこと自体については、何ら違法なものとはいえない。
したがって、被告が原告に対して未払の管理費等についての請求をしたことについて、不法行為は成立しない。

区分所有建物における管理費等の回収の場面では、充当関係が問題となることがあります。

充当の順番をしっかり理解しておかないと、滞納金額の正確な把握ができないため、注意しましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金24 規約に弁護士費用の算定方法について規定がない場合における弁護士費用の認定方法(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、規約に弁護士費用の算定方法について規定がない場合における弁護士費用の認定方法(東京地判平成31年2月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合である原告が、同マンションの区分所有者である被告に対し、同マンションの管理規約に基づき、未払管理費、修繕積立金及び専用使用料+遅延損害金、弁護士費用90万7870円+平成30年4月から毎月27日限り月額46万7840円の割合による将来の管理費、修繕積立金及び専用使用料の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、998万6570円+遅延損害金を支払え。

 被告は、原告に対し、平成30年4月から被告が原告を脱退するまでの間、毎月27日限り月額46万7840円の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 原告が区分所有者から徴収する管理費等は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるものであり(本件規約23条1項)、専用使用料は管理費に充当されるものであり(本件規約27条1項)、いずれも本件マンションの敷地及び共用部分等の管理という不可分的な利益の対価であるものと認められる。
また、本件規約62条4項に基づき被告が支払義務を負う弁護士費用は、上記のような不可分的な利益の対価の支払債務の不履行によって生じる違約金であるものと認められる。
以上に照らせば、本件請求債権に係る支払債務は、いずれも性質上の不可分債務に当たるものと認められる。
したがって、店舗①及び店舗②について持分を有する被告は、本件請求債権の全部について支払義務を負うものというべきである。

2 被告は、本件規約62条4項に基づき、本件訴訟に係る原告の弁護士費用を負担すべき義務を負うものというべきである。
本件規約には、負担すべき弁護士費用の算定方法について定めがないから、同項は相当額の弁護士費用の請求を認めているものと解するのが相当である。
そして、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において、損害額の1割程度の額の弁護士費用が不法行為と相当因果関係を有する損害と認められるのが一般的であることに照らせば、本件訴訟についての相当額の弁護士費用は、本件未払管理費等及び専用使用料合計907万8700円の1割である90万7870円を下らないものと認めるのが相当である。

上記判例のポイント2は、あくまで一例にすぎません。

違約金としての弁護士費用の請求は、委任契約において弁護士費用についてどのように合意するかが非常に重要です。

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管理組合運営29 意思能力を欠く区分所有者に対してされた通知をもって59条競売における弁明の機会が付与されたということはできないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、意思能力を欠く区分所有者に対してされた通知をもって59条競売における弁明の機会が付与されたということはできないとされた事案(札幌地判平成31年1月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合の管理者である原告(提訴時においてはA、口頭弁論終結時においてはB)が、①本件マンションの区分所有者たる被告に、本件マンションの管理規約に定める管理費等の滞納があるとして、被告に対し、本件管理規約に基づき、平成28年1月分から平成30年6月分までの管理費等合計44万5100円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②本件管理規約によって違約金として請求することができることとされている滞納管理費等の徴収に要した弁護士費用及び徴収の諸費用が被告に対する管理費等の滞納の徴収に関しても生じたと主張し、被告に対し、本件管理規約に基づき、上記各費用合計60万8822円+遅延損害金の支払を求め、さらに、③被告による長期間にわたる管理費等の滞納が本件マンションの区分所有者の共同の利益に反するものであり,それが、区分所有法59条1項の要件を充足する程度のものであるとして、同項に基づき、本件マンションの被告の区分所有権及び敷地利用権の競売を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、105万3922円+遅延損害金を支払え。

