Category Archives: 管理費・修繕積立金

管理費・修繕積立金13 管理規約に定めるコミュニティ費について脱退届を提出した後も支払義務があるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理規約に定めるコミュニティ費について脱退届を提出した後も支払義務があるとされた事案(東京地判令和3年9月9日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は原告が、マンション管理組合である被告に対し、当該マンションの管理規約に定めるコミュニティ費用については、平成30年1月31日に脱退届を提出して契約を解除しているため、同年2月分以降支払う義務がないと主張して、平成30年2月分から平成31年3月分までの被告に対する原告の上記コミュニティ費用合計1400円及び同年4月分以降の債務が存在しないことの確認を求めるとともに、名誉毀損等の不法行為に基づく損害賠償として50万円+遅延損害金の支払及び被告の第7期通常総会における第1号議案に係る決議の無効確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、被告の組合員となることでコミュニティへの加入すなわち委任契約が成立していると主張し、脱退届を提出することによってコミュニティから脱退していると主張する
なお、原告によれば、「コミュニティ」は、法的団体ではなく、区分所有者及び賃貸居住者による「人の集団」であって、管理組合の構成員とは一致しておらず、区分所有法の範囲外である旨主張する。
しかし、本件マンションにおいて、区分所有者及び賃貸居住者で構成されている団体があるとは認められず、原告が本件マンションの区分所有者となったことで委任契約が成立したとも認められないから、原告の主張は採用できない。

2 また、原告は、コミュニティ費の徴収及び支出は、管理組合ができる業務の範囲と管理費を超えており、区分所有法3条に反しており無効であると主張する。
しかし、管理組合は、建物、その敷地及び付属施設の管理又は使用に関する事項について、規約で定めることが可能であるところ(区分所有法30条)、コミュニティ費については本件規約にも規定されている
そして、コミュニティ費が、建物、その敷地及び付属施設の管理又は使用に関する事項であるかを検討するに、コミュニティ費は主に本件パーティーに支出されているところ、被告の理事会は、本件パーティーについて、居住者間のコミュニティ形成に寄与し、マンションの治安を維持、ひいてはマンションの資産価値低下を防ぐ効果を持つものとして実施されていると評価している。
上記のように、マンションの住人(本件マンションの区分所有者、居住者又はその家族のみが参加可能であり、自治会ないし町会による会合とは異なるものである。)が互いに交流を持つことにより、一定の防犯効果を期待し、マンションの資産価値低下を防止するとの考え方には一定の合理性がある
また、少なくとも平成28年以降は、アルコールを始めとする飲食物に係る費用についてコミュニティ費用から支出しておらず、本件パーティーへの支出をもって一部の住人らによる懇親会に支出するものと同視することもできない。
そうすると、本件パーティーへの支出があることが想定されたとしても、コミュニティ費用の徴収は区分所有法3条に反しないというべきである。

3 また、原告は、マンション標準管理規約について指摘するが、マンションの標準管理規約は、区分所有者による規約の設定等に当たって参照されるべきモデルないし指針ではあるが、標準管理規約のとおりに規約をつくらなければならないものではなく、標準管理規約の記載から管理組合の目的の範囲の内外が判別されるとはいえない。

管理規約に規定されており、かつ、コミュニティ費の支払については一定の合理性が認められることを理由に原告の請求が棄却されています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金12 団地の管理組合が、総会において、管理組合規約のうち管理費等の負担割合に関する定めを変更する決議をしたところ、団地を構成する商業棟や敷地の共有持分を有する原告らの権利に「特別の影響を及ぼすべきとき」に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、団地の管理組合が、総会において、管理組合規約のうち管理費等の負担割合に関する定めを変更する決議をしたところ、団地を構成する商業棟や敷地の共有持分を有する原告らの権利に「特別の影響を及ぼすべきとき」に該当するとされた事案(札幌地判令和2年4月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件本訴請求及び承継参加に係る訴えは、本件団地の管理組合である被告管理組合が平成28年4月24日に開催した第10回通常総会において、管理規約のうち、管理費等の負担割合に関する定めを変更することを内容とする本件規約変更決議をしたところ、本件規約変更決議は、団地建物所有者である従前原告らの権利に「特別の影響を及ぼすべきとき」に該当し、区分所有法66条、31条1項後段、本件規約変更決議時の管理規約51条5項によれば、従前原告らの承諾が必要となるにもかかわらず、被告管理組合は、その承諾を得ることなく、本件規約変更決議をしたとして、従前原告らが、本件規約変更決議は無効であることの確認を求める事案である。

