Category Archives: 管理会社等との紛争

管理会社等との紛争14 「補修」と「修繕」の意味の違いとは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、「補修」と「修繕」の意味の違い(東京地判令和2年1月30日)が争点となった事案を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件事務所専有部分の所有者である原告が、本件事務所専有部分を含む本件マンション管理組合である被告に対し、本件マンションのうち、建物の部分及びその附属施設について、本件マンションの管理規約によれば、被告が修繕をする義務を負うと主張して、本件管理規約に基づき、被告の費用をもって別紙工事目録記載の内容の修繕をすることを求めるとともに、階段の手すりについて、本件管理規約によれば、被告が修繕をする義務を負っていたところ、原告が60万4800円を支出して交換工事を施工したと主張して、主位的に、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、60万4800円+遅延損害金の支払を求め、予備的に、民法703条の不当利得返還請求権に基づき、60万4800円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件管理規約15条3項が、本件事務所専有部分の区分所有者は、事務所専用使用部分の保守点検費、維持管理費、補修費、清掃費、水道光熱費及び消耗品等これにかかる一切の費用を負担する旨を定めていることが認められる。
しかし、平成20年6月国土交通省策定の長期修繕計画作成ガイドラインには、「推定修繕工事 長期修繕計画において、計画期間内に見込まれる修繕工事(補修工事(経常的に行う補修工事を除く。)を含む。以下同じ。)及び改修工事をいいます。」との記載があり、修繕工事と経常的に行う補修工事は別のものとされていることが認められるところ、「補修」とは、現状レベルを実用上支障のないレベルまで回復させることをいい、「修繕」とは、現状レベルを新築当初のレベルまで回復させることをいうものであって(平成20年6月国土交通省策定の長期修繕計画作成ガイドラインコメント参照)、これらは別の概念であると考えられる。

2 また、本件管理規約が、本件マンションの各区分所有者は管理費及び修繕積立金の納入義務を負うとした上で、管理費について、経常的な補修費等に充当されるものとし、各区分所有者は事務所専用使用部分を除いた共用部分の管理費として算出される額を納入するとしながら(27条、29条)、本件事務所専有部分の区分所有者が事務所専用使用部分の補修費等を負担するものとしている(15条3項)ことからは、各区分所有者が事務所専用使用部分を除いた共用部分の管理費を納入してこれを上記共用部分の経常的な補修費等に充当することとし、それとは別に本件事務所専有部分の区分所有者が事務所専用使用部分に係る経常的な補修費等を負担することとしていると解されること(27条、29条)、本件管理規約15条3項は、本件事務所専有部分の区分所有者が負担する費用として、補修費を、保守点検費、維持管理費、清掃費、水道光熱費及び消耗品と共に挙げていることを考慮すると、本件管理規約15条3項は、事務所専用使用部分の経常的な経費を本件事務所専有部分の区分所有者の負担とする規定であって、同項の補修費は、経常的な補修費を指し、それ以外の修繕に係る費用を含むものではないと考えられる。

3 以上によれば、本件管理規約15条3項の定める本件事務所専有部分の区分所有者が負担する事務所専用使用部分の補修費とは、経常的な補修費を指し、それ以外の修繕に係る費用を含むものではないと解されるのであって、同項が事務所専用使用部分の修繕について本件事務所専有部分の区分所有者が行いその費用を負担すべきことを定めたと解することはできない

