Category Archives: 管理会社等との紛争

管理会社等との紛争44 管理会社の誤った説明により室内の水道管から給水されないことに対して専有部分の水道管交換という不要な修繕工事をしたことを理由とする損害賠償請求が棄却された理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理会社の誤った説明により室内の水道管から給水されないことに対して専有部分の水道管交換という不要な修繕工事をしたことを理由とする損害賠償請求が棄却された理由とは?(東京地裁令和4年3月3日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である控訴人が、同マンションの管理会社である被控訴人の誤った説明により、室内の水道管から給水されないことに対して専有部分の水道管交換という不要な修繕工事をしたことによって不要な費用を負担させられたとして、被控訴人に対し、不法行為又は上記マンション管理組合と被控訴人との間の管理委託契約上の善管注意義務違反に基づき、損害賠償として10万円の支払を求めた事案である。

原審は、控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 被控訴人は、控訴人に対し、被控訴人の担当者及び提携業者による本件部屋の現地調査によっては給水されない原因を特定できず、詳細な調査を行っていないため原因を断定できない旨を伝え、また、控訴人が依頼する業者が工事を行う場合も、事前に現地確認をしてもらう必要があることや、工事の結果、共用部分に問題がある場合もあり得ることを伝えている
これらの事情に照らせば、控訴人は、被控訴人から専有部分の給水管の工事を行った場合にも改善しない可能性があることを告知されながら、自らの判断でクラシアンに対して給水管の工事を依頼したものであって、その費用は控訴人自らが負担すべきである
結果として共用部分の水道管に原因があったものといえるが、控訴人が被控訴人に水圧の低下を連絡した時点において、問題が指摘されていたのは本件部屋の台所部分にすぎず、被控訴人の担当者が現地確認を行った際にも本件部屋のトイレの水圧に不具合は見当たらなかったことからすると、被控訴人として共用部分に不具合があることを積極的に疑うべき事情があったとはいえず、被控訴人が提携業者に対して再調査を提案すべき注意義務を負っていたとは認められない
さらに、被控訴人が控訴人に対して上記のとおり原因が不明であることや本件部屋の給水管の交換工事をしても解消しない可能性があることを伝達していることなどからすれば、本件マンションの管理義務上の過失があったとも認められない
他に被控訴人が控訴人に対する関係で善管注意義務に違反したことを認めるに足りる証拠はない。

善管注意義務違反は、結果責任ではありませんので、しかるべき手続に基づき判断し、合理的な対応をした場合には義務違反とはなりません。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争43 管理費に関するマンション販売会社担当者の説明内容が誤っていたことを理由とする債務不履行又は不法行為に基づく300万円超の損害賠償請求の帰趨は?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費に関するマンション販売会社担当者の説明内容が誤っていたことを理由とする債務不履行又は不法行為に基づく300万円超の損害賠償請求の帰趨は?(東京地判令和4年3月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、①本件契約の締結に際し、被告担当者が本件マンションの月額管理費について実際の額よりも低額である旨誤った説明をしたため、当該説明された月額管理費において本件契約が成立したというべきであるから債務不履行がある、②仮に説明された月額管理費において本件契約が成立していないとしても、月額管理費につき誤った説明をした点につき不法行為が成立するなどと主張して、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償金315万8100円(実際の管理費と説明を受けた管理費の差額(月額3190円)に本件マンションの推定耐用年数である82.5年(990か月)を乗じた額)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、25万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 原告は、本件契約は、被告担当者の説明内容及び重要事項に関する説明内容のとおり、管理費がインターネット等使用料を含めて月額2万8100円との内容で成立している旨主張する。
しかしながら、本件契約は売買契約であるから、被告が負う主たる債務は、本件居室の区分所有権を原告に取得させた上で登記を移転し、本件居室を引き渡すことに尽きるというべきである。
また、本件契約に係る売買契約書には管理費やインターネット等使用料の記載は見当たらない
そもそも本件マンションの管理費は、入居者(区分所有権者)が管理組合に対して負担すべき費用であり、その額等は管理規約の設定を通じて管理組合(区分所有権者)により定められるものであって、本件マンションの売主(分譲主)である被告において決定権限を有する事項ではない
そうすると、本件契約において管理費の額について被告が何らかの債務を負担することは想定されていないというべきである。
以上によれば、インターネット等使用料を含めた管理費が月額2万8100円との内容で本件契約が成立したということはできず、当該内容の債務を被告が負うとは認められないし、本件記載の内容に従って被告が本件マンションの管理業務及びインターネット等接続サービスを自ら提供し、又は第三者をして提供させる義務を負うとも認められない

