Category Archives: 管理費・修繕積立金

管理費・修繕積立金23 終期を定めずに将来の管理費等及び専用使用料を請求することの可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、終期を定めずに将来の管理費等及び専用使用料を請求することの可否(東京地判平成31年2月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合である原告が、同マンションの区分所有者である被告に対し、同マンションの管理規約に基づき、別紙未払管理費等請求目録の「未払管理費等合計」欄記載の未払管理費,修繕積立金及び専用使用料並びにこれらに対する「支払日」欄記載の弁済期の翌日から支払済みまで約定の年18パーセントの割合による遅延損害金、弁護士費用90万7870円並びに平成30年4月から毎月27日限り月額46万7840円の割合による将来の管理費、修繕積立金及び専用使用料の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、998万6570円+年18パーセントの割合による金員を支払え。

 被告は、原告に対し、平成30年4月から被告が原告を脱退するまでの間、毎月27日限り月額46万7840円の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 本件マンションの管理費等及び専用使用料は、被告が本件マンションの区分所有者である以上、毎月確実に発生するものである。また、本件未払管理費等及び専用使用料が総額907万8700円にも上っており、平成30年4月分以降の管理費等及び専用使用料も支払われていないことに照らせば、被告による管理費等及び専用使用料の未払は、原告の運営や財務に重大な支障を生じさせかねないものとなっており、かつ、今後も管理費等が支払われない状態が継続する可能性が高いものと認められれる。
以上に照らせば、将来の管理費等及び専用使用料についてあらかじめ給付判決を得ておく必要があるものと認められる。
なお、原告は、終期を定めずに将来の管理費等及び専用使用料を請求しているが、被告が原告を脱退した後は管理費等及び専用使用料は発生しなくなるのであるから、被告が原告を脱退した時を終期として上記将来請求を認容するのが相当であり、上記将来請求のうち脱退後の管理費等及び専用使用料を請求する部分は理由がない

細かい部分ではありますが、将来請求をする場合には終期を書きましょう。

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管理費・修繕積立金22 合計約100万円の管理費、修繕積立金等の滞納が共同利益背反行為に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、合計約100万円の管理費、修繕積立金等の滞納が共同利益背反行為に該当するとされた事案(東京地判平成31年1月10日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合の理事長である原告が、本件居室の区分所有権を有する被告に対し、原告が可能な法的手続を尽くしたにもかかわらず被告の未払管理費、未払修繕積立金及び未払自転車置場使用料が増加する一方であることから、被告が共同の利益に反する行為をしており、これにより共同生活上の障害が著しく、他にとる方法が存在しないと主張して、区分所有法59条1項に基づき、本件区分所有権及びその敷地利用権の競売を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【裁判所の判断】

1 本件マンションの区分所有者が本件管理組合に支払うべき管理費等は、本件マンションの管理や修繕に充当されるべきものであるため、これらの管理費等を滞納することは、本件マンションの管理に関し、「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するといえる。
また、本件管理組合の管理規約上、訴訟等の費用は当該組合員が負担する旨定められており、仮にこれが支払われないとすると、管理組合の財産を損なうことになるので、同じく「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するといえる。
被告は、管理費及び修繕積立金合計1万9340円を毎月支払う義務があるところ、平成30年5月31日現在の被告の未払管理費及び未払修繕積立金の合計は35万1240円となっており、18か月分を超える額となっている。また、訴訟等の費用として、104万7080円の支払を怠っていることから、これらが本件マンションの管理に関し、「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当することは明らかである。
なお、被告又はb社が、本件訴訟係属中に本件管理組合に対して、8万円ずつ支払をしているが、被告及びb社の管理費、修繕積立金及び駐車場使用料の合計額は8万5560円であり、これに満たないのであり、管理費の滞納があることに変わりはない。

