管理組合運営32 理事長が総会決議を経ずに共用部分を変更した行為が善管注意義務違反にあたるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事長が総会決議を経ずに共用部分を変更した行為が善管注意義務違反にあたるとされた事案(東京地判平成30年3月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションを管理する原告の理事長であった被告が、①主位的に、原告の総会決議を経ずに、電気料金を負担させない賃貸借契約を締結したことは善管注意義務違反であることを理由に、②予備的に、原告の理事長であった被告が、電気料金の原告負担の合意をするにつき、原告の総会決議も経ずに、また、理事会の決議も経ずに、原告に電気料金を負担させるような合意をしたことは善管注意義務違反であることを理由に、原告に損害が生じたとして、原告が、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、131万5058円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件マンションのラウンジであったところをBの店舗をして賃貸することとなったのであり、本件賃貸部分は従来の用途を全く変えたものといえるから、共用部分の変更に当たる。
共用部分の変更をするためには原告の総会で区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による決議を経る必要がある(本件マンションの管理規約50条3項(2))から、被告は、Bとの間で、本件賃貸借契約を締結するにあたり、総会での決議を経る必要があった。
しかし、被告は、本件賃貸借契約を締結するに際し、総会での決議を経ていない。
本件当時、被告は原告の理事長であったところ、理事長は区分所有法上の管理者とされており(本件マンションの管理規約41条2項)、管理者の権利義務は委任に関する規定による(区分所有法28条)から、被告は、原告に対し、善管注意義務を負い(民法644条)、本件マンションの業務を法律や規約に従って行わなければならない。
そうすると、被告が総会での決議を経ないまま本件賃貸借契約を締結したことは、善管注意義務に反するといえる。

2 この点、被告は、9年もの間、区分所有者から異議が出されなかったことからすれば、区分所有者全員が本件賃貸借契約を黙示的に承諾したことと評価できる旨主張する。
確かに、本件マンションの住人は、本件賃貸部分の横を通ってエレベーターホールに行くことになるので、本件賃貸部分でBが営業していることについて把握していたと推認できるし、本件賃貸借契約後の平成18年9月30日に開催された本件マンションの第25回通常総会において提出された監査報告書の中にある収入明細書には、屋内施設使用料収入として、Bから月額6万円の賃料が支払われている旨の記載がなされており、この点からも区分所有者は、本件賃貸部分がBに賃貸されていることを把握できたといえる。
しかし、区分所有法37条1項には、集会(本件マンションの総会に該当)においては、招集通知に記載された事項についてのみ決議ができる旨規定されているところ、これは事前に通知されていない事項は集会において十分に討議できず、そのような状況において決議することは望ましくないし、集会に出席しなかった者にとってはその者を除外して決議をされるという不都合があり、これらの不都合を回避するための規定と解され、本件マンションの管理規約にも同様の規定がある(管理規約50条9項)。
このような区分所有法の趣旨(本件マンションの管理規約も同趣旨と解される。)からすると、本件マンションの区分所有者において、本件賃貸借契約の存在を認識しえた状況で、総会において特段の異議などが出なかったことをもって、実質的に区分所有者の負担となる電気料金の原告負担という内容が含まれる本件賃貸借契約について黙示の承認を認めることは、上記趣旨を没却することとなり相当でない

