Category Archives: 管理組合運営

管理組合運営48 組合員の管理組合に対する組合員名簿の閲覧請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合員の管理組合に対する組合員名簿の閲覧請求が認められた事案(東京地判平成29年10月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告(マンション管理組合)の組合員である原告が、被告に対し、マンションの管理規約に基づき、被告の組合員名簿の閲覧を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告は、原告が被告の理事であるにもかかわらず、理事会での議論を通さずに、本件議案を直接総会に提案するために本件閲覧請求をしていることなどによれば、本件閲覧請求は正当な理由を欠き、権利濫用に該当する旨主張する。
しかし、本件閲覧請求は、被告の組合員である原告が、組合員による総会招集権を行使して本件規約の改正を内容とする本件議案を総会に提案するため、他の組合員の連絡先を把握することを目的としている。
まさに組合員としての正当な権利行使のための名簿の閲覧請求であって、本件閲覧請求の目的に不当性又は濫用的な側面を見出すことはできない。
被告は、原告が理事会を通さずに本件議案を直接総会に提案することが問題であるなどと主張するが、被告又は被告の理事会がそのように考えるのであれば、本件議案が提案された総会においてその旨主張し、他の組合員の賛同を得るよう努力すべきであって、本件議案の総会への提出自体又は本件閲覧請求が妨げられる理由にはなり得ない。
このような被告又は被告の理事会の対応は、本件議案に反対であるがために、本件議案の総会への提案を阻止するための便法として、本件閲覧請求を拒否しているといえるのであって、少数組合員による権利実現の機会を保障するため、組合員に総会招集権を認めた本件規約46条の趣旨を没却するものであり、言語道断というほかない。
本件規約に基づく組合の公正な運営を歪め、その立場を濫用しているのは、被告又は被告の理事会であって、その主張には一片の合理性も認められない
また、被告は、本件閲覧請求が権利濫用に該当する根拠として、本件名簿に極めて機密性の高い個人情報が記載されていることを主張する。
しかし、本件閲覧請求は、組合員による総会招集権の行使という被告全体の利益に資する重要な権利の行使を準備するためにされており、その目的の重要性に照らすと、本件名簿に組合員の個人情報として前記記載の各情報が記載されているからといって、本件閲覧請求が権利濫用に該当すると認めることはできない。
その他、本件全証拠によっても、本件閲覧請求が権利濫用に該当すると認めるに足りる事情は見当たらない。

2 被告は、本件閲覧請求が認められるとしても、組合員の自宅電話番号や携帯電話番号、備考欄など極めて機密性の高い個人情報が記載されていること、本件閲覧請求の目的を達成するには、組合員の氏名、部屋番号及び送付先住所のみ閲覧すれば十分であることから、閲覧の範囲を組合員の氏名、部屋番号及び送付先住所に限定すべきである旨主張する。
しかし、本件閲覧請求は、組合員による総会招集権の行使という被告全体の利益に資する重要な権利の行使を準備するためにされており、その目的の重要性に照らすと、本件名簿に個人情報が記載されているとしても、その閲覧の範囲を限定することには慎重な検討が必要である。
特に、本件では、被告が本件議案の総会への提案自体を阻止することを目的として本件閲覧請求を拒否していると認められるのであり、なおさら慎重な検討が必要といえる。
以上の観点に立った上で、本件閲覧請求の目的の重要性に照らしてもなお、本件閲覧請求による本件名簿の閲覧の範囲を制限すべき事情があるかどうかについて検討すると、本件名簿の記載内容その他本件全証拠によっても、そのような事情を認めるに足りない。

裁判官、なんか怒ってます?(笑)