2 被告の本件居室に対する強制執行手続が平成29年6月20日に無剰余で取り消されていること、被告の資力が回復したような事情はうかがわれないことからすると、現時点において、本件区分所有権等につき通常の強制競売等を申し立てて競売開始決定を得たとしても、再び無剰余取消しとなることが見込まれる
また、被告自身、現時点において弁済することは困難であり、2年待ってほしいと述べているとおり、滞納管理費等が自主的に早期に解消される見込みはない
したがって、区分所有法59条1項に基づく本件区分所有権等の競売以外の「他の方法によってはその障害を除去して…区分所有者の共同の生活の維持を図ることは困難」(同条項)であるといえる。

上記判例のポイント2の要件もありますのでお忘れなく。

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管理費・修繕積立金21 未払管理費等の支払方法について合意による弁済の充当が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、未払管理費等の支払方法について合意による弁済の充当が否定された事案(東京地判令和元年8月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告との間の東京地方裁判所平成28年(ワ)第5799号管理費等請求事件について平成28年6月23日に成立した第3回口頭弁論調書(和解)所定の債務について、約定どおり支払っていたのに、期限の利益を失ったとして被告が本件和解調書に基づき強制執行を申し立てたと主張して、同強制執行の不許を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件和解調書によって、①本件建物1及び本件建物2の管理費等の未払金として、ア元金115万0920円、イ確定遅延損害金25万1500円、ウ同元金に対する平成28年6月24日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払義務、②本件建物1の管理費等として、ア平成28年6月から本件建物1の区分所有権を喪失するまでの間の管理費等毎月2万4490円及びイこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払義務、③本件建物2の管理費等として、ア平成28年6月から本件建物2の区分所有権を喪失するまでの間の管理費等毎月7480円及びイこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払義務をそれぞれ負っていた。

2 原告は、平成28年6月から平成30年5月まで毎月支払っていた5万8434円について、第2項の支払(上記①ア及びイの支払)をしており、被告もこれを認めていたから、当事者双方の合意による弁済の充当である旨主張する。
確かに、原告は、上記のとおり、複数の債務を負っていたところ、原告の支払額は第2項所定の分割金と同額であり、原告の意思としては、第3項による期限の利益の喪失を避けるべく、まずは第2項の支払をしようとするもの、具体的には、上記①ア及びイの支払に充当しようとするものと解される。
他方、被告が平成28年6月から本件競売申立てまで、原告に対して特段の異議を述べた形跡はなく、また、平成29年5月14日開催の被告の理事会において、原告からの支払が和解に基づき分割弁済が履行されている旨の報告がされたことが認められる。
しかし、被告は、原告に対してわざわざ前訴を提起し、原告が負っていた管理費等の未払金について履行を求め、それまでの管理費等の未払金と、本件和解後の管理費等の支払をさせる旨の本件和解調書の内容の和解をしたことからすると、本件和解後の管理費等を支払わなくても、管理費等の未払金を優先して支払わせることでよいというような意思があったと認めることは困難である。
したがって、当事者双方において弁済の充当に関する合意がされた旨の原告の上記主張は、採用することができない。
そうすると、民法491条により、原告の支払は、まず利息に充当されることになるから、遅くとも、平成28年11月28日の5万8434円の支払をもって、同日時点での第1項の遅延損害金(残額3万1867円)は完済となり、弁済金の残金2万6567円の一部は、第1項の元金より先に、第5項及び第6項の遅延損害金に法定充当される。
したがって、平成28年11月28日の経過をもって第2項の分割金5万8434円の弁済が不履行となり、第4項の免除は適用されなくなる。
したがって、原告は、第3項により、期限の利益を喪失している。

3 原告は期限の利益を失っており、他に被告の本件競売申立てが権利の濫用である旨を基礎づける事情はないから、本件競売申立てが権利の濫用である旨の原告の主張は、採用することができない。

事案を見る限り、原告が権利濫用を主張したくなる理由も理解できなくはありません。

「支払いが足りないなら競売申し立てる前に一言言ってよ・・」という感じですかね。

【現行民法】
第489条
1.債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
2.前条の規定は、前項の場合において、費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて準用する。
(合意による弁済の充当)
第490条
前二条の規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い、その弁済を充当する。