2 ①被告担当者は、原告がモデルルームを訪れた際、本件資料に基づいて原告に本件居室の管理費について説明したが、その額に誤りがあったこと、②本件契約の締結に際し、重要事項として本件居室の管理費の額について説明がなされたが、重要事項説明書には管理費の具体的な額について記載はなく、管理規約等を用いて管理費の額が説明されることもなかったこと、③原告は、本件居室の管理費が、本件資料に記載されたとおり、インターネット等使用料を含めて月額2万8100円であるとの誤信したまま本件契約を締結したことが認められる。
以上によれば、本件居室の購入を希望する原告に対し、管理費等の額について誤った説明がなされ、原告がその旨誤信したにも関わらず、これを被告において適切に解消しないまま本件契約が締結されたというべきである。かかる一連の対応は、上記信義則上の義務に反するものと認められ、当該義務違反は原告に対する不法行為を構成するものというべきである。

説明義務違反を理由に慰謝料25万円が認められました。

本件は、本人訴訟のため、弁護士費用はかかりませんが、仮に代理人を立てた場合には赤字になってしまうような結果です。

説明義務違反による慰謝料の金額は、どの事案でもそれほど高額になりませんので注意が必要です。

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管理会社等との紛争42 被告が原告の居住するマンションの一室の玄関前まで侵入し、玄関をノックしたり、玄関を傘で叩いたりするなどの行為をしたことにより、原告が抑うつ、不安、不眠の症状を悪化させたにもかかわらず、慰謝料請求が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、被告が原告の居住するマンションの一室の玄関前まで侵入し、玄関をノックしたり、玄関を傘で叩いたりするなどの行為をしたことにより、原告が抑うつ、不安、不眠の症状を悪化させたにもかかわらず、慰謝料請求が認められなかった事案(東京地判平成28年9月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告に対し、被告が原告の居住するマンションの一室の玄関前まで侵入し、玄関をノックしたり、玄関を傘で叩いたりするなどの行為をしたことにより、玄関に損傷を受け、原告の抑うつ、不安、不眠の各症状を悪化させたなどとして、不法行為に基づき損害賠償として728万2000円(玄関扉等交換工事費用162万円、慰謝料500万円及び弁護士費用66万2000円の合計金)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、5万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 原告は、被告の本件行為により損傷された本件玄関扉を復旧させるために162万円の負担を要するとして、甲8号証の1~3を提出するが、本件玄関扉等の損傷状態及び本件マンション管理組合作成の「X様への回答書」に鑑みても、本件玄関扉の復旧として、玄関枠交換工事及び玄関錠取替工事が必要とは認められず、その他本件全証拠からも上記各工事が必要とは認められない。他方、上記各工事は必要ではないが、本件玄関扉の復旧のためには、玄関扉を新しい扉に交換し、玄関枠の傷については塗装によって補修し、既設の玄関錠を新しい扉に付け替えることを要し、上記工事費用として65万5560円を要するから、同額を原告の損害とするのが相当である。
原告は、消防法に基づく共通仮設計画作成及び届出の費用として30万円(税別)並びに建築基準法に基づく共通仮設計画作成費用として25万円(税別)の支出を要すると主張するが、本件全証拠によっても、本件玄関扉の復旧のために上記計画作成及び届出等を要するとは認められない。
そして、被告は、65万5560円及びこれに対する遅延損害金を供託したから、原告の請求には理由がない