言語道断と一片の合理性も認められないなんて、私、言われたことないですー。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営47 臨時総会の招集手続に重大な瑕疵があるとして決議不存在または決議無効の確認を求める訴えが却下された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、臨時総会の招集手続に重大な瑕疵があるとして決議不存在または決議無効の確認を求める訴えが却下された事案(東京地裁令和3年10月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、令和2年4月25日に開催された被告の臨時集会(総会)の招集手続には重大な違法ないし瑕疵があり、法律上不存在であると評価されるべきであり、また、本件総会でされた決算承認決議の対象である決算の内容が違法であり、承認決議自体が無効であると主張して、主位的には本件総会でされた全ての決議の不存在、予備的には上記決算承認決議の無効確認を求める事案である。
被告は、本件訴訟の提訴後、本件総会でされた決議の全てにつき、改めて臨時集会又は総会で決議を行ったから、本件訴訟には訴えの利益がなくなったとして訴えの却下を求めるほか、本件総会の決議について不存在及び無効と評価されるべき事由はないと主張して争っている。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

1 確認の訴えにおけるいわゆる確認の利益は、判決をもって法律関係の存否を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められる。
このような法律関係の存否の確定は、上記目的のために最も直接的かつ効果的になされることを要し、通常は、紛争の直接の対象である現在の法律関係について個別にその確認を求めるのが適当であるとともに、それをもって足り、その前提となる法律関係、とくに過去の法律関係に遡ってその存否の確認を求めることは、その利益を欠くものと解される。
しかし、ある基本的な法律関係から生じた法律効果につき現在法律上の紛争が存在し、現在の権利または法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず、かえって、これらの権利または法律関係の基本となる法律関係を確定することが、紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合においては、上記の基本的な法律関係の存否の確認を求める訴えも、それが現在の法律関係であるか過去のそれであるかを問わず、確認の利益があるものと認めて、これを許容すべきものと解するのが相当である。(以上、最高裁昭和47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁)。

2 本件第1号決議及び本件第3号決議については、その後に本件臨時総会第1号決議で同一内容の決議がされ、また、本件第5号決議、同第6号決議及び同第7号決議は、その後の39期総会第1号決議、同第4号決議及び同第12号決議においてこれを追認する決議が有効に成立している。そうすると、本件第1号決議、同第3号決議、同第5号決議、同第6号決議及び同第7号決議の不存在又は無効を確認することが、これに起因する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために必要かつ適切とは認め難い
よって、主位的請求のうち、本件第1号決議、同第3号決議、同第5号決議、同第6号決議及び同第7号決議の不存在を確認する訴え及び原告の予備的請求に係る訴えは、いずれも訴えの利益を欠くというべきである。

上記判例のポイント2のような事後的な事情がある場合には、確認の利益が失われますので訴えは却下されます。

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管理組合運営46 区分所有者が理事長の妻に対して提起した訴訟における妻の弁護士費用を管理費から支出することは可能か?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者が理事長の妻に対して提起した訴訟における妻の弁護士費用を管理費から支出することは可能か?(東京地判令和3年10月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有建物である本件マンションの区分所有者である原告が本件マンション管理組合である被告に対し、原告が理事長(当時)の妻に対して提起した訴訟の同人の弁護士費用について、これを管理費から支出することを承認した被告の臨時総会における決議は、管理規約に反して無効であるとして、その無効確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件決議は、別件弁護士費用を本件マンションの管理費から支出することを承認するものであるので、別件弁護士費用を本件規約上、適法に支出し得るか検討する。
本件規約36条5項は、被告における「役員の職務は、現に居住する親族(事実婚者を含む。)が代行できることとし、その職務遂行は役員がしたものとみなす」と定めており、特定居住者は、同項に基づき、第19期理事長の職務を代行して、原告との間の訴訟に関して被告が支払義務を負担した弁護士費用として、23万7908円を管理費から支出したことが認められる。
そのため、別件訴訟は、原告と特定居住者が当事者ではあっても、被告における通常の職務行為に当たることが客観的に明らかな特定居住者の行為に関して提起されたものと解される。
このように、管理組合における通常の職務であることが明らかな行為に関して役員個人としての法的責任が問われた際、その手続に要する弁護士費用については、管理組合の職務の遂行に伴い生じた負担であり、本来、管理組合の運営によって利益を受ける区分所有者全員で負担すべきいわば共益費としての性質を帯びることを否定できない。
そうすると、別件弁護士費用は、本件規約30条9号所定の「管理組合の運営に要する費用」に当たるというべきであり、本件議案を承認した本件決議に法令又は規約違反があるとはいえない。
以上の次第で、原告の被告に対する本件決議の無効確認を求める請求は理由がない。