本件事案を通じて、長期修繕計画作成ガイドラインにおける「補修」と「修繕」の意味の違いを押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争13 管理組合に対する宅配物の宅配ボックスへの誤投函を防止するための有効な対策を取らない等を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合に対する宅配物の宅配ボックスへの誤投函を防止するための有効な対策を取らない等を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和2年1月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者かつ居住者である原告が、同マンション管理組合である被告組合及びその理事である被告Y2に対し、被告らが①本件宅配ボックスに欠陥があること及び欠陥のない機種の存在を知っていながら本件宅配ボックスに欠陥がないと主張していること、②欠陥のある本件宅配ボックスの使用を開始したこと、③原告宛ての宅配物の本件宅配ボックスへの誤投函を防止するための有効な対策を取らないこと並びに④本件宅配ボックス内の宅配物に記載された個人情報を盗視したことにより、原告の権利・利益が侵害されたと主張して、不法行為(共同不法行為)に基づき、本件宅配ボックスの使用中止及び廃棄、本件宅配ボックス内の宅配物に記載された個人情報の盗視の中止並びに原告が被った損害額265万円の一部である100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件宅配ボックスの利用を拒否していた原告宛ての荷物が、平成30年11月から令和元年9月までの1年弱の間に合計8回、本件宅配ボックスに配達されたことが認められる。
しかしながら、原告の意思に反して原告宛ての荷物を本件宅配ボックスに配達したことによる責任は当該配達をした者が負うべきものである。
また、仮に被告組合に原告宛ての荷物が本件宅配ボックスに配達されないようにするために何らかの対応をする義務が存在するとしても、被告組合は原告の住戸宛ての荷物を本件宅配ボックスに入れることを禁止する旨の張り紙を一見してわかるように本件宅配ボックスに掲示しているところ、これにより通常の宅配者であれば原告の住戸宛ての荷物を本件宅配ボックスに配達することはしないというべきであるから、被告組合は原告宛ての荷物が本件宅配ボックスに配達されないようにするための十分な措置を採っているというべきであり、上記のとおり被告組合の掲示に反して原告宛の荷物が複数回にわたり本件宅配ボックスに配達された事実が存在することを踏まえても、これ以上に被告組合が原告に対して何らかの義務を負うということはできない

2 原告は、被告らが本件宅配ボックス内の宅配物に記載された個人情報を盗視したことが原告に対する不法行為に当たると主張する。しかしながら、原告が主張する上記事実を認めるに足りる証拠はない。
他方、被告組合は、本件宅配ボックス内に長期滞留する荷物について管理人が宛先を確認することはあるという限度で原告の主張を認め、証拠によれば当該事実は認められるところ、証拠によれば、本件宅配ボックスの使用細則においては、保管期間が保管開始の時から72時間とされ(5条)、保管期間が経過したにもかかわらず保管品の引き取りがない場合には、被告組合は宅配ボックスを開扉の上、保管品を保管又は廃棄する等の措置を採ることができるとされていること(6条)が認められる。
本件宅配ボックス内に荷物が長期滞留することは、他の住人のための本件宅配ボックスの使用を妨げる行為であり、それを解消する目的で管理人が滞留している荷物の宛先を確認する必要性は高いと認められることに加え、管理人のそのような行為は本件宅配ボックスの使用細則で許容されていると解されること、管理人は荷物の宛先という上記目的達成のための必要最小限度の個人情報を確認しているに過ぎないことに照らせば、管理人が本件宅配ボックス内に長期滞留する荷物について宛先を確認したことをもって被告らの原告に対する不法行為を構成するということはできない。

区分所有建物においては、本当に様々な問題が生じます。

本件のような一見些細な問題のように見えても訴訟まで発展することは決して珍しくありません。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争12 倒産した管理会社が管理費等の預金口座を管理会社名義で管理していた場合、管理組合は自らの資産であると主張できるか(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、倒産した管理会社が管理費等の預金口座を管理会社名義で管理していた場合、管理組合は自らの資産であると主張できるか(東京高判平成11年8月31日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、倒産した管理会社が管理費等の預金口座を管理会社名義で管理していた場合、管理組合は自らの資産であると主張できるかが争点となった事案である。

原審は、同口座は管理会社に帰属すると判断した。

【裁判所の判断】

同口座は管理組合に帰属する。

【判例のポイント】

1 預金者の認定については、自らの出捐によって、自己の預金とする意思で、銀行に対して、自ら又は使者・代理人を通じて預金契約をした者が、預入行為者が出捐者から交付を受けた金銭を横領し自己の預金とする意図で預金をしたなどの特段の事情がない限り、当該預金の預金者であると解するのが相当である。