共用部分の変更は、総会の特別決議を要します。

被告としては、黙示の同意の主張をしましたが、区分所有法の趣旨から認められませんでした。

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日照権・眺望権7 区分所有建物の敷地との境界線上に存在する樹木を被告が伐採・剪定したら違法?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有建物の敷地との境界線上に存在する樹木を被告が伐採・剪定したら違法?(東京地判平成30年4月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らの居住する区分所有建物の敷地と被告が所有する土地の境界線上に存在する樹木を被告が伐採ないし剪定したことが原告らの生活利益を侵害する違法な行為であると主張する原告らが、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)として、原告らそれぞれに30万円+遅延損害金の支払を求めるものである。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告らの主張する生活利益は民法709条の「権利又は法律上保護される利益」であると認めることはできないが、仮に、これが認められる余地があるとしても、これが私法上の権利といい得るような明確な実態を有するものと認められないことは明らかであるから、法律上保護される利益を超えて、権利性を有するものとまで認めることはできず、法律上保護される利益にとどまるものである。
そして、本件行為が原告らの主張する生活利益の違法な侵害となるかどうかは、被侵害利益たる原告らの主張する生活利益の性質と内容、侵害行為たる本件行為の態様、程度、侵害の経過等を総合的に考慮して判断すべきである。

2 被告は、被告の管理する住宅内に設置されている二段昇降ピット方式の機械式駐車場において、本件樹木により入庫車両に損傷が出るおそれがあったことから、その危険を避けるために、本件行為を行ったことが認められる。
そうすると、被告には、本件行為を行う一定の必要性があったと認められる。他方、本件樹木は本件土地と被告所有土地の境界線上に自生していることから(当事者間に争いがない。)、本件土地の所有者と被告所有土地の所有者の共有に属するというべきであるが、原告らの本件樹木に係る共有持分はごく僅かなものにとどまる。
これに加えて、本件樹木は、現状再度枝葉が伸びつつあり、今後も伸長が期待できること(なお、原告らは、本件行為が「断幹」に該当し、樹木に腐朽現象(樹の切断部分に腐朽菌の胞子が着き、それが樹本の中心部(芯部)に菌糸を伸ばし、樹本の中央部の木質を食べてしまう現象)などの悪影響を与えるものであると主張しているが、本件樹木の樹勢に現状において問題があるようには見受けられず、本件樹木に原告らが主張するような腐朽現象その他の悪影響があったことを認めるに足る証拠もない。)に照らすと、本件行為の本件樹木に与える影響は限定的なものであって、本件行為の経過、態様等に照らし、原告らの生活利益との関係で、本件行為の違法性の程度が大きいということはできない(なお、被告は、本件行為について保存行為であると主張するが、本件樹木のうち被告所有土地の利用に影響を与える部分の剪定にとどまるものであれば格別、本件行為のように、本件樹木のほぼ全ての枝葉を切り落として幹だけの状態にするのは、被告が行うべき保存行為の範囲を超える疑いを否定し得ない
また、本件行為について、共有物の管理という観点からみた場合に、共有者との協議も行わないまま一方的に被告が本件行為を行うことが共有物の管理として適切であるかどうかは別論である。)。
仮に原告らの主張する生活利益が法律上保護される利益に当たるとしても、その利益は限定的なものであるというべきところ、本件行為は上記のとおり、一定の必要性に基づいて行われ、その違法性の程度も原告らの生活利益との関係で大きいものとはいえないことに鑑みると、本件行為が不法行為法上違法であると評価することはできないというべきである。

被告の行為が保存行為、管理行為として不適切であったことを完全には否定しきれていませんが、総合考慮の結果、不法行為法上違法であるとまではいえないという判断です。

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管理会社等との紛争25 エントランスの自動扉にオートロック設備を導入したにもかかわらず管理組合及び管理会社がオートロックを解除するオートロックキーを交付しなかったことによる慰謝料請求(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、エントランスの自動扉にオートロック設備を導入したにもかかわらず管理組合及び管理会社がオートロックを解除するオートロックキーを交付しなかったことによる慰謝料請求(東京地判平成30年8月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、建物の区分所有者である原告が、①同建物のエントランスの自動扉にオートロック設備を導入したにもかかわらず被告管理組合及び管理会社である被告会社がオートロックを解除するオートロックキーを原告に交付しなかったことにより精神的苦痛を被った、②本件訴訟の期日において被告管理組合代理人から暴言・侮辱を受けたことにより精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、①については被告らに対して連帯して125万2000円+遅延損害金、②については被告管理組合に対して360万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告に対して205号室分のオートロックキーが交付されたのは平成27年5月26日であって、本件運用開始(平成26年7月1日)から約11か月経過後である。
オートロック工事に伴って一つの専有部分(地下の専有部分を除く。)に対して3本のオートロックキーが交付されていることからすると、被告管理組合又は被告管理組合から委託を受けた被告会社は、原告に対し、本件運用開始までに205号室分のオートロックキーを交付すべきであった。なお、本件運用開始までに原告に205号室分のオートロックキーが交付されなかった原因は、各被告において主張が異なるところであるが、いずれにせよ、各被告のいずれか又は双方に原因があるといわざるを得ない