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管理費・修繕積立金20 管理費の増額に関する規約の変更が区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費の増額に関する規約の変更が区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないとされた事案(東京地判平成31年3月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告に対し、被告が本件マンションの管理規約に基づく管理費及び修繕積立金を支払わないと主張して、上記管理規約に基づき、未払の管理費及び修繕積立金の支払+遅延損害金の支払を求めるとともに、上記管理規約に基づき、違約金としての弁護士費用等の支払+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、29万2080円+遅延損害金を支払え。
 被告は、原告に対し、48万4560円+遅延損害金を支払え。
 被告は、原告に対し、75万7000円+遅延損害金を支払え。
 被告は、原告に対し、48万6000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件においては、本件決議に基づく本件改定管理費等への変更について区分所有法31条1項後段おける被告の承諾がなければ被告に対して効力が認められないといえるかが問題となっている。
そして、同条項後段は、区分所有者間の利害を調整するため、「規約の設定、変更は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めているところ、この「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される(最高裁平成10年10月30日第二小法廷判決)。
これを管理費等の増額についていえば、管理費等の増額は一般的に区分所有権に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された管理費等が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、区分所有者は管理費等の増額を受忍すべきであり、管理費等の増額に関する規約の設定、変更等は区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。

2 亡Bは、本件各建物を自らの有していた建物所有権及び借地権との等価交換により取得した、すなわち、当該建物所有権及び借地権を譲渡する対価として、本件各建物及びその敷地の共有持分を取得したことが認められる。そして、亡Bの有していた借地権の価格自体は不明であるものの、本件マンションの所在する場所からすれば、等価交換当時においても借地権価格は相当の高額であったものと推測され、本件マンションの建設に当たり亡Bのような当初の地権者の協力が必要であったことは否定できない。
しかし、一方で、亡Bは、本件マンションの敷地に対して有していた借地権を消滅させる代わりに本件各建物の区分所有権を取得しているところ、本件各建物の面積は、合計で165m2(約50坪)を超えるものであり、かつ、その敷地の共有持分を取得していることに照らせば、その時点で既に相応の利益を享受しているものといえる。
しかも、亡B及び被告は、本件マンションが完成し、管理費等を支払い始めた昭和54年1月以降、本件決議がされる平成26年6月まで、25年以上にわたり、他の区分所有者と比べ、割合は時期によって異なるものの、低額に抑えられた管理費等を支払うことで足りる状況であったものである。
また、平成20年6月28日における第29期定期総会における決議により、本件規約が制定され、本件規約においては、管理費等の額について各区分所有者の所有する専有部分の床面積の割合に応じて算出する旨規定されていることが認められ、本件規約の制定手続について、上記総会が適法に成立し、本件規約の制定についても区分所有者総数及び既決権総数の4分の3を超えた賛成多数により可決されたことが認められ、その手続に瑕疵がないことが認められる。
そうすると、管理規約上は、区分所有建物の用途を問わず、専有部分の床面積の割合に応じて管理費等を算出することが明示されたといえる。
そして、本件決議に基づく本件改定管理費等が、本件規約を超えて、被告にのみ専有部分の床面積の割合を超える管理費等を負担させるといったことは証拠上認められない。
一方、本件決議によって被告が受ける不利益をみるに、本件規約に基づく管理費等となることで、従前の管理費等より高額とはなるものの、他の区分所有者よりも割合として管理費等の額が高額となるものではない
また、本件各建物には平成27年9月中旬から平成28年3月下旬までの間に実施された本件マンションの大規模修繕の後には共用設備としての郵便受けがないこと、給水設備は被告所有のシステムを設置していること、防火設備が一部設置されていないこと、インターフォンが接続されていないこと、本件各建物に通じる階段下の各縁石が修繕されていなかったことが認められるが、区分所有者によって、現に利用する共用部分が異なることは被告に限った事情ではない。
これらの事情に照らせば、本件決議に基づき本件改定管理費等に管理費等を増額することは、必要性及び合理性があるということができ、かつ、他の区分所有者と同様に、専有部分の床面積の割合に応じて管理費等を定めることとする以上、その額も社会通念上相当であると認められる。