 本件各定期預金の原資である管理費等は、管理会社が管理規約及び管理委託契約に基づいて区分所有者から徴収し、保管しているものであって、管理会社の資産ではなく、大部分は各マンションの保守管理、修繕等の費用に充てられるべき金銭である。

3 区分所有者から徴収した管理の費用は、管理を行うべき管理組合に帰属するものである。管理組合法人が設立される以前の管理組合は、権利能力なき社団又は組合の性質を有するから、正確には総有的又は合有的に区分所有者全員に帰属することになる。
したがって、本件各定期預金の出捐者は、それぞれのマンションの区分所有者全員であるというべきである。

4 管理会社は、本件定期預金を自己の預金、資産であるとは考えておらず、管理会社はこれを各マンションの区分所有者ないし管理組合に属するものとして取り扱っていたものである。

5 以上のとおり、本件各定期預金の預金者は、各マンションの区分所有者の団体である管理組合であり、区分所有者全員に総有的ないし合有的に帰属すると認めることができる。

今は昔の事件ですが、考え方の参考になる裁判例です。

この事件以降、マンション管理適正化法が制定され、管理業者に対する法規制がされることとなり、今となっては当たり前の「財産の分別管理義務」が規定されました。

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管理会社等との紛争11 部屋の改修工事により生じた問題に対する理事長の対応が不適切であることを理由とする慰謝料請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、部屋の改修工事により生じた問題に対する理事長の対応が不適切であることを理由とする慰謝料請求が棄却された事案(東京地判令和元年10月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告らと被告が区分所有するマンションの管理組合の理事長であった被告が、原告らから、階下の部屋の改修工事により生じた問題について適切に対応してほしい旨懇願されたのに、これを不当に無視するなどしたと主張して、被告に対し、不法行為に基づいて、原告X1において慰謝料50万円+遅延損害金の支払を、原告X2において慰謝料100万円+遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。

原告らは、当初、被告に対し、上記各損害賠償請求のほか、区分所有法25条2項に基づき理事長の解任を求めたが、平成31年3月16日の第23期通常総会をもって被告が理事長を任期満了により退任したため、同解任請求に係る訴えを取り下げた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告らは、被告が、8月26日の現場調査の際、原告らの被害の申立て等に面倒くさそうな顔をして、スケルトン工事にするとどのような工事になるのかと興味があったなどと述べたと主張し、原告X2の陳述中にそれに沿う部分がある。
しかし、仮に8月26日の現場調査の際に、被告が、原告らにとって面倒くさそうな顔をしたと感じるような表情をしたり、スケルトン工事がどのような工事になるのかと興味があったなどと述べたりしたとしても、被告においてそのような表情又は発言をしてはならないという義務を、「原告らとの関係で不法行為を発生させる」という意味での法的義務と評価したり、その違反行為をもって社会的相当性を逸脱する行為等と評価したりすることは、もともと著しく困難であり、8月26日の現場調査の際、同法的義務が発生したなどと認め得るような極めて特異な状況にあったことをうかがわせる証拠もない。
したがって、原告らの上記主張の行為をもって、違法行為に該当するということはできない。

