Category Archives: 管理組合運営

管理組合運営28 団地建物所有者等に対してその専有部分の電力供給契約の解約申入れを義務付ける旨の集会決議がされた場合において、団地建物所有者が上記解約申入れをしないことが他の団地建物所有者に対する不法行為を構成しないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、団地建物所有者等に対してその専有部分の電力供給契約の解約申入れを義務付ける旨の集会決議がされた場合において、団地建物所有者が上記解約申入れをしないことが他の団地建物所有者に対する不法行為を構成しないとされた事案(最判平成31年3月5日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、同一敷地上にあるA棟からE棟までの各区分建物からなる団地であるaマンションの区分所有者である被控訴人が、本件マンションの区分所有者である控訴人らに対し、本件マンションの全区分所有者で構成される団地管理組合法人における団地集会において、本件マンションの専有部分の受電方法を低圧受電から高圧受電に変更する旨の議案が特別決議により可決し。これを受けた規約の改定の議案も特別決議により可決したにもかかわらず、控訴人らがこれらの決議に従わず、北海道電力株式会社との間で電気供給契約を解除しなかったために、本件マンション全体が高圧受電に変更することができず、高圧受電が導入されれば支払う必要がなかった電気料金相当額の損害を被ったと主張して、不法行為に基づき、連帯して、損害賠償金9165円+遅延損害金の支払を求める事案である。

一審(札幌地判平成29年5月24日)、控訴審(札幌高判平成29年11月9日)ともに、被控訴人の請求を認容した。

【裁判所の判断】

原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。

被上告人の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件高圧受電方式への変更をすることとした本件決議には、団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決する部分があるものの、本件決議のうち、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は、専有部分の使用に関する事項を決するものであって、団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するものではない
したがって、本件決議の上記部分は、法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するものとはいえない。このことは、本件高圧受電方式への変更をするために個別契約の解約が必要であるとしても異なるものではない

2 そして、本件細則が、本件高圧受電方式への変更をするために団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分を含むとしても、その部分は、法66条において準用する法30条1項の「団地建物所有者相互間の事項」を定めたものではなく、同項の規約として効力を有するものとはいえない
なぜなら、団地建物所有者等がその専有部分において使用する電力の供給契約を解約するか否かは、それのみでは直ちに他の団地建物所有者等による専有部分の使用又は団地共用部分等の管理に影響を及ぼすものではないし、また、本件高圧受電方式への変更は専有部分の電気料金を削減しようとするものにすぎず、この変更がされないことにより、専有部分の使用に支障が生じ、又は団地共用部分等の適正な管理が妨げられることとなる事情はうかがわれないからである。
また、その他上告人らにその専有部分についての個別契約の解約申入れをする義務が本件決議又は本件細則に基づき生ずるような事情はうかがわれない。
以上によれば、上告人らは、本件決議又は本件細則に基づき上記義務を負うものではなく、上告人らが上記解約申入れをしないことは、被上告人に対する不法行為を構成するものとはいえない。

控訴審の考え方はこうです。

「本件マンションにおいて電力は団地共用部分である電気設備を通じて専有部分に供給されており、本件決議は団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するなどして本件高圧受電方式への変更をすることとしたものであって、その変更をするためには個別契約の解約が必要である。したがって、上記変更をするために団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付けるなどした本件決議は、法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するから、上告人らがその専有部分についての個別契約の解約申入れをしないことは、本件決議に基づく義務に反するものであり、被上告人に対する不法行為を構成する。」