2 被告は、本件建物のインターホンを鳴らしたり、本件マンションに侵入し、本件建物のチャイムを鳴らし、玄関扉をノックしたり、傘で叩いて本件玄関扉を損傷させたりするなどしているが、被告は、原告が本件建物を所有していることや同建物に居住していることを認識しておらず、原告に何らかの危害や不安を与えることを意図して行ったのではないこと、本件玄関扉の損傷については上記のとおり財産的損害は填補されており、被告は原告の支払った治療費及びこれに対する遅延損害金も供託したところ(第2の1(3))、上記の被告の行為態様を考慮しても、上記財産的損害の填補により、原告の精神的損害は賄われたものと認めるのが相当であることからすると、慰謝料を求める原告の請求は理由がない
なお、本件マンションへの被告の侵入が建造物侵入に該当するとしても、本件建物に対する住居侵入には当たらず、本件マンションへの侵入をもって原告の利益が直接的に侵害されたものではない。また、原告は、被告の本件行為により鬱病になったとして、診断書を提出するが、被告が原告の支払った治療費及び遅延損害金を供託したことは上記のとおりであり、同診断書は、その記載からして、原告の供述に基づき記載されたものと解され、同診断書により被告の本件行為により原告が鬱病となったとは認められないことからすると、被告が供託した治療費以上に原告の精神的損害を認める理由はない。

3 上記のとおり、原告の求める損害賠償のうち、認められる損害賠償額は65万5560円及び遅延損害金であるが、他方、被告は、平成28年2月25日以降、同額及び遅延損害金を弁済する旨申し出ており、同年3月2日に供託したことに鑑みれば、本件において認める弁護士費用は5万円とするのが相当である。

本件では、特にうつ病に関する診断書が証拠として提出されていますが、裁判所は、治療費や工事費用等に限り損害賠償請求を認め、慰謝料請求は棄却しています。

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管理会社等との紛争41 警備会社が居住者でない者の要請に応じて居室の開錠をしたために居室内の架電が窃取された事案において警備会社の責任が否定された理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、警備会社が居住者でない者の要請に応じて居室の開錠をしたために居室内の架電が窃取された事案において警備会社の責任が否定された理由とは?(東京地判平成28年10月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

控訴人は、マンションの居室を区分所有しているところ、同マンションの管理会社から警備業務を委託された被控訴人が、居住者でない者の要請に応じて上記居室の開錠をしたために、上記居室内に備え付けられていた控訴人所有の家電が窃取され、同マンションの安全管理上の問題が生じたため上記居室を賃貸することができなくなったと主張して、被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償として、窃取された家電の購入代金相当額14万3316円及び賃料6か月分の逸失利益120万円+遅延損害金の支払を求めた。

原審が控訴人の請求を棄却したため,控訴人がこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 被控訴人は、警備契約に基づき本件マンションの警備を担当することとなったものであり、契約関係にない区分所有者及び居住者に対して、警備契約に基づく債務を直接に負担するものではない。しかしながら、管理組合は区分所有者によって構成されるものである(マンション管理適正化法2条3号、区分所有法3条)ところ、同組合が管理会社に対し本件マンションの管理を委託し、管理会社が被控訴人に対し本件マンションの警備を委託した関係にあることに徴すれば、区分所有者が管理組合及び管理会社を介して警備会社に本件マンションの警備を実質的に委託した関係にあるともみることができる。
加えて、本件マンションの警備が不十分であるときは、区分所有者ないし居住者の物的、人的安全が侵害される危険性があることを併せ考慮すれば、被控訴人には所有者及び居住者の物的、人的安全が侵害されないようにする不法行為上の注意義務が課せられているというべきであり、要請を受けて居室の開錠を行うに当たっては、所有者ないし居住者以外の者の要請に基づき開錠を行わないようにする注意義務が課されていると解するのが相当である。

