ペット問題14 ペットの適切な管理を行わない区分所有者に対する59条競売請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ペットの適切な管理を行わない区分所有者に対する59条競売請求が認容された事案(東京地判平成30年3月2日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、別紙物件目録記載の建物の管理組合の理事長(管理者)である原告が、他の区分所有者からの授権を受け、同建物の区分所有権を有する被告に対し、被告がペットの管理を適切に行わない、共有部分に私物を放置する、管理費等を滞納する、定期的な検査等に非協力的であるなどと主張して、区分所有法59条1項に基づき被告の区分所有権及び敷地利用権の競売の請求をするとともに、被告が区分所有権を有する部分の使用禁止及び共用部分である玄関ドアの補修作業を妨害しないことを求め、加えて、被告の上記行為が他の区分所有者に対する不法行為に当たるとして、共用部分の補修費用や慰謝料等の損害の賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 原告は、被告が所有する別紙物件目録記載の区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができる。

 被告は、別紙物件目録記載の建物内における被告専有部分を、判決の日の翌日から前項の競売による引渡し時まで使用してはならない。

3 被告は、別紙物件目録記載の建物内の701号室玄関扉について、別紙「御見積書」記載の補修作業を妨げてはならない。

 被告は、原告に対し、227万5900円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告は、本件居室に入居当初から、猫を飼育していたところ、現在に至るまで、本件申請書を提出していない。また、本件訴訟提起後の被告の主張を前提としても、口頭弁論終結時に飼育している猫の数が6匹、それ以前に少なくとも合計10匹を減らしたというのであり、一度に最低でも16匹の猫を飼育していたか、本件訴訟後に繁殖させた
また、本件物件の他の住民から、被告の飼育している猫による臭気、体毛による苦情が複数出ていた。さらに、大量のはえが発生し、これら住民が殺虫剤等ではえを処分する対策をとるも、抜本的には改善されなかった。
本件居室内の飼育環境として、キッチンや床、扉がひどく汚損し、腐食している部分が見られ、また、玄関ドアの下部が腐食している。
平成28年4月6日及び同月12日、臭気判定士により、本件居室前の臭気検査が行われたところ、いずれも、猫糞尿臭気を感知し、同月6日の検査で臭気強度4(強いにおい)、同月12日の検査で本件居室前廊下から1歩階段を下りた地点での臭気強度5(嗅いでいられないほどの強いにおい)という結果であり、臭気判定士は、この臭気が本件居室内の糞尿による臭気が玄関ドアの腐食した部分から室外漏出したことによるものであること、加えて、玄関ドア枠外側付近にも猫の尿が付着していることを指摘している(被告は、上記検査の信用性を否定するが、同検査は、臭気強度表示法(悪臭防止法4条2項)により行われており、環境省においても、当該方法は、規制基準を定めるための基本的考え方として用いられていると指摘されており、臭気判定士により行われた検査であることを踏まえ、信用できるというべきである。)。

2 これらの状況を併せると、現在においても、本件物件の被告以外の区分所有者の共同生活上の障害が著しいといわざるを得ない。
また、このような状況が、およそ10年にわたり続いてきたのであり、その間、本件管理組合としても、改善を求める書面を被告に送付したり、被告に総会への出席を求めたりしながら、何らかの解決の道を探っていたということができ、それでもなお、現状のとおり、解決が見られないというのであるから、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるというべきである。
そうすると、原告は、区分所有法57条1項に基づき、本件居室について、競売の請求ができるというべきである。

3 原告は、本件の被告による不法行為による精神的苦痛は甚大であるとして、そのことによる慰謝料が発生する旨主張する。確かに、本件では、約10年間、原告を含む区分所有者は、本件の問題に悩まされ続けてきたものであり、上記玄関ドアの修理代だけで、その損害を慰謝できるという状況でないことは理解できる。
一方で、上記のとおり、本件居室自体は、競売請求が認められ、今後はそのような問題が生じない可能性が高く、それにより、精神的苦痛の一定の部分は解消されるということもできる。
その他、本件に顕れた一切の事情に鑑み、原告を含む区分所有者1戸当たりの慰謝料額を10万円とみて、本件で原告が請求できる慰謝料額は、140万円とするのが相当である。
そして、上記不法行為と相当因果関係のある損害としては、上記損害額の合計(206万9000円)の1割(20万6900円)をもって相当とする(これを超える部分は、相当因果関係がなく、原告の主張は採用できない。)。
なお、原告は、被告の不法行為の結果必要となった臭気鑑定費用9万8280円も本件の損害であると主張するが、被告の不法行為との間に条件関係はあるといえるものの、上記認定の弁護士費用を超えて、更に本件訴訟の主張立証活動のために要した費用までを相当因果関係があるということはできず、原告の主張は採用できない。