一審及び控訴審の結論のほうが腑に落ちる気がしますがいかがでしょうか。

被控訴人側は、まさか最高裁でひっくり返されるとは思ってもいなかったでしょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営27 管理組合に対する区分所有者名簿の最終更新時以降の月次報告書のうち入退去者欄の閲覧、謄写請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合に対する区分所有者名簿の最終更新時以降の月次報告書のうち入退去者欄の閲覧、謄写請求が棄却された事案(東京地判平成31年3月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの一室を区分所有する原告が、同マンション管理組合である被告に対し、管理規約等に基づき、区分所有者名簿及び同名簿の最終更新時以降の月次報告書のうち入退去者欄の閲覧、謄写を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件各情報は、本件マンションの区分所有者である特定の個人を識別することのできる個人情報に当たり、また、被告は、法の改正により、同情報の取扱個人数による制限が撤廃されたことによって、法所定の個人情報取扱事業者に当たることとなっている。
そうすると、被告は、法23条1項により、その組合員の同意がない限り、あるいは、同条項各号所定の事由がある場合を除き、保有する個人情報データベースにある本件各情報を第三者である原告に提供することが許されないというべきである。
なお、原告は、被告の組合員ではあるものの、他の組合員に係る個人情報との関係では、前同条項にいう第三者に当たると解すべきである。

2 そこで、法23条1項の上記各事由の有無について検討するに、本人(組合員)の同意については、被告の第34回総会における審議の結果からすれば、これが被告において正式な決議といえるかをおくとしても、少なくとも、組合員による同意が得られたとは認められない
また、個人情報取扱事業者は、個人情報を取得する際、「構成員(本件では組合員)の名簿を作成し、掲載構成員に対し配布すること」といった事項を利用目的として特定し、これを本人(本件では組合員)に通知、公表すれば、これをもって個別の同意を得たものと解する余地がある
しかしながら、被告においては、個人情報の利用目的につき、名簿の作成・配布を掲げていないことが認められるから、あらかじめ特定された利用目的によって、組合員の同意に代えるものと解することはできない
さらに、原告の開示請求が、同条項各号所定の事由に基づくものであるとも認められない。

管理組合運営においては、個人情報保護法の理解も求められますので十分気を付けましょう。

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管理組合運営26 管理組合に対する会計帳簿等の閲覧・謄写請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合に対する会計帳簿等の閲覧・謄写請求が棄却された事案(東京地判令和元年5月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、平成18年頃、本件マンションの401号室の区分所有者となり、現在、被告管理組合の組合員である原告が、被告管理組合に対し、民法645条又はaマンション管理規約54条に基づき、平成6年度から平成29年度までの被告管理組合の会計帳簿、組合員名簿、通帳その他の帳票類一切の閲覧、謄写を求めるとともに、被告管理組合及び同被告から業務委託を受けている被告会社において、原告が権限に基づき平成18年頃から現在まで上記帳票類全部の閲覧、謄写を求めたにもかかわらず、部分的な閲覧しか認めず、これにより精神的苦痛を被ったと主張して、被告らに対し、不法行為に基づき、慰謝料等の損害賠償金166万0824円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ①原告は、少なくとも、本件マンション管理組合の平成18年から平成21年までの総会に出席しながら、特に、総会において、管理組合の収支等について異議を述べた形跡はないこと、②平成21年の総会後に(原告が)被告会社に対して閲覧請求をしたのに対し、被告会社は、その保管している資料を全て原告に開示していること、③その後、原告は、平成27年まで被告らに対して閲覧請求をしていないこと、④同年から平成28年にかけてされた(原告を代理した)D弁護士の請求に対して、被告らは、少なくともその請求に係る資料は全て原告側に開示して、原告において適宜写真撮影もしていたこと、⑤被告管理組合では、平成22年の法人化以後、監事が選任されて、その収支報告は、監事の監査を経て、総会に議案として上程され、賛成多数で承認されていることが認められる。

2 そうすると、被告管理組合としては、そもそも、法人化後の収支等については、監事の監査を経て総会の承認を得るという正規の手続を経ており(なお、その手続において、原告が具体的に問題を指摘して監事に報告を求めるなどした形跡はない。)、そこに、特段の不合理があることをうかがわせる証拠はないから上述した補充性を欠く上、原告の閲覧請求に対して、被告管理組合(又は被告会社)は、(法人化前の残存資料を含め)開示すべき資料は全て原告に開示しているといえるから、原告が本件訴訟において閲覧等を求めるのは、実質的に重複請求であるともいえる。そして、そのような請求を正当化するだけの理由は認められない
したがって、原告の被告管理組合に対する閲覧請求は理由がなく、そうである以上、これに付随する謄写請求についても理由がない。

