漏水事故12 専有部分の修理工事につき事務管理の成立が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分の修理工事につき事務管理の成立が否定された事案(東京地判平成31年3月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、被告Y2所有の本件建物の修理工事を行ったことについて、①被告Y2に対し、事務管理に基づく費用償還請求権に基づき、又は、夫婦共同義務なるもの(原告の妻である被告Y2が原告居住建物を快適な状態に保つ法律上の義務)に基づき、原告が支出した本件工事代金97万7022円の支払と②本件工事代金の支払を拒むのは違法であるとして不法行為に基づき損害賠償金50万円の支払と③上記①及び②の合計である147万7022円+遅延損害金の支払を求め、被告管理組合に対し、本件工事は、本件マンションの共有部分に瑕疵があり、本件マンション管理組合である被告管理組合が依頼した大規模修繕工事を契機として浸水が発生するなどした結果として、これを行うことを余儀なくされたなどと主張した上、これについて、被告管理組合は、本件建物の所有者である被告Y2に対し、①被告管理組合が上記大規模修繕工事の工事業者に対し原状回復を行わせないのであるから、不法行為責任を負う、あるいは、上記大規模修繕工事の工事業者の行為について使用者責任を負う、②上記原状回復義務違反によって、本件マンションの管理規約の債務不履行責任を負うなどとして、被告Y2に代位して、被告Y2の被告管理組合に対する不法行為又は債務不履行責任の損害賠償請求権に基づき、147万7022円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 被告Y2は、原告に対し、平成29年11月24日付けの本件通知により、原告が本件建物について工事を行うこと(本件工事)を発注しないことを求めていることは明らかであるから、本件工事の実施は、本人たる被告Y2の意思に反するものであることは明らかである。
そして、本人の意思に反することが明らかでないことは、事務管理の存続要件である(民法700条ただし書)のみならず、その成立要件と解すべきであるから、本人の意思に反することが明らかである場合には、事務管理がそもそも認められないものと解すべきである。
このため、原告が行った本件工事について事務管理は成立しない。

2 原告は、本件建物は日々朽ち果てており、一日も早く修補しないと建物の財産価値は極度に下がってしまうにもかかわらず、本件通知をもって、事務管理に基づく支払を拒絶することに合理性はなく、原告に対する嫌がらせでしかないなどと主張するが、本件建物の所有者が被告Y2である以上、その財産をどのように処分するかは被告Y2の自由(しかも、原告が発注しようとしている工事の内容や費用も被告Y2に知らされていない。)であって、被告Y2の意思として工事の実施は不要であるとする本件通知を行うことが不当なものということはできない
これに加え、被告Y2が本件建物から出る形で原告と別居していたという状況の下では、原告による本件工事は、被告Y2の利益のみならず、原告自身が本件建物での居住を継続するために実施されたといいうること、原告は上記別居後本件口頭弁論終結時まで単独で本件建物に居住し続けていること、また、この間、原告と被告Y2との間に本件建物に係る使用貸借契約等の明確な契約関係がなく、単独で独立した占有権原なく本件建物に居住して占有し続けているともいいうること(なお、被告Y2と原告間の離婚成立時又はその後に財産分与により最終的な本件建物の帰属についての変更可能性があることも否定できず、事務管理に基づく費用の負担は流動的なものともいえる。)などをも併せ考えると、原告は、本件通知により本件工事の実施を拒絶し、原告による事務管理を否定することが信義則に反するものと認めることはできない
したがって、原告の事務管理に係る主張は理由がない。

この事案を通じて、事務管理の要件を確認しておきましょう。

第697条(事務管理)
① 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
② 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。

【要件】
・法律上の義務がないこと
・他人のためにする意思を有すること
・他人の事務を管理すること
本人の意思や利益に反することが明らかでないこと

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。