おはようございます。
今日は、雨漏り事故発生時に、早急に補修工事を実施しなかった管理会社の債務不履行責任が否定された事案(東京地判平成29年10月29日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、本件建物をBに対して賃貸していた被控訴人が、本件建物において雨漏り事故が発生したため、控訴人に補修工事を依頼したにもかかわらず、控訴人が早急に工事を実施しなかったことから、被控訴人において、Bに対して雨漏り事故によって生じた損害の賠償を余儀なくされ、その賠償額と同額の損害を被ったとして、控訴人に対し、主位的に、被控訴人と控訴人の間で締結された雨漏り補修工事に関する委任契約の債務不履行に基づき、予備的に、本件マンションの管理組合と控訴人との間の管理委託契約の債務不履行に基づき、損害賠償を求める事案である(なお、被控訴人の請求は、いずれも債務不履行を理由とするものであり、不法行為を理由とするものであると解することはできない。)。
原審は、被控訴人の主位的請求は理由がないとして、これを棄却したが、予備的請求については、46万0100円+遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとして、これを一部認容した。
そこで、控訴人は、控訴人敗訴部分(予備的請求を一部認容した部分)を不服として控訴をした。
なお、被控訴人の主位的請求については、被控訴人がこれを棄却した原判決部分を不服として控訴又は附帯控訴をしていない以上、当審の審理の対象となるものではない。
【裁判所の判断】
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 前項の部分につき被控訴人の請求を棄却する。
【判例のポイント】
1 本件管理委託契約3条には、控訴人が受託した管理事務の内容は、事務管理業務(同条1号)、管理員業務(同条2号)、清掃業務(同条3号)及び建物・設備管理業務(同条4号)とすることが定められ、本件管理委託契約の8条には、控訴人は、3条の規定にかかわらず、災害又は事故等の事由により本件管理組合のために緊急に行う必要がある業務で、本件管理組合の承認を受ける時間的な余裕がないものについて、その承認を得ないで実施することができる旨が定められているところ、上記の規定内容に照らすと、本件管理委託契約8条は、飽くまで、控訴人が本件管理組合との関係で緊急時にその承認を得ずして業務を実施することができることを定めたにとどまり、組合の財産が総組合員の共有に属するものであるとしても、この規定から、控訴人に、本件マンションの共用部分の管理業務に関し、区分所有者に対する直接の法的義務が発生すると解することはできないものといわざるを得ない。
そうすると、控訴人が本件管理委託契約に基づいて、被控訴人に対して債務不履行責任を負うものと認めることはできず、被控訴人の上記主張は、採用することができないというべきである。
2 被控訴人は、本件建物の雨漏り補修工事が専有部分と共用部分の双方に関係すること、緊急の対応を要する工事であること、被控訴人が控訴人に直接補修工事の施工を求めたことを指摘するが、これらの事由により、被控訴人と控訴人との間に委任契約が成立したと認め得る余地があるとしても、この点が当審における審理の対象とならないことは、既に説示したとおりであり、また、本件マンションの区分所有者としては、控訴人による本件マンションの共用部分の管理業務について要望がある場合には、本件管理組合に対して、その申入れをし、本件管理組合において、当該要望の実現を図るべきものと解されるところ、被控訴人が控訴人に直接補修工事の施工を求めたとしても、本件管理組合に代わって求めたにすぎないものと認められる余地もある。
被控訴人の上記指摘は、本件管理委託契約の規定から控訴人に区分所有者に対する直接の法的義務が発生するとは解し得ないとする上記判断を左右するものでない。
上記判例のポイント1はしっかりと理解しておきましょう。
管理委託契約の規定内容をいかに解釈するかについては、必ず弁護士に確認することをおすすめいたします。
また、法的構成を債務不履行に限定する必要はなく、特に本件のような事案では、不法行為構成も主張しておくべきです。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。