2 原告らは、被告が、平成30年2月21日、原告X1に対し、「今後は自宅への来訪、携帯への連絡ではなく、全て書面でのやり取りを要請致します。」と記載した書面を508号室に投函するという、極めて理不尽で、狷介な行為に及んだと主張し、被告が、同日頃、原告X1に宛て、本件報告書をAに渡すことは法的に問題がなく、被告が責任を問われるものではないこと、同月15日及び同月17日の原告らの言動は容認することができるものではなく、弁護士に相談をしていること、今後は、自宅への来訪、携帯への連絡ではなく、全て書面でやり取りをすることを要請する旨を記載した書面を投函したことが認められる。
しかし、被告は、本件報告書をAに交付したことをめぐり、原告らから、平成30年2月15日午後10時頃、きつい言葉で、代わる代わる論難されつつ、本件報告書をすぐに回収し、写しが取られている場合には、一切口外しないという一筆を取るように求められ、更に同月17日の理事会の終了後、一筆は取れたのか、勝手に渡したことの責任を取れと詰め寄られ、そのやり取りの中で、原告X2がげた箱を叩いたり、書類の束を床に投げつけたりするという行為に及ばれたこと、また、2月21日の理事会において、原告らから理事会に対しての意見、要望については、書面で提出してもらうこととすることが決議されたことがそれぞれ認められる。
そうすると、このような状況の中、被告が上記の書面を原告X1に宛てて投函することをもって、極めて理不尽であるなどということはできず、その投函はやむを得ないものといわざるを得ない
したがって、原告らの上記主張の行為をもって、違法行為に該当するということはできない。

原告は、本件訴訟において、20を超える被告の対応が不適切であると主張しましたが、いずれも違法性は否定されています。

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管理会社等との紛争10 専有部分の湿気が恒常的にひどいことについて管理組合及び管理会社の責任が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分の湿気が恒常的にひどいことについて管理組合及び管理会社の責任が否定された事案(東京地判平成31年3月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件専有部分の区分所有者である原告が、①区分所有法3条に基づいて本件マンションの区分所有者全員で構成する本件マンションの管理組合である被告管理組合について、本件専有部分の湿気が恒常的にひどいという建物の瑕疵があると主張して民法717条1項に基づき、又は本件専有部分の湿気やカビに関する原告の申出に対し然るべき対応をする管理規約上の義務があったにもかかわらずこれを怠ったと主張して「法定責任」若しくは債務不履行に基づき、②被告管理組合との間で管理委託契約を締結している被告管理会社について、原告の申出に対し然るべき対応をする委任契約上の善管注意義務があったにもかかわらずこれを怠ったと主張して、債務不履行に基づき、被告らに対し、連帯して643万2685円の損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 民法717条1項にいう「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵がある」とは、当該土地の工作物について、その種類の工作物として本来備えるべき性状や設備を欠き、その安全性等を欠いていることであると解されるところ、原告は、「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」ことが瑕疵であると主張するが、このような現象が土地の工作物(建物)の瑕疵であるということはできない。
また、仮に「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」という現象が起こったため、カビが発生して原告主張の種々の損害が発生したという主張であると捉えてみたとしても、被告管理組合の責任は認められない。すなわち、原告は、区分所有法9条が「建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。」と定めていることを指摘して、原告において上記のこと以上に主張立証する必要はないというが、同規定は、欠陥がどこにあるのか判明しないという場合に当該欠陥は共用部分にあると推定するものに過ぎないため、原告の被った損害が建物の設置又は保存の欠陥に由来するものであることは原告において主張立証しなければならないものであるところ、「湿気が恒常的にひどい」という現象の原因は種々考えられるのであって、当該現象が存在したからといって、これが建物の設置又は保存の欠陥に由来するものであるということはできず、建物の設置又は保存の何らかの欠陥によって「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」という現象が生じた(ひいては原告主張の種々の損害が発生した)ことについては、証拠が全くない。

2 加えて、本件においては、そもそも「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」ことについてもこれを認めるに足りる証拠はない。
すなわち、原告は、同事実が存在したことの証拠として、甲25号証の1ないし3を提出するが、同甲号各証及び弁論の全趣旨からは、平成24年5月2日に原告が本件専有部分で湿度を測ったところ、当該測定に用いた湿度計において湿度80ないし85パーセントを指し示したことが認められるが、当該湿度計がどの程度の性能のものであるのか、当該測定方法がいかようなものであるのか、当該測定時における周囲の状況がいかようなものであるのかなど測定の前提となるべき種々の事情は全く不明である上、仮に上記測定結果を前提とするとしても、同日に湿度80ないし85パーセントであったというだけであり、これがどの程度持続していたかについては全く不明なのであって、同甲号各証によっては「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」という事実を認めるに足りず、他に同事実を認めるに足りる証拠はない。