規約の解釈上、結論自体は異論がないところだと思います。

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管理組合運営45 専有部分をナイトクラブの営業を予定している第三者に賃貸することを管理組合が承認しなかったことは違法?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分をナイトクラブの営業を予定している第三者に賃貸することを管理組合が承認しなかったことは違法?(東京地判令和3年12月9日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である原告が、当該マンション管理組合である被告管理組合及び被告理事らに対し、原告が専有部分を第三者に賃貸することについて被告管理組合が承認しなかったことが違法であり、これにより原告に賃料収入相当額の損害が生じた等と主張して、共同不法行為に基づく損害賠償請求として、9000万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件マンションの店舗部分の営業については、営業開始前に被告管理組合の同意を得る必要があるものとされている(店舗使用細則2条2項)。
被告管理組合が、具体的にどのような場合に上記同意をすべきかについて、要件や基準を明確に定めた規定は見当たらないものの、上記規定の直前に位置する店舗使用細則2条1項が、店舗部分の営業内容について規定した管理規約12条2項を準用していることに照らすと、同項が禁止する営業に当たらない場合には、被告管理組合が原則としてこれに同意することが想定されていると解するのが相当である。
もっとも、管理規約12条2項は、風俗営業や性風俗営業等を例として挙げながら、「他の区分所有者や占有者の迷惑となる営業をしてはならない」と抽象的に規定している上、上記同意をするか否かは営業開始前に判断される。
したがって、被告管理組合は、店舗部分の営業に同意するか否かについて、一定の裁量を有するものと解される。

2 S社は、1階店舗において、特定遊興飲食店営業に当たるナイトクラブの営業をすることを予定していたものである。特定遊興飲食店営業は、平成27年改正後の風営法において、「風俗営業」には当たらないものと定義されているが、同改正前は、「風俗営業」の一つとされていた営業形態であった。
そして、管理規約12条2項は、平成27年改正よりも前に設定されたものであることに照らすと、同項が禁止対象として例示する「風俗営業」については、平成27年改正前の風営法に規定する「風俗営業」と同義であると解釈する余地があり、その場合には、特定遊興飲食店営業もこれに該当することとなると考えられる。 
また、ナイトクラブ等の特定遊興飲食営業は、風俗営業に該当しないとしても、風営法による規制(許可)の対象であり、東京都において児童福祉施設や病院等から一定の距離があることがその許可の要件とされているように、周辺環境への影響が生じることが法令上も想定された業態であるといえる。
本件マンションは、我が国でも有数の繁華街に所在するが、その3階から12階までは住宅又は事務所とされていることにも照らせば、ナイトクラブ等の営業によって、騒音やい集等により他の区分所有者に迷惑が生じると被告管理組合が懸念することには、相応の根拠があるといえる。
そして、被告管理組合は、原告から本件賃貸の意向を示された後、4月理事会で一旦は原告に本件営業は認められない旨の申入れを行うこととしたものの、その後も本件各理事会及び8月理事会において、本件営業の内容等について継続的に検討していた。
一方、Aは、4月理事会、5月理事会及び8月理事会をいずれも欠席し、原告は、1月理事会に至るまで、本件営業について詳細な図面等を用いた具体的計画を示さなかった
したがって、1月理事会が開催されるまで、被告管理組合において、上記懸念が払拭できないと判断して本件営業に消極的態度を示したことにも合理的理由があったといえる。
以上のことからすると、被告管理組合が、本件調停に至るまで本件賃貸及び本件営業に同意しなかったことについて、合理性を欠くとか裁量の範囲を逸脱したということはできず、違法であったとは認められない。

