Category Archives: 管理組合運営

管理組合運営8 管理組合が保管する管理規約及び議事録の閲覧謄写請求が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合が保管する管理規約及び議事録の閲覧謄写請求が認められなかった事案(東京地判令和3年4月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告に対し、管理組合規約57条3項に基づき被告の保管する別紙請求文書目録記載の文書について閲覧及び謄写を求める請求である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件管理規約によれば、謄写を認める規定はない。謄写をするに当たっては、謄写作業を要し、謄写に伴う費用の負担が生じるといった点で閲覧とは異なる問題が生じるのであるから、閲覧が許される場合に当然に謄写も許されるということはできないのであり、謄写請求権が認められるか否かは、当該規約が謄写請求権を認めているか否かによるものと解される。
本件管理規約には、上記のとおり閲覧を認める規定はあるが、謄写を認める規定は存しないのであり、原告が謄写請求権を有するとする主張には理由がない

2 原告は、閲覧謄写を求める文書のうち、規約についてY管理組合規約の効力発生日(昭和54年7月1日)から提訴時(令和2年2月7日)までに改正された規約原本及び改正履歴の閲覧謄写を求める。
しかしながら、規約については、区分所有者及びそれ以外の利害関係人に影響を及ぼすことから、閲覧が保障さなければならないのがその趣旨であるところ、上記の趣旨に鑑みれば現に効力を有しているものと解するのが相当である。

3 原告が請求する総会議事録及び理事会議事録は膨大である。原告は第6期頃には理事長だったのであり、同時期以前の記録は保管していたことが認められるほか、他にも、被告が自認するだけでも、一部の議事録の交付を受けていることが認められる。
さらに、本訴提起後の令和2年9月16日にも、日時について一定の候補を挙げた上で、閲覧日時の通知を行い、また、同年10月7日にも場所及び時間を指定した上で(同月26日午後1時から本件マンション管理棟2階の第2会議室)閲覧をする機会を与えていることが認められる。
以上によれば、原告の請求については、原告が所持している議事録についての重複請求が含まれているほか、現に被告が閲覧時間及び場所を確保し提供しているのにこれを拒否している事実が認められるから、現時点においては、被告には閲覧を拒否する正当な理由が認められる

原告が閲覧謄写を求めた文書は、理事会議事録、定期総会及び臨時総会議事録、管理規約原本です。

区分所有法33条、同42条においても、正当な理由がある場合を除いて、規約や議事録の「閲覧」を拒んでならないとされています(「謄写」に関する明文規定はなし)。

本裁判例では、上記判例のポイントのとおり、①謄写請求は認められない、②現に効力を有するもののみが対象となる、③閲覧を拒否する正当な理由があると判断しました。

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管理組合運営7 臨時総会における白紙委任状の有効性(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、臨時総会における白紙委任状の有効性(横浜地判平成3年12月12日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、臨時総会における白紙委任状の有効性が争点となった事案である。

【裁判所の判断】

有効

【判例のポイント】

区分所有法上、議決権行使の方法については、区分所有権者が集会に出席して直接行使する方法のほか、書面投票または代理人による議決権行使の方法が認められているが(39条2項)、法は書面投票と議決権の代理行使との間に特段の優劣を設けておらず、代理行使の方法についても具体的な定めを置いていないから、委任状により議決権を代理人に行使させることが法の趣旨に反するとは考えられず、しかも、本件臨時総会に当たって提出された13通の委任状は議案の要領およびその内容を事前の通知によって認識した各区分所有権者が、総会議長を代理人に選任すると従前の経緯から新規約改正に賛成の議決権行使が予測でき、総会議長以外の者を代理人に選任して議決権を行使することも許容されるという前提のもとに、予め配布された用紙を利用して提出したものであると認められるから、受任者および委任事項とも白紙であるとはいえず、右各委任状について被告の主張するような瑕疵はなく、その余の点について判断するまでもなく抗弁1は理由がない。

上記のとおり、裁判所は、白紙委任状の効力を認めましたが、とはいえ、訴訟において争点となっている以上、決して好ましい方法とはいえません。

白紙委任状を提出するくらいなら、議決権行使書によって自らの賛否の意思表示をするほうがいいでしょう。

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管理組合運営6 理事会への代理出席の当否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事会への代理出席の当否(最判平成2年11月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合法人の理事会への理事の代理出席を認める規約の定め及び理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、その理事を代理して理事会に出席させることができる旨を定めた条項の当否が争点となった事案である。

【裁判所の判断】

1 管理組合法人の理事会への理事の代理出席を認める規約の定めは違法でない。

2 管理組合法人の規約中、理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、その理事を代理して理事会に出席させることができる旨を定めた条項は違法でない。

【判例のポイント】

1 法人の意思決定のための内部的会議体における出席及び議決権の行使が代理に親しむかどうかについては、当該法人において当該会議体が設置された趣旨、当該会議体に委任された事務の内容に照らして、その代理が法人の理事に対する委任の本旨に背馳するものでないかどうかによって決すべきものである。

