おはようございます。
今日は、「補修」と「修繕」の意味の違い(東京地判令和2年1月30日)が争点となった事案を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、本件事務所専有部分の所有者である原告が、本件事務所専有部分を含む本件マンションの管理組合である被告に対し、本件マンションのうち、建物の部分及びその附属施設について、本件マンションの管理規約によれば、被告が修繕をする義務を負うと主張して、本件管理規約に基づき、被告の費用をもって別紙工事目録記載の内容の修繕をすることを求めるとともに、階段の手すりについて、本件管理規約によれば、被告が修繕をする義務を負っていたところ、原告が60万4800円を支出して交換工事を施工したと主張して、主位的に、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、60万4800円+遅延損害金の支払を求め、予備的に、民法703条の不当利得返還請求権に基づき、60万4800円+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 本件管理規約15条3項が、本件事務所専有部分の区分所有者は、事務所専用使用部分の保守点検費、維持管理費、補修費、清掃費、水道光熱費及び消耗品等これにかかる一切の費用を負担する旨を定めていることが認められる。
しかし、平成20年6月国土交通省策定の長期修繕計画作成ガイドラインには、「推定修繕工事 長期修繕計画において、計画期間内に見込まれる修繕工事(補修工事(経常的に行う補修工事を除く。)を含む。以下同じ。)及び改修工事をいいます。」との記載があり、修繕工事と経常的に行う補修工事は別のものとされていることが認められるところ、「補修」とは、現状レベルを実用上支障のないレベルまで回復させることをいい、「修繕」とは、現状レベルを新築当初のレベルまで回復させることをいうものであって(平成20年6月国土交通省策定の長期修繕計画作成ガイドラインコメント参照)、これらは別の概念であると考えられる。
2 また、本件管理規約が、本件マンションの各区分所有者は管理費及び修繕積立金の納入義務を負うとした上で、管理費について、経常的な補修費等に充当されるものとし、各区分所有者は事務所専用使用部分を除いた共用部分の管理費として算出される額を納入するとしながら(27条、29条)、本件事務所専有部分の区分所有者が事務所専用使用部分の補修費等を負担するものとしている(15条3項)ことからは、各区分所有者が事務所専用使用部分を除いた共用部分の管理費を納入してこれを上記共用部分の経常的な補修費等に充当することとし、それとは別に本件事務所専有部分の区分所有者が事務所専用使用部分に係る経常的な補修費等を負担することとしていると解されること(27条、29条)、本件管理規約15条3項は、本件事務所専有部分の区分所有者が負担する費用として、補修費を、保守点検費、維持管理費、清掃費、水道光熱費及び消耗品と共に挙げていることを考慮すると、本件管理規約15条3項は、事務所専用使用部分の経常的な経費を本件事務所専有部分の区分所有者の負担とする規定であって、同項の補修費は、経常的な補修費を指し、それ以外の修繕に係る費用を含むものではないと考えられる。
3 以上によれば、本件管理規約15条3項の定める本件事務所専有部分の区分所有者が負担する事務所専用使用部分の補修費とは、経常的な補修費を指し、それ以外の修繕に係る費用を含むものではないと解されるのであって、同項が事務所専用使用部分の修繕について本件事務所専有部分の区分所有者が行いその費用を負担すべきことを定めたと解することはできない。
本件事案を通じて、長期修繕計画作成ガイドラインにおける「補修」と「修繕」の意味の違いを押さえておきましょう。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。