本件マンションは渋谷区宇田川町に所在するようですが、結果としてはナイトクラブの営業について承認しなかった管理組合の決定については違法ではないとされています。

本件のようなケースでは、原告からは逸失利益の請求がなされることから、請求額が高額になる傾向にあります(本件では9000万円!)。

したがって、手続及び判断については極めて慎重に行う必要がありますのでご注意ください。

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管理組合運営44 代表理事が自身が務める会社に対して毎月一定額の自動送金をした行為が不法行為にあたるとされた上で、当該行為が故意によるものであること等が考慮され過失相殺が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、代表理事が自身が務める会社に対して毎月一定額の自動送金をした行為が不法行為にあたるとされた上で、当該行為が故意によるものであること等が考慮され過失相殺が否定された事案(東京地判令和4年2月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合法人である原告から、原告の代表理事であった被告が代表者を務める会社に対して、毎月一定額の自動送金がされていたことについて、①上記自動送金は、被告が代表理事の立場を利用して被告の利益を図るために行ったもので不法行為に該当するなどと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、自動送金された金額(振込手数料を含む。)の合計978万8496円、弁護士費用97万8849円+遅延損害金の支払を求め、②上記自動送金は、原告との利益相反取引に該当するのに監事が原告を代表することなく行われたから、原告の代表権がない者によってされたもので無効であると主張して、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、自動送金された金額(振込手数料を含む。)の合計978万8496円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、1284万8261円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 確かに、原告の予算は、総会の承認を受けることとされていることからすれば、b社ないしc施設管理に対して、管理業務等を委託することは、総会の意思決定によるものであって、あくまでその予算の範囲内で本件自動送金の形でb社に委託料が支払われていたとみる余地がないではない。
しかしながら、総会担当理事であった被告は、認定事実のとおりの役員報酬を得ているのであって、その範囲で予定されている業務のほかに、被告がその代表者を務める会社であるb社や個人事業であるc施設管理に原告の管理業務を委託し、実際に、b社やc施設管理が業として管理業務を行っていたことを認めるに足りる的確な証拠はない

2 被告は、平成30年2月頃から、被告による業務に不信感を抱いた原告の組合員らから説明を求められるに至ったのに、具体的な説明を一切していないことからすると、被告は、本件自動送金に係る業務を行った業務報告書等は作成しておらず、原告に対して説明のできるような具体的な業務を実施しているものではないと推認されるところである。
このことは、平成30年9月の原告の総会までの間、b社やc施設管理が被告の営む会社等であることを原告の組合員のほとんどが知らなかったことからも明らかといえる。
そうすると、被告は、自らが原告の総会担当理事で、理事会や総会を取り仕切っていたことを奇貨として、自らが営むb社やc施設管理に業務委託をしたような予算上の措置を講じた上で、他の代表理事であるBに手続を手伝わせた上で、自ら又は自らが代表を務めるb社の利益を図るため、毎月b社に本件自動送金をしていたものと認めるのが相当であって、このことは、理由のない支払を原告にさせて原告の財産を不当に侵害したものと評価することができるから、被告の原告に対する不法行為に該当するというべきである。