59条競売の大変さがよくわかります。

臭気鑑定は、騒音問題同様、専門家に測定してもらう必要がありますので注意が必要です。

本裁判例は、弁護士費用、慰謝料、臭気鑑定費用について、かなり厳しい判断をしています。

裁判体が異なれば、結論が異なる可能性は否定できません。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損10 住民説明会及びアンケートによる区分所有者である原告に対する名誉毀損が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、住民説明会及びアンケートによる区分所有者である原告に対する名誉毀損が否定された事案(東京地判平成30年3月12日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有建物であるマンション「a」の区分所有者である原告が、その管理組合である被告に対し、管理組合総会決議の無効確認と、これらの無効な決議がなされた総会の開催により原告は精神的損害を被り、また、その後になされた被告による住民説明会及びアンケートにより原告の名誉が毀損されたなどとして、不法行為に基づき、慰謝料合計220万円(無効な決議がなされた総会の開催による慰謝料100万円、名誉毀損等による慰謝料100万円及びこれらの弁護士費用20万円)並びに、無効な決議による慰謝料100万円につき不法行為の日又はその後である平成28年6月26日から、及び、名誉毀損等による慰謝料と弁護士費用の合計120万円につき不法行為の後である平成29年6月9日から、それぞれ支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払、さらに、名誉毀損について民法723条に基づき謝罪文による謝罪を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 不法行為の被侵害利益としての名誉とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価のことであり、名誉毀損とは、この客観的な社会的評価を低下させる行為のことにほかならず、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、名誉毀損による不法行為が成立し得る(最高裁昭和61年6月11日判決、最高裁平成9年5月27日判決)。
そして、ある表現行為の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうか、及び、当該表現行為が、事実を摘示するものであるか、あるいは意見ないし論評の表明であるかの区別に当たっては、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものである(最高裁昭和31年7月20日判決、最高裁平成9年9月9日判決)。

2 「甲山X氏の訴訟等に関するアンケート」と題する書面の記載内容は、本件マンションの一般居住者からすれば、これまでの経過及び本件アンケート実施に至る経緯の説明にすぎず、同書面のみをもって、原告の社会的評価が低下するとは到底いえない。
「〈甲山X氏が提起した訴訟等一覧〉」と題する書面の記載内容については、控訴・上告事件について項を分けて記載してあるものの、「上記…の判決を不服として東京高裁に控訴した」、「上記…の判決を不服として最高裁に上告した」と記載してあることが認められる。
本件マンションの一般居住者が、原告が7件もの裁判を起こしたと理解するとはいえない。そのほか、同証拠によっても、同書面のみをもって、原告の社会的評価が低下するとはいえない。
本件アンケートの回答用紙については、原告の訴訟活動等に賛同する選択肢も設けられ、自由記載欄も設けられていることからすれば、本件マンションの一般居住者が原告の一連の訴訟活動等を不当なものであると認識するとはいえず、同書面のみをもって、直ちに原告の社会的評価が低下するとはいえない。
また、上記各書面を全体としてみても、本件マンションの一般居住者が、原告の一連の訴訟活動等が不当なものであると認識するとはいえず、これらをもって原告の社会的評価が低下するとはいえない。
本件理事会ニュースにおける本件アンケート結果に関する記載内容は、本件アンケート結果を開示することとなった経緯及び本件アンケートを質問項目ごとに集計した数字であって、本件マンションの一般居住者が、その記載以上に、原告の一連の訴訟活動等が不当なものであると認識するとはいえず、これをもって原告の社会的評価が低下するとはいえない。
なお,原告は,被告を相手方とする提訴は正当な権利行使であると主張しているところ、原告の正当な権利行使について記載された上記各書面を本件マンションの居住者に配布することが、なぜ原告の社会的評価を低下させることになるのか、説得的な説明をしない。
その他、本件アンケートの実施及び本件アンケート結果の配布が、法律上保護されるべき原告の名誉感情や人格権を侵害したと認めるに足りる証拠はない。

