Category Archives: 管理会社等との紛争

管理会社等との紛争4 管理組合及び管理会社はマンション地下駐車場に防犯カメラを可及的速やかに設置する法的義務を負うか(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合及び管理会社はマンション地下駐車場に防犯カメラを可及的速やかに設置する法的義務を負うか(東京地判令和3年5月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告らに対し、被告らの義務違反により精神的苦痛を被ったとして、360万円の慰謝料+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告の主張
ア 原告車両は、平成22年頃から平成27年までの間、何者かによって、度々、傷を付けられた。
イ 被告管理組合は、本件総会決議に基づき、可及的速やかに、本件マンション地下駐車場に防犯カメラを設置すべき義務を負っていた。それにもかかわらず、平成28年11月2日に防犯カメラを設置するまで、これを怠った。
ウ 被告会社は、被告管理組合に対し、本件マンション地下駐車場に防犯カメラをできる限り早期に設置するよう働きかける法的義務を負っていたにもかかわらず、これを怠った。

2 認定事実
ア 被告管理組合は、遅くとも平成26年9月25日までには、原告から原告車両の傷について被害申告を受けた。そこで、写真により傷の存在を確認し、既設の防犯カメラ映像から不審者の有無を確認したものの、不審者の存在を確認できなかった。また、原告車両の損傷の原因や、それが本件マンションの地下駐車場で発生したものであることを確認できなかった。
イ 本件総会決議後の平成28年7月、被告管理組合の当時の代表者理事長が死亡した。
ウ その後、被告管理組合は、後任役員の選任や理事会開催日時の調整等の諸手続を経て、同年9月11日に理事会を開催し、新理事長を互選し、本件総会決議に基づき、本件マンションの地下駐車場に防犯カメラを増設することについて、発注することを決定した。
エ 被告管理組合は、同年10月に増設の発注をし、原告との工事予定日の調整等を経て、同年11月2日に増設を完了した。

3 被告管理組合可及的速やかに本件総会決議に基づく防犯カメラの設置をすべき注意義務を負っていたとまではいい難い
また、被告管理組合の理事会で防犯カメラの増設の発注を決定するまでに時間を要したことにはやむを得ない理由があると認められる。
他に、被告管理組合が故意に防犯カメラの設置を遅延させたなどと認めるに足りる主張立証もない。
以上によれば、被告管理組合による防犯カメラの設置が、社会通念上、違法と評価すべき程度にまで遅延したということはできない
そうすると、原告の主張する被告管理組合による債務不履行又は不法行為が成立するとはいえない。
原告は、被告管理組合による債務不履行又は不法行為が成立することを前提として、被告会社による債務不履行又は不法行為が成立すると主張している。上記によれば、前提となる被告管理組合による債務不履行等の成立を認めることができないから、上記主張も採用できない。

認定事実を見る限り、そもそも管理組合が防犯カメラを設置する法的義務を負っていたとはいえないと思います。

いわんや、可及的速やかに設置する義務は認められないでしょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争3 エレベーター保守会社とマンション管理組合との間におけるエレベーター保守管理契約が管理組合により契約期間途中で解除された場合においても管理組合が損害賠償責任を負うものではないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、エレベーター保守会社とマンション管理組合との間におけるエレベーター保守管理契約が管理組合により契約期間途中で解除された場合においても管理組合が損害賠償責任を負うものではないとされた事案(東京地判平成15年5月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告から期間の定めのあるエレベーター保守管理契約によってエレベーター保守点検業務の委託を受けていた原告が、業務委託者である被告に対し、期間満了前になされた保守管理契約解除に伴う債務不履行による損害賠償請求権に基づいて、逸失利益相当額の金288万8550円及びこれに対する解除の日の翌日から支払済みまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件契約の内容は、その性質は、期間の定めのある有償の準委任契約と解され、したがって、本件契約には、民法656条により、民法の委任契約に関する規定が準用される。そして、民法656条が準用する651条2項本文は、「当事者の一方が相手方のために不利なる時期に於て委任を解除したるときは其の損害を賠償することを要す」と規定しているところ、本条項の「不利なる時期」とは、その委任の内容である事務処理自体に関して受任者が不利益を被るべき時期をいい、したがって、事務処理とは別の報酬の喪失の場合は含まれないものと解される(最判昭和四三年九月三日第三小法廷判決参照)。
そして、本件において、原告が主張する本件解約に伴って発生した不利益は、事務処理とは別の報酬の喪失に他ならず、報酬は原告が月々のエレベーター保守管理サービスを行うことによって発生するものであること、本件解約によって原告において従業員の配置を見直したり従業員を解雇したなどといった事情を認めるに足りる証拠はなく、被告が90日間の猶予をもって本件解約通知を行っていることからすると、本件解約は「不利な時期」においてなされた場合に当たらないものと認めるのが相当である。

2 原告は、期間の定めのある有償である本件契約においては、委任者である被告は、本件解約に伴い逸失利益相当額の損害賠償債務を負う旨主張するが、仮にそのように解すると、被告は、解約後においても、契約に伴う利益を享受することがないにもかかわらず、その対価のみは負担しなければならないことになって、解約をすることが全く無意味となり、当事者間の信頼関係を基礎とする委任契約について、民法651条が解約を認めた趣旨を没却することとなって、相当ではない。