2 原告は、被告が所有する別紙物件目録記載1の土地の共有持分権及び別紙物件目録記載2の建物の区分所有権について競売を申し立てることができる。

【判例のポイント】

1 区分所有法59条2項が、同法58条3項を準用し、同法6条1項に規定する行為をした又はその行為をするおそれがある区分所有者の区分所有権及びその敷地利用権について、競売の請求の訴えを提起することに関する集会の決議をするに当たり、当該区分所有者に弁明の機会を付与することとした趣旨は、同請求が当該区分所有者の区分所有権に与える影響の重大性に鑑み、当該区分所有者に確実に反論の機会を与えるという点にある。
そうすると、同法59条2項が準用する同法58条3項の弁明の機会は、単に形式的に当該区分所有者の住所地に弁明の機会を付与する旨の通知が届けられただけでは足りず、当該区分所有者において、その内容を了解することができる能力を有していることが必要と解される。
そして、被告の状況に鑑みれば、被告が、3月20日付け通知書の送付を受けた時点において、その内容を了解することができるだけの能力を有していたとは認め難い。
したがって、本件訴えの提起は、被告に対する弁明の機会を付与しないままされた瑕疵ある決議に基づくものと言わざるを得ない。

2 まず、被告は、弁明の機会の付与を受けることが民事訴訟法上の特別代理人の権限外である旨主張するが、区分所有法59条2項の準用する同法58条3項の弁明の機会の付与は、同法59条1項に規定する競売の請求に係る訴え提起をするために必要とされる集会決議の前提をなす手続法上の要件であると解される上、上記競売の請求はあくまで財産法上の請求であることからすると、その前提としてされる弁明行為が、「本人の自由な意思に基づくことを必須の要件とする一身に専属する身分行為のように代理に親しまないものである」(最高裁第2小法廷昭和33年7月25日民集12巻12号1823頁参照)とも言い難い。
そうすると、区分所有法59条2項の準用する同法58条3項の弁明の機会の付与を受けることは、民事訴訟法上の特別代理人の権限の範囲内に属する事項であると解するのが相当である。
次に、10月26日付け通知書には、被告の行為が区分所有法59条1項の要件を満たすことについての理由の記載がないから、かかる通知書の送付をもって、弁明の機会が付与されたと評価すべきかどうかは別途問題とされるべき事項であるが、10月26日付け通知書が本件特別代理人に送付される前に、上記要件該当性が詳細に記載された本件訴状が本件特別代理人に対して送達されているという当裁判所に顕著な事実や、本件特別代理人が原告に対して送付した弁明書の内容を見ると、本件特別代理人は、原告の主張内容を十分に把握しているものと理解することができることからすれば、10月26日付け通知書の本件特別代理人への送付をもって、被告に対する弁明の機会の付与があったものと評価するのが相当である。
以上によれば、被告に対する弁明の機会を付与することなくされた決議に基づく訴えの提起であるという上記瑕疵は、本件特別代理人に対する10月26日付け通知書の送付によってした弁明の機会の付与とそれを前提とした11月19日付け臨時総会決議によって治癒されたものと解するのが相当である。

59条競売における手続として非常に重要な点ですので、しっかり押さえておきましょう。

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駐車場問題9 地下駐車場のシャッターの故障を理由とする損害賠償請求における警備費用として認められる範囲(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、地下駐車場のシャッターの故障を理由とする損害賠償請求における警備費用として認められる範囲(東京地判平成31年1月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

 本件は、
(1) マンション管理組合である原告が、被告の従業員は、トラックを運転して、同マンションの地下駐車場の出庫口を通過しようとした際、同出庫口に設置されたシャッターが完全に上がり切らずに停止していたのを看過し、同トラックの上部を同シャッターに衝突させ、これを破損させたと主張して、被告に対し、民法715条1項に基づく損害賠償として、939万7080円(①シャッター修理費用507万6000円、②警備費用346万6800円、③弁護士費用85万4280円)+遅延損害金の支払を求めた(本訴事件)のに対し、

(2)
 被告が、原告が管理していた同シャッターには、同トラックの通過中に落下し、あるいは本来の位置まで上がり切らなかったという瑕疵があり、これにより同トラックを破損させたと主張して、原告に対し、同法717条1項本文に基づく損害賠償として、10万3974円(①トラック修理費用9万4522円、②弁護士費用9452円)+遅延損害金の支払を求めた(反訴事件)
事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、46万1538円+遅延損害金を支払え。