2 しかし、被告管理組合の主張によれば被告会社と被告管理組合の認識が共通でなかったことであり、被告会社の主張によれば205号室の室内インターホンの設置・接続に関する目時工務店との打合せ未了によるものであるから、いずれの主張によっても、被告らにおいて、原告に苦痛を与えることを意図して(原告が主張する「嫌がらせとして」)205号室分のオートロックキーの交付をしなかったということにはならない
また、被告らにおいて、原告に苦痛を与えることを意図して205号室分のオートロックキーの交付をしなかったと認めるに足りる証拠はない。
また、Eは、平成26年4月18日、本件建物エントランスの集合ポストの602号室のポストに602号室分のオートロックキー3本を投函しており、その後、原告及び原告の家族からオートロックキーの交付がないのでエントランスの出入りやごみ置場の出入りに支障がある旨の申入れがなかったことからすると、原告及びその家族において、エントランスの出入りやごみ置場の出入りに支障が生じていたと認めるには足りないというべきである。
そうすると、原告に対して205号室分のオートロックキーが交付されなかったことによって、原告に具体的な支障が生じていたと認めることはできず、権利侵害の程度との関係において、205号室分のオートロックキーの交付が遅れたことが違法とまでは言い難い
また、原告に賠償を要する精神的苦痛が生じたと評価することはできない。

オートロックキーを交付しなかったことが不適切であると認定されましたが、具体的な支障が生じていないこと、苦痛を与える意図まではなかったこと等を理由に「違法とまでは言い難い」と判断されています。

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名誉毀損9 総会における発言が名誉毀損に該当するとされ、慰謝料5万円の支払を命じられた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総会における発言が名誉毀損に該当するとされ、慰謝料5万円の支払を命じられた事案(東京地判平成30年9月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、当時居住していたマンションの住民である被告から暴行を受け、又は被告の発言により名誉を毀損されたなどと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金245万5796円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、5万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 被告が、原告に対し、「お前の家には警察が突入したことは知ってるぞ」と発言したことは、当事者間に争いがない。
そして、当該発言は、原告が警察沙汰となる事件を起こしたとの事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させるものと認めることができる。
この点について、被告は、上記発言は、本件総会の場にいたAやBにも聞き取れない状態であったなどと主張するが、上記発言は、本件総会終了後、防災訓練の準備がされているときに本件マンションの住民が集まった場所でされた発言であり、AやBが聞き取れなかったからといって第三者が上記発言を聞いて伝播し得るような状況になかったなどとは到底いえない。

2 被告が、原告に対し、「お前みたいのがここに住んでいることがおかしい」、「親父の金で遊んでるだけだろ」、「この無職野郎め」などと発言したと認められ、この認定に反する証拠はない(なお,被告も発言したかどうか覚えていないと述べるにとどまっている。)。
そして、当該各発言は、原告と被告とがお互い口論する中でされた発言ではあるものの、いたずらに原告を侮辱するものであるから、社会通念上許容される限度を超えて、原告の名誉感情を侵害するというべきである。
したがって、被告の上記の各発言は、原告の名誉を毀損し、又は名誉感情を侵害するものとして、不法行為を構成する。