2 控訴人は、被控訴人が上記義務を尽くす上で、具体的義務として、緊急連絡先に申請人が居住者として記載されていない場合においては、管理会社に連絡して、居住者か否かを確認すべき義務があったとする。
しかし、被控訴人が警備業務を請け負っている都内マンションでは、住民が変わっても緊急連絡先がその都度、提出されず、実際の住民と緊急連絡先に記載されている者が異なることがままあり、居住者の名前が緊急連絡先に記載がされている者と異なる居住者からの開錠を目的とする出動要請も珍しいことではない。居住者の名前が緊急連絡先に記載されていない場合には常に管理会社に連絡しなければならないとすると、多くの場合には問題がないにもかかわらず、管理会社に連絡して確認ができるまで居住者の入室を拒むこととなり、開錠を求める居住者の便益を損ねる可能性がある
他方、居住者の確認を相当と認められる方法で行うことができるのであれば、区分所有者ないし居住者の物的、人的安全の確保と居住者の便益の確保との調和を図ることができる。
被控訴人は、かかる観点から、身分証明書で居住者であることの確認ができる場合においては、管理会社に連絡をしない取扱いをしていたのであり、かかる取扱いには合理性があり、かかる取扱いをしたことに過失があったとはいえない
そして、居住者の確認方法として、免許証等の写真付きの身分証明書があれば、その身分証明書により、これがないときは公的機関の発行した身分証明書等や公共料金の利用明細書等の2点をもって本人か否かを確認するというものであり、その方法も合理的である。
公的機関の発行する身分証明書は一般に偽造は容易ではないし、これを所持する者が本人である蓋然性が高いからである。また、公共料金の利用明細書も一般に偽造が容易とはいえないし、当該居室の公共料金が申請人名義で支払われていることからすれば、当該居室に申請人が居住している蓋然性が高い。これらを組み合わせて2点で確認する方法は本人確認方法として是認されるというべきである。

本件マンションでのこれまでの対応状況及び警備会社の居住者の確認方法の合理性から過失が否定されました。

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管理会社等との紛争40 原告が費用を出して修繕工事をしたガス管は専有部分?それとも共用部分?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、原告が費用を出して修繕工事をしたガス管は専有部分?それとも共用部分?(東京簡判平成28年11月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が費用を出して修繕工事をしたガス管の一部分(本件係争部分ガス管)について、原告が本件係争部分ガス管は共用部分に属するとして、その修繕費用をマンション管理組合である被告に対し請求したところ、被告が本件係争部分ガス管は専有部分に属するとして、これを争っている事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件係争部分ガス管は、本件居室に関するガスメーターから出て、本件居室の壁に入っていき、本件居室で使用されるガス器具へとつながっていること及び本件居室に供給されるガスを通すのみであることは争いがないところ、この状況からすれば、本件係争部分ガス管は、構造上も利用上も専有部分に属するものと言える。

2 
ところで、管理規約の第7条は、1項及び2項で区分所有権の対象となる専有部分を定めたうえで、さらに3項において、「第1項又は前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とする。」と定めている。
そして、本件係争部分ガス管が設置されている場所が倉庫であり、その倉庫が共用部分に属するものであることは、当事者間に争いがないから、結局、本件係争部分ガス管は、共用部分規約により、共用部分に属するものと言うのが相当である。