本件においても、増額した未払管理費の請求に加えて、違約金としての弁護士費用の請求がそのまま認容されています。

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管理費・修繕積立金19 管理組合に対する訴訟無能力者確認等請求が二重起訴にあたるとされ不適法却下された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合に対する訴訟無能力者確認等請求が二重起訴にあたるとされ不適法却下された事案(東京地判令和元年11月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、東京都江東区所在のマンションの区分所有者である原告が、同マンション管理組合である被告に対し、被告が原告に対して管理費等の支払を求める別件訴訟を提起したことに関連して、①権利能力なき社団である被告には、資産や財産がないこと等から、原告に対する金銭請求権はないことの確認を求めるとともに、②前記別件訴訟は、被告が区分所有者全員から委任を受けずに提起するなどした違法なものであるとして、不法行為に基づく損害賠償として、原告の応訴の負担に係る慰謝料10万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

1 原告は、平成31年2月27日、別件訴訟において、被告が資産ないし財産を有しないにもかかわらず別件訴訟を提起したことは原告に対する不法行為であるとして、その応訴の負担にかかる10万円の損害賠償を求める反訴を提起しており、同反訴にかかる反訴状は同年3月26日に被告に送達され、現在も東京簡易裁判所に係属中であることが認められる。
原告は、本件訴訟において、被告が区分所有者全員から委任を受けていないなどの状況で別件訴訟を提起したことが不法行為であるとして、その応訴の負担にかかる慰謝料10万円の損害賠償を求めているところ、同請求は、前記認定の別件訴訟における反訴請求と同じく、被告が別件訴訟を提起したことを不法行為として、その応訴の負担に係る損害を10万円として同金員の支払を請求するものであるから、両請求は、当事者及び訴訟物を同一にするものであると認められる。
そして、本件訴訟は、前記反訴状が被告に送達された後に提起されたものであるから、二重起訴の禁止規定(民訴法142条)に抵触する不適法な訴えであるというべきである。

2 これに対し、原告は、本件訴訟と別件訴訟における反訴請求とでは、請求原因等が異なるから二重起訴ではない旨主張するが、別件訴訟における反訴請求と本件訴訟とは、原告自身が設定した違法事由が異なるに過ぎず、これをもって訴訟物が異なると解することはできないから、前記主張には理由がない。

あえて本件訴訟を提起する必要はなく、既に係属している別訴の中で判断してもらえばいいですね。

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管理費・修繕積立金18 町会から脱退した後も徴収された月額300円の町会活動費について管理組合に対する不当利得返還請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、町会から脱退した後も徴収された月額300円の町会活動費について管理組合に対する不当利得返還請求が棄却された事案(東京地判令和元年12月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、aマンションの区分所有者である控訴人が、aマンションの区分所有者で構成される被控訴人管理組合は、区分所有者から被控訴人町会の町会費を徴収し、その町会活動費を支出しているところ、被控訴人管理組合は、控訴人が被控訴人町会を脱退したにもかかわらず、控訴人から平成31年1月分ないし令和元年11月分の管理費等の徴収において少なくとも1661円(月額151円)の町会費を徴収したから、被控訴人らは控訴人から法律上の原因なく少なくとも1661円を利得したと主張して、被控訴人らに対し、不当利得返還請求権に基づき、1661円の連帯支払を求める事案である。

控訴人は、原審において、徴収された町会費が月額300円であると主張し、被控訴人らに対し、平成31年1月分ないし同年3月分の町会費相当額900円(月額300円)の支払を求めたところ、原審が、控訴人の請求をいずれも棄却したことから、これを不服として本件控訴をした上、当審において、上記のとおりに請求を拡張した。