上記のとおり、裁判所は、開示すべき資料は既に全て開示済みであると認定しました。

管理規約等は、このような場合にまで重複請求を認めるものではありませんので、結果、請求棄却となりました。

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管理組合運営25 管理組合に対する給水増圧ポンプの設置工事の請求が棄却された理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合に対する給水増圧ポンプの設置工事の請求が棄却された理由とは?(東京地判令和元年8月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有者である原告が被告管理組合に対し、本件マンションに係る別紙系統図のAの部分に、本件マンション510号室への給水圧力が0.2メガパスカルに至るまで給水増圧ポンプを設置する工事をせよ。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件居室においては給水圧力の低下に伴う吐水量の不足が生じており、その原因は、本件マンションにおいて高架水槽方式という給水方式が採られていることや共用部分である縦管の老朽化等によるものであると認められる。
そうすると、本件居室における給水圧力を上げるためには、給水方式の変更や縦管の交換等を行うことが考えられるが、これらは正に「共用部分の管理に関する事項」(区分所有法18条1項本文)に当たるから、被告の総会において決議される事項である。
原告は、これらに代わるものとして本件工事の実施を求めるが、本件工事を実施することによる利益は原告ないし本件居室の占有者のみが享受することを考慮すると、本件工事の実施が「共用部分の管理」に当たるといえるかは疑問があるし、仮に「共用部分の管理」に当たるのであれば、やはり被告の総会において決議される事項であって、原告が被告に対して直接請求できるものではない
この点、原告は、本件工事の実施が、同法18条1項ただし書の「保存行為」に当たるから、原告が単独ですることができると主張するが、上記「保存行為」とは、共用部分の滅失、毀損を防止して現状の維持を図る比較的軽度な行為をいい、共用部分の点検、清掃や蛍光灯の交換等がこれに当たると解されるから、本件工事の実施が上記「保存行為」に当たるとはいい難いし、管理規約には保存行為も含めて被告がその責任と負担で行うとの定めがある(32条)ことが認められるから、原告の主張は理由がない。
また、原告は、管理規約22条5項に基づき、被告に対して本件工事の実施を求めるが、同項にいう「漏水等の事故」とは、漏水や漏電のようにそれ自体において重大な被害が生じるほか、これを放置すると更に深刻な被害が生じかねない事象をいうものと解されるから、本件居室に生じた給水圧力の低下は、それによる支障の程度に照らすと、上記「漏水等の事故」に当たるとはおよそいい難い

「共用部分の管理」や「保存行為」の定義・意味を理解するのは参考になる事案です。

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管理組合運営24 臨時総会における監事の選任案承認事案を否決した決議が委任状による議決権行使に関する手続に重大な瑕疵があるとして無効とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、臨時総会における監事の選任案承認事案を否決した決議が委任状による議決権行使に関する手続に重大な瑕疵があるとして無効とされた事案(東京地判令和元年10月8日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告が開催した平成27年12月6日の臨時総会において監事である原告の選任案承認に係る議案が否決されたところ、原告が、この決議は信義則に反するなどと主張して、同決議の無効及び原告が引き続き被告の監事の地位にあることの確認を求めるとともに、被告の役員経費等支給規程所定の役員報酬として1万6000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 原告と被告との間において、被告における平成27年12月6日開催の第29期第2回臨時総会の第7号議案に関する決議が無効であることを確認する。