本件反訴請求に係る訴えは、本件規約変更決議によって従前原告らが支払うべき管理費等の金額が増額となり、その支払うべき管理費等の金額は月額107万1040円となったにもかかわらず、従前原告ら又は原告らは本件規約変更決議以前の管理費等の金額である月額81万9550円を支払うにとどまっているとして、本件規約変更決議後の管理規約の定めに基づき、同年8月から令和元年12月までの41か月分の管理費等について、従前原告ら又は原告らが支払うべき管理費等の金額と支払済みの管理費等の金額の差額(月額25万1490円×41か月分)である1031万1090円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

平成28年4月24日に開催された被告管理組合の第10回通常総会においてされた決議は、無効であることを確認する。

被告管理組合の反訴請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1  区分所有法31条1項後段は、区分所有者間の利害を調整するため、「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めており、ここでいう「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される(最判平成10年10月30日)ところ、同法66条によって同法31条1項後段を準用する場合及び同項後段の下に定められた旧規約51条5項の趣旨も同様であると解される。

2 旧規約における団地管理費等の負担割合を定める方法は、新規約におけるそれと比して合理性を欠いていたものとはいえず、本件規約変更の必要性及び合理性が高かったとはいえない一方で,従前原告らは、団地管理費等に係る本件規約変更によって実質的な利益を得ていないにもかかわらず、本件規約変更前と比して大きな負担の増加を強いられることとなり、その均衡を失しているものといわざるを得ない。
ところで、従前原告らは本件商業業務棟の共有者であり、被告管理組合の組合員の大半は、本件住居棟の区分所有者であるところ、本件商業業務棟の共有者と本件住居棟の区分所有者では、本件団地の利用方法、利用価値が、営業活動の場であるか生活の場であるかという点で大きく異なることは明らかである。
しかしながら、本件住宅棟以外団地共用部分を構成する設備や本件敷地の状況に照らせば、本件住宅棟以外団地共用部分及び本件敷地のうち、屋内通路等、本件住居棟の区分所有者のみがその利益を享受し得るものはあるが、本件商業業務棟の共有者のみがその利益を享受可能なものは必ずしも多くはなく、少なくとも、本件商業業務棟の共有者において本件敷地及び本件住宅棟以外団地共用部分から受ける利益が、本件住居棟の区分所有者が受けるそれと比して大きいとはいえない
この点、団地型規約においては、団地管理費等を定めるに当たり、使用頻度等は勘案しないこととしているが、団地型規約が本件団地に直ちに適用されるわけではないことに加え、本件規約変更に伴って従前原告らが受ける不利益の程度を検討するに当たって、このような実態を考慮することは、必ずしも禁止されるものではないと解される。
このような本件住宅棟以外団地共用部分及び本件敷地の利用実態にも照らせば、本件規約変更決議のうち団地管理費等の負担割合を定める方法を変更する部分は、本件商業業務棟の所有者(共有者)に与える不利益がその受忍限度を超えていると認められる。
したがって、同部分の変更は、従前原告らに対して「特別の影響を及ぼすべきとき」に該当する。