【裁判所の判断】

原判決中控訴人の被控訴人Y2町会に対する請求に関する部分を取り消す。

控訴人の被控訴人Y2町会に対する訴え(当審における拡張請求に係る部分を含む。)を却下する。

控訴人の被控訴人Y1管理組合に対する控訴を棄却する。

控訴人の当審における被控訴人Y1管理組合に対する拡張請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 管理組合は、区分所有法に基づき区分所有者全員で構成される建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体であり(同法3条)、他方、町会は、一定の地域に住所を有する者の自治組織として形成された任意の団体であるから、管理組合と町会とは、本来、その法的性質を異にする別個の団体である。しかるに、被控訴人管理組合と被控訴人町会とは、いずれもaマンションの区分所有者をもって構成員とするものである上、被控訴人町会においては、独自の規約が存在せず、意思決定を行うための独自の集会も開催しておらず、被控訴人管理組合の理事長が兼務する町会長以外に役員もおらず、その代わりに、本件規約において、被控訴人管理組合が町会業務を行い(31条)、被控訴人管理組合の理事会が町会業務に関する事項を決議し(52条)、被控訴人管理組合の理事長が町会長としてその職務を行う(36条8項)こととされており、実際、被控訴人管理組合が、自ら町会業務を行い、区分所有者から徴収した管理費等の収入の中から町会活動費を直接支出していることが認められ、以上の事実によれば、被控訴人管理組合と被控訴人町会とは完全に一体化しており、被控訴人管理組合は、その活動の一部として被控訴人町会の活動を行い、その活動に要する費用(町会活動費)を区分所有者から徴収した管理費等の収入の中から直接支出していることが認められる。
したがって、被控訴人管理組合は、被控訴人町会に代わって区分所有者から何らかの金員を徴収しているわけではないし、被控訴人町会に代わって町会活動費を支出しているわけでもない

2 また、①被控訴人管理組合は、区分所有者から、管理費、特別修繕費及び組合費(管理費等)の名目で金員を徴収しており、町会費又は町会活動費の名目で金員を徴収しているわけではないこと、②被控訴人管理組合は、区分所有者から毎月一定額の管理費等を徴収する一方で、理事会の決議により町会業務に関する事項を決めているため、その支出する町会活動費の額は、年度によって、また、同一の年度内でも月によって異なっていることが認められる上、被控訴人管理組合において管理費等の名目で実質的に毎月一定額の町会費又は町会活動費を徴収していることをうかがわせる証拠もないから、被控訴人管理組合の管理費等の徴収と町会活動費の支出との間には、形式的にも、実質的にも、直接の対応関係は認められない
そうすると、被控訴人管理組合は区分所有者から徴収した管理費等の収入の中から自らの活動に要する費用として町会活動費を支出しているという以上の事実を認めることはできず、被控訴人管理組合が区分所有者から町会費又は町会活動費を徴収していると認めることはできないから、被控訴人管理組合が控訴人から法律上の原因なく町会費相当額又は町会活動費相当額を利得したと認めることはできない。
もちろん、区分所有建物の管理組合である被控訴人管理組合が自ら町会の活動を行い、区分所有者から徴収した管理費等の収入の中から町会活動費を支出することが適法か否かの問題はあるが、そのような問題があるからといって、本件において被控訴人管理組合が控訴人から町会費又は町会活動費を徴収したとか、被控訴人管理組合が控訴人から法律上の原因なく町会費相当額又は町会活動費相当額を利得したと認めることができるわけではない。
よって、控訴人の被控訴人管理組合に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

3 また、被控訴人町会は、前記のとおり、被控訴人管理組合と完全に一体化しており、被控訴人管理組合から独立した存在であるとは認められないから、民事訴訟における当事者となることはできない
したがって、控訴人の被控訴人町会に対する訴えは不適法である。

わずか月額300円の支出であっても、控訴審まで行くこともあります。

本件では、管理費と町会活動費の関係が問題となりましたが、解釈上、別個のものではないという判断により上記結論に至っています。

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管理費・修繕積立金17 管理費等を滞納している区分所有者が自己が管理組合に対して有する金銭債権と管理費等の未払債務を相殺することの可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等を滞納している区分所有者が自己が管理組合に対して有する金銭債権と管理費等の未払債務を相殺することの可否(東京高判平成9年10月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理費等を滞納している区分所有者が自己が管理組合に対して有する金銭債権と管理費等の未払債務を相殺することの可否が争点となった事案である。