3 原告と被告は、本件総会の議事進行中にも口論となり、上記で認定した被告の各発言は本件総会終了後に再び口論となった際の発言であるという経緯、被告の上記の各発言内容、上記の各発言が本件マンションの住民が多数集まる本件総会終了直後にされたこと、原告も被告に対して「めがねざる」とか「めがねぶた」などと侮辱的な発言をしていることなど、本件に現れた一切の事情を考慮すると、被告の発言により原告に生じた精神的苦痛に対する慰謝料は5万円と認めるのが相当である。

まあ、なんともあれですが、感情的にならずに対応することが大切です。

上記判例のポイント3の事情からすれば、被告も反訴したらどうなったでしょうね。

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義務違反者に対する措置22 被告が共用部分たる窓ガラスに補修剤を塗布した行為が不法行為を構成するとした上で、本件塗布行為が正当防衛行為である旨の被告の抗弁を排斥した事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、被告が共用部分たる窓ガラスに補修剤を塗布した行為が不法行為を構成するとした上で、本件塗布行為が正当防衛行為である旨の被告の抗弁を排斥した事案(東京地判平成30年11月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、建物区分所有法上の管理組合である原告が、区分所有建物の共有持分権者である被告に対し、被告が平成27年4月頃から共用部分の窓ガラスを毀損したとして、不法行為に基づく損害の賠償として、窓ガラス修繕費用19万3644円、弁護士費用10万8000円の合計30万1644円+遅延損害金の支払を求め、被告が区分所有建物の専有使用部分に造作・看板等を設置しているとして、使用細則及び管理規約に基づき、造作・看板等の撤去を求め、管理規約に基づき造作・看板等の撤去を求めるための弁護士費用として21万6000円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、30万1644円+遅延損害金を支払え。

 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物に附属する別紙図面斜線部分に存在する造作を撤去せよ。

 被告は、原告に対し、21万6000円を支払え。

【判例のポイント】

1 ジョイントコークAは補修剤であって、損傷を受けていない窓ガラスに利用することは予定されておらず、本件塗布行為は、本件区分所有建物の玄関側廊下部分にあるaマンションA棟の共用部分たる窓ガラスの視界を遮るように、窓ガラス6枚に対して幅広く行われており、その結果、ジョイントコークAが塗布された窓ガラスには銀色の塊が幅広く付着し、窓ガラスを通じた視野を阻害し、窓ガラスの効能を毀損し、aマンションA棟の共用部分の外観を著しく害するようになったのであるから、窓ガラスを毀損したものであって、本件塗布行為は、原告に対する不法行為の構成要件を充足するものというべきである。

2 被告は、被告が原告の業務執行につき問題点を厳しく指摘していたため、原告及び原告の理事が被告を毛嫌いしており、管理会社である株式会社エスエスイー東京も、被告が東京のマンション管理組合の理事長であった当時に管理業務委託契約を終了した経緯があり、被告に対して反感を抱いているから、原告が原告の管理会社とともに被告に対して嫌がらせをするようになり、光の照射、防犯カメラの設置、電波の照射もその一環であり、被告が、正当防衛として本件塗布行為をするようになったと主張し、被告が撮影した本件区分所有建物玄関付近の画面が縞模様になる写真、本件区分所有建物におけるデジタル電磁tenmarstm-190放射線検出器にて計測した結果の写真などを提出する。
しかし、被告主張に係る原告、原告の理事、管理会社の被告に対する反感を認めるに足る証拠はない。また、被告主張に係る光の照射を認めるに足る証拠はなく、原告がした管理棟の修繕工事の中に防犯カメラを新たに設置する工事又は電磁波を発する機器を設置する工事は含まれておらず、原告がaマンションB棟の門に対して向けられていた防犯カメラを、本件区分所有建物の玄関側廊下部分のガラス窓に向けたのは、原告が清掃会社に依頼して窓ガラス部分に塗布されたものを除去したが、被告が更に本件塗布行為をするため、被告の本件塗布行為を監視するために向けたものであって、違法性があるものとは認められない
さらに、被告提出に係る画面が縞模様になっている写真及び被告が本件区分所有建物において測定した写真は、これがどのような状況のもとで撮影されたのかが明らかではなく、これらの写真をもって、被告の主張する電波の照射の存在を直ちに認めることはできず、しかも原告が照射する装置を管理棟に設置してこれを被告に向けていることを認めるに足る他の証拠もない。