2 これを、管理組合についてみるに、法によれば、管理組合の事務は集会の決議によることが原則とされ、区分所有権の内容に影響を及ぼす事項は規約又は集会決議によって定めるべき事項とされ、規約で理事又はその他の役員に委任し得る事項は限定されており(法五二条一項)、複数の理事が存する場合には過半数によって決する旨の民法五二条二項の規定が準用されている。しかし、複数の理事を置くか否か、代表権のない理事を置くか否か(法四九条四項)、複数の理事を置いた場合の意思決定を理事会によって行うか否か、更には、理事会を設けた場合の出席の要否及び議決権の行使の方法について、法は、これを自治的規範である規約に委ねているものと解するのが相当である。すなわち、規約において、代表権を有する理事を定め、その事務の執行を補佐、監督するために代表権のない理事を定め、これらの者による理事会を設けることも、理事会における出席及び議決権の行使について代理の可否、その要件及び被選任者の範囲を定めることも、可能というべきである。

3 そして、本件条項は、理事会への出席のみならず、理事会での議決権の行使の代理を許すことを定めたものと解されるが、理事に事故がある場合に限定して、被選任者の範囲を理事の配偶者又は一親等の親族に限って、当該理事の選任に基づいて、理事会への代理出席を認めるものであるから、この条項が管理組合の理事への信任関係を害するものということはできない

実務では基本的な事項ですのでしっかり押さえておきましょう。

なお、平成18年の区分所有法改正前の49条4項は、同年の改正により、同条5項になっています。

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管理組合運営5 特定の区分所有者の役員への立候補及び理事会運営参加資格を永久に喪失させる旨の決議が公序良俗に反するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、特定の区分所有者の役員への立候補及び理事会運営参加資格を永久に喪失させる旨の決議が公序良俗に反するとされた事案(東京地判平成29年3月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件事件は、本件マンションの区分所有者又はその配偶者である原告らが、被告は本件マンションの区分所有者の全員で構成される建物の区分所有法47条1項に基づく管理組合法人であるところ、平成27年6月6日に開催された被告の臨時総会において、1ないし3の各決議がされたが、本件各決議は公序良俗に反するなどと主張して、被告に対し、本件各決議がいずれも無効であることの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

本件決議1は、組合員総数の4分の3以上、かつ、議決権総数の4分の3以上が賛成する特別決議をもって、特定の者が被告の役員に立候補する機会及び理事会の運営に参加する機会を永久に喪失させるとする新規約50条3項8号を本件規約に追加して設けるものである。

しかし、被告の組合員にとって被告の役員に就任する資格は非常に重要なものであるにもかかわらず、新規約50条3項8号は、特別決議によって、本件規約35条1項によれば役員に就任する資格を有する組合員又はその関係者が役員に立候補することができないようにするものであり、さらに、本件マンションの区分所有権を有する限り、被告の組合員であり続けるにもかかわらず、立候補することができない期間は「永久」であることを考えると、新規約50条3項8号は極めて大きな制約を課すものといえる。
そして、候補者が役員にふさわしくないというのであれば、役員に選任しなければよいのであり、これに立候補することを未来永劫許さないとする合理的な理由は見いだし難い

同裁判例は、その後、控訴されていますが、控訴審も同様の判断をしています(東京高判平成29年8月30日)。

上記判例のポイント1記載のとおり、このような制約は客観的に合理的な理由が見出し難いため無効です。

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管理組合運営4 法人でない管理組合の理事の解任請求の可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、法人でない管理組合の理事の解任請求の可否(東京地判平成28年4月11日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、法人でない管理組合の理事に対する解任請求の可否が争点となった事案である。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

1 区分所有法は、管理組合法人による管理が円滑に行われるよう、理事の権限につき法律で明確化を図り、さらに、その法律で規定された理事の権限が大きく、区分所有者の利害に大きな影響を及ぼすものであることから、区分所有者の利益を保護するため、集会の決議により解任する場合以外にも理事を解任する方法として、解任請求の制度を特に設けたものと解される。また、管理組合法人の理事に対する解任請求の訴えの性質は、管理者の解任請求について定めた同法25条2項と同様に、形成の訴えであると解される。

2 他方、区分所有者により構成される区分所有法3条の団体のうち、管理組合法人ではないもの(以下「非法人管理団体」という。)において、その管理規約に役員として理事を置く旨の規約があったとしても、理事の選任及び解任といったその地位に関わる事項やその権限の内容については、区分所有法の定めるところではなく、その団体の自治に委ねられていると解される。
そして、非法人管理団体において管理者が選任されている場合には、その権限の内容は、管理組合法人の理事と同様、法律によって規律されており、理事と同様に、管理者に不正な行為その他職務を行うに適しない事情があるときに、区分所有者が裁判所に解任を請求することができる(法25条2項)こととされているが、上記の理事については、その権限の内容が団体自治に委ねられている以上、その解任等区分所有者の利害との調整方策についても、区分所有法は、団体の自治に委ねる趣旨であると解される(なお、このことは、理事の権限内容につきどのように定めても、それが団体の自治によって定めたものである以上、変わりはないというべきである。)。