【裁判所の判断】

相殺不可

【判例のポイント】

1 本件請求債権のようなマンションの管理費等は、マンションの区分所有者の全員が建物及びその敷地等の維持管理という共通の必要に供するため自らを構成員とする管理組合に拠出すべき資金であり、右拠出義務は管理組合の構成員であることに由来し、その内容は管理組合がその規約に定めるところによるものである。
また、マンションの維持管理は区分所有者の全員が管理費等を拠出することを前提として規約に基づき集団的、計画的、継続的に行われるものであるから、区分所有者の一人でも現実にこれを拠出しないときには建物の維持管理に支障を生じかねないことになり、当該区分所有者自身を含む区分所有者全員が不利益を被ることになるのであるし、更には管理組合自体の運営も困難になりかねない事態が生じ得る。
このような管理費等拠出義務の集団的、団体的な性質とその現実の履行の必要性に照らすと、マンションの区分所有者が管理組合に対して有する金銭債権を自働債権とし管理費等支払義務を受働債権として相殺し管理費等の現実の拠出を拒絶することは、自らが区分所有者として管理組合の構成員の地位にあることと相容れないというべきであり、このような相殺は、明示の合意又は法律の規定をまつまでもなく、その性質上許されないと解するのが相当である。

私の知る限り、この裁判例のほかに相殺の可否が議論されたものは知りません。

いずれにせよ、管理規約に相殺禁止を明示しておけば、このような議論はなくなります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金16 マンションが転々譲渡された場合の中間取得者は、特定承継人としての責任を負うか(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションが転々譲渡された場合の中間取得者は、特定承継人としての責任を負うか(大阪地判平成11年11月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

管理組合は、平成7年3月5日臨時総会において、共用部分の修理工事を組合員の個人負担分を6500万円以内と定めて行うことを決議した。工事請負契約が6180万円で締結されたので、各組合員の負担額は50万2819円となり、支払時期は平成7年4月28日と定められた。

本件マンションの506号室は上記決議当時、Aが所有していたが、平成9年11月19日競売によりBがこれを取得した。Bは平成10年8月3日、506号室の区分所有権をCに売却した。その後、管理組合は、区分所有権の中間取得者であるBに対して、負担金の支払いを求め提訴した。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 Bは、区分所有法8条にいう特定承継人とは区分所有権を現に有する特定承継人に限られると主張するが、法8条につき上記主張のように縮小解釈すべき根拠はいまだ見出し難い
すなわち、管理組合法人が各区分所有者の拠出に係る財産をもって支出した共用部分の修繕費は、1棟の建物全体の資産価値を維持しあるいはその下落を防止する性質を有する支出であって、管理組合法人に対して修繕義務を履行すべき責任を負担しながらその責任を履行しない区分所有者に対しても、その有する区分所有権の価値を維持するために寄与しているものである。
したがって、区分所有権を現に有しない中間取得者といえども、その所有に係る期間、管理組合法人による修繕費の支出による利益を享受しているといえるし、また、換価処分の際には貨幣価値として上記利益が自らに還元されているとみることも可能である。
さらにいうならば、修繕費の支払いをしないうちに当該区分所有権を修繕費投下によって補正された価値をもって処分し得た区分所有者についてみると、その所有期間の長短にかかわらず特定承継人としての責めを何ら負わないという前提をとるとすると、不当な利益を得ることにもなり、その結果、共用部分等の適正な維持管理のために要した債権につき強固な保護を図ろうとした法8条の趣旨は没却されることにもなりかねない

2 なお、法7条によれば、上記債権については債務者の区分所有権および建物に備え付けられた動産の上に先取特権が付されているが、そのことと、上記債権につき責任を負うべき者の人的範囲に関する問題とは性質を異にするものであると考えるのが相当であるから、上記先取特権の制度の存在をもって上記人的範囲を画するのは妥当ではないというべきである。