総会や説明会等における発言や書面の配布等が名誉毀損にあたるとして訴訟に発展することは決して珍しくありません。

だからといって、区分所有者に対して説明をしないわけにもいかないのが難しいところです。

避けがたいリスクとして受け入れ、手続きを進めるほかないと思います。

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駐車場問題10 駐車場不正使用料として日額5000円の支払を義務付けた使用細則の規定が公序良俗に反するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、駐車場不正使用料として日額5000円の支払を義務付けた使用細則の規定が公序良俗に反するとされた事案(東京地判平成30年3月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者全員で構成される管理組合法人が原告となって、本件マンションの区分所有者である被告に対し、被告が代表者となっているb社が所有する普通乗用自動車について、被告が自動車検査証の有効期間切れとなった本件自動車を本件マンションの共用部分である屋外駐車場に放置したとして、車検切れ車両を放置した場合に駐車場不正使用料として1日5000円の支払を義務付けているX管理組合法人施設等使用細則2条2項3文に基づいて、254日分の違約金127万円+遅延損害金の各支払を求めた事案である。
なお、原告は、当初、上記請求に加え、被告及びb社に対し、本件自動車の本件駐車場からの撤去及び本件駐車場に本件自動車を駐車することの差止めをそれぞれ請求していたが、被告が本件自動車を本件駐車場から撤去し、本件自動車を廃車処分にしたことに伴い、前記各請求に係る訴え部分を取り下げた。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、63万5000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件改訂は、本件管理規約及び本件使用細則違反状態の是正及び抑止等の趣旨から行われるものであるから、違約金の金額については、同趣旨実現の観点から実効性があり、かつ、被告に過度の負担を強いないという意味で相当性のある金額が定められるべきであり、その金額の当否の判断においては、区分所有者による自治が尊重されるべきである。
そして、以上のような考え方に立つと、本件自動車が占有している本件駐車場部分の本来の使用料や本件自動車が放置されていることによって生ずる実際の損害額は、あくまでも前記の判断の際に考慮すべき一事情にとどまるというべきである。
本件改訂の趣旨は前記説示のとおりであり、その趣旨は本件自動車による本件駐車場の不法占有による損害の回復に尽きるものではない。また、被告は本件改訂までの間に複数回にわたり本件自動車の撤去要請を受けながら、これに応じていないのであり、この点の被告の対応は不相当であるというべきである。
さらに、原告において本件自動車の撤去を行う場合には相応の費用がかかるのに対し、被告は、本件自動車を早めに撤去することで、違約金の発生を回避することができたものである。
以上の各事情からすると、本件駐車場を不法に占有することにより生ずる損害額に比べて相当高額な違約金額の設定も許容されると解される。
一方、本件自動車が本件駐車場に放置されたことにより重大な具体的損害が生じたことを認めるに足りる証拠はなく、また、本件マンションの屋内駐車場の最も高額な使用料が月額7500円であることが認められ、これらの各事情を斟酌すると、区分所有者による自治の尊重という観点を踏まえても、日額5000円(月額約15万円)という違約金額は高額に過ぎ、相当性を欠くといわざるを得ず、本件条項の違約金額のうち日額2500円を超える部分は、民法90条に反して無効であると判断するのが相当である。