2 被告は、原告に対し、1万3000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 被告においては、本件臨時総会に先立って、「臨時総会招集のお知らせ」と題する招集通知を発し、同通知には、先立つ通常総会において役員選任に係る議案が取り下げられたため、立候補のあった5名の理事候補者と2名の監事候補者の選任議案(本件議案が含まれる。)について審議を求める旨が記載されている。
また、被告においては、総会に先立って、組合員に対して「≪出席通知・委任状・議決権行使書届≫」との表題の書式(以下「本件書式」という。)を交付しており、組合員は、本件書式に所定の事項を記入して提出することにより、出席通知、委任状及び議決権行使書のいずれかとして利用することができる。
本件書式の出席通知欄には「なお、万一当日欠席となる場合は、議長に一任します。」との記載があり、委任状欄には「※氏名のご指定がない場合は、議長に一任したものと見なします。」との記載があり、議決権行使書欄には「賛成、反対の何れにも○印がない場合は、議案に賛成したものとみなします。」との記載がある。
他方、本件規約55条は総会提出議案について理事会が決議することを定めており、本件規約54条1項は理事会の議事を出席理事の過半数で決する旨が規定されている。

2 これらの本件規約の定め並びに本件臨時総会の招集通知の内容及び本件書式の体裁からすると、総会において審議される議案は、理事会が総会への提案に賛成したものとして組合員にあらかじめ示されていることから、特段の意思表示をしない組合員は当該議案に賛成したものとみなすことができるのであり、本件書式の議決権行使欄の記載はこのことを表したものということができる。
これに対して、委任状欄の記載は上記のとおりであり、提出議案に賛成したものとみなすと記載されているわけではないものの、特定の者を代理人としなかった場合に理事長に委任されたものとみなされた結果、特段の事情のない限り、理事会が総会に提案した議案について反対することは想定されていないということができる。

3 そうすると、委任状によって議決権行使を理事長に一任したとみなされた全ての議決権について、他の役員選任議案ではいずれも賛成票に投じた上、本件議案についてのみ反対票に投じたという取扱いは、委任者たる組合員の委任の趣旨に沿うものといえるかどうか甚だ疑わしいばかりでなく、本件規約の定めに照らして著しく恣意的であるというほかない。
したがって、このような恣意的な取扱いの結果である本件議決は、その手続において重大な瑕疵がある無効なものというべきである。

4 本件臨時総会の開催前の10月に監事の任期満了を迎えていた原告は、本件規約37条3項により、後任の役員が就任するまでの間引き続きその職務を行うべき地位にあったところ、本件議決は無効であるから、本件臨時総会後も原告の監事の地位は継続しているということができる。
しかしながら、平成28年12月3日開催の臨時総会において、翌期(第30期)の役員として理事3名及び監事1名の選任が決議されていることが認められることから、上記の本件規約の定めにより、その地位を失っているというべきである。

総会運営における非常に実務的な問題について述べられています。

総会運営については、管理会社や弁護士等の助言の下、適切に行うように心がけましょう。

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管理組合運営23 管理組合により役員に就任する順番を定めた輪番制から除外されたことが不法行為には該当しないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合により役員に就任する順番を定めた輪番制から除外されたことが不法行為には該当しないとされた事案(東京地判令和元年12月5日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

被告は、本件マンションの区分所有者全員をもって構成される管理組合であり、原告は、本件マンションの805号室の区分所有者であり、同室に居住している。
本件は、原告が、被告において、被告の役員に就任する順番を定めた輪番表から正当な理由なく原告を除外したことにより、原告が被告の役員に選任され得る地位を侵害するとともに、原告に精神的苦痛を与えた旨を主張して、被告に対し、原告居室の区分所有者としての権利に基づき、本件輪番表に原告居室を記載することを求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料50万円を支払うことを求める事案である。

【裁判所の判断】

判例のポイント

【判例のポイント】

1 区分所有者が集会において議案を提案することができることは、区分所有建物の管理権の行使に関わり、区分所有者の集会が多数決で運営されていることの前提をなすものというべきであって、区分所有者が議案の提案に関し法的保護に値する利益を有していることに鑑みると、本件管理規約51条9項は、議案の修正動議の提出を否定するものとは解されない。