裁判所が管理規約の規定に基づき判断していることがよくわかります。

区分所有建物における紛争においては、安易な拡大解釈や類推適用はしません。

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管理会社等との紛争39 定期総会の開会前における区分所有者による代表理事らに対する暴行事件について裁判所が認めた慰謝料額は?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定期総会の開会前における区分所有者による代表理事らに対する暴行事件について裁判所が認めた慰謝料額は?(東京地判平成28年11月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本訴は、本件マンション管理組合法人である原告管理組合、原告管理組合の代表者理事である原告X2及び建築業を営む原告X3が、平成25年7月13日に本件マンションの集会室において開催された原告管理組合の定期総会の開会前、①本件マンションの区分所有者である被告ら夫婦により集会室のドアを壊された、②原告X2及び原告X3が被告ら夫婦から暴行を受け、原告X3は傷害を負った、③被告ら夫婦による警察に対する虚偽の申告により原告X2及び原告X3が逮捕されたと主張して、被告らに対し、共同不法行為に基づき、〈ア〉原告管理組合は、集会室のドアの修理費用相当額4万8090円+遅延損害金、〈イ〉原告X2は、慰謝料500万円+遅延損害金〈ウ〉原告X3は、治療費及び慰謝料合計600万4170円+遅延損害金の各連帯支払を求める事案である。
 
反訴は、被告Y2が、本件総会への被告らの出席阻止を企てた原告X2及び原告X3から暴行を受けて傷害を負い、本件総会出席を妨害され、眼鏡を紛失させられたと主張して、原告X2及び原告X3に対し、共同不法行為に基づき、治療費、眼鏡の時価相当額、慰謝料及び弁護士費用合計34万7190円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告らは、原告X2に対し、連帯して5万円+遅延損害金を支払え。

 原告管理組合及び原告X3の本訴請求並びに原告X2のその余の本訴請求をいずれも棄却する。

 被告Y2の反訴請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 被告らは、原告X2が本件集会室の中に入ってドアを閉めようとするのを阻止するため、被告Y2において、原告X2の後ろから腰の辺りにしがみつき、また、被告Y1において、原告X2の後ろから首の辺りに腕を回して、原告X2を押さえたことが認められる。これは被告らの原告X2に対する暴行と認められるから、被告らには原告X2に対する不法行為が成立するというべきである。
なお、被告らは、被告ら両名が共に本件総会への出席権を有していた旨主張するが、仮にその主張が原告管理組合の規約50条1項及び51条1項ないし3項の解釈上正当であるとしても、本件総会には被告らのうちの1人しか出席できない旨話をしたにすぎない原告X2に対し、強制力を行使して権利の実現を図ること、すなわち自力救済は許されないから、被告ら両名が共に本件総会への出席権を有していたとしても上記暴行が正当化されるものではないというべきである。

2 上記の被告らによる暴行の際、揉み合いとなったことが認められるが、仮にそのときに原告X2による被告Y2に対する有形力の行使があったとしても、それは原告X2が被告Y2を振り払うための防御的行為であったというべきであるから、原告X2に被告Y2に対する不法行為が成立するとは認められない。
また、原告X3は、被告Y2の後ろから同人の両腋あるいは両脇腹の辺りを掴んで引き離したことが認められるが、上記同様、それは原告X3が原告X2を救うための防御的行為であったというべきであるから、原告X3に被告Y2に対する不法行為が成立するとは認められない。

慰謝料の金額はさておき、このようなケースでは、民事事件のみならず、刑事事件にも発展する可能性がありますので、気を付けましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争38 使用細則に禁止規定が存在しない場合における専用庭で野菜の露地栽培を行う権利を有することの確認の訴え(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、使用細則に禁止規定が存在しない場合における専用庭で野菜の露地栽培を行う権利を有することの確認の訴え(東京地判平成28年11月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、自らが区分所有しているマンションの区分所有者等からなる管理組合である被告に対し、原告が自らの所有する居室に接する専用庭において野菜の露地栽培等を行っていたところ、被告が、使用細則では露地栽培等が禁止されていないにもかかわらず、原告に対し上記露地栽培等の中止を要請する文書を送付し、また同内容の文書をマンション内の全戸に交付した上、原告の求めに応じず上記文書を撤回しないと主張して、約定による利用権に基づき、原告が専用庭において野菜の露地栽培を行う権利を有することの確認を求めるとともに、上記文書の交付等により原告が精神的苦痛を受けたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料47万円の支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