本件では、複合団地において商業棟と住宅棟の各区分所有者間での比較衡量が行われています。

区分所有法31条1項後段の解釈においては、団地型規約に関する考え方(使用頻度等は勘案しない)がストレートに妥当しないことが書かれています。

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管理費・修繕積立金11 区分所有法所定の先取特権を有する債権者の配当要求により配当要求債権に時効中断効が生ずるためには民事執行法181条1項各号に掲げる文書により上記債権者が上記先取特権を有することが不動産競売手続において証明されれば足りるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有法所定の先取特権を有する債権者の配当要求により配当要求債権に時効中断効が生ずるためには民事執行法181条1項各号に掲げる文書により上記債権者が上記先取特権を有することが不動産競売手続において証明されれば足りるとされた事案(最判令和2年9月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの団地管理組合法人である上告人が、本件建物部分を担保不動産競売によって取得した被上告人に対し、上記競売前に本件建物部分の共有者であった者(本件被承継人)が滞納していた管理費、修繕積立金、専用倉庫維持費等及びこれらに対する遅延損害金の支払義務は区分所有法66条で準用される区分所有法8条に基づき被上告人に承継されたとして、上記管理費等及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

被上告人が、平成29年法律第44号による改正前の民法169条に基づき、上記管理費等のうち支払期限から5年を経過したものに係る債権は時効消滅した旨主張しているのに対し、上告人は、上記債権の一部について本件被承継人による債務の承認がされた後、本件建物部分の本件被承継人の共有持分についての強制競売の手続において、上記債権のうち本件配当要求債権等について、区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有するとして、民事執行法51条1項に基づいて配当要求をし、これにより、本件配当要求債権について消滅時効の中断の効力が生じている旨主張して争っている。

原審(東京高判平成30年11月8日)は、本件配当要求債権は時効消滅したとして、上告人の請求の一部を認容し、その余を棄却すべきものとした。

【裁判所の判断】

破棄差戻し

【判例のポイント】

1 区分所有法7条1項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、一般の先取特権である共益費用の先取特権(民法306条1号)とみなされるところ(区分所有法7条2項)、区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が不動産競売手続において民事執行法51条1項(同法188条で準用される場合を含む。)に基づく配当要求をする行為は、上記債権者が自ら担保不動産競売の申立てをする場合と同様、上記先取特権を行使して能動的に権利の実現をしようとするものである。
また、上記配当要求をした上記債権者が配当等を受けるためには、配当要求債権につき上記先取特権を有することについて、執行裁判所において同法181条1項各号に掲げる文書(法定文書)により証明されたと認められることを要するのであって、上記の証明がされたと認められない場合には、上記配当要求は不適法なものとして執行裁判所により却下されるべきものとされている。
これらは、区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権についても同様である。

2 以上に鑑みると、不動産競売手続において区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより、上記配当要求における配当要求債権について、差押え(平成29年法律第44号による改正前の民法147条2号)に準ずるものとして消滅時効の中断の効力が生ずるためには、法定文書により上記債権者が上記先取特権を有することが上記手続において証明されれば足り、債務者が上記配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく配当等が実施されるに至ったことを要しないと解するのが相当である。

3 以上によれば、法定文書により上告人が区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有することが本件強制競売の手続において証明されたか否かの点について審理することなく、本件配当要求債権及びこれらに対する遅延損害金の支払請求に関する部分を棄却すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

マニアックなテーマですが、専門家は知っておくべき重要な最高裁判決です。

なお、改正後の民法において上記配当要求が時効の完成猶予・更新事由となるか否かは、引き続き解釈に委ねられているため、本最高裁判決はその解釈においても参考になります。

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管理費・修繕積立金10 管理費等の滞納が解消されたにもかかわらずマンション全戸に誤って事実と異なる通知をしたことが名誉棄損に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等の滞納が解消されたにもかかわらずマンション全戸に誤って事実と異なる通知をしたことが名誉棄損に該当するとされた事案(東京地判令和3年3月5日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、(1)原告X1が、被告Y1が被告管理組合の理事長として、管理組合の総会の開催通知に区分所有者である原告X1が管理費を滞納している状況にある旨の虚偽の事実を記載してこれを住民に配布し、原告X1の滞納を前提とする議案を提出して原告X1の名誉を毀損した行為は、被告Y1の不法行為を構成するとして、被告Y2管理組合は、一般社団法人法78条の準用により被告Y1と同様の責任を負うとして、被告らに対し、連帯して、慰謝料100万円+遅延損害金の支払を、(2)原告X2が、被告Y1が被告管理組合の理事長として、原告X2が原告X1の代理として出席した被告管理組合の総会において、原告X1の管理費滞納はすでに解消していたにもかかわらず、これが残存しているかのような言動を示して参加者らにおいて原告X1が管理費を滞納している状況にあると誤信させ、原告X1の滞納を前提とする議案を可決させて原告X2の名誉を毀損した行為は、被告Y1の不法行為を構成するとして、被告Y2管理組合は、一般社団法人法78条の準用により被告Y1と同様の責任を負うとして、被告らに対し、連帯して、慰謝料100万円+遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