上記判例のポイント2において、裁判所が求める立証の内容・程度をしっかりと押さえておきましょう。

本件は、湿度の問題ですが、騒音や悪臭等にもそのまま応用可能です。

事前の準備が勝敗を決するという典型例です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争9 チラシ投函拒否の表示に反する行為が不法行為にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡) 

おはようございます。

今日は、チラシ投函拒否の表示に反する行為が不法行為にあたらないとされた事案(東京地判令和2年2月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、控訴人の居住するマンション1階の集合郵便受に、被控訴人作成のチラシ1枚が投函されたことについて、1階部分への立入禁止の表示及びチラシ投函拒否の表示に反する行為であって、不法行為を構成するとして、慰謝料10万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審が控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【裁判所の判断】

1 本件チラシを控訴人の郵便受に投函した行為は、明示的に示された本件マンション管理組合の意向及び控訴人の意思に反する行為であるが、そのような意向ないし意思に反する行為であるからといって、直ちに違法であるということはできず、当該行為が違法になるか否かについては、その行為の態様が、社会通念上一般に許容される受忍限度を超える侵害をもたらすものであるか否かによって判断すべきである。

2 これを本件についてみるに、本件マンションの敷地部分と前面通路との間に塀等による仕切りはなく、本件マンションの玄関階段棟の入り口のガラス扉も施錠されてはいない。
本件マンションの玄関部分に設置してある集合郵便受に投函するためには、玄関部分に立ち入ることは必要であるが、本件マンションが玄関階段棟と住居棟に分かれていることからすれば、現実に住民が居住する住居棟内に立ち入る必要はない。
配布された本件チラシは、一見して市議会議員の活動報告等の文書であることが分かるものであって、紙1枚にすぎず、詳細を確認せずに廃棄することも容易な文書である。
以上のとおり、本件チラシの投函行為は、物理的な強制力を用いたものではなく、立ち入った程度も住民が居住する区域ではなく玄関部分のみであって、配布された本件チラシの内容・分量も上記の程度であることに鑑みると、一般的に受ける不利益の程度も、社会的に受忍し得る限度を超えるものではないと認定するのが相当である。
控訴人は、本件チラシの投函行為が、建造物侵入罪を構成すると主張するが、建造物侵入罪の成立を認めた最高裁の判例の事案とは、建造物への立入りの態様が異なる。
したがって、本件チラシの投函行為は、不法行為を構成しない。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

このように客観的に見れば瑣末な問題でも訴訟に発展することがあります。

本件は、チラシを投函した団体を被告したものですが、場合によっては、管理が不十分との理由か管理会社等も被告とされることがあります。

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管理会社等との紛争8 民法235条1項(目隠し設置義務)に基づく窓の仕様変更請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡) 

おはようございます。

今日は、民法235条1項(目隠し設置義務)に基づく窓の仕様変更請求が棄却された事案(東京地判令和3年3月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、原告が居住するマンション敷地の隣地である本件土地上に本件建物の建設を計画している被告に対し、民法235条1項(目隠し設置義務)に基づき、本件建物の上記マンションに面した窓の仕様の変更を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 民法235条1項は、相隣者間の不動産相互の利用関係を調整することを目的に、絶えず相隣者から私生活を眺められているような気持ちを抱かざるを得ないような状況において、当該相隣者に対して一定の配慮を求めるための義務を課したものというべきであるから、同項の「他人の宅地を見通すことのできる窓」とは、一般人が目隠し設置義務の対象となり得る建物等で日常生活を営むに際して、特別の作業等を要することなく、日常的な行動をしているだけでも容易に相隣者の宅地を見通すことができるような窓のことをいうと解するのが相当である。