3 被告は、仮に被告に不法行為が成立したとしても、原告が被告に管理業務を任せきりにしてきたことなどからすれば、原告側にも過失があったといえるから、過失相殺がされるべきであると主張する。
確かに、原告の理事会及び総会は、原告が取り仕切っており、他の理事や組合員は、高い関心を示していなかったことがうかがわれる。また、日常の管理業務についても、支払業務等は綜警ビルサービスに委託していたものの、管理業務全般を専門業者に委託していたわけではなかったようであり、総会担当の代表理事であった被告が日常の管理業務の一定部分を担っていた可能性は否定できない。
しかしながら、被告は、代表理事として行う業務とb社あるいはc施設管理として行う業務とを明確に区別することなく、また、b社あるいはc施設管理として行った業務を原告に説明することもなく、代表理事になった1年ほど後の平成24年12月から6年にもわたって、b社宛てに漫然と本件自動送金を行ってきたのであって、これは、被告の故意による不法行為というべきものであるから、原告側の無関心等が被告の行為を助長したことがあったとしても、それが、損害の公平な分担という観点から,原告に生じた損害を原告においても負担すべきとする事情と評価することはできない。したがって、本件において過失相殺をすることは相当でない。

原告が被告に管理業務を任せきりにしていたという事情があったとしても、被告の故意による不法行為であることを考慮し、損害の公平な分担の観点から過失相殺が否定されました。

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管理組合運営43 理事に対して支給する交通費が最短経路におけるものでなくてもOKとされた理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事に対して支給する交通費が最短経路におけるものでなくてもOKとされた理由とは?(東京地判令和4年3月11日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合法人である控訴人が、その理事を務めていた被控訴人に対し、主位的に、控訴人内部で定められた支給要件を満たさない交通費実費相当額が被控訴人に支給されたとして、不当利得返還請求権に基づき、利得金131万6080円+遅延損害金の支払を求め、予備的に、被控訴人は、控訴人に対する委任契約上の善管注意義務に違反し、あえて不合理な通勤経路を選択することにより交通費実費の支給を受けて控訴人に損害を与えたとして、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、交通費実費支給額131万6080円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、控訴人の請求をいずれも棄却した。そこで、これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 本件基準は、理事に対して支給する交通費の定めについて、「往復の交通費が3000円を超える場合には5000円を限度に別途実費全額を支給する」とするのみで、理事が利用する経路が最短経路であることを要件として求めていない
そうすると、被控訴人が往復交通費3000円以上を要する経路を現に利用し、支給された交通費の実費が上限5000円の範囲内に収まっている以上、控訴人が受領した交通費の実費は、本件基準に基づいて給付されたものであるといえるから、法律上の原因があるというべきである。
この点について、控訴人は、控訴人自身が管理費を原資として運営されるものであり、また、本件基準が公平性・透明性を確保する趣旨で設けられたものであるなどとして、本件基準においては、理事の利用経路が最短経路であることは当然の前提とされており、その限度でしか交通費は支給されない旨主張する。
しかし、交通費の実費を支給する要件として最短経路の利用を求めるのであれば、そのように重要で、かつ、容易に定めることができる要件は、明記されるべきであるし、また、通常は基準として実際に明記されているものであるが、本件基準にはそのような記載はない。
また、本件基準は、従前の取扱いで定められていなかった支給される交通費の実費上限額を新たに定める一方で、実際に理事が利用した経路の妥当性等を検証する事務手続(どの機関が、どのような方法で検証するのか等)については特に定めていないのであって、最短経路の利用を求めていることをうかがわせる内容ともなっていない。
そうすると、本件基準は、各理事が申告し実際に利用した経路に基づき、上限額の範囲内で交通費の実費を支給することとしたものと解するのが自然であって、利用経路は最短経路でなければならないという明示されていない付加的な要件が別途本件基準に課せられていると解することはできない(なお、このように解したとしても、本件基準において支給されるのは交通費の実費であるから、理事が利用もしていない経路に基づく交通費を請求することは防止することができるし、また、支給される交通費の上限額が定められていることから、控訴人又は組合員の資産に不測の損害を生じることはない。)。
したがって、控訴人の主張は採用することができない。