この論点については、いまだ最高裁の判断が出されていないところですが、近時の下級審における裁判例では、中間取得者についても特定承継人の責任を認める傾向にありますので注意が必要です。

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管理費・修繕積立金15 管理費の滞納のある区分所有建物を競売により買い受けた者が支払った滞納管理費を元の所有者に求償することの可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費の滞納のある区分所有建物を競売により買い受けた者が支払った滞納管理費を元の所有者に求償することの可否(東京高判平成17年3月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

被控訴人は、平成16年1月21日、控訴人所有の本件建物及びその敷地権を競売により買い受け、その所有権を取得したところ、控訴人は、管理祖合に対し、管理費、修繕積立金及び組合費(本件管理費等)を滞納していた。
本件は、被控訴人が、控訴人が滞納していた本件管理費等219万5500円を平成16年5月21日、管理組合に対し代位弁済したと主張して、控訴人に対し、求償金219万5500円+遅延損害金の支払を求めた事案である。
控訴人は、本件管理費等の滞納分については、本件競売事件の物件明細書等にそれが明示されており、競売の最低売却価額からも既に控除されているから、滞納分は被控訴人が負担すべきであると主張して争った。

原審は、被控訴人の請求を全部認容したので、控訴人が控訴した。

【裁判所の判断】

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人に対し、219万5500円+遅延損害金を支払え。
*控訴審は、原判決を一部変更しているが、これは遅延損害金の始期を、代位弁済の翌日ではなく、訴状の送達日の翌日としたもの。

【判例のポイント】

1 控訴人は、本件建物等の所有権が被控訴人に移転するまでの間の本件管理費等について支払義務を負っている。ところで、区分所有法8条は、同法7条1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる旨規定しており、これによれば、被控訴人は、本件管理費等の滞納分について、控訴人の特定承継人として支払義務を負っていることは明らかである。
これは、集合建物を円滑に継持管理するため、他の区分所有者又は管理者が当該区分所有者に対して有する債権の効力を強化する趣旨から、本来の債務者たる当該区分所有者に加えて、特定承継人に対して重畳的な債務引受人としての義務を法定したものであり、債務者たる当該区分所有者の債務とその特定承継人の債務とは不真正連帯債務の関係にあるものと解されるから、真正連帯債務についての民法442条は適用されないが、区分所有法8条の趣旨に照らせば、当該区分所有者と競売による特定承継人相互間の負担関係については、特定承継人の責任は当該区分所有者に比して二次的、補完的なものに過ぎないから、当該区分所有者がこれを全部負担すべきものであり、特定承継人には負担部分はないものと解するのが相当である。したがって、被控訴人は、本件管理費等の滞納分につき、弁済に係る全額を控訴人に対して求償することができることとなる。

2 控訴人は、物件明細書等に本件管理費等の滞納分が明示されていることや最低売却価額における控除の措置がされていること等から滞納分は被控訴人が負担すべきであると主張する。
しかしながら、物件明細書等の競売事件記録の記載は、競売物件の概要等を入札希望者に知らせて、買受人に不測の損害を被らせないように配慮したものに過ぎないから、上記記載を根拠として本件管理費等の滞納分については当然買受人たる被控訴人に支払義務があるものとすることはできない

本件では、滞納分に見合った最低売却価額の減額がなされているという事情があるため、上記判例のポイント2記載の控訴人の主張は理解できなくもないところですが、裁判所の判断は判例のポイント1のとおりです。

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管理費・修繕積立金14 不在区分所有者に住民活動協力金の負担を課す規約変更の有効性(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、不在区分所有者に住民活動協力金の負担を課す規約変更の有効性(最判平成22年1月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理組合である上告人が、その組合員である亡A(原審口頭弁論終結後に死亡)の相続人である被上告人らに対し、集会決議により変更された規約に基づき、同規約上、自らその専有部分に居住しない組合員が負担すべきものとされた月額2500円の「住民活動協力金」及び遅延損害金の支払を求める事案である。

