おはようございます。
今日は、清算条項を含む承諾書に基づき保険会社から漏水事故の賠償を受けたことを理由とする追加の損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和元年7月25日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、本件建物403号室を所有していた原告が、同建物の真上の階に所在する建物(本件建物503号室)からの漏水事故により、漏水が本件建物403号室に達し、建物修繕費用及び汚損した絨毯に係る財産的損害を被った旨主張して、本件建物503号室を所有していた亡Aから同建物を使用していた同人の子である被告に対し、被告は亡Aの建物所有者としての損害賠償責任(民法717条1項ただし書)を相続しており、また、被告自身も建物占有者としての損害賠償責任(同項本文)を負う旨主張して、損害賠償金合計920万円(建物修繕費用1049万2582円のうち800万円及び汚損した絨毯につき120万円)+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 本件承諾書は、その記載から一見して、本件事故によって原告に生じた損害について、同承諾書記載の金額が原告に支払われることをもってその他の債権債務がないことを確認し、同金額を超える損害賠償責任を免責する内容の書面であることが明らかであり、同承諾書の当事者欄に亡Aの記名があることから、同承諾書が亡Aに宛てたものであることも明らかである。したがって、原告は、本件承諾書に署名押印したことにより、亡Aに対し、同承諾書に記載された上記内容のとおり意思表示をしたものと認められ、これにより、亡Aとの間で、上記内容のとおり合意が成立したものと認められる。
したがって、原告が、三井住友海上から、本件承諾書記載の金額である合計467万3560円の支払を受けたことにより、亡Aは、本件事故による損害賠償について、同金額を超える責任を免れたものと認められるか、原告は、亡Aに対し、更に本件事故によって生じた損害の賠償を求めることはできない。
以上によれば、亡Aに対する損害賠償請求権を被告が相続したことを前提とする原告の請求は、前提において理由がない。
2 本件排水管は、本件建物503号室の台所流し台床下に埋設されており、流し台自体を撤去しなければ視認したり接触したりすることができない位置に設置されていたことが認められる。しかるところ、本件建物503号室の使用借主にすぎない被告において、上記流し台を撤去して本件排水管が破損しているか否かを直接視認するなどして確認したり、破損箇所の修補を行うことは期待できず、また、そのような権限も有していなかったと認められるから、被告が、上記確認ないし修補等を行って本件排水管を維持すべき注意義務を負っていたということはできない。
また、本件事故当時、本件建物503号室に居住していた被告において、本件排水管の破損を予見し得るだけの兆候その他の事実を認識していたことは証拠上うかがわれず、被告が、本件排水管の破損の危険性を亡Aに事前に連絡するなどして本件事故を未然に防止すべき注意義務を負っていたということもできない。
さらに、本件事故当時、被告が、本件排水管に過度の負担がかかるような態様で本件排水管を使用していたことや、本件排水管の定期的な清掃その他のメンテナンスに非協力的であったことをうかがわせる事情は証拠上見当たらない。
本件は、本人訴訟で、原告としては納得のできない事情があったのだと思いますが、清算条項が入っていますので、追加の請求は難しいです。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。