常識的な感覚でいえば、控訴人の主張は十分理解できるところですが、裁判所が述べているとおり、「最短経路の利用を求めるのであれば、そのような規定を設けていくべきでしょ」ということです。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営42 管理組合が自治会に加入し、管理費から自治会費を支払う旨の管理規約を定めることはできる?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合が自治会に加入し、管理費から自治会費を支払う旨の管理規約を定めることはできる?(東京地判令和4年7月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である原告が、原告が加入する区分所有法上の管理組合である被告に対し、以下の(1)から(3)までの請求をする事案である。
(1) 管理組合である被告が自治会に団体として加入し、管理費から自治会費を支払う旨の管理規約及び被告が自治会を脱退する場合には全体総会の特別決議を経る旨の管理規約がいずれも無効であることの確認請求
(2) 被告が令和2年4月26日及び令和3年4月25日に開催した各定期総会において、管理費から自治会費を支払う内容の予算案を承認した各決議がいずれも無効であることの確認請求
(3) 原告が被告に支払った管理費のうち、原告が自治会を退会した日以降に被告が支払った自治会費相当額5199円について不当利得に基づく返還請求

【裁判所の請求】

請求棄却

【判例のポイント】

1 団地管理組合は、当該団地内の土地、附属施設及び専有部分のある建物(以下「建物等」という)の管理を目的として当該団地内に存在する区分所有建物の区分所有者が当然に加入する強制加入団体であり(区分所有法65条)、その規約において、建物等の管理又は使用に関する事項を定めることができる(区分所有法66条、68条1項、30条1項。)。
ここにいう「管理」とは、建物等を維持していくために必要かつ有益な事項をいうものと解され、建物等の管理又は使用に関わりのない事項は、規約として定めても効力を生じないものと解される。
団地管理組合も団体の一種であるから、その活動の一環として、他の団体に団体として加入すること自体は否定されないものと解されるところ、他の団体への加入について規約で定める場合、上記のとおり規約において定めることができるのは建物等の管理又は使用に関する事項に限られ、また、「管理」とは建物等を維持していくために必要かつ有益な事項を指すと解されることからすると、当該団体へ加入することが建物等の管理又は使用に関する事項に該当し、建物等を維持していくために必要かつ有益であることを要することとなる。
そこで、本件自治会への加入が建物等の管理に該当し、建物等を維持していくために必要かつ有益といえる関係があるか否かについて検討する。

2 本件自治会は、被告が管理する建物等の対象範囲と活動地域が一致し、本件自治会の基本方針に本件各マンションの生活環境の改善・向上のための活動が含まれ、本件自治会は本件各マンションに係る防災・防犯・清掃活動、本件各マンションの価値の維持・向上に資する近傍の美化活動・住環境改善活動を行っていることからすると、本件自治会は、被告の建物等の管理に含まれる活動を基本方針とし、実際にも本件各マンションの建物等を維持していくために必要かつ有益な活動を行う団体であるといえる。
したがって、本件自治会に加入することを被告の規約に定めることは、建物等の管理に関する規約として被告の目的の範囲内ということができる。

上記判例のポイント1の最後に記載されている規範を押さえておきましょう。

そして、本件では、自治会への加入を規約で定めることも有効と判断されています。

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管理組合運営41 専有部分の破損した窓ガラスの補修が「通常の使用に伴うもの」とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分の破損した窓ガラスの補修が「通常の使用に伴うもの」とされた事案(東京地判平成29年1月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの一室を所有する原告が、同室の窓ガラスが破損したとして、同マンション管理組合である被告に対し、管理規約の規定に基づき、同窓ガラス及び窓枠の取替補修工事をするよう求めている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件管理規約7条2項3号、14条1項及び25条1項によれば、本件窓ガラスは、原告の専有部分には含まれないものの、原告が専用使用権を有しており、その管理のうち「通常の使用に伴うもの」については、原告がその責任と負担においてこれを行うものとされている。
そこで、以下、本件破損の補修が「通常の使用に伴うもの」であるかについて検討する。