2 この点に関し、平成25年5月26日の被告の総会において、原告が提出した修正動議につき採決が行われなかったことがあったことも認められるが、平成29年12月23日に被告の理事会において原告居室が24期役員輪番表から外された後、被告の総会において、提出者が原告であるか否かを問わず、修正動議の提出自体が否定されたことがあったとは認められず、平成29年12月23日以降においても、原告の修正動議の提出が否定されるものであったことを認めるに足りる的確な証拠はない。

3 以上の検討によれば、原告は、原告居室が24期役員輪番表から外された後も、被告の総会において、役員の改選に係る議案に関し、自らを被告の役員の候補者とする旨の修正動議を出すことで、容易に被告の役員の候補者となることができたというべきであるから、本件地位は、法的保護に値するものとは認められない。
したがって、原告居室が本件輪番表から除外されたことは、原告に事実上の不利益を生じさせるにとどまり、この措置によって、原告が何らかの権利又は法的保護に値する利益を侵害されたとは認められないから、争点3以降については判断するまでもなく、被告の原告に対する不法行為は成立しない。

輪番制から外されたことは原告に「事実上の不利益」を生じさせるが、「何らかの権利又は法的保護に値する利益」が侵害されたとは認められないとの判断です。

裁判所による微妙な匙加減のため、評価のしかたによっては、ぎりぎりのところで結論が異なり得ると思われます。

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管理組合運営22 監事が理事解任議案を議題として総会を招集することの適否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、監事が理事解任議案を議題として総会を招集することの適否(前橋地決平成30年5月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの管理組合法人である債務者の理事の地位にあった債権者が、債務者の臨時総会においてなされた債権者を理事から解任する旨の決議が違法な手続によるものであるから無効であり、保全の必要性も認められるとして、債務者に対し、申立ての趣旨記載の仮処分を申し立てた事案である。

【裁判所の判断】

申立て却下

【判例のポイント】

1 債権者は、監事が理事解任議案を議題として提出して総会を招集することはできないというべきであると主張する。
確かに、法によると、監事については、理事の業務の執行の状況を監査し、財産状況又は業務の執行について、法令若しくは規約に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、集会に報告し、その報告のために必要があるときは、集会を招集すること等が職務とされ(50条3項)、監事が招集する集会における集会の目的たる事項(議題)としては報告に限られると考えられる。
しかし、上記法の規定は強行法規ではなく、各管理組合法人の規約において、これと異なる規定を置くことも許されると解されるところ、本件規約においては、監事は、管理組合法人の業務の執行及び財産の状況を監査し、その結果を総会に報告しなければならず、監事は、管理組合法人の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができるとされ(37条1項,2項)、監事が総会を招集することができる場合について、報告のために必要があるときに限定されていない
したがって、監事は、本件規約上、招集予定の総会において、自ら必要と考える理事解任の議案を提出し、その決議を求めることもできるというべきである。

2 仮に、法に定めるとおり、監事が招集する集会における議題が報告に限られるなど、B監事が債権者の理事解任議案を提出したことが手続上の瑕疵であるとしても、以下のとおり、本件決議を無効ということはできない
まず、B監事は、本件規約39条1項に基づき、本件総会の2週間以上前に、本件マンションの区分所有者全員に対し、本件総会の日時、場所及び債権者の理事解任議案を含む目的を通知するなどして本件総会を招集しており、予め債権者の理事解任議案について十分な検討をした上で本件総会に臨むことができるようにし、かつ組合員の議決権行使の機会を確保している
また、本件総会は、議決権総数373に対し、出席議決権総数が193(なお、本件決議の際の議決権総数は200)であり、本件決議における賛成票は合計159(出席22、委任66、議決権行使71)、反対票は合計26(出席16、委任0、議決権行使10)、棄権・その他は合計15(出席10、委任1、議決権行使4)であったことが一応認められ、これによれば、本件総会は本件規約43条1項の定足数を満たし、本件決議も本件規約43条2項の要件を満たしたものといえる。
さらに、上記のとおり、本件決議における賛成票は、そのうちの委任の数を控除しても93であり、議決権総数373の5分の1以上であるから、本件規約40条の規定に基づいて、債権者の理事解任の件を目的として臨時総会を招集することもでき、かかる手続を踏んで開催された臨時総会においても本件決議と同様の結果になったと考えられる。
以上の事情に照らせば、B監事が債権者の理事解任議案を提出したことが手続上の瑕疵であったとしても、本件決議を無効とするだけの重大な瑕疵があったということはできない