2 原告は、被告に対し、7万2781円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 原告は、本件事故により、本件シャッターを閉鎖できなくなり、平成28年11月29日から平成29年3月15日までの間、毎日午後11時から午前8時までの時間帯に、警備員1名を本件シャッター下付近での立哨警備に、警備員1名を本件出庫ゲート付近の管理室内での警備に、それぞれ従事させ、その費用として346万6800円(1万5000円×2名×107日×1.08)を支出したことが認められる。
しかし、本件マンションが所在する地域の犯罪発生率は低く、本件マンションの管理事務所には24時間体制で警備員2名が勤務しているのであるから、本件出庫口から不審者が侵入する危険性が高いとはいえない。
また、原告が配置した警備員は、基本的に、午後11時から午前8時までの時間帯に、本件出庫口から不審者が侵入しないかを監視するのが主たる業務であり、通常の交通関係の監視等に従事する警備員等と比較しても精神的緊張は少なく、「断続的労働に従事する者」(労働基準法41条3号)に当たるともいえ、原告が、「行政官庁の許可」を受けていれば、同法34条1項により警備員に休憩を与える必要がなかった可能性は否定できない。また、警備員に休憩時間が必要であるとしても、原告としては、交代制で警備員を配置するなどして、休憩が必要となる6時間を超えないように勤務時間を設定することもできなかったとはいえない
そして、原告が配置した警備員が、不審者を発見するなどの不測の事態に遭遇した場合には、直ちに本件マンションの管理事務所や警察に連絡し、常駐の警備員2名や警察官と協同して事態に対処することもできたといえる。それゆえ、原告が、本件出庫口からの不審者の侵入に備えるために、警備員2名を配置する必要があったとまではいえない。
したがって、本件事故と相当因果関係のある警備費用は、被告が主張するとおり、警備員1名分の費用にとどまると認めるのが相当である。

2 原告は、本件事故前である平成28年10月19日に、LIXILから本件シャッターの交換工事に係る見積書を受領しており、板金製作物や購入部品等の拾い出しも完了し、LIXILに発注書を提出すれば、直ちに工事に着手することが可能な状況にあったといえる。
しかし、原告は、本件事故が発生した同年11月26日の後も、被告側保険会社と交渉をしていたこと等を理由に、平成29年1月29日になって初めて、理事会の承認を得て、本件シャッターの修理を正式に発注し、工事の完了が同年3月15日になっているところ、遅くとも平成28年12月14日には、同保険会社からの回答により任意賠償の可能性が低いことを認識し得たはずであり、損害拡大防止義務に照らしても、同年11月29日から平成29年3月15日までの全期間の費用を請求することはできないというべきである。
他方で、LIXILの報告書によれば、本件シャッターの修理期間は、長くとも①設計作図期間8日間、②工場手配納期3日間、③工場資材調達期間10日間、④板金加工・組み立て製作期間30日間、⑤出荷配車準備期間4日間、⑥施工者手配・現場調整期間7日間、⑦工事施工期間4日間の合計66日間(発注書受領後の工程は③以降の合計55日間)であり、実際にはLIXILが発注書を受領した同年1月29日から同年3月15日までの46日間で工事は完了している。
以上の事情を総合考慮すると、本件事故と相当因果関係のある警備費用は、被告が主張するとおり、せいぜい原告が警備員を配置した平成28年11月29日から55日間分の費用にとどまるというべきである。

損害賠償請求訴訟における損害の評価、相当因果関係の考え方というのは、非常に独特な感じがするかもしません。

仮に原告が実際に警備費用を支払っているとすれば、大赤字になってしまいます。

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騒音問題10 マンション屋上の換気扇の騒音につき、慰謝料請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンション屋上の換気扇の騒音につき、慰謝料請求が棄却された事案(東京地判平成31年1月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの住民である原告が、マンション管理組合である被告組合に対し、マンションの屋上にある換気扇が修繕、交換されず、その換気扇の騒音により、精神的苦痛を被っていると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料200万円+遅延損害金の支払を求めるとともに(第1事件)、マンション管理組合の理事長である被告理事長に対し、マンションの屋上にある換気扇が修繕、交換されず、その換気扇の騒音により、精神的苦痛を被っていると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料231万円及び弁護士費用23万1000円+遅延損害金の支払を求める(第2事件)事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 平成27年5月27日から平成30年2月20日までの間に、701号換気扇については、少なくとも5回の交換作業等が実施され、702号換気扇については、少なくとも4回の交換作業等が実施され、本件換気扇の音の701号への騒音レベルは、被告組合の理事会で承認された専門業者によっては、測定されていない
以上の事実によれば、701号における本件換気扇による具体的な騒音の状況は明らかでないと言わざるを得ず、本件換気扇の交換作業等が約3年の間に複数回行われていることからすれば、原告の前記供述を直ちに採用することはできず、701号において、社会通念上受忍すべき限度を超えた違法な騒音が生じていることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件換気扇の交換作業等が不十分であり、本件換気扇の修繕交換が必要であることを認めるに足りる証拠はない。