被告らは、原告X1に対し、連帯して、50万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 被告Y1による平成30年9月臨時総会開催通知及び令和元年7月21日総会開催通知の配布は、原告X1に対する不法行為を構成する。

2 平成30年9月臨時総会開催通知及び令和元年7月21日総会開催通知は、いずれも原告X1が本件マンションの区分所有者としての管理費等支払義務を履行せず、その金額が高額になるに至っていることを示すものであり、原告X1の社会的評価を低下させる度合いは大きい
また、被告Y1は、これらの開催通知を本件マンションの全78戸に配布しているから、これらの開催通知に記載されている名誉毀損情報が頒布された範囲も小さいとはいえない
原告X1においては、自らの管理費等の滞納問題は終局的に解決したものと認識していたのに、これを覆す被告Y1の配布行為により大きな精神的衝撃を受けたと認めることができる。
一方で、平成30年9月臨時総会開催通知及び令和元年7月21日総会開催通知が配布されたのは本件マンションの全戸に限られ、社会の広範囲にわたって原告X1の管理費等の滞納に係る情報が流布されたとはいえないこと、原告らは本件マンションに居住しておらず他の区分所有者と顔を合わせる機会は限られていたといえる。
このような本件にあらわれた一切の事情を総合的に考慮すれば、平成30年9月臨時総会開催通知及び令和元年7月21日総会開催通知の配布行為によって原告X1が被った精神的損害を回復するために被告Y1が支払うべき慰謝料は50万円をもって相当と認めることができる。

管理費等の滞納が実際には解消されていたにもかかわらず、事実と異なる情報をマンションの全戸に通知したことが名誉毀損に該当すると判断されています。

故意にこのようなことを行うことは少ないと思いますが、調査不足により誤ってこのような行為をしてしまったとしても過失による不法行為に該当しますので注意が必要です。

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管理費・修繕積立金9 管理規約の改定に伴う管理費及び修繕積立金の増額が「特別の影響」に該当せず被告の承諾を要しないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理規約の改定に伴う管理費及び修繕積立金の増額が「特別の影響」に該当せず被告の承諾を要しないとされた事案(東京地判令和2年10月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合である原告が、同マンションの居室の区分所有者であり、組合員である被告に対し、従前の組合の規約を改定する組合総会の決議に基づき、管理費及び修繕のための積立金の未払分の支払を求めるとともに、遅延損害金(確定遅延損害金を含む。)並びに現行の規約に基づく違約金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、77万2885円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件改定が、aマンションの区分所有者の1人である被告の権利に区分所有法31条1項後段所定の「特別の影響」を及ぼすものであれば、本件改定について被告の承諾を要することになり、同承諾を得ずになされた本件決議は無効となる。
区分所有法31条1項後段の趣旨は、規約の設定、変更等が区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による総会の決議によってされ(同項前段)、多数者の意思によって特定の少数者のみに不利益な結果をもたらす規約の設定、変更等が実現するおそれがあることから、そのような事態の発生を防止することにあり、「特別の影響」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれにより受ける一部の区分所有者の不利益とを比較衡量して、当該区分所有者が受忍すべき程度を超える不利益を受けると認められる場合を指すものと解される。

