管理費・修繕積立金21 未払管理費等の支払方法について合意による弁済の充当が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、未払管理費等の支払方法について合意による弁済の充当が否定された事案(東京地判令和元年8月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告との間の東京地方裁判所平成28年(ワ)第5799号管理費等請求事件について平成28年6月23日に成立した第3回口頭弁論調書(和解)所定の債務について、約定どおり支払っていたのに、期限の利益を失ったとして被告が本件和解調書に基づき強制執行を申し立てたと主張して、同強制執行の不許を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件和解調書によって、①本件建物1及び本件建物2の管理費等の未払金として、ア元金115万0920円、イ確定遅延損害金25万1500円、ウ同元金に対する平成28年6月24日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払義務、②本件建物1の管理費等として、ア平成28年6月から本件建物1の区分所有権を喪失するまでの間の管理費等毎月2万4490円及びイこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払義務、③本件建物2の管理費等として、ア平成28年6月から本件建物2の区分所有権を喪失するまでの間の管理費等毎月7480円及びイこれに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払義務をそれぞれ負っていた。

2 原告は、平成28年6月から平成30年5月まで毎月支払っていた5万8434円について、第2項の支払(上記①ア及びイの支払)をしており、被告もこれを認めていたから、当事者双方の合意による弁済の充当である旨主張する。
確かに、原告は、上記のとおり、複数の債務を負っていたところ、原告の支払額は第2項所定の分割金と同額であり、原告の意思としては、第3項による期限の利益の喪失を避けるべく、まずは第2項の支払をしようとするもの、具体的には、上記①ア及びイの支払に充当しようとするものと解される。
他方、被告が平成28年6月から本件競売申立てまで、原告に対して特段の異議を述べた形跡はなく、また、平成29年5月14日開催の被告の理事会において、原告からの支払が和解に基づき分割弁済が履行されている旨の報告がされたことが認められる。
しかし、被告は、原告に対してわざわざ前訴を提起し、原告が負っていた管理費等の未払金について履行を求め、それまでの管理費等の未払金と、本件和解後の管理費等の支払をさせる旨の本件和解調書の内容の和解をしたことからすると、本件和解後の管理費等を支払わなくても、管理費等の未払金を優先して支払わせることでよいというような意思があったと認めることは困難である。
したがって、当事者双方において弁済の充当に関する合意がされた旨の原告の上記主張は、採用することができない。
そうすると、民法491条により、原告の支払は、まず利息に充当されることになるから、遅くとも、平成28年11月28日の5万8434円の支払をもって、同日時点での第1項の遅延損害金(残額3万1867円)は完済となり、弁済金の残金2万6567円の一部は、第1項の元金より先に、第5項及び第6項の遅延損害金に法定充当される。
したがって、平成28年11月28日の経過をもって第2項の分割金5万8434円の弁済が不履行となり、第4項の免除は適用されなくなる。
したがって、原告は、第3項により、期限の利益を喪失している。

3 原告は期限の利益を失っており、他に被告の本件競売申立てが権利の濫用である旨を基礎づける事情はないから、本件競売申立てが権利の濫用である旨の原告の主張は、採用することができない。

事案を見る限り、原告が権利濫用を主張したくなる理由も理解できなくはありません。

「支払いが足りないなら競売申し立てる前に一言言ってよ・・」という感じですかね。

【現行民法】
第489条
1.債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
2.前条の規定は、前項の場合において、費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて準用する。
(合意による弁済の充当)
第490条
前二条の規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い、その弁済を充当する。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。