1 原告が、別紙物件目録記載の専用庭において、支柱やビニールハウス等の定着物(動産)を使用せずに、野菜を露地栽培する権利を有することを確認する。

2 原告のその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件専用庭は、原告が所有する本件居室に隣接するものではあるものの、原告が所有するものではなく、本件規約等により、原告に対し専用使用権が認められているにすぎないものである。したがって、専用使用権の範囲等については、基本的に、本件規約等により定められるべきものであり、換言すれば本件規約等により制限を受けるものであることは明らかである。
もっとも、本件居室の価格が2階の同じ面積及び間取りの居室よりも高く設定されていることに照らせば、専用使用権については、これが独立の取引対象とはなっていないことを踏まえても、一定の経済的な価値が認められることは明らかである。
よって、専用使用権の範囲を確定し又は権利を制限するにあたっては、こうした経済的負担を行った専用利用権者の利益にも十分配慮する必要があると解され、制約等をすべて本件規約等に明記すべきとはいえないものの、本件規約等の文言から当該制約等が容易に導かれる必要があると解するのが相当である。

2 本件細則3条1号及び2号の規定に照らすと、専用庭の専用使用者には、原則として専用庭内における芝生(クローバー)の維持管理義務があると認めることが相当である。
もっとも、本件規約等には芝生以外の植栽を明確に禁止する旨の規定がないことに加えて、過去に専用使用権者によりクローバーの撤去が行われた際に被告が異議を述べていないことや、一部の専用庭には砂利が敷き詰められていること、被告は、平成28年2月14日開催の臨時総会において、専用庭に芝生以外のグラウンドカバーを植栽することを認める旨の決議をしたことなどに照らすと、本件規約等が、芝生をはがすことをおよそ禁止しているものとまでは解することができない。
また、本件細則3条6号の規定から、専用庭においてはシンボルツリーの植え替え以外が認められていないとの解釈を導くこともできないし、同4条2項のいう美観の維持が、芝生の維持を指すとの解釈を導くこともできない。
したがって、専用庭における芝生の維持管理義務を理由に、野菜の露地栽培が禁止されているとする被告の主張は採用できない。

3 本件細則は、4条本文において建物の外観や環境を損なうような使い方を、同条2号において専用庭の現状の変更や美観を損なうことを禁止している。
しかし、野菜の露地栽培を行うことが、直ちにこれらの禁止事項に該当するとは認めるのは相当ではなく、野菜栽培の態様が、上記の禁止事項に該当する場合にのみ、そのような態様による野菜栽培が禁止されるにすぎないと解するのが相当である。
また、本件細則4条11号は、被告が本件規約等に違反したものと判断した禁止事項を行うことを禁止しているものの、上記で指摘した専用使用権の制限についての考え方に照らすと、同号の解釈として、被告が違反したと判断した行為のすべてを禁止することができると解すべきではなく、本件規約等に照らして違反行為であるとの判断が容易に導かれる行為に限り禁止することができると解するのが相当である。

4 原告には本件専用庭において野菜を露地栽培する権利を有しているにもかかわらず、被告が、上記権利を否定して使用方法の変更を求める本件書面を原告に対し送付し、また原告の氏名や部屋番号を消去した上で同内容の文書を組合員に対し配布したことが認められる。
もっとも、原告による本件専用庭の使用方法には、本件規約に違反する態様のものも含まれていたことや、本件規約の解釈にあたっては法律的な専門性が求められること、被告は組合員に対し原告の氏名や部屋番号を伏せた上で文書を配布するなど原告に対する配慮を行っていることなども認められる。
このような本件の事実関係に照らせば、被告が、自らの法的見解に基づき、本件規約にのっとり理事会での決議を経た上で、本件書面を送付、配布した行為については、当時における被告の対応としては相当な範囲内のものであったと認められ、これを違法と評価することはできないから、不法行為を構成するものとは認められない。