上記判例のポイント1は重要ですのでしっかり押さえておきましょう。

管理規約の内容がいかに重要かがよくわかりますね。

なお、本件事案は、抗告審(東京高決平成30年11月2日)でも結論が維持されています。

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管理組合運営21 管理組合が区分所有者において区分所有建物を賃貸するに際し、管理規約に基づき求めた承諾を拒絶したことが不法行為に当たるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合が区分所有者において区分所有建物を賃貸するに際し、管理規約に基づき求めた承諾を拒絶したことが不法行為に当たるとされた事案(東京地判平成4年3月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、自己が所有するマンションの専有部分についてのコンピュータソフト開発会社との間で賃貸借契約を締結したところ、被告が正当な理由がないのに右契約を承認しなかつたために合意解約せざるを得なくなつたと主張して、被告に対し、不法行為を理由として損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、金513万3870円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 新規約12条1項は、区分所有者が住居部分を事務所に使用する場合には被告の承認を受けなければならない旨規定しているが、被告が右の承認を与えるか否かは、住居部分を事務所に使用しようとする区分所有者に重大な影響を及ぼすのであるから、その判断に当たつては、事務所としての使用を制限することにより全体の区分所有者が受ける利益と、事務所としての使用を制限される一部の区分所有者が受ける不利益とを比較考量して決定すべきである。

2 これを本件についてみると、たしかに、事務所としての使用を無制限に放任した場合は、床の荷重の問題のほか、消防設備あるいは電話設備等の改修工事の要否等、波及する影響は大きく、費用負担の軽減及び居住環境の悪化防止等の観点からも、その制限には一般論として合理性を是認できないわけではない。
しかし、本件においては、マンション分譲時に成立した旧規約の26条に専有部分のうち住居部分は住居又は事務所以外の用に供してはならない旨の定めがあり、本件専有部分の属する3階以上の建物部分についても事務所としての使用が許容されていたと認められるのであるから、区分所有者にとつてその同意なくして専有部分を事務所として使用することが禁止されることは所有権に対する重大な制約となることはいうまでもないところである。
特に、原告は、今回の規約改正の10年以上前から本件専有部分を賃借して事務所としての使用を開始し、2年余り前にはこれを購入し、右規約改正の1か月以上前から事務所用の物件として賃借人を募集し、新規約発効時には賃借人が本件専有部分を現実に事務所として使用していたのであるから、その既得権を奪われることによる原告の不利益は極めて大きいといわざるを得ない。
しかも、賃借人であるAは、コンピューターソフトの開発を業とする会社で、従業員が2、3名という小規模な会社にすぎず、その入居を認めることにより床の荷重の問題が生じたり、あるいは消防設備等を設置することが不可欠となるかは疑問の余地がないではなく、また、本件専有部分を事務所として使用することにより直ちに著しく居住環境が悪化するとも思えないのであつて、事務所としての使用を認めることによる被害が重大なものとはいいがたい
右の双方の利害状況を比較考量すれば、本件の承認拒絶により原告が受ける不利益は専有部分の所有権者である原告にとつて受忍限度を越えるものと認められるから、被告は、本件賃貸借契約を承認する義務を負つていたものと解するのが相当である。
したがつて、被告は、本件賃貸借契約の承認を拒絶することにより、原告の所有権を違法に侵害したものと認められる