2 本件換気扇は、aマンションの屋上に設置されており、建物共用部分に該当し、当該部分は、被告組合が管理する部分である。そして、区分所有者である原告は、建物共用部分を改造したり、排他的な使用をすることを禁止されている。
したがって、本件換気扇は、被告組合が管理する部分であり、被告組合が、自ら又は管理会社を通じて、保全、保守、修繕、変更等を行うものであって、原告提案①及び原告提案②についての判断は、被告組合の理事会決議事項、あるいは、被告組合の総会決議事項に該当する。
そのため、被告組合の理事会又は被告理事長が、被告組合の理事会等の決議の要否及び可否を判断するに当たって、専門業者による本件換気扇の音の701号への騒音レベルの測定を求めること、この701号への騒音レベルの測定を経ずに、原告の費用によって、あるいは、原告に委任して、本件換気扇を交換することを許容しないことが、不合理であるということはできず、このような測定の要求をすること等が、本件換気扇の騒音問題の解決を妨害することに当たるということはできない

騒音問題については、事前に専門業者に測定を依頼することが求められます。

過去の裁判例を見る限り、自身で測定をしても、裁判所は証拠価値を認めない傾向にありますので注意が必要です。

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漏水事故13 上階の部屋の所有者が浴室ドア下部の防水用コーキング部分の補修を怠ったことによる漏水につき、慰謝料3万円が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上階の部屋の所有者が浴室ドア下部の防水用コーキング部分の補修を怠ったことによる漏水につき、慰謝料3万円が認められた事案(東京地判平成31年2月4日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション内の一室に居住する控訴人が、上階の部屋の所有者である被控訴人に対し、被控訴人が同部屋の浴室ドア下部の防水用コーキング部分の補修を怠り、そこに生じていた穴ないし隙間(以下「穴」という。)を放置したため、控訴人の居室内に漏水が発生し、控訴人は精神的苦痛等の損害を被ったなどとして、不法行為に基づき、慰謝料及び弁護士費用等の合計22万3135円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原判決は、漏水の原因となったコーキング部分の穴を控訴人が放置していたことと漏水事故との間の因果関係が認められないなどとして、控訴人の請求を棄却したところ、これを不服とする控訴人が控訴をした。

【裁判所の判断】

被控訴人は、控訴人に対し、3万3000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件水漏れ事故の原因等は、浴室床面に溜まった水が、507号室の浴室ドア下部の上がり框のコーキング部分の穴から浴室床下に侵入し、コンクリートクラックを通って407号室の浴室に到達したというものであるから、そのような穴があいていなければ、本件水漏れ事故は発生しなかったといえる。
したがって、被控訴人の過失と本件水漏れ事故との間の因果関係が認められる。
被控訴人は、本件水漏れ事故が、507号室の賃借人が浴室排水口を詰まらせたという浴室の不適切な利用によって生じたことを理由に、被控訴人に責任がない旨主張し、因果関係を否認している。
しかしながら、浴室は、外部への水の浸出を防ぐ機能が備わっているのが当然であること、コーキング部分の穴がなければ、同部分からの漏水は生じなかったことなどに照らせば、賃借人の清掃不徹底をもって被控訴人の過失と本件水漏れ事故との間の因果関係が否定されるものではない

2 本件で控訴人が被った損害は、慰謝料3万円及び弁護士費用3000円と認めるのが相当である(控訴人の主張する入浴施設利用料は、居宅の浴室が物理的に使用不能となったものではなく、慰謝料算定の基礎として考慮したものであるから、これと別個の損害として認めることはできない。)。