本件は、管理委託契約ではなく、エレベータ保守管理契約ですが、契約期間の途中での解約に関する考え方がよくわかります。

民法651条2項の「不利な時期」の意義はよく理解しておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争2 区分所有権者がマンションの各戸に当該管理会社を批判する文書を配布したことが同管理会社の信用・名誉を毀損するが違法性が阻却されるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有権者がマンションの各戸に当該管理会社を批判する文書を配布したことが同管理会社の信用・名誉を毀損するが違法性が阻却されるとされた事案(東京地判平成7年11月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの管理会社であり、また、同マンションの各種工事を受注している原告が、同マンションの区分所有権者である被告に対し、同人が原告の業務内容について虚偽の事実を記載し、原告を中傷、誹謗した文書を同マンションの各戸あてに配布したことにより、その名誉及び信用を毀損されたとして、不法行為に基づく損害賠償及び謝罪文の配布を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件文書の見出し及び本文の記述の表現から、全体として、これを読む者に対し、本件記載部分(一)は、原告の工事受注業者の適格性に問題があるかのような印象を与えるものであり、また、本件記載部分(三)及び(四)は、原告が本件管理組合の一部の理事と結託して独占的に巨額の工事を受注し、原告を不当に利するような不公正な過程により本件マンションの管理会社に選定されたかのような印象を与えるものであって、建築請負工事、建物の総合管理等を業とする原告の業務内容並びに本件マンションに関する工事受注及び管理会社への選任が公正に行われたか否かは、右業務を営む原告の信用及び名誉に影響を有するから、右記載のある本件文書の配布により、原告に対する社会的評価を低下させるものであると認めることができる。

2 被告は真摯に本件管理組合のことを考えて本件文書を配布したものであること、被告の意見に賛同する趣旨のアンケート回答が多数の区分所有者から寄せられていることが認められ、これらの事情と被告が私利私欲を図り、あるいは原告をことさらに誹謗中傷する等不純な動機により、本件文書の配布を行ったことを認めるに足る証拠はないことに鑑みれば、被告による本件文書の配布は、専ら公益を図る目的に出たものというべきである。

3 マンションの一区分所有権者であり、特に調査権限及び調査能力を有していたわけでもない被告において、一部の理事により原告に対する利益誘導行為があるのではないか、当初から原告を管理会社に選定する旨決めていたものではないかと疑ったことも、まったく根拠を欠くものではなく、被告がそのように信じるにつき相当の理由があったものというべきである。
したがって、本件各記載がこれを読む者に前記の印象を与え、原告の社会的信用を低下させたとしても、不法行為を構成しないものと解すべきである。

裁判所は、区分所有者の当該行為が管理会社の社会的評価を低下させるものであることは認めましたが、違法性阻却事由があると認め、不法行為責任を否定しました。

本件のような名誉毀損が問題となる事案においては、公共の利害に関する事項に係り、その目的がもっぱら公益を図るために出た場合には、当該記載について真実であるとの証明がなされるか又は当該記載を行った者において真実であると信じるにつき相当の理由があったときには、当該文書の記載配布は不法行為に該当しないと判断されます。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争1 管理費等の滞納について管理会社の法的責任が問題となった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等の滞納について管理会社の法的責任が問題となった事案(東京地判平成18年7月12日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本訴事件は、原告と被告との間のマンション管理委託契約に基づき、原告が被告に対して、未納管理委託費の支払いを請求する事案であり、これに対して、被告は、原告は管理委託業務を履行していないから管理費を支払う必要はないとしてこれを争うと共に、原告が未収金の回収業務を怠ったために、被告は、マンション入居者に対する管理費等の回収が不可能となって損害を被ったとして、回収不能になった管理費等の総額と被告の認める未納管理委託費とを対当額で相殺して、その残額を債務不履行に基づく損害賠償として請求する事案(反訴事件)である。
また、被告は、原告が契約当初から契約書に定められた業務を履行しておらず、管理委託費には大幅な減額要素があるとして、行っていない業務に対する対価としての管理委託費を余計に支出したことになり、これは原告の不当利得であると主張し、原告主張の未納管理費委託費と対当額で相殺する旨主張している

【裁判所の判断】

本訴被告は、本訴原告に対し、939万1095円+遅延損害金を支払え。

反訴原告の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 原告は、3条の仕様書に定める業務の内、「管理費等の収納業務を行うにあたって、被告の組合員に対して支払請求(内容証明郵便による支払請求)を行っても収納することができない場合、原告はその責を負わない。」「内容証明郵便による請求以後の取立については原告被告間で別途協議する。」との記載がある。

2 原告は、A氏に対して、随時未納管理費等の請求を行い、その金額等の状況について毎月被告に報告し、Dの問い合わせに応じて未納管理費等の回収方法等についてアドバイスするなどし、最終的には競落後の新所有者であるYに対して内容証明郵便で支払いを催促しているのであるから、本件管理委託契約書に定められた業務を履行していたものと認めることができる。
この点、未納管理費等の請求書について、原告は平成14年10月分から12月分しか提出しておらず、その他の時期においても同様の請求書がA氏に対して発送されたのか疑問の余地があるところではあるが、そもそも原告の未収金回収業務として、随時書面による督促を行うことまでは本件管理委託契約上の義務とはされていないのであるから、たとえ原告がこれを怠ったとしても、債務不履行と評価されることにはならないというべきである。

3 結局、未収金の回収業務につき原告に債務不履行の事実は認められないといわざるを得ず、かりに被告が1303万7239円の管理費等を回収できないことによる同額の損害を被ったとしても、原告はこれに対して責めを負わない。
もっとも、被告の原告に対する管理委託費の未払いは、A氏の区分所有部分の管理費等の未払いが原因であることについて、原告は十分に知悉していたのであるから、被告の管理委託費の未払額が拡大しないように、これを受領する立場にある自らも積極的な手立てを打つべきであったと指摘し得るところではあるが、そうであるとしても前記認定を左右するものではない。

裁判所は、管理委託契約書の記載内容及び実際の管理会社の対応内容等を検討し、管理会社の責任を否定しました。

組合員の長期滞納を漫然と放置していたような場合には、管理会社の善管注意義務違反が認められることも十分あり得ますのでご注意ください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。