上記判例のポイント1の規範はしっかりと理解しておきましょう。

管理組合の承諾が必要とされているからといって、合理的な理由なく承諾を拒絶すると本件のように損害賠償請求をされますので注意が必要です。

もっとも、比較衡量による判断が求められるため、判断は決して容易ではありません。

事前に必ず弁護士に相談することをおすすめいたします。

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管理組合運営20 管理組合の店舗部会が専有部分における心療内科クリニックの営業開始を承認せず、区分所有者による専有部分の賃貸を妨げたことが不法行為に当たるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、用途複合型区分所有建物における店舗部分の区分所有者で組織された店舗部会が専有部分における心療内科クリニックの営業開始を承認せず,区分所有者による専有部分の賃貸を妨げたことが同店舗部会の同区分所有者に対する不法行為に当たるとされた事案(東京地判平成21年9月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、区分所有法2条2項所定の区分所有者である。
被告管理組合は、原告が区分所有権を有する区分所有建物の管理組合であり、被告店舗部会は、被告管理組合の下に、当該区分所有建物のうち店舗等に使用される専有部分(店舗部分)の区分所有者全員で構成される団体である。
原告は、自らが区分所有する専有部分(店舗部分)を心療内科クリニックとして使用させる目的で賃貸することを予定していた。そして、管理組合規約と店舗使用規則(店舗部分の使用及び管理等に関する事項を定める規則)において、店舗部分で営業を開始する場合には、被告店舗部会の部会長による承認を得なければならないと定められていたため、原告から当該専有部分を賃借する予定であった者が被告店舗部会に対し営業開始の承認を求めたところ、被告店舗部会がこれを不承認とした。
そこで、原告は、被告らとの間で、その不承認処分が無効であることの確認を求めるとともに、被告らに対し、不法行為に基づき、営業開始が不承認とされなければ得られたであろう賃料等に相当する確定損害金165万円+平成19年12月2日から本判決確定の日まで1か月33万2000円の割合による損害金の連帯支払を求め、さらに、区分所有権に基づき、原告が上記専有部分を心療内科等のクリニックとして賃貸することを妨害することの禁止を求めている。

【裁判所の判断】

被告店舗部会が平成19年8月3日付けでCに対してした営業開始承認願を承認できない旨の処分の無効確認を求める訴えを却下する。

被告店舗部会は,原告に対し,398万4000円を支払え。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 裁判所が被告店舗部会が営業者による営業開始を承認するかどうかの判断は、被告店舗部会の合理的裁量にゆだねられるべきものである。
もっとも、被告店舗部会が営業開始を承認せず、その営業のために店舗部分を使用することを禁止すると、区分所有者等の権利が制約されることになるので、その適否について司法審査が一切及ばないと解するのは妥当でなく、例外的に被告店舗部会の上記判断が違法となる場合があると解すべきである。
そして、裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては、被告店舗部会と同一の立場に立って当該処分をすべきであったかどうか等について判断し、その結果と当該処分とを比較してその適否、軽重等を論ずべきものではなく、被告店舗部会の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである(最判昭和29年7月30日、同昭和49年7月19日、同昭和52年12月20日、同平成8年3月8日各参照)。

2 被告店舗部会が本件理由に基づいて本件承認願を承認しなかったことが不法行為として違法かどうかを見ると、心療内科、精神科や神経科に通院する患者が周囲の者に対し不安感を与えたり又は迷惑を掛けたりするような行動を取るとの事実を認めるに足りる証拠はないし、被告店舗部会がこのような事実の裏付けとなり得る資料に基づいて承認しないとの判断をしたことを認めるに足りる的確な証拠もない
被告らは、被告店舗部会の理事の親戚が精神病に罹患し、ショッピングモールで事件を起こしたことがある旨を主張し、これに沿うD証人の証言がある。
しかし、仮に、この事実が認められるとしても、飽くまでも個別具体的な事例にとどまるのであって、これだけでは、一般的に、心療内科、精神科や神経科に通院する患者がこのような行動を取る危険があることを裏付けるには足りないといわなければならない。
そうすると、被告店舗部会は資料又は事実による裏付けを欠く本件理由に依拠して、本件承認願を承認しなかったと認められるので、被告店舗部会は、その裁量権を逸脱し、又は濫用して、本件承認願を承認せず、原告の区分所有権を制約したものといわざるを得ず、このような行為には不法行為としての違法性が認められるというべきである。