区分所有者による自治は尊重されるとしても、あまりにも相当性を欠く規定内容の場合には、公序良俗違反等を理由に制限されますので注意が必要です。

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管理組合運営33 原告の閲覧請求の申出に対して管理組合が訴訟提起はもう少し待ってほしい旨伝えていたにもかかわらず、原告がいきなり本件訴訟を提起したという経緯がある場合、訴訟費用を原告に負担させるべきか(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、原告の閲覧請求の申出に対して管理組合が訴訟提起はもう少し待ってほしい旨伝えていたにもかかわらず、原告がいきなり本件訴訟を提起したという経緯がある場合、訴訟費用を原告に負担させるべきか(東京地判平成30年3月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有者である原告が、管理組合に対し、帳票類の閲覧を請求した事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、aマンションの第18期会計年度(平成29年2月1日から平成30年1月末日まで)の2月から8月までの帳票類(諸費用の請求書、支払指示書等、仕訳帳及び総勘定元帳)の閲覧及び閲覧の際の写真撮影をさせよ。

【判例のポイント】

1 原告は、被告代表者が区分所有法26条4項に定められた訴訟追行権の授権を受けておらず、区分所有者のために被告となることができない旨主張する。
しかし、本件訴訟は、管理組合を被告として帳票類の閲覧を請求する事案であり、区分所有者が被告となるべき事案ではないから、被告代表者が被告を代表して応訴するに当たり、上記授権を受ける必要はない。

 被告は、訴訟費用の負担について、原告の閲覧請求の申出に対して被告は適切に対応しており、訴訟提起はもう少し待ってほしい旨伝えていたにもかかわらず、原告がいきなり本件訴訟を提起したという経緯があるから、これを原告に負担させるべきである旨主張する。
しかし、訴訟費用は、原則として敗訴の当事者の負担とされ(民事訴訟法61条)、勝訴の当事者に不必要な行為があった場合や勝訴の当事者が訴訟を遅延させた場合に、その全部又は一部を勝訴の当事者に負担させることができるにすぎない(同法62条及び63条)。
これを本件についてみると、被告の上記主張は、本件訴訟において原告が不必要な行為をしたことや原告が本件訴訟を遅延させたなどという指摘を含んでおらず、本件記録によってもこのような事実を認めることはできないから、本件訴訟の提起や本訴請求を行うこと自体の適否が問題とされておらず、上記のとおり本訴請求が認容されるべきものである以上、訴訟費用については、民事訴訟法61条を適用し、その全部を被告の負担とするほかない

上記判例のポイント2は、実務においては基本的なことですので、しっかりと理解しておきましょう。

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騒音問題11 管理組合によるマンションに接する前庭における飲食店の営業禁止請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合によるマンションに接する前庭における飲食店の営業禁止請求が棄却された事案(東京地裁平成30年3月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、権利能力なき社団であるマンション管理組合の理事長である原告が、同マンションの区分所有者である被告補助参加人から区分建物を賃借して飲食店を経営している被告に対し、同マンションの管理規約及び使用細則に基づき、①同建物に接する前庭にゴミ等を置くことの禁止、②同建物に接する前庭の一部に設置された支柱、テント及びビニールカーテンの撤去、③同建物に接する前庭における営業の禁止を求めるものである。

【裁判所の判断】

1 被告は、別紙物件目録記載の建物に接する別紙の朱線部分表示の箇所に存するテント及びビニールカーテンを撤去せよ。

 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 原告は、aマンションの居住者から、本件飲食店が本件前庭において営業しているため、客の話し声や笑い声がうるさいなどという苦情が本件管理組合に寄せられている旨主張し、本件前庭周辺から本件前庭の音の大きさを測定したという書面を提出する。
同書面には、平成28年6月7日、同月8日、同年7月15日、同月20日、同年8月31日、同年9月2日の6日間の集音結果である(午後7時22分から午後11時30分までの間の一時点の計測結果であり、日によって集音時刻が異なる。)として、最低値55.6デシベル、最高値68.9デシベルが計測された旨の記載がある。
しかしながら、計測に用いた器械や具体的な計測状況がどのようなものかは不明であって、そもそも上記の測定結果の信用性には疑問も大きい
また、仮に上記の測定結果が信用できるとしても、上記で認定したaマンションの周辺状況に照らして、本件前庭における本件飲食店の営業によって発生した音の大きさを示すものであるかも不明であるといわざるを得ない。
さらに、仮に上記の測定結果が信用でき、それが本件飲食店の営業により発生した音であるといえるとしても、あくまでも特定の日の特定の時刻のものにすぎず、それが「騒音」であって、居住者に迷惑を及ぼす行為である(本件細則4条13号)と評価することができるかは疑問である(aマンションの居住者からの苦情の有無及び内容に関して、具体的に、どのような苦情が、どの程度の頻度で寄せられたのかなどを認めるための証拠はない[原告が、5軒の居住者から騒がしい、臭いが気になるといった苦情があったと述べるのみである。]。)。

