おはようございます。
今日は、使用細則に禁止規定が存在しない場合における専用庭で野菜の露地栽培を行う権利を有することの確認の訴え(東京地判平成28年11月28日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、原告が、自らが区分所有しているマンションの区分所有者等からなる管理組合である被告に対し、原告が自らの所有する居室に接する専用庭において野菜の露地栽培等を行っていたところ、被告が、使用細則では露地栽培等が禁止されていないにもかかわらず、原告に対し上記露地栽培等の中止を要請する文書を送付し、また同内容の文書をマンション内の全戸に交付した上、原告の求めに応じず上記文書を撤回しないと主張して、約定による利用権に基づき、原告が専用庭において野菜の露地栽培を行う権利を有することの確認を求めるとともに、上記文書の交付等により原告が精神的苦痛を受けたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料47万円の支払をそれぞれ求める事案である。
【裁判所の判断】
1 原告が、別紙物件目録記載の専用庭において、支柱やビニールハウス等の定着物(動産)を使用せずに、野菜を露地栽培する権利を有することを確認する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
【判例のポイント】
1 本件専用庭は、原告が所有する本件居室に隣接するものではあるものの、原告が所有するものではなく、本件規約等により、原告に対し専用使用権が認められているにすぎないものである。したがって、専用使用権の範囲等については、基本的に、本件規約等により定められるべきものであり、換言すれば本件規約等により制限を受けるものであることは明らかである。
もっとも、本件居室の価格が2階の同じ面積及び間取りの居室よりも高く設定されていることに照らせば、専用使用権については、これが独立の取引対象とはなっていないことを踏まえても、一定の経済的な価値が認められることは明らかである。
よって、専用使用権の範囲を確定し又は権利を制限するにあたっては、こうした経済的負担を行った専用利用権者の利益にも十分配慮する必要があると解され、制約等をすべて本件規約等に明記すべきとはいえないものの、本件規約等の文言から当該制約等が容易に導かれる必要があると解するのが相当である。
2 本件細則3条1号及び2号の規定に照らすと、専用庭の専用使用者には、原則として専用庭内における芝生(クローバー)の維持管理義務があると認めることが相当である。
もっとも、本件規約等には芝生以外の植栽を明確に禁止する旨の規定がないことに加えて、過去に専用使用権者によりクローバーの撤去が行われた際に被告が異議を述べていないことや、一部の専用庭には砂利が敷き詰められていること、被告は、平成28年2月14日開催の臨時総会において、専用庭に芝生以外のグラウンドカバーを植栽することを認める旨の決議をしたことなどに照らすと、本件規約等が、芝生をはがすことをおよそ禁止しているものとまでは解することができない。
また、本件細則3条6号の規定から、専用庭においてはシンボルツリーの植え替え以外が認められていないとの解釈を導くこともできないし、同4条2項のいう美観の維持が、芝生の維持を指すとの解釈を導くこともできない。
したがって、専用庭における芝生の維持管理義務を理由に、野菜の露地栽培が禁止されているとする被告の主張は採用できない。
3 本件細則は、4条本文において建物の外観や環境を損なうような使い方を、同条2号において専用庭の現状の変更や美観を損なうことを禁止している。
しかし、野菜の露地栽培を行うことが、直ちにこれらの禁止事項に該当するとは認めるのは相当ではなく、野菜栽培の態様が、上記の禁止事項に該当する場合にのみ、そのような態様による野菜栽培が禁止されるにすぎないと解するのが相当である。
また、本件細則4条11号は、被告が本件規約等に違反したものと判断した禁止事項を行うことを禁止しているものの、上記で指摘した専用使用権の制限についての考え方に照らすと、同号の解釈として、被告が違反したと判断した行為のすべてを禁止することができると解すべきではなく、本件規約等に照らして違反行為であるとの判断が容易に導かれる行為に限り禁止することができると解するのが相当である。
4 原告には本件専用庭において野菜を露地栽培する権利を有しているにもかかわらず、被告が、上記権利を否定して使用方法の変更を求める本件書面を原告に対し送付し、また原告の氏名や部屋番号を消去した上で同内容の文書を組合員に対し配布したことが認められる。
もっとも、原告による本件専用庭の使用方法には、本件規約に違反する態様のものも含まれていたことや、本件規約の解釈にあたっては法律的な専門性が求められること、被告は組合員に対し原告の氏名や部屋番号を伏せた上で文書を配布するなど原告に対する配慮を行っていることなども認められる。
このような本件の事実関係に照らせば、被告が、自らの法的見解に基づき、本件規約にのっとり理事会での決議を経た上で、本件書面を送付、配布した行為については、当時における被告の対応としては相当な範囲内のものであったと認められ、これを違法と評価することはできないから、不法行為を構成するものとは認められない。
専用使用権の制限について、その経済的価値を踏まえ、比較的厳格に解釈しています。
本件でも、やはり裁判所の判断の基礎にあるのは、管理規約や使用細則にどのように規定されているのか、という文理解釈です。
区分所有建物における紛争においては、裁判所はこれらの規程の安易な拡大解釈や類推適用はしなせんので、注意しましょう。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。