3 Cは、平成19年12月ころには、本件専有部分を賃借することを断念する旨を原告に告げていたことが認められる。
当該事実からすると、同月ころには、原告がCに本件専有部分を賃貸する可能性はなくなったといわざるを得ない。このような場合、原告が、ほかの賃借人を探すなどして、損害を回避又は減少させる措置を執ることなく、上記の損害すべての賠償を被告店舗部会に請求することは、条理上認められないといわなければならない(最判平成21年1月19日参照)。
そして、借地借家法26条1項と27条1項が更新拒絶の意思表示又は解約の意思表示がされた時から建物の賃貸借契約の終了まで少なくとも6か月間を要する旨を定めていることを勘案すると、原告は、通常,6か月の間に、本件専有部分について新たな賃借人を見つけることによって、上記措置を執ることができたというべきである。そうすると、Cが本件専有部分を賃借することを断念した時から6か月が経過した後の平成20年7月以降の期間の賃料に相当する損害については、その賠償を請求することはできないといわなければならない。

店舗部会の判断が違法であることについてはほぼ争いのないところだと思います。

むしろ、このような事案における損害額の算定方法(上記判例のポイント3)が参考になりますのでしっかり理解しておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営19 総会決議なく修繕積立金を取り崩して工事代金を支払ったことの違法確認請求訴訟が却下された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総会決議なく修繕積立金を取り崩して工事代金を支払ったことの違法確認請求訴訟が却下された事案(東京地判令和3年7月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

被告が平成27年6月25日に総会決議なく修繕積立金を取り崩して工事代金287万円を支払ったことが、被告の管理規約28条、48条に違反することを確認する。

本件は区分所有法所定の区分所有者である原告が、区分所有者全員で構成される管理組合である被告につき、前記の内容のとおり被告の管理規約に違反する行為があったとして、その確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

1 まず、確認の対象について見ると、原告の請求は、要するに本件支出が本件管理規約に違反していたという意味で違法であることの確認を求める趣旨と解される。
これは現在の権利又は法律関係に当たらないことは明らかであり、そして仮にそのような違法が確認されたとしても、そのことが原告と被告との間の個別的な権利又は法律関係につき基本となるような理由を直ちに見出すことはできず、原告と被告との紛争の直接かつ抜本的な解決のため適切・必要とは言い難い
併せて、仮に本件支出の違法が確認されたとしても、後の平成27年総会決議において本件支出を含む収支決算報告が可決されていることに照らせば、直ちに紛争の抜本的な解決に資するとは解し難い。
この点においても、本件支出の違法を確認することが適切・必要とは言い難い。

2 また、即時確定の利益について見ても、現に原告の有する権利又は法律的地位についてどのような危険又は不安が存在するかが不明であり、これを除去するために本件支出の違法を確認することが必要かつ適切であると言える理由も見出せないと言うほかない。
よって,確認の利益は認められない。

3 なお、当裁判所は、原告に対し、仮に自身の損害賠償請求権等が発生していると考えるのであれば、その権利との関係で確認の利益に関する主張を補充するよう釈明した。
この釈明を受けて提出された準備書面を見ても、「組合財産の棄損」などという表現は見られるものの、原告の現在の権利又は法律関係との関係は明らかでなく、主張の趣旨は不明確と言わざるを得ない。

本件は本人訴訟であるため、裁判所は原告に対して比較的丁寧に釈明していますが、奏功しなかったため、訴えを却下しています。

訴訟物の判断は、一般の方には難しい場合があり、設定を誤ると勝訴確率が大幅に落ちますので注意が必要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。