Category Archives: 名誉毀損

名誉毀損3 理事長が配布・掲示した議案書につき名誉毀損が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事長が配布・掲示した議案書につき名誉毀損が否定された事案(広島高判平成15年2月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合の理事長が配布・掲示した議案書につき名誉毀損に該当するかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 管理業者の選定という性質上、事務処理が適法なものであってもこれに不満を持つことはあり得るから、否定的評価をされた一審原告の委託事務処理状況に契約違反等の違法な点がない場合でも、それだけで虚偽事実の記載あるいは名誉・信用を毀損する表現であるということはできず、違法行為もしくは契約違反に該当するような虚偽の事実を摘示した場合や記載された否定的評価(意見・評論)が公的な利害にかかわる事項と無関係な人身攻撃に類する不公平なものである場合でなければ、その否定的評価を示す用語が激越・辛辣なものであっても、名誉毀損の責任を追及されるものではない

管理会社とすると、管理組合からの意見や批判については相当程度これを甘受すべき立場にあるということを理解することが求められます。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損2 管理費の滞納者を公表する立看板の設置は名誉を害する不法行為を構成せず慰謝料請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費の滞納者を公表する立看板の設置は名誉を害する不法行為を構成せず慰謝料請求が棄却された事案(東京地判平成11年12月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理費の滞納者を公表する立看板の設置は名誉を害する不法行為に該当するかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

不法行為にあたらない

【判例のポイント】

1 本件立看板の文言及びその記載内容は、単に原告B山らが管理費を滞納している事実及びその滞納期間等を摘示したもので、原告B山らには管理費の支払義務があるので、その内容は虚偽ではない。
次に、A町会は、総会における会員の発議により、総会の決議に基づき役員会の決議を経た上で会則の適用を決定し、その後、滞納金額等を公表すること及び管理費納入の意思があれば公表を控える旨を原告B山らに通知し、本件立看板設置前に一応の手段を講じている。
そして、原告B山らの「Aを明るくする会」がA町会を批判してそのメンバーが管理費を滞納していること及び本件立看板は34か所にもわたって設置され、本件別荘地に住民以外の者も出入りできるため、住民以外の者も原告B山らが管理費を滞納している事実を容易に知り得る状態にあったという事情はあるが、A町会としては、管理費を支払っている会員との間の公平を図るべく、原告B山らにつきサービスが停止されたことを関係者(来訪者など)に知らせ、ゴミステーションの利用等浮山町会が提供するサービスを利用させないようにするために、本件立看板を、特にその大半をゴミステーション付近に設置したものであり、公表という措置そのものがもつ制裁的効果はあるとしても、ことさら不当な目的をもって設置したものとまではいえない
また、本件立看板が一年以上設置されたのは、原告B山らが依然として管理費を支払おうとしないためであり、A町会は、管理費を一部でも支払えば氏名を削除するという対応をとっていたものである。

2 このように、本件立看板の設置に至るまでの経緯、その文言、内容、設置状況、設置の動機、目的、設置する際に採られた手続等に照らすと、本件立看板の設置行為は、管理費未納会員に対する措置としてやや穏当さを欠くきらいがないではないが、本件別荘地の管理のために必要な管理費の支払を長期間怠る原告B山らに対し、会則を適用してサービスの提供を中止する旨伝え、ひいては管理費の支払を促す正当な管理行為の範囲を著しく逸脱したものとはいえず、原告B山らの名誉を害する不法行為にはならないものと解するのが相当である。

非常に際どい判決内容となっています。

上記判例のポイントのとおり、本件は、立て看板の設置目的(目的の公益性)を重視されたことからなんとか不法行為責任を免れた感が否めません。

これが単なる制裁目的や支払を間接的に強制する目的である場合には、不法行為責任が認められる可能性も十分ありますのでご注意ください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

名誉毀損1 管理組合役員が総会で滞納問題を議論するために滞納組合員の氏名を議案の内容として公表したことが名誉毀損(不法行為)にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

管理組合役員が総会で滞納問題を議論するために滞納組合員の氏名を議案の内容として公表したことが名誉毀損(不法行為)にあたらないとされた事案(広島地判平成14年9月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合役員が総会で滞納問題を議論するために滞納組合員の氏名を議案の内容として公表したことが名誉毀損(不法行為)にあたるかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

原告は、毎月2000円の管理費の滞納については、経費節約問題に関する被告ら理事の姿勢に対する批判の意を明らかにし、自己の見解の正しさを訴える趣旨で、いわば自己の正当と信じる信念に基づきあえて管理費増額分の一部の支払を留保しているというのであり、またその余の滞納分は、原告において管理組合が支払うべきものと考える工事代金の立替分を管理費から差し引いたというのである。
そして、第25回通常総会及び臨時総会議案書では、原告の管理費滞納経緯の説明の中で、原告のそのような主張も正確に記載されている。そうしてみると、原告の管理費の滞納は、原告自身正当な根拠ないし権利に基づくと考えあえて行っているものであるから、そのことを管理組合員に知ってもらって何ら不都合はないはずであり(現に原告が毎月の管理費のうち2000円を支払わない旨表明した平成11年8月30日付書面は多くの管理組合員に配布されていることがうかがえる。)、その問題が総会の議題とされれば、原告としては、まさに与えられたその場において自己の見解を訴え管理組合員の理解を得るよう努めればよいのである(それこそが原告の標榜する民主主義であろう。)。にもかかわらず、それが総会の議題とされたことによって人格が傷つけられ社会的名誉が毀損されたとの主張は矛盾しており、採用の余地はなく、名誉毀損の事実を認めることはできない。

本件は、滞納組合員に対するペナルティを目的として氏名の公表を行っている事案ではありません。

本件は、やや特殊な事案ではありますが、裁判所は、そもそも社会的名誉を毀損されたとはいえないと判断しています。

なお、当該事案はその後、控訴棄却となっています(広島高判平成15年1月22日)。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。