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大規模修繕・建替え2 マンションの大規模修繕工事の際にアスベスト含有調査及びその飛散防止措置を実施することなく工事を行ったことによる慰謝料請求(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの大規模修繕工事の際にアスベスト含有調査及びその飛散防止措置を実施することなく工事を行ったことによる慰謝料請求(東京地判令和4年2月8日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの居室の区分所有者から同居室を賃借した原告が、同マンションの大規模修繕工事の施工業者である被告T社及び同マンション管理組合である被告組合に対して、被告らの以下の行為から各損害が発生したと主張して、共同不法行為を理由とする損害賠償請求権に基づき、連帯して、551万6000円+遅延損害金の支払を求める事案である。
① 被告らが、アスベスト含有調査及びその飛散防止措置を実施することなく上記工事を行ったことによって生じた精神的苦痛に対する慰謝料300万円
② 被告らが、原告に損害を与えることを目的として、共謀して、被告T社が、上記工事の施主である被告組合に対し、原告がバルコニー間の隔板を外すことを拒んだために発生した工事遅延に伴う追加工事費用として不当に高額な費用を請求し、被告組合が同費用を原告の賃貸人(上記居室の区分所有者)に求償したことによって生じた、同賃貸人から原告に対する明渡請求訴訟の提起による精神的苦痛に対する慰謝料及び同訴訟において原告が支払った金銭等合計251万6000円

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件工事についてみると、バルコニー間の隔板に係る工事の内容は、ゴミ・砂じん・油脂等の付着物を除去するために、ワイヤーブラシ・サンドペーパー等の手工具で既存塗装面の下地を処理する(乾燥した清浄な面にすること)ものであって、表面の塗膜が粉状になることはあり得るものの、隔板の基材までは剥離しないものであることが認められ、そうすると、隔板について、粉じんが出る可能性のある剥がし作業といえるような作業(アスベストを含有している層に到達するまで研磨する、隔板を粉砕するなど)がされたと認めることはできない。
したがって、バルコニー間の隔板の塗装又は取り外し工事によって原告の身体及び生命が危険にさらされるほどのアスベストの飛散があったことを前提とする原告の主張は採用することができない。

2 原告の主張は、要するに、バルコニー床面の長尺シート(下地調整材を含む。)にアスベストが含有されているかについて事前の調査が行われなかった結果、アスベストが含まれているかもしれず、工事によってそれが飛散して自身の身体又は生命が危険にさらされるかもしれないといった不安(危惧)を覚えたというものである。
しかしながら、上記のような不安感(危惧感)は、極めて抽象的かつ曖昧なものにすぎず、直ちに損害賠償を請求し得るほどに十分に強固な利益と解することは到底できないのであって、仮に原告が上記のような不安感を抱いたとしても、権利又は法律上の利益の侵害があり、損害が発生したと評価することはできない。

上記判例のポイント2は、個々人の不安感については理解できるところですが、法的保護に値する利益とまではいえないという判断です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

大規模修繕・建替え1 大規模修繕工事の際に、立体駐車場部分の外壁等を修繕の対象から除かれたため、やむなく原告において自己の費用で修繕工事を行ったことを理由とする不当利得返還請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、大規模修繕工事の際に、立体駐車場部分の外壁等を修繕の対象から除かれたため、やむなく原告において自己の費用で修繕工事を行ったことを理由とする不当利得返還請求が棄却された事案(東京地判平成28年9月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である原告が、同マンションの管理組合である被告に対し、マンション大規模修繕工事の際に、マンションの立体駐車場部分の外壁等が修繕の対象から除かれたため、やむなく原告において自己の費用で修繕工事を行ったことで、法律上の原因なくして被告が修繕工事費用分の利得を得ているとして、不当利得に基づき、利得金の返還を求めるとともに、選択的に、被告の修繕義務の不履行に基づいて、上記費用支出額相当の損害の賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・以上の検討結果を総合すれば、社会通念に照らし、本件立体駐車場部分は、本件マンションと一棟の建物として構成されず、別棟となるものと認められる(本件立体駐車場部分は、マンション敷地内の別棟の立体駐車場棟ということになるから、区分所有建物の建物部分ではない。)。

2 本件総会において、本件決議により、本件工事の対象に本件外壁が含まれないものとして多数決により承認可決されている。
本件外壁を含む本件立体駐車場部分が本件マンションとは別棟である以上、本件外壁を本件マンションの大規模修繕工事の対象に含めるか否かについて、集会の多数決の決議で決することとしても、本件管理規約に反せず、違法はない
本件決議により、不利益を被ることが合理的に予想される原告及び原告関係者は、集会の議事進行手続において、質問し、異議を述べる機会を与えられており、実際にもCは異議を述べる等しているし、原告、C及びAは大規模修繕工事に関する議案(第5号議案)に反対の議決権を行使している。
そうだとすると、本件総会の招集手続、議事進行について、手続的瑕疵があったとは認められない。
なお、本件立体駐車場部分に関する前記検討結果を踏まえれば、平成11年工事と本件工事とで大規模修繕工事の実施範囲が異なる結果となったとしても、いずれも適法な多数決決議で行われたものであって違法な決議ではない
以上によれば、本件外壁を大規模修繕工事対象に含めなかったことは適法な総会決議に基づく決議事項であり、このことをもって、不当利得にいう「法律上の原因がないこと(民法703条)」にはならない
そうすると、原告の主張する不法利得返還請求権は理由がないことになる。

不当利得構成、債務不履行構成ともに要件を満たさないため、請求棄却となりました。

ちなみに、事務管理構成も本人の意思に反しないとはいえないため、こちらも難しいでしょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。