おはようございます。
今日は、新聞配達が玄関のオートロックを不適切な方法で開錠しマンションに侵入した行為の違法性(東京地判令和2年12月10日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、原告が、a新聞の配達員であるCが原告の居住するマンションの玄関のオートロックを違法に開錠して本件マンションに侵入したことを現認して、110番通報したにもかかわらず、現場に臨場した警視庁の警察官らが、事実関係の確認を怠り、Cを逮捕しなかったことは違法であり、この違法な事件処理により著しい精神的苦痛を被ったと主張して、被告東京都に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料30万円の支払等を求めるとともに、Cの上記侵入行為及びa新聞の配達員であるDが同マンションのエレベーターを利用していないにもかかわらず各階に停止するようボタンを押して原告の業務を妨害するなどした行為につき、被告株式会社Yは使用者責任を負うべきであると主張して、被告Y社に対し、民法715条1項に基づき、慰謝料等合計32万円の支払等を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 民法715条1項にいう使用関係の存否については、当該事業について使用者と被用者との間に実質上の指揮監督関係が存在するか否かを考慮して判断すべきものであるところ、本件全証拠によっても、被告Y社がC及びDに対し実質上の指揮監督関係を有していると認めることはできず、また、一般的に、新聞社が販売店に対し、実質上の指揮監督関係を有しているということもできない。
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告Y社に対する請求は失当である。
2 Cは、本件マンションのオートロックの扉の隙間からチラシを挿入してドア開閉センサーを感知させて扉を開錠し、本件マンション内に立ち入ったことが認められ、その立入りの態様は不適切であったということができる。
しかし、午前4時49分頃という立入りの時刻に鑑みると、Cがa新聞の購読者である本件マンションの居住者のドアポストに新聞を配達する目的で本件マンションに立ち入ったことは容易に推認されるところであり、また、Cの本件マンションへの立入りについて上記購読者の承諾が得られているものと推認され、本件マンションの管理者の意思に反するものでもないとも推認される。
そうすると、Cの上記立入行為が、直ちに原告に対する不法行為を構成するとは認め難いといわざるを得ない。
また、Dのエレベーターのボタンを押す行為が不適切であるとはいえるものの、それが直ちに原告の権利・利益を違法に侵害したと評価することは困難であるし、本件販売店の所長が令和2年9月9日のうちに原告に電話していることに照らすと、Dが原告から交付されたメモを同所長に交付したと推認され、Dがこれを不当に投棄したと認めることもできない。
そして、原告主張に係る同月11日のDの言動が、直ちに原告の権利・利益を侵害するような違法な暴言であったと評価することもできない。
マンションへの侵入行為は不適切であるが、違法(不法行為)とはいえないという判断です。
上記判例のポイント2の考え方は、同種事案にも応用可能な考え方ですので押さえておきましょう。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。