2 この点、本件仕様を前提にすると、窓が閉められている場合や鍵付きストッパーにより開放幅が制限されている場合には、目隠し設置義務に関して被告において何らかの措置を講ずる必要がないことは当事者間に争いがない。
また、被告は、本件建物の竣工後は、本件仕様に係る鍵付きストッパーの鍵を入居者には交付せず、建物管理会社において保管させることとしており、当該ストッパーが解除されるのは、賃借人が入れ替わる機会に窓ガラスの外側の清掃作業を行う場合のみであると主張しており、賃貸物件の管理方法としてその内容に特段不合理な点は見当たらない。

3 以上によれば、本件南側窓が「他人の宅地を見通すことのできる窓」といえるか否かは、被告の主張する管理方法を前提として判断すべきであり、これによれば、本件建物に居住することが予定される者においては、容易に本件仕様に係る鍵付きストッパーを取り外すことはできず、その場合には、本件南側窓を開放した隙間からは原告マンションの壁が見えるのみなのであるから、本件南側窓は、日常的な行動をしているだけでも容易に相隣者の宅地を見通すことができるような窓とはいえない。
そうすると、本件南側窓は「他人の宅地を見通すことのできる窓」には該当しないから、原告の請求には理由がない

民法235条1項には「境界線から一メートル未満の距離において他人の宅地を見渡すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。」と規定されています。

実務においては、上記判例のポイント1のあてはめが問題となります。

是非、裁判所の考え方を押さえておきましょう。

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管理会社等との紛争7 新聞販売店の従業員がマンション敷地内の人目につくところで排便を繰り返していたことを理由とする慰謝料請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、新聞販売店の従業員がマンション敷地内の人目につくところで排便を繰り返していたことを理由とする慰謝料請求が認められた事案(東京地判令和3年3月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの居住者である原告ら125名が、被告は新聞販売店を経営してAを使用していたところ、新聞配達中のAが上記マンションの敷地内の人目につくところで排便を繰り返し、これにより原告らは精神的損害を被ったと主張して、被告に対し、民法715条1項に基づく損害賠償請求として、原告らそれぞれに慰謝料5万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告らそれぞれに対し、5000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件各行為は、未明の、人があまり出歩かないような時間帯とはいえ、本件マンションの敷地内の人目につくところに排便をするというものである。これは、Aによる嫌がらせを目的とした行為とまでは認めるに足りないものの、行為自体が嫌悪感を催させるものである上、残置された便により悪臭を発生させるなどしたと考えられること、排便行為は、1か月半ほどの間隔のある二日間にわたり、繰り返し行われており、本件マンションの住民において、強い嫌悪感を抱くようなものであることはもとより、恐怖感を覚えたとしても不自然ではないといえるものでもあること等に照らせば、本件各行為は、原告らの本件マンションにおける平穏な居住の権利を侵害するものとして、不法行為となるというべきである。

2 この点に関し、被告は、本件各行為が行われたのが人目につきづらい場所であること、被告は通知を受けて速やかに配達員を交代し、その後同様の事態が発生していないことからすると、本件各行為は悪質とはいえず、原告らの受忍限度の範囲内である旨主張する。
しかし、本件各行為が行われた場所は、オートバイ駐輪場や駐輪場を利用する者が通行することが想定される通路であり、人目につきづらい場所とはいい難い。
また、本件各行為が行われた後の事情を考慮しても、本件各行為が原告らの受忍限度の範囲内といえるような、違法性の弱いものとはいえない。
したがって、本件各行為は、原告らに対する関係で、不法行為法上違法なものといえる。

