おはようございます。
今日は、管理組合等が建物の共同浴場等の使用を認めない書面を掲示したことが不法行為にあたらないとされた事案(東京地判平成31年3月7日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
原告は、区分所有建物の9階部分を共有により区分所有し、同階層において会員制の宿泊施設を営業している。
本件は、原告が、①原告の会員が同建物の管理組合である被告管理組合及び同被告から同建物の管理を委託された被告会社により、同建物の共同浴場等の使用を妨害されたことにより、会員による年会費の滞納や会員の退会が増加し、会員から徴収することができた年会費相当額の損害を被ったとして、被告らに対し、共同不法行為に基づき、上記の年会費相当額である1940万6700円+遅延損害金の支払を求めた事案と、②原告は、上記階層の共用部分について、月額3万円の維持管理費用を負担して清掃等の管理をしているが、被告管理組合は上記共用部分の管理をしておらず、これにより法律上の原因なく利得を得ているとして、不当利得に基づき、本件の訴え提起から過去10年分の管理費用相当額である360万円の返還+遅延損害金の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 原告は、被告らにより、原告クラブ会員に対する共同浴場等の使用を認めない書面を掲示する使用妨害行為があった旨主張する。
しかしながら、原告は、別件訴訟の判決のとおり、平成19年3月以降の管理費及び修繕積立金を支払っていないこと、被告管理組合の駐車場使用細則2条及び共同浴場・サウナ室細則2条によれば、管理費等の未払いが3か月を超えた組合員等は、上記各施設を使用することができない旨定められ、また、滞納管理費等の標準督促取扱に関する細則3条4項によれば、管理費等の未払いが6か月にわたる組合員については、その部屋番号を記載した書面を温泉浴場等に掲示することができる旨定められていることが認められる。
また、被告管理組合において、上記のように、一定の場合に組合員による本件建物の共用部分等の使用を制限する旨の細則を定めることは、団体自治上許されるものというべきである。
そうすると、原告クラブ会員が共同浴場等の使用を制限され、その旨の書面が被告らによって掲示されたことがあったとしても、これは、原告の管理費等の未払いが上記各細則所定の期間を超えたことにより、各細則に基づく措置がとられたことによるものと推認することができる。
したがって、被告らにより原告クラブ会員に対する使用制限等があったとしても、その行為に不法行為上の違法があるとはいえない。
2 原告は、本件階層の廊下等の共用部分は、原告が費用をかけて管理しており、被告管理組合はその管理の負担を免れているから、被告管理組合は管理費用相当額の支出を免れることで法律上の原因なく利得し、これにより原告は同額の損失を被った旨主張する。
しかしながら、原告は、本件階層を購入した上で、旅館業の許可を取得してホテル等を営むことが予定されていたが、それが実現しないまま、宿泊施設類似の形態をとった原告クラブを営業していることが認められる。
このように、原告は、本件階層全体を宿泊施設として専用使用する予定であったものが、同階層内にも共用部分が残る状態で通常の区分所有建物として扱われ、実際には、本件階層内の共用部分についても、事実上、同部分を専有部分として使用しているといえる。
その上で、原告は、自ら本件共用部分の清掃等をしているのであって、被告管理組合に対し、清掃等の管理を求めたようなこともうかがわれないことからすると、原告は、被告管理組合の意向とは関係なく、任意に本件階層の共用部分を管理しているものというべきである。
そうすると、原告は、被告が本件階層の共用部分の管理をしないために、自ら同部分の管理をせざるを得ず、その管理費相当額の負担を余儀なくされているのではないから、被告が本件階層の共用部分の管理をせず、管理費相当額の支出をしていないことと、原告が自ら上記部分を管理することによりした支出との間に因果関係があるとは認められない。
以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告の被告管理組合に対する不当利得返還請求には理由がない。
上記判例のポイント1のような書面の掲示行為は、内容如何によっては名誉毀損を理由に損害賠償を請求される場合があります。
同種事案の裁判例を確認することにより、裁判所の判断傾向を知ることができます。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。