2 本件改定についてみると、本件決議がなされた平成29年5月27日当時、aマンションには被告を含め9名の区分所有者がおり、本件改定後の管理費等は、被告において月額5万円に増額されたほか、結果として月額3万円にとどまった者が2名、月額3万1000円に増額された者が1名、月額3万2000円に増額された者が2名、月額3万5000円に増額された者が1名、月額3万6000円に増額された者が2名であった。確かに、本件改定により、被告の管理費等は、他の区分所有者の管理費等に比して大きく増額されたものということができる。
そこで検討するに、本件改定の対象となった管理費等は、当時効力を有していた乙2規約においては管理共有物の管理に関する業務に要する費用に充てるためのものであり、共用部分の管理に関する必要経費に充てるために組合員に課されたものといえる。
共用部分に関し、区分所有法は、①14条1項において、各共有者の共用部分の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による旨を、②19条1項において、各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じる旨をそれぞれ定めている。
これらの規定によれば、同法は、共用部分の負担につき、各区分所有者が各自の専有部分の床面積の割合に応じて引き受けることをもって、それぞれに応分の負担をさせる実質的公平にかなう原則的な取扱いとしたものと解される、そうすると、各区分所有者一律に月額3万円の管理費等を課していた従前の規約は、専有部分の床面積が比較的少ない区分所有者に実質上過度の負担を課していたという問題点があったということができる。
したがって、上記従前の規約を改めて管理費等の額を各専有部分の登記簿面積に応じた按分額に改定する旨の本件改定は、上記問題点を是正し、区分所有法の原則的な取扱いを採用するものであるから、必要性、合理性とも十分に認められるものというべきである。

3 そして、本件改定による変更後の規約は、被告のみならず全区分所有者に適用され、上記のとおり被告の管理費等が他の区分所有者の管理費等に比して大きく増額されたのは、被告の専有部分の登記簿面積が他の区分所有者に比して広いことによる必然の結果にほかならず、不合理ということはできない
本件改定による被告の管理費等の増額は、上記の本件改定の必要性、合理性と比較衡量して、被告が受忍すべき限度を超える不利益に当たらないと考える。
以上によれば、本件改定は、被告の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、よって、本件改定に被告の承諾は要しない。

区分所有法31条1項後段の「特別の影響」に関する考え方は非常に重要です。

本件同様、「特別の影響」のあてはめが争点となった裁判例をフォローしていくと裁判所の考え方や傾向を理解することができますので、是非、複数の裁判例を確認してください。

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管理費・修繕積立金8 管理組合による管理が不十分であったことを理由に管理費及び修繕積立金を滞納することの是非(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合による管理が不十分であったことを理由に管理費及び修繕積立金を滞納することの是非(東京地判令和3年4月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合である原告が、本件マンションの一部である本件区分所有建物の区分所有者である被告に対し、未払の管理費及び修繕積立金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告は、令和元年7月6日より前は管理組合が存在せず、支払先も存在しないとか、過去に管理がなされていなかったから管理費等を支払う必要はないなどと主張する。
しかしながら、同日より前であっても、本件原始管理規約が有効に存在しており、これに基づき、区分所有者に管理費等を負担する義務がある

2 また、区分所有法3条によれば、区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を当然に構成するものとされるから、同日より前であっても、同条に基づく団体が存在していたというべきである。
そして、この団体が、同日より前においては、法人格や社団性を備えない民法上の組合にすぎなかったとしても、本件マンションが、居住に耐え得る状態を維持してきたこと、過去にも実際に管理費等が支払われていた事実があることなどからすれば、その間、その団体によって保存、管理行為が行われていたものと推認され、構成員である区分所有者が、その費用を負担しない理由はない(なお、実際に、Aが、共用部の清掃や修理修繕を行っていた事実が認められ、委任ないし事務管理に基づく費用が発生している余地がある。)。

3 また、被告は、管理状況等の書類が開示されない限り支払わないといった趣旨の主張もするが、これは、原告からの支払請求に対し何らの抗弁にもならない。

被告は、本件訴訟において「被告が本件区分所有建物を取得した時点では、エレベーターが動いておらず、ゴミなども落ちて汚れており、管理がされていなかったものといえる。」と主張しましたが、上記判例のポイント2のとおり、この主張は採用されませんでした。