2 本件破損の原因については、原告の依頼により調査を行った一級建築士のDが、平成27年5月10日、「窓ガラスが割れていた原因は、そもそも出窓の取付が日光が集中的にあたる場所にあり、出窓の枢体及びガラスの老朽化に伴い、窓ガラスの一日の温度差により(温度差が大きい時に起こる)割れた可能性が最もあると一番考えられます。」と記載した報告書を作成しているところ、原告は、その記載内容を前提に、本件出窓ないし本件窓ガラスに構造上の欠陥があり、これが本件破損の主たる原因であると主張するのであるが、本件出窓が出窓であること自体や、日光がよく当たる場所に窓ガラスを配置することが、いずれも構造上の欠陥であるなどといえないことは明らかである。

3 次に、原告は、区分所有法9条の規定について主張するが、同規定は、建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じた場合の瑕疵の所在に係る立証責任について定めたものにすぎず、かかる規定の存在によって本件の争点についての判断が左右されるものではない。
また、原告は、経年劣化による窓ガラスの破損についての補修は計画修繕として行うべきであると主張するが、本件破損が経年劣化によるものであると認めるに足りる証拠はなく、原告の主張は前提を欠くものである。
そして、原告は、窓ガラスの破損が第三者による犯罪行為等によって生じた場合の責任についても主張するが、かかる場合と本件破損とを同視すべき理由はない。

4 以上によれば、本件破損の原因が被告にあるということはできず、また、その原因が本件窓ガラスの経年劣化にあるということもできず、そのほかに、本件破損の補修が「通常の使用に伴うもの」でないと解すべき理由はないから、本件破損の補修は、「通常の使用に伴うもの」であると認めるほかない
したがって、本件破損の補修は、原告の責任と負担において行うべきものである。

窓ガラスが専有部分に含まれないということや「通常の使用に伴うもの」については区分所有者の責任と負担において管理するという知識は、各種試験でも問われる非常に基本的かつ重要な知識です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営40 区分所有者全員の承諾なく行われた書面決議が無効とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者全員の承諾なく行われた書面決議が無効とされた事案(東京地判令和4年2月28日)を見てみましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの一部である本件居室の共有持分権者である原告が、本件マンション管理組合である被告において令和3年5月28日にされた別紙「通常総会議案書」記載第1号ないし第8号の各議案を承認する旨の書面による各決議について、区分所有者全員の承諾がないのに書面による決議がされたものであり、区分所有法45条1項に違反するとして、その無効確認又は取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告は、令和3年5月頃、組合員である本件マンションの区分所有者に対し、前年と同様、通常総会の開催が非常に困難であるため今回は文書総会になる旨通知しており(この通知が区分所有者全員に到着したかどうかについては証拠上明らかでないが、この点を措くとしても)、被告は、本件マンションの区分所有者に対し、書面による決議を実施することについての承諾を求めたのではなく、すでに決定されたこととして、書面による決議を実施することを通知したものということができる
また、議決権行使書を提出したのは本件マンションの区分所有者37名中32名にすぎず、書面による決議の実施につき事後的に区分所有者全員の承諾が得られたということもできない。
これは、被告において、令和2年も書面による決議が実施され、それから令和3年5月まで、区分所有者から同決議に異議が出されたことがうかがわれないことを考慮しても同様である
そうすると、令和3年の通常総会を開催せずに書面による決議を実施することについて、少なくとも区分所有者全員の承諾があるということはできず、本件各決議には、書面による決議の実施につき区分所有者全員の承諾があることが必要であるのに、その承諾がないまま行われたという手続的瑕疵がある。