正当防衛の抗弁の是非が問題となった珍しい事案です。

民法720条1項では「他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。」と規定されています。

本件では、「他人の不法行為」が存在しないと判断されています。

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管理会社等との紛争24 区分所有者が、購入時から20年間、敷地の一部を占有して時効取得したとする主張が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者が、購入時から20年間、敷地の一部を占有して時効取得したとする主張が認められなかった事案(東京地判平成30年11月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件マンションの区分所有者である原告らは、購入時から20年間、敷地の一部である本件土地1・2を占有して時効取得したとして、共有持分権に基づき、本件土地1・2につき、
(1)他の敷地である本件土地3・4の共有持分1万分の848を有する原告X1においては、昭和46年9月14日時効取得を原因として、(ア)本件土地1・2の各共有持分4分の1を有する被告甲山Y1及び同Y6に対して所有権の一部(持分4万分の848)移転の登記手続を、(イ)本件土地1・2の各共有持分8分の1を有する被告甲山Y2,同甲山Y3,同甲山Y4及び同甲山Y5に対して所有権の一部(持分8万分の848)移転の登記手続を、それぞれするよう求め、
(2)本件土地3・4の各共有持分1万分の1331を有する原告X2においては、同年8月26日時効取得を原因として、(ア)被告甲山Y1及び同Y6に対して所有権の一部(持分4万分の1331)移転の登記手続を、(イ)被告甲山Y2、同甲山Y3、同甲山Y4及び同甲山Y5に対して所有権の一部(持分8万分の1331)移転の登記手続を、それぞれするよう求めている。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 時効制度は、長期にわたって継続した事実状態を尊重し、これに適合するよう権利の得喪を生じさせることで、社会秩序の安定を図ること等を目的とするものである。
このため、取得時効の完成に必要な占有は、権利者がこれを認識して時効中断の措置を執り得ることで権利の得喪に正当性が付与されるよう、物が社会通念上ある者の事実的支配に属すると認められる客観的状態にあることという占有権の成立に必要な占有だけでなく、権利者による事実的支配を排除するなど、客観的に明確な程度の排他的な支配状態が継続することを要するものと解される(最高裁昭和46年3月30日第三小法廷判決)。

2 本件土地1・2は、その上に本件マンション2階の居室部分や2・3階の各バルコニー・ひさし部分があることが認められ、本件マンションの法定敷地といえるから(区分所有法2条5項)、原告らは、本件マンションの各居室の所有権を取得し、引渡しを受けた後は、他の区分所有者らと共に本件土地1・2を共同占有していたものといえる。
しかしながら、甲山Aや被告甲山Y1を含むその相続人らは、昭和46年頃から少なくとも平成25年頃まで、N興業に対して本件土地1・2を駐車場として管理するよう委託し、N興業を通じて上記駐車場の利用者から賃料を得ていたことが認められ、本件土地1・2の所有者ないし共有者もこれらを占有していたものといえるから、原告らを含む本件マンションの区分所有者らは、本件土地1・2につき、客観的に明確な程度の排他的な支配状態を有していたものとはいえないというべきである。
そうであるから、原告らは、本件土地1・2につき、直接占有や間接占有の成否を問うまでもなく、時効取得に必要な占有を有していなかったものといえる(なお、原告らが南青興業に対して本件土地1・2を管理するよう委託したことを認めるに足りる証拠もない。)。
したがって、原告らは、本件土地1・2につき、時効取得に必要な占有を有していない。