本件訴訟では、慰謝料部分についてのみ請求をしています。

弁護士費用との関係では評価が難しいところです。

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日照権・眺望権6 タワーマンション購入に際し、販売会社担当者が、墓、西日、富士山眺望、植栽工事について事実と異なる説明した等として、損害賠償を求めた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、タワーマンション購入に際し、販売会社担当者が、墓、西日、富士山眺望、植栽工事について事実と異なる説明した等として、損害賠償を求めた事案(東京地判平成31年2月20日)を見てみましょう。

【事案の概要】

本件は、被告からタワーマンションを投資目的で購入した原告が、被告担当者の説明に問題があったなどと主張して、損害の賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告の主張は、要するに、被告の従業員は、原告が投資目的で1002号室を購入するということを知っていたのであるから、1002号室の資産価値に影響する事項に関して誤った説明をすべきではないのに、墓、西日、富士山眺望、植栽工事について事実と異なる説明をし、これによって原告の売買や賃貸を失敗に至らせたのであるから、被告には原告の逸失利益を賠償すべき義務がある、というものと解される。

2 原告(A)は、1002号室を案内された当初から、1002号室から墓が見えること及び1002号室に西日が差すことを認識していた
原告が1002号室の実情を認識していた以上、被告従業員の責任を基礎付ける事実は認められない。
被告従業員による窓の遮熱効果についての詳細な技術説明の有無及び可否は、本件の結論に影響しない。
富士山の眺望に関しては、原告が富士山の眺望が必須であると明確に被告側に伝えたことを認めるに足りる証拠はない。
植栽枯損工事の実施は、本件売買の約5か月後、1002号室及び4716号室の引渡しの約4か月後に、本件マンション管理組合により決定されたものである。
そうすると、被告が原告に対し、本件売買に係る契約の前並びに1002号室及び4716号室の引渡しの前後に、植栽枯損工事について説明義務を負うことは、時系列的にそもそもない。

売買契約締結時に、買主も事情を認識していたことを理由に被告の責任を認めませんでした。

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管理会社等との紛争23 防犯カメラの設置に係る配線の所有権の帰属主体(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、防犯カメラの設置に係る配線の所有権の帰属主体(東京地判平成31年2月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合との間で賃貸借契約を締結して防犯カメラ等を設置した原告が、マンション管理組合に対し、無断で防犯カメラ等が撤去された旨主張し、賃貸借契約の約定に基づき、解除に伴う違約金の支払を求めるともに、同管理組合、マンションの管理受託会社及び新たに防犯カメラ等を設置した会社に対し、防犯カメラの設置に係る配線等について、所有権に基づく引渡しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ①本件賃貸借契約の契約書には、本件賃貸借契約の目的物として本件配線等が掲げられていないこと、②原告は、本件防犯機器の設置に際し、被告管理組合に対し、本件防犯機器の設置費と共に配線工事費を請求し、被告管理組合はこれを支払っていること、③本件配線等の財産的価値は、配線工事費に比して僅少であること、④本件配線等は、本件マンションの構造を踏まえ、防犯機器の設置箇所に適合するよう設置されたものであること、⑤本件配線等を撤去した場合、本件マンションにビスの痕や塗装の剥離等の物理的な損傷が生じること、以上の事実が認められる。
かかる事実に照らせば、本件配線等は本件賃貸借契約の目的物に含まれているとは認められず、被告管理組合は、本件配線等の設置費用のほか、本件配線等そのものの代金をも負担することにより、その所有権を取得したと認めるのが相当である。
仮に、被告管理組合が本件配線等の代金を負担していると認められないとしても、上記認定事実⑤に照らせば、本件配線等は本件マンションに付合しているというべきであるから、いずれにせよ、被告管理組合が本件配線等の所有権を取得したと認められる。
したがって、原告は本件配線等を所有していない。