3 そして、解任請求の訴えが形成の訴えであり、法の定めがある場合にのみ認められる性質のものであることも併せ考慮すると、非法人管理団体の役員である理事については、区分所有法は、区分所有者が裁判所にその解任を請求することを予定しておらず、管理組合法人の理事の解任請求についての区分所有法の規定を準用する余地はないと解するのが相当である。

法人でない管理組合の理事に対する解任請求の訴えは認められませんので注意しましょう。

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管理組合運営3 理事に対する解任請求の訴えの被告適格(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事に対する解任請求の訴えの被告適格(東京地判平成26年2月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有者である原告が管理組合法人である被告の理事Cには建物の区分所有法25条2項の「不正な行為その他職務を行うに適しない事情がある」と主張して、法49条8項、25条2項に基づき、同理事の解任を請求した事案である。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

法49条8項、25条2項は、管理組合法人の理事に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができると規定している。この解任の訴えは、当該理事について、管理組合法人の理事の地位を剥奪する形成の訴えであると解されること及び当該理事の手続保障に鑑みると、当該理事に被告適格が認められるというべきである(管理組合法人にも被告適格が認められ、固有必要的共同訴訟となるかどうかはともかく、少なくとも当該理事には被告適格が認められるというべきである。)。
そうすると、原告の本件解任の訴えは、解任を求める理事であるCを被告としていない点で不適法な訴えというほかないから、その余の点について判断するまでもなく、却下を免れない。

理事の解任請求の訴えは、管理組合法人ではなく、当該理事を被告としますので間違えないようにしましょう。

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管理組合運営2 正当な理由なく役員を解任したことを理由とする損害賠償請求の可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、正当な理由なく役員を解任したことを理由とする損害賠償請求の可否(東京地判令和元年7月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、共同住宅の管理組合の組合員である控訴人が、同管理組合及び同管理組合の理事長等である被控訴人らに対し、控訴人を副理事長から解任する決議をした被控訴人組合の臨時総会について、〈ア〉役員の解任を総会の会議の目的である事項とするときは、あらかじめ理事会で議案を決定すべきであるにもかかわらず、これをしなかったこと、〈イ〉正当な理由なく控訴人を解任したこと等の理由から、損害賠償金合計830万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、控訴人の原審における請求をいずれも棄却した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 本件規約において、役員の解任方法について定めた規定はない。そこで、被控訴人組合の役員の解任については、管理組合法人の理事を集会の決議によって解任することができるとする区分所有法49条8項、25条1項の準用により、被控訴人の総会の決議によるものと解される。
そして、同法には、役員解任を総会の議案とすることにつき、理事会で決定しなければならない旨の規定は存在しないから、本件臨時総会における本件解任について、あらかじめ控訴人解任の議案を理事会で決定しなかったことは、本件規約及び区分所有法に反せず、不法行為に当たらない。

2 本件規約において、役員の解任につき正当な理由を要する旨を定めた規定はない。
また、区分所有法49条8項、25条1項は、管理組合法人の理事を解任できる場合を限定していないことから、管理組合法人の理事の解任に当たっては、同法25条2項が規定するような不正な行為その他職務を行うに適しない事情といった特別の解任理由は不要であると解される。

理事の解任決議(25条1項)には、特別の解任理由は必要とされていません。

なお、理事解任請求の訴え(同条2項)は、要件が異なるので注意が必要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営1 管理組合法人である原告が、その理事であった被告に対し、原告所有に係る預金通帳等の書類の引渡しを求めた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合法人である原告が、その理事であった被告に対し、原告所有に係る預金通帳等の書類の引渡しを求めた事案(東京地判平成22年9月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合法人である原告が、その理事であった被告に対し、原告所有に係る預金通帳等の書類の引渡しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

被告が、原告代表者名義で、東日本銀行飯田橋支店に2口の普通預金口座を、三菱東京UFJ銀行神保町支店に普通預金口座をそれぞれ開設し、その各口座に係る預金通帳を受け取り、保管してきたものと認めるのが相当である。
被告は、原告が、その後、代表者名義を変更したり、紛失届を提出したことをもって、上記各預金通帳が存在しないかのような主張をするが、失当であり、他に、被告が上記各預金通帳の所持を喪失したことを認めるに足りる証拠はない。

管理組合法人と理事は、委任関係にあります。

したがって、かつて理事であった者が預金通帳や総会議事録等を保管する場合には、当然、管理組合法人に返還する義務を負います。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。