時効取得における「占有」に関する最高裁の考え方を押さえておきましょう。

その上で、上記判例のポイント2において、具体的なあてはめを参考にしてください。

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義務違反者に対する措置21 各種迷惑行為に対する差止め請求につき、弁護士費用147万円の支払が命じられた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、各種迷惑行為に対する差止め請求につき、弁護士費用147万円の支払が命じられた事案(東京地判平成30年12月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告が、本件居室において、①非常用ボタンを押したままの状態にする行為(以下「本件迷惑等行為①」という。)、②本件居室において、ガス設備の法定点検のための専門業者の立入りを拒絶する行為(以下「本件迷惑等行為②」という。)、③本件マンションのゴミ置場において、ゴミ袋を開けて中のゴミを一つ一つ確認する行為(以下,「本件迷惑等行為③」という。)といった迷惑等行為(以下、本件迷惑等行為①ないし③を併せて「本件各迷惑等行為」という。)をしているとして、区分所有法57条に基づいて、本件各迷惑等行為の差止め、並びに、本件マンションの管理規約63条4項に基づき、本件訴訟の提起に要した弁護士費用147万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、別紙物件目録記載の建物において、非常用ボタンを押したままの状態にしてはならない。
 被告は、別紙物件目録記載の建物において、ガス設備の法定点検のための専門業者の立ち入りを拒絶してはならない。
 被告は、別紙物件目録記載の一棟の建物(aマンション)のゴミ置き場(別紙配置図の赤線の枠内の部分)において、ゴミ袋を開けて中のゴミを一つ一つ確認する行為をしてはならない。
 被告は、原告に対し、147万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 以上説示したとおり、本件各迷惑等行為をいずれも認めることができ、これらはいずれも本件マンションの区分所有者である居住者の共同の利益に反する行為であるといえる。
そして、被告が、建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合には、原告は、区分所有者の共同の利益のために、集会の決議を経た上で、その差止めを求める訴訟を提起できるところ、本件訴訟の提起について集会の決議を経ている。
したがって、原告の被告に対する本件各迷惑等行為の各差止めを求める訴えは、いずれも理由がある

2 第二東京弁護士会報酬会規は弁護士報酬を算定する上で合理的な基準であると認められるところ、これによれば、本件のように経済的利益を計算することができない場合は、経済的利益の額を800万円と評価するとされており、経済的利益の額を800万円として同会規に基づいて弁護士報酬を計算すると、弁護士費用として適正な金額は次の内訳により147万円であると認められる。
着手金 49万円(=300万円×8パーセント+500万円×5パーセント)
報酬金 98万円(=300万円×16パーセント+500万円×10パーセント)
したがって、原告の被告に対する147万円+遅延損害金の支払を求める訴えは理由がある。

上記判例のポイント2のように、弁護士報酬の計算に合理性が認められる場合には、金額が高額であっても裁判所は認めてくれます。

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管理組合運営31 区分所有者が管理組合に対し、専有部分を第三者に店舗として賃貸することを妨害したことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者が管理組合に対し、専有部分を第三者に店舗として賃貸することを妨害したことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判平成30年10月2日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である原告が、当該マンション管理組合である被告に対し、原告が区分所有する当該マンションの一室を第三者に店舗として賃貸して使用収益することを妨害したなどと主張して、不法行為に基づき損害賠償1263万6000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件区分建物の用途が店舗であることを前提に、被告が本件区分建物の用途を住居に制限するために必要な手続を経ないで、本件区分建物の用途が住居であるとして、原告の本件区分建物の店舗としての使用を妨げたなどと主張する。
しかし、被告の管理規約(昭和63年発効)には、区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸と、店舗及び店舗付属専用設備とすると定められているところ、同規約に添付された図面上、店舗使用が認められている専用部分には「店舗」と明記されているが、本件区分建物は「店舗」と明記されていないことが認められる。
これに加え、本件マンションは、昭和46年に新築された建物であるところ、竣工当時、本件区分建物の出入口として現在使用されている開口部は窓になっており、不特定多数の人が出入りする店舗として用いることのできる出入口はなかったこと、平成元年から平成3年頃に作成された本件マンション1階の図面では、本件区分建物には、寝室、浴室、衣装室、居間、食堂、玄関、厨房などの記載があることが認められる。
これらの事実に照らせば、本件区分建物の用途は、竣工時以来住居であり、管理規約が作成された昭和63年の時点でも住居であることを前提に同規約が作成されたことが認められるが、原告も主張するとおり、本件マンションにおいては、用途変更をするためには管理規約の変更が必要であるところ、その後に用途変更がされた事実についての主張、立証はないから、本件区分建物の現在の用途は住居であると認められる。