2 原告は、本件規約14条によれば、本件前庭は「通常の庭として」使用することに限られ、本件前庭において飲食店を営業することは、これを逸脱する旨主張する。
確かに、本件規約上、本件前庭の用法につき、「通常の庭としての用法」と定められていることは原告主張のとおりであるが、そもそも、本件建物は、店舗又は事務所としての利用が予定されており(本件規約12条1項)、店舗の種類には制限が設けられていないこと、被告補助参加人が本件建物においてエスニック雑貨店「b」を営業している際(昭和56年頃~平成25年頃)には、本件前庭に商品を陳列するなどして、本件前庭をその営業のために利用してきたところ、このことを本件管理組合が問題視したことはなかったことからすれば、本件建物を利用する店舗が、その営業のために本件前庭を使用することが、「通常の庭としての用法」を逸脱すると解することはできない。

実際、飲食店のお客さんの声がうるさかったのでしょうが、訴訟で騒音問題を主張する場合には、事前に適切かつ相当な準備をしなければ、裁判所は請求を認めてくれません。

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義務違反者に対する措置24 区分所有者が違法な増築をしたこと等が共同利益背反行為に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者が違法な増築をしたこと等が共同利益背反行為に該当するとされた事案(東京地判平成30年3月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有建物の管理組合法人である原告が、①区分所有者である被告住建に対して、滞納管理費+遅延損害金の支払を求めるとともに、②被告らに対して、被告らが、原告の管理権が及ぶ場所に建物又は建物様の物を所有又は占有し、被告住建の専有部分を駐車場以外の用途に使用していることが区分所有者の共同の利益に反する行為に当たると主張して、共用部分の管理権又は区分所有法6条1項、57条1項に基づきその除去を請求する事案である。

【裁判所の判断】

 被告住建は、原告に対し、914万5675円+遅延損害金を支払え。

 被告住建は、原告に対し、別紙物件目録記載第3の1で示す部分についての建物部分につき、建物様の壁、間仕切り、備品、その他一切の物ないし構造物を撤去せよ。

 被告住建は、原告に対し、別紙物件目録記載第3の2で示す部分の建物部分を収去し、同目録記載第4の3で示す土地部分を明け渡せ。

 被告住建は、原告に対し、別紙物件目録記載第3の3で示す部分の建物部分を収去し、同目録記載第4の4で示す土地部分を明け渡せ。

 被告住建は、原告に対し、別紙物件目録記載第3の4で示す部分の建物部分を収去し、同目録記載第4の5で示す土地部分を明け渡せ。

 被告a焼肉店ことY1は、原告に対し、別紙物件目録記載第3の2の建物部分から退去せよ。

 被告bリフォーム店ことY2は、原告に対し、別紙物件目録記載第3の3の建物部分から退去せよ。

【判例のポイント】

1 本件建物において、増築を行うことは、建築確認申請が行われていないこと、容積率の規制に反することから、違法な建築行為であり、これにより本件建物は、耐震補強工事を受けられない状態になっている
そうであれば、当該行為は、区分所有法6条、57条1項所定の「建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当すると認められる。
そして、自らが上記増築をすることがなかったとしても、前主からこれを譲り受けることなどにより、かかる建物又は建物様の物を所有又は占有することは、増築行為と同様に、これにより本件建物の耐震補強工事を不可能にしているから、上記区分所有者の共同の利益に反する行為に該当するというべきである。