専用使用権の制限について、その経済的価値を踏まえ、比較的厳格に解釈しています。

本件でも、やはり裁判所の判断の基礎にあるのは、管理規約や使用細則にどのように規定されているのか、という文理解釈です。

区分所有建物における紛争においては、裁判所はこれらの規程の安易な拡大解釈や類推適用はしなせんので、注意しましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争37 理事長や管理会社が原告である監事の監査業務を妨害したことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事長や管理会社が原告である監事の監査業務を妨害したことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(横浜地裁川崎支判平成29年3月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者であり、本件マンション管理組合の監事である原告が、被告らの行為により、原告の監査業務が妨害されるとともに原告の信用が毀損されたと主張して、不法行為に基づき、580万円+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、原告が被告会社と連絡が取れていたから、被告らは、原告に対し、平成27年度監査報告書に記名押印するよう依頼すれば足りるのに、それをせずに、H社に監査報告書を作成させて、平成27年度の事業計画及び収支決算を通そうとし、故意に原告の監査業務を妨害したと主張する。
しかしながら、本件マンションの管理規約の37条1項によれば、本件管理組合の監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況を監査し、その結果を総会に報告しなければならないとされているのであるから、原告は、監査業務を行う意思があるのであれば、開催の通知を受けた理事会に出席すれば足りるところ、2回にわたって理事会を欠席したことは前述のとおりである。
そして、定期総会議案説明書の第2号議案には、副理事長が代行して監査結果を報告することに続けて、「なお、正式には、第8号議案で選任が予定されている管理組合役員の中から決定される監事に監査して頂き、後刻改めて書面にて結果をご報告します。」と記載されていることからすれば、平成27年度監査報告の監事欄に副理事長のH社が記名押印を代行したからといって、本件管理組合が平成27年度の監査を終了した扱いにしようとしたわけではなく、H社による記名押印の代行は、予定された期日(平成28年5月9日)に定期総会を開催するために形式を整えただけのいわば緊急避難的な行為と認めるのが相当である。
よって、被告らが原告を排除して平成27年度の事業計画及び収支決算を通そうとしたと評価することはできず、本件記録上、原告の監査業務を妨害したと認めるに足りる証拠はないから、原告の主張は理由がない。

故意に原告の監査業務を妨害したものではないと判断されるためには、しっかりと規約に則り、かつ、議事録や議案説明書等に具体的に状況を記載しておくことが有益です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理会社等との紛争36 マンションの新築工事における外壁及び玄関庇への石材取付工事につき、同工事の施工者が、建物としての基本的な安全性が欠けることのないように配慮するべき注意義務を怠ったとして、同施工者の不法行為責任が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの新築工事における外壁及び玄関庇への石材取付工事につき、同工事の施工者が、建物としての基本的な安全性が欠けることのないように配慮するべき注意義務を怠ったとして、同施工者の不法行為責任が認められた事案(東京地判平成29年3月31日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件建物の管理組合の管理者である原告が、本件建物の窓の上下及び正面玄関庇に取り付けられた石材について、それぞれ、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があると主張して、本件建物の新築工事を施工した被告に対し、本件建物の区分所有者らの有する不法行為による損害賠償請求権に基づき、同区分所有者らのために、上記瑕疵の補修工事費用として4555万9556円及び同補修工事に関する見積書作成費用として30万2400円の合計4586万1956円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、620万5497円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件外壁石材は、約1キログラムないし約16キログラムの相当程度の重量物であるところ、仮に、1階分の階高以上の高低差のある高所から剝落して、地表の通行人の上に落下した場合、当該人の生命又は身体に重大な損害を与える蓋然性が高いことに鑑みると、本件外壁石材を1階分の階高以上の高低差をもって通行人の上に落下し得るような場所の躯体に取り付ける行為自体が、当該外壁石材の剝落により居住者等の生命又は身体に対する高度の危険性を内在するものというべきである。
そうすると、施工者は、本件外壁石材を躯体に取り付けるに当たっては、これが剝落・落下して、居住者等の生命又は身体を危険にさらすことがないように配慮すべき注意義務、すなわち、その剝落・落下を防止するための十分な措置を講じるべき義務(「剝落等防止措置義務」)があるというべきである。