2 以上を前提に、不法行為の成否を検討するに、本件区分建物の用途が住居である以上、平成28年11月9日に開催された被告の定期総会における決議は、そのことを確認したものにすぎず、本件区分建物の用途を住居に制限したものということはできない
また、被告の規約上、区分所有者は、その専有部分をそれぞれの用途に従って使用するものとし、他の用途に供してはならず、その専有部分を第三者に貸与する場合には、この規約、使用細則に定める事項及び総会の決議をその第三者に遵守させなければならないと定められていること、管理規約17条の規定に基づく「bマンション使用細則」には、居住者は、管理上必要と認められた場合、又は火災その他緊急時を除き、店舗部分及び住戸部分をそれぞれの用途以外に使用することが禁止され、住戸を住宅以外に使用するときは、あらかじめ理事長に書面により届出をし、書面による承認を得なければならないと定められていることに鑑みると、被告が、原告に対し、同月22日に、本件区分建物を店舗として使用しないよう通知し、さらに、同年12月9日及び同月22日に、本件区分建物は店舗として使用できず、原告が賃貸借契約を締結した者による店舗使用を認めない旨通知したことが、原告の本件区分建物の用途に沿う使用を妨げたとはいえず、原告の法的利益を侵害するものとはいえないから、不法行為を構成するものと認めることができない

管理規約における規定内容を尊重した判断です。

区分所有建物における管理規約の重要性がよくわかります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損8 総会での監事の発言が名誉毀損に該当しないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総会での監事の発言が名誉毀損に該当しないとされた事案(東京地判平成30年10月10日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告に対し、被告がマンション管理組合の総会でした発言により、原告の名誉を毀損され、管理組合の理事就任権を侵害されたと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料60万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、名誉を回復するための処分として、謝罪文の掲示板への掲載を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 被告は、原告の訴訟提起について、原告の訴訟提起による風評被害により本件マンションの区分所有権の資産価値が下がっているという被告発言1をし、次いで、原告の訴訟提起による風評被害により本件マンションの区分所有権の資産価値が下がっていることを前提とした発言(被告発言2~4、6~11)をしたことが認められるところ、原告は、原告の訴訟提起による風評被害により本件マンションの区分所有権の資産価値が下がっているとの発言は、事実ではないことを並べ立て、原告を誹謗中傷するものであると主張する。
そこで、被告発言1~4及び6~11について検討すると、本件総会の審議の経過は上記のとおりであり、被告の発言は、本件総会において、管理費会計予算科目に訴訟対応費を新設し、予算を計上することについての議案の審議の際に、他の組合員から原告が訴訟を提起したことからこのような費用の計上が必要になるなどの発言があり、原告から訴訟を提起した理由についての発言があった後に、原告の訴訟提起について発言されたものであり、議案の審議における被告の意見として発言されたものである。
そして、本件総会に出席した組合員の中には、管理組合に対して訴訟提起することに賛同できない趣旨の意見を述べる組合員や区分所有者と管理組合との間で訴訟が提起されていることがマンションの資産価値のマイナス要素と考える組合員もおり、現在の日本社会において、区分所有者と管理組合との間に訴訟が提起されていることを知った場合にマンションの区分所有権の購入を控えることは十分考え得ることからすれば、原告と本件管理組合との間で訴訟が提起されているとの風評が流布することにより本件マンションの区分所有権の資産価値が下がるとの被告の意見が直ちに虚偽の事実を摘示したものであるとはいえないし、世間一般の評価とかけ離れ、原告を不当に非難し、中傷する意見であるともいえない
また、議案の審議の際、原告においても、自分が訴訟を提起した理由について、管理組合の理事会や理事長が管理規約を守らないからであり、管理規約を守るのであれば訴訟を提起することはなかったことを説明し、風評被害により資産価値が下がっているとの被告の意見に対して資産価値は下がっていないとの反対の意見を述べていること、原告の管理組合に対する態度に賛同する趣旨の意見を述べる組合員もいることに鑑みれば、原告において、被告の発言により原告の訴訟行為の正当性や相当性を否定されたと感じることは理解できるとしても、被告の発言が原告の社会的評価を下げるものであるとは認めることはできないし、原告の名誉感情を侵害するものであると認めることもできない
以上によれば、本件被告発言について、名誉毀損行為として不法行為が成立するとは認められない。

