おはようございます。
今日は、管理組合法人が、マンションの敷地に権限なくバイクを駐車していた区分所有建物の賃借人に対し、バイクの撤去等を求める訴訟を提起した際に本件訴えについての弁護士費用相当額の請求ができるか(東京地判令和4年1月21日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、原告が、自身の所有地である本件土地につき、被告が本件バイクを駐車していた旨主張し、被告に対し、下記(3)、(4)の各請求をした事案である。
なお、原告は、本件訴え提起当初には下記(1)、(2)の請求もしていたが、これらの部分は取り下げられた。
(1)本件土地の所有権に基づく返還請求についての管理権の行使(区分所有者全員のため、区分所有法47条1項及び後記規約67条に基づき原告となる趣旨と解される。)として、本件バイクを撤去して本件土地を明け渡すことを求めた(ただし上記のとおり取下げ済み)。
(2)上記同様、妨害排除請求権についての管理権行使として、本件土地上に本件バイクを駐車させ、又は第三者をして駐車させないことを求めた(ただし上記のとおり取下げ済み)。
(3)不法行為に基づく損害賠償請求(上記同様、区分所有者全員のため原告となる趣旨と解される。)として、本件訴えについての弁護士費用相当額である33万円の支払いを求めた(ただし、規約67条4項との関係については後に説示する。)。
(4)本件バイクを駐車する態様による本件土地の不法占拠につき、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求(上記(3)と同様である。)として、本件土地の使用料相当額である前記請求2記載の損害賠償金又は利得金の支払いを求めた。
【裁判所の判断】
被告は、原告に対し、18万8627円を支払え。
【判例のポイント】
1 争点(1)(被告に対する弁護士費用相当額の請求が認められるか否か)について
上記争点に関して区分所有法の規定を検討すると、同法46条2項は、「占有者は、建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。」と定めており、その趣旨は以下のようなものと解される。
すなわち、規約及び集会の決議は区分所有者相互間の事項を定めるもので、区分所有者間の団体のルールであり、本来は区分所有者以外の者である賃借人等の占有者を直接拘束するものではないと解される。
しかし、占有者は、共同生活の面からみれば区分所有関係のいわば準構成員とも言うべき立場にあり、円満な区分所有関係を確保するためには、占有者も上記のようなルールを守るよう義務付ける必要がある。
そこで、建物や敷地等の使用方法に関する限り、占有者は、賃貸人である区分所有者のみならず、区分所有者全体に対しても上記のようなルールを守る義務を負うよう定められたものと解される。また、使用方法以外の事項、例えば管理費の支払いといった点については、仮に規約や集会の決議により定められた場合であっても、占有者に対しては効力を有しないと解される。
2 原告は、本件請求(3)を不法行為に基づく損害賠償請求としているが、その具体的主張内容に照らしても、本件管理規約67条4項が被告に対して効力を有することを前提とし、同条項に基づく請求・主張をする趣旨と解するほかない。
そして、同条項の内容は、本件マンションの建物又は敷地等の使用方法そのものを定めたものではなく、管理組合法人である原告につき生じた費用の一種である弁護士費用等について、その請求可能額を定めたものである。
そうすると、前記の区分所有法46条2項の規定に当てはまるものではなく、むしろ管理費の負担方法に関する性質のものと解さざるを得ない(関連して、上記の弁護士費用等に相当する収納金は、通常の管理に要する費用に充当する旨定められているところである(本件管理規約27条、67条5項)。)。
そうすると、本件管理規約67条4項は、区分所有法46条2項に照らし、被告に対しては効力を有しないと言うべきである。
よって、原告の上記主張は前提を欠くと言わざるを得ない(このように解することによって、占有者に対する訴え提起のための弁護士費用等の回収につき支障が生じ得るとしても、上記の区分所有法の規定に照らせば、基本的には規約に拘束される区分所有者との間で解決が図られるべきものと解される。)。
3 なお、原告の請求・主張の趣旨は前記のとおりと解されるところであるが、念のため検討すると、管理組合法人と占有者との間で弁護士費用を含む損害賠償等について個別の合意が成立した場合や、具体的事実関係に応じて特に弁護士費用相当額の損害につき故意・過失等の不法行為の要件を満たす場合も、想定し得ないではないものと解される。
そして、本件においては、①被告と本件区分所有者との間の賃貸借契約において「本物件について定められた細則等がある場合、これを遵守」する旨が定められていること(7条)、②本件管理規約18条には、区分所有者が賃借人に規約等の定める事項を遵守させ、賃借人にはその旨の誓約書を原告に提出させなければならないとされていることといった点は認められる。
しかしながら、これらの規約及び契約の条項も、前記の区分所有法46条2項の規定を受けたものであって、基本的に建物等の使用方法についての規定と解される。加えて、本件記録を検討しても、被告が原告に対して上記誓約書を実際に提出した形跡は見当たらず、また被告が本件管理規約67条4項の定める弁護士費用等の負担について具体的に認識した上で承諾したような形跡も見当たらない。
そうすると、上記のような損害賠償等についての個別の合意や、特に不法行為の要件を満たしていると言うべき事実関係についても、本件では認められないと言うほかない。
非常に重要な裁判例です。
賃借人(占有者)に対する訴訟提起をする場合に、管理規約に基づき、弁護士費用相当額を請求することができるかについて、区分所有法の規定からの解釈を示しています。
勘違いしやすいところですのでしっかり理解しておきましょう。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。