違法な建築行為のみならず、多額の管理費等の滞納もありますので、共同利益背反行為に該当することは明らかです。

同種事案において、請求の趣旨をどのように記載すべきかについて参考になります。

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漏水事故14 漏水事故について管理会社らの工事の遅延・瑕疵を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故について管理会社らの工事の遅延・瑕疵を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判平成30年4月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合である原告管理組合及び本件スタジオを賃借している原告アイサイトが、原告管理組合との間で本件マンションの管理委託契約を締結していた被告ホームライフ及び原告アイサイトから本件スタジオの工事を請け負った被告トライに対し、被告トライが原告管理組合から別途請け負った本件マンションの1階メーター点検口に関する工事の遅延及び瑕疵により、本件マンション内に雨水等が漏水する事故が発生し、ゴキブリ、チャタテムシ等が多数発生し、本件スタジオの床・壁が腐敗したと主張して、
①原告アイサイトが、被告らに対し、不法行為による損害の賠償として、連帯して、本件スタジオの修繕費用等5062万9227円+遅延損害金の支払、
②原告管理組合が、被告らに対し、原告アイサイトに生じた損害を原告管理組合が立て替えて支払ったことによる求償金として、連帯して、1038万3122円+遅延損害金の支払、
③原告管理組合が、被告ホームライフに対し、本件管理委託契約の建物設備外観目視点検業務の不履行に基づく損害賠償として88万4940円+遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件漏水事故は、本件点検口からの漏水、本件点検口の下の地中の本件マンションの外壁の貫通部分からの漏水及び洗面立ち上がり配管及び既存配管のジョイント部分の漏水及び隔壁の不存在が複合的に関与して発生したものであり、本件点検口の下の地中の本件マンションの外壁の貫通部分には、取れて抜けるのではないかと思われるほどの隙間が存在し、配管(躯体貫通部・CD管)からの流入により雨天時には常に漏水していたことが窺えるものの、本件点検口の下の地中の本件マンションの外壁の貫通部分の漏水又は③洗面立ち上がり配管及び既存配管のジョイント部分の漏水だけが本件漏水事故の原因ではないというべきである。

2 外壁・外観の目視点検をする義務とは、文字通り、外壁・外観の目視点検義務であって、建物設備外観に異常がないかを点検する義務であって、建物設備外観に異常がない限り、本件点検口の扉を開けて調べることは含まれていないというべきであり、ましてやパイプスペースの隔壁の有無を目視点検する義務はない
そして、本件点検口の扉の脱落が本件点検口の枠、扉吊し元の腐食によるものであることに照らすと、本件点検口に関する外壁・外観目視点検義務を履行しても、同腐食を見つけるのは困難であるし、扉が本件点検口の枠から取れていたとしても枠内に入っていた状態であれば、雨水が吹き込むとしてもその量は本件点検口が開いていた時とは比較にならないほど少ないものと思われる。
また、原告らが主張する本件漏水事故により生じた損害は、被告トライによる本件改装工事ないしは本件点検口工事の瑕疵による損害であって、それ以前に本件点検口の既存の扉が脱落し得る状態になっていたことは本件の損害と因果関係がない。

上記判例のポイント1のとおり、漏水事故の原因は、本件工事実施以前から存在するいくつかの要因が複合的に関与して発生したものであると認定された結果、管理会社等の責任が否定されました。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金27 未払管理費等請求における弁護士費用全額の請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、未払管理費等請求における弁護士費用全額の請求が認容された事案(東京地判平成30年4月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合である原告が、マンションの区分所有者の共同相続人である被告らに対し、管理規約に基づき、被相続人の死亡後に発生した平成24年2月分から平成29年5月分までの管理費、修繕維持積立金及びコミュニティ費用、平成24年2月分から平成26年10月分までの駐輪場使用料、弁護士費用等並びにそれらの遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

全部認容

【判例のポイント】

1 原告は、理事長において、原告を代表して、未納管理費等に関する訴訟を追行することができると認められる。
しかし、原告では、管理規約において、原告は、本件管理費等を支払わない区分所有者に対し本件弁護士費用を請求することができる旨定めているから、原告は、理事長において訴訟を提起するのでなく、弁護士に委任して本件管理費等を支払わない区分所有者に対する訴訟を提起させ、追行させることも許容しているということができる。
そして、原告は、弁護士に委任して被告らに対する本件管理費等に係る本件訴訟を提起していることが認められるので、原告は、本件訴訟に係る本件弁護士費用を請求することができるというべきである。
また、原告が請求している本件弁護士費用は、原告が負担し、又は負担することとなる弁護士の着手金8万1000円及び報酬金22万9210円並びに本件訴訟に係る訴状貼用印紙代として1万6000円であり、その着手金及び報酬金の額は、日本弁護士連合会がかつて定めていた報酬等基準の範囲内にとどまるものであり、被告Y2が主張するような相当性に疑義があるものとはいえない。

