Category Archives: 管理会社との紛争

管理会社等との紛争23 専有部分のインターホン設置工事が未完成にもかかわらず、民法536条2項に基づき請負代金請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分のインターホン設置工事が未完成にもかかわらず、民法536条2項に基づき請負代金請求が認容された事案(東京地判令和元年9月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合からインターホン設置工事を請け負った原告が、注文者である被告に対し、請負契約に基づき、代金403万9200円(消費税込)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件インターホンシステムの住居インターホンの設置のためには、住居内に立ち入らなければならず、注文者側の協力が必要であるところ、原告は、201号室の工事予定日を事前に告知した上で、工事予定日である平成30年2月19日に同室を訪問したが、不在であったこと、そのため、原告は、201号室に不在連絡書を投函したが、同室の居住者から連絡はなかったこと、原告は、同年3月19日、C副理事長から連絡を受けたが、ロビーインターホンの画像が粗いことなどの話に留まり、201号室の住居インターホンの設置工事の許可を得ることはできなかったこと、原告は、同年4月19日の被告理事会において、C副理事長に対し、201号室の設置工事の許可を求めたのに対し、同人は「いたしかねます」などと述べて許可しなかったこと、さらに、原告は、同月25日、C副理事長に対し、書面でも、住居インターホン設置工事の許可及び立会可能な日程の回答を求めたが、同人は原告に連絡をしなかったことが認められる。
以上によれば、原告が201号室の住居インターホンの設置工事を行うことができず、本件請負工事を完成させることができなかったのは、同室の居住者であるC副理事長が設置工事を許可しなかったからであり、注文者である被告側に帰責性があるというべきである
したがって、原告は、被告に対し、民法536条2項により、本件請負契約に基づき、その代金の支払を求めることができる。

旧民法ですが、危険負担に関連した事案です。

危険負担は、双務契約における一方の債務が履行不能に陥った場合に、もう一方の債務について、これを履行する必要があるか否か、という問題についての定めです。

旧民法536条では、同条1項で「双務契約において、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。」、同条2項「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」と規定していました。

なお、民法改正により、規定内容が変更されているのでご注意ください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争11 新聞配達が玄関のオートロックを不適切な方法で開錠しマンションに侵入した行為の違法性(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、新聞配達が玄関のオートロックを不適切な方法で開錠しマンションに侵入した行為の違法性(東京地判令和2年12月10日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、a新聞の配達員であるCが原告の居住するマンションの玄関のオートロックを違法に開錠して本件マンションに侵入したことを現認して、110番通報したにもかかわらず、現場に臨場した警視庁の警察官らが、事実関係の確認を怠り、Cを逮捕しなかったことは違法であり、この違法な事件処理により著しい精神的苦痛を被ったと主張して、被告東京都に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料30万円の支払等を求めるとともに、Cの上記侵入行為及びa新聞の配達員であるDが同マンションのエレベーターを利用していないにもかかわらず各階に停止するようボタンを押して原告の業務を妨害するなどした行為につき、被告株式会社Yは使用者責任を負うべきであると主張して、被告Y社に対し、民法715条1項に基づき、慰謝料等合計32万円の支払等を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 民法715条1項にいう使用関係の存否については、当該事業について使用者と被用者との間に実質上の指揮監督関係が存在するか否かを考慮して判断すべきものであるところ、本件全証拠によっても、被告Y社がC及びDに対し実質上の指揮監督関係を有していると認めることはできず、また、一般的に、新聞社が販売店に対し、実質上の指揮監督関係を有しているということもできない
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告Y社に対する請求は失当である。

2 Cは、本件マンションのオートロックの扉の隙間からチラシを挿入してドア開閉センサーを感知させて扉を開錠し、本件マンション内に立ち入ったことが認められ、その立入りの態様は不適切であったということができる。
しかし、午前4時49分頃という立入りの時刻に鑑みると、Cがa新聞の購読者である本件マンションの居住者のドアポストに新聞を配達する目的で本件マンションに立ち入ったことは容易に推認されるところであり、また、Cの本件マンションへの立入りについて上記購読者の承諾が得られているものと推認され、本件マンションの管理者の意思に反するものでもないとも推認される。
そうすると、Cの上記立入行為が、直ちに原告に対する不法行為を構成するとは認め難いといわざるを得ない。
また、Dのエレベーターのボタンを押す行為が不適切であるとはいえるものの、それが直ちに原告の権利・利益を違法に侵害したと評価することは困難であるし、本件販売店の所長が令和2年9月9日のうちに原告に電話していることに照らすと、Dが原告から交付されたメモを同所長に交付したと推認され、Dがこれを不当に投棄したと認めることもできない。
そして、原告主張に係る同月11日のDの言動が、直ちに原告の権利・利益を侵害するような違法な暴言であったと評価することもできない。

マンションへの侵入行為は不適切であるが、違法(不法行為)とはいえないという判断です。

上記判例のポイント2の考え方は、同種事案にも応用可能な考え方ですので押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。