管理会社等との紛争10 専有部分の湿気が恒常的にひどいことについて管理組合及び管理会社の責任が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専有部分の湿気が恒常的にひどいことについて管理組合及び管理会社の責任が否定された事案(東京地判平成31年3月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件専有部分の区分所有者である原告が、①区分所有法3条に基づいて本件マンションの区分所有者全員で構成する本件マンションの管理組合である被告管理組合について、本件専有部分の湿気が恒常的にひどいという建物の瑕疵があると主張して民法717条1項に基づき、又は本件専有部分の湿気やカビに関する原告の申出に対し然るべき対応をする管理規約上の義務があったにもかかわらずこれを怠ったと主張して「法定責任」若しくは債務不履行に基づき、②被告管理組合との間で管理委託契約を締結している被告管理会社について、原告の申出に対し然るべき対応をする委任契約上の善管注意義務があったにもかかわらずこれを怠ったと主張して、債務不履行に基づき、被告らに対し、連帯して643万2685円の損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 民法717条1項にいう「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵がある」とは、当該土地の工作物について、その種類の工作物として本来備えるべき性状や設備を欠き、その安全性等を欠いていることであると解されるところ、原告は、「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」ことが瑕疵であると主張するが、このような現象が土地の工作物(建物)の瑕疵であるということはできない。
また、仮に「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」という現象が起こったため、カビが発生して原告主張の種々の損害が発生したという主張であると捉えてみたとしても、被告管理組合の責任は認められない。すなわち、原告は、区分所有法9条が「建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。」と定めていることを指摘して、原告において上記のこと以上に主張立証する必要はないというが、同規定は、欠陥がどこにあるのか判明しないという場合に当該欠陥は共用部分にあると推定するものに過ぎないため、原告の被った損害が建物の設置又は保存の欠陥に由来するものであることは原告において主張立証しなければならないものであるところ、「湿気が恒常的にひどい」という現象の原因は種々考えられるのであって、当該現象が存在したからといって、これが建物の設置又は保存の欠陥に由来するものであるということはできず、建物の設置又は保存の何らかの欠陥によって「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」という現象が生じた(ひいては原告主張の種々の損害が発生した)ことについては、証拠が全くない。

2 加えて、本件においては、そもそも「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」ことについてもこれを認めるに足りる証拠はない。
すなわち、原告は、同事実が存在したことの証拠として、甲25号証の1ないし3を提出するが、同甲号各証及び弁論の全趣旨からは、平成24年5月2日に原告が本件専有部分で湿度を測ったところ、当該測定に用いた湿度計において湿度80ないし85パーセントを指し示したことが認められるが、当該湿度計がどの程度の性能のものであるのか、当該測定方法がいかようなものであるのか、当該測定時における周囲の状況がいかようなものであるのかなど測定の前提となるべき種々の事情は全く不明である上、仮に上記測定結果を前提とするとしても、同日に湿度80ないし85パーセントであったというだけであり、これがどの程度持続していたかについては全く不明なのであって、同甲号各証によっては「本件専有部分の湿気が恒常的にひどい」という事実を認めるに足りず、他に同事実を認めるに足りる証拠はない。

上記判例のポイント2において、裁判所が求める立証の内容・程度をしっかりと押さえておきましょう。

本件は、湿度の問題ですが、騒音や悪臭等にもそのまま応用可能です。

事前の準備が勝敗を決するという典型例です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。