仮にエレベーターが動いておらず、ゴミ等が落ちて汚れていたとしても、そのことをもって管理費・修繕積立金を支払われない理由とはなりません。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金7 一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料につき生ずる不当利得返還請求権を他の区分所有者が行使することができないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料につき生ずる不当利得返還請求権を他の区分所有者が行使することができないとされた事案(最判平成27年9月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者の1人である上告人が、同じく本件マンションの区分所有者である被上告人に対し、不当利得返還請求権に基づき、被上告人が本件マンションの共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち共用部分に係る上告人の持分割合相当額の金員及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権は各区分所有者に帰属するから、各区分所有者は、原則として、上記請求権を行使することができるものと解するのが相当である。

2 建物の区分所有等に関する法律は、区分所有者が、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体(区分所有者の団体)を構成する旨を規定し(3条前段)、この団体の意思決定機関としての集会の招集手続並びに決議の方法及び効力等や、この団体の自治的規範としての規約の設定の手続及び効力等を規定している(第1章第5節)。
また、同法18条1項本文及び2項は、区分所有者に建物の区分所有という共同の目的があり、この共同目的達成の手段として共用部分が区分所有者全員の共有に属するものとされているという特殊性に鑑みて、共用部分の管理に関する事項は集会の決議で決するか、又は規約で定めをする旨を規定し、共用部分の管理を団体的規制に服させている。
そして、共用部分を第三者に賃貸することは共用部分の管理に関する事項に当たるところ、上記請求権は、共用部分の第三者に対する賃貸による収益を得ることができなかったという区分所有者の損失を回復するためのものであるから、共用部分の管理と密接に関連するものであるといえる。
そうすると、区分所有者の団体は、区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を集会で決議し、又は規約で定めることができるものと解される。
そして、上記の集会の決議又は規約の定めがある場合には、各区分所有者は、上記請求権を行使することができないものと解するのが相当である。
そして、共用部分の管理を団体的規制に服させている上記のような建物の区分所有等に関する法律の趣旨に照らすと、区分所有者の団体の執行機関である管理者が共用部分の管理を行い、共用部分を使用させることができる旨の集会の決議又は規約の定めがある場合には、上記の集会の決議又は規約の定めは、区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解される。

3 これを本件についてみると、本件マンションの管理規約には、管理者が共用部分の管理を行い、共用部分を特定の区分所有者に無償で使用させることができる旨の定めがあり、この定めは、区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解すべきであるから、上告人は、不当利得返還請求権を行使することができない。

最高裁は、区分所有者個人が個別に不当利得返還請求権を行使することは、原則として認められるとしつつ、本件においては、例外にあたるため、認められないと判断しました。

ただ、実際のところ、最高裁が示した原則に該当するマンションがどれほどあるのでしょうか。

多くのマンションが、本件同様、例外にあたり、結果、個人による不当利得返還請求ができないことになると思われます。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金6 専有部分の共有者に対する管理費・修繕積立金の支払債務は不可分債務であるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分の共有者に対する管理費・修繕積立金の支払債務は不可分債務であるとされた事案(東京地判平成25年11月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理組合である原告が、区分所有建物の共有者である被告に対し、未払いの管理費・修繕積立金等及びこれに対する弁済期の翌日から支払済みまでの管理規約に定める遅延損害金を請求するとともに、管理規約に定める管理費等の滞納があった場合の違約金としての弁護士費用等及びこれに対する催告の日から支払済みまでの民事法定利率に基づく遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、金197万9241円及び内金155万8500円に対する平成25年10月1日から支払済みまで年14%の割合の金員を支払え。

被告は、原告に対し、金31万6686円及びこれに対する平成25年10月3日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