請求可能な弁護士費用の金額については、旧日弁連基準の範囲内が一定の基準となっています。

着手金のみならず報酬金についての請求も認めてくれています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金26 未払管理費等請求における弁護士費用全額の請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、未払管理費等請求における弁護士費用全額の請求が認容された事案(東京地判平成30年4月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合及び住宅部会が、マンションの区分所有者であり、もしくは区分所有者であった被告らに対し、①全体管理費及び全体修繕積立金、②住宅管理費、インターネット接続料及び住宅修繕積立金、③管理費等に対する各支払期限の日の翌日から支払済みまで規約所定の年14.6%の割合による遅延損害金、④管理規約に定めのある違約金としての弁護士費用、⑤本件弁護士費用+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

全部認容

【判例のポイント】

1 被告らは、不法行為に基づく損害賠償請求の場合との比較から、このような管理規約の不合理性を主張するが、被告らの挙げた例は、弁護士費用のうち不法行為と相当因果関係を有する損害と評価することのできる範囲に関するものであって、あくまで不法行為に基づく損害賠償請求に関する損害額の算定に関する問題であり、マンションの区分所有に関する管理規約に定められた違約金条項の内容の合理性とは次元を異にする問題である。
一方、実質論を主張するにとどまる原告の立論も首肯し難い(当事者数が多いとは言っても、特段、計算に難儀するほどの人数ではないし、訴訟係属期間が長期化したとは言っても、送達までに要した期間や和解調整に要した期間が長かっただけであり、実質的な争点整理事項は本判決掲記のとおりである。)。
もっとも、一般に、管理費を滞納した区分所有者に対して、未払管理費を請求する際に違約金としての弁護士費用を負担させるか否かという事項は、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理」「に関する区分所有者相互間の事項」(区分所有法30条1項)に該当する事項であるところ、管理規約は、区分所有者間の利害の衡平(同条3項)の要請の下、特別多数決議(同法31条1項)によって定められるものであること、規約に定める要件に該当する場合には、全ての区分所有者が同様の義務を負うことになるものであること、実質的にみても、未払管理費の請求にかかる弁護士費用が極端に高額なものとなることは通常想定し難いことからすると、管理規約によって、未払管理費の請求に要した弁護士費用全額相当額の違約金支払義務を定めたからといって、それが不合理であるということはできない(なお、現に、マンション標準管理規約60条2項にも同様の規定が置かれているところである。)。
よって、このような管理規約の不合理性を前提として、一定額以上の違約金支払義務がないとする被告らの主張は、採用することができない。

2 被告Y1は、本件建物の共有持分比率が低い旨や、実際に本件建物に居住しておらず利用してもいない旨を主張する。
しかし、全体管理費、全体修繕積立金、住宅管理費、住宅修繕積立金が部屋の広さないし規格ごとに異なっている点からも明らかなように、一般に、管理費等は、利用利益の享受に対する対価という側面のみならず、建物全体の快適性や安全性、美観等の維持による資産価値ないし交換価値の維持という側面も有しているということができるのであって、建物の持分割合の高低や実際の居住ないし利用の有無にかかわらず、区分所有権を有する者であるがゆえに負担すべき性質のものであるというべきであるから、そもそも権利濫用の評価根拠事実として採用するに値しない。