世の中には、いろいろな人、いろいろなトラブルがあります。

本件は、管理組合が原告ではなく、マンション居住者125名が原告となり、慰謝料請求をした事案です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争6 管理組合が弁護士に対して訴訟追行等に関する弁護士費用の返還請求をしたが棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合が弁護士に対して訴訟追行等に関する弁護士費用の返還請求をしたが棄却された事案(東京地判令和2年2月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、弁護士である被告との間で複数の訴訟等の追行に関する委任契約を締結し、着手金等を支払ったが、それらの委任契約は無効であるから、被告はそれらの委任契約に基づき受領した金員を法律上の原因なく利得し、そのために原告は損失を受けたと主張して、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、416万8800円及びこれに対する遅延損害金の支払を認める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件各委任契約が無効である理由について、被告には本件委任契約締結当初からそれらに基づく債務を履行しようとする意思はなく、被告が着手金等を詐取しようとしていたことは明白であるとしか主張していないところ、そのような事実があったとしても本件各委任契約が当然に無効となるものではないから、原告の主張は、主張自体失当である。

2 第1事件については、平成30年4月18日に判決が言い渡されて委任事務が終了し、第4事件については、被告又は所属弁護士が口頭弁論が終結されるまで訴訟を追行し、第5事件については、被告又は所属弁護士が解任されるまで7回の口頭弁論期日に出廷し、訴状及び準備書面1ないし3並びに甲第1号証ないし第30号証を提出し、第6事件については、強制執行停止決定を受けて委任事務が終了し、第7事件については、紛議調停が不成立で終了するまで手続を行って委任事務が終了したことがそれぞれ認められるところ、それにもかかわらず、被告に本件各委任契約締結当初からそれらに基づく債務を履行しようとする意思がなかったとか、被告が着手金等を詐取しようとしていたと認めることができるだけの証拠はない。したがって、本件各委任契約が無効であると認めることはできない。

3 したがって、原告が被告に対し本件各金員について不当利得返還請求権を有すると認めることはできないから、原告の請求は理由がない(なお、仮に被告が本件各委任契約について債務の本旨に従った履行をしなかったとすれば、原告が被告に対し債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができる場合があるが、本件の請求はそのような請求ではない。)。

本件は、管理組合が原告となり、委任契約を締結していた弁護士に対して弁護士費用について不当利得返還請求をした事案ですが、原告側には代理人がついておらず、適切な法律構成がなされておらず、結果として請求棄却となっています。

上記判例のポイント3のとおり、法律構成如何によっては請求が一部認められた可能性は0ではなかったと思います(もっとも、上記判例のポイント2を読む限り、可能性はそれほど高くないように思いますが)。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争5 管理会社が中心的立場に立って管理組合名義で滞納管理費等を請求債権として民事執行手続を申し立てたことが不法行為にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理会社が中心的立場に立って管理組合名義で滞納管理費等を請求債権として民事執行手続を申し立てたことが不法行為にあたらないとされた事案(東京地判令和3年1月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である原告が、当該マンション管理組合から管理業務を受託していた被告に対し、原告に管理費等の滞納がなかったにもかかわらず、被告が中心的立場に立って管理組合名義で滞納管理費等を請求債権として民事執行手続を申し立てたことが不法行為に該当するとして、民事執行手続に対応するために要した費用等合計100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件競売事件を申し立てたことが違法であると主張するところ、本件競売事件を申し立てたのは本件管理組合であることが認められる。
この点について、原告は、本件競売事件の申立てについて被告が主体的かつ中心的な立場にあったものであるから責任があると主張する。
しかし、本件競売事件の申立ては、本件管理組合の権利を実現するため、本件管理組合の名義で申し立てられたものであるから、仮にその申立てに違法な点があったならば本件管理組合が責任を問われることはあり得るものの、本件管理組合から管理業務を受託していたにすぎない被告については、特段の事情のない限りは責任を負うことはないものというべきである。
しかし、本件証拠によってもそのような事情を認めることはできない。
よって、その余について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。

そもそも論のところで請求根拠がないと判断されています。

しかしながら、管理会社としては、このような紛争に巻き込まれる可能性を十分に理解しておく必要があります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。