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管理費・修繕積立金3 滞納組合員に対して管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)を請求することが認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、滞納組合員に対して管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)を請求することが認められた事案(東京高判平成26年4月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合である被控訴人が、区分所有者である控訴人に対し、本件建物の管理規約に基づき、①未払管理費等459万5360円、②上記459万5360円に対する年18%の割合による確定遅延損害金129万6899円、③上記459万5360円に対する平成25年8月13日から支払済みまで上記と同様の割合による遅延損害金、④弁護士費用102万9565円、⑤上記102万9565円に対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、上記(1)①ないし③及び④のうち50万円(合計639万2259円)並びに、①の459万5360円に対する年18%の、④のうち50万円に対する年5%の割合による各遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容し、その余を棄却した。

そこで、控訴人が、これを不服として、本件控訴をした。

これに対し、被控訴人が附帯控訴をした。

【裁判所の判断】

控訴人の本件控訴を棄却する。

控訴人は、被控訴人に対し、785万6229円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 国土交通省の作成にかかるマンション標準管理規約は、管理費等の徴収について、組合員が期日までに納付すべき金額を納付しない場合に、管理組合が、未払金額について、「違約金としての弁護士費用」を加算して、その組合員に請求することができると定めているところ、本件管理規約もこれに依拠するものである。
そして、違約金とは、一般に契約を締結する場合において、契約に違反したときに、債務者が一定の金員を債権者に支払う旨を約束し、それにより支払われるものである。債務不履行に基づく損害賠償請求をする際の弁護士費用については、その性質上、相手方に請求できないと解されるから、管理組合が区分所有者に対し、滞納管理費等を訴訟上請求し、それが認められた場合であっても、管理組合にとって、所要の弁護士費用や手続費用が持ち出しになってしまう事態が生じ得る。しかし、それは区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているにすぎないことを考えると、衡平の観点からは問題である。

2 そこで、本件管理規約36条3項により、本件のような場合について、弁護士費用を違約金として請求することができるように定めているのである。このような定めは合理的なものであり、違約金の性格は違約罰(制裁金)と解するのが相当である。したがって、違約金としての弁護士費用は、上記の趣旨からして、管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用と解される(その趣旨を一義的に明確にするためには、管理規約の文言も「違約金としての弁護士費用」を「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいといえよう。)。
これに対して、控訴人は、違反者に過度な負担を強いることになって不合理である旨主張するが、そのような事態は、自らの不払い等に起因するものであり、自ら回避することができるものであることを考えると、格別不合理なものとは解されない
以上の判断枠組みの下に、本件をみるに、被控訴人は、本件訴訟追行に当たって、訴訟代理人弁護士に対し、102万9565円の支払義務を負うが、その額が不合理であるとは解されない
したがって、控訴人は、被控訴人に対し、本件管理規約36条3項に基づき、「違約金としての弁護士費用」102万9565円の支払義務がある。

本件の原審(東京地判平成25年10月25日)は、弁護士費用のうち裁判所によって認定される相当額(50万円)しか請求できないと判断しましたが、高裁は当該判断を失当であるとして、弁護士費用の全額である102万9565円の請求を認容しています。

この金額は、弁護士会の旧報酬基準に準拠して算出した着手金・報酬金であり、一定の合理的な基準に基づくものであることが影響しているものと思われます。

また、この裁判例では、管理規約の文言について、「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいと判示していますので参考にしてください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金2 滞納管理費等に係る遅延損害金の年利を30%と定めた管理規約が公序良俗に反しないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、滞納管理費等に係る遅延損害金の年利を30%と定めた管理規約が公序良俗に反しないとされた事案(東京地判平成20年1月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、滞納管理費等に係る遅延損害金の年利を30%と定めた管理規約が公序良俗に反するかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

公序良俗に反しない。

【判例のポイント】

Yは、本件マンションの管理規約の第55条2項が管理費及び修繕積立金の未払に対する遅延損害金について年30%と定めていることについて、消費者契約法が施行された平成13年4月1日以降、同法が定める損害賠償の予定の上限である年14.6%を超える部分は公序良俗に反し無効であると主張している。
しかし、Xが主張するように、マンションの管理規約は対等当事者で構成された団体の自治規範であり、非対等な契約当事者間の消費者契約とは異なるから、消費者契約法の適用対象とならないことはもとより、同法の趣旨を及ぼすべき対象とならないこともまた明らかであり、その他、本件マンションの管理規約が管理費及び修繕積立金の未払に対する遅延損害金について年30%と定めていることが公序良俗に反すると認めるべき事情はないから、Yの主張は採用できない。

消費者契約法の適用が否定され、かつ、年利30%としても公序良俗に反しないと判断されています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金1 組合員による消滅時効の援用が信義則に反し権利の濫用として許されないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合員による消滅時効の援用が信義則に反し権利の濫用として許されないとされた事案(東京地裁平成27年7月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理組合であるXが、同マンションの一室の区分所有権を不動産競売により取得した被控訴人S社及び同人から同室の区分所有権を売買により取得したYに対し、区分所有法8条及び管理規約34条に基づき、S社の前区分所有者が滞納した平成20年7月分から11月分までの管理費等合計19万9670円及び各月分の金額に対する各支払期限の翌日から支払済みまで管理規約の定める年14.6%の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

原審はXのY社らに対する各請求をいずれも棄却したことから、Xがこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。

→請求認容

【判決のポイント】

1 本件規約上、組合員が変更した際にはその資格の取得者及び喪失者はその旨を書面により原告に届け出なければならない(本件規約40条1項)にもかかわらず、Yは、上記規約に違反し、被控訴人S社から本件居室の区分所有権を取得した平成21年1月9日以降、Xに対して組合員変更の届出をせずに被控訴人S社名義で本件居室の管理費等を支払い続けていたことに加え、本件マンションが全3棟に及ぶ地上42階地下2階の大規模高層マンションであって区分所有者が多数いることが認められることからすると、Xにおいて、本件居室の区分所有者がYに変更されたことを認識することができなかったのはやむを得ないといえる。

2 上記事実関係に加え、Yは、S社の代表取締役として、平成20年11月7日には、NからS社に組合員を変更することを届け出て、その際にはXからNの滞納管理費等の存在を知らされていた上、遅くとも平成25年8月12日には、本件催告の存在を認識し、Xに対してNの滞納管理費等の存否につき問い合わせるなどしたにもかかわらず、XのS社に対する督促事件が通常訴訟に移行した後の平成26年6月になるまで、本件居室の区分所有権の自身への移転を明らかにしなかったことが認められることなどをも併せて考慮すると、XのYに対する適時の権利行使を著しく困難ならしめた要因はYの行動にあったといわざるを得ない。
そうすると、Yが消滅時効を援用することは、信義則に反し、権利の濫用として許されないというべきである。
したがって、Yの短期消滅時効の抗弁は失当である。

事案によって、消滅時効の援用が信義則に反し権利濫用により無効と判断されるケースがあり得ることを認識しておきましょう。

ポイントは「XのYに対する適時の権利行使を著しく困難ならしめた要因はYの行動にあった」と評価し得るかどうかです。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。