本件訴訟は、原告が2名、被告が4名と、当事者が多数存在しますが、弁護士費用として32万4000円(税込)の請求全額が認容されています。

他の裁判例を確認する限り、もう少し高額であっても、裁判所は全額認容する傾向にあります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反者に対する措置23 ペットの管理を適切に行わない、共有部分に私物を放置する、管理費等を滞納する、定期的な検査等に非協力的であることを理由とする59条競売請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ペットの管理を適切に行わない、共有部分に私物を放置する、管理費等を滞納する、定期的な検査等に非協力的であることを理由とする59条競売請求が認められた事案(東京地判平成30年3月2日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、建物の管理組合の理事長(管理者)である原告が、他の区分所有者からの授権を受け、同建物の区分所有権を有する被告に対し、被告がペットの管理を適切に行わない、共有部分に私物を放置する、管理費等を滞納する、定期的な検査等に非協力的であるなどと主張して、区分所有法59条1項に基づき被告の区分所有権及び敷地利用権の競売の請求をするとともに、被告が区分所有権を有する部分の使用禁止及び共用部分である玄関ドアの補修作業を妨害しないことを求め、加えて、被告の上記行為が他の区分所有者に対する不法行為に当たるとして、共用部分の補修費用や慰謝料等の損害の賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 原告は、被告が所有する別紙物件目録記載の区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができる。

2 被告は、別紙物件目録記載の建物内における被告専有部分を、判決の日の翌日から前項の競売による引渡し時まで使用してはならない。

 被告は、別紙物件目録記載の建物内の701号室玄関扉について、別紙「御見積書」記載の補修作業を妨げてはならない。

 被告は、原告に対し、227万5900円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告は、平成19年8月の本件居室購入以降、本件口頭弁論終結時に至ってもなお、前記管理規約において定めるような形で、ペットである猫の飼育管理を適切に行うことができず、糞尿による臭気等によって、本件物件の他の住民に対し、被害を与えている状況にある。
また、共用部分に私物を置くことも、結局のところ、抜本的には改善されないままであり、その改善策として、被告は、今以上に努力していきたい旨供述するにとどまり、具体的な策を持っているとはいい難い。
さらに、本件居室内で漏水事故が発生しているが、にもかかわらず、被告は、その後も本件物件の定期的な雑排水管点検にも応じないというのであり、このような定期的な点検を受けていれば、上記漏水事故についても問題を事前に把握できた可能性もある中、そのような態度をとり続けること自体問題である。
確かに、管理費等の滞納については、本件訴訟以後、一定の解決を見た部分はあるが、結果として、滞納が解消されたという時期はあるものの、毎月定期的に支払われているというわけではなく、今後も滞納が生じる可能性も否定できない。
これらの状況を併せると、現在においても、本件物件の被告以外の区分所有者の共同生活上の障害が著しいといわざるを得ない。また、このような状況が、およそ10年にわたり続いてきたのであり、その間、本件管理組合としても、改善を求める書面を被告に送付したり、被告に総会への出席を求めたりしながら、何らかの解決の道を探っていたということができ、それでもなお、現状のとおり、解決が見られないというのであるから、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるというべきである。
そうすると、原告は、区分所有法57条1項に基づき、本件居室について、競売の請求ができるというべきである。

2 本件では、約10年間、原告を含む区分所有者は、本件の問題に悩まされ続けてきたものであり、上記玄関ドアの修理代だけで、その損害を慰謝できるという状況でないことは理解できる。
一方で、本件居室自体は、競売請求が認められ、今後はそのような問題が生じない可能性が高く、それにより、精神的苦痛の一定の部分は解消されるということもできる。
その他、本件に顕れた一切の事情に鑑み、原告を含む区分所有者1戸当たりの慰謝料額を10万円とみて、本件で原告が請求できる慰謝料額は、140万円とするのが相当である。
そして、上記不法行為と相当因果関係のある損害としては、上記損害額の合計(206万9000円)の1割(20万6900円)をもって相当とする。
したがって、損害額の合計は、227万5900円となる。
なお、原告は、被告の不法行為の結果必要となった臭気鑑定費用9万8280円も本件の損害であると主張するが、被告の不法行為との間に条件関係はあるといえるものの、上記認定の弁護士費用を超えて、更に本件訴訟の主張立証活動のために要した費用までを相当因果関係があるということはできず、原告の主張は採用できない。

最終的には59条競売請求が認容されていますが、相当な期間と費用を要しています。

なお、本裁判例では、原告が請求した弁護士費用全額は認められておらず、損害額の1割にとどまっています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。