おはようございます。
今日は、各区分所有者は、マンション管理規約に明文の定めがない場合であっても、民法645条に基づき、管理組合に対し、管理組合がマンション管理業務について保管している文書(会計帳簿の裏付けとなる原資料等)の閲覧及び閲覧の際の当該文書の写真撮影を請求する権利を有するとされた事案(大阪高判平成28年12月9日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、マンション管理組合が保管する文書について、当該マンションの区分所有者が閲覧や閲覧の際の写真撮影を求める権利があるのかないのかが争われた事案である。
原審(大阪地判平成28年3月31日)は各文書を、各1回限りにおいて閲覧する限度で控訴人らの請求を認容し、閲覧の際に本件記事録等を写真撮影することを含めその余の請求を棄却した。
【裁判所の判断】
被控訴人は、控訴人らに対し、請求文書目録記載の各文書について閲覧及び閲覧の際の写真撮影をさせよ。
被控訴人は、控訴人らに対し、被控訴人の現在の組合員の氏名、その組合員が所有する専有部分及びその組合員の住所を記載した名簿を閲覧させよ。
【判例のポイント】
1 被控訴人は社団ではあるものの、自身が管理する本件マンションの敷地と共用部分を保有しているわけではない。それらは、組合員が保有(共有)する財産である。また、被控訴人は、独自の事業経営により管理費用を捻出しているわけではなく、区分所有者が拠出する金銭や敷地(駐車場区画)使用料を必要経費に充てているのである。法的にみれば、被控訴人は、他人の費用負担の下に、当該他人の財産を管理する団体である。
そうすると、被控訴人と組合員との間には、前者を敷地及び共用部分の管理に関する受任者とし、後者をその委任者とする準委任契約が締結された場合と類似の法律関係、すなわち、民法の委任に関する規定を類推適用すべき実質があるということができる。
2 管理組合と組合員との間の法律関係が準委任の実質を有することに加え、マンション管理適正化指針が管理組合の運営の透明化を求めていること、一般法人法が法人の社員に対する広範な情報開示義務を定めていることを視野に入れるならば、管理組合と組合員との間の法律関係には、これを排除すべき特段の理由のない限り、民法645条の規定が類推適用されると解するのが相当である。
したがって、管理組合は、個々の組合員からの求めがあれば、その者に対する当該マンション管理業務の遂行状況に関する報告義務の履行として、業務時間内において、その保管する総会議事録、理事会議事録、会計帳簿及び裏付資料並びに什器備品台帳を、その保管場所又は適切な場所において、閲覧に供する義務を負う。
次に、民法645条の報告義務の履行として、謄写又は写しの交付をどの範囲で認めることができるかについて問題となるところであるが、少なくとも、閲覧対象文書を閲覧するに当たり、閲覧を求めた組合員が閲覧対象文書の写真撮影を行うことに特段の支障があるとは考えられず、管理組合は、上記報告義務の履行として、写真撮影を許容する義務を負うと解される。
3 一般法人法32条3項は、社団法人が社員に対する情報開示を拒絶できる場合を定めており(会社法433条2項にも同様の規定がある。)、この規定は、本件規約又は民法645条に基づく閲覧謄写請求権の行使についても考慮すべき内容である。
したがって、控訴人らの本件請求が一般法人法32条3項所定のような不適切なものと認められる場合には、被控訴人は情報開示を拒絶できるものと解するのが相当である。
控訴人らが、役員人事や修繕工事の発注の面で被控訴人の運営に不信感を抱いたことには相応の理由があるといわなければならず、しかも、被控訴人は、8400万円の雑排水管更新工事に関する資料については開示を明示的に拒絶し、その他の裏付資料についてもこれを全面的に開示しようとしないのであるから、本件議事録等をさらに仔細に検討する必要があるとの前提で控訴人らが本件請求をしているのは、何ら不適切なものではない。
本件請求が権利の濫用であるとする被控訴人の主張は採用できない。
管理規約に規定が存在しない場合における会計帳簿や組合員名簿等の謄写請求の可否については、裁判例により結論が分かれています。
本件裁判例は、原審判断を覆し、民法645条の類推適用による同謄写(写真撮影)請求を認めました。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。