騒音問題5 隣室の居住者による継続的な騒音や嫌がらせを理由とする売主に対する瑕疵担保責任による損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、隣室の居住者による継続的な騒音や嫌がらせを理由とする売主に対する瑕疵担保責任による損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和2年12月8日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、区分所有建物であるマンションの居室を購入した原告が、同居室の隣室の居住者による騒音や嫌がらせなどを継続的に受けており、そのような居住者が隣室に存在することは原告が購入した上記居室の「隠れたる瑕疵」に当たるとして、民法570条の瑕疵担保責任による損害賠償請求権に基づき、上記居室の売主である被告に対し、損害金合計1023万円(売買代金3100万円の30%に相当する930万円と弁護士費用93万円の合計額。ただし、損害額の主張は、その後の上記居室の売却に伴い、最終的に、①積極損害(上記居室の売買代金を含む購入費用と売却後の手取額等との差額、引越費用等)451万2999円、②慰謝料300万円、③弁護士費用75万円の合計額826万2999円に変更されている。)+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 民法570条の「瑕疵」とは売買の目的物が通常保有すべき品質・性能を欠いていることをいい、目的物に物理的欠陥がある場合だけでなく、目的物の通常の用途に照らし、一般人であれば誰もがその使用の際に心理的に十全な使用を著しく妨げられるという欠陥、すなわち一般人に共通の重大な心理的欠陥がある場合も含むと解される。
そこで本件についてみるに、Cは、平成23年頃から頻度にはばらつきはあるものの継続して、昼夜を問わず数分ないし10分程度、物音がうるさいとか物が盗まれたなどと大声を出してベランダで叫ぶ、ラジカセを大音量でかける、壁等を強く叩く、本件マンションの居住者に対し、携帯電話で撮影する、追いかける、意味不明な発言をする、難癖をつける、怒鳴りつけるといった迷惑行為をしていたことが認められ、Cの隣室に居住していた原告は、本件居室で生活する際に、生活音を静かにしたり、外出する際には周囲の様子を伺うなど、一定程度生活や行動に制限を受けていたことは認められる。
また、Cの存在は本件居室の購入希望者に購入を断られる原因の一つとなっていたことも認められる。
しかし、他方で、本件居室については、今後の使用を前提として、賃貸物件や売却物件としての募集をかけており、仲介業者の担当者も、Cの迷惑行為の存在に関し、成約に至るか否かは購入希望者が気にする度合によるとしている。また、実際にも、隣室であるCの迷惑行為の事実や原告の夫の本件居室内での死亡の事実を告知した上で、原告の購入から約3年が経過した時点で、原告の購入時の代金3100万円から150万円を減額した代金2950万円でDに売却することができている。
さらに、本件居室の購入希望者がなかなか現れなかったことや、購入希望者から購入を断られたことについては、本件居室が日当たりの悪い1階に位置することや、原告の夫が本件居室内で自死したことも原因となっていたことが認められる。
以上によれば、上記のような迷惑行為を行うCの存在は、隣室である本件居室の居住者において、心理的に一定程度その使用を制限されるものであることは否定できないとしても、一般人であれば誰もがその使用の際に心理的に十全な使用を著しく妨げられるといえるような、一般人に共通の重大な心理的欠陥があるとまではいえない
したがって、Cの存在により本件居室が売買の目的物として通常保有すべき品質・性能を欠いているとして、民法570条の「瑕疵」があるとはいえない。

2 原告の夫が本件居室に入居直後に管理人に挨拶に行った際に、管理人から、102号室のことは聞いているのか、子どもが小さいのであれば気を付けるように、と言われたり、管理会社や本件マンションの居住者等からCに関する情報を容易に入手できていることからすると、本件居室の購入に当たり、原告において内覧の際に仲介業者である被告補助参加人の担当者であるEに隣室の居住者について確認していたとしても、買主にとって通常要求される注意を尽くしても発見することのできない「隠れた」瑕疵があるともいえない
したがって、民法570条の「隠れた瑕疵」の要件を欠き、原告は、被告に対し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権を有するとはいえない。

旧民法の「瑕疵」概念を理解するのには参考になる裁判例です。

なお、現行民法では「契約不適合」(目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの)責任に変更されることに伴い、「隠れた」という要件がなくなりました。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。