形式的に見れば、①の理由だけでも勝負ありかと思いますが。

弁護士費用との関係でみれば、訴訟にまで発展するのは誰得な状況です。

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管理費・修繕積立金23 終期を定めずに将来の管理費等及び専用使用料を請求することの可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、終期を定めずに将来の管理費等及び専用使用料を請求することの可否(東京地判平成31年2月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合である原告が、同マンションの区分所有者である被告に対し、同マンションの管理規約に基づき、別紙未払管理費等請求目録の「未払管理費等合計」欄記載の未払管理費,修繕積立金及び専用使用料並びにこれらに対する「支払日」欄記載の弁済期の翌日から支払済みまで約定の年18パーセントの割合による遅延損害金、弁護士費用90万7870円並びに平成30年4月から毎月27日限り月額46万7840円の割合による将来の管理費、修繕積立金及び専用使用料の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、998万6570円+年18パーセントの割合による金員を支払え。

 被告は、原告に対し、平成30年4月から被告が原告を脱退するまでの間、毎月27日限り月額46万7840円の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 本件マンションの管理費等及び専用使用料は、被告が本件マンションの区分所有者である以上、毎月確実に発生するものである。また、本件未払管理費等及び専用使用料が総額907万8700円にも上っており、平成30年4月分以降の管理費等及び専用使用料も支払われていないことに照らせば、被告による管理費等及び専用使用料の未払は、原告の運営や財務に重大な支障を生じさせかねないものとなっており、かつ、今後も管理費等が支払われない状態が継続する可能性が高いものと認められれる。
以上に照らせば、将来の管理費等及び専用使用料についてあらかじめ給付判決を得ておく必要があるものと認められる。
なお、原告は、終期を定めずに将来の管理費等及び専用使用料を請求しているが、被告が原告を脱退した後は管理費等及び専用使用料は発生しなくなるのであるから、被告が原告を脱退した時を終期として上記将来請求を認容するのが相当であり、上記将来請求のうち脱退後の管理費等及び専用使用料を請求する部分は理由がない

細かい部分ではありますが、将来請求をする場合には終期を書きましょう。

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管理費・修繕積立金22 合計約100万円の管理費、修繕積立金等の滞納が共同利益背反行為に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、合計約100万円の管理費、修繕積立金等の滞納が共同利益背反行為に該当するとされた事案(東京地判平成31年1月10日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合の理事長である原告が、本件居室の区分所有権を有する被告に対し、原告が可能な法的手続を尽くしたにもかかわらず被告の未払管理費、未払修繕積立金及び未払自転車置場使用料が増加する一方であることから、被告が共同の利益に反する行為をしており、これにより共同生活上の障害が著しく、他にとる方法が存在しないと主張して、区分所有法59条1項に基づき、本件区分所有権及びその敷地利用権の競売を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【裁判所の判断】

1 本件マンションの区分所有者が本件管理組合に支払うべき管理費等は、本件マンションの管理や修繕に充当されるべきものであるため、これらの管理費等を滞納することは、本件マンションの管理に関し、「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するといえる。
また、本件管理組合の管理規約上、訴訟等の費用は当該組合員が負担する旨定められており、仮にこれが支払われないとすると、管理組合の財産を損なうことになるので、同じく「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するといえる。
被告は、管理費及び修繕積立金合計1万9340円を毎月支払う義務があるところ、平成30年5月31日現在の被告の未払管理費及び未払修繕積立金の合計は35万1240円となっており、18か月分を超える額となっている。また、訴訟等の費用として、104万7080円の支払を怠っていることから、これらが本件マンションの管理に関し、「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当することは明らかである。
なお、被告又はb社が、本件訴訟係属中に本件管理組合に対して、8万円ずつ支払をしているが、被告及びb社の管理費、修繕積立金及び駐車場使用料の合計額は8万5560円であり、これに満たないのであり、管理費の滞納があることに変わりはない。

2 被告の本件居室に対する強制執行手続が平成29年6月20日に無剰余で取り消されていること、被告の資力が回復したような事情はうかがわれないことからすると、現時点において、本件区分所有権等につき通常の強制競売等を申し立てて競売開始決定を得たとしても、再び無剰余取消しとなることが見込まれる
また、被告自身、現時点において弁済することは困難であり、2年待ってほしいと述べているとおり、滞納管理費等が自主的に早期に解消される見込みはない
したがって、区分所有法59条1項に基づく本件区分所有権等の競売以外の「他の方法によってはその障害を除去して…区分所有者の共同の生活の維持を図ることは困難」(同条項)であるといえる。

上記判例のポイント2の要件もありますのでお忘れなく。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。