おはようございます。
今日は、同一ビル内のスナックでの夜間におけるカラオケ機器の使用差止請求が、受忍限度を超える騒音であることの立証がなされていないことを理由に棄却された事案(東京地判令和3年2月18日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、原告が、原告建物と同一のビル内にある被告建物においてスナックを経営している被告Y1が、同スナックにおいて夜間にカラオケ機器を使用しており、原告の受忍限度を超える騒音を発生させ、被告建物の賃貸人である被告Y2は、被告Y1によるカラオケ機器の違法な利用を放置しているとして、いずれも、人格権に基づく差止請求として、被告Y1については被告建物において、毎日午後11時から翌日午前6時までの間、カラオケ機器の使用をしないことを、被告Y2については、被告建物において、毎日午後11時から翌日午前6時までの間、被告Y1をしてカラオケ機器の使用をさせないことを求めるとともに、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、原告が原告建物での居住を開始した平成30年9月22日から被告らが被告建物に防音工事を実施した令和元年9月7日までの慰謝料100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 ある施設の運営に伴う騒音による被害が第三者に対する関係において、違法な権利侵害ないし利益侵害になるかどうかは、侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、当該工場等の所在地の地域環境、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の諸般の事情を総合的に考察して、被害が一般社会生活上受忍すべき程度を超えるものかどうかによって決すべきである。
当該施設の運営が法令等に違反するものであるかどうかは、右の受忍すべき程度を超えるかどうかを判断するに際し、右諸般の事情の一つとして考慮されるべきであるとしても、それらに違反していることのみをもって、第三者との関係において、その権利ないし利益を違法に侵害していると断定することはできない(最判平成6年3月24日)。
2 被告Y1が、本件店舗を営業していた時点では、食品衛生法施行令35条1号所定の飲食店営業を営む者に該当したこと、世田谷区が平成31年2月6日に実施した調査において、被告建物内で本件カラオケ機器を使用した場合に、出入口ドアの外側へ本件カラオケ機器による音が漏れていたこと、被告らが令和元年9月になってから本件防音工事を実施しており、それ以前は、被告店舗に適切な防音対策が施されていなかったものと考えられることからすれば、本件カラオケ装置から発する音が防音対策を講ずることにより本件店舗の営業を営む場所の外部に漏れない場合には当たらず、被告Y1が本件店舗内において午後11時から翌日の午前6時までの間に本件カラオケ機器を使用することは、本件防音工事がなされた同月7日までについては、本件規制に反するものであったことは否定し難い。
そして、原告が、被告Y1に対してカラオケ装置の音量を下げるよう申し入れ、被告Y1に本件カラオケ装置の一時的な使用中止の対応をとらせたり,警察署や世田谷区に対して騒音被害を相談したことからすれば、少なくとも主観的には、本件カラオケ装置から発せられる音について問題を感じていたものと認められる。
3 しかしながら、本件マンションは、店舗用の専用部分と居住用の専用部分とから構成され、本件マンション内にも本件店舗とは別の店舗が存在し、周辺にもパチンコ店等の商業施設が存在するから、本件マンションの共用部分は日常的に種々の音が生じ又は届く環境にあり、原告もそれを認識した上で原告建物に入居したものと推認できるところ、原告は、原告の居住空間である原告建物内における客観的な騒音の測定結果を一切提出しない。
また、原告が、騒音の発生を示す客観的な資料として提出するスマートフォンのアプリによる測定結果についても、いずれも、その測定した対象、測定方法及び同アプリの正確性が明らかとはいえず、実際に、これらの証拠に示された程度の騒音が被告建物から発せられていたことを裏付けるものとはいい難い上、原告建物は、被告建物から、全長3メートル程度の廊下を挟んで存在し、本件店舗営業中は防火扉によって隔てられ、原告建物と被告建物の間に、別の店舗が存在するという位置関係にあるのであるから、本件カラオケ機器から発せられる音が原告建物内にどの程度の音量で到達していたかを認めるに足りるものでもない。
世田谷区が実施した騒音測定の結果についても、被告建物の出入口付近での測定しか実施されておらず、原告建物内に到達していた本件カラオケ機器の音の程度を認め得るものではない。
したがって、被告Y1が、本件カラオケ機器を使用することにより、原告の受忍限度を超えるような騒音を発していたと認めるに足りる証拠はなく、原告の主張は採用できない。
まずは、上記判例のポイント1の最高裁判決を押さえておきましょう。
騒音問題は、騒音の「存在」と「原因」を客観的に立証する必要があります。
主観的に「うるさい」というだけでは、勝てるものも勝てません。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。