管理費(本件マンションの管理規約26条)は、共用部分の清掃、保守、修繕、防犯及び組合の運営などの区分所有者に対する不可分的な利益の対価であると認められる。   
その他の修繕費(同27条)も、共用部分の将来の修繕という不可分的な利益を享受するための積み立てであり、使用料(同28条)も共用部分の使用という不可分的な利益の対価であると認められる。そして、遅延損害金はこれらに付随するものであるし、本件弁護士費用等も不可分的給付の対価の不履行によって生じる違約金(損害賠償請求権)である。
これらの事情によれば、本件管理費等並びに遅延損害金及び本件弁護士費用等は、いずれも不可分的給付の対価として、性質上不可分の不可分債務(民法430条)に該当するというべきである。

本裁判例は、共有者全員を共同被告とすることなく、共有者2名のうち1名のみを被告としています。

未払管理費等が不可分債務に該当するとされた結果、共有者1名に対して全額の請求が認められました。

共有者2名を被告とする場合には、「連帯して」支払うことを求めることになります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金5 将来分の管理費の請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、将来分の管理費の請求が認容された事案(東京地判平成10年4月14日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有マンションの管理組合である原告が、その区分所有者である被告に対し、未納の管理費等の支払を求めるとともに、将来の管理費等についてもその期限ごとの支払を求めている事件である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

将来の給付の訴えは、あらかじめその請求をして給付判決を得ておく必要のある場合に限り認められるところ、被告の管理費等の支払義務は継続的に月々確実に発生するものであること、本件マンションは戸数一〇戸の比較的小規模なマンションであり、被告一人の管理費等の滞納によっても、原告はその運営や財政に重大な支障を来すおそれが強いこと、将来分をも含めて、被告の管理費等支払拒絶の意思は相当に強く、将来分の管理費についても被告の即時の履行が期待できない状況にあることなどが認められ、以上の事実によれば、将来の履行期未到来の管理費等(有線使用料を含む)の支払請求も認められる。

将来給付の訴えは、「あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる」(民訴法135条)とされています。

裁判所は、「請求をする必要がある場合」について厳格に解する傾向にあるため、当該必要性を基礎づける事情を具体的に主張・立証することが求められます。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理費・修繕積立金4 管理規約に弁護士費用を負担させる旨の規定が存在しない場合に、弁護士費用を負担させる旨を定めた総会決議が無効とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

管理規約に弁護士費用を負担させる旨の規定が存在しない場合に、弁護士費用を負担させる旨を定めた総会決議が無効とされた事案(東京高判平成7年6月14日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理規約に弁護士費用を負担させる旨の規定が存在しない場合に、弁護士費用を負担させる旨を定めた総会決議の効力が争われた事案である。

【裁判所の判断】

総会決議は無効

【判例のポイント】

1 区分所有法18条1項本文は、共用部分の管理に関する事項は、同法17条の場合を除いて、集会の決議で決するものと規定しているところ、管理費等の支払に関する事項が共用部分の管理に関する事項に当たることは明らかであるから、管理費等の取立訴訟を提起するために必要な弁護士費用の負担に関する事項もまた、共用部分の管理に関する事項に当たるものということができる。ところで、共用部分の管理に関する事項に当たる場合にも、集会で決議することのできる内容には自ずから一定の制限があると解される。すなわち、例えば、特定の組合員に対して、その意に反して一方的に義務なき負担を課し、あるいは、他の組合員に比して不公正な負担を課するような決議は、集会が決議できる範囲を超えたものとして無効というべきである。

2 これを本件についてみると、控訴人は、被控訴人に対し、債務不履行に基づき弁護士費用相当額の損害賠償の支払義務を負うものでないことは前記のとおりであるし、また、現行法のもとでは、控訴人は訴訟の相手方の負担した弁護士費用そのものの支払義務を負うものではないので、本件決議は、右に説示したところによれば、控訴人に対し、その意に反して一方的に義務なき負担を課し、あるいは、他の組合員に比して不公正な負担を課するものであり、無効というべきである

つまりは、管理規約に違約金としての弁護士費用等を請求することができる旨を規定していない限り、当然には請求できないということです。

多くの管理規約において、標準管理規約に倣い、弁護士費用を負担させる旨の規定が存在しますので、あまり問題になることはありませんが、念のため押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。