被上告人らは、上記の規約の変更は、区分所有法31条1項後段にいう「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当し、亡Aの承諾がないから無効であるなどと主張して、上告人の請求を争っている。

原審は、本件規約変更は、法31条1項後段にいう「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすとき」に該当し、亡Aの承諾がないから無効であると判断した。

【裁判所の判断】

原判決を破棄する。
→管理規約変更は有効

【判例のポイント】

1 本件マンションは、規模が大きく、その保守管理や良好な住環境の維持には上告人及びその業務を分掌する各種団体の活動やそれに対する組合員の協力が必要不可欠であるにもかかわらず、本件マンションでは、不在組合員が増加し、総戸数868戸中約170戸ないし180戸が不在組合員の所有する専有部分となり、それらの不在組合員は、上告人の選挙規程上、その役員になることができず、役員になる義務を免れているだけでなく、実際にも、上告人の活動について日常的な労務の提供をするなどの貢献をしない一方で、居住組合員だけが、上告人の役員に就任し、上記の各種団体の活動に参加するなどの貢献をして、不在組合員を含む組合員全員のために本件マンションの保守管理に努め、良好な住環境の維持を図っており、不在組合員は、その利益のみを享受している状況にあったということができる。

2 いわゆるマンションの管理組合を運営するに当たって必要となる業務及びその費用は、本来、その構成員である組合員全員が平等にこれを負担すべきものであって、上記のような状況の下で、上告人が、その業務を分担することが一般的に困難な不在組合員に対し、本件規約変更により一定の金銭的負担を求め、本件マンションにおいて生じている不在組合員と居住組合員との間の上記の不公平を是正しようとしたことには、その必要性と合理性が認められないものではないというべきである。
居住組合員の中にも、上記のような活動に消極的な者や高齢のためにこれに参加することが事実上困難な者もいることはうかがえるのであって、これらの者に対しても何らかの金銭的な負担を求めることについては検討の余地があり得るとしても、不在組合員の所有する専有部分が本件マンションの全体に占める割合が上記のように大きなものになっていること、不在組合員は個別の事情にかかわらず類型的に上告人や上記の各種団体の活動に参加することを期待し得ないことを考慮すると、不在組合員のみを対象として金銭的負担を求めることが合理性を欠くとみるのは相当ではない。
また、平成19年総会における決議により、役員に対する報酬及び必要経費の支払が規約上可能になったものの、上告人の活動は役員のみによって担われているものではなく、不在組合員と居住組合員との間の上記の不公平が、役員に対する報酬の支払によってすべて補てんされるものではないから、そのことを理由として本件規約変更の必要性及び合理性を否定することはできない。
そして、本件規約変更により不在組合員が受ける不利益は、月額2500円の住民活動協力金の支払義務の負担であるところ、住民活動協力金は、全組合員から一律に徴収されている組合費と共に上告人の一般会計に組み入れられており、組合費と住民活動協力金とを合計した不在組合員の金銭的負担は、居住組合員が負担する組合費が月額1万7500円であるのに対し、その約15%増しの月額2万円にすぎない

3 上記のような本件規約変更の必要性及び合理性と不在組合員が受ける不利益の程度を比較衡量し、加えて、上記不利益を受ける多数の不在組合員のうち、現在、住民活動協力金の趣旨に反対してその支払を拒んでいるのは、不在組合員が所有する専有部分約180戸のうち12戸を所有する5名の不在組合員にすぎないことも考慮すれば、本件規約変更は、住民活動協力金の額も含め、不在組合員において受忍すべき限度を超えるとまではいうことができず、本件規約変更は、法66条、31条1項後段にいう「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当しないというべきである。

重要な最高裁判決です。

比較衡量による判断ですので、必要性、合理性、金額の妥当性、合意形成の経緯等の事情により結論は変わります。

したがって、同判決の結論部分のみを都合よく理解するのは危険です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。