2 本件各決議に係る上記瑕疵は、区分所有法45条1項に違反するものであり、同条項の趣旨に鑑みれば、区分所有者の討議の機会を奪うという重大なものである。
本件マンションの区分所有者37名中32名から議決権行使書が提出されているが、これは、被告が同区分所有者に対して書面による決議の実施につき承諾を求めることなく、すでに決まったこととして、書面による決議を実施する旨通知した後に送付した議決権行使書に、区分所有者が記入して返送したものであるから、これをもって、上記瑕疵が治癒されたり軽微なものとなったりするということはできない
したがって、本件各決議に係る上記瑕疵は無効事由に当たるというべきである。

区分所有法45条1項の内容は以下のとおりです。

「この法律又は規約により集会において決議をすべき場合において、区分所有者全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。ただし、電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令で定めるところによらなければならない。」

実務的に極めて基本的かつ重要な内容ですので、しっかりと押さえておきましょう。

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管理組合運営39 区分所有者が賃料値上げ反対等を内容とするセミナーを開催するためマンションの会議室の使用及び同セミナー開催通知の掲示を申し込んだものの、理事長及び副理事長が不許可とした行為が違法とはいえないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者が賃料値上げ反対等を内容とするセミナーを開催するためマンションの会議室の使用及び同セミナー開催通知の掲示を申し込んだものの、理事長及び副理事長が不許可とした行為が違法とはいえないとされた事案(東京地判平成29年1月23日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者兼管理組合員である控訴人が、本件マンション敷地の賃料値上げ反対等を内容とするセミナーを本件マンションにおいて開催するため、本件管理組合に対して、本件マンションの会議室の使用及び本件セミナー開催通知の掲示を申し込んだところ、本件管理組合の理事長及び副理事長である被控訴人らが当該申込みを不許可とした行為により、控訴人は、本件マンションの区分所有者らに対して、ポスティングで本件セミナーの開催を通知し、本件会議室外の廊下で本件セミナーを開催せざるを得ず、控訴人の、区分所有者の共同の利益に関する事柄を本件区分所有者らに対して伝える権利及び本件会議室を使用して充実した本件セミナーを行う権利を侵害され、精神的苦痛を被ったと主張し、被控訴人らに対し、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料10万円+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

被控訴人らは、本件行為は正当な行為であるから共同不法行為は成立しないとして、控訴人の請求を争った。

原判決は、被控訴人らは区分所有法や本件マンションの管理規約によって定められた業務を遂行すべき者であり、本件行為は法的には本件管理組合の行為であるから、被控訴人らに共同不法行為は成立しないとして、控訴人の請求を棄却したため、控訴人は、原判決の全部を不服として本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 被控訴人らは、以下のような理由から本件申込みを不許可とし、その旨を3月24日の定例理事会に報告して了承されたことが認められる。
ア 本件セミナーの講演者とされているAの営業活動が行われるおそれがあったこと
イ 本件チラシ1には「管理組合セミナー」と大きな字で記載され、本件管理組合が主催していると誤解されると困ること
ウ 本件チラシ1には、本件セミナーの内容がR裁判、地代、管理会社等についてと記載されており、理事会の検討が必要な事項であること

2 本件マンションの敷地をめぐって本件管理組合とRとの間で裁判が係属し、本件管理組合は、Rから、本件区分所有者らに対する賃料増額の求めについて介入をやめるよう指摘を受けた経緯があることから、本件申込みが許可され、本件チラシ1が掲示板に掲示されるとともに本件セミナーが開催された場合には、本件管理組合が本件セミナーを主催したと誤解され、本件マンションの管理運営に支障が出ることも予想された
また、本件セミナーにおいてAが営業活動を行い、本件区分所有者らの和を乱し、本件マンションの管理運営に支障が出ることも予想された
したがって、被控訴人らが、本件申込みを不許可としたことは、何ら不合理なものとはいえず、本件管理組合の理事長又は副理事長としての義務に違反したとはいえない。

まず、本件で問題とすべきは、理事長、副理事長個人の行為ではなく、管理組合の行為です。

その上で、管理組合が不許可としたことの合理性が認められています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。