おはようございます。
今日は、原告らの管理組合役員立候補を不承認とした決定は理事会の裁量の範囲を逸脱、濫用するものとして違法としつつ、被告理事らの不法行為責任を否定した事案(東京地判令和2年12月4日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、マンションの区分所有者である原告らが、以下の請求をする事案である。
①同マンションの管理組合法人の理事である被告Y1、同Y2、同Y3、同Y4及び同Y5(以下,併せて「被告理事ら」という。)に対し、被告理事らが正当な理由なく、原告らを同管理組合法人の理事の立候補者として承認せず、原告らの役員立候補権を侵害したなどと主張して、不法行為に基づき、原告ら各自につき、連帯して、慰謝料等110万円+遅延損害金の請求。
②同マンションの管理業務の委託を受けている被告Aに対し、被告Aが被告理事らに対し適切な助言等をしなかったことなどが不法行為に当たると主張して、被告理事らと連帯して上記①と同額の金員の請求。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 本件改正条項は、「立候補者が役員候補者として選出されるためには、理事会承認を必要とする」というものであるところ、その趣旨は、暴力団等の反社会的組織の構成員や、成年被後見人であるなどの本件管理組合の役員としての適格性に欠ける客観的な事情がある者に限り、理事会が立候補を承認しないことができるというものであり、その限度で有効であると解するのが相当である。
けだし、区分所有法25条1項、49条8項及び50条4項によれば、管理組合法人の役員の選任に関しては、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって定めることとされているが、同法30条3項によれば、規約は区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならないとされており、本件改正条項につき被告らが主張するような理事会の広い裁量を認めれば、理事らにおいて自らと意見の一致しない区分所有者の立候補を阻止することができ、当該区分所有者は、その役員としての適格性の是非を集会において他の区分所有者によって判断されて、信任、選任される機会を失う事態になるところ、このような事態が区分所有法30条3項にいう区分所有者間の利害の衡平を害するものであることは明らかだからである。
2 被告理事ら(被告Y5を除く)は、原告らが本件管理組合の運営につき批判的な意見を持ち、再三にわたりビラを配布したり、総会で反対意見を述べるなどの抗議活動をしていることを理由に本件不承認決定をしたものと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。
原告らがその立候補の時点において、暴力団等の反社会的組織の構成員や、成年被後見人であるなどの本件管理組合の役員としての適格性を欠く客観的事情を有していたと認めるに足りる的確な証拠はない。
してみると、本件不承認決定は、理事会の裁量の範囲を逸脱、濫用するものとして違法であったと認めるのが相当である。
3 ところで、本件改正条項は、本件管理組合の総会の決議により承認されて設けられたものであり、本件管理組合の理事としては、これに従って理事会を運営すべき義務を負っていたものである。
しかるに、本件改正条項においては、理事会が立候補者を役員候補者とすることの承認をするか否かについての基準について明示されておらず、理事会の裁量を制限するような定めはなかったこと、本件不承認決定の時点においては、本件改正条項が上記で述べた趣旨の規定であることがいまだ前件訴訟に係る判決等によって明らかにされるには至っていなかったこと、被告理事らは、本件マンションの区分所有者であることから本件管理組合の理事に就任したものであって法律専門家でないことはもちろん、マンション管理について専門知識を有する者でもないことに照らすと、被告理事らにおいて、本件改正条項によって理事会に対して許容される限度よりも広範な裁量権が与えられており、立候補者に客観的に適格性を欠く事情が存在する場合でなくても承認しないことができると誤信したことをもって、過失があるとまではいえない。
前件不承認決定がされてから本件不承認決定がされるまでの間に、本件管理組合の組合員から前件不承認決定について反対する又はこれに疑問を呈する意見が表明されていたこと、原告らが前件不承認決定の違法を主張して前件訴訟を提起していたこと、前件訴訟において、担当裁判官から本件改正条項の廃止の可否を総会に問うことなどを内容とする和解が示唆されていたことといった事情があるとしても、これらは公権的な解釈ではなく、明確な法的根拠に基づくものであるともいえないし、前件訴訟においては前件不承認決定が理事会の裁量権の範囲を逸脱したものといえるかについて一審と控訴審で判断が分かれるほどであったことなどに照らせば、これらの事情をもって被告理事らに過失があるとはいえない。
そうすると、被告理事らについて不法行為が成立するとは認められない。
上記判例のポイント1の考え方は、しっかりと押さえておきましょう。
今回は、「過失」の要件で救済されているにすぎず。不承認決定それ自体は違法であると判断されていることに注意が必要です。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。