2 本件管理組合の規約では、管理組合に役員として理事等を置き、理事は総会で選任すると定められているのみであり、原告に本件管理組合の理事に就任する権利や利益があるとはいえないし、上記審議の経過からすると、本件被告発言により原告が理事に就任できなかったとはいえないから、本件被告発言により原告の理事就任権が侵害されたとは認められない。

総会等での発言が名誉毀損にあたるとして訴訟に発展することは少なくありません。

名誉毀損の要件を把握しておくこととともに、徒に感情的な発言は控えることをおすすめします。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営30 管理組合に対する薪ストーブの使用妨害禁止請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合に対する薪ストーブの使用妨害禁止請求が棄却された事案(東京地判平成30年12月20日)を見てみましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が被告である管理組合に対し、薪ストーブの使用に関する苦情を述べるなどの方法により、原告による上記薪ストーブの使用を妨害することを禁止することを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件建物と本件マンションは隣接しており、原告が本件薪ストーブを使用することにより、その煙、臭い、煤等が本件マンションの専有部分及び共用部分に及ぶ可能性を想定することができる。
もっとも、被告は、本件マンション管理組合であり、区分所有法3条前段所定の本件マンションの区分所有者全員を構成員とする団体であるところ、同団体は、建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うための団体であるが(区分所有法3条)、専有部分はもとより共用部分についても、それらを不法に侵害する第三者に対する妨害排除請求権は、個々の区分所有者に帰属するものであって、管理組合に団体的に帰属するものではないと解される。
そうすると、被告が、訴訟を提起するなどして、本件薪ストーブの使用により本件マンションの専有部分又は共用部分が侵害を受けることを理由として、原告に対して本件薪ストーブの使用の禁止を求めることはできないものと解するのが相当である。

2 それに加えて、本件薪ストーブの使用について、本件調停は11回の期日を経て不成立となり、原告と被告は合意に至らなかったこと、被告が、本件訴訟において、弁護士を訴訟代理人として選任した上で、原告との間の調停が不成立となり合意が成立する見込みがなくなった現時点では、自ら原告に対して苦情、協議等を申し入れるなどの措置をとろうとは考えていない旨を主張したことを併せて考慮すれば、現時点において、被告が原告の本件薪ストーブの使用を妨害するおそれが存在するとは認められない。

上記判例のポイント1の「専有部分はもとより共用部分についても、それらを不法に侵害する第三者に対する妨害排除請求権は、個々の区分所有者に帰属するものであって、管理組合に団体的に帰属するものではない」という点はしっかり押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。