2 少なくとも、本件外壁石材のような外壁材を1階分の階高以上の高低差をもって通行人の上に落下し得るような場所の躯体に取り付ける場合に関しては、①一般的合理的施工方法に則しているときには、原則として、剝落等防止措置義務の違反はないというべきであるが、他方で、②一般的合理的施工方法に則していないときには、原則として、当該義務の違反があり、そのために、本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があるということができるものの、②のときであっても、実際に採られた施工方法が、一般的合理的施工方法と同等又はそれ以上の効用を有すると認めることができるならば、上記義務を怠ったということはできないと解するのが相当である。
そうすると、少なくとも、前記の場合に関しては、①当該施工を行った施工者に対して建物としての基本的な安全性が欠けることがないよう配慮すべき注意義務に違反することを理由として不法行為に基づく損害賠償を請求する者の側において、施工者の上記施工内容が一般的合理的施工方法に則していないことを主張・立証した場合には、原則として、施工者において、剝落等防止措置義務を怠った、すなわち、居住者等の生命又は身体を危険にさらすことがないように配慮すべき注意義務の違反があり、そのために、本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があると認められ、②これに対して、施工者の側で、自らの行った上記施工が、一般的合理的施工方法とは異なるものの、当該外壁石材の剝落・落下の防止に関して、当該一般的合理的施工方法と同等又はそれ以上の効用を有することを主張・立証した場合には、当該義務を怠ったと認めることはできない、すなわち、居住者等の生命又は身体を危険にさらすことがないように配慮すべき注意義務の違反があると認めることはできないというべきである。

あてはめ部分については省略しますが、「剥落等防止措置義務」違反の判断方法が示されていますので押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理業者等との紛争35 区分所有建物を賃貸する旨の届出を管理業者が不受理としたことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有建物を賃貸する旨の届出を管理業者が不受理としたことを理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京地判平成29年4月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、マンションの区分所有建物を第三者に賃貸すべく、管理組合にその旨の届出をしたところ、管理業者である被告が、その権限を逸脱して同届出を不受理としたため、損害を被った旨主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、被告が、本件営業開始届に関するすべての対応と判断をし、本件営業開始届の取扱いに関するアンケートが実施された際には回答者を誤導するなどして、本件マンションの管理業務の受託者としての権限を逸脱して本件営業開始届を不受理とし、原告がKに本件物件を賃貸する権利を侵害した旨主張する。
しかし、本件営業開始届は、理事会が、その判断に基づき不受理としたものであることが明らかである。
原告は、被告が、平成28年5月31日、理事会の役員に対し、「本件条項は福祉施設の開業はできない旨規定しているため、今回の申請は不受理になるかと存じます。6月6日までにご意見がない場合、不受理の回答をさせていただきます。」旨記載したメールを送信し、役員からメールに対する回答がなかったことをもって理事会の決定に代えた点を論難するが、本件マンション管理業者である被告が、理事会に対して自身の見解を示したとしても、何ら非難を受けるいわれはなくまた、理事会において、役員が集合する必要のない限り、メールでのやりとりによって意思決定をすることは、何ら不合理ではない。
そして、被告が、同年6月7日、サンケイビルに対し、「理事会に連絡した結果、本件営業開始届は、本件条項に該当するため、不受理となりました。」旨記載したメールを送信したことについては、同月12日に開催された理事会の会議において、理事会の判断として是認され、その結論は、同年7月3日に開催された理事会の会議においても維持されたものである。
なお、原告は、被告が、本件営業開始届の取扱いに関するアンケートが実施された際に回答者を誤導した旨も主張するが、アンケートの説明文は、被告がこれを作成したとしても、理事会の了承を得て、理事会名義で発出されたものと認められ、その記載内容も、アンケートを実施するに至った経緯を回答者に説明するために必要かつ相当なものといえるから、被告が回答者を誤導したなどということはできない。

管理会社が主導していたとしても、最終的な判断は管理組合(理事会)が行うことから、上記結論となりました。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。